腫瘍組織で選択的に分解性を示す血中滞留性素子
【課題】表面をポリアルキレングリコールなどで修飾したリポソームやMENDなどの脂質膜構造体を微粒子キャリアーとして用いて抗腫瘍剤や悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を標的腫瘍細胞内に送達するにあたり、標的腫瘍細胞の内部に抗腫瘍剤や遺伝子を効率的に取り込ませる手段を提供する。
【解決手段】アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類などのアルコール化合物であり、(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、又はホスファチジルセリン類などのリン脂質であり、及び(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)リン脂質誘導体。
【解決手段】アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類などのアルコール化合物であり、(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、又はホスファチジルセリン類などのリン脂質であり、及び(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)リン脂質誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを介してポリアルキレングリコールなどが結合されており、リポソームなどの脂質膜構造体の構成脂質として有用なリン脂質誘導体、及び該リン脂質誘導体を含み、腫瘍組織で選択的に分解性を示す血中滞留性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を患部に特異的に輸送する手段としてリポソームに薬剤を封入する方法が提案されている。特に、悪性腫瘍の治療分野において抗腫瘍剤を封入したリポソームの有効性が数多く報告されている。また、多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND: Multifunctional envelope-type nano device;以下、本明細書において「MEND」と略す場合がある。)が提案されており、この構造体は、遺伝子などを特定の細胞内に選択的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして用いることができ、例えば、腫瘍の遺伝子治療などに有用であることが知られている。
【0003】
もっとも、リポソームや上記のMENDなどの微粒子キャリアーは静脈内に投与した場合に血液中での滞留性が悪く、肝臓や脾臓などの細網内皮系組織に捕捉され易いという問題を有している。また、これらの微粒子キャリアーでは、封入物の漏出が起きたり、微粒子が凝集するという問題もある。これらの問題は、薬剤を封入したリポソームや遺伝子を封入した上記のMENDを用いて標的臓器や標的細胞に薬剤や遺伝子を送達させるターゲッティング療法を行うに際して大きな障害となっていた。
【0004】
上記の問題を回避するための手段として、リポソームなどの微粒子キャリアーの表面をポリアルキレングリコール(PEG: ポリエチレングリコールなど)で修飾する手段が提案されている(Biochim. Biophys. Acta, 1066, pp.29-36, 1991; FEBS Lett., 268, pp.235-237, 1990; Biochim. Biophys. Acta, 1029, pp.91-97, 1990)。この手段は、PEGによる水和層がリポソームなどの微粒子キャリアを覆うと血清タンパク吸着などオプソニン化が抑制され、その結果、マクロファージによる貪食と細網内皮系組織による取り込みを回避できることに基づく。この目的のために、ポリアルキレングリコールを結合したリン脂質が提案されており、このリン脂質を用いてリポソームの表面をポリアルキレングリコールで修飾できることが知られている。また、粒子径を100〜200 nmに制御したPEG修飾リポソームはEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果により固形腫瘍にほぼ選択的に集積し、血中に再び回収されることなく長時間にわたり腫瘍内に維持される(EPR効果についてCancer Res., 46, pp.6387-6392, 1986を参照のこと)。
【0005】
しかしながら、リポソームなどの微粒子キャリアーの表面をポリアルキレングリコールで修飾した場合には、血中滞留性は改善するものの、標的細胞の内部に微粒子キャリアーが取り込まれにくくなるという新たな問題が生じることが知られている。この問題は、特に、薬剤封入リポソームや遺伝子封入MENDを用いて標的腫瘍細胞に特異的に抗腫瘍剤や遺伝子を送達するターゲッティング治療において、期待したほどの治療効果を達成できず、また標的腫瘍細胞に送達されなかった抗腫瘍剤や遺伝子による副作用も十分に回避できないという深刻な問題を引き起こしている。
【0006】
一方、腫瘍細胞は増殖や浸潤・転移の過程で細胞外マトリックス(ECM)を分解・再構築するが、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が重要な役割を果たしていることが知られている(Cell. 91, pp.439-442, 1997; APMIS, 107, pp.137-143, 1999)。MMPには20以上のファミリーが同定されており、分泌型と細胞膜上に存在する膜型に分類されている。MMPはコラーゲンなどのECMを分解する機能を有しているが、最近の研究でMMPにより特異的に分解・切断されるペプチド配列が明らかとなっている(Nature Biotechnology, 19, pp.661-667, 2001)。
【0007】
また、リポソームの構成脂質として利用可能なペプチド結合リン脂質が知られている(特表2003-513009号公報)。上記公報には、このリン脂質のペプチドはPEG(ポリエチレングリコール)などで修飾されていてもよいとの説明がある(上記公報[0016]段落)。このリン脂質のペプチドがペプチダーゼにより開裂さると、この脂質を構成脂質として含むリポソームが不安定化して含有物がその部位で放出されるので、ペプチダーゼ分泌細胞に対して特異的に含有物を送達することができる。また、上記ペプチダーゼとしてはマトリックスメタロプロテアーゼを利用でき、腫瘍細胞をターゲットとしてリポソームを利用できることが教示されている(上記公報[0021]段落及び[0042]段落)。もっとも、このリン脂質を用いたリポソームによる薬剤又は遺伝子の送達効率は十分とは言えない。
【非特許文献1】Nature Biotechnology, 19, pp.661, 2001
【特許文献1】特表2003-513009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、表面をポリアルキレングリコールなどで修飾したリポソームやMENDなどの脂質膜構造体を微粒子キャリアーとして用いて抗腫瘍剤や悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を標的腫瘍細胞内に送達するにあたり、標的腫瘍細胞の内部に抗腫瘍剤や遺伝子を効率的に取り込ませる手段を提供することにある。より具体的には、上記の脂質膜構造体を調製するために用いることができ、標的腫瘍細胞の内部に抗腫瘍剤や遺伝子を効率的に取り込ませる手段として利用可能なリン脂質誘導体を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、ポリアルキレングリコールなどで修飾した特定のリン脂質において、ポリアルキレングリコールなどの修飾部分とリン脂質部分との間にマトリックスメタロプロテアーゼにより加水分解可能なオリゴペプチドを介在させ、その脂質を用いてリポソームやMENDなどの脂質膜構造体を調製して抗腫瘍剤や遺伝子などの微粒子キャリアーとして用いると、血中においてはポリアルキレングリコールなどの修飾部位の存在により該リポソームやMENDの高い血中滞留性が保たれる一方で、標的腫瘍組織に到達した該リポソームやMENDでは、マトリックスメタロプロテアーゼにより該オリゴペプチド部分が加水分解されてポリアルキレングリコールなどの修飾部位が脱離することになる。その結果、一つは、ポリアルキレングリコールなどの修飾部位が脱離したリポソームやMENDの安定性が低下してその構造を保つことができずに、脂質膜構造体に保持された抗腫瘍剤等を標的腫瘍細胞の外部にて放出する方法によって、またもう一つは、ポリアルキレングリコールなどによる修飾が脱離したリポソームやMENDに変化してこれらの脂質膜構造体がそのまま標的腫瘍細胞に効率的に取り込まれる方法によって、あるいはこれら二つの方法が合わさることによって、極めて高い導入率で抗腫瘍剤や遺伝子を標的腫瘍細胞内に送達できることを見出した。また、このようにして効率的に抗腫瘍剤や遺伝子を標的細胞に送達することにより、極めて高い抗腫瘍効果を達成できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により、アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
リン脂質誘導体が提供される。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類であり、該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン類であり、該ペプチドがVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyを含むペプチドである上記のリン脂質誘導体;該アルコール化合物がポリエチレングリコールであり、該リン脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミンであり、該ペプチドがGly-Gly-Glyをリンカーとして含む上記のリン脂質誘導体;及び、該ペプチドがGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyである上記のリン脂質誘導体が提供される。
【0012】
別の観点からは、上記のリン脂質誘導体を構成脂質として含む脂質膜構造体が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体;及び、リポソームである上記脂質膜構造体が提供される。
さらに別の観点からは、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体を含む悪性腫瘍の治療のための医薬組成物が提供される。
これらに加えて、悪性腫瘍の治療方法であって、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリン脂質誘導体はマトリックスメタロプロテアーゼによりペプチド部分が切断されてポリアルキレングリコールなどの修飾部位を脱離する特性を有している。本発明のリン脂質誘導体を含むリポソームなどの脂質膜構造体は、血中においては該修飾部位の存在により安定であり、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌する悪性腫瘍細胞の近傍では、該修飾部位が脱離することにより脂質膜構造体の安定性が低下して、その構造を保つことができずに、脂質膜構造体に保持された抗腫瘍剤や遺伝子等を悪性腫瘍細胞の外部で放出することや該修飾部位が脱離した状態の脂質膜構造体が悪性腫瘍細胞中に効率的に取り込まれることによって、悪性腫瘍細胞中に薬剤や遺伝子を効率的に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のリン脂質誘導体は、アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
ことを特徴としている。
【0015】
アルコール化合物としては、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセリン又はグリセリンエステルなどのグリセリン類、あるいはジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、又はオクタグリセリンなどのポリグリセリン類を用いることができる。これらのうち、ポリアルキレングリコールが好ましく、特に好ましいのはポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールを用いる場合分子量は特に限定されず、脂質膜構造体に血中滞留性などの所望の特性を付与するために当業者が適宜選択可能である。
【0016】
アルコール化合物の残基とは、アルコール化合物又は化学修飾されたアルコール化合物から水素原子などの適宜の原子又は水酸基やハロゲン原子などの適宜の官能基を除いて得られる基を意味しており、好ましくは1価の基を意味している。例えば、アルコール化合物の水酸基から水素原子を除いて得られる残基、アルコール化合物の炭素原子に結合する水素原子を除いて得られる残基、あるいはアルコール化合物の末端にカルボキシル基を含む官能基を導入し、そのカルボキシル基から水酸基又は水素原子を除いて得られる残基などを例示できるが、これらに限定されることはない。
【0017】
リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、またはホスファチジン酸類を用いることができるが、これらのリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されない。例えば、炭素数12〜20個程度の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を1個又は2個有するリン脂質を用いることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を1個又は2個有するリン脂質を用いることができる。これらのうち、ホスファチジルエタノールアミン類が好ましく、特に好ましいのはジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)である。
【0018】
リン脂質の残基とは、上記のリン脂質又は化学修飾されたリン脂質から水素原子などの適宜の原子又は水酸基やハロゲン原子などの適宜の官能基を除いて得られる基を意味しており、好ましくは1価の基を意味している。例えば、リン脂質のリン酸部分の水酸基から水素原子を除いて得られる残基、リン脂質のリン酸部分の水酸基を除いて得られる残基、リン脂質の炭素原子に結合する水素原子を除いて得られる残基、あるいはリン脂質のリン酸部分にカルボキシル基を含む官能基を導入し、そのカルボキシル基から水酸基又は水素原子を除いて得られる残基などを例示できるが、これらに限定されることはない。
【0019】
アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間に含まれるペプチドは、マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを少なくとも1個含んでいる。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)には、例えば、MMP-1(間質型コラーゲナーゼ)、MMP-2(ゼラチナーゼA)、MMP-3、MMP-7、MMP-9(ゼラチナーゼB)などの存在が知られており、これらのうちの1種又は2種以上のマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを用いることができる。マトリックスメタロプロテアーゼについては、例えば、鶴尾隆編「癌転移の分子機構」、pp.92-107、メジカルビュー社、1993年発行などを参照することができる。
【0020】
マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドについては、例えば、上記非特許文献1(Nature Biotechnology, 19, pp.661-667, 2001)に特定の種類のマトリックスメタロプロテアーゼと、それに特異的に認識される基質ペプチドが説明されているので、この刊行物を参照することにより、特定の種類のマトリックスメタロプロテアーゼにより特異的に切断される基質ペプチドを選択することが可能である。例えば、MMP-9についてVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyが特異的基質として知られており、MMP-9の基質となりうる基質ペプチドとして上記のオクタペプチドを用いることが好ましい。上記非特許文献1の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
具体的には、マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドとして、Gly-Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln、Gly-Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln、Val-Pro-Met-Ser-Met-Arg-Gly-Gly、Ile-Pro-Val-Ser-Leu-Arg-Ser-Gly、Arg-Pro-Phe-Ser-Met-Ile-Met-Gly、Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Thr-Met-Gly、Ile-Pro-Glu-Ser-Leu-Arg-Ala-Gly、Arg-His-Asp、Arg-Pro-Lys-Pro-Val-Glu-Nva-Trp-Arg-Lys、Arg-Pro-Lys-Pro-Tyr-Ala-Nva-Trp-Met-Lys、Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln-Arg、Pro-Leu-Gly-Ile-Ala-Gly-Arg、Gly-Pro-Leu-Gly-Pro、Gly-Pro-Leu-Gly-Pro等を挙げることができる。
【0021】
アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間に含まれるペプチドは、基質ペプチドのほか、アルコール化合物の残基及び/又はリン脂質の残基との結合に関与するリンカーとして、1個のアミノ酸からなるリンカー、又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドからなるリンカーを含んでいてもよい。リンカーである該アミノ酸又は該オリゴペプチドは、該基質ペプチドの両端に結合していてもよいが、片端のみに結合していてもよい。該基質ペプチドの両端に該リンカーが結合している場合には、2つのリンカーは同一でも異なっていてもよい。リンカーを介さずに、基質ペプチドが直接アルコール化合物の残基及び/又はリン脂質の残基と結合していてもよい。本発明のリン脂質誘導体ではリンカーが存在することが好ましく、該基質ペプチドの両端に同一又は異なるリンカーが存在していることがさらに好ましく、該2個のリンカーが2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドからなる同一又は異なるリンカーであることがより好ましい。
【0022】
リンカーとして利用可能な1個のアミノ酸の種類、又はリンカーとして利用可能なオリゴペプチドを構成するアミノ酸は特に限定されず、任意の種類の1個のアミノ酸、又は任意の種類の2個ないし8個の同一又は異なるアミノ酸を含む任意のオリゴペプチドを用いることができる。リンカーとして利用可能なオリゴペプチドとしては、例えば、-Leu-Gly-、-Tyr-Gly-、-Phe-Gly-、-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Phe-Gly-Gly-、-Phe-Gly-Gly-Gly-、-Phe-Phe-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Gly-Phe-Phe-、-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-、-Phe-Phe-、-Ala-Gly-、-Pro-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Phe-、-Gly-、-D-Phe-Gly-、-Gly-Phe-、-Ser-Gly-、-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Leu-Gly-、-Gly-Gly-Tyr-Gly-、-Gly-Gly-Val-Leu-、-Gly-Gly-Leu-Leu-、-Gly-Gly-Phe-Leu-、-Gly-Gly-Tyr-Leu-、-Gly-Gly-Val-Gln-、-Gly-Gly-Leu-Gln-、-Gly-Gly-Ile-Gln-、-Gly-Gly-Phe-Gln-、-Gly-Gly-Tyr-Gln-、-Gly-Gly-Trp-Gln-、-Gly-Gly-Leu-Ser-、-Gly-Gly-Phe-Ser-、-Gly-Gly-Tyr-Ser-、-Gly-Gly-Val-Thr-、-Gly-Gly-Leu-Thr-、-Gly-Gly-Phe-Thr-、-Gly-Gly-Tyr-Thr-、-Gly-Gly-Trp-Thr-、-Gly-Gly-Val-Met-、-Gly-Gly-Leu-Met-、-Gly-Gly-Ile-Met-、-Gly-Gly-Phe-Met-、-Gly-Gly-Tyr-Met-、-Gly-Gly-Val-Cit-、-Gly-Gly-Leu-Cit-、-Gly-Gly-Phe-Cit-、-Gly-Gly-Tyr-Cit-、-Gly-Gly-Trp-Cit-、-Gly-Gly-Gly-Asn-、-Gly-Gly-Ala-Asn-、-Gly-Gly-Val-Asn-、-Gly-Gly-Leu-Asn-、-Gly-Gly-Ile-Asn-、-Gly-Gly-Gln-Asn-、-Gly-Gly-Thr-Asn-、-Gly-Gly-Phe-Asn-、-Gly-Gly-Tyr-Asn-、-Gly-Gly-Met-Asn-、-Gly-Gly-Pro-Asn-、-Gly-Gly-Cit-Asn-、-Gly-Gly-Trp-Gly-、-Gly-Gly-Ser-Asn-、-Gly-Gly-Pro-Ala-、-Gly-Gly-Pro-Val-、-Gly-Gly-Pro-Leu-、-Gly-Gly-Pro-Ile-、-Gly-Gly-Pro-Gln-、-Gly-Gly-Pro-Ser-、-Gly-Gly-Pro-Tyr-、-Gly-Gly-Pro-Met-、-Gly-Gly-Met-Pro-、-Gly-Gly-Pro-Pro-、-Gly-Gly-Pro-Cit-、-Gly-Gly-Ile-Leu-、-Gly-Gly-Ile-Cit-などを例示することができるが、これらに限定されることはない。これらのうち、-Gly-Gly-又は-Gly-Gly-Gly-がリンカーとして好ましい。
