説明

粒子状物質検出センサ

【目的】アイドル運転時等のPM排出量が低い場合でも精度良くPM排出量を検出可能な粒子状物質検出センサとその制御方法を提供する。
【解決手段】電気化学反応によりPMを消費し、その変化を電流値、電圧値又は電力値のいずれかで検出して、被測定ガス200中のPM量を算出する粒子状物質検出センサ1において、印加電圧、電流又は電力を制御可能な電源制御手段14と、電圧、電流又は電力印加時に、センサに流れる電流を検出すると共に、該電流を積算する積算手段142とを設けて、低PM量排出時であると判定された時に粒子状物質検出センサ10への通電を所定の通電制限時間Tの間だけ制限した後、通電を再開して、所定の積算時間Tだけ、粒子状物質検出センサ10に流れる電流を積算し、積算電流値ISUMと通電制限時間Tと積算時間Tとの関係から、低PM量排出時における飽和電流値ISAT(=ISUM/(T+T))を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等の内燃機関の燃焼排気を被測定ガスとして、被測定ガス中の炭素量の検知に適した粒子状物質検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コモンレール式燃料噴射システム、過給器システム、酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF、選択触媒還元(SCR)システム、排気再循環(EGR)システム等を組み合わせて、ディーゼル機関やガソリンリーンバーン機関等の燃焼排気中に含まれる窒素酸化物NOx、粒子状物質(PM)、未燃炭化水素HC等の環境負荷物質の低減が図られている。
このようなシステムに用いられるDPFは、一般に、耐熱性に優れ、かつ、無数の細孔を有する多孔質セラミックスを素材としたハニカム構造とされ、多孔質の隔壁に存在する細孔中にPMを捕捉し、PMが堆積して細孔に目詰まりを起こして圧力損失が高くなると、バーナやヒータ等で加熱したり、機関の燃焼爆発後に少量の燃料を噴射するポスト噴射等によりDPF内に高温の燃焼排気を導入したりして、DPFを加熱し、DPF内に捕集されたPMを燃焼除去して再生できる構成とされている。
内燃機関の燃焼効率をさらに向上すべく、このようなDPFの再生時期の判断や、DPFの劣化、破損等を検出するOBD(オンボードダイアグノーシス、車載式故障診断装置)や、内燃機関のフィードバック制御等において、燃焼排気中に含まれるPM量を高精度で連続的に検出できる検出手段が望まれている。
【0003】
被測定ガス中のPM量を検出する粒子状物質検出センサとして、一定距離を隔てて対向する一対の電極間に堆積したPMによって、該電極対の間に形成される導電パスの抵抗値変化を計測する抵抗測定式の粒子状物質検出センサが知られ、このような粒子状物質検出センサでは、電極対の間に一定量以上のPMが堆積するまでは、電極対の間の抵抗値が極めて高く、電極対の間に流れる電流を検出することができない不感期間が存在することが知られており、不感期間を解消するための手段について種々提案されている(特許文献1等)。
【0004】
特許文献2には、被測定ガス中の炭素量を連続的に検出するセンサとして、少なくとも、プロトン伝導性の固体電解質体と、その一方の表面に設けられ被測定ガスに対向する測定電極と、その他方の面に被測定ガスから離隔された基準電極とからなる電極対と、該電極対の間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、上記電源から上記電極対の間への通電により、被測定ガス中に存在する炭素成分を測定電極上において電気化学反応を生じさせて被測定ガス中の炭素量を検出する粒子状物質検出センサが開示されている。
特許文献2に記載の粒子状物質検出センサでは、被測定ガス中に含まれる炭素成分と水蒸気との電気化学反応によって発生したプロトンが固体電解質体を移動するときの電流を検出するので、特許文献1にあるような抵抗測定式の粒子状物質検出センサのように、一定以上のPMが堆積するまでPMの排出が検出されない不感期間が存在せず、精度良くPMを検出できると期待された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献2にあるような、検出電極上に存在するPMを電気化学反応によって燃焼させ、このとき発生したプロトンが固体電解質体内を移動することにより発生する電流の変化を検出することによって、被測定ガス中に含まれるPM量を検出しようとしたとき、PM排出量が低いと、検出される電流値も小さくなるため、測定誤差が大きく、測定誤差に埋もれて正確なPM排出量の検出が困難となる。
