説明

舗装用目地材

【課題】目地材としての基本性能を有するとともに、舗装の膨張などにより圧縮されても舗装面にはみ出したりすることがない注入タイプの舗装用目地材を提供する。
【解決手段】エアミルクタイプのセメント系目地材であって、超速硬セメント:4〜55mass%、炭酸カルシウム粉:9〜83mass%、気泡剤:0.01〜1mass%、水:10〜45mass%を含む。目地用隙間に注入されて硬化した状態で、目地としての形状を保つことができるとともに、圧縮によって潰れやすい気泡モルタルを形成し、この気泡モルタルは舗装の膨張による圧縮を受けると圧潰され、粉化することで膨張を吸収する。また、この気泡モルタルは、徐々に圧潰されて粉状となって下方の路床上に崩落していくため、舗装面にはみ出したりすることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装用目地材に関するもので、特に、膨張性のある路盤材を用いた路盤の膨張圧を吸収するために設けられる目地に好適な注入タイプのセメント系目地材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路や駐車場などの路盤材としては、天然系の材料の他に、コンクリート廃材や鉄鋼スラグなどが用いられている。施工した路盤材に、遊離CaO、遊離MgO、或いはエトリンガイト(3CaO・AlO・3CaSO・32HO)鉱物を生成する成分が含まれていると、遊離CaOや遊離MgOによる水和物の生成、或いはエトリンガイトの生成によって路盤が膨張し、この膨張量が大きい場合には、路盤が隆起してアスファルト舗装が隆起・破壊したり、舗装に隣接した構造物が破壊されるなどの問題を生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような問題の予防策として、カッターによりアスファルト舗装を路床まで切断して目地を形成するという対策が考えられる。しかし、このような目地を設けても、路盤材が崩れて目地の一部を塞ぐため板状の目地材を用いることができない。一方、粘弾性系の注入タイプの目地材を用いた場合には、目地材が路盤の膨張により圧縮されて舗装面にはみ出し、車両や歩行者の通行の障害となる問題がある。
また、このような粘弾性系の注入タイプの目地材は、道路や駐車場などのコンクリート舗装の膨張・収縮対策として設けられる目地に使用した場合でも、同様の問題を生じる。
【0004】
一方、注入タイプの目地材を舗装面近くまで注入しない方法も考えられるが、この方法では目地の溝跡が路面より低くなり、段差が生じてしまう。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、目地材としての基本性能を有するとともに、舗装の膨張により圧縮されても舗装面にはみ出したりすることがない注入タイプの舗装用目地材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決できる注入タイプの舗装用目地材を見出すべく検討を重ねた結果、水に気泡剤、炭酸カルシウム、超速硬セメントを適量配合したセメント系エア(気泡)ミルクを目地材として用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、エアミルクタイプのセメント系目地材であって、超速硬セメント:4〜55mass%、炭酸カルシウム粉:9〜83mass%、気泡剤:0.01〜1mass%、水:10〜45mass%を含むことを特徴とする舗装用目地材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の舗装用目地材は、目地用隙間に注入されて硬化した状態で、目地としての形状を保つことができる基本性能を有するとともに、圧縮によって潰れやすい気泡モルタルを形成し、この気泡モルタルは舗装の膨張による圧縮を受けると圧潰され、粉化することで膨張を吸収する。また、この気泡モルタルは、徐々に圧潰されて粉状となって下方の路床上に崩落していくため、従来の粘弾性系の注入タイプの目地材のように舗装面にはみ出したりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の舗装用目地材が好適に使用される路盤の補修工法の一実施形態を工程順に示す説明図
【図2】本発明の舗装用目地材が好適に使用される路盤の補修工法の他の実施形態(補修完了後の状態)を示す説明図