【0023】
本発明のリン脂質誘導体の製造方法は特に限定されないが、一般的には、上記リン脂質誘導体の部分構造であるアルコール化合物とペプチド化合物とを結合させ、得られたペプチド結合アルコール化合物のペプチド末端にリン脂質化合物を結合させることにより製造することができる。
アルコール化合物とペプチド化合物との結合は、一般的にはペプチド化合物のペプチド末端のアミノ基又はカルボキシル基とアルコール化合物の反応性官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、エステル基など)とを反応させることにより行なわれる。アルコール化合物にすでに存在する水酸基を反応性官能基として用いてもよいが、例えば、アルコール化合物の水酸基をカルボキシル基に酸化し、あるいはアルコール化合物にカルボキシル基を含む官能基を導入するなどの手法により、アルコール化合物にカルボキシル基を導入し、さらに必要に応じて該カルボキシル基をエステル化するなどの方法により、反応性官能基として用いることができる。
【0024】
典型的には、アルコール化合物のカルボキシル基又はエステル基などの反応性官能基とペプチド化合物のアミノ基とを反応させてアミド結合を形成することにより、ペプチド結合アルコール化合物を製造することができる。この反応として、一般的には、酸ハライド法、活性エステル法、又は酸無水物などの方法を用いることができる。
【0025】
酸ハライド法では、不活性溶媒中でカルボキシル基を有するアルコール化合物をハロゲン化剤で処理して酸ハライドとした後に、得られた酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基とを反応させることによって目的物を得ることができる。酸ハライドを生成するための反応で使用される溶媒の種類は特に限定されず、反応を阻害せずに出発物質を溶解するものであればいかなる溶媒を用いてもよい。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル類、ギ酸エチル、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒が好適である。ハロゲン化剤としては、例えば、チオニルクロリド、チオニルブロミド、チオニルアイオダイドのようなチオニルハライド類、スルフリルクロリド、スルフリルブロミド、スルフリルアイオダイドのようなスルフリルハライド類、三塩化燐、三臭化燐、三沃化燐のような三ハロゲン化燐類、五塩化燐、五臭化燐、五沃化燐のような五ハロゲン化燐類、オキシ塩化燐、オキシ臭化燐、オキシ沃化燐のようなオキシハロゲン化燐類、塩化オキザリル、臭化オキザリルのようなハロゲン化オキザリル類などを挙げることができる。反応温度は、0℃ないし溶媒の還流温度で行うことができ、好適には室温ないし溶媒の還流温度である。
【0026】
得られた酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基との反応で使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質を溶解するものであれば特に限定はないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、ギ酸エチル、酢酸エチルのようなエステル類、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類、またはそれらの混合溶媒を挙げることができる。酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基との反応では、必要に応じてトリエチルアミン、ピリジンのような有機塩基を添加することもできる。
【0027】
活性エステル化法は、溶媒中、アルコール化合物のカルボキシル基を活性エステル化剤と反応させて活性エステルを製造した後、ペプチド化合物のアミノ基と反応させることによって行われる。溶媒としては、例えば、メチレンクロリド、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒を挙げることができる。活性エステル化剤としては、例えば、N-ヒドロキシサクシイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3- ジカルボキシイミドのようなN-ヒドロキシ化合物類;1,1'- オキザリルジイミダゾール、N,N'- カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類;2,2'-ジピリジルジサルファイドのようなジサルファイド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルカーボネートのようなコハク酸化合物類;N,N'-ビス(2- オキソ-3- オキサゾリジニル)ホスフィニッククロライドのようなホスフィニッククロライド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルオキザレート(DSO)、N,N'-ジフタルイミドオキザレート(DPO)、N,N'-ビス(ノルボルネニルサクシンイミジル)オキザレート(BNO)、1,1'- ビス(ベンゾトリアゾリル)オキザレート(BBTO)、1,1'- ビス(6- クロロベンゾトリアゾリル)オキザレート(BCTO)、1,1'- ビス(6-トリフルオロメチルベンゾトリアゾリル)オキザレート(BTBO)のようなオキザレート化合物類などを挙げることができる。
【0028】
ペプチド化合物のアミノ基と活性エステルとの反応は、例えば、アゾジカルボン酸ジエチル−トリフェニルホスフィンのようなアゾジカルボン酸ジ低級アルキル−トリフェニルホスフィン類、N-エチル-5-フェニルイソオキサゾリウム-3'-スルホナートのようなN-低級アルキル-5- アリールイソオキサゾリウム-3'-スルホナート類、ジエチルオキシジフォルメート(DEPC)のようなオキシジフォルメート類、N',N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) のようなN',N'-ジシクロアルキルカルボジイミド類、ジ-2-ピリジルジセレニドのようなジヘテロアリールジセレニド類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、p-ニトロベンゼンスルホニルトリアゾリドのようなアリールスルホニルトリアゾリド類、2-クロル-1- メチルピリジニウム ヨーダイドのような2-ハロ-1- 低級アルキルピリジニウムハライド、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)のようなジアリールホスホリルアジド類、N,N'-カルボジイミダゾール(CDI) のようなイミダゾール誘導体、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)のようなベンゾトリアゾール誘導体、N-ヒドロキシ-5- ノールボルネン-2,3- ジカルボキシイミド(HONB)のようなジカルボキシイミド誘導体、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物などの縮合剤の存在下に好適に行われる。活性エステルの調製のための反応温度は-10℃ないし室温であり、活性エステル化合物とペプチド化合物のアミノ基との反応は室温付近であり、反応時間は両反応共に30分ないし10時間程度である。
【0029】
混合酸無水物法は、アルコール化合物のカルボキシル基の混合酸無水物を製造した後、ペプチド化合物のアミノ基を反応させることにより行われる。混合酸無水物を製造する反応は、不活性溶媒(例えば、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類)中、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸イソブチルのような炭酸低級アルキルハライド、ジエチルシアノリン酸のようなジ低級アルキルシアノリン酸などを用いて行なうことができる。反応は、好適にはトリエチルアミン、N-メチルモルホリンのような有機アミンの存在下に行われ、反応温度は-10℃ないし室温であり、反応時間は30分ないし5時間程度である。混合酸無水物とペプチド化合物のアミノ基との反応は、好適には不活性溶媒(例えば、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類)中で前記の有機アミンの存在下に行われ、反応温度は0℃ないし室温であり、反応時間は1時間ないし24時間程度である。また、カルボン酸とアミン化合物とを前記の縮合剤の存在下で直接反応させることによって縮合を行なうこともできる。この反応は前記の活性エステルを製造する反応と同様にして行われる。
【0030】
続いて、得られたペプチド結合アルコール化合物の反応性官能基(例えばカルボキシル基や水酸基など)とリン脂質化合物の反応性官能基(例えば、カルボキシル基やアミノ基など)とを反応させることにより、本発明のリン脂質誘導体を得ることができる。例えば、リン脂質化合物としてホスファチジルエタノールアミン類を用いる場合には、該リン脂質化合物のアミノ基と、ペプチド結合アルコール化合物のペプチド末端のカルボキシル基とを反応させることにより、本発明のリン脂質誘導体を製造できる。この反応は上記に説明した反応と同様に行なうことができ、例えば、縮合剤の存在下で活性エステル法などにより行なうことが好ましい。
【0031】
上記の各反応において、保護基を導入することにより目的の反応を効率的に行なうことができる場合がある。保護基の導入については、例えば、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(P. G. M. Wuts and T. Green, 第3版、1999年、Wiley, John & Sons)などを参照することができる。目的物の単離及び精製は当業界で用いられる通常の方法により行なうことができるが、例えば、高速液体クロマトグラフィーなどによる精製が好適である。なお、本発明のリン脂質誘導体には、塩の形態の物質も包含される。塩の種類としては、特に限定されないが、塩酸塩や硫酸塩などの鉱酸塩、シュウ酸塩や酢酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩やカリウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、メチルアミン塩などの有機アミン塩などを例示できる。
【0032】
本発明により提供される脂質膜構造体の種類は特に限定されないが、脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、例えば、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができる。これらのうちリポソームが好ましい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には粒子径が50 nmから5 μmであり、球状ミセルの場合、粒子径が5 nmから100 nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5 nmから10 nmであり、これらが層を形成しているものが好ましい。
【0033】
本発明により提供される脂質膜構造体は、本発明により提供される上記のリン脂質誘導体のほか、通常用いられるリン脂質類、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、炭素数8〜22の飽和又は不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含んでいてもよい。リン脂質類としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、又はホスファチジン酸類等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、本発明の脂質膜構造体の調製には、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然物由来のリン脂質を用いることもできる。また、例えば、1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)、1-N,N-ジメチルアミノジオレオイルプロパン(DODAP)、1-オレオイル-2-ヒドロキシ-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、1,2-ジアシル-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、1,2-ジデカノイル-1-N,N-ジメチルアミノプロパン、3-β-[n-[(N',N'-ジメチルアミノ)エタン]カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、1,2-ジミリストオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DMRIE)、および1,2-ジオールオエオオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DORI)などを用いることもできる。
【0034】
本発明の脂質膜構造体には、膜構成脂質として、例えば、血中滞留性機能、温度変化感受性機能、及びpH感受性機能などを有する脂質誘導体を含有させることができ、それによりこれらの機能のいずれか1つ又は2つ以上を付与することができ、こ(れら)の機能を付加することによって、例えば、薬剤及び/又は遺伝子を含む脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓又は脾臓などの細網内皮系組織による捕捉率を低下させることができ、あるいは薬剤及び/又は遺伝子の放出性を高めることができる。
【0035】
血中滞留性機能を付与することができる血中滞留性脂質誘導体としては、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-750}-1,2−ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン等のポリエチレングリコール誘導体等を挙げることができる。
【0036】
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。また、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
【0037】
本発明の脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、脂質膜構造体の膜構成成分であるリン脂質等とともに本発明のリン脂質誘導体が脂質膜構造体を形成している形態が好ましい。より具体的には、例えば、本発明のリン脂質誘導体が、他のリン脂質等から構成される脂質膜構造体の脂質膜中、脂質膜表面、脂質膜構造体内部、脂質層中、及び脂質層表面からなる群から選ばれる1以上の部分に存在(結合)している形態を挙げることができる。さらに好ましくは、本発明のリン脂質誘導体がその他のリン脂質等とともに膜構成成分となって脂質膜構造体、例えばリポソームを形成した形態を挙げることができる。
【0038】
本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は特に限定されないが、形態としては、例えば、乾燥した混合物の形態、あるいは水系溶媒に分散された形態又はこれを乾燥させた形態若しくは凍結させた形態等を挙げることができる。以下に、これらの形態の脂質膜構造体を製造する方法を説明するが、本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は上記の形態又は下記に説明する製造方法に限定されることはない。
【0039】
本発明の脂質膜構造体の製造方法は特に限定されないが、例えば、乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の構成成分全てを一旦クロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
【0040】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されるべきものではなく、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)等を加えてもよい。この水系溶媒(分散媒)に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)中の電解質を極力なくすことが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定することや窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが望ましい。
【0041】
さらに脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態を乾燥又は凍結させた形態は、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体を通常の凍結乾燥や噴霧乾燥による乾燥又は凍結方法等により製造することができる。水系溶媒に分散した形態の脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に薬効成分含有水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために薬効成分を効率よく脂質膜構造体に保持させることができる長所がある。
【0042】
凍結乾燥や噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定に長期間保存することができる。また、凍結する場合には、例えば、前記した糖(水溶液)やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール(水溶液)をそれぞれ用いると安定に長期間保存することができる。糖と多価アルコールとを組み合わせて用いてもよい。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態における糖又は多価アルコールの濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体が水系溶媒に分散した状態において、例えば、糖(水溶液)は、2〜20%(W/V)が好ましく、5〜10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコール(水溶液)は、1〜5%(W/V)が好ましく、2〜2.5%(W/V)がさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)として、緩衝液を用いる場合には、緩衝剤の濃度が5〜50 mMが好ましく、10〜20 mMがさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)における脂質膜構造体の濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体における脂質総量の濃度は、0.1 mM〜500 mMが好ましく、1 mM〜100 mMがさらに好ましい。
【0043】
本発明の脂質膜構造体には抗腫瘍剤などの薬剤及び/又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子などを保持させることができる。「保持」とは、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が脂質膜構造体の脂質膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在することを意味する。脂質膜構造体が、例えばリポソームなどの微粒子である場合には、微粒子内部に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を封入することもできる。脂質膜構造体に保持させるべき抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の量は特に限定されず、そ(れら)の薬効を生体(細胞)内で有効に発揮させるのに充分な量であればよい。抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類も特に限定されず、悪性腫瘍の種類や脂質膜構造体の形態などにより適宜決定すればよい。
