説明

紙改質剤、紙の改質方法、インク及び記録用紙

【課題】画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカール現象が発生し難い記録用紙を得ることができる紙改質剤を提供する。
【解決手段】(a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物と、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を含む重合体と、を含有し、前記(a)化合物と前記(b)重合体との含有比率((a):(b))が、質量比で、1:9〜9:1である紙改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙改質剤、紙の改質方法、インク及び記録用紙に関する。更に詳しくは、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカール現象(以下、単に「カール」と記す場合がある)が発生し難い記録用紙を得ることができる紙改質剤、紙の改質方法、インク及び記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雑誌の表紙や化粧包装箱などには、高い平滑性及び光沢などを有するキャストコート紙などの塗工紙が広く用いられている。このキャストコート紙などの塗工紙は、印字(記録)面積が広く、また、印字におけるインクの付与量が多いため、カール現象、即ち、紙が反ったり、丸まったりする現象が発生するという問題があった。特に、近年、商業印刷の主流となったオフセット印刷は、塗工紙の表面が水に濡れる場合が多く、カール現象が生じ易いという問題がある。
【0003】
ここで、カール現象の発生は、被記録媒体(記録用紙)への水分の付与が大きく起因している。即ち、印字(記録)面積が広い場合や、印字におけるインクの付与量が多い場合に、著しくカール現象が生じることが知られている。また、カール現象は、塗工紙に記録中に発生する場合以外にも、塗工紙に記録した後、塗工したインクの水分が蒸発して記録用紙が乾燥する際に生じる場合(以下、「カール現象」または「カール」というときは、これらの場合の両者を含む)がある。カール現象は、以下のメカニズムによって生じることが知られている。記録用紙は、水分を含むセルロース繊維を、一定方向にテンションを加えた状態で水を蒸発させ、乾燥させて製造されるものであり、製造時のセルロース繊維は繊維が伸びた状態、即ち、内部応力を蓄えた状態にある。このような状態の記録用紙に、水系インクを付着させると、水系インク中の水分によってセルロース繊維間の水素結合が壊れる。その後、水分が蒸発すると、再びセルロース繊維間で水素結合が形成される。即ち、水系インクなどに含まれる水分によって一度解離した、記録用紙中のセルロース繊維間の水素結合が、水分が蒸発する際に、再び形成される。このとき、記録用紙には、製造時のようなテンションが加えられていないため、記録用紙中のセルロース繊維は、自由に水素結合を形成する。従って、水系インクが付着した部分が収縮し、カールが発生するものと考えられる。なお、以下、本明細書において、「水分が蒸発する際に、水素結合が再び形成されること」を「再水素結合」と記す場合がある。
【0004】
そして、カール現象が生じた塗工紙は、積み重ねたり、ファイリングした際に、平坦性を保てないために丸まってしまう等の様々な不具合を生じることがあった。この不具合を解消するため、カール現象を緩和または抑制することを目的として、例えば、所定量のポリビニルアルコール及び浸透剤を含有する塗布液を紙の表面に塗布する工程を有する方法(特許文献1)、紙の繊維配向比を低くした原紙を備えた記録用紙(特許文献2)、炭素数が4以上であってOH基を3つ以上有する化合物と炭素数が7以上であってOH基を2つ有する化合物とを所定量含むインク(特許文献3)、及び、所定のジオールと所定の水溶性アミド化合物とを所定量含むインク(特許文献4)などが報告されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−158588号公報
【特許文献2】特開2003−76051号公報
【特許文献3】特開2004−210902号公報
【特許文献4】特開2004−210906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法、特許文献2に記載された記録用紙、及び特許文献3、4に記載されたインクは、いずれも、カール現象の発生を十分に抑制することができるものではなく、得られる記録用紙の画像特性は十分に得られていないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができる紙改質剤、紙の改質方法、インク及び記録用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、(a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物が、水系インクなどに含まれる水分が蒸発する際に、再びセルロース繊維間で水素結合が形成されることを抑制することに着眼し、更に、上記(a)化合物による効果を向上させるため、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を有する重合体を用いるとともに、(a)化合物と(b)重合体との含有比率を所定の割合とすることによって、再水素結合を効果的に抑制することが可能であること、即ち、カールの発生を少なくすることができることを見出して、本発明を成すに至った。
【0009】
本発明によれば、以下に示す紙改質剤、紙の改質方法、インク及び記録用紙が提供される。
【0010】
[1](a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物と、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を有する重合体と、を含有し、前記(a)化合物と前記(b)重合体との含有比率((a):(b))が、質量比で、1:9〜9:1である紙改質剤。
【0011】
[2]前記(b)重合体が、スルホン酸(塩)基及び芳香族基を有する単量体に由来する構成単位を更に含むものである前記[1]に記載の紙改質剤。
【0012】
[3]前記(b)重合体が、スルホン酸(塩)基を有する脂肪族ジエン化合物に由来する構成単位を更に含むものである前記[1]または[2]に記載の紙改質剤。
【0013】
[4]前記(b)重合体が、前記(b−1)構成単位、及び、前記(b−2)構成単位を含む共重合体をスルホン化して得られるものである前記[1]に記載の紙改質剤。
【0014】
[5]前記(b)重合体が、前記共重合体中の二重結合の少なくとも一部を水素添加して得られる水添共重合体をスルホン化して得られるものである前記[4]に記載の紙改質剤。
【0015】
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の紙改質剤を含有するインク。
【0016】
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の紙改質剤を原紙に塗布する紙の改質方法(第一の紙の改質方法)。
【0017】
[8]前記[6]に記載のインクを原紙に塗布する紙の改質方法(第二の紙の改質方法)。
【0018】
[9]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の紙改質剤を原紙に塗布して得られる記録用紙。
【発明の効果】
【0019】
本発明の紙改質剤は、(a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物と、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を含む重合体と、を含有し、(a)化合物と(b)重合体との含有比率((a):(b))が、1:9〜9:1であるため、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができるという効果を奏するものである。
