説明

苗木ポットの成形方法

【課題】 信頼性、経済性、作業性のバランスの良さを実現し、大規模な緑化事業にも迅速柔軟に対応する。
【解決手段】 段ボール製の苗木ポット1に培養土7と苗木8を入れ、内壁2と外壁3の間に充填材10を詰めることを技術的前提として、充填材は、少なくとも砂、礫、土壌等の土質系の土質系材料と、容積配合比で15%以下のセメントを使用し、苗木と充填材に水を散水する。このようにすれば、苗木8に対する散水によって充填材10にも水が供給され、セメントが1〜3日で硬化する。苗木とセメントを同時養生し、しかもセメントの養生日数が短いため短期間で大量の苗木ポットを作ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化のための段ボール製の苗木ポットに係り、とくに、壁部に充填材を詰めるための空隙をもった苗木ポットの設置の効率化を図るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海岸の緑化や各種の荒蕪地の緑化は、自治体などによる事業計画などがあっても成功するケースが希であったところ、平成9年度に本願出願人が提案した苗木ポットを使用することによって、近年、各地において緑化事業の確実な成果を収めるに至っている。
【0003】
図2は、本出願人が提案した苗木ポットを例示するものである。この苗木ポット1は、平面からみたときの輪郭が六角形をなしており、壁部は、段ボールを使った内壁2と外壁3をもっている。そして、内壁2の内側空間5に培養土と苗木を入れ、内壁2と外壁3との間の隙間に充填材を詰めて、緑化予定地に設置する。
【0004】
平面形状を六角形とするのは、強度的な有利さがあり、多くの苗木ポット1を隙間なく並べ置くときに好ましい形状だからである。樹木は、苗木ポット1を離隔させて配するよりも密集させて配置する方が有利な条件となることが多い。苗木ポット1に段ボールを使用するのは、内壁2と外壁3との間の隙間に充填材を詰めたときに必要最小限の強度をもつこと、段ボールが資源としての再利用性に乏しく安価で大量に入手できること、折り畳み式で苗木ポットを組み立てることが出来ること、設置後は適当な時間をおいて腐敗し土壌に還元されることなど、各種の理由に基づく。
【0005】
このような苗木ポット1は、小学校などにおける教育実習、あるいは市民グループ等のボランティア活動による地域の緑化促進活動を通して広く知られるようになった。
【0006】
小学校における総合学習や市民グループの参加活動事業として、苗木ポット1を普及させる目的から、当初、内壁2と外壁3との間の隙間に詰める充填材としては、新聞紙をちぎって水に濡らし、これを密に詰めていた。水に濡らした新聞紙は、乾燥すると壁部に十分な強度を与える。また新聞紙を破って水に濡らして詰めるという作業を通して、数年後には苗木が大きく生長するというよろこびもあり、児童生徒だけでなく市民グループの参加者にも大きな反響があった。
【0007】
段ボールを利用した苗木ポット1は、折り畳み式で作ることが出来るため、個人的にもこれを携帯して海外へ旅行する人がいるなど、地道な緑化活動の重要性も広く知られるようになりつつある。
【特許文献1】特開平10−309134号
【特許文献2】特開2000−157064号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、自治体が計画する大規模な緑化事業等の場合は、苗木ポット1をより効率的に設置することが望まれる。教育実習や市民グループ参加の緑化運動のような方法、つまり、内壁2と外壁3との間の隙間に新聞紙を詰めたり、あるいは段ボールのパネル材を詰めたりする方法では、苗木ポット一個あたりに要する時間がかかりすぎて、経済的な面で見合わないからである。
【0009】
この苗木ポット1に使用する壁部(2、3)の充填材としては、当初は、水ねりしたコンクリートを詰めることも検討した。しかし、児童生徒や市民団体レベルの活動に、水ねりコンクリートを使用するのは好ましくなく、結局のところ使用しやすい新聞紙や段ボール等の紙を詰める方法を採用して今日に至っている。
【0010】
一方、大規模な緑化事業の場合は、計画実行後の信頼性ないし安全性と、経済効率とのバランスを考慮する必要がある。この結果、水ねりセメントを充填材とした場合にはいくつかの問題が生ずることがわかった。第一に、水ねりセメントを狭い空間に充填する手間(煩雑)があり、第二に、水分が多いため重量が重くなり、大量に保管したり現場へ搬送するときに作業の各段で難が生じやすくい点である。水練りコンクリートを用いた苗木ポットを作り置きする場合は、セメントの養生期間が相当日かかるという難点もある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、大量の苗木ポットを扱う場合における、信頼性、経済性、作業性のバランスの良さを実現し、大規模な緑化事業にも迅速かつ柔軟に対応できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、段ボール製の苗木ポットに培養土と苗木を入れ、内壁と外壁の間に充填材を詰めることを技術的前提として、充填材は、少なくとも砂、礫、土壌等の土質系の土質系材料と、容積配合比で15%以下のセメントを使用し、苗木と充填材に水を散水する。
