説明

脱硝装置及び脱硝触媒

【課題】SO酸化率を増加させることなく、脱硝性能の向上とリークNHの低減を図ることが可能な脱硝装置を提供する。
【解決手段】チタン(Ti)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)、もしくはチタン(Ti)、バナジウム(V)及びタグステン(W)を主成分とする脱硝触媒15が設置され、アンモニア注入ライン13からアンモニアが注入された排ガス12を脱硝触媒15に通すことにより、排ガス12中の窒素酸化物を取り除く脱硝装置14であって、脱硝触媒15の後流部に、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる脱硝触媒19、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる脱硝触媒19が増設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚きボイラからの排ガスを浄化する脱硝触媒が経時的に劣化しても、脱硝反応に利用されなかった未反応アンモニア(以下、リークNHという)の上昇を防ぐことが可能な脱硝装置及び脱硝触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、石炭焚きボイラから排出される排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝システムの概略構成は図4のようになっている。すなわち、石炭焚きボイラ11から排出される排ガス12にアンモニア注入ライン13からアンモニアが注入され、その後、当該排ガス12は反応器(脱硝装置)14に取り込まれる。反応器14には、その内部に脱硝触媒15が設置され、排ガス12中の窒素酸化物とアンモニアとを脱硝触媒15の触媒作用によって化学反応させる。これにより、排ガス12中の窒素酸化物が取り除かれる。
【0003】
窒素酸化物が取り除かれた排ガス12は熱交換器16に送られて、この熱交換器16で熱交換(つまり冷却)された後、集塵機17に送られて塵埃が取り除かれる。そして最後に、排ガス12は煙突18から大気中に放出される。
【0004】
酸化チタンを主成分とするアンモニア還元法脱硝触媒は、活性が高くかつ耐久性に優れているので、開発されて以来、国内外でボイラなどの排煙処理に広く用いられ、脱硝触媒の主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
近年、エネルギ需要が急増し、硫黄分の高い石炭(高S炭)やPRB(Powder River Bosin)炭、もしくはバイオマスなど種々の燃料が用いられるようになり、それに伴って、排煙脱硝触媒の劣化も多様になっている。その代表的なものは、高S炭で起こる砒素化合物による劣化、PRB炭焚き排ガスで起こり易いリン化合物による劣化、バイオマス燃焼排ガスで起こるカリ化合物による劣化などが挙げられる。これらは何れも蓄積性の触媒毒による劣化であり、触媒中に蓄積して大きな脱硝性能の低下を短期間に引き起こすことが知られている。
【0006】
このように、蓄積性の触媒毒により脱硝触媒が劣化すると、未反応のリークNHが増大し、そのリークNHが排ガス中の三酸化イオウ(SO)と反応し、その結果、酸性硫安が析出してA/H(熱交換器)が閉塞するなどの問題があった。
【0007】
従来の技術では、このような問題を防止するために、充填された脱硝触媒と同じ仕様の脱硝触媒を排ガスの流れ方向に増設することで、脱硝性能を向上させ、リークNHの低減を図っている。
【0008】
また、チタン(Ti)及びケイ素(Si)を含有する複合酸化物、チタン(Ti)及びジルコニウム(Zr)を含有する複合酸化物、チタン(Ti)、ケイ素(Si)及びジルコニウム(Zr)を含有する複合酸化物の少なくとも一種の複合酸化物である触媒A成分と、バナジウム(V)、タングステン(W)及びモリブデン(Mo)の少なくとも一種の金属の酸化物である触媒B成分と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Ph)、ルテニウム(Ru)及びイリジウム(Ir)の少なくとも一種の貴金属又はその化合物である触媒C成分とを含有するアンモニア分解用の触媒が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−128681号公報
【特許文献2】特開平7−289897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術ではいずれのものも、リークNHを確かに減少させることはできるが、二酸化イオウ酸化率(以下、SO酸化率という)の増加を招き、SOによる白煙の発生や脱硝装置後段のA/H(熱交換器)が酸性腐食等する恐れがある。
【0011】
本発明の課題は、SO酸化率を増加させることなく、脱硝性能の向上とリークNHの低減を図ることが可能な脱硝装置及び脱硝触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、チタン(Ti)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)、もしくはチタン(Ti)、バナジウム(V)及びタグステン(W)を主成分とする触媒が設置され、アンモニアが注入された排ガスを前記触媒に通すことにより、排ガス中の窒素酸化物を取り除く脱硝装置であって、既設の触媒の後流部に、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒を増設させてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明においては、この増設された触媒は、排ガス中に注入されたアンモニアのうち未反応のリークアンモニアが増大した場合、既設の触媒の一部を、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒組成、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒組成で置き換えることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の脱硝触媒は、酸化チタンに対しモリブデンとして1atom%を超えて10atom%以下のモリブデン酸アンモニウムもしくは三酸化モリブデン、及びHPOとして酸化チタンに対し0wt%を超えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩を、水の存在下で混練、乾燥、焼成して得られたことを特徴とする。
