説明

耐熱制振性エラストマー組成物

【課題】本発明は、ブチルゴムに匹敵する耐熱性と制振性とを有するエラストマー組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】1,2−ビニル結合量が50質量%以上の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕100質量部、または、前記スチレン系エラストマー〔I〕と1,2−ビニル結合量が50質量%未満の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕とが混合されたエラストマー混合物100質量部に、アスペクト比のLower値が0.5未満の充填剤と、ゴム用軟化剤、ポリフェニレンエーテル、並びに、ポリプロピレンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、制振性に富むエラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、家電製品等に使用される防振ゴムとしては、主としてブチルゴムが使用されている。該ブチルゴムは、tanδ(25℃、30Hz)0.3以上の優れた制振性と、CS(70℃×24時間)30%未満の優れた耐熱性とを併せ持つ。
【0003】
これに対し、最近、高価なブチルゴムに代えて、安価なスチレン系エラストマーを主体とした組成物の使用が検討されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3184783号公報
【特許文献2】特開2006−225581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記スチレン系エラストマーを主体とした組成物は、制振性には優れているが、耐熱性が悪く、またべたつきが強く、実用性に乏しい。このため、ブチルゴムの代替品とはなりにくいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するための手段として、スチレン系重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万、スチレン系単量体含有量が20質量%以上、1,2−ビニル結合量が50質量%以上の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕100質量部、または、前記スチレン系エラストマー〔I〕、及び、スチレン系重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万、スチレン系単量体含有量が20質量%以上、1,2−ビニル結合量が50質量%未満の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕が95:5〜50:50質量比で混合されたエラストマー混合物100質量部、フロー式粒子分析装置で測定したアスペクト比のLower値が0.5未満の充填剤50〜600質量部、動粘度が40℃において100センチストークス以上であるゴム用軟化剤100〜500質量部、ポリフェニレンエーテル20〜100質量部、並びに、ポリプロピレン1〜220質量部からなることを特徴とする耐熱制振性エラストマー組成物を提供するものである。
前記エラストマー組成物には、更に粘着付与剤10〜160質量部を添加したものが望ましい。
さらに、前記粘着付与剤は、融点100℃以上の水添石油樹脂であるものが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
水添熱可塑性エラストマー〔I〕にあっては、スチレン系単量体含有を20質量%以上として、組成物の耐熱性を確保し、また重量平均分子量を15万〜50万の範囲として、ブロッキングを阻止し、かつ圧縮永久歪みを抑制しつつ成形性を確保する。また、1,2−ビニル結合量を50質量%以上として、エラストマー分子鎖に枝分かれを多くし、組成物に振動が付与された場合に、分子同士の衝突の確率を高め、振動エネルギーを効率良く熱エネルギーに変換する。
水添熱可塑性エラストマー〔II〕にあっては、1,2−ビニル結合量を50質量%未満として、組成物にべたつきが発生しないようにする。
なお、前記エラストマー混合物にあっては、前記スチレン系エラストマー〔I〕、及び、前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕が、95:5〜50:50質量比の割合で混合される。前記スチレン系エラストマー〔I〕の比率が前記割合より小さいと、組成物に付与された振動エネルギーの熱エネルギーへの変換効率が悪くなり、また、前記水添熱可塑性エラストマー〔II〕の比率が前記割合より小さいと、得られる組成物にべたつきが生じるおそれがある。
本発明の組成物において使用される充填剤として、フロー式粒子分析装置で測定したアスペクト比のLower値が0.5未満のものを使用して、組成物に振動が及ぼされた場合に分子同士が衝突する確率を高め、振動エネルギーを効率良く熱エネルギーに変換する。
本発明で使用するゴム用軟化剤は、組成物にクッション性を付与して振動吸収効果を高める。
前記水添熱可塑性エラストマー〔I〕,〔II〕は、該エラストマー分子に含まれるスチレン系重合体ブロック相互の親和力によって分子相互が会合して弾性を発揮するが、該組成物にポリフェニレンエーテル(PPE)を添加すると、PPE中に含まれる芳香族の仲介によって、前記エラストマー分子の会合が補強され、該エラストマー組成物の耐熱性が向上する。
