説明

緩衝器のバルブ構造

【課題】安定した減衰力を発生できるとともに低速域で充分な減衰力を発生可能な緩衝器のバルブ構造を提供することである。
【解決手段】上記した目的を解決するために、本発明の課題解決手段における緩衝器Dのバルブ構造は、シリンダ1内に摺動自在に挿入されてシリンダ1内に圧側室R1と伸側室R2とを形成するとともに圧側室R1と伸側室R2とを連通するポート2aを備えたピストン2と、ピストン2の伸側室R2側に軸方向に移動可能に積層されてポート2aの出口端を開閉する環状のリーフバルブ3と、リーフバルブ3をピストン2側へ向けて附勢する附勢手段とを備え、附勢手段が一対の板バネ4,5を有してこれら板バネ4,5の弾発力でリーフバルブ3を附勢してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器のバルブ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝器のバルブ構造にあっては、たとえば、二輪車のフロントフォークに内蔵された緩衝器のピストン部に具現化されており、ピストンに設けたポートの出口端を環状のリーフバルブで開閉するとともに、このリーフバルブをコイルスプリングでピストン側へ向けて附勢するようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
詳しくは、上記した緩衝器のバルブ構造は、ピストンの軸芯部を貫いてピストンを保持するピストンホルダの外周にリーフバルブを摺動自在に装着して、リーフバルブをピストンに対して軸方向へ移動可能とし、リーフバルブの正面側に作用する作動油の圧力が大きくなるとコイルスプリングを圧縮せしめて、リーフバルブがピストンから後退してポートを大きく開放するようになっている。
【0004】
このような構成を採用することで、リーフバルブの内周を固定支持してリーフバルブの外周を撓ませることによってポートを開放するバルブ構造に比較して、ピストン速度が比較的高くなる領域においてポートを大きく開放することができ、圧縮行程時の減衰力が過大となることを阻止して、車両における乗り心地を向上することができるのである。
【特許文献1】特開2003−247584号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような提案のバルブ構造にあっては、車両における乗り心地を向上できる点で有用な技術ではあるが、以下の不具合があると指摘される可能性がある。
【0006】
従来のバルブ構造では、コイルスプリングでリーフバルブを附勢する構成を採用しており、自然長とバネ定数が均一なコイルスプリングを製造することが難しく、バルブ構造が具現化した緩衝器の発生減衰力が製品毎にバラついてしまう虞がある。
【0007】
また、フロントフォークに内蔵される緩衝器のピストン部に上記したバルブ構造を採用する場合、狭いフロントフォーク内への搭載性と緩衝器のストローク長の確保の観点からピストン部の大型化を避けなければならず、コイルスプリングの径方向の大きさと圧縮長を著しく制限される条件では、コイルスプリングの線径を大きくすることができず、リーフバルブに充分な附勢力を与えることができない場合がある。
【0008】
たとえば、圧縮速度が低速域にある場合に、リーフバルブをリフトさせずに外周のみを撓ませてピストン速度に応じた減衰力を発生させようとしても、実際には圧縮速度が低速域にあってもコイルスプリングが圧縮されてリーフバルブがピストンからリフトしてポートを大きく開放してしまい、低速域における圧側の減衰力が設計者の意図する狙いと違って不足してしまう事態が生じてしまう。
【0009】
また、コイルスプリングが圧縮された状態から緩衝器の振動方向が伸長方向へと逆転する場合、リーフバルブで速やかにポートを閉塞しなければならないが、コイルスプリングの附勢力が不足する場合には、リーフバルブの閉塞動作に遅れを生じてポートで圧側室と伸側室とが連通状態に維持されてしまって、緩衝器が圧縮行程から伸長行程に切換わった直後における減衰力が不足してしまうといった事態も生じることになる。
【0010】
