説明

脱穀装置

【課題】負荷が大きい条件下でも扱網による被処理物のろ過を促進すると共に、排塵処理室への搬送を制限せず扱室内の異音発生を防止し、四番穀粒のロス低減を図る脱穀装置の提供である。
【解決手段】扱胴69を軸架した扱室66と、扱胴69の搬送方向終端部側の回収胴69bを軸架した回収室66aと、扱室66内の被処理物をろ過する扱網74と、扱胴69からの被処理物を搬送処理する排塵処理胴71を軸架した排塵処理室68と、扱室66から排塵処理室68への連通口101近傍に、扱胴69軸芯と略直交する方向に板状平面部を有し、扱室66内の被処理物に搬送抵抗を与えると共に排塵処理室68側へ移送案内する案内板84とを設けた脱穀装置である。案内板84にリード角度を設けないことで、負荷が大きい条件下でも適度に被処理物の後方への流れを制限し扱網74によるろ過を促進する一方、適度に排塵処理室68に搬送し扱室66内の異音を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等に搭載される脱穀装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインは穀稈の刈取装置と、脱穀装置と、脱穀後一時的に貯留するグレンタンクと、グレンタンクに貯留されている穀粒を排出するオーガなどから構成される。
【0003】
脱穀装置の主脱穀部である扱室には刈取装置で刈り取った穀稈が挿入され、穀稈は扱室に軸架された扱胴の表面に多数設けられた扱歯と扱網との相互作用により脱穀される。穀稈から分離された被処理物(穀粒や藁くず)は扱網を通過して、選別室の揺動棚で受け止められ二番穀粒や藁屑などを分離して穀粒のみをグレンタンクに搬送する。二番穀粒は二番処理室に送られ二番処理胴により穀粒、枝梗粒などに分離され、再び揺動棚に落下して穀粒、二番穀粒、藁屑などに分離される。扱室で発生した藁くずなど短尺のものは排塵処理室に搬送され、排塵処理胴により処理される。
【0004】
コンバイン等に搭載される脱穀装置による上記脱穀作業は、省力化、能率化され、脱穀装置の扱室の他に、二番処理室、排塵処理室などを設け、脱穀の高能率化や穀粒回収の高効率化が図られている。そして、扱室内の被処理物が扱室の外側に流れたり、被処理物が扱胴における搬送方向下手側へ安易に移送されることを防止して、穀粒の回収効率を向上させる構成が提案されている(下記特許文献1)。また、脱穀済みでコンバインの外部に排出される排藁にささっているササリ粒を除去して四番穀粒の回収ロスを図る構成が提案されている(下記特許文献2)。
【特許文献1】特開2007−104956号公報
【特許文献2】特開2006−271264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の構成によれば、扱室内のフィードチェン側に配置された抵抗板と扱胴の間に被処理物を扱室内方へ案内するガイド体やガイド体と扱胴の間に被処理物の搬送に抵抗を与える仕切板を設けている。また、扱室から排塵処理室への連通口には扱胴の搬送方向上手側に被処理物を送塵する逆リード板が設けられ、容易に排塵処理室へ導かれようとする処理物を被処理物の搬送方向上手側に戻す構成が開示されている。
また、上記特許文献2記載の構成によれば、扱室の後板と中後板間に扱胴の扱歯の回転外周に沿ってガイド部材を設け、更に扱室の中後板の外側面には平面視がへの字(L字)形状の穂先支えガイドを側面視左外側へ向けて上り傾斜に設けた構成が開示されている。
【0006】
上記特許文献1記載の構成によれば、ガイド体により扱室内の被処理物を扱室内方に導き、株元にささり込む穀粒を低減し、更にガイド体と仕切板により扱胴の搬送方向下手側に移送される被処理物を制限するので、仕切板後方でのササリ粒の回収が良好となる。また、排塵処理室の連通口の直前に、被処理物の戻し方向(搬送方向上手側)にリード角度を有する逆リード板を設け、容易に排塵処理室へ導かれようとする被処理物を制限している。このように、扱胴の外周を連れ回るササリ粒(正常な穀粒が藁と連れ回ることで藁に刺さって発生する)などの被処理物を扱胴の搬送方向上手側に戻し、四番穀粒のロス低減を図っている。
【0007】
また、上記特許文献2記載の構成によれば、上記特許文献1記載の構成と同様に、扱歯の回転外周に沿って設けたガイド部材により扱室内の被処理物を扱室内方に導き、ガイド部材と各扱歯との相互作用により、ササリ粒の除去を良好にしている。また、平面視がへの字形状の穂先支えガイドを側面視左外側に向けて上り傾斜になるように扱室後方側に設けており、すなわち特許文献1記載の逆リード板と同様に、被処理物の戻し方向(搬送方向上手側)にリード角度を設けて配置し、ササリ粒を回収している。
