説明

腐食画像取得方法及び該方法を用いた腐食診断方法、腐食画像取得装置及び該装置を用いた腐食診断装置

【課題】放射線の線量を少なくでき、簡易な方法でかつ従来と同様な精度の腐食調査が可能な腐食画像を得る方法及び装置を得る。
【解決手段】本発明に係る腐食画像取得方法は、放射線を被検査体に照射して前記被検査体を透過した放射線に基づいて前記被検査体の腐食状態を示す腐食画像を取得する腐食画像取得方法であって、前記被検査体を透過した放射線を検出する検出手段としてフォトンカウンティングセンサを用い、フォトンカウンティングセンサで得られた結果に基づいて腐食画像を形成するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いて例えば管内面の腐食画像を取得する腐食画像取得方法及び該方法を用いた腐食診断方法、腐食画像取得装置及び該装置を用いた腐食診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上や水中に設置された管内面等の腐食状況を調査する方法として、X線透過により撮影したX線フィルムから腐食の状態を検出する方法が知られている。
X線透過法は、腐食状態をX線フィルムにより簡単に確認することができ、資料の保存性等が良いため、腐食調査に広く使用されている。
【0003】
そして、X線フィルムを用いる撮影法では、腐食の深さを知るため、X線フィルムに形成された像の濃度分布を調べこの像の濃度分布から腐食の深さ分布を求めて表示する方法が採られている。この方法は、調査対象の管と同じ径、同じ厚さの管に標準凹みを作り、調査する現場と同様な状態でシミュレ−ション実験を行なって標準凹みとX線フィルムの濃度との関係を予め求めておくというものである。
しかしながら、この方法では、必ず調査現場と同様な状況でシミュレ−ション実験を行ない、事前にX線フィルムの濃度と残厚推定デ−タの特性を求める必要があり、調査毎に1〜2週間程度の実験が必要になり、かなりの時間と費用を要するという問題がある。
この問題を解決するものとして、例えば特開平4-48205号公報に開示されたように、X線フィルムにテストピ−スと被検部のX線透過画像を形成し、このX線透過画像のテストピ−スの標準凹み濃度と、標準凹み濃度の調査環境に応じた関係と、腐食等による凹み濃度とから被検部の凹み深さを算出して表示する方法がある。
【0004】
確かに、上記特開平4−48205号公報に開示され腐食の診断法はシミュレ−ション実験なしで、かつ、専門家でなくても短時間に腐食分布を得ることができるが、腐食の最大深さを得るためには管の全範囲にわたりX線透過画像を形成する必要があり、X線透過試験と画像処理に多くの時間を要するという問題がある。
この問題を解決して、小さな面積の測定で腐食の最大深さをも推定することができる管内面の腐食診断方法として特許文献1に開示された管内面の腐食診断方法がある。
【0005】
この管内面の腐食診断方法は、深さが異なる複数の標準凹みを有するテストピ−スを管の被検部近傍に重ね合わせてX線を照射し、X線フィルムにX線透過画像を形成し、X線透過画像をイメ−ジセンサで読み取り、読み取った画像のテストピ−スの凹み位置の濃度からその近傍の濃度を差引いて標準凹み濃度を算出し、標準凹み濃度と標準凹み深さとの回帰式を算出し、被検部の無減厚位置の濃度分布より被検部の母材推定濃度分布を回帰式により作成し、母材推定濃度分布から被検部の腐食部濃度を差引き凹み濃度を算出し、算出した凹み濃度を使用して上記標準凹み濃度と標準凹み深さとの回帰式より被検部の腐食深さを算出し、イメ−ジセンサで読み取ったX線透過画像を擬似立体処理し、立体化したX線透過画像に被検部の腐食深さを立体化したX線透過画像に書き込み腐食深さ分布を表示し、上記処理を管の複数個所で行ない、算出した被検部の腐食深さに極値統計法を適用して腐食の最大深さを推定し、表示された各被検部の腐食深さ分布と推定した腐食の最大深さから管の寿命を予測することを特徴とするものである(特許文献1の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3043918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に開示された管内面の腐食診断方法は、腐食の形状と腐食による凹み深さの絶対値を直接表示できると共に小さな面積の測定での腐食の最大深さを推定できるものであり、優れたものである。