また、プロトン伝導性の固体電解質体に電圧を印加したとき、電気化学反応によって発生するプロトンだけでなく、電圧印加に伴い電子も流れ、これがオフセット電流となって検出精度を低下させ、さらに、センサの耐久劣化に伴い、このようなオフセット電流が変化するため検出誤差が徐々に拡大されることが判明した。
【0006】
さらに、環境保護意識の高まりから、自動車等の内燃機関から排出される燃焼排気について、さらなる排出規制強化が望まれる近年において、極めて微量なPMを検出可能とする粒子状物質検出センサが必要とされている。
【0007】
そこで、かかる実情に鑑み、本願発明は、PM検出素子の表面上で被測定ガス中のPMを電気化学反応させたときに発生するプロトンの移動に伴う電気的変化を検出して被測定ガス中のPM量を検出する粒子状物質検出センサにおいて、被測定ガス中に含まれるPM量が少ない低PM量排出時においても、精度良く検出可能とする粒子状物質検出センサを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明では、電気化学反応により被測定ガス中に含まれるPMを粒子状物質検出素子の表面において消費し、そのときの電流値、電圧値又は電力値のいずれかの変化を検出して、被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を算出する粒子状物質検出センサであって、電源から上記粒子状物質検出素子への印加電圧、電流又は電力を制御可能な通電制御手段と、上記電源から上記粒子状物質検出素子へ電圧、電流又は電力を印加したときに、上記粒子状物質検出素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、検出された電流を積算する積算手段と、被測定ガス中への粒子状物質の排出が少ない低PM量排出時であるか否かを判定する低PM量排出時判定手段とを具備し、上記低PM量排出時判定手段によって低PM量排出時であると判定されたときには、所定の通電制限時間Tの間だけ上記粒子状物質検出素への通電を停止、又は、一定の電流値以下に制限した後、通電を再開すると共に、所定の積算時間Tだけ、上記粒子状物質検出センサに流れる電流を積算し、積算電流値ISUMと通電制限時間Tと積算時間Tとの関係から算出した飽和電流値ISAT(=ISUM/(T+T))に基づいて被測定ガス中の粒子状物質の量を算出する低PM量測定制御を実施する。
【0009】
具体的には、請求項2の発明のように、上記粒子状物質検出素子が、少なくとも、プロトン伝導性の固体電解質からなるプロトン伝導性の固体電解質体と、該プロトン伝導性の固体電解質体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対の間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、上記測定電極を被測定ガスに対向せしめ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離せしめる。
【0010】
請求項3の発明では、上記被測定ガスが、内燃機関の燃焼排気である。
【0011】
請求項4の発明では、上記低PM量排出時判定手段が、上記内燃機関の運転情報を検出する運転情報検出手段と、該運転情報検出手段によって検出された運転情報に基づいて、上記内燃機関が無負荷運転、低負荷低速運転、低負荷高速運転のいずれかの場合に粒子状物質の排出量が少ない低PM量排出時であると判定し、低PM量測定制御を実施する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量が少なく、正確な検出が困難となる蓋然性が高い場合に、上記通電制限時間中に上記粒子状物質検出素子への通電が制限されることにより、上記粒子状物質検出素子表面における電気化学反応による粒子状物質の消費が停止又は制限され、その間に上記粒子状物質検出素子上に堆積した粒子状物質を一定時間経過後に通電を再開し、まとめて電気化学反応を起こさせることにより容易に検出可能とすると共に、上記の関係から飽和電流値ISATを算出し、簡易な構成により、極めて精度よく被測定ガス中の粒子状物質の量を検出することが可能となる。
