説明

自穿式アンカー体およびそれを用いた土砂地盤補強工法

【課題】 従来のアンカー体は、排水機能を備えていないため、土砂地盤の排水を行うには、アンカー体とは別に排水管を土砂地盤に設置しなければならない。
【解決手段】 金属管1が、全長に連続した内部空間1aを有し、内部空間1aに通じるスリット1bが外周に形成されているため、このスリット1bおよび内部空間1aを通って、土砂地盤中の地下水が排水される。このため、自穿式アンカー体3が地盤補強機能に加えて排水機能を兼ねるので、自穿式アンカー体3と排水管とを別々に土砂地盤中に設置する必要もなく、作業工期を短期化して安価に、土砂地盤を補強しつつ、土砂地盤の排水を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強土壁または盛土または切取法面等の土砂地盤を補強する補強材として用いる自穿式アンカー体、およびそれを用いた土砂地盤補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンカー体を土砂地盤に設置して土砂地盤を補強するには、先ず、削孔機に削孔ロッドを装着して土砂地盤を削孔する。その後、削孔ロッドを土砂地盤から引き抜いて、土砂地盤に形成された掘削孔に異形鋼棒や鋼管から成るアンカー体を挿入する。一方、特許文献1には、土砂地盤ではなく岩盤を対象とした地盤補強工法が開示されている。この地盤補強工法では、アンカー体であるロックボルトを削孔ロッドとして用いて岩盤を削孔し、アンカー体を岩盤中に残置する。
【0003】
また、アンカー体の引抜抵抗力は、アンカー体とその周囲の地盤との付着力および周辺地盤のせん断抵抗力に依存している。アンカー体の引抜抵抗力を確保するために、特許文献2に開示された岩盤を対象とする地盤補強工法では、ロックボルトにより掘削孔を掘り進め、掘削孔の底側でロックボルトに対して打撃および回転を与えることで、掘削孔の底部に径方向に拡径した大径部を形成する。その後、掘削孔内のロックボルト周囲にセメントミルク等の固結材を充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−097260号公報
【特許文献2】特開2001−090067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された従来の地盤補強工法におけるアンカー体は、排水機能を備えていない。このため、特許文献1に開示された岩盤を対象とした地盤補強工法を土砂地盤に適用し、アンカー体により土砂地盤を補強したとしても、さらに土砂地盤の排水を行うには、アンカー体とは別に排水管を土砂地盤に設置しなければならない。このため、このような工法では、作業工期が長期化し、また、コストが増大する。
【0006】
また、特許文献2に開示された従来の地盤補強工法では、アンカー体の設置時に掘削孔の底部を部分的に拡径することで、引抜抵抗力を確保しているが、その後、長期間経過した後の引抜試験により、アンカー体の引抜抵抗力が不足していることが明らかになった場合などには、地盤の補強力を増加させるために、このアンカー体の近傍に新たなアンカー体を増設しなければならない。このため、補強地盤の維持管理に時間およびコストがかかる。また、アンカー体の設置時に、その周辺の地盤の地質が掘削孔の底部に設けた大径部によって引抜抵抗力を確保できない場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
全長に連続した内部空間を有し、内部空間に通じる孔が外周に形成された、複数連結される金属管と、内部空間に連続する貫通空間を有し、金属管間に介挿されて、内部空間に挿入された拡径用の治具により貫通空間の外方へ押されて金属管の外径より大きく拡径する拡径装置とを備えて、自穿式アンカー体を構成した。
【0008】
また、本発明は、全長に連続した内部空間を有し、内部空間に通じる孔が外周に形成された金属管を削孔ロッドとして削孔機に装着して削孔し、削孔後に金属管をアンカー体として地中に残置する土砂地盤補強工法を構成した。
【0009】
本構成によれば、金属管が、全長に連続した内部空間を有し、内部空間に通じる孔が外周に形成されているため、この孔および内部空間を通って、土砂地盤中の地下水が排水される。このため、アンカー体が地盤補強機能に加えて排水機能を兼ねるので、アンカー体と排水管とを別々に土砂地盤中に設置する必要もなく、作業工期を短期化して安価に、土砂地盤を補強しつつ、土砂地盤の排水を行える。
【0010】
