説明

耐火性鋼製部材

【課題】 トンネル構造用部材として好適な優れた耐火性能を有する耐火性鋼製部材を提供する。
【解決手段】 中空鋼材の外表面に発泡性耐火材層を有し、該中空鋼材の内部空隙にコンクリートを充填してなることを特徴とする耐火性鋼製部材であって、好ましくは、発泡性耐火層の1200℃加熱後の体積が加熱前体積に対して2〜100倍であり、コンクリートの空気量が10%未満であって、加熱5分後の温度が1200℃になる加熱条件下で、1200℃下に55分間維持したときに、鋼材の最高温度が350℃以下である耐火性鋼製部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐火性能を有する耐火性鋼製部材に関し、詳しくは、トンネルの構造部材として用いることができる高耐火性の鋼製部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製部材は、350℃を超えると強度が低下するため、構造用部材には耐火処理が施されている。この耐火処理としては、例えば鋼製部材の表面に発泡性耐火塗料層を設けた構造(特許文献1の記載例参照)、鋼製部材表面との間に空隙を設けるように耐火ボードを取付けた構造(特許文献2の記載例参照)、水または気体の冷却用媒体を鋼製部材内または周囲に流通させて冷却する構造(特許文献3、4の記載例参照)などが知られている。
【0003】
しかし、これら従来の耐火処理した鋼製部材は、高い耐火性能が要求され、かつ部材形状や大きさの制限が厳しいトンネル用部材として用いることができず、あるいは冷却用媒体の供給機やタンク等が必要であったり、製造が困難であり、経済性が悪いなどの問題があった。特に柱の間隔や大きさ等で規制があるために、耐火性の構成部材を道路トンネル内の合流部における柱として用いることは困難であった。
【特許文献1】特許第2945849号公報
【特許文献2】特許第2691287号公報
【特許文献3】特開平3−17332号公報
【特許文献4】特公平7−113238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の耐火性鋼製部材の上記問題を解決したものであり、トンネル用構造部材として用いることができる高い耐火性能を有する鋼製部材を提供することを目的とする。詳しくは、高い耐火性能が要求され、かつ部材の形状や大きさの制限が厳しいトンネル用構造部材、特に道路トンネル内の合流部における柱材などに用いることができ、更に製造が容易で施工性に優れた高耐火性鋼製部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の耐火性鋼製部材に関する。
(1)中空鋼材の外表面に発泡性耐火材層を有し、該中空鋼材の内部空隙にコンクリートを充填してなることを特徴とする耐火性鋼製部材。
(2)発泡性耐火層の1200℃加熱後の体積が加熱前体積に対して2〜100倍である上記(1)または(2)に記載する耐火性鋼製部材。
(3)発泡性耐火材層がリン酸化合物を含む上記(1)または(2)の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
(4) 中空鋼材の内部空隙に充填されたコンクリートの空気量が10%未満である上記(1)〜(3)の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
(5)加熱5分後の温度が1200℃になる加熱条件下で、1200℃で55分間維持したときに、鋼材の最高温度が350℃以下である上記(1)〜(4)の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
(6)トンネル構造部材として用いられる上記(1)〜(5)の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の耐火性鋼製部材は、中空鋼材の外表面に設けた発泡性耐火材層と、該中空鋼材内部のコンクリート充填部分との二段階の耐火構造を有するので、外部からの加熱は外表面の発泡層によって遮断ないし抑制され、さらに鋼材内部に伝わる熱はコンクリートによって吸熱されるので、鋼製部材全体の温度上昇を大幅に抑制することができる。
【0007】
具体的には、例えば、発泡性耐火材層が100〜300℃の加熱下で発泡し、断熱するので鋼材表面の温度上昇が十分に抑制され、さらに鋼材内部には鋼材よりも格段に熱容量の大きなコンクリートが充填されているので、鋼材内部に伝わる熱はコンクリートによって吸熱され、鋼製部材全体の温度上昇が大幅に抑制される。