本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、安定した減衰力を発生できるとともに低速域で充分な減衰力を発生可能な緩衝器のバルブ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を解決するために、本発明の課題解決手段における緩衝器のバルブ構造は、シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内に圧側室と伸側室とを形成するとともに圧側室と伸側室とを連通するポートを備えたピストンと、ピストンの伸側室側に軸方向に移動可能に積層されてポートの出口端を開閉する環状のリーフバルブと、リーフバルブをピストン側へ向けて附勢する附勢手段とを備え、附勢手段が一対の板バネを有してこれら板バネの弾発力でリーフバルブを附勢してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の緩衝器のバルブ構造にあっては、ポートを開閉するリーフバルブをバネ定数に個体差が少ない板バネで附勢するようにしているので、附勢手段にコイルスプリングを使用している従来のバルブ構造に比較して、緩衝器における発生減衰力の製品毎のバラつきを抑制することができる。
【0013】
また、板バネにおけるバネ定数を大きく設定するために板バネを構成する環状板の積層枚数を多くしたり板バネの板厚を厚くしたりしても、軸方向に長尺となることが無いのでピストン部の大型化が避けられるため、緩衝器のストローク長を犠牲にすることがなく、リーフバルブに充分な附勢力を与えることができる。
【0014】
よって、板バネによる初期荷重を適宜設定しておくことで、圧縮速度が低速域にある場合には、リーフバルブをリフトさせずにリーフバルブの外周のみを撓ませてピストン速度に応じた減衰力を発生させることができ、緩衝器に低速域における圧側の減衰力を充分に発生させることができる。
【0015】
また、板バネによってリーフバルブを充分に附勢することができるから、緩衝器の振動方向が圧縮方向から伸長方向へと逆転する際に、リーフバルブを速やかにポートを閉塞する位置までに復帰させることができ、緩衝器が圧縮行程から伸長行程に切換わった直後における減衰力が不足してしまうことがない。
【0016】
したがって、本発明の緩衝器のバルブ構造によれば、緩衝器に安定した減衰力を発生させることができるとともに、緩衝器の伸縮速度が低速域にある場合にも充分な減衰力を発生させることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のバルブ構造を図に基づいて説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化されたピストン部における縦断面図である。図2は、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化された緩衝器をフロントフォークに適用した図である。
【0018】
一実施の形態における緩衝器のバルブ構造は、図1に示すように、緩衝器Dのピストン部の圧側の減衰バルブとして具現化されており、シリンダ1内に摺動自在に挿入されてシリンダ1内に圧側室R1と伸側室R2とを形成するとともに圧側室R1と伸側室R2とを連通するポートたる圧側ポート2aを備えたピストン2と、ピストン2の伸側室側に軸方向に移動可能に積層されてポート2aの出口端を開閉する環状のリーフバルブ3と、リーフバルブ3をピストン2側へ向けて附勢する附勢手段としての一対の板バネ4,5とを備えて構成されている。
【0019】
他方、バルブ構造が具現化される緩衝器Dは、図2に示すように、フロントフォークFに適用されており、具体的には、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されてシリンダ1内に圧側室R1と伸側室R2とを形成するピストン2と、シリンダ1の図2中上端に連結されて内部にリザーバRが形成されるリザーバ筒10と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるとともにピストン2に連結されるピストンロッド11とを備え、シリンダ1内には流体、具体的には、作動油が充填されている。
【0020】
そして、ピストン2は、環状とされて上記した圧側ポート2aの他に伸側ポート2bを備えており、これら圧側および伸側ポート2a,2bで圧側室R1と伸側室R2とを連通している。
【0021】