【図3】図1および図2の補修工法において、路盤材敷設層Aの平面に対するカッター溝Gの設置形態を例示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の舗装用目地材は、エアセメントミルクタイプの目地材であって、超速硬セメント:4〜55mass%、炭酸カルシウム粉:9〜83mass%、気泡剤:0.01〜1mass%、水:10〜45mass%を含むものである。なお、エアセメントミルクは、気泡モルタル、または発泡モルタル、発泡セメントミルク、気泡セメントミルク、発泡ミルク、セメント系発泡材などと言う場合もある。ここで、目地材をエアセメントミルクタイプとするのは、材料分離を生じることなく目地用隙間内に適切に注入することができるとともに、目地として硬化すると気泡モルタル状となり、舗装の膨張による圧縮を受けると圧潰され、粉化することで膨張を吸収できるからである。このように本発明のセメント系目地材は、目地として硬化した状態で、圧縮によって潰れやすい気泡モルタルが形成されるようにした点に大きな特徴がある。
【0009】
本発明の舗装用目地材において、セメントとして超速硬セメントを用いるのは、施工作業を迅速且つ効率的に行えるようにするため、目地用隙間内に注入してから速やかに硬化し、目地としての形状を保てるようにするためである。
超速硬セメントの添加量が4mass%未満では、目地としての形状を保てるだけの強度が得られにくい。一方、添加量が55mass%を超えると、硬化後の強度が大きくなりすぎ、舗装の膨張により圧縮されても圧潰・粉化されにくくなる。
炭酸カルシウム粉は、目地材の流動性を高め、材料分離を生じないようにするために添加するものであり、この炭酸カルシウム粉の添加量が9mass%未満では、材料分離を生じやすい。一方、添加量が83mass%を超えると、相対的に超速硬セメントの割合が低下するため、目地としての形状を保つための強度が得られにくくなる。
【0010】
気泡剤(AE剤)を添加することにより、セメント系目地材をエアミルク化することができる。
気泡剤(AE剤)としては、例えば、カルボン酸型(例えば、樹脂酸塩、脂肪酸塩)、硫酸エステル型(例えば、アルコール硫酸エステル塩)、スルホン酸型(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩)、エーテル型・エステルエーテル型(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)などを用いることができる。気泡剤の市販品としては、例えば、「フローリックFA100」(商品名,(株)フローリック製,アルキルサルフェート系界面活性剤)などが挙げられる。
気泡剤の添加量が0.01mass%未満では、発泡が不十分であるため、硬化すると硬くなり、舗装の膨張により圧縮されても圧潰・粉化されにくくなる。一方、添加量が1mass%を超えると、発泡が過剰となるため、目地としての形状を保つための強度が得られにくくなる。
水の添加量が10mass%未満では、流動性が不足するため、混練むらや注入むらが生じやすい。一方、添加量が45mass%を超えると、材料分離を生じやすい。
【0011】
本発明の舗装用目地材は、目地として硬化した状態で舗装の膨張で圧縮を受けることにより、圧潰されて粉化することが必要であり、このため硬化した状態で圧縮率が90%以上であることが好ましい。ここで、圧縮率(%)とは、「目地に充填材を充填した際に舗装が膨張したときの目地の収縮可能量(厚み)/舗装が膨張する前の目地厚×100」を表している。
以上のような本発明の舗装用目地材は、目地用隙間に注入されて硬化した状態で、目地としての形状を保つことができる基本性能を有するとともに、圧縮によって潰れやすい気泡モルタルを形成し、この気泡モルタルは舗装の膨張による圧縮を受けると圧潰され、粉化することで膨張を吸収する。また、この気泡モルタルは、徐々に圧潰されて粉状となって下方の路床上に崩落していくため、従来の粘弾性系の注入タイプの目地材のように舗装面にはみ出したりすることがない。
【0012】
本発明の舗装用目地材は、以下のようにして製造することができる。
計量した水に気泡剤を添加し、電動泡立器などを用いて発泡させた上で、炭酸カルシウム粉を添加し、適当な時間(例えば、1分間程度)練り混ぜる。さらに、超速硬セメントを添加し、適当な時間(例えば、1分間程度)練り混ぜることにより、エアセメントミルクタイプの目地材が得られる。