【0044】
抗腫瘍剤としては、例えば、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、エキサテカン、RFS-2000、Lurtotecan、BNP-1350、Bay-383441、PNU-166148、IDEC-132、BN-80915、DB-38、DB-81、DB-90、DB-91、CKD-620、T-0128、ST-1480、ST-1481、DRF-1042、DE-310等のカンプトテシン誘導体、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、IND-5109、BMS-184476、BMS-188797、T-3782、TAX-1011、SB-RA-31012、SBT-1514、DJ-927等のタキサン誘導体、イホスファミド、塩酸ニムスチン、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、6−メルカプトプリンリボシド、エノシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エビルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸ブレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、ネオカルチノスタチン、マイトマイシンC、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、塩酸アムルビシン、ゲフィニチブ、エキセメスタン、カペシタビン、TNP-470、TAK-165、KW-2401、KW-2170、KW-2871、KT-5555、KT-8391、TZT-1027、S-3304、CS-682、YM-511、YM-598、TAT-59、TAS-101、TAS-102、TA-106、FK-228、FK-317、E7070、E7389、KRN-700、KRN-5500、J-107088、HMN-214、SM-11355、ZD-0473等を挙げることができる。
【0045】
遺伝子とは、核酸をあらわし、オリゴヌクレオチド、DNA、又はRNAのいずれでもよく、イン・ビボで発現することにより抗悪性腫瘍作用する遺伝子、例えば、悪性腫瘍の遺伝子治療用の遺伝子等を挙げることができる。遺伝子治療用遺伝子としては、悪性腫瘍における血管新生や細胞増殖に関わるアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、shRNA、siRNAや酵素、サイトカイン等の生理活性物質、アンチセンスRNA、shRNA、siRNAをコードする遺伝子等を挙げることができる。
【0046】
脂質膜構造体が遺伝子を含む場合、悪性腫瘍細胞内へ遺伝子を効率的に導入するために、脂質膜構造体の構成成分として遺伝子導入機能を有する化合物を加えることが好ましい。このような化合物としては、O,O'-N-ジドデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジテトラデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジヘキサデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジオクタデセノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O',O''-トリデカノイル-N-(ω−トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びのる[α−トリメチルアンモニオアセチル]−ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[n-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール等を挙げることができる。これらの遺伝子導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中及び/又は脂質層の表面に存在(結合)している形態が好ましい。
【0047】
また、脂質膜構造体には、悪性腫瘍細胞やマトリックスメタロプロテアーゼを特異的に認識する抗体を保持させておいてもよい。抗体としてはモノクローナル抗体が好ましい。抗体は、例えば、単一のエピトープに対する1種類のモノクローナル抗体を用いてもよいが、各種のエピトープに対する特異性を持つ2種以上のモノクローナル抗体を組み合わせて用いてもよい。1価抗体又は多価抗体のいずれを用いてもよい。天然型(intact)分子又はそのフラグメント若しくは誘導体を用いてもよい。例えば、F(ab')2、Fab'及びFabなどのフラグメントを用いてもよく、少なくとも二つの抗原又はエピトープ (epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又はクワドローム(quadrome), トリオーム(triome)などの二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾あるいは加工などがされた誘導体を用いることもできる。公知の細胞融合又はハイブリドーマ技術や抗体工学を適用し、合成あるいは半合成技術を使用して得られた抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用し、DNA 組換え技術を用いて調製される抗体、あるいは標的エピトープに関して中和特性を有する抗体や結合特性を有する抗体を用いてもよい。
【0048】
抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持する本発明の脂質膜構造体は、悪性腫瘍の治療のための医薬組成物として用いることができる。本発明の医薬組成物の存在形態及びその製造方法は特に限定されず、上記の脂質膜構造体と同様の形態として調製することが可能である。例えば、形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態を挙げることができる。
【0049】
混合乾燥物形態は、例えば、脂質膜構造体の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させて混合物を得て、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥に付することにより製造することができる。脂質膜構造体と抗腫瘍剤などの薬効成分及び/又は遺伝子とを含む水系溶媒に分散した形態の医薬組成物の製造方法としてはいくつかの方法が知られており、脂質膜構造体における抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の保持様式や混合物の性状などに応じて、下記のように適宜の製造方法を選択することができる。
【0050】
製造方法1
上述の混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。この方法の場合、まず、脂質膜構造体の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合乾燥物を作るために、脂質膜構造体、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を有機溶媒に溶解する必要があるが、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子と脂質膜構造体の構成成分との相互作用を最大限に利用できる長所がある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、この製造方法を用いると抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の脂質膜構造体への保持率を高くできる長所がある。
【0051】
製造方法2
脂質膜構造体の構成成分を有機溶媒で一旦溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解し得る抗腫瘍剤及び/又は遺伝子に適用できる。脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持できる長所がある。
【0052】
製造方法3
水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、又は層状構造物などの脂質膜構造体に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。対象となる抗腫瘍剤及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。既にでき上がっている脂質膜構造体に外部から抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を添加する方法であることから、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が高分子の場合には、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は脂質膜構造体の内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に存在(結合)した存在様式をとる可能性がある。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この製造方法3を用いると、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)を形成することが知られている。この製造方法では、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時における抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の分解等を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。したがって、製造方法1や製造方法2に比べて比較的容易に製造することができる。
【0053】
製造方法4
水系溶媒に分散した脂質膜構造体を製造して乾燥することにより得られた乾燥物に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。製造方法3と同様に対象となる抗腫瘍剤及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。製造方法3との相違点は、脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との存在様式にあり、この製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造することから、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるためには、前記したように水系溶媒に、さらに糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。ここで、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに速やかに水和し始め、脂質膜構造体を再構築することができる。この時、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が脂質膜構造体内部に保持された形態の構造体が製造できる。
【0054】
製造方法3では、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が高分子の場合には、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるが、製造方法4はこの点で大きく異なる。すなわち、この製造方法4は、脂質膜構造体単独の分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。従って、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易である。また、この他に、一旦凍結乾燥又は噴霧乾燥を行うため、製剤(医薬組成物)としての保存安定性を保証し易く、乾燥製剤を薬効成分及び/又は遺伝子の水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元に戻せること、高分子の抗腫瘍剤及び/又は遺伝子であっても、脂質膜構造体内部に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持させ易いことなどの長所がある。
【0055】
脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態を製造するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られた方法、例えば逆相蒸発法などを採用できる。大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。また、上記の脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥等を挙げることができる。この時の水系溶媒としては、上述の糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この場合の水系溶媒としては、糖(水溶液)や多価アルコール(水溶液)を添加した溶媒を用いるのが好ましい。
【0056】
製造方法5
抗体を脂質膜構造体の表面に保持させた脂質膜構造体は、上記の製造方法1〜4に準じて、脂質膜の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで抗体を添加することで、抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
【0057】
製造方法6
抗体を脂質膜構造体の表面に保持させた脂質膜構造体は、上記の製造方法1〜4に準じて、脂質膜の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで、抗体及び抗体中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体を添加することで、抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
【0058】
本発明の脂質膜構造体の調製において配合し得る脂質は、使用する抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、抗腫瘍剤を用いる場合には、抗腫瘍剤1質量部に対して、総脂質として0.1〜1000質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。また、遺伝子を用いる場合には、遺伝子1μgに対して、総脂質として1から500 nmolが好ましく、10から200 nmolがより好ましい。
【0059】
抗腫瘍剤及び/又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した脂質膜構造体を含む本発明の医薬組成物は、腫瘍の治療に有用である。本発明の医薬組成物により治療可能な悪性腫瘍の種類は特に限定されないが、特にマトリックスメタロプロテアーゼの発現が多い悪性腫瘍が好適である。悪性腫瘍細胞としては、例えば、線維肉腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、乳癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、甲状腺腫瘍、尿路上皮癌、グリア芽細胞腫、急性骨髄性白血病、膵管癌及び前立腺癌等の細胞を挙げることができるが、これらの細胞に限定されることはない。また、本発明の医薬組成物をヒト等の動物や実験用細胞に投与すると、腫瘍内部における血管新生先端部位に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を効率的に送達することができる。腫瘍内部における血管新生先端部位としては、ruffling edgeの内皮細胞(endothelial cells)などを挙げることができるが、これに限定されることはない。
【0060】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の医薬組成物をヒトを含む哺乳類動物に投与すると、血中においてはポリアルキレングリコールなどの修飾部位の存在により優れた血中滞留性が得られ、一方、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌する悪性腫瘍細胞の近傍では、該修飾部位が脱離することにより、本発明の医薬組成物に含まれる抗腫瘍剤等が放出されることや該医薬組成物が悪性腫瘍細胞により取り込まれ易くなることにより、該細胞に対して抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の効果を発揮させることができる。
【0061】
本発明の脂質膜構造体を含む医薬組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれも選択可能である。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等を挙げることができる。これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射を挙げることができる。本発明の医薬組成物の投与量及び投与期間などは特に限定されず、有効成分として作用する抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類や保持量、脂質膜構造体の種類、悪性腫瘍の種類や患者の体重、年齢など、種々の条件に応じて適切な投与量及び投与期間を適宜選択可能である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
NHSは和光純薬より購入した。DCCは関東化学より購入した。GPCはTosoh8120(東ソー株式会社)、検出器Tosoh HLC-8120(RI)、カラムTSK-Gel SuperHZ3000,2500を使用し、キャリアをTHF、流速を0.35 mL/min、温度を40℃に設定した。1H-NMR はJEOL EX-400(400MHz)使用し測定した。TOF-MSはBruker MALDI-TOF-MS Reflex IIを使用し測定した。透析膜Spectra/Por Membren MWCO:1,000はSpectrumより購入した。ペプチドはグライナージャパンより購入した。配列はGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyであり分子量は1178.9であった。
【0063】
(1) ポリエチレングリコール(PEG)の合成
アルゴン下、ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF、20mL)を添加し、スターラーで撹拌しながら、重合開始剤として2-メトキシエタノールを80μL添加した。続いてカリウムナフタレニド(0.342 mol/L)を2.9 mL添加した。次にエチレンオキサイド(EO)を2.3 mL(45 mmol)を添加した。常圧下、常温で撹拌しながら48時間反応した。48時間後、反応溶液の一部(約2 mL)を取りゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。数平均分子量(Mn)は1,678であり、重量平均分子量(Mw)は1,825であった。また、Mw/Mnで求められる多分散度は1.078と小さく、GPCで単分散のピークが得られたことから、PEGの重合が十分に進んでいると判断した。
【0064】
(2) PEG末端のカルボキシル化
上記(1)で得た反応液のうち半量の12.5 mLをアルゴン下でナスフラスコに添加し、無水コハク酸(0.727 mol/L)を3.5 mL添加し、常温で24時間、スターラーで撹拌しながらPEG重合の停止反応を行なった。24時間後、反応液をジエチルエーテル(1 L)で沈殿させた。沈殿物を濾取してビーカーに取り、メタノールで溶解した。再びジエチルエーテル(1 L)で沈殿させ、沈殿物を濾取してメタノールに溶解し、蒸留水で透析した。透析後、ナスフラスコに移して凍結乾燥を行ない、淡黄色の粉末(0.904 g)を得た。GPCにより分子量を測定したところ、Mnは1,773、Mwは1,903であった。多分散度は1.073であり、単分散のピークが得られたことから、副反応なく反応が進行していることが確認できた。また、1H-NMRスペクトルを測定したところ、3.4 ppm付近のメトキシ基(OMe)由来のピークと2.6 ppm付近の -CO-CH2CH2-CO-由来のピークの積分比はほぼ1:1であり、末端にカルボン酸を導入したことが確認された。
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm) 2.62 (s, COCH2CH2CO, 4H), 3.38 (s, 3H), 3.65 (s, 176H), 4.26 (t, 2H).