また、粒子状物質検出素子が経年劣化して、被測定ガス中の粒子状物質の量とは無関係に検出されるオフセット電流が上昇したときでも、学習により、低PM量測定時におけるPM排出量の算出結果を補正して、精度良く、安定して検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサの概要を示す構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサに用いられる低PM量排出時に精度よくPM量検出する低PM量測定制御方法を示すフローチャート。
【図3】(a)は、本発明の粒子状物質検出センサに用いられる電流検出手段の一例を示す回路図、(b)は、図2のフローチャートにしたがって低PM量測定制御が実施されるときのタイムチャート。
【図4】比較例と共に本発明の作動原理を説明するための特性図であって、(a)は、従来に問題点を示す特性図、(b)は、本発明の第1の実施形態における低PM量測定制御が行われた場合において、積算電流値ISUMと飽和電流値ISATとの関係を示す特性図。
【図5】本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサに用いられる通電制限時間Tを決定するための特性図。
【図6】(a)は、オフセット電流の経時変化を示す特性図、(b)は、本発明の第2の実施形態における低PM量測定制御が行われた場合において、積算電流とオフセット電流との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出センサ1の概要について説明する。
本発明の粒子状物質検出センサ1は、自動車エンジン等の内燃機関から排出される燃焼排気を被測定ガス200とし、被測定ガス流路2に設けた粒子状物質検出素子10(以下、素子10と略す。)と、素子10に、所定の電圧又は電流を印加する電源15と、電源15から素子10への通電を制御するとともにPM量を算出するPM量演算制御部14とによって構成されており、電気化学反応により被測定ガス200中に含まれるPMを素子10の表面において消費し、そのときの電流値、電圧値又は電力値のいずれかの変化を検出して、被測定ガス200中に含まれる粒子状物質(以下、PMと略す。)の量を算出するものである。
【0015】
PM量演算制御装置14は、本発明の要部である低PM量測定要否判定手段140と、時間計測手段141と、電流積算手段(低PM量測定手段)142と、通常PM量測定手段143と、測定レンジ切換手段144と、PM量演算手段145とによって構成されており、PM量演算制御装置14のより具体的な構成については、図3を参照して後述する。
通電制御手段147、148は、開閉により、電源15から素子10への印加電圧、電流又は電力を制御可能となっている。
素子10は、略平板状に形成したプロトン伝導性を有する固体電解質体100と、その一方の表面に形成され、被測定ガス200に対向する測定電極110と、対向する他方の表面に形成され、絶縁体131によって被測定ガス200から隔離され、絶縁体131によって区画された基準ガス室130に対向する基準電極120とが一体となっている。
【0016】
また、固体電解質体100には、例えば、ZrO、CeOのいずれかを主成分とし、CaO、SrO、BaOのいずれかを含むペロブスカイト構造を有するABO型遷移金属酸化物によって構成することができ、SrZrO等が好適である。
測定電極110、基準電極120には、金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極又はサーメット電極が用いられる。
【0017】
測定電極110と基準電極120とからなる電極対の間に電源15から、通電制御手段14から発信された駆動信号SGによって通電制御手段148が所定のタイミングで開閉され、電圧、電流又は電力が印加されると、測定電極110の表面で、被測定ガス200中に含まれるPMの主成分である炭素Cと、混合気の燃焼時に発生する水蒸気HOとが、電気化学反応によって、極めて反応性の高い活性酸素種OとプロトンHが生成され、活性酸素種によって炭素Cが酸化され、プロトンH+は固体電解質体内を移動し、基準電極120側で大気中の酸素と反応し、HOとなって外部に排出される。このとき流れる電流を電流検出手段146によって検出することによって被測定ガス200中の炭素量を測定することができる。
このとき、本発明の要部である通電制御手段14では、後述する制御フローチャートS300〜S350にしたがって、内燃機関のアイドル運転時等の低PM量排出時であるか否かが判定され、無負荷運転、低負荷低速運転、低負荷高速運転等において、PMの排出量が低くなる蓋然性の高い、低PM量排出時であると判断された場合には、後述する低PM量測定制御が実施され、低PM量排出時でないと判断された場合には、通常の電流検出によって被測定ガス中のPM量が測定される。
