説明

苗植付装置

【課題】苗の植付姿勢を安定させることが可能な植付装置を提供する。
【解決手段】板状の部材を横断面視でコの字状となるように形成された押出片324が、2つの側部324Aと、その2つの側部324Aの間にある中間部324Bとで構成され、側部324Aの先端324ATを植付爪322の裏面322ABに摺動自在に当接させるとともに、中間部324Bの外側面324BOにプッシュロッド323の下端323Eを固設した苗植付装置32であって、中間部324Bの端に切り欠き324L1を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付爪と、その植付爪に挟持された苗を押し出す苗押出具と、植付爪および苗押出具を保持する植付爪ケースとを備え、苗載台から所定量の苗を掻き取って土中に植え付ける苗植付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
田植機に備える苗植付装置は、植えつける苗を多数載置する苗載台から所定量の苗を掻き取って保持し、水田に植えつけるものであり、植付爪と、その植付爪に挟持された苗を押し出す苗押出具と、植付爪を回動可能に保持しながら一定の速度で回転する回転ケースなどを備える。
【0003】
このような苗植付装置では、回転ケースの回転によって、回転ケースに取り付けられた植付爪が、一定の間隔で苗載台から苗を掻き取り、先が二又に分かれた植付爪に苗を挟持する。そして、植付爪が水田に浸入するのに合わせて、挟持されている苗を苗押出具が矢印方向に押し出して、苗を水田に植えつける。
【0004】
植付爪は、回転ケースの回転中心から一定の距離をもって一定の回転数で回転しているが、田植機が前進しているため、植付爪と苗押出具が土の中に進入することによって、苗を植えつける付近の土が植付爪や苗押出具と土壌との間の摩擦抵抗によってかき上げられてしまったり、苗押出具によって土が蹴り上げられてしまう。このため、植えつけた苗の根元周辺に大きく窪み(植付穴)ができてしまい、苗の植付姿勢が不安定となり、植えつけた苗が倒れてしまったり、斜めに植えつけられたままで生育し、出穂期がばらつき、結果として、収穫時の登熟度にばらつきが出てしまうという問題があった。
【0005】
そこで、苗の植付姿勢を安定させるための種々の技術が提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−103131号公報
【特許文献2】特開2006−180848号公報
【0007】
特に、特許文献2では、苗押出具の横断面形状を略コの字(コの字の両端部が植付爪に当接するように配置されている)とし、その背面の形状を、植付爪が土に進入する際の動軌跡(円弧)と同じように円弧状に構成した。これによって、植付時に苗押出具の先端がスムーズに土中に進入することができ、苗押出具によって形成される植付穴を小さくすることを図ったものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この特許文献2の技術では、植付爪が土から抜け出す際のことに配慮がなされていない。すなわち、植付爪が土中から抜け出すときの苗押出具の動軌跡は、進入時のそれと異なることから、苗押出具の背面が土を蹴り上げてしまう。このため、植付穴の大きさは、依然として大きいままであり、苗の植付姿勢を安定させるには至っていない。加えて、苗押出具の背面が下端に至るまで設けられており、苗を植えつけた後、苗押出具を土中から抜き取る際に、植えた苗を前向きに押し倒してしまうという問題があった(これは、苗植付装置の動軌跡が略γ(ギリシャ文字の第3番目の文字)となることに起因する)。そこで、この発明の目的は、苗の植付姿勢を安定させることが可能な苗植付装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため請求項1に記載の発明は、植付爪と、該植付爪に挟持された苗を押し出す苗押出具と、前記植付爪および苗押出具を保持する植付爪ケースとを備え、苗載台から所定量の苗を掻き取って土中に植え付ける苗植付装置であって、
前記苗押出具が、前記挟持された苗に当接して該苗を押し出す押出片と、該押出片を前記植付爪に沿って摺動させるプッシュロッドとを備える苗植付装置において、
板状の部材を横断面視でコの字状となるように形成された前記押出片が、2つの側部と、該2つの側部の間にある中間部とで構成され、
前記側部の先端を前記植付爪の裏面に摺動自在に当接させるとともに、前記中間部の外側面に前記プッシュロッドの下端を固設した苗植付装置であって、
前記中間部の下端に切り欠きを設けることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の苗植付装置において、前記側部に、前記中間部の切り欠きと連続して別の切り欠きを設け、該別の切り欠きが下方に張り出した円弧状に形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の苗植付装置において、前記プッシュロッドの下部の横断面積を小さくすることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の苗植付装置において、前記プッシュロッドの下部を、その横断面視が三角形状となるように削ぎ落として、前記プッシュロッドの下部の横断面積を小さくするともに、
前記プッシュロッドの下部の三角形状の一辺に前記押出片の中間部を固設することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の苗植付装置において、前記プッシュロッドの上端に作動片の一端を回動自在に取り付け、該作動片の回動中心である他端にカムを当接させ、該カムの回転によって前記作動片が上下動し、前記プッシュロッドを上下動させる苗植付装置であって、