【0008】
このように、従来は扱室内の被処理物を扱室内方に導いたり、扱胴の搬送方向下手側に移送される被処理物を制限することで、穀粒の回収効率を向上させていた。
【0009】
しかし、被処理物量が多い場合など、負荷が大きい条件下では、扱胴の搬送方向下手側に移送される被処理物が制限されて、扱室内に被処理物が溜まり、被処理物の排塵処理室への流れも制限されるという問題がある。また、扱室内に被処理物が溜まることで、扱室内の異音発生の要因ともなっていた。一方で、扱胴の搬送方向下手側に移送される被処理物を制限しないと扱室下方にある扱網から後方側に安易に被処理物が送塵されてしまい、穀粒の回収効率の低下を招く。
【0010】
本発明の課題は、上記問題点を解決することであり、負荷が大きい条件下においても、被処理物を濾過する扱網から後方側に安易に被処理物が送塵されることを防止して、扱網による被処理物のろ過を促進するとともに、被処理物の排塵処理室への流れを制限せず、一層の四番穀粒のロス低減が図れる脱穀装置の提供である。また、負荷が大きい条件下においても、扱室内の異音発生を防止できる脱穀装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は次の解決手段により解決できる。
請求項1記載の発明は、穀稈から穀粒を分離処理するための扱歯(69a)を有する扱胴(69)を軸架した扱室(66)と、前記扱胴(69)の被処理物の搬送方向終端部側を被処理物の一部を回収する回収胴(69b)とし、該回収胴(69b)を軸架した回収室(66a)と、扱室(66)内で発生した被処理物をろ過する扱網(74)と、扱胴(69)の搬送方向終端部側に達した被処理物を引き継いで処理する排塵処理胴(71)を軸架し、扱室(66)の後部側方に設けた排塵処理室(68)と、扱室(66)の扱胴(69)による被処理物の搬送方向終端部と排塵処理室(68)の排塵処理胴(71)による被処理物の搬送方向始端部とを連通する連通口(101)と、該連通口(101)近傍に設け、扱胴(69)の軸芯と略直交する方向に板状平面部を有し、扱室(66)内の被処理物に搬送抵抗を与えて該被処理物を連通口(101)から排塵処理室(68)側へ移送案内する1以上の案内板(84)とを備えた脱穀装置である。
【0012】
請求項2記載の発明は、複数の案内板(84)を、扱室(66)内における扱胴(69)の被処理物の搬送方向に位置をずらせて設けた請求項1記載の脱穀装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、連通口(101)近傍に設けた案内板(84)が、扱胴(69)の軸芯と略直交する方向に板状平面部を有しており、扱室(66)内の被処理物に搬送抵抗を与えて該被処理物を連通口(101)から排塵処理室(68)側へ移送案内することができる。即ち、扱室(66)内の被処理物に適度な搬送抵抗を与えることによって、この被処理物を連通口(101)から排塵処理室(68)側へ流入しやすくし、扱室(66)側から排塵処理室(68)側への被処理物の流れを円滑なものとして、扱室(66)内の過負荷による異音の発生を少なくできる。
【0014】
また、扱室(66)内の被処理物を排塵処理室(68)側へ素早く引き継がせて処理することによって、脱穀処理能力が高まり、例えばこの脱穀装置をコンバインに搭載した場合には、このコンバインによる高速刈取作業を可能とし、収穫作業の能率を向上させることができる。
【0015】
そして、請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、複数の案内板(84)を、扱室(66)内における被処理物の搬送方向に位置をずらせて設けたことによって、被処理物の搬送方向の複数個所で被処理物の搬送に抵抗を与え、扱網(74)における被処理物のろ過を促進でき、選別効率が向上する。また、一度に連通口(101)付近に穀粒が流入し負荷が増大することがなく、扱室(66)内の濾過効率が高まり、三番、四番穀粒の回収ロスの低減効果が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1には本発明の実施の形態の穀類の収穫作業を行うコンバインの左側面図を示し、図2にはコンバインの平面図を、図3にはコンバインの脱穀装置の一部切り欠き側面断面図を示す。なお、本実施の形態ではコンバインの前進方向に向かって前側と後側をそれぞれ前、後といい、左側と右側をそれぞれ左、右ということにする。