また、金属管の内部空間に圧縮空気や圧力水を送り込むことによって、アンカー体内部を随時清掃することが可能になり、アンカー体内への流入物やバクテリアの発生などによって低下した排水等の機能を回復することができる。また、アンカー体内に清掃用治具を挿入して清掃することもできる。この結果、長期的にアンカー体の排水機能および地盤補強機能を保持し、アンカー体の長期的な維持管理が可能である。
【0011】
また、削孔後に金属管の内部空間にボアホールカメラを挿入してアンカー体の内部を観察することが可能であり、金属管の詰まりや腐食の状況、および外周に形成された孔の開口状態等を随時確認することができるので、従来よりも綿密な施工時および施工後の品質管理が可能になる。
【0012】
また、本発明は、内部空間に連続する貫通空間を有する拡径装置を金属管間に介挿して削孔し、地中に複数の金属管および拡径装置を残置した後に、金属管の内部空間に拡径用の治具を挿入し、挿入した拡径用の治具により任意の拡径装置を貫通空間の外方へ押して金属管の外径より大きく拡径させる土砂地盤補強工法を構成した。
【0013】
本構成によれば、削孔後に、金属管の内部空間に拡径用の治具を挿入し、挿入した拡径用の治具により任意の拡径装置を外方へ押して、金属管の外径より大きく拡径させ、土砂地盤に対するアンカー体の引抜抵抗力を増大させることができる。このため、アンカー体を地盤中に残置後、長期間経過してアンカー体の引抜抵抗力が不足してきた場合でも、従来のように、アンカー体近傍に新たなアンカー体を増設する必要もなく、拡径用の治具により、拡径装置を金属管の外径より大きく拡径させることで、時間およびコストをかけることなく、容易にアンカー体の引抜抵抗力を増大できる。また、アンカー体の設置時、または設置後に、アンカー体周囲の設置時の地盤の軟硬に応じて、または、設置後の地質の変化に応じて、任意の位置に介挿されている拡径装置を拡径させることにより、従来のように、アンカー体周囲にセメントミルク等の固結剤を充填することなく、必要な引抜抵抗力を確保できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のように、アンカー体が地盤補強機能に加えて排水機能を兼ねるので、アンカー体と排水管とを別々に土砂地盤中に設置する必要もなく、作業工期を短期化して安価に、土砂地盤を補強しつつ、土砂地盤の排水を行える。また、金属管の内部空間に圧縮空気や圧力水を送り込むことなどによって、長期的にアンカー体の排水機能および地盤補強機能を保持し、アンカー体の長期的な維持管理が可能である。また、削孔後に金属管の内部空間にボアホールカメラを挿入してアンカー体の内部を観察することが可能であり、従来よりも綿密な施工時および施工後の品質管理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態による自穿式アンカー体を構成する金属管の側面図、(b)はその正面図である。
【図2】図1に示す金属管が拡径装置を介して複数連結された自穿式アンカー体の拡径前後の断面図および正面図である。
【図3】(a)は、本発明の変形例による自穿式アンカー体の側面図、(b)はその正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明による自穿式アンカー体およびそれを用いた土砂地盤補強工法の一実施の形態について説明する。
【0017】
図1(a)は、この一実施形態による自穿式アンカー体を構成する金属管1の側面図、同図(b)はその正面図である。
【0018】
金属管1は、全長に連続した内部空間1aを有し、内部空間1aに通じる孔がスリット1bとして外周に形成されている。この金属管1は、例えば、直径48[mm]の円筒形状で長さが1〜3m程度の鋼管から形成されている。
【0019】
図2は、金属管1が拡径装置2を介して複数連結された自穿式アンカー体3の拡径する前後の断面図および正面図である。なお、同図において図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。自穿式アンカー体3は、先端にキャップ4が設けられている。
【0020】
同図(b)は、自穿式アンカー体3の後端部に削孔機5を接続した際の、拡径前の正面図、同図(a)は、同図(b)のa−a線破断矢視断面図である。
【0021】
自穿式アンカー体3は、削孔ロッドとして削孔機5に装着されて、土砂地盤を削孔する。この際、キャップ4により、自穿式アンカー体3が円滑に土砂地盤中を推進させられる。削孔機5は、削孔後に自穿式アンカー体3が土砂地盤中に残置される際、自穿式アンカー体3から取り外される。
【0022】