【0020】
第一の紙の改質方法の発明は、本発明の紙改質剤を使用する方法であるため、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができるという効果を奏するものである。
【0021】
第二の紙の改質方法の発明は、本発明の紙改質剤を含有するインクを使用する方法であるため、画像の記録や印字などが可能であるとともに、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができるという効果を奏するものである。
【0022】
本発明のインクは、本発明の紙改質剤を含有するため、記録用紙に画像の記録や印字などをした際に、記録や印字などをした記録用紙が、環境条件の変化によってもカールが発生し難いという効果を奏するものである。
【0023】
本発明の記録用紙は、本発明の紙改質剤を塗布したものであるため、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難いという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良などが加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0025】
[1]紙改質剤:
本発明の紙改質剤の一の実施形態は、(a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物と、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を含む重合体と、を含有し、(a)化合物と(b)重合体との含有比率((a):(b))が、1:9〜9:1である。
【0026】
このような紙改質剤は、(b)重合体のスルホン酸(塩)基が、染料及び顔料を吸着しやすく、記録用紙中での染料及び顔料の移動を防止することができるため、画像特性を維持した記録用紙を得ることができる。また、(a)化合物のポリエチレンオキシド鎖が、記録用紙の吸湿後の乾燥時に生じる再水素結合を抑制するため、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができる。即ち、本実施形態の紙改質剤を塗布された記録用紙は、経時的なカールの発生が少なく、更に、湿度の高い場所に曝されたとしても、カールが発生し難いという利点がある。なお、画像特性を維持するとは、例えば、記録用紙に記録した画像の画質が低下することがないことを意味する。
【0027】
[1−1](a)化合物:
本実施形態の紙改質剤に含有される(a)化合物は、分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有するものである。このような(a)化合物は、ポリエチレンオキシド鎖が、記録用紙の吸湿後の乾燥時に生じる再水素結合を抑制する。具体的には、水分によってセルロース繊維間の水素結合が壊れた状態において、(a)化合物が、セルロース繊維の水酸基を保護するため、水分が蒸発した場合であっても、セルロース繊維間で再び水素結合が形成されることを防止することができると考えられる。そのため、カールの発生を少なくすることができる。
【0028】
(a)化合物が有するポリエチレンオキシド鎖の分子量は、200〜2000であり、400〜1000であることが好ましく、500〜800であることが更に好ましい。上記分子量が200未満であると、ポリエチレンオキシド鎖の含有率が低下するため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能(カールの発生を少なくする性能)が低下する。一方、2000超であると、分子量が高くなるため、記録用紙中のセルロース繊維(以下、単に「セルロース]と記す場合がある)との相溶性が低下し、再水素結合を抑制することが困難になる。即ち、カール防止能が低下する。
【0029】
(a)化合物のポリエチレンオキシド鎖の分子量の含有割合は、(a)化合物全体の分子量に対して、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。上記ポリエチレンオキシド鎖の分子量の含有割合が20質量%未満であると、ポリエチレンオキシド鎖に起因する効果、即ち、カール防止能を十分に得られなくなるおそれがある。
【0030】
(a)化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、(ポリオキシエチレン)アクリレートなどが挙げられる。なお、これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。これらの中でも、親水性が高いものがセルロースとの相溶性が高いため、再水素結合を抑制し易く、カール防止能を良好に発揮することができるという観点から、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0031】
(a)化合物の分子量は、200〜2000であることが好ましく、400〜1000であることが更に好ましい。上記分子量が200未満であると、(a)化合物が揮発してしまい、カール防止能が低下するおそれがある。一方、2000超であると、分子量が高くなることによって、セルロースとの相溶性が低下し、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。
【0032】
[1−2](b)重合体:
本実施形態の紙改質剤に含有される(b)重合体は、(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位(以下、「(b−1)構成単位」と記す場合がある)、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位(以下、「(b−2)構成単位」と記す場合がある)よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を含むものである。なお、スルホン酸(塩)基というときは、スルホン酸基、スルホン酸塩基、またはこれらの両方を意味するものとする。このような構成の(b)重合体は、親水性が高く、記録用紙の保水性を向上することができる。そのため、吸湿後の記録用紙の乾燥を遅延させることができる。このように乾燥を遅延させると、(a)化合物が、セルロース繊維の水酸基を保護するための時間が十分に得られ、再水素結合を効果的に抑制することができる。また、(b)重合体中のスルホン酸(塩)基が、染料及び顔料を吸着しやすいため、画像特性を維持することができる。従って、本実施形態の紙改質剤によって、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができる。
【0033】
(b−1)構成単位を得るための芳香族基を有する単量体は、重合性の単量体であり、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、スチレンスルホン酸(塩)などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を用いることができる。これらの中でも、スチレン、スチレンスルホン酸(塩)が好ましい。
【0034】
(b)重合体中の(b−1)構成単位の含有割合は、(b)重合体の全構造単位に対して、10〜100質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることが更に好ましく、30〜80質量%であることが特に好ましい。上記含有割合が10質量%未満であると、(b)重合体の硬さが不十分であるため、カール防止能が低下おそれがある。なお、「(b)重合体中の(b−1)構成単位の含有割合」とは、(b)重合体中の、芳香族基を有する単量体を重合反応させて得られる構成単位と、この構成単位をスルホン化して得られる構成単位と、の合計の含有割合を意味する。