前記カムが外周に沿って2つの段差を備え、一方の段差が他方の段差よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の苗植付装置において、前記2つの段差が、前記カムの回転中心に対して略対称な位置に設けられることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の苗植付装置において、クランク式の田植機に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、植付爪と、その植付爪に挟持された苗を押し出す苗押出具と、植付爪および苗押出具を保持する植付爪ケースとを備え、苗載台から所定量の苗を掻き取って土中に植え付ける苗植付装置であって、苗押出具が、挟持された苗に当接してその苗を押し出す押出片と、その押出片を植付爪に沿って摺動させるプッシュロッドとを備える苗植付装置において、板状の部材を横断面視でコの字状となるように形成された押出片が、2つの側部と、その2つの側部の間にある中間部とで構成され、側部の先端を植付爪の裏面に摺動自在に当接させるとともに、中間部の外側面にプッシュロッドの下端を固設した苗植付装置であって、中間部の端に切り欠きを設けるので、押出片が土壌から抜け出す際の土壌との間の摩擦抵抗を低減することができ、抜け出しに伴う土壌の蹴り上げ量を少なくすることができる。これによって、未荒しの土壌を残すことができ、植えつけた苗の根元近傍に形成される土壌の持ち出しによる窪みの大きさを低減することができる。したがって、苗の植付姿勢を安定させた苗植付装置を提供することができる。
【0017】
また、押出片の下部に切り欠きが形成されることによって、苗を土壌に植えつける際、押出片が土壌に侵入する体積を低減することができる。これによっても、植えつけた苗の周囲に形成される窪みを小さくすることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、側部に、中間部の切り欠きと連続して別の切り欠きを設け、その別の切り欠きが下方に張り出した円弧状に形成されるので、土壌に侵入した押出片がスムーズに抜き出され、苗の根元近傍の土壌をかき上げる量を低減することができる。したがって、苗の植付姿勢をいっそう安定させた苗植付装置を提供することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、プッシュロッドの下部の横断面積を小さくするので、プッシュロッドの側面積を低減し、土壌との間の摩擦抵抗を低減することができる。したがって、プッシュロッドが苗の根元近傍の土壌をかき上げる量を少なくすることができ、苗の植付姿勢をいっそう安定させた苗植付装置を提供することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、プッシュロッドの下部を、その横断面視が三角形状となるように削ぎ落として、プッシュロッドの下部の横断面積を小さくするともに、プッシュロッドの下部の三角形状の一辺に押出片の中間部を固設するので、簡単な構成で押出片を確実にプッシュロッドに固定することができる。また、苗のブロックが土壌と接触する面積が増加し、苗の床土を圃場の土に塗り付けやすくなる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、プッシュロッドの上端に作動片の一端を回動自在に取り付け、その作動片の回動中心である他端にカムを当接させ、そのカムの回転によって作動片が上下動し、プッシュロッドを上下動させる苗植付装置であって、カムが外周に沿って2つの段差を備え、一方の段差が他方の段差よりも大きいので、植付動作にサブプッシュを追加することができる。特に、植付爪に付着した(植付時の)土壌を払い落とすことができ、次に、苗載台から苗を掻き取る際、苗を適切に植付爪に挟持することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、2つの段差が、カムの回転中心に対して略対称な位置に設けられるので、カムの回転に起因する負のトルクが回転ケースに与える歪を相殺して、回転ケースを安定して回転させることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、クランク式の田植機に備えるので、回転ケースを用いて大掛かりな構成とすることなく、簡単な構成で苗の植付姿勢を安定させた苗植付装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一例の苗植付装置を備える田植機の側面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】その背面図である。
【図4】苗植付装置近傍の拡大側面図である。
【図5】(a)は苗植付装置の拡大断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図6】(a)は植付爪下部の側面図、(b)は(a)のA矢視図、(c)は(a)のB矢視図、(d)は(c)のC矢視断面図である。
【図7】(a)〜(d)は苗植付装置が苗を土壌に植えつける動作を説明する図である。