さらに、前記粘着付与剤を添加すると、該エラストマー組成物の粘性が強化し、得られる組成物のtanδ(損失正接)と温度との関係曲線のピークが高くなる。このような高いピークのtanδを有するエラストマー組成物は、振動エネルギーを吸収して、より良い制振性を備える。
ここで、前記粘着付与剤は、融点100℃以上の水添石油樹脂が好ましい。前記水添石油樹脂のtanδは、前記水添熱可塑性スチレン系エラストマーのtanδに比べ、ピークが高い温度にある。そのために、前記水添石油樹脂を前記水添熱可塑性スチレン系エラストマーに添加することによって、tanδのピークが常温側にシフトするから、常温における制振性が向上する。なお、前記水添石油樹脂の溶解性パラメーター(SP値)は、熱可塑性樹脂に近く、例えば、該水添石油樹脂のSP値は8.3、熱可塑性スチレン系エラストマーのSP値は8.2〜8.5であり、相溶性に優れる。また、該水添石油樹脂は、水添された脂環族系石油樹脂であるので、耐熱性、耐候性に優れている。
本発明の組成物に使用するゴム用軟化剤の動粘度は、40℃において100センチストークス以上であることが好ましい。このようなゴム用軟化剤は、組成物全体のクッション性を改良し、振動吸収効率を高める。一方、それ以下の動粘度のゴム用軟化剤を使用すると、組成物の反発弾性が強くなり、制振性が悪化する。さらに、前記エラストマー組成物を成形する際に、著しくガスが発生することとなり、組成物の表面性が劣化するおそれがある。
【0008】
〔効果〕
本発明のエラストマー組成物は、ブチルゴムと同等な制振性を有し(すなわちtanδ(25℃、30Hz)が0.3以上)、しかも耐熱性に優れている(すなわちCS(70℃×24時間)が30%未満)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕〕
本発明に使用する水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕(以下、水添熱可塑性エラストマー〔I〕、又はスチレン系エラストマー〔I〕、又はエラストマー〔I〕
とも記載する。)とは、スチレン系重合体ブロック(S)と、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなるものであって、前記共役ジエン化合物重合体ブロック(B)は、一部または全部が水素添加されている。
前記スチレン系重合体ブロック(S)とは、例えばスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t(ターシャリー)−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等のスチレン系単量体の重合体ブロックである。
前記共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とは、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン系化合物の重合体ブロックである。
本発明が使用する前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕としては、例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム(SIR)、スチレン−エチレン共重合体、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)(α−MeSBα−MeS)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、スチレン−クロロプレンゴム(SCR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体等が例示される。
【0010】
本発明の組成物に耐熱性を付与するためには、前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕の重量平均分子量(Mw)は15万以上50万以下であることが望ましい。ただし、50万より大きいと組成物の成形性が悪くなる。更に望ましい重量平均分子量(Mw)の範囲は24万〜45万である。重量平均分子量(Mw)が15万未満のものを使用すると、組成物のペレットが乾燥時にブロッキングしてしまったり、70℃における圧縮永久歪が大きくなる。
【0011】
本発明の組成物の耐熱性をより向上させるためには、更に前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕のスチレン系単量体含有量が20質量%以上のものを選択する。前記スチレン系単量体含有量の更に望ましい範囲は20〜40質量%である。
【0012】
前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕の重量平均分子量(Mw)は、下記するゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)により、下記の条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
〔GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法によるポリスチレン換算分子量測定〕
測定条件
a)測定機器:SIC Autosampler Model09