【0035】
(b−2)構成単位を得るための脂肪族ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,2−ヘキサジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,2−ヘプタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−ヘプタジエン、2,3−ヘプタジエン、2,5−ヘプタジエン、3,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、分岐した炭素数4〜7の各種脂肪族、脂環族ジエン類、イソプレンスルホン酸(塩)などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を用いることができる。これらの中でも、カール防止能を効果的に向上することができるため、1,3−ブタジエン、イソプレン、イソプレンスルホン酸(塩)が好ましい。
【0036】
(b)重合体中の(b−2)構成単位の含有割合は、(b)重合体の全構造単位に対して、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることが更に好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。上記含有割合が10質量%未満であると、(b)重合体の柔軟性が低下するために、再水素結合を抑制することが困難になることに起因してセルロース繊維の収縮が起こりやすくなり、カールの発生が促進されるおそれがある。即ち、重合体(b)は硬いため乾燥時に収縮しやすくなり、紙がカールしてしまうおそれがある。一方、90質量%超であると、(b)重合体の硬さが不十分であるため、カール防止能が低下するおそれがある。なお、「(b)重合体中の(b−2)構成単位の含有割合」とは、(b)重合体中の、脂肪族ジエン化合物を重合反応させて得られる構成単位と、この構成単位を、水添、スルホン化、またはこれらの両方の反応によって得られる構成単位と、の合計の含有割合を意味する。
【0037】
(b)重合体は、(b−1)構成単位(スルホン化したものを含む)及び(b−2)構成単位(水添、スルホン化、またはこれらの両方の反応によって得られるものを含む)以外に、(b−3)他の単量体に由来する構成単位(以下、「(b−3)構成単位」と記す場合がある)を含有することもできる。(b−3)他の単量体に由来する構成単位を得るための他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノ若しくはジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、(メタ)アクリロニトリルなどのビニルシアン化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルメチルエチルケトン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジルなどの不飽和化合物などが挙げられる。これら他の単量体は、単独でまたは2種以上を用いることができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタアクリル酸、またはこれらの両方を意味する。
【0038】
(b−3)他の単量体に由来する構成単位の含有割合は、(b−1)構成単位及び(b−2)構成単位体の総量100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることが更に好ましく、10質量部であることが特に好ましい。上記含有割合が50質量部超であると、(b)重合体中のスルホン酸(塩)基の含有量が低くなるため、本発明の効果が十分に得られないおそれがある。
【0039】
(b)重合体は、側鎖にスルホン酸(塩)基を有するものである限り特に制限はないが、(b−1)構成単位、(b−2)構成単位、または、これらの構成単位の両方がスルホン酸(塩)基を有しているものであることが好ましい。なお、例えば、スルホン酸(塩)基を有する(b−1)構成単位を含む(b)重合体は、下記第一の態様、第三の態様、または第四の態様の製造方法によって得ることができる。また、スルホン酸(塩)基を有する(b−2)構成単位を含む(b)重合体は、下記第二の態様、第三の態様、または第四の態様の製造方法によって得ることができる。
【0040】
[1−2−1](b)重合体の製造方法:
(b)重合体の製造方法は、特に制限はないが、例えば、以下の4つの態様を挙げることができる。なお、(b)重合体の製造方法の第一の態様と第二の態様は、スルホン酸基を含有する単量体を重合する方法であり、第三の態様と第四の態様は、スルホン化していない重合体を得、得られた重合体をスルホン化する方法である。
【0041】
まず、(b)重合体の製造方法の第一の態様としては、スルホン酸(塩)基及び芳香族基を有する単量体と、必要に応じて脂肪族ジエン化合物及び他の単量体と、を混合して混合物(x)を得、得られた混合物(x)を重合反応溶媒に添加し、公知のラジカル重合開始剤の存在下で、反応温度20〜200℃(好ましくは40〜150℃)、0.1〜20時間重合反応させる製造方法である。なお、得られる(b)重合体の分子量は、重合反応溶媒の量、重合開始剤の種類、重合開始剤の量、または反応温度などを制御することにより調整することができる。
【0042】
重合反応溶媒は、反応を円滑に行うために用いるものである。重合反応溶媒としては、例えば、水、有機溶剤、水及びこの水と混合可能な有機溶剤の混合物などを挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などを挙げることができる。
【0043】
重合反応溶媒の使用量は、上記混合物(x)100質量部に対して、50〜10,000質量部であることが好ましく、70〜1000質量部であることが更に好ましく、100〜500質量部であることが特に好ましい。上記使用量が50質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、10,000質量部超であると、生産性が低下するおそれがある。
【0044】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化物、アゾ系開始剤などを挙げることができる。ラジカル重合開始剤の使用量は、上記混合物(x)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることが更に好ましい。上記使用量が0.1質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、20質量部超であると、得られる水溶性共重合体の純度(収率)が低下するおそれがある。
【0045】
次に、(b)重合体の製造方法の第二の態様としては、スルホン酸(塩)基を有する脂肪族ジエン化合物と、必要に応じて芳香族基を有する単量体及び他の単量体と、を混合して混合物を得、得られた混合物を重合反応溶媒に添加し、公知のラジカル重合開始剤の存在下で、反応温度20〜200℃(好ましくは40〜150℃)、0.1〜20時間重合反応させる製造方法である。なお、重合反応溶媒及びラジカル重合開始剤は、上述した第一の態様で用いることのできるものと同様のものを同様に使用することができる。
【0046】