【0017】
図1ないし図2に示すコンバイン1の走行フレーム2の下部には、ゴムなどの可撓性材料を素材として無端帯状に成型した左右一対のクローラ4を持ち、乾田はもちろんのこと、湿田においてもクローラ4が若干沈下するだけで自由に走行できる構成の走行装置3を備え、走行フレーム2の前部には刈取装置6を搭載し、走行フレーム2の上部には図示しないエンジンならびに脱穀装置15、操縦席20およびグレンタンク30を搭載する。
【0018】
刈取装置6は、図示しない刈取昇降シリンダの伸縮作用により刈取装置6全体を昇降して、圃場に植生する穀稈を所定の高さで刈取りができる構成としている。刈取装置6の前端下部に分草具7を、その背後に傾斜状にした穀稈引起し装置8を、その後方底部には刈刃(図示せず)を配置している。刈刃と脱穀装置15のフィードチェン14の始端部との間に、図示しない前部搬送装置、扱深さ調節装置、供給搬送装置などの搬送装置9を順次穀稈の受継搬送と扱深さ調節とができるように配置している。
【0019】
コンバイン1の刈取装置6の作動は次のように行われる。まず、エンジンを始動して変速用、操向用などの操作レバーをコンバイン1が前進するように操作し、刈取・脱穀クラッチ(図示せず)を入り操作して機体の回転各部を伝動しながら、走行フレーム2を前進走行させると、刈取、脱穀作業が開始される。圃場に植立する穀稈は、刈取装置6の前端下部にある分草具7によって分草作用を受け、次いで穀稈引起し装置8の引起し作用によって倒伏状態にあれば直立状態に引起こされ、穀稈の株元が刈刃に達して刈取られ、前部搬送装置に掻込まれて後方に搬送され、扱深さ調節装置、供給搬送装置に受け継がれて順次連続状態で後部上方に搬送される。
【0020】
穀稈は供給搬送装置からフィードチェン14の始端部に受け継がれ、脱穀装置15に供給される。脱穀装置15は、上側に扱胴69を軸架した扱室66を前板97と後板98の間に配置し、扱室66の下側に選別部50を一体的に設け、供給された刈取穀稈を脱穀、選別する。
【0021】
脱穀装置15に供給された穀稈は、後で詳細に説明するが、主脱穀部である扱室66に挿入され、扱室66に軸架され回転する扱胴69の多数の扱歯69aと、フィードチェン14による移送と、扱網74との相互作用により脱穀され、被処理物(穀粒や藁くず)は脱穀装置15内の選別部50の揺動棚51で受け止められ、上下前後方向に揺動する揺動棚51上を移動しながら、唐箕79からの送風を受けて風力選別され、比重の重い穀粒はシーブ53、54および選別網63を通過し、一番螺旋65から、搬送螺旋(図示せず)を内蔵している一番揚穀筒78(図6)を経てグレンタンク30へ搬送され、グレンタンク30に一時貯留される。一番揚穀筒78の長手方向の軸芯上にグレンタンク30の籾排出口を設けている。また、脱穀装置15の側壁には唐箕79への風を取り入れるための風取入口80(図8)が設けられている。
【0022】
脱穀装置15の扱室66の終端に到達した脱穀された残りの穀稈で長尺のままのものは、図示しない排藁チェーンおよび排藁穂先チェーンに挟持されて搬送され、脱穀装置15の後部の藁用カッターに投入されて切断され、圃場に放出される。
【0023】
グレンタンク30内の底部に穀粒移送用のグレンタンク螺旋(図示せず)を設け、グレンタンク螺旋を駆動する螺旋駆動軸(図示せず)に縦オーガ18および横オーガ19からなる排出オーガを連接し、グレンタンク30内に貯留した穀粒を排出オーガ排出口からコンバイン1の外部に排出する。グレンタンク螺旋、縦オーガ螺旋(図示せず)および横オーガ螺旋(図示せず)は、エンジンの動力の伝動を受けて回転駆動され、それぞれのラセン羽根のスクリュウコンベヤ作用により貯留穀粒を搬送する。
【0024】
図4には図1のコンバインの脱穀装置15の扱胴69付近の平面図を示す。更に、図5には図3のA−A線矢視の脱穀装置15の立面断面図を示し、図6には図3のB−B線矢視の脱穀装置15の立面断面図を示し、図7には図3のC−C線矢視の脱穀装置15の立面断面図を示す。
【0025】