Sugai U―620 COLUMN HEATER
TYPE 30VP
Uniflows UF−3005S2B2
b)検出器:MILLIPORE Waters410
Differential Refractometer
c)カラム:Shodex KF806M×2本
d)オーブン温度:40℃
e)溶解液:THF 1.0ml/min
f)標準試料:ポリスチレン
g)注入量:100μl
h)濃度:0.020g/10ml
i)試料調製:2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール(BHT)を0.2重量%添加したTHFを溶媒とし、室温で攪拌して溶解させた。
j)補正:BHTのピークが検量線測定時と試料測定時と全て0.03333分ずれていたので、それを補正して分子量計算を行った。
【0013】
前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕は、スチレン系重合体ブロック(S)が少なくとも2個、共役ジエン化合物重合体ブロック(B)が少なくとも1個で構成されたブロック共重合体であって、前記共役ジエン化合物重合体ブロック(B)の1,2−ビニル結合量が50質量%以上のものが使用される。更に望ましくは1,2−ビニル結合量が50〜80質量%の範囲のものが使用される。
【0014】
このような水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕は、エラストマー分子鎖に枝分かれが多く、嵩高い構造を有している。このため、本発明の組成物に振動エネルギーが及ぼされた際、分子同士が衝突する確率が高くなり、振動エネルギーが熱エネルギーに効率良く変換され、本発明の組成物に良好な制振性を与える。
【0015】
〔水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕〕
熱可塑性エラストマーの特異な性質は、軟らかいゴム成分からなるソフトセグメント(軟質相)と硬い樹脂成分からなるハードセグメント(硬質相)に分離している構造に由来する。そして、後述するゴム用軟化剤は、前記ソフトセグメント部分に保持されるのであり、さらには該ソフトセグメント部分の長さに応じて保持される。
前記水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕は、1,2−ビニル結合量が50質量%以上であるので、該水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕のみを使用すると、枝分かれの多い分子鎖ではソフトセグメント部分の長さが短くなり、このためゴム用軟化剤が保持されにくくなり、組成物にべたつきが生じる可能性がある。そこで、本発明の組成物では、1,2−ビニル結合量が50質量%未満の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕を使用することが好ましい。該水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕は、枝分かれの少ない長い分子鎖を有するので、ソフトセグメント部分の長さが長くなり、ゴム用軟化剤が保持されやすい。これまでに述べたような水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕と水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕との併用により、制振性とべたつきの改善が向上する。
なお、水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕と水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕との混合比率は、95:5〜50:50質量比とする。
【0016】
〔充填剤〕
本発明の組成物には、充填剤が添加される。前記充填剤としては、フロー式粒子分析装置(例えば、FPIA−3000/FPIA−3000S)で測定したアスペクト比のLower値が0.5未満のものとする。ここで、アスペクト比のLower値とは、アスペクト比の累積10%のデータをいい、最小粒径/最大粒径と考える。なお、フロー式粒子分析装置でアスペクト比を測定する場合、充填剤粒子の形状を種々の方向から画像に取った最大粒径と最大垂直長とからアスペクト比の平均値を算出するが、このようにして算出された平均値では各種粒子形状の充填剤について、アスペクト比に差がみられない。
本発明の充填剤としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、珪藻土、ドロマイト、石膏、焼成クレー、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、ベントナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等が例示される。前記充填剤は、二種以上用いられてもよい。
【0017】
〔ゴム用軟化剤〕
本発明で使用するゴム用軟化剤としては、従来から使用されている公知のものが使用でき、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アスファルト系オイル等の鉱物油系軟化剤、脂肪油系、松根油系、トールオイル、ファクチス等の植物油系軟化剤、タール類、クマロンインデン樹脂等のコールタール系軟化剤、フェノール樹脂低縮合物、低融点スチレン樹脂、ポリブテン、ターシャリィブチルフェノールアセチレン縮合物等の液状もしくは低分子量合成樹脂等が用いられる。