しかしながら、特許文献1の方法においては腐食画像を取得する方法として、X線フィルムにX線透過画像を形成するという方法を用いているため、大線量のX線を必要とし、また大きな管理区域の設定が必要であることから資格者のみが作業可能であり、低コストで行うことが難しいという課題がある。
また、X線装置は装置構成が大掛かりとなり、またX線フィルムも嵩張るものであり、全体として大掛かりな機材が必要となり現場におけるハンドリングが大変であるという課題もある。
【0008】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、放射線の線量を少なくでき、簡易な方法でかつ従来と同様な精度の腐食調査が可能な腐食画像を得る方法及び装置を得ることを目的としている。
また、放射線の線量を少なくでき、簡易な方法でかつ従来と同様な精度の腐食調査が可能な腐食診断方法及び装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る腐食画像取得方法は、放射線を被検査体に照射して前記被検査体を透過した放射線に基づいて前記被検査体の腐食状態を示す腐食画像を取得する腐食画像取得方法であって、
前記被検査体を透過した放射線を検出する検出手段としてフォトンカウンティングセンサを用い、フォトンカウンティングセンサで得られた結果に基づいて被検査体の腐食状態を示す腐食画像を形成するようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)本発明に係る腐食診断方法は、上記(1)に記載の腐食画像取得方法を用いて被検査体の腐食状態を診断する腐食診断方法であって、形成された腐食画像に基づいて被検査体の腐食状態を診断することを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明に係る腐食画像取得装置は、放射線を被検査体に照射する放射線照射手段と、前記被検査体を透過した放射線をフォトンカウンティング方式で検出するフォトンカウンティングセンサと、該フォトンカウンティングセンサの信号に基づいてフォトンカウンティング画像を形成するフォトンカウンティング画像形成手段と、該フォトンカウンティング画像形成手段によって形成されたフォトンカウンティング画像を分布処理する分布処理手段と、分布処理された分布画像を画像処理する画像処理手段と、画像処理手段によって処理された画像をエンボス処理して擬似立体画像を作成する擬似立体処理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)本発明に係る腐食診断装置は、上記(3)に記載の腐食画像取得装置を用いて被検査体の腐食状態を診断する腐食診断装置であって、画像処理手段によって得られた画像に基づいて被検査体の腐食深さを演算する演算処理手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、微弱な放射線をフォトンカウンティング方式で検出して処理するようにしたので、資格が不要で使用する機器類も手軽なものとなりコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る腐食診断装置のブロック図である。
【図2】画像処理の過程を説明する説明図であり、フォトンカウンティング画像を示す図である。
【図3】画像処理の過程を説明する説明図であり、分布処理手段によって分布処理をした分布処理画像を示す図である。
【図4】画像処理の過程を説明する説明図であり、画像処理手段によって画像処理した状態を示す図である。
【図5】画像処理の過程を説明する説明図であり、擬似立体処理手段によって擬似立体処理をした状態を示す図である。
【図6】画像処理の過程を説明する説明図であり、図2の矢視A−A線に沿う断面を模式的に示す図である。