刈取装置6で刈り取った穀稈は刈取装置6に装着された穀稈搬送、調節装置で扱深さが調節され、脱穀装置15の主脱穀部である扱室66内に挿入される。扱室66に軸架された扱胴69は、その表面に多数の扱歯69aが設けられており、図示しない駆動機構により、エンジンからの動力により、図4ないし図5の矢印B方向に回転する。扱室66に挿入された穀粒の付いた穀稈は、移動するフィードチェン14により図4の矢印A方向に移送されながら、矢印B方向に回転する扱胴69の扱歯69aと扱網74との相互作用により脱穀される。また、扱網74のフィードチェン14側の下部を、前板97から後方中板96Rにかけて網押さえ77により支持している。穀稈から分離された被処理物(穀粒や藁くず)は扱網74を矢印C1方向(図5)に通過して、揺動棚51で受け止められる。
【0026】
揺動棚51は、扱室66の扱網74の下方に配置した移送棚52とその後方に配置した上方の第1チャフシーブ53、第2チャフシーブ54とその下方の選別網63と最後端部に配置したストローラック62などから構成されている。
【0027】
第1チャフシーブ53と第2チャフシーブ54は、揺動しながら各シーブ間から被処理物を漏下させ、唐箕79からの送風により風力選別する点で共通しているが、被処理物の搬送方向前方側の第1チャフシーブ53の方が後方側にある第2チャフシーブ54に比べて各シーブの大きさが小さく、各シーブ間の距離が多少狭い構成である。被処理物の搬送方向前方側では、被処理物中における単粒の含有率が高く、藁屑の漏下を抑えながら単粒だけを漏下させ、藁屑をより後方へ移送するために、このような構成としている。
【0028】
また、第1チャフシーブ53の上方に、揺動棚51上の被処理物を拡散させる拡散ガイド88を、被処理物の搬送方向に向かって拡散ガイド88の前端が前記移送棚52の上方に位置するように設けている。
そして移送棚52には複数個のラック状の選別板52aを備えており、移送棚52は第1チャフシーブ53の前方に配置されている。移送棚52は扱胴69の下方に配置して二番処理物を受け止め得る構成になっている。
【0029】
扱網74(図3)の前方の領域で漏下する脱穀初期に脱粒した穀粒は単粒であり夾雑物も含んでいないので第1チャフシーブ53や第2チャフシーブ54上で粗選別する必要が無く、直接選別網63で後述する唐箕79からの送風により風選することができ、これらチャフシーブ53、54の負荷を軽くし、能率的な脱穀が可能となる。
【0030】
また、揺動棚51は図示しない揺動棚駆動機構の作動により上下前後方向に揺動するので、被処理物は矢印D方向(図3)に移動しながら、揺動棚51上に漏下した比重の重い穀粒は選別網63を矢印E方向に通過し、一番棚板64で集積され、一番螺旋65から一番揚穀筒78(図6)を経てグレンタンク30へ搬送される。グレンタンク30に貯留された穀粒は、オーガ18、19を経由してコンバイン1の外部へ搬送される。
【0031】
揺動棚51の上の被処理物のうち軽量のものは、揺動棚51の揺動作用と唐箕79のファン79aによる送風に吹き飛ばされて揺動棚51から第1チャフシーブ53、第2チャフシーブ54に向けて矢印D方向に移動し、ストローラック62の上で大きさの小さい二番穀粒は矢印G方向に漏下して二番棚板85に集められ、二番螺旋86で二番揚穀筒87へ搬送される。
【0032】
二番穀粒(二番物ということがある)は、正常な穀粒、枝梗粒、藁くずおよび藁くずの中に正常な穀粒が刺さっているササリ粒などの混合物であり、二番揚穀筒87の中を二番揚穀筒螺旋(図示せず)により揚送されて、二番処理室入口から二番処理室67の上方へ放出される。二番処理室67の下部に軸架する二番処理胴70はエンジンからの動力を伝動して駆動機構により、図4の矢印J方向に回転する。二番穀粒は二番処理胴70に植設してある多数の処理歯70aに衝突しながら矢印I方向(図3、図4)に進行する間に二番穀粒の分離と枝梗粒の枝梗の除去を行い、被処理物の一部は二番処理胴70の下方に設けられた受網75を通り抜けて選別部50に漏下し、被処理物の大部分は移送棚52から第1チャフシーブ53、第2チャフシーブ54方向に送られ、穀粒は第1チャフシーブ53、第2チャフシーブ54と選別網63を通り、一番螺旋65に集められる。
このように二番物を移送棚52上に回収して第1チャフシーブ53、第2チャフシーブ54による再処理をすることにより、穀粒と藁くずとの分離が良好になる。
【0033】
扱室66を図4の矢印A方向に進行し、扱室66の終端に到達した被処理物の中の脱穀された穀稈で長尺のままのものは、図4に示す矢印A1方向に搬送され、排藁処理室95に投入される。
【0034】