拡径装置2は、幅方向中央で折れ曲がり可能な金属板2aが円周方向に等間隔に配置され、これら金属板2aの両端に2個のソケット2bにより接合されて構成されている。拡径装置2は、4枚の金属板2aに囲まれて内部空間1aに連続する貫通空間を有した略管状の形状をしており、ソケット2bを介して金属管1またはキャップ4と接合している。拡径装置2は、例えば幅が10〜30cm程度の大きさに形成される。金属管1は土砂地盤の補強に必要な本数が連結され、例えば、自穿式アンカー体3の全長が10〜15m程度にされる。金属管1間に介挿される拡径装置2の位置は、自穿式アンカー体3が挿入される土砂地盤の硬軟によって決定され、必要によっては各金属管1の長さが不揃いとされて、拡径装置2が必要な位置に設置される。なお、拡径装置2の折れ曲がり可能な金属板2aの枚数は4枚に限らず、例えば2枚や3枚などであってもよい。
【0023】
同図(d)は、削孔機5により土砂地盤を削孔後、土砂地盤に残置された自穿式アンカー体3の拡径前の正面図、同図(c)は、同図(d)のc−c線破断矢視断面図である。
【0024】
拡径装置2を拡径させ、自穿式アンカー体3の引抜抵抗力を増加する際には、金属管1の内部空間1aに拡径用の治具7が挿入される。拡径用の治具7は、棒状の挿入用ロッド7a、挿入用ロッド7aの先端に接合された十字状のジャッキ7b、およびジャッキ7b内部に格納された4本の伸縮棒7cから成る。挿入用ロッド7aは、土砂地盤に残置された各拡径装置2のうち、拡径させたい位置にある拡径装置2の貫通空間にジャッキ7bが位置するよう、伸ばされる。なお、拡径装置2の折り曲げ可能な金属板2aの枚数が例えば2枚や3枚などの場合には、十字状のジャッキ7bは3方向や2方向のものを用いる。
【0025】
同図(f)は、拡径装置2が拡径された際の自穿式アンカー体3の正面図、同図(e)は、同図(f)のe−e線破断矢視断面図である。
【0026】
挿入用ロッド7aを介してジャッキ7bに圧油を送ることにより、ジャッキ7b内に収納された4本の伸縮棒7cが金属管1の外径の外側方向に押し出される。この各伸縮棒7cの伸張により、例えば、厚さが2〜5mm程度の鋼管が4枚に分割されて形成された各金属板2aが押されて折れ曲がり、周囲の土砂地盤を押し退けて金属管1の外径より大きく各金属板2aが拡径する。
【0027】
引き続き自穿式アンカー体3の他の位置にある拡径装置2を拡径させたい場合、拡径用の治具7の伸張した各伸縮棒7cを圧油により縮小させた後、挿入ロッド7aを自穿式アンカー体3に沿って押し込みまたは引き抜くことにより、拡径させたい拡径装置2の位置までジャッキ7bを移動して、上述した同様の操作を行う。
【0028】
同図(h)は、拡径用の治具7を取り除いた自穿式アンカー体3の拡径後の正面図、同図(g)は、同図(h)のg−g線破断矢視断面図である。
【0029】
拡径装置2の各金属板2aは、拡径用の治具7が自穿式アンカー体3から取り除かれると、同図に示すように、折れ曲がって拡径した状態を保持する。拡径装置2がこのように周囲の土砂地盤を押し退けた状態で土砂地盤中に残置されることで、自穿式アンカー体3には強い引抜抵抗力が生じる。なお、拡径用の治具7が自穿式アンカー体3から取り除かれる際、拡径用の治具7の十字状のジャッキ7bを分離、残置して、挿入用ロッド7aのみ引き抜かれる構成であってもよい。
【0030】
本実施形態による上記の自穿式アンカー体3を用いた土砂地盤補強工法では、金属管1を削孔ロッドとして削孔機5に装着して削孔し、削孔後に金属管1を自穿式アンカー体3として地中に残置する。
【0031】
このため、本実施形態による自穿式アンカー体3およびそれを用いた土砂地盤補強工法によれば、金属管1が、全長に連続した内部空間1aを有し、内部空間1aに通じるスリット1bが外周に形成されているため、このスリット1bおよび内部空間1aを通って、土砂地盤中の地下水が排水される。このため、自穿式アンカー体3が地盤補強機能に加えて排水機能を兼ねるので、自穿式アンカー体3と排水管とを別々に土砂地盤中に設置する必要もなく、作業工期を短期化して安価に、土砂地盤を補強しつつ、土砂地盤の排水を行える。
【0032】
また、従来の、削孔機5に削孔ロッドを装着して土砂地盤を削孔し、削孔ロッドを土砂地盤から引き抜いてアンカー体を掘削孔に挿入する工程を省略することにより、工程を大幅に短縮できて、作業効率が向上する。また、削孔後に限らず、削孔中にスリット1bを介して土砂地盤中の地下水を排水することも可能である。
【0033】