【図7】画像処理の過程を説明する説明図であり、図4の矢視B−B線に沿う断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1は本発明の一実施の形態に係る腐食診断装置1のブロック図である。本実施の形態に係る腐食診断装置1は、図1に示すように、被検査体である例えば管3に放射線を照射する放射線照射手段5と、被検査体である管3及びテストピース7を透過した放射線をフォトンカウンティング方式で検出するフォトンカウンティングセンサ9と、フォトンカウンティングセンサ9の信号に基づいてフォトンカウンティング画像を形成するフォトンカウンティング画像形成手段10と、フォトンカウンティング画像形成手段10によって形成されたフォトンカウンティング画像を分布処理する分布処理手段11と、分布処理された分布画像を画像処理する画像処理手段13と、画像処理手段13によって処理された画像をエンボス処理して擬似立体画像を作成する擬似立体処理手段15と、擬似立体処理手段15によって擬似立体処理された画像を表示する表示手段17と、画像処理手段13によって得られた画像情報に基づいて腐食深さを演算する演算手段19とを備えている。
なお、放射線照射手段5、フォトンカウンティング画像形成手段10、分布処理手段11、画像処理手段13及び擬似立体処理手段15が本発明の腐食画像取得装置21を構成している。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<放射線照射手段>
放射線照射手段5としては、その線源に微小線量のX線やラジオアイソトープ(放射性同位元素)を用いるのが望ましい。また、放射性同位元素の濃度及び数量は、放射線障害防止法で規制される濃度及び数量以下であることが望ましい。具体的には、3.7MBq以下のものであることが望ましい。
【0017】
<フォトンカウンティングセンサ>
フォトンカウンティングセンサは、フォトンカウンティング方式により入射する放射線を検出し、入射した放射線に比例した信号を出力する。
【0018】
<フォトンカウンティング画像形成手段>
フォトンカウンティング画像形成手段10は、フォトンカウンティングセンサ9の信号に基づいてフォトンカウンティング画像を形成する。図2はフォトンカウンティング画像形成手段10によって形成されたフォトンカウンティング画像の一例を示すものである。
フォトンカウンティング画像形成手段10は、CPUがプログラムを実行することによって実現される。
【0019】
<分布処理手段>
分布処理手段11は、フォトンカウンティング画像形成手段10よって形成されたフォトンカウンティング画像を分布処理する。分布処理とは、所定のメッシュにフォトンカウンティング画像を対比させてメッシュごとに濃度を決定する処理である。分布処理をすることにより、濃淡の区別をつけることができる。図3は分布処理した画像を示している。図6は、図3の矢視A−A線に沿って、断面を表示したものであり、これによって被検査体の断面の形状を求めることができる。
分布処理手段11は、CPUがプログラムを実行することによって実現される。
【0020】
<画像処理手段>
画像処理手段13は、分布処理された分布画像を画像処理する。分布処理された分布画像では、メッシュを粗くしているため、擬似立体処理をするには情報が不足している。そこで、擬似立体処理をするための前工程として行うものである。画像処理の方法としては、種々のものが考えられるが、例えば分布画像の各メッシュについてさらに細かいメッシュによって分布画像の境界線の情報を付加するような処理をする。あるいは、腐食の形状として考えられるのは、孔腐食か溝状腐食であるから、分布画像の各メッシュについて孔腐食と溝腐食で考えられる腐食の形状を当てはめることによって、各メッシュの境界線情報を付加するようにしてもよい。
【0021】
図4は画像処理を行った後の画像を示している。図4の矢視B−B線に沿う断面に相当する図が図7である。図7に示すように、境界線が丸みを帯びる形になる。
画像処理手段13は、CPUがプログラムを実行することによって実現される。
【0022】
<擬似立体処理手段>
擬似立体処理手段15は、画像処理手段13によって処理された画像をエンボス処理して擬似立体画像を作成する。図5はエンボス処理をした画像の例である。エンボス処理をすることによって腐食部分を凹みとして認識できるようになる。
擬似画像は、モニタなどの表示手段17に表示する。
擬似立体処理手段15は、CPUがプログラムを実行することによって実現される。
【0023】
<演算手段>