ポート2aは、ピストン2の図1中下端に積層したリーフバルブ3によって開閉されるようになっており、リーフバルブ3は、伸側室R2から圧側室R1へ向かう作動油の流れを阻止するとともに、圧側室R1から伸側室R2へ向かう作動油の流れに抵抗を与えるようになっている。
【0022】
他方、ポート2bは、ピストン2の図1中上端に積層したリーフバルブ12によって開閉されるようになっており、リーフバルブ12は、圧側室R1から伸側室R2へ向かう作動油の流れを阻止するとともに、伸側室R2から圧力室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与えるようになっている。
【0023】
また、リザーバR内はフリーピストン13によって気室14と油室15が区画され、上記油室15内にもシリンダ1と同様に作動油が充填されている。なお、フリーピストン13は、当該フリーピストン13とリザーバ筒10の上端を閉塞する封止部材16との間に介装されるバネ17によって図2中下方へ附勢されており、油室15内を加圧している。
【0024】
さらに、この緩衝器Dは、シリンダ1内に形成された圧側室R1とリザーバR内に設けられた油室15とを仕切る仕切部材18を備えており、この仕切部材18に設けたポート18a,18bを介して圧側室R1と油室15が連通されるようになっている。
【0025】
そして、一方のポート18aは、仕切部材18の上端に設けたリーフバルブ19によって開閉されるようになっており、リーフバルブ19は、油室15から圧側室R1へ向かう作動油の流れを阻止するとともに、圧側室R1から油室15へ向かう液体の流れに対して抵抗を与えるようになっている。すなわち、この緩衝器Dにあっては、仕切部材18とリーフバルブ19によってベースバルブを構成している。
【0026】
他方のポート18bは、仕切部材18の下端に設けたチェックバルブ20によって開閉されるようになっており、チェックバルブ20は、圧側室R1から油室15へ向かう作動油の流れを阻止するとともに、油室15から圧力室R1へ向かう液体の流れのみを許容するようになっている。
【0027】
このように構成された緩衝器Dは、リザーバ筒10の図2中上端をフロントフォークFのアウターチューブ21に結合するとともにピストンロッド11の下端をフロントフォークFのインナーチューブ22に結合してテレスコピック型のフロントフォークF内に収容されており、ピストンロッド11がシリンダ1に対して下方に配置されるいわゆる倒立型に設定されている。
【0028】
なお、アウターチューブ21とインナーチューブ22との間には緩衝器Dに並列される懸架バネ23が介装されており、この懸架バネ23はフロントフォークFを伸長方向に附勢し、フロントフォークFを二輪車の車軸と車体との間に介装すると車体を弾性支持するようになっている。
【0029】
そして、このフロントフォークFにおけるアウターチューブ21に対してインナーチューブ22が突出する伸長作動時には、ピストン2の伸側ポート2bを介して伸側室R2から圧側室R1へ向かう作動油の流れにリーフバルブ12で抵抗を与えて所定の圧力損失を生じせしめて、緩衝器Dに所定の伸側減衰力を発生させる。この伸長作動時には、チェックバルブ20が開いて、ピストンロッド11がシリンダ1から退出する体積分の作動油が、ポート18bを介して油室15からシリンダ1内へ供給されてシリンダ1内の体積補償がなされる。
【0030】
他方、フロントフォークFにおけるアウターチューブ21に対してインナーチューブ22が侵入する圧縮作動時には、ピストンロッド11がシリンダ1内へ侵入する体積分の作動油がシリンダ1内で過剰となり、ポート18aを介してシリンダ1内から油室15へ排出され、この作動油の流れにリーフバルブ12によって抵抗を与えてシリンダ1内を増圧させる。この緩衝器Dの場合、圧縮作動時には、主としてリーフバルブ12によるシリンダ1内の増圧によって、緩衝器Dに圧側の減衰力を発生させるが、この本発明のバルブ構造では、ピストン2の圧側ポート2aを介して圧側室R1から伸側室R2へ向かう作動油の流れにリーフバルブ3で抵抗を与えるようになっており、このリーフバルブ3は、圧側室R1と伸側室R2とに差圧を生じせめて緩衝器Dの圧側の減衰力を高めるように作用し、緩衝器Dの圧側減衰力の発生に寄与することになる。
【0031】