JIS K2283に準拠した方法によって測定された前記ゴム用軟化剤の動粘度は、40℃において100センチストークス(cSt)以上であることが望ましい。このような高粘度軟化剤は、本発明の組成物に高度なクッション性を与えるため、優れた振動吸収性を付与する。
軟化剤の動粘度が、40℃において100センチストークス未満である場合には、組成物の反発弾性が大きくなり、制振性が悪化する。
【0018】
〔ポリフェニレンエーテル(PPE)〕
本発明の組成物には、PPEを添加することが望ましい。本発明に使用するPPEはポリスチレン系樹脂をアロイ化したものでもよいし、スチレン系単量体をグラフト重合した変性PPEであってもよい。
【0019】
〔粘着付与剤〕
本発明の組成物には、tanδを高め、振動エネルギーの損失を増大させて振動を吸収するための材料として、粘着付与剤を添加することが望ましい。このような粘着付与剤としては、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ロジン、エステルガム、石油樹脂、水添石油樹脂等が例示されるが、望ましい粘着付与剤としては、融点100℃以上の水添石油樹脂がある。前記したように、該水添石油樹脂は、SP値が8.3であり、スチレン系エラストマーのSP値8.2〜8.5に近く、本組成物中に良好に相溶して、70℃での圧縮永久歪みを悪化させることなく、tanδを効果的に高める。さらに水添石油樹脂は、耐熱性、耐候性に優れているため、本組成物のtanδのピークが常温側にシフトし、使用温度(常温)における制振性が向上する。
ここに、周期的応力が組成物に与えられた場合の複素弾性率Eは、
=E+τE
(E:貯蔵弾性率、E:損失弾性率)
とし、
tanδ=E/E
である。
なお、一周期あたりのエネルギー損失ΔEは、Eに比例する。
【0020】
〔ポリプロピレン〕
本発明に用いられるポリプロピレン(PP)は、組成物の硬度調節のために添加される。該PPとしては、従来から使用されている公知のものが使用でき、例えば、プロピレン単独重合体(ホモPP)、プロピレン−エチレン共重合体(ランダムPP、ブロックPP)、PPにポリエチレンやエチレン−プロピレン共重合体を添加した変性PP等が含有される。Tgが室温付近に近いこと、耐熱性が良好なことからホモPPが最も好ましい。
また、機械特性を調整する際に、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等)、ポリ−1−ブテン、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体などを用いることができる。
【0021】
〔配合〕
本発明にあっては、水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕100質量部に対して、前記充填剤は、50〜600質量部添加される。または、前記スチレン系エラストマー〔I〕と水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕の混合物100質量部に対して、前記充填剤が、50〜600質量部添加される。該充填剤の添加量が50質量部未満の場合には、本発明の組成物の制振性を向上させる効果がなく、また600質量部を超えると、70℃の圧縮永久歪みが大きくなり、かつ本発明の組成物の溶融物の流動性が低下し成形性を悪化させる。
【0022】
さらに本発明にあっては、前記エラストマー〔I〕100質量部、又は前記エラストマー混合物100質量部に対して、前記ゴム用軟化剤は100〜500質量部添加される。該ゴム用軟化剤の添加量が100質量部未満の場合は、制振性及び70℃の圧縮永久歪みが悪化し、500質量部を超えた場合は、本発明の組成物のべたつきが顕著になり、実用化できなくなる。
【0023】
また、前記エラストマー〔I〕100質量部、又は前記エラストマー混合物100質量部に対して、前記PPEは、20〜100質量部添加される。該PPEの添加量が20質量部未満の場合には、本発明の組成物の70℃の圧縮永久歪みを改良する効果がなくなる。一方、100質量部を超えた場合には、制振性や70℃の圧縮永久歪みを改良する効果は飽和し、これ以上の効果向上は見られず、本発明の組成物の価格を上げるのみという結果になる。
【0024】
また、前記エラストマー〔I〕100質量部、又は前記エラストマー混合物100質量部に対して、前記PPは、1〜220質量部、好ましくは4〜200質量部添加される。
【0025】
本発明の組成物に粘着付与剤を添加する場合には、前記エラストマー〔I〕、又は前記エラストマー混合物100質量部に対して、前記粘着付与剤は10〜160質量部、好ましくは20〜120質量部添加される。該粘着付与剤の添加量が10質量部未満の場合は、本発明の組成物に対する制振性改良効果がほとんどなく、160質量部を超えた場合は、該組成物の70℃での圧縮永久歪みが悪化し、かつべたつきが多くなり、実用性がなくなる。
【0026】
本発明の組成物は、通常前記ゴム用軟化剤以外の材料を前記比率でドライブレンドし、これにゴム用軟化剤を含浸させて混合物とし、該混合物を押出機で溶融混合して紐状に押出し、ペレタイザー等で切断してペレットを製造する。
【0027】
以下に、本発明を更に具体的に説明するための実施例および比較例を記載する。
〔材料〕