【0065】
(3) PEG末端のカルボキシル基の活性エステル化(MeO-PEG-NHSの合成)
上記(2)で得た化合物 0.2 gを50 mL用スクリュー管に添加した。NHS 57.6 mg、DCC 41.26 mg、及びクロロホルム 10 mLをスクリュー管に添加し、スターラーで撹拌しながら常温で24時間反応した。反応終了後、固体を除くためにろ過を行ない、ろ液を300 mLのジエチルエーテルで沈殿させた。沈殿物を濾取して乾燥し、得られた固体をビーカーに取り、クロロホルムに溶解した。ジエチルエーテルでの沈殿及び濾取を2度繰り返し、得られた固体をクロロホルムに溶解して100 mLナスフラスコに入れ、溶媒を留去した後にベンゼンを添加して凍結乾燥し、淡褐色粉末(104 mg)を得た。TOF-MSによるMnは2192.12であり多分散度は1.02であった。
【0066】
TOF-MSスペクトルから各ピークの間隔は44でありこれはPEGのそれぞれのユニットの分子量であることが確認できた。TOF-MSスペクトルでの各ピークの測定値と理論値を比較することにより、末端に目的の官能基が導入できたかを確認することができる。表1に各n数に対する分子量の理論値と測定値を示した。各nに対する測定誤差は2mass以内であり、目的とする化合物が得られたことを示している。また、1H-NMRスペクトルを測定したところ、NHS基の導入率(3.37 ppmのメトキシ基に由来するピークと2.84 ppmの NHS基に由来するピークの積分比)は97.3%であり、ほぼ100%の割合でNHS基が導入されたことが確認できた。
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm) 2.78 (t, 2H), 2.84 (s, 4H), 2.95 (t, 2H), 3.37 (s, 3H), 3.64 (s, 176H), 4.26 (t, 2H)
【0067】
【表1】
【0068】
(4) PEG-ペプチドの合成
ペプチド 24.6 mgにジメチルスルホキシド(DMSO) 1 mL、上記(3)で得た化合物 41.17 mg、及びトリエチルアミン 5μLを添加し、常温で3時間振とうして反応させた。HPLCにより反応終了を確認し、凍結乾燥して白色粉末(66.76 mg)を得た。TOF-MSを測定したところMnは3223.82であり、理論値のである3255.93とは32mass違っていたが、分子量の分布をもっていることからPEG 由来の化合物であり、PEG-ペプチドであると推定された。また、多分散度は1.01で、単分散のピークであることから反応は定量的に進行していることを確認した。1H-NMRスペクトルを測定したところ、6.6-7.4 ppmにペプチド中のチロシンのベンゼン環由来のピークを確認した。3.38 ppm付近のメトキシ基に由来するピークとチロシンのベンゼン環由来のピークの積分比がモル比で1:1であることから、PEG末端へペプチドが100%導入されていることが確認できた。
【0069】
(5) PEG-ペプチド-DOPEの合成
例(4)で得たPEG-ペプチド 54.7 mgをクロロホルム 4 mLに溶解し、DOPE 24.7 mg、DCC 6.85 mg 、NHS 3.82 mg、及びトリエチルアミン 4.63μlを添加し、常温で48時間振とう反応させた。反応終了後、デシケーターによりクロロホルムを除き、再びクロロホルム 1.5 mLに溶解した。スターラーで撹拌しながらジエチルエーテル 100 mLに上記のクロロホルム溶液をゆっくり滴下し、PEG由来化合物を析出させた。常温で個体が沈殿するまで静置し、上清を除いた。ジエチルエーテル 50 mLを添加しスターラーで撹拌後、沈殿するまで静置して上清を取り除いた。沈殿物を水で溶解し、HPLCにて分離精製し、分取した画分を透析して凍結乾燥した。TOF-MSより求められたMnは3955.15、多分散度は1.00であった。ピークが分子量分布をもっていることからPEG由来のものであり、理論値3949.86との誤差は5.3massと近いことからPEG-ペプチド-DOPEであることが示された。1H-NMRスペクトルを測定したところ、3.35ppmのPEG末端メトキシ基由来のピークと、6.6-7.1ppmのペプチドのチロシンのベンゼン環由来のピークとの積分比は3:4.3とモル比がほぼ1:1であり、PEG-ペプチドと比較して大きな変化はなかった。
【0070】
例2
例1で得たPEG-ペプチド-DOPEがMMPで切断されるか否かを評価した。試験管内での評価では粒子径が増大することによりPEGの切断を確認できる系を用いた。DOPE分子は疎水基が親水基よりも大きなコーン型構造をしており、DOPEだけではリポソームを形成せず疎水基が外を向いたミセル様の逆ヘキサゴナル構造をとり、水相中ではそれらが凝集する形で安定化している。シリンダー型脂質ではラメラ構造(二重膜構造)つまりリポソーム構造を、逆コーン型脂質ではミセル構造を形成する(図1)。DOPEに一定の割合でPEG脂質を添加すると、ラメラ構造をとりリポソームを安定的に形成することが知られている。従って、PEG-ペプチド-DOPEを用いて調製したDOPE含有リポソームにマトリックスメタロプロテアーゼを作用させ、これによりペプチドの分解及びPEGの切断が起こると、PEGが切断されたDOPEではリポソームを形成できなくなり、ヘキサゴナル構造となって凝集が始まる。以上の仮説をPEG切断の評価方法として採用した。また、in vitroにおけるPEG切断の評価としては、遺伝子発現活性を測定する方法を採用した。PEGの切断によりMENDと細胞膜との相互作用が上昇すれば、遺伝子発現活性の減少が抑制される。
【0071】
マトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP-2)はSIGMAより購入した。DOPE-PEGはAvantiより購入した。トリプシンはLife Technologiesより購入した。DISMICはAdvantecより購入した。逆相HPLCはModel1321H1(GILSON)、検出器はUV/VIS-155(GILSON)、カラムはSOSMOSIL 5C18-AR-II(Nacalai Tesque)を使用し、移動相は0.5% TFA-H2Oと0.5% TFA-アセトニトリルをMillicup-LH vacuum-driven bottletop filter unit(Millipore)でろ過したものを用いた。流速は1.0 mL/minとした。
【0072】
(1) DOPEリポソームの調製とPEG切断評価
エタノールに溶解した1 mMの脂質溶液について100%を125μLとして各mol比に従って試験管に添加し、1 mM DOPE-PEG溶液を必要に応じて添加した。エタノールと等量のクロロホルムを添加して撹拌した後、デシケーターで溶媒を留去し脂質膜を得た。脂質膜調製後、20 mM HEPES (pH 7.4)、280 mM NaCl、4 mM CaCl2を含む溶液(250μL)を添加し30分の水和後に1分間ソニケーションしてリポソームを調製した。
【0073】
まず、ペプチドがMMP-2により分解されるか否かを検討した。10 mM HEPES (pH 7.4)、140 mM NaCl、及び2 mM CaCl2を含む溶液に溶解した0.5 mMペプチド溶液(25μL)を逆相HPLCにより分析した。また、MMP2を最終濃度で53 nM、230 nM、450 nMとなるように0.5 mM ペプチド溶液(25μL)に加えて37℃で2時間インキュベーションした後、全量をHPLCにより分析し、MMP2によりペプチドが分解されるかを確認した。MMP-2処理すると、ペプチドのピークよりも早い時間にピークが観察されたが、出現したピークは酵素濃度依存的に大きくなることから、このピークは酵素による分解産物であることが示された。
【0074】
つぎに、調製したリポソーム(50 μL)に対してPBS(10μL)、最終濃度で230 nM又は5.5 nMのMMP-2、及び最終濃度で230 nMのウシ血清アルブミンをそれぞれ添加し、37℃でインキュベーションして2、8、及び24時間後の粒子径を測定した。図2にDOPE-PEGの添加割合と粒子径との関係を示す。DOPE-PEGが0%では粒子径が1000 nmを超える凝集体が観察され、これは逆ヘキサゴナル構造体であると考えられる。DOPE-PEG 1%の添加量ですでに200 nm以下の分散安定なリポソームが調製可能であった。また、PEGの添加量依存的に粒子径は緩やかに減少した。これらのリポソームを37℃で24時間インキュベートしても凝集は見られなかった。この結果は、DOPE-PEGの0.5%の添加で相転移温度が37℃以上になったことを示唆している。
【0075】
図3にPEG-ペプチド-DOPEの添加割合と粒子径との関係を示す。この場合も同様にPEG-ペプチド-DOPE 1%の添加で200 nm以下の分散安定なリポソームを調製することができた。もっとも、この場合には37℃でインキュベートするとPEG含量5%までは凝集が認められた。添加量10%では37℃インキュベートでも凝集は認められず、分散安定なリポソームを形成していた。これはPEG-ペプチド-DOPEが相転移温度をDOPE-PEGほど上昇させないことを示唆している。原因としてはペプチドを構成するアミノ酸は比較的疎水性ありリポソーム膜と相互作用しやすいなどの可能性が考えられる。
【0076】
以上の結果に基づいて、37℃でも凝集の起こらないPEG-ペプチド-DOPE を10%の割合で含むDOPEリポソームを用いてMMP-2によるPEG切断評価を行った。結果を図4に示す。PBSやMMP-2 5.5 nMの添加ではリポソームの凝集は認められなかったが、MMP-2 230 nMの添加では凝集が認められた。BSA 230 nM添加では凝集は認められなかったことから、上記の凝集はタンパクとリポソームとの相互作用による凝集ではないと考えられ、この凝集はMMP-2の作用によりペプチドが開裂してPEGが脱離し、リポソームが不安定化して逆ヘキサゴナル構造に変化したためと考えられる。以上の結果より、PEG-ペプチド-DOPEはリポソームを構成している状態でもMMP-2により切断されることが示された。
【0077】
例3
非動化したFBSを加えたD'MEM(最終FBS濃度10%)を用い、ヒト繊維芽肉腫細胞由来HT1080細胞をCO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)中で滅菌済み培養ディッシュで培養した。70%コンフルエントになったところで0.5 mM EDTA-PBSを用いてディッシュより細胞をはがし、新しいD'MEMを用いて1-5×104 cells/mLになるように細胞懸濁液を希釈し、滅菌済みディッシュで培養することにより継代培養を行った。同様にして、ヒト腎臓内皮様HEK293細胞の培養を行った。HEK293細胞の場合には、0.05% Trypsin/0.5 mM EDTA-PBSを用いてディッシュより細胞をはがして継代培養を行った。
【0078】
pDNAをPLLなど塩基性に富んだペプチドにより凝集させるコンパクション体は、pDNAのリン酸基の負電荷とペプチド中のリジンやアルギニン残基の正電荷の静電的な相互作用により形成される。pDNAのリン酸基1つを−1、リジンおよびアルギニン残基1つを+1の電荷として以下の式(1)よりcharge ratio(+/-)を算出した。
式(1):charge ratio(+/-) = [Cp×(nK + nR)/MWP]/(CD/MWD)
Cp:ペプチド溶液の濃度 [mg/mL]
nK:ペプチド1分子当たりのリジン残基数
nR:ペプチド1分子当たりのアルギニン残基数
MWP:ペプチドの分子量
CD:pDNA溶液の濃度 [mg/mL]
MWD:ヌクレオチド1塩基当たりの分子量
【0079】
負電荷のコンパクション体を調製するために式(1)に従いcharge ratio(+/-) =1.5とした。pDNA(0.5 mg/mL)30μLに10 mM HEPES-HCl (pH 7.4) 120μLを添加した。プロタミン(2 mg/mL)5 μLに10 mM HEPES-HCl (pH 7.4) 95 mLを添加した。pDNA溶液をボルテックスミキサーで攪拌しながらプロタミンをゆっくり滴下した。粒子径及びゼータ電位を測定してコンパクション体が得られたことを確認した。
【0080】
エタノールに溶解した1 mMの脂質溶液をDOTAP 30%、DOPE 40%、Chol 30%となるように100%を125μLとして各モル比に従って試験管に添加した。PEG脂質の添加は、PEG脂質を除く脂質を100%として、それに対してのモル比として5%又は15%となるようにエタノールに溶解した1 mMのPEG-DSPE溶液又はPEG-ペプチド-DOPEを添加し、エタノールとと等量のクロロホルムを添加して撹拌した後、デシケーターで溶媒を留去し脂質膜を得た。その後、コンパクション体の溶液(250 μL)を脂質膜に添加し15-30分間、室温で静置して水和させた後、1-2分間ソニケーションした。粒子径とζ電位を測定した。調製したMENDの粒子径とゼータ電位を表2に示す。PEG-ペプチド-DOPEを含むMENDとPEG-DSPEを含むMENDとの間には測定値に大きな違いは認められず、同等のMENDが調製できていると考えられた。
【0081】
【表2】
【0082】
トランスフェクション前日にHT1080細胞又はHEK293細胞を24wellプレートに4×104 cells/wellで培地 1 mL中に播種した。0.4 μg DNA相当に調製したサンプルを無血清培地の場合にはFBS・抗生物質非含有D'MEM(以下、「D'MEM(-)」と略記する。)で250 μLとなるように希釈し、血清含有培地の場合はD'MEMで同様に希釈した。各wellをPBSで洗い、250 μL/wellの割合でサンプルを添加し、5% CO2下に37℃で3時間インキュベートした後、D'MEMを1 mL/well添加し、5% CO2下に37℃で 45時間インキュベートした。45時間後、各wellの培地を除去してPBSで洗浄した後、Reporter Lysis Buffer(75μL/well)を添加して-80℃で凍結した。30分後、凍結したプレートを室温で融解させ、氷上にてCELL SCRAPERを用いて細胞を剥がしとり、Lysis溶液を回収した後、遠心(4℃、15,000 rpm、5 min)して上清を回収した。上清20μLあたりのルシフェラーゼ活性(RLU)を測定し、上清をDDWで5倍希釈してBCA法によりタンパク定量を行ない、RLU/mg proteinを算出した。
【0083】
結果を図5((a)HT1080細胞)及び図6((b)HEK293細胞)に示す。PEG濃度依存的にMENDの遺伝子発現活性は減少した。PEGを15%修飾したMENDでは(a)HT1080細胞及び(b))HEK293細胞ともにPEG-DSPE修飾群と比較してPEG-ペプチド-DOPE修飾群の遺伝子発現活性の上昇は認められなかった。PEG 5% MENDでは(b)HEK293細胞においてPEG-ペプチド-DOPEによる遺伝子発現の上昇はPEG-DSPEと比較して5倍となり、(a) HT1080細胞においては35倍の顕著な上昇を示した。HT1080細胞のほうがMMP-2を多く発現していると思われることから、この結果はMMP-2発現量に依存している可能性があり、MMP-2によりペプチドが分解されPEGが切断された結果として遺伝子発現活性が上昇したものと考えられる。なお、PEG 15%では遺伝子発現に差がでなかったが、PEG量が多いために水和層が豊富となり、MMP-2が水和層を突破してペプチド部まで到達できなかったためと考えられる。
【0084】
例4
例3の式(1)に従い、charge ratio(+/-)=1.5として、ルシフェラーゼをコードするpDNAとプロタミンのコンパクション体をHEPES buffered glucose(10mM HEPES, pH7.4, 5% glucose;HBG)中で調製した。
例3と同様に、DOTAP 30%、DOPE 40%、Chol 30%の割合の脂質膜を調製し、これに対して、さらにモル比として5%又は15%となるようにPEG-DSPE又はPEG-ペプチド-DOPEを添加してエバポレーションすることにより、脂質膜を得た。次いで、これらの脂質膜にコンパクション体を添加してソニケーション処理することにより、MEND、PEG-DSPEを含むPEG修飾MEND及びPEG-ペプチド-DOPEを含むPEG修飾MENDを調製した。コンパクション体および各種MENDの粒子径及びζ電位を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
ヒト繊維芽肉腫由来HT1080細胞(1×106 cells)をBALB/cヌードマウス(雄性:5週齢)の背部皮下に移植し、腫瘍サイズ(長径)が12-18 mmとなった時点で、各種MEND(25 μg pDNA/ 420 μL in HBG、0.5 mM lipid)を尾静脈より投与し、48時間後に腫瘍組織を採取した。腫瘍組織をLysis buffer(0.1% Triton X-100, 2mM EDTA, 0.1M Tris-HCl, pH7.8)中でホモジュナイズし、4℃、15,000 rpmで10分間遠心し、上清についてルシフェラーゼ活性(RLU / 腫瘍組織)の測定を行った。結果を図7に示す(n=3, the mean±S.D., *P<0.01, N.D.:not detected )。
PEG非修飾MENDでは遺伝子の発現は認められなかった。一方、PEG修飾MENDは遺伝子の発現が認められたが、腫瘍組織における発現活性は、PEG-DSPE修飾群と比較してPEG-ペプチド-DOPE修飾群が約150倍上昇していた。
PEG-ペプチド-DOPE修飾群の方が100倍以上の発現活性の上昇が見られたのは、腫瘍組織移行後にPEG-ペプチド-DOPEのペプチドがMMPによって切断されたため、遺伝子発現活性が上昇したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】両親媒性脂質分子の構造分類及び脂質集合体の構造を模式的に示した図である。
【図2】DOPE-PEGの添加割合とリポソームの粒子径との関係を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図3】PEG-ペプチド-DOPEの添加割合とリポソームの粒子径との関係を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図4】PEG-ペプチド-DOPE を10%の割合で含むDOPEリポソームを用いてMMP-2によるPEG切断評価を行った結果を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図5】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHT1080細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。
【図6】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHEK293細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。
【図7】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHT1080細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。図中、PEG-MENDはPEG-DSPE修飾群、PPD-MENDはPEG-ペプチド-DOPE修飾群の結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを介してポリアルキレングリコールなどが結合されており、リポソームなどの脂質膜構造体の構成脂質として有用なリン脂質誘導体、及び該リン脂質誘導体を含み、腫瘍組織で選択的に分解性を示す血中滞留性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を患部に特異的に輸送する手段としてリポソームに薬剤を封入する方法が提案されている。特に、悪性腫瘍の治療分野において抗腫瘍剤を封入したリポソームの有効性が数多く報告されている。また、多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND: Multifunctional envelope-type nano device;以下、本明細書において「MEND」と略す場合がある。)が提案されており、この構造体は、遺伝子などを特定の細胞内に選択的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして用いることができ、例えば、腫瘍の遺伝子治療などに有用であることが知られている。
【0003】
もっとも、リポソームや上記のMENDなどの微粒子キャリアーは静脈内に投与した場合に血液中での滞留性が悪く、肝臓や脾臓などの細網内皮系組織に捕捉され易いという問題を有している。また、これらの微粒子キャリアーでは、封入物の漏出が起きたり、微粒子が凝集するという問題もある。これらの問題は、薬剤を封入したリポソームや遺伝子を封入した上記のMENDを用いて標的臓器や標的細胞に薬剤や遺伝子を送達させるターゲッティング療法を行うに際して大きな障害となっていた。
【0004】