以下、上記の如く圧側減衰力の発生に寄与するバルブ構造について詳細に説明する。リーフバルブ3は、環状とされており、ピストン2の図1中下端に積層され、ピストン2をピストンロッド11に連結するピストンホルダ24に保持された軸部材たる筒25の外周に摺動自在に装着されており、このリーフバルブ3は、当該リーフバルブ3より図1中下方配置された板バネ4,5によってピストン2へ向けて附勢されている。
【0032】
この実施の形態におけるリーフバルブ3は、環状に形成された板を複数枚積層して積層リーフバルブとして構成されているが、上記環状の板の枚数は、本バルブ構造で実現する減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)によって任意とされてよく、緩衝器Dに発生させる減衰特性によって複数枚とされても一枚のみでも差し支えなく、また、図示するように、緩衝器Dに発生させる減衰特性によって各板の外径を異なるように設定することができる。
【0033】
ピストンホルダ24は、ピストンロッド11の先端に螺着される有頂筒状の基部24aと、基部24aの頂部から立ち上がってピストン2が装着される軸部24bと、基部24aの頂部および軸部24bを貫通する縦孔24cと、基部24aの頂部の側方から開口して縦孔24cに通じる横孔24dとを備えて構成されている。
【0034】
このピストンホルダ24の軸部24bには、ガイド部材26、筒25、環状の反リーフバルブ側スペーサ27、環状の板バネ5、環状の中間スペーサ28、環状の板バネ4、環状のリーフバルブ側スペーサ29、リーフバルブ3、ピストン2、リーフバルブ12、リーフバルブ12の撓み量を規制するバルブストッパ30がそれぞれ図中下から順に組み付けられる。
【0035】
軸部24bに装着されるピストン2、リーフバルブ12、筒25およびガイド部材26は、ピストンホルダ24の基部24aとピストンナット31によって、ピストンホルダ24に対して移動不能に固定され、反リーフバルブ側スペーサ27、板バネ5、中間スペーサ28、板バネ4、リーフバルブ側スペーサ29は筒25の外周に装着されている。
【0036】
詳しくは、反リーフバルブ側スペーサ27、板バネ5、板バネ4およびリーフバルブ側スペーサ29は、内周を筒25の外周に摺接させており、これらは筒25に対して軸方向に移動可能とされている。
【0037】
そして、ピストンホルダ24の基部24aをピストンロッド11の先端に螺着すると、上記アッセンブリ化されたピストン部がピストンロッド11に連結されることになる。
【0038】
なお、この緩衝器Dにあっては、ピストンホルダ24内には、ニードル型弁体32が収容されており、このニードル型弁32を縦孔24cの途中に設けた環状弁座33に対して遠近させることで、縦孔24cと横孔24dで形成されるポート2a,2bを迂回するバイパス路における流路面積を変更することができるようになっている。
【0039】
また、上記ニードル型弁体32は、中空なピストンロッド11内に挿通されるコントロールロッド34に連結されており、当該コントロールロッド34を外部操作することで、ニードル型弁体32を環状弁座33に対して遠近させて、バイパス路における流路面積を調節することができるようになっている。上記バイパス路は、ポート2a,2bを迂回しているため、流路面積を調節することで、緩衝器Dの伸側および圧側の減衰力を調節することができ、この減衰力調節は、フロントフォークFの外部から行うことができるのである。
【0040】
戻って、板バネ4,5は、それぞれ、環状板を複数枚積層して構成されており、バネ定数を環状板の積層枚数で調節することができる。この板バネ4,5は、バネ定数を大きくしても、径方向へ大型化せず、軸方向にも殆ど大型化することがない。したがって、ピストン径が小さい緩衝器D内に無理なく適用することができる。なお、環状板の枚数は、バネ定数に応じて任意の枚数に設定することができ、単数でもよい。また、バネ定数の設定に関しては板厚によって調節するようにしてもよい。
【0041】
また、反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29は、環状の板を複数枚積層して構成され、その外径は、板バネ4,5の外径より小径に設定されており、リーフバルブ3がピストン2から離間する方向へ移動する際には、板バネ4は、リーフバルブ側スペーサ29の外縁を支点として撓み、板バネ5は、反リーフバルブ側スペーサ27の外縁を支点として撓むようになっている。
【0042】