また、扱室66の扱胴69による被処理物搬送方向終端部側に到達した被処理物の中で、藁くずなど短尺のものは、扱室66の扱胴69による被処理物の搬送方向終端部と排塵処理室68の排塵処理胴71による被処理物の搬送方向始端部とを連通する連通口101にある排塵処理室入口68aから矢印A2(図4)方向に投入されて、扱室66からの取り込みを良好にする螺旋71bの作用により排塵処理室68に入り、排塵処理室68では回転する排塵処理胴71の処理歯71aにより矢印K方向(図3)に搬送されながら処理される。なお、排塵処理胴71の上手側に螺旋71bが設けられ、排塵処理胴71の下手側に処理歯71aが設けられている。排塵処理胴71の扱室66側には格子状の排塵処理胴枠72(図8)が排塵処理胴71の下側及び扱室66側の外周に沿って設けられ、排塵処理室68の濾過体を構成している。
【0035】
排塵処理室68に入った少量の穀粒を含む藁くずを主体とする被処理物の中の漏下物(穀粒)は受け網76(図3)から揺動棚51上に漏下し、揺動棚51に設けられたストローラック62に誘導されて二番棚板85から二番揚穀筒87を経由して二番処理室67に送られる。なお、同軸上にある二番処理胴70と排塵処理胴71の駆動は図示しないがエンジンから駆動力をプーリを介して行われる。
【0036】
図3に示すように、脱穀装置15の後部に横断流ファン91を設け、排塵処理室68を含む脱穀装置15内で発生する排塵のうち、比重の軽い藁くず、枝梗および塵埃を含む空気を横断流ファン91の回転による送風で吸引し、横断流ファン出口から矢印L方向へ吹き出して、コンバイン1の外部へ放出する。
排塵処理室68から揺動棚51の終端部に矢印M(図3)のように落ちた排塵のうち二番穀粒、三番穀粒など小径で比重の重いものは、揺動棚51の終端部のストローラック62あるいはシーブ54を矢印G方向へ通過して二番棚板85に漏下し、再び二番処理室67において処理される。
【0037】
また、図8に示すように、連通口101の前後には前方中板96F及び後方中板96Rを配置しており、前方中板96Fにより前記扱網74(図3)の後端部を支えている。
【0038】
そして、連通口101後方側の後方中板96Rと後板98の間の扱胴69をササリ粒などの四番物の回収胴69b(図4)とし、扱室66の被処理物搬送方向終端部側に到達したササリ粒などを回収する回収室66aを扱室66内に設けている。回収室66aでは、扱胴69の前部から後部にわたって設けた扱歯69aによって脱穀処理された後の排藁穂先部分に対して、回収室66a内に臨む扱胴69の後端部(回収胴69b)の扱歯69aが作用し、この排藁穂先部分に刺さり込んだ穀粒を揺動棚51上へ叩き落して回収することができる。
【0039】
図5から図7に示すように、被処理物が扱室66の外部に洩れないようにするために、扱胴69の側方で、扱室66内へフィードチェン14から搬入される被処理物の供給口近傍に、開閉自在の扱胴カバー102内側に取り付けられた抵抗板81が扱胴69の軸方向と平行に設けられている。また、前記抵抗板81と扱胴69の間に、被処理物を扱室66内方へ案内するための株元側ガイド体82を抵抗板81と平行に配置している。
【0040】
更に、図4に示すように、株元側ガイド体82は、扱胴69の被処理物の搬送方向の始端部から扱胴69のほぼ中央部にかけては、搬送方向から見て扱胴69回転時の扱歯69aの回転軌跡と重なる櫛歯状部と、扱胴69のほぼ中央部後方から被処理物の搬送方向終端部にかけては搬送方向から見て扱胴69回転時の扱歯69aの回転軌跡と重ならない平面部とを有し、長手方向を扱胴69軸芯と平行に設けた構成である。
【0041】
図5では、株元側ガイド体82が扱胴69の被処理物の搬送方向の始端部から扱胴69の中央部後方にかけて扱歯69aの回転軌跡と重なっている状態を示す。図6では、株元側ガイド体82が扱胴69の中央部後方から被処理物の搬送方向終端部にかけては扱歯69aの回転軌跡と重なっていない状態を示している。抵抗板81の内側に株元側ガイド体82を設置することで扱室66内の被処理物を扱室66内方に導き、株元にささり込む穀粒を低減すると共に、株元側ガイド体82を、前板97と後板98を連結した連結フレーム100上に設けることでフレーム構成が強固となり株元側ガイド体82の取付も安定する。
【0042】
更に、扱胴カバー102の内側には、扱胴69における搬送方向下手側への被処理物の搬送を制限する上部仕切板83を設けている。該上部仕切板83は、図5及び図6に示すように、扱胴69における被処理物の搬送方向から見て下端部が扱胴69の外周に沿って円弧状であり、扱胴69の軸芯と直交する方向に板状平面部を有し、そして、上部仕切板83が扱胴69における被処理物の搬送方向から見て扱胴69回転時の扱歯69aの回転軌跡と重なるように設けることで、上部仕切板83と扱歯69aとの相互作用により被処理物を搬送上手側に戻すことができる。