【0013】
本発明に係る苗木ポットの成形方法は、セメントを水ねりせず、乾燥したままのセメントを用いる。土質系材料およびセメントは、出荷工場等において予め苗木ポットに充填し、苗木への散水時に充填材へも水をかけてセメントを固化させ、緑化すべき現場へ運び入れる。
【0014】
土質系材料は、苗木ポットを置く緑化現場の周辺の土壌を利用することが望ましい。苗木ポットを設置する場所(緑化の計画現場)は、例えば火山礫に覆われた場所や海岸のような砂地のように樹木の成長しにくい場所であり、そこにある火山礫や砂や土壌を利用するのが最も経済的である。
【0015】
しかしながら資源の再利用など、諸般の事情を考慮すれば、例えば貝殻のように原材料コストを必要とせず大量に入手可能なものもある。これらも骨材として補助的に利用可能である。ミネラル還元性もあり周辺土壌への悪影響もないからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る苗木ポットの成形方法によれば、苗木ポットの壁部に従来使用した他のいかなる材料よりも素早く充填材を詰めることが出来、大量生産時の作業性と経済性を高めることが出来る。水に濡らした新聞紙を使うときのようなゴミの散乱もないし、新聞紙、段ボールのパネル材、水練りセメントを使うときのような手間や煩雑さがなく、機械的に充填材を詰めることが出来るからである。
【0017】
苗木ポットの壁部に、土質系材料とともにセメントを若干量いれておけば、苗木対する散水(雨を含む)のときに、当該セメントにも必然的に水が供給され、セメントは水を得て土質系材料と絡み合った状態で硬化する。セメントは、土質系材料その他の充填骨材と混ぜておく必要はない。
【0018】
水の散布という、苗木に対する養生とセメントの養生を同時に行う点が本発明に係る成形方法の特徴である。苗木に対する散水時に、必然的に充填材(土質系材料とセメント)にも水が供給され1〜3日でセメントは固化するので、大量生産時の作業効率もよく、養生期間も各段に短縮できる利点がある。軽量なので、保管や輸送時の取り扱いも簡単になる。もちろん、苗木ポットの壁部を空にしたまま緑化現場の土壌を利用して壁部を充填し、セメントを固化させても良いし、予め充填材(土質系材料とセメントを含む材料)を詰めた状態で緑化現場に運び、設置後に散水によって苗木への水の供給と壁部の硬化処理を同時に行っても良く、保管、搬入、設置の際の作業性を高めることも出来る。
【0019】
充填骨材に対して若干(容積比率15%以下)のセメントであるが、水(雨を含む)を得て硬化したときには従来の新聞紙や段ボール板以上の強度を発揮し、水ねりしたセメントを使用する場合に較べると崩壊しやすく、土壌への還元がはるかに良好となる。また天然の土質系材料を用いるので、経年劣化によって苗木ポットを構成している段ボールが破損し、壁部の充填材が露呈しても見た目の悪さがなく景観の保持という点でも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係る苗木ポットの成形方法を例示するものである。苗木ポット1の構造は従来と同様、例えば段ボールを用いた平面六角形とし、壁部は、内壁2と外壁3とによって二重構造としてある。
【0021】
苗木ポット1は、段ボールを折り畳んで成形できる。折り畳んで成形したときには、内壁2と外壁3の下に開口ができるので、この開口から充填材10を詰める。充填材10は、例えば、砂1、軽石(例えば鹿沼土)1、貝殻の粉砕片1の割合の充填骨材(土質系材料)と、容積比で15%以下、好ましくは10〜15%のセメントを混ぜ合わせたものを使用する。4は、段ボール製の底板である。底板4によって開口を閉じてから、天地を逆にして、内壁2の内側空間に培養土7と苗木8を入れる。なお、9は、段ボールを折り曲げたときに生ずる折曲面で、壁部の天板となる。
【0022】
この後、培養土7、苗木8、および壁部(2、3、9)に十分に水を注ぎ、上板6をかぶせると苗木ポット1が完成する。なお、段ボールを折り畳んで苗木ポット1を作ると、内壁2には隣り合う面同士の間にわずかな隙間ができる。これは、材料となる段ボールに切り込みを入れておき内壁2を折曲成形するためであるが、この隙間の存在により、培養土7、苗木8、壁部(2、3、9)に水を注ぐと、壁部内の充填材10にも水がしみ込んでセメントを硬化させる。
【0023】
充填材10は、詰め易さを考慮すれば、乾燥度の高い粉粒状のものを使用することが望ましい。砂、軽石、貝殻の粉砕片は、いずれも通常は乾燥しているが、セメントが固化しない程度に水分を含んでいても問題はない。