なお、板バネ4,5、反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29は、筒部材たる筒25に摺動自在に装着されているので、当該筒25よって径方向へ位置決めされて、各板バネ4,5における撓みの支点が常に一定に保たれるようになっており、板バネ4,5が撓む毎にリーフバルブ3を附勢する附勢力がバラつくといった事態を生じることがない。
【0043】
つづいて、中間スペーサ28は、その内径が反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29の外径より大径に設定されるとともに、その外径は、板バネ4,5の外径以上に設定され、外周をガイド部材26の筒部26bの内周に摺接させている。
【0044】
この中間スペーサ28は、板バネ4,5の内周側に空隙を形成するために挿入されるものであり、中間スペーサ28の介装によって板バネ4,5が互いの内周側を接近させるように撓むことができるようになっている。また、板バネ4,5は、中間スペーサ28の内縁を支点として撓むようになっているとともに、中間スペーサ28の軸方向長さで板バネ4の最大撓み量が規制されることになる。
【0045】
板バネ4,5は、この実施の形態の場合、ピストンホルダ24の軸部24bに組みつけられた状態で、若干撓んだ状態に維持されて初期荷重を発生し、当該初期荷重でリーフバルブ3をピストン2に押付ける方向に附勢している。
【0046】
そして、上述のように板バネ4およびリーフバルブ側スペーサ29が筒25の外周に軸方向に移動可能に装着されており、板バネ4の図2中下方への移動が許容されているので、リーフバルブ3に緩衝器Dの圧縮作動時に図2中上面側から受ける圧力が作用して、リーフバルブ3を図2中下方へ押し下げる推力が上記した初期荷重以上になると、板バネ4,5が撓んでリーフバルブ3がピストン2から下方へリフトし圧側ポート2aを大きく開放することができるようになっている。
【0047】
このように、板バネ4,5は、反リーフバルブ側スペーサ27の外縁、中間スペーサ28の内縁、およびリーフバルブ側スペーサ29の外縁を支点として撓むため、板バネ4,5自体のバネ定数の調節以外に、反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29の外径、中間スペーサ28の内径の設定によっても板バネ4,5でなる附勢手段におけるバネ定数を調節することが可能である。
【0048】
なお、ガイド部材26は、ピストンホルダ24の軸部24aが挿通される孔を備えた底部26aと底部26aの外周から立ち上がる筒部26bとを備えて構成され、板バネ4,5が撓んで中間スペーサ28が図2中下方へと移動しても筒部26bが必ず中間スペーサ28に対向するようになっている。
【0049】
したがって、中間スペーサ28は、ガイド部材26によって径方向へ位置決めされており、ガイド部材26を設けることによって、中間スペーサ28を特に板バネ4,5のいずれにも接着や溶接等によって固定することを要せずに位置決めて、各板バネ4,5における撓みの支点を常に一定にし、板バネ4,5が撓む毎にリーフバルブ3を附勢する附勢力がバラつくといった事態を生じさせない。当然であるが、ガイド部材26を設けない場合には、中間スペーサ28を板バネ4,5のいずれかあるいは両方に固定すればよく、上記したところは中間スペーサ28を板バネ4,5のいずれかあるいは両方に固定することを妨げる趣旨ではない。
【0050】
また、ガイド部材26の筒部26bの内周に板バネ4,5が摺接する場合には、反リーフバルブ側スペーサ27を板バネ5に固定し、リーフバルブ側スペーサ29を板バネ4に固定しておくことで、板バネ4,5、反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29がすべてガイド部材26によってガイドされるので、これら部材の筒25への外周への摺接の必要が無く、板バネ4,5、反リーフバルブ側スペーサ27およびリーフバルブ側スペーサ29の内径を筒25の外径より大きく設定するようにしてもよい。
【0051】
なお、反リーフバルブ側スペーサ27は、板バネ5の外周側とガイド部材26の底部26aとの間に隙間を生じせしめて、板バネ5が撓むことを可能としている。そして、当該反リーフバルブ側スペーサ27の図2中上下方向となる軸方向長さは、板バネ5がガイド部材26の底部26aに当接してそれ以上の撓みが規制される際の最大撓み量を決しており、反リーフバルブ側スペーサ27を環状の板を積層して構成することによって、板の積層枚数の設定で上記板バネ5の最大撓み量を容易に調節することができるが、反リーフバルブ側スペーサ27を一枚の環状の板とすることも可能である。