【0008】
従って、本発明によれば、例えば、加熱5分後の温度が1200℃になる加熱条件下で、1200℃でに55分間維持したときに、鋼材の最高温度を350℃以下に抑制した高耐火性鋼製部材を得ることができる。
【0009】
本発明の耐火性鋼製部材は、以上のような優れた耐火性を有するので、高い耐火性能が要求され、かつ部材の形状と大きさの制限が厳しいトンネル用構造部材として好適に用いることができる。さらに、本発明の耐火性鋼製部材は構造が簡単であるので製造が容易であり、かつ施工性に優れる。また、冷却用媒体の供給機やタンクなどを必要としないので実施し易い。
【0010】
本発明の耐火性鋼製部材を用いたトンネルは、構築が容易であり、施工コストが安く経済性に優れる。さらに、トンネル内で火災が発生しても高い耐火性能によって早期に復旧可能である。また、本発明の耐火性鋼製部材は、トンネル構築に用いる基本鋼材の形状・大きさと略同じに形成することができるので、意匠性の高い耐火性鋼製部材を得ることができる。特に道路トンネル内合流部の柱材として用いると、高い耐火性を有しながら、柱の大きさを小さくし、かつ柱間隔を長くすることができるので、合流部分における車両の視認性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の耐火性鋼製部材は、中空鋼材の外表面に発泡性耐火材層を有し、該中空鋼材の内部空隙にコンクリートを充填してなることを特徴とする耐火性鋼製部材であり、鋼材外表面の発泡性耐火材層と、鋼材内部のコンクリートとの二段階の耐火構造を有する。
本発明の耐火性鋼製部材は、火災時には鋼材外表面の発泡性耐火材層が加熱発泡して、火災の熱を遮断し、あるいは伝熱を抑制するので、鋼材の温度が上昇し難い。さらに、鋼材に伝わった熱は鋼材内部に充填したコンクリートによって吸収されるので、鋼材の温度上昇がさらに抑制される。
【0012】
鋼材の内部空隙にコンクリートを充填せずに、鋼材の外表面に発泡性耐火材層を設けただけでは、耐火性能が発泡性耐火材層のみに依存することになり、この発泡層の厚みを極度に厚くしないと、トンネル火災などの高温下において十分な耐火効果を得ることができない。具体的には、発泡性耐火材層だけでは、例えば、最高温度1200℃、加熱時間60分間の加熱環境下において、鋼材の温度を350℃以下に抑制するのは難しい。
【0013】
一方、鋼材の外表面に発泡性耐火材層を設けずに、鋼材の内部空隙にコンクリートを充填しただけでは、上記構造と同様に、トンネル火災などの高温下において十分な耐火効果を得ることができず、同様の加熱環境下において鋼材の温度を350℃以下に抑制するのは難しい。
【0014】
本発明の耐火性鋼製部材に用いる中空鋼材は、内部空隙を有するものであればよく、成分、形状、大きさ、および肉厚は特に限定されず、その用途に応じて適宜選定すれば良い。柱や梁には鋼管を用いることができ、床、壁、天井等には鋼管や鋼殻を用いることができる。
【0015】
鋼材外表面に設けた発泡性耐火材層は、100〜300℃の加熱下で発泡して耐火層を形成するものであれば良い。このような耐火層は例えば発泡性耐火塗料や発泡性耐火シートによって形成することができる。発泡性耐火塗料や発泡性耐火シートを用いれば鋼材外表面に発泡性耐火層を容易に形成することができる。
【0016】
上記断熱効果ないし伝熱抑制効果を有する発泡性耐火材層としては、例えば、発泡性耐火層を1200℃に加熱したときに、加熱後の体積が加熱前体積に対して2〜100倍であるものが好ましい。このような発泡性を有する耐火層であれば、発泡前の耐火材層の厚みを薄く形成することができ、かつ十分な耐火性を長時間保持できるので好ましい。なお、発泡後の体積膨張は5〜60倍がより好ましい。
【0017】
発泡後の体積膨張が2倍未満では、十分な耐火性を得るためには発泡前の耐火材層の厚みを厚くする必要があり、何重にも発泡性耐火材層を重ねて形成しなければならず、本発明の耐火性鋼製部材を製造するのに手間が掛かる。一方、発泡後の体積膨張が100倍より大きいと、発泡後の耐火材層が火炎の勢いで損傷し易くなり、耐火性を長時間保持するのが難しくなる。
【0018】
上記発泡性耐火材層の厚みは、発泡性耐火材層の発泡倍率と、求められる耐火性能等により適宜定めれば良い。一般に、1200℃に加熱されたときに加熱後の発泡倍率が2〜100倍である発泡性耐火材層は、加熱前の厚みは0.5〜10mmであれば良く、1〜6mmが好ましい。
【0019】