次に、(b)重合体の製造方法の第三の態様としては、芳香族基を有する単量体及び脂肪族ジエン化合物よりなる群から選択される少なくとも一種と、必要に応じて他の単量体と、を混合して混合物(y)を得、得られた混合物(y)を、ラジカル重合開始剤またはアニオン重合開始剤の存在下、必要に応じて公知の溶剤を使用して、−100〜150℃(好ましくは0〜130℃)の条件で、共重合反応させて(b−1)構成単位及び(b−2)構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含む共重合体(以下、「ベースポリマー」と記す場合がある)を得、得られた共重合体をスルホン化する製造方法である。
【0047】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどを挙げることができる。ラジカル重合開始剤の使用量は、上記混合物(y)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることが更に好ましい。上記使用量が0.1質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、20質量部超であると、得られる水溶性共重合体の純度(収率)が低下するおそれがある。
【0048】
アニオン重合開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、ナトリウムナフタレン、金属ナトリウムなどを挙げることができる。アニオン重合開始剤の使用量は、上記混合物(y)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることが更に好ましい。上記使用量が0.1質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、20質量部超であると、得られる水溶性共重合体の純度(収率)が低下するおそれがある。
【0049】
溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサンなどを挙げることができる。
【0050】
ベースポリマーは、芳香族基を有する単量体に由来する構成単位((b−1)構成単位)のみからなる重合体でもよいし、脂肪族ジエン化合物に由来する構成単位((b−2)構成単位)のみからなる重合体でもよいし、(b−1)構成単位及び(b−2)構成単位を含む共重合体でもよい。この共重合体としては、ランダム型でもよいし、または、AB型、ABA型などのブロック型であってもよい。
【0051】
ベースポリマーとしては、具体的には、イソプレン単独重合体、ブタジエン単独重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン三元ブロック共重合体、ブタジエン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、これら(共)重合体の水添物、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが挙げられる。これらの中でも、芳香族単量体−共役ジエンブロック共重合体が好ましく、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン三元ブロック共重合体などのイソプレン−スチレン系ブロック共重合体が更に好ましい。
【0052】
ベースポリマーの重量平均分子量(以下「Mw」と記す場合がある)は、3,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜500,000であることが更に好ましく、10,000〜400,000であることが特に好ましい。Mwが3,000未満であると、(b)重合体の硬さが不十分になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、1,000,000超であると、スルホン化時にゲル化を起こすおそれがある。なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定によるポリスチレン換算の値である。
【0053】
共重合体をスルホン化する方法としては、例えば、日本科学会編集、新実験講座(14巻 III、1773頁)に記載された方法、特開平2−227403号公報などに記載された方法などの公知の方法を挙げることができる。
【0054】
共重合体のスルホン化は、具体的には、共重合体とスルホン化剤とを反応させて反応中間体を得、得られた反応中間体に水または塩基性化合物を作用させて行うものである。スルホン化剤を用いることによって、共重合体中の二重結合部分、芳香族環、またはこれらの両方をスルホン化することができる。スルホン化剤によって、共重合体中の二重結合は開環して単結合になるか、あるいは共重合体中の二重結合は残ったまま、水素原子がスルホン酸(塩)と置換する。芳香族環は、主としてパラ位がスルホン化される。
【0055】
スルホン化剤としては、例えば、無水硫酸、無水硫酸及び電子供与性化合物の錯体、硫酸、クロルスルホン酸、発煙硫酸、亜硫酸水素塩(Na塩、K塩、Li塩など)などを挙げることができる。
【0056】
電子供与性化合物としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類;ピリジン、ピペラジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン類;ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィドなどのスルフィド類;アセトニトリル、エチルニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル化合物などが挙げられる。これらの中でも、安定な錯体を形成しやすいため、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサンが好ましい。
【0057】
スルホン化剤の使用量は、ベースポリマー中のジエンユニット((b−2)構成単位)1モルに対して、無水硫酸換算で0.005〜1.5モルであることが好ましく、0.01〜1.0モルであることが更に好ましい。上記使用量が0.005モル未満であると、スルホン酸(塩)基の導入率が低くなり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、1.5モル超であると、不純物が多量に生成し、カール防止に悪影響を及ぼす(カールの発生を十分に低下することが困難になる)おそれがある。
【0058】
スルホン化の際には、無水硫酸などのスルホン化剤に不活性な溶媒を使用することもできる。この溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;液体二酸化イオウ、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0059】
スルホン化の反応温度は、−70〜+200℃であることが好ましく、−30〜+50℃であることが更に好ましい。上記反応温度が−70℃であると、反応が十分に進行しないおそれがある。一方、200℃超であると、ベースポリマーが分解するおそれがある。
【0060】
反応中間体に作用させる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、アミルリチウム、プロピルナトリウム、メチルマグネシウムクロライド、エチルマグネシウムブロマイド、プロピルマグネシウムアイオダイド、ジエチルマグネシウム、ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機金属化合物;アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、アニリン、ピペラジンなどのアミン類;ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、亜鉛などの金属化合物を挙げることができる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが更に好ましい。なお、これらの塩基性化合物は、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0061】