【0015】
酸化チタンおよびバナジウムを主成分とする触媒は、実機運転中に排ガス由来もしくは燃焼灰由来の被毒成分の吸着により、触媒のアンモニア吸着量が減少し、その結果、リークNHが増え脱硝反応器系外に排出される。このリークNHとSOが反応すると酸性硫安となり、脱硝装置後段のA/H(熱交換器)の閉塞を招く恐れがある。
【0016】
従来技術において、酸化チタン、バナジウム及びモリブデン、もしくは酸化チタン、バナジウム及びタングステンを主成分とする脱硝触媒を増設した場合では、リークNHは増設した脱硝触媒上でNOxとの脱硝反応により消費されるが((1)式)、同時にSOの酸化反応((2)式)も進行するため、白煙の発生あるいは酸性腐食などの新たな問題を抱えることとなる。
NH + NO + 1/4O→ N + 3/2HO ・・・・・(1)
SO + 1/2O→ SO ・・・・・・(2)
【0017】
また、(2)式のSO酸化反応は、触媒中のV成分により進行していることが分かっており、SO酸化活性を増加させずに、リークNHを低減させるために、本発明者らは、V成分を含まない触媒の中で脱硝活性とNH分解活性を持つものについて、鋭意検討した。その結果、Ti/Mo系触媒もしくはTi/Mo/P系触媒でSO酸化活性が極めて低く、かつ脱硝活性とNH分解活性を有していることが明らかとなった。
【0018】
Ti/Mo系触媒もしくはTi/Mo/P系触媒を、既設の触媒の後流部に増設した場合、(2)式に示すSO酸化反応はほとんど進行せず、(1)式の脱硝反応に加え、下記(3)式のNH分解反応が進行する。このため、SO酸化率をほとんど上昇させることなく、脱硝性能の向上とリークNHの低減を図ることができる。
【0019】
なお、本発明の脱硝装置においては、NH分解反応は(3)式で示される反応で進行し、NHの酸化によるNOxの副生がないことが確認されている。
NH + 3/4O→ 1/2N + 3/2HO ・・・・・(3)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、脱硝性能が低下しリークNHが増加した脱硝触媒を有する脱硝装置において、該脱硝触媒の成分と異なる所定の脱硝触媒を後流側に増設、或いは、後流側の脱硝触媒の一部をその脱硝触媒の成分と異なる所定の脱硝触媒に置き換えることで、SOの酸化活性がほとんどなく、脱硝性能を上昇させ、リークNHの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1による脱硝装置を含む脱硝システムの概略構成図である。
【図2】実施例2による脱硝装置を含む脱硝システムの概略構成図である。
【図3】参考例による脱硝装置を含む脱硝システムの概略構成図である。
【図4】従来技術による脱硝装置を含む脱硝システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
図1は、実施例1による脱硝装置を含む脱硝システムの概略構成を示している。図1において、石炭焚きボイラ11、熱交換器16、集塵機17及び煙突18は、図4に示した従来技術と同じである。また、石炭焚きボイラ11と反応器14との間で排ガス12中にアンモニア注入ライン13からアンモニアが注入される点も従来技術と同じである。
【0024】
本実施例では、図1に示すように、反応器14において、既設の脱硝触媒15の後流部に、その脱硝触媒15と触媒成分が異なる新たな脱硝触媒19が増設、つまり積み増して設置されている。既設の脱硝触媒15は、チタン(Ti)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)、もしくはチタン(Ti)、バナジウム(V)及びタグステン(W)を主成分とする触媒である。新たな脱硝触媒19は、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒である。
【0025】
そして、新たな脱硝触媒19は、アンモニア注入ライン13から排ガス12中に注入されたアンモニアのうち未反応のリークNH(リークアンモニア)が増大した場合、既設の触媒の一部を、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒組成、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒組成で置き換える機能を有している。
【0026】
また、新たな脱硝触媒19は、酸化チタンに対しモリブデンとして1atom%を超えて10atom%以下のモリブデン酸アンモニウムもしくは三酸化モリブデン、及びHPOとして酸化チタンに対し0wt%を超えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩を、水の存在下で混練、乾燥、焼成することによって製造される。
【0027】
次に、本発明の実験例について説明する。
【0028】
[実験例1]
モリブデン酸アンモニウム5.2gを水30gとシリカゾル(日産化学製、OSゾル)4.5gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業製、比表面積290m/g)45gを入れ、乳鉢内で30分間乳棒を用いて混練した。これを40℃で一時間保温した後、再度乳鉢内で混練したペーストを押し出し成型器により押し出し、これを120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して脱硝触媒を得た。本脱硝触媒の組成は、Ti/Mo=95/5 原子比である。
【0029】
[実験例2]
実験例1の触媒に85%リン酸3.7gを酸化チタンの添加前に加えるように変え、他は実験例1と同様にして脱硝触媒を調製した。本脱硝触媒の組成は、Ti/Mo=95/5 原子比であり、HPO添加量は酸化チタンに対し5wt%である。