下記の材料を使用した。
1.水添熱可塑性スチレン系エラストマー
1)SEBS(エラストマー〔I〕)
G1641(商品名、クレイトンポリマージャパン((株))製)
スチレン含有量32質量%、重量平均分子量20.9万、数平均分子量19.9万、1,2−ビニル結合量67%
2)SEBS(エラストマー〔I〕)
G1642(商品名、クレイトンポリマージャパン((株))製)
スチレン含有量22質量%、重量平均分子量13.5万、数平均分子量12.7万、1,2−ビニル結合量65%
3)SEBS(エラストマー〔II〕)
G1651(商品名、クレイトンポリマージャパン((株))製)
スチレン含有量33質量%、重量平均分子量24.7万、数平均分子量23万、1,2−ビニル結合量37%
4)SEBS(エラストマー〔II〕)
G1650(商品名、クレイトンポリマージャパン((株))製)
スチレン含有量29質量%、重量平均分子量10.9万、数平均分子量10.3万、1,2−ビニル結合量37%
2.ゴム用軟化剤
1)パラフィンオイル
PW380(商品名、出光興産(株)製))
動粘度(40℃)383.4cSt
2)パラフィンオイル
NTK400(商品名、日本サン石油製)
動粘度(40℃)75〜90cSt
3)PPE
ノリルPPO640(商品名、SABIC製)
4)PP
5)PWH00N(商品名、サンアロマー製)
ホモPP、MFR500g/10min以上
6)PX600A(商品名、サンアロマー製)
ホモPP、曲げ弾性率1600MPa、MFR7.5g/10min以上
3.充填剤
1)タルク
タルカンハヤシ(商品名、林化成製)
平均粒径11μm、アスペクト比(Lower値)0.47
2)重質炭酸カルシウム
スーパー3S(商品名、丸尾カルシウム製)
平均粒径1.8μm、アスペクト比(Lower値)0.60
3)マイカ
斐川マイカZ20(商品名、斐川礦業製)
平均粒径20μm、厚さ0.01〜0.1μm、アスペクト比(Lower値)0.47
【0028】
実施例1〜12の配合は表1〜3に、比較例1〜13の配合は表4〜7に示した。
【0029】
〔熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の製造条件〕
パラフィンオイル以外の材料をドライブレンドし、これにパラフィンオイルを含浸させて混合物を作製する。その後、混合物を下記の条件で押出機により溶融混練して、熱可塑性組成物のペレットを製造する。
押出機・・・KZW32TW−60MG−NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度・・・250〜300℃
スクリュー回転数・・・300rpm
【0030】
〔熱可塑性エラストマー組成物の成形条件〕
射出成形機・・・100MSIII−10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度・・・170℃
射出圧力・・・30%
射出時間・・・10秒
金型温度・・・40℃
前記条件で厚さ2mm、幅125mm、長さ125mmのプレートを作製した。
【0031】
〔評価方法〕
(1)硬さ測定
硬さ測定は、厚さ6mmの試験片を用い、JIS K 6253Aに準拠して行った。
(2)制振性tanδ(25℃、30Hz)
測定機:ARES−RDS(ティー・エイ・インスツルメント製)
昇温速度:10℃/min
振動周波数:30Hz
試験片:パラレルプレート(肉厚2mm、直径21mm)
試験温度:−50℃〜80℃まで前記昇温速度で測定を行い、25℃の値を算出。
(3)圧縮永久歪み(70℃)
JIS K 6252に準拠して行った。
(4)べたつき
触感にて判断した。
◎:全くべたつきがない
○:ほとんどべたつきがない
△:若干のべたつき
×:顕著なべたつき
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
【表7】

【0039】
実施例1の試料は、水添石油樹脂を添加していない試料、実施例4の試料は、実施例1の試料に水添石油樹脂を添加した試料である。いずれもtanδ(25℃、30Hz)0.3以上、圧縮永久歪み(CS、70℃)30%未満、べたつき○以上を達成している。実施例1と実施例4とを比較すると、実施例1のtanδは0.35であり、実施例4のtanδは0.46であり、水添石油樹脂による制振性の向上効果がみられる。
【0040】
実施例2,3も水添石油樹脂が添加されていない試料であるが、実施例1よりもパラフィンオイルの配合量を少なくし、PPO,PPの配合量を多くして硬度を高くした試料である。いずれの試料もtanδ(25℃、30Hz)0.3以上、CS(70℃)30%未満、べたつき◎として評価されている。
【0041】
実施例5の試料は、1,2−ビニル結合量50質量%未満の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕を使用した試料であり、スチレン系エラストマー〔I〕単独使用の実施例1〜4に比べると、べたつき、CSにおいて改善が見られる。
【0042】
実施例6の試料は、実施例5の試料に水添石油樹脂を添加した試料であり、実施例5の試料と比べると、tanδが大幅に高くなっていることが認められる。
【0043】
実施例7の試料は、実施例3の試料において、エラストマー〔I〕〔II〕を使用したものであり、tanδ、CSに顕著な改善が見られる。
【0044】
実施例8の試料は、実施例7の試料のタルクをマイカに変更した試料であり、tanδが実施例7の試料よりやや高くなっている。