塩基性化合物の使用量は、スルホン化剤1モルに対して、2モル以下であることが好ましく、1.3モル以下であることが更に好ましい。上記使用量が2モル超であると、不純物が多量に生成し、カール防止に悪影響を及ぼす(カールの発生を十分に低下することが困難になる)おそれがある。
【0062】
次に、(b)重合体の製造方法の第四の態様としては、上述した第三の態様と同様の方法でベースポリマーを得、得られたベースポリマー中の二重結合の少なくとも一部を水素添加して、即ち、水添して水添共重合体を得、得られた水添共重合体をスルホン化する製造方法である。なお、二重結合の少なくとも一部を水添すれば良いので、二重結合の全部を水添してもよい。また、ベースポリマーをスルホン化した後、水添することによって(b)重合体を製造してもよい。
【0063】
ベースポリマーを水添して水添共重合体を得る方法は、例えば、特開平5−222115号公報に記載されている方法を採用することができる。また、水添に際し、公知の水添触媒を使用することができ、水添触媒としては、例えば、特開平5−222115号公報に記載されているような触媒を挙げることができる。なお、水添共重合体のスルホン化は、上述した共重合体をスルホン化する方法と同様の方法で行うことができる。
【0064】
水添したベースポリマー、即ち、水添共重合体の重量平均分子量は、3,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜500,000であることが更に好ましく、10,000〜400,000であることが特に好ましい。Mwが3,000未満であると、(b)重合体の硬さが不十分になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、1,000,000超であると、スルホン化時にゲル化を起こすおそれがある。
【0065】
ベースポリマーの水添率、即ち、ベースポリマー中の二重結合のうち水添される二重結合の割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。上記水添率が80%未満であると、経時で着色が起こる場合がある。なお、本明細書において「水添率」は、(b)重合体を四塩化炭素溶媒に溶解し、270MHZ、H−NMRスペクトルから測定した値である。
【0066】
(b)重合体は、スルホン酸(塩)基の含有量が、0.1ミリモル/g以上であることが好ましく、0.2ミリモル/g以上であることが更に好ましく、0.3ミリモル/g以上であることが特に好ましい。上記含有量が0.1ミリモル/g未満であると、親水性が低く、記録用紙の保水性が低くなり、カール防止能が低下するおそれがある。
【0067】
なお、(b)重合体の構造は、赤外線吸収スペクトルのスルホン基の吸収を確認することによって、または、核磁気共鳴スペクトルを用いることによって、確認することができる。また、(b)重合体中の組成比は、元素分析などの結果から算出することができる。
【0068】
(b)重合体が水または有機溶剤に溶解する場合には、水溶液または有機溶剤溶液として使用できる。また、(b)重合体が水に不溶な場合には、水性媒体中に乳化分散した状態で使用することができる。(b)重合体を水性媒体中に乳化させる方法(以下、この乳化過程を「再乳化」と記す場合がある)としては、一般的な方法を採用することができる。例えば、(b)重合体の有機溶剤溶液中に、この有機溶剤溶液を攪拌しながら水を添加する方法、(b)重合体の有機溶剤溶液を攪拌しながら水中に添加する方法、容器に水と(b)重合体の有機溶剤溶液とを同時に添加しつつ攪拌する方法などを挙げることができる。
【0069】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤などを挙げることができる。なお、これらは、単独でまたは2種以上を使用してもよい。
【0070】
なお、再乳化に際しては、界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルなどの非イオン系界面活性剤、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、ロジン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライドなどのカチオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独でまたは2種以上を使用してもよい。
【0071】
上記界面活性剤は、(b)重合体の有機溶剤溶液中に溶解または分散させて使用してもよいし、水中に溶解または分散させて使用してもよい。界面活性剤の使用量は、(b)重合体100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
【0072】
また、反応系内のpHを調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ化合物、塩酸、硫酸などの無機酸を用いることもできる。
【0073】
(b)重合体を再乳化して得られるエマルジョン中の粒子の平均粒子径は、10〜1,000nmであることが好ましく、10〜500nmであることが更に好ましい。また、上記エマルジョンの固形分濃度は、使用条件、保存条件などにより、適宜選択することができるが、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることが更に好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、動的光散乱法を利用して測定した数平均粒子径のことである。
【0074】
本実施形態の紙改質剤に含有される(b)重合体は、2種以上を使用してもよい。2種以上を使用する場合の組み合わせとしては、例えば、ランダム型とABブロック型、ABブロック型とABAブロック型、ABAブロック型とABAブロック型などを挙げることができる。
【0075】
[1−3]その他の成分:
本実施形態の紙改質剤は、(a)化合物及び(b)重合体以外に、染料、顔料、無機粒子、有機溶剤、バインダーなどのその他の成分を含有することができる。
【0076】
本実施形態の紙改質剤は、(a)化合物と(b)重合体との含有比率((a):(b))が、質量比で、9:1〜1:9であり、9:1〜5:5であることが好ましく、9:1〜7:3であることが更に好ましい。(a)化合物を1に対して(b)重合体が9超であると、ポリエチレングリコール鎖の含有率が低下するため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下する。一方、(a)化合物を9に対して(b)重合体が1未満であると、紙の保水性が低下し、カール発生の抑制が困難となる。特に、環境変化によるカール発生、即ち、時間の経過とともに生じるカールの抑制が困難になる。
【0077】
本実施形態の紙改質剤は、全固形分含量が1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。上記全固形分含量が1質量%未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、30質量%超であると、粘度が高くなり均一塗布が困難となるおそれがある。
【0078】
本実施形態の紙改質剤は、例えば、(a)化合物、(b)重合体、及び必要に応じてその他の成分をそれぞれ所定量混合した後、所定の全固形分含量に調整することによって得ることができる。
【0079】
[2]インク:
本発明のインクの一実施形態は、本発明の紙改質剤を含有するものである。このように本発明の紙改質剤を含有することによって、記録用紙に画像の記録や印字などをした際に、記録や印字などをした記録用紙が、環境条件の変化によってもカールが発生し難いという利点がある。