上記の問題を回避するための手段として、リポソームなどの微粒子キャリアーの表面をポリアルキレングリコール(PEG: ポリエチレングリコールなど)で修飾する手段が提案されている(Biochim. Biophys. Acta, 1066, pp.29-36, 1991; FEBS Lett., 268, pp.235-237, 1990; Biochim. Biophys. Acta, 1029, pp.91-97, 1990)。この手段は、PEGによる水和層がリポソームなどの微粒子キャリアを覆うと血清タンパク吸着などオプソニン化が抑制され、その結果、マクロファージによる貪食と細網内皮系組織による取り込みを回避できることに基づく。この目的のために、ポリアルキレングリコールを結合したリン脂質が提案されており、このリン脂質を用いてリポソームの表面をポリアルキレングリコールで修飾できることが知られている。また、粒子径を100〜200 nmに制御したPEG修飾リポソームはEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果により固形腫瘍にほぼ選択的に集積し、血中に再び回収されることなく長時間にわたり腫瘍内に維持される(EPR効果についてCancer Res., 46, pp.6387-6392, 1986を参照のこと)。
【0005】
しかしながら、リポソームなどの微粒子キャリアーの表面をポリアルキレングリコールで修飾した場合には、血中滞留性は改善するものの、標的細胞の内部に微粒子キャリアーが取り込まれにくくなるという新たな問題が生じることが知られている。この問題は、特に、薬剤封入リポソームや遺伝子封入MENDを用いて標的腫瘍細胞に特異的に抗腫瘍剤や遺伝子を送達するターゲッティング治療において、期待したほどの治療効果を達成できず、また標的腫瘍細胞に送達されなかった抗腫瘍剤や遺伝子による副作用も十分に回避できないという深刻な問題を引き起こしている。
【0006】
一方、腫瘍細胞は増殖や浸潤・転移の過程で細胞外マトリックス(ECM)を分解・再構築するが、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が重要な役割を果たしていることが知られている(Cell. 91, pp.439-442, 1997; APMIS, 107, pp.137-143, 1999)。MMPには20以上のファミリーが同定されており、分泌型と細胞膜上に存在する膜型に分類されている。MMPはコラーゲンなどのECMを分解する機能を有しているが、最近の研究でMMPにより特異的に分解・切断されるペプチド配列が明らかとなっている(Nature Biotechnology, 19, pp.661-667, 2001)。
【0007】
また、リポソームの構成脂質として利用可能なペプチド結合リン脂質が知られている(特表2003-513009号公報)。上記公報には、このリン脂質のペプチドはPEG(ポリエチレングリコール)などで修飾されていてもよいとの説明がある(上記公報[0016]段落)。このリン脂質のペプチドがペプチダーゼにより開裂さると、この脂質を構成脂質として含むリポソームが不安定化して含有物がその部位で放出されるので、ペプチダーゼ分泌細胞に対して特異的に含有物を送達することができる。また、上記ペプチダーゼとしてはマトリックスメタロプロテアーゼを利用でき、腫瘍細胞をターゲットとしてリポソームを利用できることが教示されている(上記公報[0021]段落及び[0042]段落)。もっとも、このリン脂質を用いたリポソームによる薬剤又は遺伝子の送達効率は十分とは言えない。
【非特許文献1】Nature Biotechnology, 19, pp.661, 2001
【特許文献1】特表2003-513009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、表面をポリアルキレングリコールなどで修飾したリポソームやMENDなどの脂質膜構造体を微粒子キャリアーとして用いて抗腫瘍剤や悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を標的腫瘍細胞内に送達するにあたり、標的腫瘍細胞の内部に抗腫瘍剤や遺伝子を効率的に取り込ませる手段を提供することにある。より具体的には、上記の脂質膜構造体を調製するために用いることができ、標的腫瘍細胞の内部に抗腫瘍剤や遺伝子を効率的に取り込ませる手段として利用可能なリン脂質誘導体を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、ポリアルキレングリコールなどで修飾した特定のリン脂質において、ポリアルキレングリコールなどの修飾部分とリン脂質部分との間にマトリックスメタロプロテアーゼにより加水分解可能なオリゴペプチドを介在させ、その脂質を用いてリポソームやMENDなどの脂質膜構造体を調製して抗腫瘍剤や遺伝子などの微粒子キャリアーとして用いると、血中においてはポリアルキレングリコールなどの修飾部位の存在により該リポソームやMENDの高い血中滞留性が保たれる一方で、標的腫瘍組織に到達した該リポソームやMENDでは、マトリックスメタロプロテアーゼにより該オリゴペプチド部分が加水分解されてポリアルキレングリコールなどの修飾部位が脱離することになる。その結果、一つは、ポリアルキレングリコールなどの修飾部位が脱離したリポソームやMENDの安定性が低下してその構造を保つことができずに、脂質膜構造体に保持された抗腫瘍剤等を標的腫瘍細胞の外部にて放出する方法によって、またもう一つは、ポリアルキレングリコールなどによる修飾が脱離したリポソームやMENDに変化してこれらの脂質膜構造体がそのまま標的腫瘍細胞に効率的に取り込まれる方法によって、あるいはこれら二つの方法が合わさることによって、極めて高い導入率で抗腫瘍剤や遺伝子を標的腫瘍細胞内に送達できることを見出した。また、このようにして効率的に抗腫瘍剤や遺伝子を標的細胞に送達することにより、極めて高い抗腫瘍効果を達成できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により、アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
リン脂質誘導体が提供される。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類であり、該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン類であり、該ペプチドがVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyを含むペプチドである上記のリン脂質誘導体;該アルコール化合物がポリエチレングリコールであり、該リン脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミンであり、該ペプチドがGly-Gly-Glyをリンカーとして含む上記のリン脂質誘導体;及び、該ペプチドがGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyである上記のリン脂質誘導体が提供される。
【0012】
別の観点からは、上記のリン脂質誘導体を構成脂質として含む脂質膜構造体が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体;及び、リポソームである上記脂質膜構造体が提供される。
さらに別の観点からは、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体を含む悪性腫瘍の治療のための医薬組成物が提供される。
これらに加えて、悪性腫瘍の治療方法であって、抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した上記脂質膜構造体をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリン脂質誘導体はマトリックスメタロプロテアーゼによりペプチド部分が切断されてポリアルキレングリコールなどの修飾部位を脱離する特性を有している。本発明のリン脂質誘導体を含むリポソームなどの脂質膜構造体は、血中においては該修飾部位の存在により安定であり、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌する悪性腫瘍細胞の近傍では、該修飾部位が脱離することにより脂質膜構造体の安定性が低下して、その構造を保つことができずに、脂質膜構造体に保持された抗腫瘍剤や遺伝子等を悪性腫瘍細胞の外部で放出することや該修飾部位が脱離した状態の脂質膜構造体が悪性腫瘍細胞中に効率的に取り込まれることによって、悪性腫瘍細胞中に薬剤や遺伝子を効率的に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のリン脂質誘導体は、アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
ことを特徴としている。
【0015】
アルコール化合物としては、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセリン又はグリセリンエステルなどのグリセリン類、あるいはジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、又はオクタグリセリンなどのポリグリセリン類を用いることができる。これらのうち、ポリアルキレングリコールが好ましく、特に好ましいのはポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールを用いる場合分子量は特に限定されず、脂質膜構造体に血中滞留性などの所望の特性を付与するために当業者が適宜選択可能である。
【0016】
アルコール化合物の残基とは、アルコール化合物又は化学修飾されたアルコール化合物から水素原子などの適宜の原子又は水酸基やハロゲン原子などの適宜の官能基を除いて得られる基を意味しており、好ましくは1価の基を意味している。例えば、アルコール化合物の水酸基から水素原子を除いて得られる残基、アルコール化合物の炭素原子に結合する水素原子を除いて得られる残基、あるいはアルコール化合物の末端にカルボキシル基を含む官能基を導入し、そのカルボキシル基から水酸基又は水素原子を除いて得られる残基などを例示できるが、これらに限定されることはない。
【0017】
リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、またはホスファチジン酸類を用いることができるが、これらのリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されない。例えば、炭素数12〜20個程度の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を1個又は2個有するリン脂質を用いることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を1個又は2個有するリン脂質を用いることができる。これらのうち、ホスファチジルエタノールアミン類が好ましく、特に好ましいのはジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)である。
【0018】
リン脂質の残基とは、上記のリン脂質又は化学修飾されたリン脂質から水素原子などの適宜の原子又は水酸基やハロゲン原子などの適宜の官能基を除いて得られる基を意味しており、好ましくは1価の基を意味している。例えば、リン脂質のリン酸部分の水酸基から水素原子を除いて得られる残基、リン脂質のリン酸部分の水酸基を除いて得られる残基、リン脂質の炭素原子に結合する水素原子を除いて得られる残基、あるいはリン脂質のリン酸部分にカルボキシル基を含む官能基を導入し、そのカルボキシル基から水酸基又は水素原子を除いて得られる残基などを例示できるが、これらに限定されることはない。
【0019】
アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間に含まれるペプチドは、マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを少なくとも1個含んでいる。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)には、例えば、MMP-1(間質型コラーゲナーゼ)、MMP-2(ゼラチナーゼA)、MMP-3、MMP-7、MMP-9(ゼラチナーゼB)などの存在が知られており、これらのうちの1種又は2種以上のマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを用いることができる。マトリックスメタロプロテアーゼについては、例えば、鶴尾隆編「癌転移の分子機構」、pp.92-107、メジカルビュー社、1993年発行などを参照することができる。
【0020】
マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドについては、例えば、上記非特許文献1(Nature Biotechnology, 19, pp.661-667, 2001)に特定の種類のマトリックスメタロプロテアーゼと、それに特異的に認識される基質ペプチドが説明されているので、この刊行物を参照することにより、特定の種類のマトリックスメタロプロテアーゼにより特異的に切断される基質ペプチドを選択することが可能である。例えば、MMP-9についてVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyが特異的基質として知られており、MMP-9の基質となりうる基質ペプチドとして上記のオクタペプチドを用いることが好ましい。上記非特許文献1の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
具体的には、マトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドとして、Gly-Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln、Gly-Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln、Val-Pro-Met-Ser-Met-Arg-Gly-Gly、Ile-Pro-Val-Ser-Leu-Arg-Ser-Gly、Arg-Pro-Phe-Ser-Met-Ile-Met-Gly、Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Thr-Met-Gly、Ile-Pro-Glu-Ser-Leu-Arg-Ala-Gly、Arg-His-Asp、Arg-Pro-Lys-Pro-Val-Glu-Nva-Trp-Arg-Lys、Arg-Pro-Lys-Pro-Tyr-Ala-Nva-Trp-Met-Lys、Pro-Gln-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln-Arg、Pro-Leu-Gly-Ile-Ala-Gly-Arg、Gly-Pro-Leu-Gly-Pro、Gly-Pro-Leu-Gly-Pro等を挙げることができる。
【0021】
アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間に含まれるペプチドは、基質ペプチドのほか、アルコール化合物の残基及び/又はリン脂質の残基との結合に関与するリンカーとして、1個のアミノ酸からなるリンカー、又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドからなるリンカーを含んでいてもよい。リンカーである該アミノ酸又は該オリゴペプチドは、該基質ペプチドの両端に結合していてもよいが、片端のみに結合していてもよい。該基質ペプチドの両端に該リンカーが結合している場合には、2つのリンカーは同一でも異なっていてもよい。リンカーを介さずに、基質ペプチドが直接アルコール化合物の残基及び/又はリン脂質の残基と結合していてもよい。本発明のリン脂質誘導体ではリンカーが存在することが好ましく、該基質ペプチドの両端に同一又は異なるリンカーが存在していることがさらに好ましく、該2個のリンカーが2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドからなる同一又は異なるリンカーであることがより好ましい。
【0022】
リンカーとして利用可能な1個のアミノ酸の種類、又はリンカーとして利用可能なオリゴペプチドを構成するアミノ酸は特に限定されず、任意の種類の1個のアミノ酸、又は任意の種類の2個ないし8個の同一又は異なるアミノ酸を含む任意のオリゴペプチドを用いることができる。リンカーとして利用可能なオリゴペプチドとしては、例えば、-Leu-Gly-、-Tyr-Gly-、-Phe-Gly-、-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Phe-Gly-Gly-、-Phe-Gly-Gly-Gly-、-Phe-Phe-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Phe-Gly-、-Gly-Gly-Phe-Phe-、-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-、-Phe-Phe-、-Ala-Gly-、-Pro-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Phe-、-Gly-、-D-Phe-Gly-、-Gly-Phe-、-Ser-Gly-、-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Gly-Gly-、-Gly-Gly-Leu-Gly-、-Gly-Gly-Tyr-Gly-、-Gly-Gly-Val-Leu-、-Gly-Gly-Leu-Leu-、-Gly-Gly-Phe-Leu-、-Gly-Gly-Tyr-Leu-、-Gly-Gly-Val-Gln-、-Gly-Gly-Leu-Gln-、-Gly-Gly-Ile-Gln-、-Gly-Gly-Phe-Gln-、-Gly-Gly-Tyr-Gln-、-Gly-Gly-Trp-Gln-、-Gly-Gly-Leu-Ser-、-Gly-Gly-Phe-Ser-、-Gly-Gly-Tyr-Ser-、-Gly-Gly-Val-Thr-、-Gly-Gly-Leu-Thr-、-Gly-Gly-Phe-Thr-、-Gly-Gly-Tyr-Thr-、-Gly-Gly-Trp-Thr-、-Gly-Gly-Val-Met-、-Gly-Gly-Leu-Met-、-Gly-Gly-Ile-Met-、-Gly-Gly-Phe-Met-、-Gly-Gly-Tyr-Met-、-Gly-Gly-Val-Cit-、-Gly-Gly-Leu-Cit-、-Gly-Gly-Phe-Cit-、-Gly-Gly-Tyr-Cit-、-Gly-Gly-Trp-Cit-、-Gly-Gly-Gly-Asn-、-Gly-Gly-Ala-Asn-、-Gly-Gly-Val-Asn-、-Gly-Gly-Leu-Asn-、-Gly-Gly-Ile-Asn-、-Gly-Gly-Gln-Asn-、-Gly-Gly-Thr-Asn-、-Gly-Gly-Phe-Asn-、-Gly-Gly-Tyr-Asn-、-Gly-Gly-Met-Asn-、-Gly-Gly-Pro-Asn-、-Gly-Gly-Cit-Asn-、-Gly-Gly-Trp-Gly-、-Gly-Gly-Ser-Asn-、-Gly-Gly-Pro-Ala-、-Gly-Gly-Pro-Val-、-Gly-Gly-Pro-Leu-、-Gly-Gly-Pro-Ile-、-Gly-Gly-Pro-Gln-、-Gly-Gly-Pro-Ser-、-Gly-Gly-Pro-Tyr-、-Gly-Gly-Pro-Met-、-Gly-Gly-Met-Pro-、-Gly-Gly-Pro-Pro-、-Gly-Gly-Pro-Cit-、-Gly-Gly-Ile-Leu-、-Gly-Gly-Ile-Cit-などを例示することができるが、これらに限定されることはない。これらのうち、-Gly-Gly-又は-Gly-Gly-Gly-がリンカーとして好ましい。
【0023】
本発明のリン脂質誘導体の製造方法は特に限定されないが、一般的には、上記リン脂質誘導体の部分構造であるアルコール化合物とペプチド化合物とを結合させ、得られたペプチド結合アルコール化合物のペプチド末端にリン脂質化合物を結合させることにより製造することができる。
アルコール化合物とペプチド化合物との結合は、一般的にはペプチド化合物のペプチド末端のアミノ基又はカルボキシル基とアルコール化合物の反応性官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、エステル基など)とを反応させることにより行なわれる。アルコール化合物にすでに存在する水酸基を反応性官能基として用いてもよいが、例えば、アルコール化合物の水酸基をカルボキシル基に酸化し、あるいはアルコール化合物にカルボキシル基を含む官能基を導入するなどの手法により、アルコール化合物にカルボキシル基を導入し、さらに必要に応じて該カルボキシル基をエステル化するなどの方法により、反応性官能基として用いることができる。
【0024】
典型的には、アルコール化合物のカルボキシル基又はエステル基などの反応性官能基とペプチド化合物のアミノ基とを反応させてアミド結合を形成することにより、ペプチド結合アルコール化合物を製造することができる。この反応として、一般的には、酸ハライド法、活性エステル法、又は酸無水物などの方法を用いることができる。
【0025】
酸ハライド法では、不活性溶媒中でカルボキシル基を有するアルコール化合物をハロゲン化剤で処理して酸ハライドとした後に、得られた酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基とを反応させることによって目的物を得ることができる。酸ハライドを生成するための反応で使用される溶媒の種類は特に限定されず、反応を阻害せずに出発物質を溶解するものであればいかなる溶媒を用いてもよい。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル類、ギ酸エチル、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒が好適である。ハロゲン化剤としては、例えば、チオニルクロリド、チオニルブロミド、チオニルアイオダイドのようなチオニルハライド類、スルフリルクロリド、スルフリルブロミド、スルフリルアイオダイドのようなスルフリルハライド類、三塩化燐、三臭化燐、三沃化燐のような三ハロゲン化燐類、五塩化燐、五臭化燐、五沃化燐のような五ハロゲン化燐類、オキシ塩化燐、オキシ臭化燐、オキシ沃化燐のようなオキシハロゲン化燐類、塩化オキザリル、臭化オキザリルのようなハロゲン化オキザリル類などを挙げることができる。反応温度は、0℃ないし溶媒の還流温度で行うことができ、好適には室温ないし溶媒の還流温度である。