演算手段19は画像処理手段13によって得られた画像情報に基づいて腐食深さを演算する。演算手段19としては種々の態様のものを使用できるが、例えば特許文献1のものと同様の処理を行うものを使用できる。すなわち、演算手段19は、画像処理手段13によって得られた画像のテストピース7の凹み位置の濃度からその近傍の濃度を差引いて標準凹み濃度を算出し、標準凹み濃度と標準凹み深さとの回帰式を算出する。被検部の無減厚位置の濃度分布より被検部の母材推定濃度分布を回帰式により作成し、母材推定濃度分布から被検部の腐食部濃度を差引いて凹み濃度を算出する。算出した凹み濃度を使用して上記標準凹み濃度と標準凹み深さとの回帰式より被検部の腐食深さを算出する。
演算手段19は、CPUがプログラムを実行することによって実現される。
【0024】
上記のように構成された腐食診断装置1による腐食診断方法を説明する。
シート状になったラジオアイソトープを被検査体である管3に貼り付ける。貼り付けたラジオアイソトープと対向側にテストピース7を設置すると共にテストピース7の背面側(管3と反対側)にフォトンカウンティングセンサ9を設置する。フォトンカウンティングセンサ9の信号に基づいてフォトンカウンティング画像形成手段10がフォトンカウンティング画像を形成する(図2参照)。形成されたフォトンカウンティング画像を分布処理手段11によって分布処理を行い、分布画像を形成する(図3、図6参照)。分布画像が形成されると、画像処理手段13が擬似立体処理をするための前処理として画像処理を行う(図4、図7参照)。画像処理手段13によって画像処理された画像に基づいて擬似立体処理手段15がエンボス処理して擬似立体画像を作成する(図5参照)。
演算手段19は、画像処理手段13によって得られた画像情報(図4、図7参照)に基づいて腐食深さを演算する。
【0025】
以上のように、本実施の形態においては、微弱な放射線を放射するラジオアイソトープを用い、該ラジオアイソトープから放射された放射線をフォトンカウンティング方式で検出して処理するようにしたので、資格が不要で使用する機器類も手軽なものとなりコスト低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 腐食診断装置
3 管
5 放射線照射手段
7 テストピース
9 フォトンカウンティングセンサ
10 フォトンカウンティング画像形成手段
11 分布処理手段
13 画像処理手段
15 擬似立体処理手段
17 表示手段
19 演算手段
21 腐食画像取得装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を被検査体に照射して前記被検査体を透過した放射線に基づいて前記被検査体の腐食状態を示す腐食画像を取得する腐食画像取得方法であって、
被検査体を透過した放射線を検出する検出手段としてフォトンカウンティングセンサを用い、フォトンカウンティングセンサで得られた結果に基づいて被検査体の腐食状態を示す腐食画像を形成するようにしたことを特徴とする腐食画像取得方法。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食画像取得方法を用いて被検査体の腐食状態を診断する腐食診断方法であって、形成された腐食画像に基づいて被検査体の腐食状態を診断することを特徴とする腐食診断方法。
【請求項3】
放射線を被検査体に照射する放射線照射手段と、前記被検査体を透過した放射線をフォトンカウンティング方式で検出するフォトンカウンティングセンサと、該フォトンカウンティングセンサの信号に基づいてフォトンカウンティング画像を形成するフォトンカウンティング画像形成手段と、該フォトンカウンティング画像形成手段によって形成されたフォトンカウンティング画像を分布処理する分布処理手段と、分布処理された分布画像を画像処理する画像処理手段と、画像処理手段によって処理された画像をエンボス処理して擬似立体画像を作成する擬似立体処理手段とを備えたことを特徴とする腐食画像取得装置。
【請求項4】
請求項3に記載の腐食画像取得装置を用いて被検査体の腐食状態を診断する腐食診断装置であって、画像処理手段によって得られた画像に基づいて被検査体の腐食深さを演算する演算処理手段を備えたことを特徴とする腐食診断装置。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−7727(P2011−7727A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153590(P2009−153590)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】