【0018】
図2を参照して、本発明の要部である低PM量排出時において低いPM量を精度良く検出する低PM量測定制御について説明する。
エンジンが始動されると、以下に示す制御フローにしたがって、本発明の低PM量測定制御の要否が判断され、低PM量排出時と判断された場合には、低PM量測定制御が開始され、低PM量排出時ではないと判断された場合には、通常のPM量測定制御が行われる。
【0019】
ステップS300の運転状態確認手段では、運転情報検出手段として、エンジン各所に設けられた、図略のエンジン回転センサ、アクセル開度センサ、燃料噴射量センサ、エンジン水温センサ、オイル温度センサ、外気温センサ等の各種センサによって検出された、エンジン回転数NE、アクセル開度ACC、燃料噴射量QINJ、エンジン水温T、オイル温度T、外気温度T等の運転情報や、DPF等の燃焼排気浄化装置において検出されたPM堆積推定量QPMESTや、本発明の制御が適用されるガスセンサ1のセンサ出力値VOUT等が読み込まれる。
【0020】
ステップS310の低PM量排出時判定手段では、ステップS300で読み込まれた情報を基に低PM量排出時と判定された場合には、低PM量測定制御要と判定され、判定Yesとなり、ステップS320に印加電圧一時停止手段に進む。
一方、低PM量排出時でないと判定された場合には、低PM量測定制御不要と判定され、判定Noとなり、ステップS300に戻る。このとき、別途、通常のPM量測定(ステップS400)を実施しても良い。
【0021】
ステップS320の印加電圧一時停止手段では、一定のPM堆積時間T(ms)だけ、印加電圧を停止又は一定の電流値以下に制限して、測定電極110上にPMを堆積させる。なお、PM堆積時間Tは、時間計測手段141によって計測する。
一定時間電圧の供給を停止することにより電気化学反応が停止し、測定電極110上に被測定ガス中に含まれるPM量及び通電制限時間に比例する量のPMが堆積する。
一定時間経過するとステップS330の電流積算手段に進む。
ステップS330の電流積算手段では、粒子状物質検出センサ1への電圧印加が再開されると同時に、電流検出手段146によって計測された電流値Iを電流積算手段142によって積算する。また、電圧印加の再開と共に時間計測手段141によって、電流積算時間Tの計測を行う。
【0022】
ステップS340の積算終了判定手段では、電流検出手段146によって検出される電流値Iが一定状態となったときに積算終了要と判定し、電流の積算を終了する。
印加電圧一時停止手段中に堆積したPMと被測定ガス中に含まれるPMとが重畳して電気化学反応により酸化されるため、電流積算手段開始直後には、一時的に大きな電流が流れ、PMの燃焼に伴い、電流検出手段146によって検出される電流は徐々に低下し、やがて、被測定ガス中に含まれるPM量にのみによって検出される飽和電流値ISATに漸近する。
飽和電流値ISATは、通常の検出方法では、検出が困難な電流値Iの検出下限を超えているので、現実的には、電流値Iが検出下限に達し、出力がほぼ0となった時点で積算を終了する。
【0023】
ステップS350の低PM量算出手段では、実際に算出された積算電流値ISUMと一時通電制限時間Tと積算時間Tとに基づいて、飽和電流値ISATを算出し、その値を基に低PM量排出時のPM量を算出する。
【0024】
図3(a)に、本発明に用いられる電流検出手段146及び電流積算手段142の具体例を示し、図3(b)に、上述のフローチャートにしたがって通電制御された場合のタイムチャートを示す。
本実施形態において、PM量演算制御装置14は、低PM量排出時であるか否かを判定する低PM量測定要否判定手段140と、通電制限時間T、積算時間Tを計測し、所定のタイミングで各切換を実施するために設けたクロックカウンタ等の時間計測手段141と、低PM量排出時において検出される電流値Iを積算し、積算電流値ISUMを求める電流積算手段(低PM量測定手段)142と、低PM量排出時ではないと判定されたときに、通常のPM量を計測する通常PM量測定手段143と、低PM量排出時か否かの判定結果にしたがって、低PM量測定と通常PM量測定とを切り換えるための測定レンジ切換手段144と、電流積算手段(低PM量測定手段)142、又は、通常PM量測定手段143によって計測された値から被測定ガス中に含まれるPM量を算出するPM量演算手段145とによって構成されている。
【0025】