【0026】
得られた酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基との反応で使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質を溶解するものであれば特に限定はないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、ギ酸エチル、酢酸エチルのようなエステル類、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類、またはそれらの混合溶媒を挙げることができる。酸ハライドとペプチド化合物のアミノ基との反応では、必要に応じてトリエチルアミン、ピリジンのような有機塩基を添加することもできる。
【0027】
活性エステル化法は、溶媒中、アルコール化合物のカルボキシル基を活性エステル化剤と反応させて活性エステルを製造した後、ペプチド化合物のアミノ基と反応させることによって行われる。溶媒としては、例えば、メチレンクロリド、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒を挙げることができる。活性エステル化剤としては、例えば、N-ヒドロキシサクシイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3- ジカルボキシイミドのようなN-ヒドロキシ化合物類;1,1'- オキザリルジイミダゾール、N,N'- カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類;2,2'-ジピリジルジサルファイドのようなジサルファイド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルカーボネートのようなコハク酸化合物類;N,N'-ビス(2- オキソ-3- オキサゾリジニル)ホスフィニッククロライドのようなホスフィニッククロライド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルオキザレート(DSO)、N,N'-ジフタルイミドオキザレート(DPO)、N,N'-ビス(ノルボルネニルサクシンイミジル)オキザレート(BNO)、1,1'- ビス(ベンゾトリアゾリル)オキザレート(BBTO)、1,1'- ビス(6- クロロベンゾトリアゾリル)オキザレート(BCTO)、1,1'- ビス(6-トリフルオロメチルベンゾトリアゾリル)オキザレート(BTBO)のようなオキザレート化合物類などを挙げることができる。
【0028】
ペプチド化合物のアミノ基と活性エステルとの反応は、例えば、アゾジカルボン酸ジエチル−トリフェニルホスフィンのようなアゾジカルボン酸ジ低級アルキル−トリフェニルホスフィン類、N-エチル-5-フェニルイソオキサゾリウム-3'-スルホナートのようなN-低級アルキル-5- アリールイソオキサゾリウム-3'-スルホナート類、ジエチルオキシジフォルメート(DEPC)のようなオキシジフォルメート類、N',N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) のようなN',N'-ジシクロアルキルカルボジイミド類、ジ-2-ピリジルジセレニドのようなジヘテロアリールジセレニド類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、p-ニトロベンゼンスルホニルトリアゾリドのようなアリールスルホニルトリアゾリド類、2-クロル-1- メチルピリジニウム ヨーダイドのような2-ハロ-1- 低級アルキルピリジニウムハライド、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)のようなジアリールホスホリルアジド類、N,N'-カルボジイミダゾール(CDI) のようなイミダゾール誘導体、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)のようなベンゾトリアゾール誘導体、N-ヒドロキシ-5- ノールボルネン-2,3- ジカルボキシイミド(HONB)のようなジカルボキシイミド誘導体、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物などの縮合剤の存在下に好適に行われる。活性エステルの調製のための反応温度は-10℃ないし室温であり、活性エステル化合物とペプチド化合物のアミノ基との反応は室温付近であり、反応時間は両反応共に30分ないし10時間程度である。
【0029】
混合酸無水物法は、アルコール化合物のカルボキシル基の混合酸無水物を製造した後、ペプチド化合物のアミノ基を反応させることにより行われる。混合酸無水物を製造する反応は、不活性溶媒(例えば、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類)中、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸イソブチルのような炭酸低級アルキルハライド、ジエチルシアノリン酸のようなジ低級アルキルシアノリン酸などを用いて行なうことができる。反応は、好適にはトリエチルアミン、N-メチルモルホリンのような有機アミンの存在下に行われ、反応温度は-10℃ないし室温であり、反応時間は30分ないし5時間程度である。混合酸無水物とペプチド化合物のアミノ基との反応は、好適には不活性溶媒(例えば、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類)中で前記の有機アミンの存在下に行われ、反応温度は0℃ないし室温であり、反応時間は1時間ないし24時間程度である。また、カルボン酸とアミン化合物とを前記の縮合剤の存在下で直接反応させることによって縮合を行なうこともできる。この反応は前記の活性エステルを製造する反応と同様にして行われる。
【0030】
続いて、得られたペプチド結合アルコール化合物の反応性官能基(例えばカルボキシル基や水酸基など)とリン脂質化合物の反応性官能基(例えば、カルボキシル基やアミノ基など)とを反応させることにより、本発明のリン脂質誘導体を得ることができる。例えば、リン脂質化合物としてホスファチジルエタノールアミン類を用いる場合には、該リン脂質化合物のアミノ基と、ペプチド結合アルコール化合物のペプチド末端のカルボキシル基とを反応させることにより、本発明のリン脂質誘導体を製造できる。この反応は上記に説明した反応と同様に行なうことができ、例えば、縮合剤の存在下で活性エステル法などにより行なうことが好ましい。
【0031】
上記の各反応において、保護基を導入することにより目的の反応を効率的に行なうことができる場合がある。保護基の導入については、例えば、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(P. G. M. Wuts and T. Green, 第3版、1999年、Wiley, John & Sons)などを参照することができる。目的物の単離及び精製は当業界で用いられる通常の方法により行なうことができるが、例えば、高速液体クロマトグラフィーなどによる精製が好適である。なお、本発明のリン脂質誘導体には、塩の形態の物質も包含される。塩の種類としては、特に限定されないが、塩酸塩や硫酸塩などの鉱酸塩、シュウ酸塩や酢酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩やカリウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、メチルアミン塩などの有機アミン塩などを例示できる。
【0032】
本発明により提供される脂質膜構造体の種類は特に限定されないが、脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、例えば、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができる。これらのうちリポソームが好ましい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には粒子径が50 nmから5 μmであり、球状ミセルの場合、粒子径が5 nmから100 nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5 nmから10 nmであり、これらが層を形成しているものが好ましい。
【0033】
本発明により提供される脂質膜構造体は、本発明により提供される上記のリン脂質誘導体のほか、通常用いられるリン脂質類、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、炭素数8〜22の飽和又は不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含んでいてもよい。リン脂質類としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、又はホスファチジン酸類等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、本発明の脂質膜構造体の調製には、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然物由来のリン脂質を用いることもできる。また、例えば、1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)、1-N,N-ジメチルアミノジオレオイルプロパン(DODAP)、1-オレオイル-2-ヒドロキシ-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、1,2-ジアシル-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、1,2-ジデカノイル-1-N,N-ジメチルアミノプロパン、3-β-[n-[(N',N'-ジメチルアミノ)エタン]カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、1,2-ジミリストオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DMRIE)、および1,2-ジオールオエオオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DORI)などを用いることもできる。
【0034】
本発明の脂質膜構造体には、膜構成脂質として、例えば、血中滞留性機能、温度変化感受性機能、及びpH感受性機能などを有する脂質誘導体を含有させることができ、それによりこれらの機能のいずれか1つ又は2つ以上を付与することができ、こ(れら)の機能を付加することによって、例えば、薬剤及び/又は遺伝子を含む脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓又は脾臓などの細網内皮系組織による捕捉率を低下させることができ、あるいは薬剤及び/又は遺伝子の放出性を高めることができる。
【0035】
血中滞留性機能を付与することができる血中滞留性脂質誘導体としては、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-750}-1,2−ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン等のポリエチレングリコール誘導体等を挙げることができる。
【0036】
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。また、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
【0037】
本発明の脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、脂質膜構造体の膜構成成分であるリン脂質等とともに本発明のリン脂質誘導体が脂質膜構造体を形成している形態が好ましい。より具体的には、例えば、本発明のリン脂質誘導体が、他のリン脂質等から構成される脂質膜構造体の脂質膜中、脂質膜表面、脂質膜構造体内部、脂質層中、及び脂質層表面からなる群から選ばれる1以上の部分に存在(結合)している形態を挙げることができる。さらに好ましくは、本発明のリン脂質誘導体がその他のリン脂質等とともに膜構成成分となって脂質膜構造体、例えばリポソームを形成した形態を挙げることができる。
【0038】
本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は特に限定されないが、形態としては、例えば、乾燥した混合物の形態、あるいは水系溶媒に分散された形態又はこれを乾燥させた形態若しくは凍結させた形態等を挙げることができる。以下に、これらの形態の脂質膜構造体を製造する方法を説明するが、本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は上記の形態又は下記に説明する製造方法に限定されることはない。
【0039】
本発明の脂質膜構造体の製造方法は特に限定されないが、例えば、乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の構成成分全てを一旦クロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
【0040】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されるべきものではなく、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)等を加えてもよい。この水系溶媒(分散媒)に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)中の電解質を極力なくすことが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定することや窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが望ましい。
【0041】
さらに脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態を乾燥又は凍結させた形態は、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体を通常の凍結乾燥や噴霧乾燥による乾燥又は凍結方法等により製造することができる。水系溶媒に分散した形態の脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に薬効成分含有水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために薬効成分を効率よく脂質膜構造体に保持させることができる長所がある。
【0042】
凍結乾燥や噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定に長期間保存することができる。また、凍結する場合には、例えば、前記した糖(水溶液)やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール(水溶液)をそれぞれ用いると安定に長期間保存することができる。糖と多価アルコールとを組み合わせて用いてもよい。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態における糖又は多価アルコールの濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体が水系溶媒に分散した状態において、例えば、糖(水溶液)は、2〜20%(W/V)が好ましく、5〜10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコール(水溶液)は、1〜5%(W/V)が好ましく、2〜2.5%(W/V)がさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)として、緩衝液を用いる場合には、緩衝剤の濃度が5〜50 mMが好ましく、10〜20 mMがさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)における脂質膜構造体の濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体における脂質総量の濃度は、0.1 mM〜500 mMが好ましく、1 mM〜100 mMがさらに好ましい。
【0043】
本発明の脂質膜構造体には抗腫瘍剤などの薬剤及び/又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子などを保持させることができる。「保持」とは、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が脂質膜構造体の脂質膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在することを意味する。脂質膜構造体が、例えばリポソームなどの微粒子である場合には、微粒子内部に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を封入することもできる。脂質膜構造体に保持させるべき抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の量は特に限定されず、そ(れら)の薬効を生体(細胞)内で有効に発揮させるのに充分な量であればよい。抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類も特に限定されず、悪性腫瘍の種類や脂質膜構造体の形態などにより適宜決定すればよい。
【0044】
抗腫瘍剤としては、例えば、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、エキサテカン、RFS-2000、Lurtotecan、BNP-1350、Bay-383441、PNU-166148、IDEC-132、BN-80915、DB-38、DB-81、DB-90、DB-91、CKD-620、T-0128、ST-1480、ST-1481、DRF-1042、DE-310等のカンプトテシン誘導体、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、IND-5109、BMS-184476、BMS-188797、T-3782、TAX-1011、SB-RA-31012、SBT-1514、DJ-927等のタキサン誘導体、イホスファミド、塩酸ニムスチン、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、6−メルカプトプリンリボシド、エノシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エビルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸ブレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、ネオカルチノスタチン、マイトマイシンC、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、塩酸アムルビシン、ゲフィニチブ、エキセメスタン、カペシタビン、TNP-470、TAK-165、KW-2401、KW-2170、KW-2871、KT-5555、KT-8391、TZT-1027、S-3304、CS-682、YM-511、YM-598、TAT-59、TAS-101、TAS-102、TA-106、FK-228、FK-317、E7070、E7389、KRN-700、KRN-5500、J-107088、HMN-214、SM-11355、ZD-0473等を挙げることができる。
【0045】
遺伝子とは、核酸をあらわし、オリゴヌクレオチド、DNA、又はRNAのいずれでもよく、イン・ビボで発現することにより抗悪性腫瘍作用する遺伝子、例えば、悪性腫瘍の遺伝子治療用の遺伝子等を挙げることができる。遺伝子治療用遺伝子としては、悪性腫瘍における血管新生や細胞増殖に関わるアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、shRNA、siRNAや酵素、サイトカイン等の生理活性物質、アンチセンスRNA、shRNA、siRNAをコードする遺伝子等を挙げることができる。
【0046】
脂質膜構造体が遺伝子を含む場合、悪性腫瘍細胞内へ遺伝子を効率的に導入するために、脂質膜構造体の構成成分として遺伝子導入機能を有する化合物を加えることが好ましい。このような化合物としては、O,O'-N-ジドデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジテトラデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジヘキサデカノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジオクタデセノイル-N-(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O',O''-トリデカノイル-N-(ω−トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びのる[α−トリメチルアンモニオアセチル]−ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[n-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール等を挙げることができる。これらの遺伝子導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中及び/又は脂質層の表面に存在(結合)している形態が好ましい。