【0080】
本実施形態のインクには、本発明の紙改質剤以外に、従来公知のインクに含有させることができるもの、例えば、顔料、バインダー、染料、無機粒子、有機溶剤などを含有することができる。
【0081】
インク中の紙改質剤の含有割合は、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。上記含有割合が1質量%未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、30質量%超であると、粘度が高くなり均一塗布が困難となるおそれがある。
【0082】
[3]紙の改質方法:
第一の紙の改質方法の発明の一実施形態は、本発明の紙改質剤を原紙に塗布するものである。このように本発明の紙改質剤を塗布することによって、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができる。即ち、本発明の紙の改質方法によって改質した記録用紙は、従来公知のインクを用いて印刷した場合であっても、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難いものである。
【0083】
本実施形態の紙の改質方法に用いる本発明の紙改質剤は、上述した本発明の紙改質剤をそのまま使用しても良いし、例えば、所定の固形分含量となるように調整した後、使用しても良い。原紙に塗布する紙改質剤の固形分含量としては、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。上記固形分含量が1質量%未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、30質量%超であると、粘度が高くなり均一塗布が困難となるおそれがある。
【0084】
本実施形態の紙の改質方法に用いる原紙は、特に限定されるものではないが、例えば、LBKPやNBKP等の化学パルプ、GP、TMP等の機械パルプ、または古紙パルプ等のパルプと、填料、サイズ剤、紙力増強剤等の各種内添薬品とを混合し、長網や丸網等の各種抄紙機で抄造したものを使用することができる。また、デンプンや表面サイズ等をサイズプレスまたは塗工したものを使用することができる。
【0085】
紙改質剤の塗布方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、バーコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、リップコーター、グラビアコーターなどを用いることができる。
【0086】
紙改質剤の塗布量は、0.1〜20g/mであることが好ましく、0.5〜5g/mであることが更に好ましい。上記塗布量が0.1g/m未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、20g/m超であると、記録用紙がカールしてしまうおそれがある。
【0087】
[4]紙の改質方法:
第二の紙の改質方法の発明の一実施形態は、本発明のインクを原紙に塗布するものである。このように本発明の紙改質剤を含有するインクを塗布することによって、インクとしての機能が得られる、即ち、画像を記録したり、記録用紙に印字したりすることができるとともに、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができる。
【0088】
本実施形態の紙の改質方法に用いる原紙は、上述した[3]紙の改質方法で用いる原紙と同様のものを用いることができる。
【0089】
インクの塗布方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、エアナイフコーター、ダイコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、リップコーター、グラビアコーター、インクジェット方式などを挙げることができる。
【0090】
[5]記録用紙:
本発明の記録用紙の一実施形態は、本発明の紙改質剤を原紙に塗布して得られるものである。このような記録用紙は、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難いものである。
【0091】
本実施形態の紙の改質方法に用いる本発明の紙改質剤は、上述した本発明の紙改質剤をそのまま使用しても良いし、例えば、所定の固形分含量となるように調整した後、使用しても良い。原紙に塗布する紙改質剤の固形分含量としては、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。上記固形分含量が1質量%未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、30質量%超であると、粘度が高くなり均一塗布が困難となるおそれがある。
【0092】
紙改質剤の塗布方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、バーコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、リップコーター、グラビアコーターなどを用いることができる。
【0093】
紙改質剤の塗布量は、0.1〜20g/mであることが好ましく、0.5〜g/mであることが更に好ましい。上記塗布量が0.1g/m未満であると、ポリエチレングリコール鎖の含有量が少ないため、再水素結合を抑制することが困難になり、カール防止能が低下するおそれがある。一方、20g/m超であると、記録用紙がカールしてしまうおそれがある。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例及び比較例中の各種の評価は、下記の方法により行った。
【0095】
[平均粒子径]
大塚電子社製の粒子径測定装置「Photal PAR−III(商品名)」を用いて測定する。
【0096】
[重量平均分子量]
測定装置として「SC8010(GPC)」(東ソー社製)、カラムとして有機溶媒系GPCカラム「G4000HXL(商品名)」(東ソー社製)、検出器として示差屈折率計を用い、温度40℃、溶媒をテトラヒドロフラン、流速を1,000μl/分として測定する。
【0097】
[水添率]
(b)重合体を四塩化炭素溶媒に溶解し、270MHZ、H−NMRスペクトルから測定する。
【0098】
[スルホン酸(塩)基の含有量]
スルホン酸(塩)の含有量(ミリモル/g)は、まず、(b)重合体の20%水溶液または水分散液を調製した後、透析膜(半井化学薬品社製、Cellulose Diolyzer Tubing−VT351)を用いて、低分子物を除去して精製物を得る。次に、得られた精製物を陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIR−118(H))を用いてイオン交換する。次に、完全に酸型にしたものを、1/2モル/gのNaOH水溶液を用いて滴定により測定する。
【0099】
[画像特性]
実施例1〜9及び比較例1〜9については、紙改質材を塗布した記録用紙を常温常湿下で24時間放置した後、この記録用紙に、インク(カーボンブラック1.5%、2−プロパノール10%、水88.5%)を塗布し、常温常湿下で24時間放置する。また、実施例10については、紙改質剤を含有するインクを記録用紙に塗布した後、常温常湿下で24時間放置する。以上のようにして得られた記録用紙について、GretagMacbeth社製の反射濃度計「RD−19I」を用い、OD値を測定する。この値を画像特性の評価の指標とする。なお、表3中、「OD値」と示す。評価に用いた記録用紙としては、キヤノン社製の「PPC用紙」(商品名)を用いる。
【0100】
[光沢]