【0043】
また、上部仕切板83を回収室66a手前の後方中板96Rと前後方向でほぼ同じ位置に設けると、該上部仕切板83及び後方中板96Rとによって穀粒の後方への流れに抵抗が与えられ、上部仕切板83後方での回収室66aにおいてササリ粒の回収が良好となると共に、扱室66における被処理物の濾過も促進され、三番穀粒の回収ロスも低減する。
【0044】
そして、本実施形態によれば、連通口101近傍に、扱胴69の軸芯と略直交する方向に平面部を有し、扱室66内の扱胴69から排塵処理室68への被処理物の搬送を制限しながら案内する抵抗ガイド板(案内板)84を設けたことを特徴としている。
【0045】
なお、抵抗ガイド板(案内板)84は、扱胴69の上方であって、扱網74の後端部近傍に設けると良い。また、連通口101の被処理物の搬送方向手前側に設けても良いし、複数個設けても良い。また、図5及び図6に示すように、扱胴69上方の扱胴カバー102に設けると簡易な構成となる。
【0046】
前述のように、従来は、扱室66から排塵処理室68への連通口には扱胴69の搬送方向上手側に被処理物の戻し方向(搬送方向上手側)にリード角度を設けた逆リード板が設けられ、容易に排塵処理室68へ導かれようとする処理物を被処理物の搬送方向上手側に戻していた。しかし、被処理物量が多い場合などの負荷が大きい条件下では、扱胴69の搬送方向下手側に移送される被処理物が制限されて、扱室66内に被処理物が溜まり、被処理物の排塵処理室68への流れも制限されるという問題があった。すなわち被処理物の排塵処理室68への流れが考慮されていなかった。
【0047】
また、扱室66内に被処理物が溜まることで、扱室66内の異音発生の要因ともなっていた。一方で、扱胴69の搬送方向下手側に移送される被処理物を制限しないと扱室66下方にある扱網74から後方側に安易に被処理物が送塵されてしまい、穀粒の回収効率の低下を招くこともある。
【0048】
しかし、本構成を採用することにより、抵抗ガイド板(案内板)84を設けることで、負荷が大きい条件下においても、ある程度被処理物の後方への流れが制限され、被処理物を濾過する扱網74から後方側に安易に被処理物が送塵されるのを防止して、扱網74による被処理物のろ過を促進できる。すなわち扱室66における被処理物の後方への搬送に抵抗を与える抵抗板としての機能を有する。
【0049】
一方、抵抗ガイド板(案内板)84は、扱胴69の軸芯と略直交する方向に平面部を有しており、リード角度をほどんど設けていないことから、リード角度を設けている場合よりも扱室66内が過負荷となることを防止できる。そして、リード角度を設けている場合よりも被処理物の排塵処理室68への流れが制限されず、一層の四番穀粒のロス低減が図れる。また、負荷が大きい条件下においても、扱室66内の異音発生を防止できる。このように、排塵処理室68へ被処理物を搬送するガイド板としての機能を有する。
すなわち、抵抗ガイド板(案内板)84は、扱室66における被処理物の後方への搬送に抵抗を与える抵抗板としての機能と、排塵処理室68へ被処理物を搬送するガイド板としての機能を適度に併せ持つ。
【0050】
そして、連通口101よりも後方の扱室66内に被処理物中のササリ粒などを回収する回収室66aを設けると、上記のように抵抗ガイド板(案内板)84にリード角度を設けている場合よりも扱室66内が過負荷とならず、後方への搬送が制限されないことから、適度に回収室66aにおいてササリ粒を回収することができ、回収効率が向上する。
【0051】
また、案内板84は連通口101の前方中板96Fよりも前側に設けてもよいし、図3及び図4に示すように、前方中板96Fを挟んで前後に複数個設けても良い。すなわち、扱室66内における扱胴69の被処理物の搬送方向に互いに位置をずらせて設けても良い。
本構成を採用することにより、案内板84a,84bを扱胴69における被処理物の搬送経路の前後方向に複数設けて被処理物の移送に抵抗を加えることで、扱網74における被処理物のろ過を促進でき、選別効率が向上する。また、被処理物の搬送方向の前後に分けて案内板84a,84bを設けることで、一度に連通口101付近に穀粒が流入し負荷が増大することなく、扱室66内の前方(被処理物の搬送方向始端部側)から中間部位においても扱網74からの濾過が促進されるので、扱室66内の濾過効率が高まり、三番、四番穀粒の回収ロスの低減効果が高まる。
【0052】