【0052】
また、リーフバルブ側スペーサ29は、リーフバルブ3と板バネ4の外周側との間に隙間を生じせしめて、リーフバルブ3の外周が撓むことを可能としている。そして、当該リーフバルブ側スペーサ29の図2中上下方向となる軸方向長さは、リーフバルブ3がリーフバルブ側スペーサ29に当接してそれ以上の撓みが規制される際の最大撓み量を決しており、リーフバルブ側スペーサ29を環状の板を積層して構成することによって、板の積層枚数の設定で上記リーフバルブ3の最大撓み量を容易に調節することができるが、リーフバルブ側スペーサ29を一枚の環状の板とすることも可能である。
【0053】
なお、図示はしないが、ガイド部材26、中間スペーサ28および板バネ4,5で、ガイド部材26と板バネ5との間の空隙および板バネ4,5間の空隙が密閉されることにより板バネ4,5の撓みを妨げる虞がある場合には、板バネ4,5やガイド部材26に上記各空隙の密閉を防止する孔や切欠を設けておくとよい。
【0054】
さて、このように構成されたバルブ構造にあっては、圧側ポート2aを開閉するリーフバルブ3をバネ定数に個体差が少ない板バネ4,5で附勢するようにしているので、附勢手段にコイルスプリングを使用している従来のバルブ構造に比較して、緩衝器Dにおける発生減衰力の製品毎のバラつきを抑制することができる。さらに、板バネ4,5を構成する環状板の積層枚数で上記バラつきを最小限に留めることも可能となる。
【0055】
また、板バネ4,5におけるバネ定数を大きく設定するために板バネ4,5を構成する環状板の積層枚数を多くしたり板バネ4,5の板厚を厚くしたりしても、軸方向に長尺となることが無いのでピストン部の大型化が避けられるため、緩衝器Dのストローク長を犠牲にすることがなく、リーフバルブ3に充分な附勢力を与えることができる。
【0056】
よって、板バネ4,5による初期荷重を適宜設定しておくことで、圧縮速度が低速域にある場合には、リーフバルブ3をリフトさせずにリーフバルブ3の外周のみを撓ませてピストン速度に応じた減衰力を発生させることができ、緩衝器Dに低速域における圧側の減衰力を充分に発生させることができる。
【0057】
また、板バネ4,5によってリーフバルブ3を充分に附勢することができるから、緩衝器Dの振動方向が圧縮方向から伸長方向へと逆転する際に、リーフバルブ3を速やかに圧側ポート2aを閉塞する位置までに復帰させることができ、緩衝器Dが圧縮行程から伸長行程に切換わった直後における減衰力が不足してしまうことがない。
【0058】
したがって、上記したバルブ構造によれば、緩衝器Dに安定した減衰力を発生させることができるとともに、緩衝器Dの伸縮速度が低速域にある場合にも充分な減衰力を発生させることができるのである。
【0059】
そして、一対の板バネ4,5を用いているので、ピストン径が小さく板バネ4,5の外径を大きく設定できない場合にあっても、二つの板バネ4,5が撓むのでリーフバルブ3の最大リフト量を確保することができ、さらに、附勢手段におけるバネ定数を大きく設定しても、軸方向および径方向へ大型化することがないから、ピストン径の小さい緩衝器に適するため、フロントフォークFに内蔵される緩衝器Dの圧側の減衰バルブに最適となる。
【0060】
また、反リーフバルブ側スペーサ27、中間スペーサ28、リーフバルブ側スペーサ29を備えて、反リーフバルブ側スペーサ27と中間スペーサ28の間に板バネ5を介装し、中間スペーサ28とリーフバルブ側スペーサ29の間に板バネ4を介装する構成を採用しているので、板バネ4,5の最大撓み量を任意に設定することができ、緩衝器Dの圧縮速度に対するリーフバルブ3のリフト量を自由に設定することができる。具体的にはたとえば、リーフバルブ3がリフトしていく過程において、一方の板バネ4(5)の撓みが規制されるようになっても他方の板バネ5(4)がそれ以上撓むことができるようにしておくことで、圧縮速度がある速度以上となると、当該速度に対するリーフバルブ3のリフト量の特性が変化するような設定も可能となり、減衰特性設計における自由度が向上することになる。
【0061】