本発明の発泡性耐火材層はリン酸化合物を含むものが好ましい。リン酸化合物を含む層は発泡した耐火層が強固であり、火炎の勢いで損傷し難く、耐火性を長時間保持できるのでより好ましい。リン酸化合物としては、例えば、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、リン酸メラミンなどを用いることができる。
【0020】
中空鋼材の外表面に発泡性耐火材層を形成する前に、該中空鋼材の外表面に接着剤や錆止め塗料等の下地材層を形成し、この下地材層の表面に上記発泡性耐火材層を形成しても良い。また、形成した発泡性耐火材層の表面に、光反射塗料,蛍光塗料,仕上用モルタル,タイル等の仕上げ材層や、撥水材,耐光性透明塗料,防汚塗料,耐磨耗材,防水材などの保護材層を形成しても良い。これらの下地材層、仕上げ材層及び保護材層は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選定することができる。
【0021】
本発明の耐火性鋼製部材は、鋼材の内部空間にコンクリートが充填されている。このコンクリートは空気量が10%未満、好ましくは7%以下であるものが良い。コンクリート中の空気量が10%未満であると、火災時に鋼材から伝わる熱がコンクリート内部に伝わり易く、コンクリートの吸熱効果を高めることができる。なお、空気量が多いコンクリートは断熱性が高いので鋼材から伝わる熱の吸収効果を高めるには適さない。
【0022】
また、上記コンクリートはスランプフローが35cm以上、特に50cm以上であるものが好ましい。スランプフローが上記範囲のものは流動性が良いので中空鋼材の内部空隙に充填しやすく、密実なコンクリートを形成できるので、火災時に鋼材から伝わる熱がコンクリート内部に伝わり易く、吸熱効果を高めることができる。なお、コンクリートの空気量は規格(JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法(空気室圧力方法)」)に従って測定され、コンクリートのスランプフローは規格(JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」)に従って測定される。
【0023】
上記コンクリートには、セメント、骨材および水などの一般的な配合材料を用いることができる。必要に応じて更にモルタルやコンクリートで使用可能な混和材料を添加しても良い。使用するセメントとしては、例えば、普通,早強,中庸熱,低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント等の混合セメント、或いは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等の廃棄物を原料として利用したエコセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、混和材料としては、例えば、高性能減水剤,高性能AE減水剤,AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、シリカフューム等のポゾラン、高炉スラグ等の潜在水硬性物質、石粉、樹脂エマルション、膨張材、起泡剤、発泡剤、防錆剤、顔料、繊維、撥水剤、防水材、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、吸熱物質、収縮低減剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる。
【0024】
本発明で使用するコンクリートが膨張材および/または発泡剤を混和材料として含有し、また無収縮コンクリートであると、硬化後のコンクリートと鋼材が密着するので、火災時に外部の熱が内部のコンクリートに伝わり易く、コンクリートがこの熱を吸収するので鋼材の温度上昇を抑制し易いので好ましい。なお、無収縮コンクリートとは、コンクリート中のモルタル分、すなわち、未だ固まる前のコンクリートを目開き5mmの篩で篩い分けたときの篩を通過する成分を用い、規格(JSCE-F 542-1999「充填モルタルのブリーディング率および膨脹率試験方法」)に従って測定した膨脹率が0〜30%のコンクリートである。
【0025】
中空鋼材の内部空隙にコンクリートを充填する方法や時期は特に限定されない。なお、本発明の耐火性鋼製部材では、中空鋼材の内部空隙側にリブ等の突起を設けてコンクリートを充填すれば、鋼材とコンクリートが密着して伝熱性が良くなるので、コンクリートによる吸熱効果を高めるうえで好ましい。一方、鋼材外表面に耐火材層を設けずに鋼材内部にコンクリートを充填したものは、鋼材外表面が直接に火災に曝されるので鋼材の温度上昇が著しく、鋼材内部にリブ等を設けると、鋼材の大きな熱膨張や冷却時の収縮歪みがコンクリートに作用してコンクリートが破壊されやすくなるので好ましくない。