通電制御手段148は、電源15から素子10への通電を制御する通電制御手段147とカレントミラーを構成しており、電源15から粒子状物質検出センサ素子10に流れる電流に等しい電流が流れ、シャント抵抗Rs等の電流検出手段146によって電流検出が可能となっている。
さらに、電流積算手段142は、電流検出手段146に流れる電流を積算し、積算電流値ISUMを算出することができる。
【0026】
上述のフローチャートにしたがって、本発明の低PM量測定手段が開始されると、本図(b)に示すように、クロックカウンタ等の時間計測手段141によって通電制限時間Tがカウントされ、通電制御手段147が開放され、電源15から粒子状物質検出センサ素子10へ電圧印加が停止される。
所定の通電制限時間Tが経過すると、通電制御手段147、148が閉じられ、電源15から素子10への通電が開始される。
このとき、電流検出手段146に流れる電流が電流積算手段142によって積算され、所定の積算時間Tを経過するまで積算される。
この結果を基に、PM量演算手段145によって、低PM量排出時におけるPM量が精度良く算出される。
【0027】
図4を参照して本発明の効果について説明する。
上述の制御フローチャートにしたがって、エンジン条件(回転数NE、燃料噴射量QINJ、冷却水温T、油温T、外気温度T)や、DPFの圧力差から推定したPM堆積量や、粒子状物質検出センサ出力値VOUT等から、アイドル運転時や、低負荷安定走行時などのPM排出量が低いと判断される場合には、低PM量測定を開始すると判断され、電源141から粒子状物質検出センサ1へ印加する電圧を、例えば通電制御手段147の開閉等により、所定の通電制限時間T1(秒)の間、停止、又は、印加電圧を一定値以下に降圧する。
【0028】
素子10への電圧の印加が停止又は制限されることにより、電気化学反応によるPMの酸化反応が停止し、検出電極110上にPMが堆積する。
このとき、検出電極110上に堆積するPM量は、被測定ガス中に含まれるPM量と通電制限時間Tとに比例する量となる。
所定時間T経過後、通電制御手段147の開閉等により、電源141から素子10へ通電の再開、又は、印加電圧を一定値以上に昇圧する。同時に素子10に供給される電流値の積算を開始する。
【0029】
素子10への通電再開直後は、大きな電流が流れるが、その後は、被測定ガス中に含まれるPM量に応じた一定の飽和電流値ISATに収束するので、電流値の積算を終了し、そのときの積算時間Tを記録する。
素子10への通電再開後に流れる積算電流値ISUMは、通電制限時間Tの間に検出電極110上に堆積したPMと積算時間Tの間に検出電極110上に堆積するPMとを併せて電気化学反応によって酸化させるのに必要な電流値となる。
面積Sは、通電制限時間Tの間に飽和電流値ISATが平均的に流れたと過程した場合の仮想的な積算電流値を示し、通電制限時間T内に検出電極110上に堆積するPM量に比例する値となる。
面積Sは、通電制限時間Tの間に検出電極110上に堆積したPMと、積算時間内に検出電極110上に堆積するPMとを重畳的に電気化学反応によって消費したときに流れる電流を積算した積算電流値ISUMから、積算時間Tの間に検出電極110上に堆積するPM分に相当する積算電流値ISAT・Tを差し引いた値となり、面積Sに等しい値となる。
【0030】
したがって、通電再開後の積算電流値ISUMと通電制限時間Tと積算時間TからPM排出量相当の飽和電流値ISATを算出することができる。
即ち、積算電流値ISUM=面積S+面積Sであり、面積S=面積Sの関係が成り立ち、積算電流値ISUM=面積S+面積S=飽和電流値ISAT・(T+T)となるから、
SAT=ISUM/(T+T)となり、飽和電流値ISATを精度良く算出することができ、この結果に基づいて、低PM排出量領域におけるPM排出量を精度よく検出することができる。
低PM排出量領域では、被測定ガス中に含まれるPM量が少ないので、粒子状物質検出センサ1に、常に一定電圧を印加し、電気化学反応により発生するプロトンの移動によって検出される電流値が小さいので測定が困難であるのに加え、固体電解質体100内を電気化学反応により発生したプロトンの移動のみならず、電気化学反応に起因しない電圧の印加による直接的な電子の移動を伴うため、検出誤差を生じやすい。
【0031】
本発明では、一定の通電制限時間Tを設けることで低PM排出領域においても検出誤差を生じ難い量まで検出電極上にPMを堆積させ、精度良く被測定ガス中のPM量を検出できるようになる。
したがって、粒子状物質検出センサ1をエンジンフィードバック制御に使用する場合などにおいて、PM測定レンジが大きくなっても、低PM排出量領域での検出精度が低下することがない。