実施例1〜9及び比較例1〜9については、紙改質材を塗布した記録用紙を、常温常湿下で24時間放置した後、インク(カーボンブラック1.5%、2−プロパノール10%、水88.5%)を塗布し、常温常湿下で24時間放置する。また、実施例10については、紙改質剤を含有するインクを塗布し、常温常湿下で24時間放置する。以上のようにして得られた記録用紙について、BYK Gardner社製の「micro−haze plus」(商品名)を用い、光沢を測定する。この値を光沢の評価の指標とする。なお、表3中、「光沢20°」と示す。
【0101】
[紙改質材塗布1日後のカール量]
紙改質剤を塗布した記録用紙を常温常湿下で24時間放置した後のカール量を測定する。カール量の測定は、水平な面上に、24時間放置した後の記録用紙を置き、カールして上記水平面から離れた記録用紙の先端辺の、水平面からの鉛直方向の距離を定規で測定する。測定値は下記の基準で判定し、評価する。なお、全ての記録用紙が、先端辺がカールしていた。
○:15mm未満
×:15mm以上
【0102】
[紙改質材塗布3日後のカール量]
紙改質剤を塗布した記録用紙を常温常湿下で3日間放置した後のカール量を、上記[紙改質材塗布1日後のカール量]と同様にして測定する。測定値は下記の基準で判定し、評価する。
○:25mm未満
△:25mm以上40mm未満
×:40mm以上
【0103】
[25℃85%RH3日後のカール量]
紙改質剤を塗布した記録用紙を、25℃、85%RH下で3日間放置した後のカール量を、上記[紙改質材塗布1日後のカール量]と同様にして測定する。測定値は下記の基準で判定し、評価する。
○:25mm未満
△:25mm以上40mm未満
×:40mm以上
【0104】
(合成例1)
(β−1)共重合体の合成:
(1)まず、ガラス製反応容器にジオキサン372gを入れ、これに無水硫酸37.2gを、内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。(2)次に、別のガラス製反応容器に、表2に示す組成で予め調製したイソプレン−スチレン共重合体(固形分量として100g)をジオキサン400gに溶解させて溶解物を得た。この溶解物中に上記(1)で得られた無水硫酸−ジオキサン錯体の全量を、内温を25℃に保ちながら2時間撹拌しつつ添加してスルホン化溶液を得た。その後、別のフラスコに、水100g、水酸化ナトリウム18.6gを入れて水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水溶液に上記スルホン化溶液の全量を、内温を50℃に保ちながら攪拌しつつ添加した。添加後1時間攪拌した後、1100gの水を加え、全溶剤及び水の一部を共沸により除去して(β−1)共重合体を含む水溶液を得た。この水溶液の固形分濃度は、15%であった。
【0105】
(β−1)共重合体のスルホン酸基含有量は、3.6ミリモル/gであった。
【0106】
なお、表2中、「ST/IPランダム共重合体のIPユニットのスルホン化物」は本合成例で得られた(β−1)共重合体を示し、「ST/IP=50/50モル比」は(β−1)共重合体中のスチレンに由来する構成単位とイソプレンに由来する構成単位とのモル比が50:50であることを示し、「ベースポリマーのMw=40000」はスルホン化前の共重合体(ベースポリマー)のMwが40000であることを示し、「スルホン化割合:全IPユニットの80モル%」は全てのイソプレンに由来する構成単位に対して、80モル%のイソプレンに由来する構成単位がスルホン化されていることを示す。
【0107】
(合成例2)
(β−2)共重合体の合成:
(1)まず、ガラス製反応容器にジオキサン136gを入れ、これに無水硫酸13.6gを、内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。(2)次に、別のガラス製反応容器に、表2に示す組成で予め調製したブタジエン−スチレン共重合体(固形分量として100g)をジオキサン400gに溶解させて溶解物を得た。この溶解物中に上記(1)で得られた無水硫酸−ジオキサン錯体の全量を、内温を25℃に保ちながら2時間撹拌しつつ添加してスルホン化溶液を得た。その後、別のフラスコに、水100g、水酸化ナトリウム6.8gを入れて水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水溶液に上記スルホン化溶液の全量を、内温を50℃に保ちながら攪拌しつつ添加した。添加後1時間攪拌した後、1100gの水を加え、全溶剤及び水の一部を共沸により除去して(β−2)共重合体を含む水溶液を得た。この水溶液の固形分濃度は、15%であった。
【0108】
(β−2)共重合体のスルホン酸基含有量は、1.4ミリモル/gであった。
【0109】
なお、表2中、「ST/BDブロック共重合体のBDユニットのスルホン化物」は本合成例で得られた(β−2)共重合体を示し、「ST/BD=80/20モル比」は(β−2)共重合体中のスチレンに由来する構成単位とブタジエンに由来する構成単位とのモル比が80:20であることを示し、「ベースポリマーのMw=30000」はスルホン化前の共重合体(ベースポリマー)のMwが30000であることを示し、「スルホン化割合:全BDユニットの80モル%」は全てのブタジエンに由来する構成単位に対して、80モル%のブタジエンに由来する構成単位がスルホン化されていることを示す。
【0110】
(合成例3)
(β−3)重合体の合成:
(1)まず、ガラス製反応容器にジオキサン615gを入れ、これに無水硫酸61.5gを、内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。(2)次に、別のガラス製反応容器に、表2に示す組成で予め調製したスチレン単独重合体(固形分量として100g)をジオキサン400gに溶解させて溶解物を得た。この溶解物中に上記(1)で得られた無水硫酸−ジオキサン錯体の全量を、内温を25℃に保ちながら2時間撹拌しつつ添加してスルホン化溶液を得た。その後、別のフラスコに、水100g、水酸化ナトリウム30.7gを入れて水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水溶液に上記スルホン化溶液の全量を、内温を50℃に保ちながら攪拌しつつ添加した。添加後1時間攪拌した後、1100gの水を加え、全溶剤及び水の一部を共沸により除去して(β−3)重合体を含む水溶液を得た。この水溶液の固形分濃度は、15%であった。
【0111】
(β−3)重合体のスルホン酸基含有量は、4.3ミリモル/gであった。
【0112】
なお、表2中、「ST単独重合体のSTユニットのスルホン化物」は本合成例で得られた(β−3)重合体を示し、「ベースポリマーのMw=20000」はスルホン化前の重合体(ベースポリマー)のMwが20000であることを示し、「スルホン化割合:全STユニットの80モル%」は全てのスチレンに由来する構成単位に対して、80モル%のスチレンに由来する構成単位がスルホン化されていることを示す。
【0113】
(合成例4)
(β−4)共重合体の合成:
(1)まず、ガラス製反応容器にジオキサン195gを入れ、これに無水硫酸19.5gを、内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。(2)次に、別のガラス製反応容器に、表2に示す組成で予め調製したブタジエン−スチレン共重合体(固形分量として100g)をジオキサン400gに溶解させて溶解物を得た。この溶解物中に上記(1)で得られた無水硫酸−ジオキサン錯体の全量を、内温を25℃に保ちながら2時間撹拌しつつ添加してスルホン化溶液を得た。その後、別のフラスコに、水100g、水酸化ナトリウム9.7gを入れて水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水溶液に上記スルホン化溶液の全量を、内温を50℃に保ちながら攪拌しつつ添加した。添加後1時間攪拌した後、1100gの水を加え、全溶剤及び水の一部を共沸により除去して(β−4)共重合体を含む水溶液を得た。この水溶液の固形分濃度は、15%であった。