【0045】
実施例9は、PPを200質量部配合した試料であるが、実施例7と比べると硬度HsAが大幅に高くなっている。
【0046】
実施例10は、充填剤(タルク)の添加量を抑えた試料であるが、べたつきにおいて若干低い評価(○)となっている。
【0047】
実施例11は、エラストマー混合物中のエラストマー〔II〕の配合比率を60:40質量比とした試料であるが、実施例7(エラストマー〔I〕:エラストマー〔II〕=85:15質量比)と比べると、硬度HsAが高くなっている。
【0048】
実施例12は、水添石油樹脂を120質量部配合した試料であるが、実施例7の試料と比べると、べたつきにおいて若干低い評価(○)となっている。
【0049】
比較例1の試料は、スチレン系エラストマー〔I〕として、重量平均分子量Mw15万以下(13.5万)のG1642を使用した試料であり、実施例7の試料と比べるとCS(70℃×24時間)30%未満が達成されず(70)、べたつきも著しい。
【0050】
比較例2の試料は、スチレン系エラストマー〔II〕(1,2−ビニル結合量50%未満)単独使用の試料であり、実施例7の試料と比べると、tanδが非常に低く、制振性が悪い。
【0051】
比較例3の試料は、パラフィンオイルの配合量が上限(500質量部)を超えた量(600質量部)で配合されている試料であり、硬度が低く、べたつきが著しい。
【0052】
比較例4の試料は、パラフィンオイルの配合量が下限(100質量部)以下の量(80質量部)で配合されている試料であり、tanδ、CSが合格値に達していない。
【0053】
比較例5の試料は、パラフィンオイルの動粘度が40℃100cStに達しない(75〜90cSt)NTK400を使用した試料であり、CSが30%を超えている(36)。
【0054】
比較例6の試料は、PPEの添加量が20質量部以下(10質量部)の試料であり、CS30未満が達成されない。
【0055】
比較例7の試料は、PPが220質量部を越えた量で配合されている試料であり、tan δ0.3以上、CS30%未満が達成されない。
【0056】
比較例8の試料は、充填剤600質量部を越えた量(700質量部)で配合された試料であり、CS30%未満が達成されない。
【0057】
比較例9の試料は、充填剤が50質量部未満の量(30質量部)で配合された試料であり、tanδ0.3以上が達成されず、また若干べたつきがある。
【0058】
比較例10の試料は、充填剤のアスペクト比(Lower値)が0.5よりも大きいスーパー3S(0.6)を使用した試料であり、tanδ0.3以上が達成されない。
【0059】
比較例11の試料は、スチレン系エラストマー〔II〕の重量平均分子量が15万未満のクレイトンG1650(Mw10.9万)を使用した試料であり、tanδ、CS共に合格値に達せず、べたつきがある。
【0060】
比較例12の試料は、エラストマー混合物中のスチレン系エラストマー〔II〕の比率が50:50質量比より多い(40:60質量比)混合物を使用した試料であり、tan δ0.3以上が達成されない。
【0061】
比較例13の試料は、水添石油樹脂の添加量が160質量部を超える量(190質量部)の試料であり、CS39%未満が達成されず、またべたつきも著しい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の耐熱制振性エラストマーはブチルゴムに匹敵するあるいはそれ以上の耐熱性、制振性を有するから、家電製品等に使用される防振ゴムとして有用であるから、産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万、スチレン系単量体含有量が20質量%以上、1,2−ビニル結合量が50質量%以上の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔I〕100質量部、
または、前記スチレン系エラストマー〔I〕、及び、スチレン系重合体ブロック(S)と共役ジエン化合物重合体ブロック(B)とからなる水素添加されたブロック共重合体であって、重量平均分子量が15万〜50万、スチレン系単量体含有量が20質量%以上、1,2−ビニル結合量が50質量%未満の水添熱可塑性スチレン系エラストマー〔II〕が95:5〜50:50質量比で混合されたエラストマー混合物100質量部、
フロー式粒子分析装置で測定したアスペクト比のLower値が0.5未満の充填剤50〜600質量部、
動粘度が40℃において100センチストークス以上であるゴム用軟化剤100〜500質量部、
ポリフェニレンエーテル20〜100質量部、
並びに、ポリプロピレン1〜220質量部
からなることを特徴とする耐熱制振性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記エラストマー組成物に、更に粘着付与剤10〜160質量部を添加した請求項1又は請求項1記載の耐熱制振性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記粘着付与剤は、融点100℃以上の水添石油樹脂である請求項2記載の耐熱制振性エラストマー組成物。


【公開番号】特開2010−24275(P2010−24275A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184487(P2008−184487)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】