【0032】
図5を参照して、通電制限時間Tの設定基準について説明する。図5は、通電制限時間Tを変化させたときの面積S(ISAT・T)の変化と面積S2(Isum−ISAT・T)の変化とを示し、通電制限時間T1が一定時間(20s)以下においては、面積Sと面積Sとが一致し、通電制限時間Tが一定時間(例えば、20秒)を超えると面積Sと面積Sとが一致しなくなり、両者の間の差が徐々に広がっていく。
これは、面積Sは、通電制限時間Tの増加に比例して検出電極110上に堆積するPM量が多くなる一方、検出電極110上4に堆積したPMを電気化学反応によって消費した場合に発生するプロトン量はPM量に比例するが、一定量以上のPMが検出電極110上に堆積した場合には、PMが燃焼したときに発生するジュール熱によって、電気化学反応を伴うことなくPMの燃焼が継続されるため、面積Sは、一定値に漸近していくものと推察される。
したがって、本図に示すように、面積Sと面積Sとが等しくなる最長の時間を通電制限時間Tとすることができる。
なお、本発明のPMセンサ1で設定される通電制限時間Tは、本図に示すように、例えば、20秒程度の極めて短い時間であり、特許文献1等にあるような所定の間隙を隔てて対向する一対の検出電極間にPMを堆積させ、PMの堆積量に応じて変化する検出電極間の抵抗値、静電容量、インピーダンス等の電気的特性を検出して被測定ガス中に含まれるPM量を検出する従来型のPMセンサにおける不感期間に比べて遥かに短く、しかも、従来型のPMセンサでは検出が困難となる極微量の低PM排出量領域でも、極めて高い精度で被測定ガス中に含まれるPM量を検出できる。
【0033】
図6(a)は、オフセット電流値IOFSの経時変化を示す。本図に示すように、一定時間(例えば、400Hr)以上の使用により、オフセット電流値IOFSが上昇する。これは、検出電極110及び基準電極120を構成する金属が長期の使用により固体電解質体100内に拡散するマイグレーション現象等を引起こし、固体電解質体100内を電流が流れや易くなるためと推察される。
図6(b)は、本発明の第2の実施形態において、オフセット電流値IOFSを精度良く検出する方法を示す。
図6(b)に示すように、通電制限時間Tにおいて、飽和電流値ISATが流れたと仮定したときの積算電流値ISAT・Tから、PMの電気化学反応により発生するプロトン以外の影響により流れるオフセット電流値IOFSの積算電流値IOFS・Tを差し引いた面積Sは、積算電流値ISUMから、積算時間Tの間に流れる飽和電流値ISATの積算電流値ISAT・Tを差し引いた量に等しく、面積Sに等しい。
したがって、S=S=(ISAT―IOFS)・T=ISUM−ISAT・Tの関係が成立する。
そこで、積算電流値ISUM、飽和電流値ISATの実測値及び通電制限時間T、積算時間Tからオフセット電流値IOFSを算出することができる。
なお、飽和電流値ISATの実測は、PM排出量が、ほぼ0となる特定の運転条件において実施し、一定時間の平均値を用いる。
この計測結果を学習値として記録し、経時変化を補正することで、飽和電流値ISAT、オフセット電流値IOFSの算出精度を高くし、低PM量排出時におけるPM量測定の精度をさらに向上させることができる。
また、オフセット電流値IOFSの継続的な監視により、PM検出素子10の劣化状態を判定することも可能となる。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、機関の運転状況若しくは、被測定ガス中に含まれるPM量の程度に応じて、低PM量排出時と判断されたときに一時的にPM検出素子への電圧、電流、又は、電力の供給を停止し、一定時間、測定電極上にPMを堆積させ、検出容易な状態にして、通電際か以後に検出される積算電流値ISUMと、通電制限時間T、電流積算時間T2との関係から精度良く飽和電流値ISATを算出して、低PM量排出時でも高い精度で被測定ガス中に含まれるPM量を検出する本発明の趣旨に反しない限り、具体的な回路構成について適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態においては、電流検出手段146によってミラー電流を検出する構成を示したが、カレントミラー回路を構成することなく、電源15とPM検出素子との間に電流検出手段としてシャント抵抗Rsを介装するようにしても良い。