なお、上記したところでは、緩衝器Dがベースバルブを備えているが、これを廃して圧側の減衰力を上記したバルブ構造におけるリーフバルブ3によってのみ発生するような構成を採用することも可能である。
【0062】
さらに、本実施の形態においては、緩衝器DがフロントフォークFに適用されているが、本発明のバルブ構造はフロントフォークFに適用される緩衝器D以外に持て起用可能なことは当然であり、フロントフォークFに適用する場合においても、倒立配置ではなく図2とは天地逆な正立配置されてもよい。
【0063】
また、この実施の形態の場合、ピストン2をピストンロッド11に連結するのにピストンホルダ24を介して行っているが、直接ピストンロッド11にピストン2を連結する場合には、軸部材たる筒25をピストンロッド11の外周に装着するようにしてもよい。また、筒25を廃して軸部材をピストンロッド11あるいはピストンホルダ24の軸部24bとしてリーフバルブ3、板バネ4,5を直接にピストンロッド11あるいはピストンホルダ24の軸部24bの外周に装着するようにしてもよい。
【0064】
以上で本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化されたピストン部における縦断面図である。
【図2】一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化された緩衝器をフロントフォークに適用した図である。
【符号の説明】
【0066】
1 シリンダ
2 ピストン
2a ポートたる圧側ポート
2b 伸側ポート
3,12,19 リーフバルブ
4,5 板バネ
10 リザーバ筒
11 ピストンロッド
13 フリーピストン
14 気室
15 油室
16 封止部材
17 バネ
18 仕切部材
18a,18b 仕切部材におけるポート
20 チェックバルブ
21 アウターチューブ
22 インナーチューブ
23 懸架バネ
24 ピストンホルダ
24a ピストンホルダにおける基部
24b ピストンホルダにおける軸部
24c ピストンホルダにおける縦孔
24d ピストンホルダにおける横孔
25 軸部材たる筒
26 ガイド部材
26a ガイド部材における底部
26b ガイド部材における筒部
27 反リーフバルブ側スペーサ
28 中間スペーサ
29 リーフバルブ側スペーサ
30 バルブストッパ
31 ピストンナット
32 ニードル型弁
33 環状弁座
34 コントロールロッド
D 緩衝器
F フロントフォーク
R リザーバ
R1 圧側室
R2 伸側室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内に圧側室と伸側室とを形成するとともに圧側室と伸側室とを連通するポートを備えたピストンと、ピストンの伸側室側に軸方向に移動可能に積層されてポートの出口端を開閉する環状のリーフバルブと、リーフバルブをピストン側へ向けて附勢する附勢手段とを備えた緩衝器のバルブ構造において、附勢手段が一対の板バネを有してこれら板バネの弾発力でリーフバルブを附勢してなることを特徴とする緩衝器のバルブ構造。
【請求項2】
附勢手段は、リーフバルブ側の板バネとリーフバルブとの間に介装される環状のリーフバルブ側スペーサと、板バネ間に介装されるとともにリーフバルブ側スペーサの外径より大きな内径を備えた環状の中間スペーサと、反リーフバルブ側の板バネの反リーフバルブ側面に積層されると中間スペーサの内径より小さな外径を備えた環状の反リーフバルブ側スペーサとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器のバルブ構造。
【請求項3】
ピストンの軸芯部から立ち上がる軸部材を備え、当該軸部材の外周にリーフバルブ、各板バネ、リーフバルブ側スペーサおよび反リーフバルブ側スペーサを摺動自在に装着してなることを特徴とする請求項2に記載の緩衝器のバルブ構造。
【請求項4】
中間スペーサの外径を板バネの外径以上に設定するとともに、中間スペーサの外周に摺接して中間スペーサを径方向に位置決める筒状のガイド部材を設けたことを特徴とする請求項2に記載の緩衝器のバルブ構造。

【図1】
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【図2】
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