本発明の舗装用目地材は、アスファルトコンクリート舗装、セメントコンクリート舗装のいずれにも適用できる。また、セメントコンクリート舗装などにおいて舗装施工時に設けられる目地、アスファルトコンクリート舗装などにおいて舗装施工後に膨張吸収などを目的として設けられる目地のいずれにも適用できる。
【0013】
また、これらの用途のうちでも、本発明の舗装用目地材は、膨張性のある路盤材を使用したアスファルトコンクリート舗装において、舗装施工後に路盤膨張によるひずみの開放と補修後の膨張吸収を目的として目地を設ける補修工法用の目地材として特に好適である。このような用途の目地材には、舗装の膨張を適切に吸収し、且つ舗装の膨張により圧縮されても舗装面にはみ出すことがない性能が高度に要求されるが、本発明の舗装用目地材はそのような要求性能を確実に満足することができる。
【0014】
上記補修工法は、膨張性のある路盤材敷設層Aの上層にアスファルトコンクリート層Bが設けられた路盤の補修方法であって、路盤材敷設層Aをアスファルトコンクリート層Bとともにカッターで切断してカッター溝Gを形成した後、このカッター溝G内(少なくとも路盤材敷設層Aに形成されたカッター溝G内)に、路盤材敷設層Aの膨張を吸収できる充填材Fを充填するものであり、この充填材Fとして本発明の舗装用目地材を用いるものである。
また、この補修工法の好ましい実施形態では、路盤材敷設層Aに形成されたカッター溝G内に、路盤材敷設層Aの膨張を吸収できる充填材F(本発明の舗装用目地材)を充填し、アスファルトコンクリート層Bに形成されたカッター溝G内に他の充填材を充填する。
【0015】
ここで、膨張性のある路盤材敷設層Aとは、路盤材が遊離CaO、遊離MgO、エトリンガイトを生成する成分などのような膨張原因成分を1種以上含むことにより、膨張性(膨張する性質)を有する敷設層のことである。
この補修工法によれば、路盤を構成する膨張性のある路盤材敷設層Aの一部分を略全層厚方向でカッター溝Gで除去することにより、路盤材敷設層Aの膨張によってそれまでに蓄積されてきたひずみ(膨張圧)が開放されるとともに、カッター溝Gに充填された充填材F(本発明の舗装用目地材)が補修後の路盤材敷設層Aの膨張を吸収するので、路盤材敷設層Aの膨張による隆起・破壊などを適切に予防することができる。
【0016】
図1(イ),(ロ)は、上記補修工法の一実施形態を工程順に示したものである。図において、Aは路盤を構成する路盤材敷設層(以下、単に「敷設層A」という)、Bはこの敷設層Aの上層に設けられるアスファルトコンクリート層、Cは敷設層Aが設けられる路床である。前記敷設層Aは、これを構成する路盤材(例えば、鉄鋼スラグ)が遊離CaO、遊離MgO、或いはエトリンガイトを生成する成分を含むことにより、膨張性(膨張する性質)を有する。
本実施形態では、図1(イ)に示すように、アスファルトコンクリート層Bの表面からカッターを入れ、敷設層Aの略全層厚をアスファルトコンクリート層Bとともに切断して、カッター溝Gを形成する。
次いで、図1(ロ)に示すように、カッター溝G内に敷設層Aの膨張を吸収できる充填材Fとして、本発明の舗装用目地材を充填する。
なお、充填材Fは、必ずしもカッター溝G内を完全に満たす必要はないが、少なくとも敷設層Aに形成されたカッター溝Gを満たす必要はある。
【0017】
充填材F(本発明の舗装用目地材)は、図1(ロ)の形態のようにカッター溝Gの全体に充填してもよいが、特に、図2に示すような実施形態で充填するのが好ましい。
図2の本実施形態は、カッター溝Gを形成する点は図1の実施形態と同様であるが、敷設層Aに形成されたカッター溝G内にのみ充填材F(本発明の舗装用目地材)を充填し、その上のアスファルトコンクリート層Bに形成されたカッター溝G内には他の充填材Dを充填する。
前記充填材Dの材料に特別な制限はないが、特にアスファルトを含む液状注入タイプの充填材(例えば、アスファルトと樹脂および/またはゴムを主体とする加熱注入タイプの充填材)が好ましい。また、このような液状注入タイプのものを充填材として用いる場合には、充填材Dを支持するためのバックアップ材Eを、事前に充填材Dの下端位置に設置することが好ましい。このバックアップ材Eは、例えば、ゴムや樹脂(例えば、ポリウレタン、ポリエチレンなど)などからなる弾性変形可能な棒状体で構成される。
【0018】