【0114】
(β−4)共重合体のスルホン酸基含有量は、1.9ミリモル/gであった。
【0115】
なお、表2中、「ST/BDブロック共重合体の水添物のSTユニットのスルホン化物」は本合成例で得られた(β−2)共重合体を示し、「ST/BD=20/80モル比」は(β−4)共重合体中のスチレンに由来する構成単位とブタジエンに由来する構成単位とのモル比が20:80であることを示し、「水添率=100%」は(β−4)共重合体中の二重結合の全てが水添されていることを示し、「ベースポリマーのMw=80000」はスルホン化前の共重合体(ベースポリマー)のMwが80000であることを示し、「スルホン化割合:全STユニットの80モル%」は全てのスチレンに由来する構成単位に対して、80モル%のスチレンに由来する構成単位がスルホン化されていることを示す。
【0116】
(合成例5)
(β−5)共重合体の合成:
(1)まず、セパラブルフラスコに、水500g、過硫酸カリウム3gを入れ、180rpmで撹拌しつつ80℃に昇温した。(2)別のガラス製反応容器にIPS(イソプレンスルホン酸ナトリウム)34.0g、アクリル酸70.5g、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)6.5gを仕込み撹拌してモノマー混合液を得た。(3)セパラブルフラスコの内温が80℃に達したら、それにモノマー混合液を2時間かけて滴下した。(4)滴下終了後、80℃にて4時間熟成させた。(5)熟成後、冷却し、10%水酸化ナトリウム水溶液にてpH7に調整した。(6)その後、水で希釈して固形分濃度15%の、(β−5)共重合体を含む水溶液を得た。
【0117】
(β−5)共重合体のスルホン酸基含有量は、2.2ミリモル/gであった。
【0118】
なお、表2中、「IPS/アクリル酸/HEMA共重合体」は本合成例で得られた(β−5)共重合体を示し、「IPS/アクリル酸/HEMA=20/75/5モル比」は(β−5)共重合体中のイソプレンスルホン酸ナトリウムに由来する構成単位とアクリル酸に由来する構成単位と2−ヒドロキシエチルメタクリレートに由来する構成単位とのモル比が20:75:5であることを示し、「Mw=10000」は(β−5)共重合体のMwが10000であることを示す。
【0119】
(実施例1)
表1に示す(α−1)化合物(ポリエチレングリコール、Mn:200、ALDRICH社製)7部、表2に示す(β−1)共重合体3部、2−プロパノール10部、水80部を混合して紙改質剤を調製した。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
調製した紙改質剤について、上述した[インク塗布1日後のカール量]、[インク塗布3日後のカール量]、[画像特性]、[光沢]、及び[25℃85%RH3日後のカール量]の各評価を行った。その結果、本実施例の紙改質剤は、インク塗布1日後のカール量が「○」であり、インク塗布3日後のカール量が「○」であり、OD値が2.3であり、光沢が12であり、25℃85%RH3日後のカール量が「○」であった。評価結果を表3に示す。
【0123】
【表3】

【0124】
(実施例2〜10、比較例1〜9)
表1及び表2に示す各成分を表3に示す配合量(質量部)で混合して紙改質剤を調製した。調製した紙改質剤について、上述した[インク塗布1日後のカール量]、[インク塗布3日後のカール量]、[画像特性]、[光沢]、及び[25℃85%RH3日後のカール量]の各評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0125】
なお、表1中、「ポリエチレングリコール(Mn:200)」はALDRICH社製のポリエチレングリコール(数平均分子量200、ポリエチレンオキシド鎖の分子量200)を示し、「ポリエチレングリコール(Mn:600)」はALDRICH社製のポリエチレングリコール(数平均分子量600、ポリエチレンオキシド鎖の分子量600)を示し、「ポリエチレングリコール(Mn:1500)」はALDRICH社製のポリエチレングリコール(数平均分子量1500、ポリエチレンオキシド鎖の分子量1500)を示し、「ポリエチレングリコール(Mn:20000)」はALDRICH社製のポリエチレングリコール(数平均分子量20000、ポリエチレンオキシド鎖の分子量20000)を示し、「ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート」は和光純薬工業社製のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ポリエチレンオキシド鎖の分子量880)を示す。
【0126】
また、表3中、「ST/IPランダム共重合体」はST/IPランダム共重合体の水分散体であることを示し、このST/IPランダム共重合体は、共重合体中のスチレンに由来する構成単位とイソプレンに由来する構成単位とのモル比が50:50であり、Mwが40000である。また、「カーボンブラック」は、東海カーボン社製の「Aqua−Black162」を示す。「ポリアクリル酸ナトリウム」は、Aldrich社製の「ポリアクリル酸ナトリウム」(分子量:5000)を示す。
【0127】
表3から明らかなように、実施例1〜10の紙改質剤は、比較例1〜9の紙改質剤に比べて、画像特性を維持しつつ、環境条件の変化によってもカールが発生し難い記録用紙を得ることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の紙改質剤は、キャストコート紙などの塗工紙(記録用紙)の改質剤として好適に用いることができる。
【0129】
本発明の紙の改質方法は、キャストコート紙などの塗工紙(記録用紙)を改質する方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子量が200〜2000のポリエチレンオキシド鎖を有する化合物と、
(b)(b−1)芳香族基を有する単量体由来の構成単位、及び、(b−2)脂肪族ジエン化合物由来の構成単位よりなる群から選択される少なくとも一種を含むとともに、側鎖にスルホン酸(塩)基を有する重合体と、を含有し、
前記(a)化合物と前記(b)重合体との含有比率((a):(b))が、質量比で、1:9〜9:1である紙改質剤。
【請求項2】
前記(b)重合体は、スルホン酸(塩)基及び芳香族基を有する単量体に由来する構成単位を更に含むものである請求項1に記載の紙改質剤。
【請求項3】
前記(b)重合体は、スルホン酸(塩)基を有する脂肪族ジエン化合物に由来する構成単位を更に含むものである請求項1または2に記載の紙改質剤。
【請求項4】
前記(b)重合体が、前記(b−1)構成単位、及び、前記(b−2)構成単位を含む共重合体をスルホン化して得られるものである請求項1に記載の紙改質剤。
【請求項5】
前記(b)重合体が、前記共重合体中の二重結合の少なくとも一部を水素添加して得られる水添共重合体をスルホン化して得られるものである請求項4に記載の紙改質剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙改質剤を含有するインク。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙改質剤を原紙に塗布する紙の改質方法。
【請求項8】
請求項6に記載のインクを原紙に塗布する紙の改質方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙改質剤を原紙に塗布して得られる記録用紙。

【公開番号】特開2009−209486(P2009−209486A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54208(P2008−54208)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】