また、上記実施形態においては、固体電解質体100は被測定ガスの温度によって加熱され活性化される構成を示したが、粒子状物質検出素子10に積層して、通電により発熱する発熱部を設けて固体電解質体体100を所定の温度に加熱するようにしても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 粒子状物質検出センサ
10 粒子状物質検出センサ素子
100 固体電解質体(プロトン伝導性の固体電解質体)
110 測定電極
120 基準電極
130 基準ガス室
131 絶縁体隔壁
14 PM量演算制御装置
140 低PM量測定要否判定手段
141 時間計測手段
142 電流積算手段(低PM量測定手段)
143 通常PM量測定手段
144 測定レンジ切換手段
145 PM量演算手段
146 電流検出手段
147、148 通電制御手段
15 電源
2 被測定ガス流路
200 被測定ガス
S300 運転状況検出手段
S310 低PM量検出要否判定
S320 一時通電停止手段(PM堆積手段)
S330 電流積算手段
S340 積算終了要否判定手段
S350 低PM量算出手段
S400 通常PM量検出手段
SAT 飽和電流
SUM 積算電流値
OFS オフセット電流
通電制限時間における飽和電流積算地
積算電流値から積算時間における飽和電流積算値を差し引いた積算電流値
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】独国出願公開第102006042605号明細書
【特許文献2】特開2010−54432号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応により被測定ガス中に含まれるPMを粒子状物質検出素子の表面において消費し、そのときの電流値、電圧値又は電力値のいずれかの変化を検出して、被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を算出する粒子状物質検出センサであって、
電源から上記粒子状物質検出素子への印加電圧、電流又は電力を制御可能な通電制御手段と、
上記電源から上記粒子状物質検出素子へ電圧、電流又は電力を印加したときに、上記粒子状物質検出素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、検出された電流を積算する積算手段と、
被測定ガス中への粒子状物質の排出が少ない低PM量排出時であるか否かを判定する低PM量排出時判定手段とを具備し、
上記低PM量排出時判定手段によって低PM量排出時であると判定されたときには、所定の通電制限時間Tの間だけ上記粒子状物質検出素への通電を停止、又は、一定の電流値以下に制限した後、通電を再開すると共に、所定の積算時間Tだけ、上記粒子状物質検出センサに流れる電流を積算し、
積算電流値ISUMと通電制限時間Tと積算時間Tとの関係から算出した飽和電流値ISAT(=ISUM/(T+T))に基づいて被測定ガス中の粒子状物質の量を算出する低PM量測定制御を実施することを特徴とする粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
上記粒子状物質検出素子が、少なくとも、プロトン伝導性の固体電解質からなるプロトン伝導性の固体電解質体と、該プロトン伝導性の固体電解質体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対の間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、上記測定電極を被測定ガスに対向せしめ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離せしめた請求項1に記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
上記被測定ガスが、内燃機関の燃焼排気である請求項1又は2に記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項4】
上記低PM量排出時判定手段が、上記内燃機関の運転情報を検出する運転情報検出手段と、該運転情報検出手段によって検出された運転情報に基づいて、上記内燃機関が無負荷運転、低負荷低速運転、低負荷高速運転のいずれかの場合に粒子状物質の排出量が少ない低PM量排出時であると判定し、低PM量測定制御を実施する請求項3に記載の粒子状物質検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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