【0030】
[比較例1]
メタタングステン酸アンモニウム5.0gとメタバナジン酸アンモニウム0.4gを水30gとシリカゾル(日産化学製、OSゾル)4.5gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業製、比表面積290m/g)45gを入れ、乳鉢内で30分間乳棒を用いて混練した。これを40℃で一時間保温した後、再度乳鉢内で混練したペーストを押し出し成型器により押し出し、これを120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して脱硝触媒を得た。本脱硝触媒の組成は、Ti/W/V=94.6/3.7/1.7原子比である。
【0031】
上記実験例1及び実験例2の効果を示すため以下のような模擬試験を行った。実験例1、実験例2及び比較例1における脱硝触媒を表1の粒子径に揃え、表1の条件でNH分解率を測定した。得られた結果を表2に纏めて示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
また、表3の条件で脱硝率を測定した。得られた結果を表4に纏めて示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
さらに、表5の条件でSO酸化率を測定した。得られた結果を表6に纏めて示す。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
表2において、本実施例における触媒が400℃でNH分解活性を有していることが分かる。さらに、表4において、本実施例における触媒が脱硝活性を有していることが分かる。そして、表6において、本実施例における触媒は、SO酸化活性を有していないことが明らかである。これらのことから、本実施例における触媒が、SO濃度の上昇を伴わず、脱硝活性のみを上昇させ、かつリークNHを低減する触媒として優れていることは明白である。
【0041】
(実施例2)
実施例1では、既設の脱硝触媒はそのままで、その脱硝触媒の後流部に新たな脱硝触媒を増設した例であったが、本実施例では、図2に示すように、既設の脱硝触媒15の後流側の一部を抜き出して、その抜き出した部分に新たな脱硝触媒19Aを設置した例である。
【0042】
なお、実施例1の場合と同様、既設の脱硝触媒15は、チタン(Ti)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)、もしくはチタン(Ti)、バナジウム(V)及びタグステン(W)を主成分とする触媒である。また、新たな脱硝触媒19Aは、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒である。詳細には、新たな脱硝触媒19Aとして、実験例1もしくは実験例2なる触媒を設置した。
【0043】
本実施例では、既設の脱硝触媒15のリークNHが増大しているため、NH分解率が高い実験例1の触媒がより好ましいが、既設の脱硝触媒15のSO酸化率が増大している場合は、SO酸化率が低い実験例2の触媒が好ましい。本実施例では、既設の脱硝触媒15と置き換えるため、NH分解率が高く、脱硝性能が高い実験例1の触媒が好ましい。
【0044】
なお、図3に示すように、既設の脱硝触媒15の上流部に新たな脱硝触媒19Bを、既設の脱硝触媒15の下流部に新たな脱硝触媒19Cをそれぞれ設置する方法も考えられるが、この方法では、脱硝触媒19BによりSO酸化活性を下げることができるが、その一方でNHの分解反応を促進させ、後流部に設置された脱硝触媒19Cの脱硝活性を低下させることになり、あまり好ましいことではない。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0046】
例えば、本発明は石炭焚きボイラからの排ガスを浄化するだけでなく、内燃機関からの排ガス等を浄化する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
11 石炭焚きボイラ
12 排ガス
13 アンモニア注入ライン
14 反応器(脱硝装置)
15 既設の脱硝触媒
16 熱交換器
17 集塵機
18 煙突
19 新たな脱硝触媒
19A〜19C 新たな脱硝触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン(Ti)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)、もしくはチタン(Ti)、バナジウム(V)及びタグステン(W)を主成分とする触媒が設置され、アンモニアが注入された排ガスを前記触媒に通すことにより、前記排ガス中の窒素酸化物を取り除く脱硝装置であって、
前記既設の触媒の後流部に、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒、またはチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒を増設させてなることを特徴とする脱硝装置。
【請求項2】
前記増設させた触媒は、排ガス中に注入された前記アンモニアのうち未反応のリークアンモニアが増大した場合、前記既設の触媒の一部を、チタン(Ti)及びモリブデン(Mo)からなる触媒組成、又はチタン(Ti)、モリブデン(Mo)及びリン(P)からなる触媒組成で置き換えることを特徴とする請求項1に記載の脱硝装置。
【請求項3】
酸化チタンに対しモリブデンとして1atom%を超えて10atom%以下のモリブデン酸アンモニウムもしくは三酸化モリブデン、及びHPOとして酸化チタンに対し0wt%を超えて15wt%以下のリン酸またはリン酸のアンモニウム塩を、水の存在下で混練、乾燥、焼成して得られたことを特徴する脱硝触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183490(P2012−183490A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48364(P2011−48364)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】