【0024】
この実施形態において、充填骨材(土質系材料)として砂、軽石、貝殻の粉砕片を用いるのは、これらが大量安価に入手しやすいからである。保水力に優れる軽石(火山礫)は、全国各地で容易に採取できる。例えば鹿沼土として知られる軽石は、関東ローム層の軽石層に大量にあり、栃木県鹿沼市や群馬県の赤城山周辺でも比較的簡単に手に入れることが出来る。砂も保湿性に優れる。
【0025】
貝殻の粉砕片は、保水性はないが、強度を増す骨材としての機能もあり、また廃棄物である貝殻の有効利用のために使用できる。貝殻を粉砕して使用するときは、粒径は1cm以下とすることが望ましい。内壁2と外壁3の隙間の幅は、例えば2〜2.7cmである。これは苗木が根付くまでの期間、容器の形状を保持できるようにするためであるが、狭い隙間に粒状物を入れるときの作業性や、骨材としての機能性を考慮すれば、充填骨材の大きさを1cm以上にする必要はない。なお、内壁2と外壁3の隙間の幅は、土質系材料や充填骨材の大きさや、性質、およびセメントの配合量に応じて変更してかまわない。
【0026】
苗木ポット1を成形するときには、必ず培養土7と苗木8を入れておく。そうしないと、充填材(セメント)10が固化したときに、段ボールで作られている苗木ポット1は正常な形を保持できないからである。成型時の形を正常に保つという点だけでいえば、苗木8を入れておく必要はない。しかし、苗木ポット1の成形後にあとで苗木8を埋め込むとなると手間がかかるし、苗木とセメントの同時養生という本発明の利点も実現できない。
【0027】
このように、充填材10として砂と軽石のような土質系材料と、容積比15%以下のセメントを混ぜて使用すると、壁部の強度をもたせるための処理としては充填材10に対する水の供給だけでよい。そして、苗木ポット1の培養土7と苗木8には必ず水を与えなければならず、培養土7と苗木8に水を与えると、壁部にも水は注がれ、内壁2の折曲部の隙間から水が壁部内に入って充填材10にしみこみ、充填材10を硬化させる。このように充填材10に対する水の供給が必然的かつ不可避になされる。苗木とセメントが同時に養生されるため、作業に無駄がなくなり短い時間で大量の苗木ポット1を製造することが可能となる。
【0028】
本発明に係る苗木ポットの成形方法は、前記説明に限らない。例えば、苗木ポットは、必ずしも平面六角である必要はなく外観デザインは自由に設計できる。壁部の構造は、内壁と外壁の隙間の中に仕切板が存在してもよい。苗木ポットは段ボールを使用するが、必ずしも折り畳み成形のものに限定されない。その場合は、壁部内に水がしみ通るようスリットや小孔を設けておく。
【0029】
充填材10は、砂や火山礫のように保湿性(保水性)のある土質系の材料とセメントを併用するが、貝殻のように産業廃棄物として再利用の可能性が少ない資源を骨材として配合し有効利用ことはかまわない。しかしながら、苗木ポット1の壁部は搬送に耐えて苗木が根付くまでの間(例えば1〜2年間)、最小限の強度を保った上で容易に崩壊し土壌に還元されることが望ましいので、壁部の強度を不必要に高めるような砂利などの骨材は使用しないことが望ましい。
【0030】
セメントの配合比は、充填材の全体の容積に対して15%以下に抑える。15%以下に抑えることによって、苗木に対する散水によるセメントの同時養生が可能となる。これ以上のセメントを配合した場合にも大量に水を与えればセメントは硬化するが、その場合にはセメントを固めるための水の量が苗木に与える水の量を上回り、苗木とセメントの同時養生は困難になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る苗木ポットの成形方法を例示するための断面図である。
【図2】公知の段ボール製の苗木ポットを例示する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 苗木ポット
2 内壁
3 外壁
4 底板
5 内側空間
6 上板
7 培養土
8 苗木
9 天板
10 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段ボール製の苗木ポットに培養土と苗木を入れ、内壁と外壁の間に充填材を詰める苗木ポットの成形方法において、
前記充填材は、少なくとも砂、礫、土壌等の土質系材料と、容積配合比で15%以下のセメントを使用し、苗木および充填材に対して散水を行うことを特徴とする苗木ポットの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−136247(P2006−136247A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329229(P2004−329229)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(591100264)
【Fターム(参考)】