この補修工法において、カッター溝Gを設ける形態は基本的に任意であるが、敷設層Aの膨張を適切に吸収するという観点からは、敷設層Aの平面に対して並列状または格子状に設けることが好ましい。また、カッター溝Gを格子状に設けることにより、敷設層Aを小区画に分断できるので、敷設層Aの膨張をより適切に吸収できるので好ましい。なお、カッター溝Gを並列状に設ける場合には、溝どうしが必ずしも平行でなくてもよい。また、カッター溝Gを格子状に設ける場合には、必ずしも碁盤目状でなくてもよい。したがって、格子状に区画された部分の大きさや形状が異なっていてもよく、また、区画された部分が正方形以外の形状でもよい。
【0019】
図3は、敷設層Aの平面に対するカッター溝Gの設置形態を例示したものであり、図3(イ)はカッター溝Gを並列状に設けたもの、図3(ロ)はカッター溝Gを格子状(この例では碁盤目状)に設けたものである。さきに述べたように、敷設層Aの膨張を適切に吸収するという観点からはカッター溝Gは格子状に設けることが特に好ましいが、例えば、道路などのような細長い路盤の場合には、図3(イ)に示すような形態で、路盤幅方向に沿ったカッター溝Gを並列状に設ければ十分なこともある。
ここで、図3に示すようなカッター溝Gの幅wと設置間隔p(隣接するカッター溝G間の距離)は、敷設層Aの水平方向での残存膨張量α(補修後にカッター溝G幅方向で生じる膨張量)と充填材Fの膨張吸収量β(カッター溝G幅方向において吸収できる膨張量)に応じて、α≦βとなるように決定することが好ましい。α>βでは充填材Fまたは空隙部Hによる膨張吸収が間に合わず、隆起を生じる恐れがある。
【0020】
例えば、図1,図2の実施形態において、仮に圧縮率が90%の充填材F(本発明の舗装用目地材)を用いる場合、カッター溝Gの幅wの90%に相当する敷設層Aの膨張量を吸収することができ、カッター溝Gの幅wが10mmの場合には、膨張吸収量βは9mmとなる。一方、膨張性の敷設層Aの残存線膨張率(残留膨張ひずみ)は、膨張の原因となる路盤材の成分分析に基づいて計算することができ、仮に、残存線膨張率が0.14%であるとすると、カッター溝Gの設置間隔pを約6.4m以下とすればよいことになる。
一般的にカッター溝の幅wは10〜30mm程度であり、したがって、上述した観点から規定されるカッター溝Gの設置間隔pは、通常、6〜20m程度となる。
【0021】
なお、敷設層Aの残存線膨張率は、例えば、遊離CaOの水和(Ca(OH)の生成)が膨張の原因である場合には、敷設層A中でのCa(OH)生成可能量x(mass%)(=遊離CaOの全量がCa(OH)となった場合の生成量)、補修前のCa(OH)生成量y(mass%)、Ca(OH)生成1mass%当たりの膨張率z(mass%)に基づき、残存線膨張率=(x−y)×zにより求めることができる。
【実施例】
【0022】
表1に示した成分配合の舗装用目地材を製造した。この目地材の製造は、上述した製造方法の手順にしたがって行った。超速硬セメントとしては、硬化時間調整型の超速硬セメント(商品名「マイルドジェットセメント」,住友大阪セメント(株)製)を用いた。また、気泡剤としては、アルキルサルフェート系界面活性剤(商品名「フローリックFA100」,(株)フローリック製)を用いた。
得られた目地材について、硬化後の圧縮強度をJIS−A1216「土の一軸圧縮強度試験方法」に準拠して測定した。その結果を表1に併せて示す。
【0023】
【表1】

【符号の説明】
【0024】
A 敷設層
B アスファルトコンクリート層
C 路床
D 充填材
E バックアップ材
F 充填材
G カッター溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアミルクタイプのセメント系目地材であって、超速硬セメント:4〜55mass%、炭酸カルシウム粉:9〜83mass%、気泡剤:0.01〜1mass%、水:10〜45mass%を含むことを特徴とする舗装用目地材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−168766(P2010−168766A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10654(P2009−10654)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000181354)鹿島道路株式会社 (46)
【Fターム(参考)】