また、図6に示すように、案内板84の下端部が扱胴69回転時の扱歯69aの先端軌跡Uとほぼ同じ高さ位置になるように案内板84を設置してもよい。
すなわち、扱胴69における被処理物の搬送方向から見て案内板84の下端部と扱胴69回転時の扱歯69aの先端軌跡が重なる程度まで案内板84の下端部を下方に延ばしても良い。
【0053】
案内板84の前端部と後端部の前後位置を変えている(リード角度も持たせている)場合は、案内板84の平面部が扱胴69の軸芯に対し斜めに交わるため、案内板84の下端部を扱歯69aの先端軌跡Uとほぼ同じ高さ位置になるように設置すると、案内板84の下端部が扱胴69の前後の扱歯69a,69aに当たってしまう。したがって、このように設置することはできない。
【0054】
しかし、本実施形態によれば、案内板84は扱胴69の軸芯に対し略直交する方向に平面部を設けているので、扱歯69aの先端軌跡と同じ高さ程度まで下端部を延ばしても前後の扱歯69a,69a間に案内板84の平面部が位置し、扱歯69aには当たらない。
【0055】
本構成を採用することにより、案内板84と扱歯69aの相互作用によって被処理物の後方への搬送に抵抗を加える効果が高まるので、フィードチェン14のスピードが速い大型のコンバインなどでも扱室66内の処理時間を長く保つことができ、穀粒の単粒化や三番、四番穀粒の回収ロスの低減が可能である。
【0056】
更に、図3から図6に示すように、扱室66内のフィードチェン14側に設けられた株元側ガイド体82の内面(扱胴69側)に、株元側ガイド体82の長手方向に直交する方向に板状平面部を有し、扱胴69における搬送方向下手側への被処理物の搬送を制限する株元側仕切板(仕切体)93を設けても良い。
【0057】
扱胴カバー102内面の案内板84や上部仕切板83により後方への搬送に抵抗を与えられた被処理物は扱室66内に停滞しがちになるが、フィードチェン14側に設けられた株元側仕切板93により再度被処理物を搬送穀稈の株元にささり込むことがないように止めて、扱室66から外部に排出されることを防止できる。
【0058】
また、図3に示すように、扱胴69における被処理物の搬送方向に向かって、案内板84と株元側仕切板93の前後位置をほぼ同じにしても良い。案内板84及び株元側仕切板93によって、搬送方向に向かって左右方向から被処理物の搬送経路が塞がれるため、より扱室66後方への被処理物の送塵を止める効果が高まり、三番穀粒、四番穀粒の回収ロスも低減する。
【0059】
更に、扱室66内の後方側(回収室66a側)であってフィードチェン14側に後方ガイド板105を設けても良い。図7及び図8に示すように、後方ガイド板105を網押さえ77の後方であって扱室66内のフィードチェン14側から選別室50内の揺動棚51上方に突出させて設けると、揺動棚51の左右方向幅内におけるササリ粒の回収が良好となる。
【0060】
後方ガイド板105が扱室66に搬送される穀稈の入り口側であるフィードチェン14側から選別室50側に突出していると、フィードチェン14により扱室66に搬送される穀稈は後方ガイド板105の上面に沿って矢印R方向(図7)に流れる。したがって、扱室66内の回収室66aに搬送される穀稈を扱胴69の扱歯69a側に寄せることができるため、扱歯69aにより株元側にささり込んでいる穀粒を削ぎ落として回収できる。そして、図7及び図8に示すように、後方ガイド板105のフィードチェン14側から選別室50側への突出端部を扱歯69aの先端軌跡に沿うように設けると、より後方ガイド板105と扱歯69aの相互作用によって削ぎ落としが促進される。
【0061】
このように、扱胴69の扱歯69aにより搬送中の穀稈から除去された穀粒は扱室66の後方から終端部における除去であっても、揺動棚51の第2チャフシーブ54で回収され易い。したがって、本構成を採用することにより、扱室66内の回収室66a側の被処理物は扱室66後方の横断流ファン91又は揺動棚51の終端部からコンバイン1の外部に排出される三番穀粒の回収ロスとはなりにくく、穀粒の回収効率が向上する。
【0062】
更に、後方ガイド板105の他に扱胴69の下方に搬送穀稈を支持する搬送穀稈支持ガイド体107を設け、搬送穀稈を支持しても良い。揺動棚51上方のスペースはほぼ開放されており、このスペースを利用して搬送穀稈支持ガイド体107を設けることで、搬送穀稈支持ガイド体107と扱胴69の扱歯69aとの相互作用により処理された被処理物は揺胴棚51上に落下して回収される。搬送穀稈支持ガイド体107は、扱胴69の軸芯に対して平面視斜めに配置し、搬送方向上手側が左寄り、搬送方向下手側が右寄りで左右方向に傾斜を持たせており、フィードチェン14によって搬送される排藁の穂先側を、扱胴69後端部の扱歯69aの回転域内へ支持案内するものである。