また、金属管1の内部空間1aに圧縮空気や圧力水を送り込むことによって、自穿式アンカー体3内部を随時清掃することが可能になり、自穿式アンカー体3内への流入物やバクテリアの発生などによって低下した排水等の機能を回復することができる。また、自穿式アンカー体3内に清掃用治具を挿入して清掃することもできる。この結果、長期的に自穿式アンカー体3の排水機能および地盤補強機能を保持し、自穿式アンカー体3の長期的な維持管理が可能である。
【0034】
また、削孔後に金属管1の内部空間にボアホールカメラを挿入して自穿式アンカー体3の内部を観察することが可能であり、金属管1の詰まりや腐食の状況、および外周に形成されたスリット1bの開口状態等を随時確認することができるので、従来よりも綿密な施工時および施工後の品質管理が可能になる。
【0035】
また、本実施形態による土砂地盤補強工法では、内部空間1aに連続する貫通空間を有する拡径装置2を金属管1間に介挿して削孔し、地中に複数の金属管1および拡径装置2を残置した後に、金属管1の内部空間1aに拡径用の治具7を挿入し、挿入した拡径用の治具7により任意の拡径装置2を貫通空間の外方へ押して、金属管1の外径より大きく拡径させる。
【0036】
このため、本実施形態による自穿式アンカー体3およびそれを用いた土砂地盤補強工法によれば、削孔後に、金属管1の内部空間1aに拡径用の治具7を挿入し、挿入した拡径用の治具7により任意の拡径装置2を外方へ押して、金属管1の外径より大きく拡径させ、土砂地盤に対する自穿式アンカー体3の引抜抵抗力を増大させることができる。このため、自穿式アンカー体3を地盤中に残置後、長期間経過して自穿式アンカー体3の引抜抵抗力が不足してきた場合でも、従来のように、自穿式アンカー体3の近傍に新たなアンカー体を増設する必要もなく、拡径用の治具7により、拡径装置2を金属管1の外径より大きく拡径させることで、時間およびコストをかけることなく、容易に自穿式アンカー体3の引抜抵抗力を増大できる。また、自穿式アンカー体3の設置時、または設置後に、自穿式アンカー体3周囲の設置時の地盤の軟硬に応じて、または、設置後の地質の変化に応じて、任意の位置に介挿されている拡径装置2を拡径させることにより、必要な引抜抵抗力を確保できる。
【0037】
なお、上記の実施形態では、金属管1に1本のスリット1bを設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されることはない。図3(a)および(b)は、本発明の変形例による自穿式アンカー体を構成する金属管11の側面図および正面図である。この変形例では、内部空間11aを有する金属管11は、中央部分にスリット11cを1つ備え、両端部分にはそれぞれスリット11bを4つ備えている。このような金属管11の構成によっても、上記の実施形態と同様な作用・効果が奏される。
【符号の説明】
【0038】
1…金属管
1a…内部空間
1b…スリット
2…拡径装置
2a…金属板
2b…ソケット
3…自穿式アンカー体
4…キャップ
5…削孔機
7…拡径用の治具
7a…挿入用ロッド
7b…ジャッキ
7c…伸縮棒
11…金属管
11a…内部空間
11b、11c…スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全長に連続した内部空間を有し、前記内部空間に通じる孔が外周に形成された、複数連結される金属管と、
前記内部空間に連続する貫通空間を有し、前記金属管間に介挿されて、前記内部空間に挿入された拡径用の治具により前記貫通空間の外方へ押されて前記金属管の外径より大きく拡径する拡径装置と
から構成される自穿式アンカー体。
【請求項2】
全長に連続した内部空間を有し、前記内部空間に通じる孔が外周に形成された金属管を削孔ロッドとして削孔機に装着して削孔し、削孔後に前記金属管をアンカー体として地中に残置する自穿式アンカー体を用いた土砂地盤補強工法。
【請求項3】
前記内部空間に連続する貫通空間を有する拡径装置を前記金属管間に介挿して削孔し、地中に複数の前記金属管および前記拡径装置を残置した後に、前記金属管の前記内部空間に拡径用の治具を挿入し、挿入した拡径用の前記治具により任意の前記拡径装置を前記貫通空間の外方へ押して前記金属管の外径より大きく拡径させる
ことを特徴とする請求項2に記載の自穿式アンカー体を用いた土砂地盤補強工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−21401(P2011−21401A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167839(P2009−167839)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000112093)ヒロセ株式会社 (49)
【Fターム(参考)】