【0047】
また、脂質膜構造体には、悪性腫瘍細胞やマトリックスメタロプロテアーゼを特異的に認識する抗体を保持させておいてもよい。抗体としてはモノクローナル抗体が好ましい。抗体は、例えば、単一のエピトープに対する1種類のモノクローナル抗体を用いてもよいが、各種のエピトープに対する特異性を持つ2種以上のモノクローナル抗体を組み合わせて用いてもよい。1価抗体又は多価抗体のいずれを用いてもよい。天然型(intact)分子又はそのフラグメント若しくは誘導体を用いてもよい。例えば、F(ab')2、Fab'及びFabなどのフラグメントを用いてもよく、少なくとも二つの抗原又はエピトープ (epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又はクワドローム(quadrome), トリオーム(triome)などの二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾あるいは加工などがされた誘導体を用いることもできる。公知の細胞融合又はハイブリドーマ技術や抗体工学を適用し、合成あるいは半合成技術を使用して得られた抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用し、DNA 組換え技術を用いて調製される抗体、あるいは標的エピトープに関して中和特性を有する抗体や結合特性を有する抗体を用いてもよい。
【0048】
抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持する本発明の脂質膜構造体は、悪性腫瘍の治療のための医薬組成物として用いることができる。本発明の医薬組成物の存在形態及びその製造方法は特に限定されず、上記の脂質膜構造体と同様の形態として調製することが可能である。例えば、形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態を挙げることができる。
【0049】
混合乾燥物形態は、例えば、脂質膜構造体の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させて混合物を得て、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥に付することにより製造することができる。脂質膜構造体と抗腫瘍剤などの薬効成分及び/又は遺伝子とを含む水系溶媒に分散した形態の医薬組成物の製造方法としてはいくつかの方法が知られており、脂質膜構造体における抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の保持様式や混合物の性状などに応じて、下記のように適宜の製造方法を選択することができる。
【0050】
製造方法1
上述の混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。この方法の場合、まず、脂質膜構造体の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合乾燥物を作るために、脂質膜構造体、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を有機溶媒に溶解する必要があるが、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子と脂質膜構造体の構成成分との相互作用を最大限に利用できる長所がある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、この製造方法を用いると抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の脂質膜構造体への保持率を高くできる長所がある。
【0051】
製造方法2
脂質膜構造体の構成成分を有機溶媒で一旦溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解し得る抗腫瘍剤及び/又は遺伝子に適用できる。脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持できる長所がある。
【0052】
製造方法3
水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、又は層状構造物などの脂質膜構造体に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。対象となる抗腫瘍剤及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。既にでき上がっている脂質膜構造体に外部から抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を添加する方法であることから、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が高分子の場合には、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は脂質膜構造体の内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に存在(結合)した存在様式をとる可能性がある。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この製造方法3を用いると、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)を形成することが知られている。この製造方法では、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時における抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の分解等を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。したがって、製造方法1や製造方法2に比べて比較的容易に製造することができる。
【0053】
製造方法4
水系溶媒に分散した脂質膜構造体を製造して乾燥することにより得られた乾燥物に、さらに抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。製造方法3と同様に対象となる抗腫瘍剤及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。製造方法3との相違点は、脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との存在様式にあり、この製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造することから、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるためには、前記したように水系溶媒に、さらに糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。ここで、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに速やかに水和し始め、脂質膜構造体を再構築することができる。この時、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が脂質膜構造体内部に保持された形態の構造体が製造できる。
【0054】
製造方法3では、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子が高分子の場合には、抗腫瘍剤及び/又は遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるが、製造方法4はこの点で大きく異なる。すなわち、この製造方法4は、脂質膜構造体単独の分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。従って、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易である。また、この他に、一旦凍結乾燥又は噴霧乾燥を行うため、製剤(医薬組成物)としての保存安定性を保証し易く、乾燥製剤を薬効成分及び/又は遺伝子の水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元に戻せること、高分子の抗腫瘍剤及び/又は遺伝子であっても、脂質膜構造体内部に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を保持させ易いことなどの長所がある。
【0055】
脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態を製造するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られた方法、例えば逆相蒸発法などを採用できる。大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。また、上記の脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥等を挙げることができる。この時の水系溶媒としては、上述の糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。脂質膜構造体と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この場合の水系溶媒としては、糖(水溶液)や多価アルコール(水溶液)を添加した溶媒を用いるのが好ましい。
【0056】
製造方法5
抗体を脂質膜構造体の表面に保持させた脂質膜構造体は、上記の製造方法1〜4に準じて、脂質膜の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで抗体を添加することで、抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
【0057】
製造方法6
抗体を脂質膜構造体の表面に保持させた脂質膜構造体は、上記の製造方法1〜4に準じて、脂質膜の構成成分と抗腫瘍剤及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで、抗体及び抗体中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体を添加することで、抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
【0058】
本発明の脂質膜構造体の調製において配合し得る脂質は、使用する抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、抗腫瘍剤を用いる場合には、抗腫瘍剤1質量部に対して、総脂質として0.1〜1000質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。また、遺伝子を用いる場合には、遺伝子1μgに対して、総脂質として1から500 nmolが好ましく、10から200 nmolがより好ましい。
【0059】
抗腫瘍剤及び/又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した脂質膜構造体を含む本発明の医薬組成物は、腫瘍の治療に有用である。本発明の医薬組成物により治療可能な悪性腫瘍の種類は特に限定されないが、特にマトリックスメタロプロテアーゼの発現が多い悪性腫瘍が好適である。悪性腫瘍細胞としては、例えば、線維肉腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、乳癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、甲状腺腫瘍、尿路上皮癌、グリア芽細胞腫、急性骨髄性白血病、膵管癌及び前立腺癌等の細胞を挙げることができるが、これらの細胞に限定されることはない。また、本発明の医薬組成物をヒト等の動物や実験用細胞に投与すると、腫瘍内部における血管新生先端部位に抗腫瘍剤及び/又は遺伝子を効率的に送達することができる。腫瘍内部における血管新生先端部位としては、ruffling edgeの内皮細胞(endothelial cells)などを挙げることができるが、これに限定されることはない。
【0060】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の医薬組成物をヒトを含む哺乳類動物に投与すると、血中においてはポリアルキレングリコールなどの修飾部位の存在により優れた血中滞留性が得られ、一方、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌する悪性腫瘍細胞の近傍では、該修飾部位が脱離することにより、本発明の医薬組成物に含まれる抗腫瘍剤等が放出されることや該医薬組成物が悪性腫瘍細胞により取り込まれ易くなることにより、該細胞に対して抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の効果を発揮させることができる。
【0061】
本発明の脂質膜構造体を含む医薬組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれも選択可能である。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、坐剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等を挙げることができる。これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射を挙げることができる。本発明の医薬組成物の投与量及び投与期間などは特に限定されず、有効成分として作用する抗腫瘍剤及び/又は遺伝子の種類や保持量、脂質膜構造体の種類、悪性腫瘍の種類や患者の体重、年齢など、種々の条件に応じて適切な投与量及び投与期間を適宜選択可能である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
NHSは和光純薬より購入した。DCCは関東化学より購入した。GPCはTosoh8120(東ソー株式会社)、検出器Tosoh HLC-8120(RI)、カラムTSK-Gel SuperHZ3000,2500を使用し、キャリアをTHF、流速を0.35 mL/min、温度を40℃に設定した。1H-NMR はJEOL EX-400(400MHz)使用し測定した。TOF-MSはBruker MALDI-TOF-MS Reflex IIを使用し測定した。透析膜Spectra/Por Membren MWCO:1,000はSpectrumより購入した。ペプチドはグライナージャパンより購入した。配列はGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyであり分子量は1178.9であった。
【0063】
(1) ポリエチレングリコール(PEG)の合成
アルゴン下、ナスフラスコにテトラヒドロフラン(THF、20mL)を添加し、スターラーで撹拌しながら、重合開始剤として2-メトキシエタノールを80μL添加した。続いてカリウムナフタレニド(0.342 mol/L)を2.9 mL添加した。次にエチレンオキサイド(EO)を2.3 mL(45 mmol)を添加した。常圧下、常温で撹拌しながら48時間反応した。48時間後、反応溶液の一部(約2 mL)を取りゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。数平均分子量(Mn)は1,678であり、重量平均分子量(Mw)は1,825であった。また、Mw/Mnで求められる多分散度は1.078と小さく、GPCで単分散のピークが得られたことから、PEGの重合が十分に進んでいると判断した。
【0064】
(2) PEG末端のカルボキシル化
上記(1)で得た反応液のうち半量の12.5 mLをアルゴン下でナスフラスコに添加し、無水コハク酸(0.727 mol/L)を3.5 mL添加し、常温で24時間、スターラーで撹拌しながらPEG重合の停止反応を行なった。24時間後、反応液をジエチルエーテル(1 L)で沈殿させた。沈殿物を濾取してビーカーに取り、メタノールで溶解した。再びジエチルエーテル(1 L)で沈殿させ、沈殿物を濾取してメタノールに溶解し、蒸留水で透析した。透析後、ナスフラスコに移して凍結乾燥を行ない、淡黄色の粉末(0.904 g)を得た。GPCにより分子量を測定したところ、Mnは1,773、Mwは1,903であった。多分散度は1.073であり、単分散のピークが得られたことから、副反応なく反応が進行していることが確認できた。また、1H-NMRスペクトルを測定したところ、3.4 ppm付近のメトキシ基(OMe)由来のピークと2.6 ppm付近の -CO-CH2CH2-CO-由来のピークの積分比はほぼ1:1であり、末端にカルボン酸を導入したことが確認された。
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm) 2.62 (s, COCH2CH2CO, 4H), 3.38 (s, 3H), 3.65 (s, 176H), 4.26 (t, 2H).
【0065】
(3) PEG末端のカルボキシル基の活性エステル化(MeO-PEG-NHSの合成)
上記(2)で得た化合物 0.2 gを50 mL用スクリュー管に添加した。NHS 57.6 mg、DCC 41.26 mg、及びクロロホルム 10 mLをスクリュー管に添加し、スターラーで撹拌しながら常温で24時間反応した。反応終了後、固体を除くためにろ過を行ない、ろ液を300 mLのジエチルエーテルで沈殿させた。沈殿物を濾取して乾燥し、得られた固体をビーカーに取り、クロロホルムに溶解した。ジエチルエーテルでの沈殿及び濾取を2度繰り返し、得られた固体をクロロホルムに溶解して100 mLナスフラスコに入れ、溶媒を留去した後にベンゼンを添加して凍結乾燥し、淡褐色粉末(104 mg)を得た。TOF-MSによるMnは2192.12であり多分散度は1.02であった。
【0066】
TOF-MSスペクトルから各ピークの間隔は44でありこれはPEGのそれぞれのユニットの分子量であることが確認できた。TOF-MSスペクトルでの各ピークの測定値と理論値を比較することにより、末端に目的の官能基が導入できたかを確認することができる。表1に各n数に対する分子量の理論値と測定値を示した。各nに対する測定誤差は2mass以内であり、目的とする化合物が得られたことを示している。また、1H-NMRスペクトルを測定したところ、NHS基の導入率(3.37 ppmのメトキシ基に由来するピークと2.84 ppmの NHS基に由来するピークの積分比)は97.3%であり、ほぼ100%の割合でNHS基が導入されたことが確認できた。
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm) 2.78 (t, 2H), 2.84 (s, 4H), 2.95 (t, 2H), 3.37 (s, 3H), 3.64 (s, 176H), 4.26 (t, 2H)
【0067】
【表1】
【0068】
(4) PEG-ペプチドの合成
ペプチド 24.6 mgにジメチルスルホキシド(DMSO) 1 mL、上記(3)で得た化合物 41.17 mg、及びトリエチルアミン 5μLを添加し、常温で3時間振とうして反応させた。HPLCにより反応終了を確認し、凍結乾燥して白色粉末(66.76 mg)を得た。TOF-MSを測定したところMnは3223.82であり、理論値のである3255.93とは32mass違っていたが、分子量の分布をもっていることからPEG 由来の化合物であり、PEG-ペプチドであると推定された。また、多分散度は1.01で、単分散のピークであることから反応は定量的に進行していることを確認した。1H-NMRスペクトルを測定したところ、6.6-7.4 ppmにペプチド中のチロシンのベンゼン環由来のピークを確認した。3.38 ppm付近のメトキシ基に由来するピークとチロシンのベンゼン環由来のピークの積分比がモル比で1:1であることから、PEG末端へペプチドが100%導入されていることが確認できた。
【0069】
(5) PEG-ペプチド-DOPEの合成
例(4)で得たPEG-ペプチド 54.7 mgをクロロホルム 4 mLに溶解し、DOPE 24.7 mg、DCC 6.85 mg 、NHS 3.82 mg、及びトリエチルアミン 4.63μlを添加し、常温で48時間振とう反応させた。反応終了後、デシケーターによりクロロホルムを除き、再びクロロホルム 1.5 mLに溶解した。スターラーで撹拌しながらジエチルエーテル 100 mLに上記のクロロホルム溶液をゆっくり滴下し、PEG由来化合物を析出させた。常温で個体が沈殿するまで静置し、上清を除いた。ジエチルエーテル 50 mLを添加しスターラーで撹拌後、沈殿するまで静置して上清を取り除いた。沈殿物を水で溶解し、HPLCにて分離精製し、分取した画分を透析して凍結乾燥した。TOF-MSより求められたMnは3955.15、多分散度は1.00であった。ピークが分子量分布をもっていることからPEG由来のものであり、理論値3949.86との誤差は5.3massと近いことからPEG-ペプチド-DOPEであることが示された。1H-NMRスペクトルを測定したところ、3.35ppmのPEG末端メトキシ基由来のピークと、6.6-7.1ppmのペプチドのチロシンのベンゼン環由来のピークとの積分比は3:4.3とモル比がほぼ1:1であり、PEG-ペプチドと比較して大きな変化はなかった。