【0063】
したがって、本構成を採用することにより、扱室66後方側(回収室66a側)で扱胴69により処理され取り除かれた四番穀粒は揺動棚51においてほぼ全量が回収可能となる。このように、揺動棚51における四番穀粒の回収が良好となることで、四番穀粒の回収ロスの低減を図ることができる。また、開放されているスペースを有効利用でき、経済的である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の脱穀装置はコンバインなどの収穫した穀粒の処理装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態の穀類の収穫作業を行うコンバインの左側面図である。
【図2】図1のコンバインの平面図である。
【図3】図1のコンバインの脱穀装置の側面断面図である。
【図4】図1のコンバインの脱穀装置の扱胴付近の平面図である。
【図5】図3のA−A線矢視の脱穀装置の立面断面図である。
【図6】図3のB−B線矢視の脱穀装置の立面断面図である。
【図7】図3のC−C線矢視の脱穀装置の立面断面図である。
【図8】図1のコンバインの脱穀装置の扱胴付近の構造を示した概略斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 コンバイン 2 走行フレーム
3 走行装置 4 クローラ
6 刈取装置 7 分草具
8 穀稈引き起こし装置 9 搬送装置
14 フィードチェン 15 脱穀装置
18 縦オーガ 19 横オーガ
20 操縦席 30 グレンタンク
50 選別部 51 揺動棚
52 移送棚 52a 選別板
53 第1チャフシーブ 54 第2チャフシーブ
62 ストローラック 63 選別網
64 一番棚板 65 一番螺旋
66 扱室 66a 回収室
67 二番処理室 68 排塵処理室
68a 排塵処理室入口 69 扱胴
69a 扱歯 69b 回収胴
70 二番処理胴 70a 処理歯
71 排塵処理胴 71a 処理歯
71b螺旋 72 排塵処理胴枠
74 扱網 75 二番処理胴受網
76 受け網 77 扱網の網押さえ
78 一番揚穀筒 79 唐箕
79a 唐箕ファン 80 風取入口
81 抵抗板 82 株元側ガイド体
83 上部仕切板 84a、84b 案内板
85 二番棚板 86 二番螺旋
87 二番揚穀筒 88 拡散ガイド
91 横断流ファン 93 株元側仕切板
95 排藁処理室 96F 前方中板
96R 後方中板 97 前板
98 後板 100 連結フレーム
101 連通口 102 扱胴カバー
105 後方ガイド体 107 搬送穀稈支持ガイド体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈から穀粒を分離処理するための扱歯(69a)を有する扱胴(69)を軸架した扱室(66)と、
前記扱胴(69)の被処理物の搬送方向終端部側を被処理物の一部を回収する回収胴(69b)とし、該回収胴(69b)を軸架した回収室(66a)と、
扱室(66)内で発生した被処理物をろ過する扱網(74)と、
扱胴(69)の搬送方向終端部側に達した被処理物を引き継いで処理する排塵処理胴(71)を軸架し、扱室(66)の後部側方に設けた排塵処理室(68)と、
扱室(66)の扱胴(69)による被処理物の搬送方向終端部と排塵処理室(68)の排塵処理胴(71)による被処理物の搬送方向始端部とを連通する連通口(101)と、
該連通口(101)近傍に設け、扱胴(69)の軸芯と略直交する方向に板状平面部を有し、扱室(66)内の被処理物に搬送抵抗を与えて該被処理物を連通口(101)から排塵処理室(68)側へ移送案内する1以上の案内板(84)と
を備えたことを特徴とする脱穀装置。
【請求項2】
複数の案内板(84)を、扱室(66)内における扱胴(69)の被処理物の搬送方向に位置をずらせて設けたことを特徴とする請求項1記載の脱穀装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−33983(P2009−33983A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198487(P2007−198487)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】