【0026】
本発明の耐火性鋼製部材は、上記構造を有するので、例えば、加熱5分後の温度が1200℃になる加熱条件下で、1200℃で55分間維持したときに、鋼材の最高温度を350℃以下に抑制した耐火性鋼製部材を得ることができる。また、本発明の耐火性鋼製部材は以上のような優れた耐火性を有するので、トンネル構造部材として好適である。本発明の高耐火性鋼製部材を用いて構築したトンネルは、本発明の高耐火性鋼製部材が最高温度1200℃の耐火試験にも耐え得るので、トンネル内で火災が発生してもトンネルの形状および機能を維持することができる。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。なお、空気量は規格(JIS A 1128)に従って測定した値、モルタル分の膨脹率は規格(JSCE-F 542-1999「充填モルタルのブリーディング率および膨脹率試験方法」)に従って測定した値、スランプフローは規格(JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」)に従って測定した値、コンクリート用混和材は太平洋マテリアル株式会社製品(商品名:太平洋フィラミック)である。
【0028】
〔使用材料〕
コンクリート:空気量5.0%、コンクリート中のモルタル分の膨脹率0.1%、石灰系膨脹材を含有する高充填コンクリート用混和材22kg/m3配合、スランプフロー50cm。
発泡性耐火材:リン酸化合物含有発泡性耐火塗料、1200℃加熱後の発泡倍率28倍。
【0029】
〔試験方法〕
耐火試験: 試験体の仕上材の表面に火炎をあてて最高温度1200℃に加熱して耐火試験を行った。このときの加熱はRABT曲線から設定し、加熱5分後に1200℃になるように昇温し、55分間1200℃を維持した後、110分間かけて室温まで冷却した。このときの鋼管の最高温度が350℃以下であるものを合格と判断した。
【0030】
〔実施例1〕
中空鋼材として外形300mm角、肉厚19mm、長さ800mmの断面略正方形の角型鋼管を用い、鋼管の内部空隙にコンクリートを充填した。コンクリート充填14日後の鋼管の外表面に、発泡性耐火材を2回塗布して乾燥させ、鋼管の外表面に厚さ約6mmの発泡性耐火材層を形成した。この発泡性耐火材層の外表面に、仕上げ材を塗布して乾燥させ、更に保護材を塗布して乾燥させて、試験体を作製した。この試験体を耐火試験に供した。耐火試験による鋼管の最高温度は350℃以下であり、耐火基準に合格した。
【0031】
〔比較例1〕
鋼管の内部空隙にコンクリートを充填しない以外は実施例1と同様にして試験体を作製した。この試験体を実施例1と同じ耐火試験に供したところ、鋼管の最高温度は350℃を超え、不合格であった。
【0032】
〔比較例2〕
鋼管の外表面に発泡性耐火材層を形成しない以外は実施例1と同様にして試験体を作製した。この試験体を実施例1と同じ耐火試験に供したところ、鋼管の最高温度は350℃を超え、不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空鋼材の外表面に発泡性耐火材層を有し、該中空鋼材の内部空隙にコンクリートを充填してなることを特徴とする耐火性鋼製部材。
【請求項2】
発泡性耐火層の1200℃加熱後の体積が加熱前体積に対して2〜100倍である請求項1または2に記載する耐火性鋼製部材。
【請求項3】
発泡性耐火材層がリン酸化合物を含む請求項1または2の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
【請求項4】
中空鋼材の内部空隙に充填されたコンクリートの空気量が10%未満である請求項1〜3の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
【請求項5】
加熱5分後の温度が1200℃になる加熱条件下で、1200℃で55分間維持したときに、鋼材の最高温度が350℃以下である請求項1〜4の何れかに記載する耐火性鋼製部材。
【請求項6】
トンネル構造部材として用いられる請求項1〜5の何れかに記載する耐火性鋼製部材。

【公開番号】特開2007−9496(P2007−9496A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190622(P2005−190622)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】