【0070】
例2
例1で得たPEG-ペプチド-DOPEがMMPで切断されるか否かを評価した。試験管内での評価では粒子径が増大することによりPEGの切断を確認できる系を用いた。DOPE分子は疎水基が親水基よりも大きなコーン型構造をしており、DOPEだけではリポソームを形成せず疎水基が外を向いたミセル様の逆ヘキサゴナル構造をとり、水相中ではそれらが凝集する形で安定化している。シリンダー型脂質ではラメラ構造(二重膜構造)つまりリポソーム構造を、逆コーン型脂質ではミセル構造を形成する(図1)。DOPEに一定の割合でPEG脂質を添加すると、ラメラ構造をとりリポソームを安定的に形成することが知られている。従って、PEG-ペプチド-DOPEを用いて調製したDOPE含有リポソームにマトリックスメタロプロテアーゼを作用させ、これによりペプチドの分解及びPEGの切断が起こると、PEGが切断されたDOPEではリポソームを形成できなくなり、ヘキサゴナル構造となって凝集が始まる。以上の仮説をPEG切断の評価方法として採用した。また、in vitroにおけるPEG切断の評価としては、遺伝子発現活性を測定する方法を採用した。PEGの切断によりMENDと細胞膜との相互作用が上昇すれば、遺伝子発現活性の減少が抑制される。
【0071】
マトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP-2)はSIGMAより購入した。DOPE-PEGはAvantiより購入した。トリプシンはLife Technologiesより購入した。DISMICはAdvantecより購入した。逆相HPLCはModel1321H1(GILSON)、検出器はUV/VIS-155(GILSON)、カラムはSOSMOSIL 5C18-AR-II(Nacalai Tesque)を使用し、移動相は0.5% TFA-H2Oと0.5% TFA-アセトニトリルをMillicup-LH vacuum-driven bottletop filter unit(Millipore)でろ過したものを用いた。流速は1.0 mL/minとした。
【0072】
(1) DOPEリポソームの調製とPEG切断評価
エタノールに溶解した1 mMの脂質溶液について100%を125μLとして各mol比に従って試験管に添加し、1 mM DOPE-PEG溶液を必要に応じて添加した。エタノールと等量のクロロホルムを添加して撹拌した後、デシケーターで溶媒を留去し脂質膜を得た。脂質膜調製後、20 mM HEPES (pH 7.4)、280 mM NaCl、4 mM CaCl2を含む溶液(250μL)を添加し30分の水和後に1分間ソニケーションしてリポソームを調製した。
【0073】
まず、ペプチドがMMP-2により分解されるか否かを検討した。10 mM HEPES (pH 7.4)、140 mM NaCl、及び2 mM CaCl2を含む溶液に溶解した0.5 mMペプチド溶液(25μL)を逆相HPLCにより分析した。また、MMP2を最終濃度で53 nM、230 nM、450 nMとなるように0.5 mM ペプチド溶液(25μL)に加えて37℃で2時間インキュベーションした後、全量をHPLCにより分析し、MMP2によりペプチドが分解されるかを確認した。MMP-2処理すると、ペプチドのピークよりも早い時間にピークが観察されたが、出現したピークは酵素濃度依存的に大きくなることから、このピークは酵素による分解産物であることが示された。
【0074】
つぎに、調製したリポソーム(50 μL)に対してPBS(10μL)、最終濃度で230 nM又は5.5 nMのMMP-2、及び最終濃度で230 nMのウシ血清アルブミンをそれぞれ添加し、37℃でインキュベーションして2、8、及び24時間後の粒子径を測定した。図2にDOPE-PEGの添加割合と粒子径との関係を示す。DOPE-PEGが0%では粒子径が1000 nmを超える凝集体が観察され、これは逆ヘキサゴナル構造体であると考えられる。DOPE-PEG 1%の添加量ですでに200 nm以下の分散安定なリポソームが調製可能であった。また、PEGの添加量依存的に粒子径は緩やかに減少した。これらのリポソームを37℃で24時間インキュベートしても凝集は見られなかった。この結果は、DOPE-PEGの0.5%の添加で相転移温度が37℃以上になったことを示唆している。
【0075】
図3にPEG-ペプチド-DOPEの添加割合と粒子径との関係を示す。この場合も同様にPEG-ペプチド-DOPE 1%の添加で200 nm以下の分散安定なリポソームを調製することができた。もっとも、この場合には37℃でインキュベートするとPEG含量5%までは凝集が認められた。添加量10%では37℃インキュベートでも凝集は認められず、分散安定なリポソームを形成していた。これはPEG-ペプチド-DOPEが相転移温度をDOPE-PEGほど上昇させないことを示唆している。原因としてはペプチドを構成するアミノ酸は比較的疎水性ありリポソーム膜と相互作用しやすいなどの可能性が考えられる。
【0076】
以上の結果に基づいて、37℃でも凝集の起こらないPEG-ペプチド-DOPE を10%の割合で含むDOPEリポソームを用いてMMP-2によるPEG切断評価を行った。結果を図4に示す。PBSやMMP-2 5.5 nMの添加ではリポソームの凝集は認められなかったが、MMP-2 230 nMの添加では凝集が認められた。BSA 230 nM添加では凝集は認められなかったことから、上記の凝集はタンパクとリポソームとの相互作用による凝集ではないと考えられ、この凝集はMMP-2の作用によりペプチドが開裂してPEGが脱離し、リポソームが不安定化して逆ヘキサゴナル構造に変化したためと考えられる。以上の結果より、PEG-ペプチド-DOPEはリポソームを構成している状態でもMMP-2により切断されることが示された。
【0077】
例3
非動化したFBSを加えたD'MEM(最終FBS濃度10%)を用い、ヒト繊維芽肉腫細胞由来HT1080細胞をCO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)中で滅菌済み培養ディッシュで培養した。70%コンフルエントになったところで0.5 mM EDTA-PBSを用いてディッシュより細胞をはがし、新しいD'MEMを用いて1-5×104 cells/mLになるように細胞懸濁液を希釈し、滅菌済みディッシュで培養することにより継代培養を行った。同様にして、ヒト腎臓内皮様HEK293細胞の培養を行った。HEK293細胞の場合には、0.05% Trypsin/0.5 mM EDTA-PBSを用いてディッシュより細胞をはがして継代培養を行った。
【0078】
pDNAをPLLなど塩基性に富んだペプチドにより凝集させるコンパクション体は、pDNAのリン酸基の負電荷とペプチド中のリジンやアルギニン残基の正電荷の静電的な相互作用により形成される。pDNAのリン酸基1つを−1、リジンおよびアルギニン残基1つを+1の電荷として以下の式(1)よりcharge ratio(+/-)を算出した。
式(1):charge ratio(+/-) = [Cp×(nK + nR)/MWP]/(CD/MWD)
Cp:ペプチド溶液の濃度 [mg/mL]
nK:ペプチド1分子当たりのリジン残基数
nR:ペプチド1分子当たりのアルギニン残基数
MWP:ペプチドの分子量
CD:pDNA溶液の濃度 [mg/mL]
MWD:ヌクレオチド1塩基当たりの分子量
【0079】
負電荷のコンパクション体を調製するために式(1)に従いcharge ratio(+/-) =1.5とした。pDNA(0.5 mg/mL)30μLに10 mM HEPES-HCl (pH 7.4) 120μLを添加した。プロタミン(2 mg/mL)5 μLに10 mM HEPES-HCl (pH 7.4) 95 mLを添加した。pDNA溶液をボルテックスミキサーで攪拌しながらプロタミンをゆっくり滴下した。粒子径及びゼータ電位を測定してコンパクション体が得られたことを確認した。
【0080】
エタノールに溶解した1 mMの脂質溶液をDOTAP 30%、DOPE 40%、Chol 30%となるように100%を125μLとして各モル比に従って試験管に添加した。PEG脂質の添加は、PEG脂質を除く脂質を100%として、それに対してのモル比として5%又は15%となるようにエタノールに溶解した1 mMのPEG-DSPE溶液又はPEG-ペプチド-DOPEを添加し、エタノールとと等量のクロロホルムを添加して撹拌した後、デシケーターで溶媒を留去し脂質膜を得た。その後、コンパクション体の溶液(250 μL)を脂質膜に添加し15-30分間、室温で静置して水和させた後、1-2分間ソニケーションした。粒子径とζ電位を測定した。調製したMENDの粒子径とゼータ電位を表2に示す。PEG-ペプチド-DOPEを含むMENDとPEG-DSPEを含むMENDとの間には測定値に大きな違いは認められず、同等のMENDが調製できていると考えられた。
【0081】
【表2】
【0082】
トランスフェクション前日にHT1080細胞又はHEK293細胞を24wellプレートに4×104 cells/wellで培地 1 mL中に播種した。0.4 μg DNA相当に調製したサンプルを無血清培地の場合にはFBS・抗生物質非含有D'MEM(以下、「D'MEM(-)」と略記する。)で250 μLとなるように希釈し、血清含有培地の場合はD'MEMで同様に希釈した。各wellをPBSで洗い、250 μL/wellの割合でサンプルを添加し、5% CO2下に37℃で3時間インキュベートした後、D'MEMを1 mL/well添加し、5% CO2下に37℃で 45時間インキュベートした。45時間後、各wellの培地を除去してPBSで洗浄した後、Reporter Lysis Buffer(75μL/well)を添加して-80℃で凍結した。30分後、凍結したプレートを室温で融解させ、氷上にてCELL SCRAPERを用いて細胞を剥がしとり、Lysis溶液を回収した後、遠心(4℃、15,000 rpm、5 min)して上清を回収した。上清20μLあたりのルシフェラーゼ活性(RLU)を測定し、上清をDDWで5倍希釈してBCA法によりタンパク定量を行ない、RLU/mg proteinを算出した。
【0083】
結果を図5((a)HT1080細胞)及び図6((b)HEK293細胞)に示す。PEG濃度依存的にMENDの遺伝子発現活性は減少した。PEGを15%修飾したMENDでは(a)HT1080細胞及び(b))HEK293細胞ともにPEG-DSPE修飾群と比較してPEG-ペプチド-DOPE修飾群の遺伝子発現活性の上昇は認められなかった。PEG 5% MENDでは(b)HEK293細胞においてPEG-ペプチド-DOPEによる遺伝子発現の上昇はPEG-DSPEと比較して5倍となり、(a) HT1080細胞においては35倍の顕著な上昇を示した。HT1080細胞のほうがMMP-2を多く発現していると思われることから、この結果はMMP-2発現量に依存している可能性があり、MMP-2によりペプチドが分解されPEGが切断された結果として遺伝子発現活性が上昇したものと考えられる。なお、PEG 15%では遺伝子発現に差がでなかったが、PEG量が多いために水和層が豊富となり、MMP-2が水和層を突破してペプチド部まで到達できなかったためと考えられる。
【0084】
例4
例3の式(1)に従い、charge ratio(+/-)=1.5として、ルシフェラーゼをコードするpDNAとプロタミンのコンパクション体をHEPES buffered glucose(10mM HEPES, pH7.4, 5% glucose;HBG)中で調製した。
例3と同様に、DOTAP 30%、DOPE 40%、Chol 30%の割合の脂質膜を調製し、これに対して、さらにモル比として5%又は15%となるようにPEG-DSPE又はPEG-ペプチド-DOPEを添加してエバポレーションすることにより、脂質膜を得た。次いで、これらの脂質膜にコンパクション体を添加してソニケーション処理することにより、MEND、PEG-DSPEを含むPEG修飾MEND及びPEG-ペプチド-DOPEを含むPEG修飾MENDを調製した。コンパクション体および各種MENDの粒子径及びζ電位を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
ヒト繊維芽肉腫由来HT1080細胞(1×106 cells)をBALB/cヌードマウス(雄性:5週齢)の背部皮下に移植し、腫瘍サイズ(長径)が12-18 mmとなった時点で、各種MEND(25 μg pDNA/ 420 μL in HBG、0.5 mM lipid)を尾静脈より投与し、48時間後に腫瘍組織を採取した。腫瘍組織をLysis buffer(0.1% Triton X-100, 2mM EDTA, 0.1M Tris-HCl, pH7.8)中でホモジュナイズし、4℃、15,000 rpmで10分間遠心し、上清についてルシフェラーゼ活性(RLU / 腫瘍組織)の測定を行った。結果を図7に示す(n=3, the mean±S.D., *P<0.01, N.D.:not detected )。
PEG非修飾MENDでは遺伝子の発現は認められなかった。一方、PEG修飾MENDは遺伝子の発現が認められたが、腫瘍組織における発現活性は、PEG-DSPE修飾群と比較してPEG-ペプチド-DOPE修飾群が約150倍上昇していた。
PEG-ペプチド-DOPE修飾群の方が100倍以上の発現活性の上昇が見られたのは、腫瘍組織移行後にPEG-ペプチド-DOPEのペプチドがMMPによって切断されたため、遺伝子発現活性が上昇したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】両親媒性脂質分子の構造分類及び脂質集合体の構造を模式的に示した図である。
【図2】DOPE-PEGの添加割合とリポソームの粒子径との関係を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図3】PEG-ペプチド-DOPEの添加割合とリポソームの粒子径との関係を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図4】PEG-ペプチド-DOPE を10%の割合で含むDOPEリポソームを用いてMMP-2によるPEG切断評価を行った結果を示した図である。縦軸は粒子径(nm)を示す。
【図5】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHT1080細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。
【図6】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHEK293細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。
【図7】PEG-ペプチド-DOPE を含むMENDを用いてHT1080細胞に遺伝子を導入して発現させた結果を示した図である。図中、PEG-MENDはPEG-DSPE修飾群、PPD-MENDはPEG-ペプチド-DOPE修飾群の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
リン脂質誘導体。
【請求項2】
該アルコール化合物がポリアルキレングリコール類である請求項1に記載のリン脂質誘導体。
【請求項3】
該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン類である請求項1又は2に記載のリン脂質誘導体。
【請求項4】
該ペプチドがVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyを含むペプチドである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項5】
該アルコール化合物がポリエチレングリコールであり、該リン脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミンであり、該ペプチドがGly-Gly-Glyをリンカーとして含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項6】
該ペプチドがGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を構成脂質として含む脂質膜構造体。
【請求項8】
リポソームである請求項7に記載の脂質膜構造体。
【請求項9】
抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した請求項7又は8に記載の脂質膜構造体。
【請求項10】
遺伝子が、悪性腫瘍における血管新生又は細胞増殖に関わるアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、shRNA、及びsiRNA、並びに酵素及びサイトカインを含む生理活性物質、アンチセンスRNA、shRNA、及びsiRNAをコードする遺伝子からなる群から選ばれる遺伝子である請求項9に記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の脂質膜構造体を含む悪性腫瘍の治療のための医薬組成物。
【請求項1】
アルコール化合物の残基とリン脂質類の残基とを含み、該アルコール化合物の残基とリン脂質の残基との間にペプチドを含むリン脂質誘導体であって、
(a)該アルコール化合物が、ポリアルキレングリコール類、グリセリン類、及びポリグリセリン類からなる群から選ばれるアルコール化合物であり、
(b)該リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファリジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類、及びホスファチジン酸類からなる群から選ばれるリン脂質であり、及び
(c)該ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質となりうる基質ペプチドを含むペプチドである(ただし、該基質ペプチドの両端又は片端には1個のアミノ酸又は2ないし8個のアミノ酸を含むオリゴペプチドが結合していてもよい)
リン脂質誘導体。
【請求項2】
該アルコール化合物がポリアルキレングリコール類である請求項1に記載のリン脂質誘導体。
【請求項3】
該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン類である請求項1又は2に記載のリン脂質誘導体。
【請求項4】
該ペプチドがVal-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Glyを含むペプチドである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項5】
該アルコール化合物がポリエチレングリコールであり、該リン脂質がジオレイルホスファチジルエタノールアミンであり、該ペプチドがGly-Gly-Glyをリンカーとして含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項6】
該ペプチドがGly-Gly-Gly-Val-Pro-Leu-Ser-Leu-Tyr-Ser-Gly-Gly-Gly-Glyである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のリン脂質誘導体を構成脂質として含む脂質膜構造体。
【請求項8】
リポソームである請求項7に記載の脂質膜構造体。
【請求項9】
抗腫瘍剤又は悪性腫瘍の遺伝子治療のための遺伝子を保持した請求項7又は8に記載の脂質膜構造体。
【請求項10】
遺伝子が、悪性腫瘍における血管新生又は細胞増殖に関わるアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、shRNA、及びsiRNA、並びに酵素及びサイトカインを含む生理活性物質、アンチセンスRNA、shRNA、及びsiRNAをコードする遺伝子からなる群から選ばれる遺伝子である請求項9に記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の脂質膜構造体を含む悪性腫瘍の治療のための医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2007−99750(P2007−99750A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49567(P2006−49567)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月10日 北海道大学大学院薬学研究科発行の「平成16年度 修士論文要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 日本DDS学会発行の「Drug Delivery System(DDS) 第20巻 第3号(通巻101号)」に発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月10日 北海道大学大学院薬学研究科発行の「平成16年度 修士論文要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 日本DDS学会発行の「Drug Delivery System(DDS) 第20巻 第3号(通巻101号)」に発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】
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