【図8】この発明の別の例の、(a)は苗植付装置の拡大断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【図9】(a)は、回転ケースと苗植付装置との関係を示す図、(b)は苗植付装置に備える2つのカムが回転する際に変化する半径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1及び2は、駆動車両にこの発明の苗植付装置の一例を取り付けた田植機の側面図及び平面図である。田植機の概要は次の通りである。作業者が搭乗する走行車体(駆動車両)10の車体フレーム11には、前部にエンジン12と後部にミッションケース13が設けられ、ミッションケース13の前方両側にフロントアクスルケース14を介して水田走行用前輪15が支持されるとともに、ミッションケース13の後部両側にリヤアクスルケース16を介して水田走行用後輪17が支持されている。エンジン12とその近傍の部材はボンネット18で被覆され、ミッションケース13とその近傍の部材はステップ19を有する車体カバー20によって被覆されている。そして、車体カバー20の上部に運転席21が取り付けられ、その運転席21の前方に操向ハンドル22が設けられている。
【0026】
走行車体10の後部には、8条植え用の苗載台31や複数の植付爪32を具備する田植作業機(苗植付作業機)30が連なる。この田植作業機30は、トップリンク33及びロワーリンク34を含む3点昇降リンク機構を用いて、走行車体10に連結されている。そして、走行車体10の後部とロワーリンク34との間に介設された油圧シリンダーの伸縮動作によって、昇降自在に構成されている。また、前高後低に設置された板状の前傾式苗載台31は、下部ガイドレール35及び上部ガイドレール36を介して、中央及び左右の植付伝動ケース37に対して左右往復摺動自在に支持されている。その植付伝動ケース37の下方には、中央及び左右の植付用均平フロート38,39が、植付深さ調節部材を介して支持されている。田植作業機30を降下させて、このフロート38,39を着地させることにより、苗載台31の上の苗マットから取り出す苗の植付深さを設定するように構成している(図1,2では、苗マットを省略して描いている)。なお、植付伝動ケース37内では、走行車体10のPTO軸から取り出した駆動力にて回転軸が回転する。
【0027】
図3には、田植作業機30の正面図を示す。田植作業機30は、8つの苗載台31A〜31H(1つの苗載台が植付時の1条分に相当する)を連結して一体に備える。各苗載台31A〜31Hの下部底面には、苗を下方へと搬送するための搬送ベルトBを2つ並列に備える。搬送ベルトBはゴム製の無端ベルトからなり、表面には無数の小突起を、裏面には一定間隔で形成された突起を備える。搬送ベルトBは、それぞれの苗載台31A〜31Hの裏面側にてプラスチック製の一対のギアに係合して回転する。この一方のギアの回転軸には、PTO軸より分岐した駆動軸をギアを介して係合させる。
【0028】
苗載台31A〜31Hの中央部前方には、後に詳述する4つのホッパーユニット73A〜73Dを備える。このホッパーユニット73A〜73Dは、それぞれ2条分の苗載台31A〜31Hに薬剤や肥料を供給するように構成されている。詳しくは、ホッパーユニット73Aは苗載台31A,31Bに、ホッパーユニット73Bは苗載台31C,31Dに、ホッパーユニット73Cは苗載台31E,31Fに、ホッパーユニット73Dは苗載台31G,31Hに薬剤や肥料を供給するように構成されている。
【0029】
ホッパーユニット73A〜73Dはそれぞれ同一の構成をしており、ホッパータンク、薬剤繰出ローラ部、導出パイプ、散布口などを備える。ホッパータンクは、正面視で底面中央がV字状に切れ上がっている。ホッパータンクの両端の底部には、それぞれ薬剤繰出ローラ部を備える。薬剤繰出ローラ部の外殻は、ホッパータンクと一体に成形される。そして、内側に横溝ローラを回転自在に備える。横溝ローラは、回転しながら、一定量の薬剤を下方に供給するためのものである。この横溝ローラには、PTO軸より分岐した不図示の回転駆動軸を取り付ける。ホッパータンクと薬剤繰出ローラ部とが一体成形されることによって、従来から問題となってきた、接続部分における水漏れ(接続部分から雨水などが入り込み、顆粒状の薬剤を湿らせて、薬剤繰出ローラ部に固まりついてしまうという問題)を回避することができる。
【0030】
各薬剤繰出ローラ部の下端には、これに連続して導出パイプを取り付ける。このように、1つのホッパータンクに2つの導出パイプが取り付けられ、それぞれの導出パイプが1条分の苗載台31への薬剤の供給を受け持つ(したがって、1つのホッパータンクで2条分の苗載台31へ薬剤を供給する)。詳しくは、田植え時に、苗載台31上を下方に向けて搬送される稲の苗の上部に、不図示の棒状の分草板(苗載台31の上方で、かつ、散布口よりも苗の搬送方向やや上流側であって、苗載台31の幅方向全域にわたって設けられている。)を当てて苗を搬送方向上流側に撓ませる。これによって撓んだ苗とその下流側に隣接する苗(分草板をすでに通過して撓みから開放されて直立している苗)との間に開放空間が形成され、この開放空間めがけて散布口より薬剤が散布される。
【0031】
導出パイプの下端には、散布口を連続して設ける。散布口は、2重構造になっている。すなわち、外側には、円筒状のホイールを備え、内側にはノズルを備える。ホイールの外周には突起を複数有する。この突起は、苗載台31に載置された苗と接触するようになっている。そして、田植時に苗載台31が苗を繰り出すために幅方向に移動することで突起が苗に引っかかり、散布口の外側のホイールが回転する。したがって、苗載台31が苗を繰り出している間は、ホイールは一定速度で回転する。このホイールには針金で構成されたスクレーパの一端が固設されている。スクレーパの他端はノズル内に挿入されている。そして、ホイールが回転することで、スクレーパがノズル内で回転する。このように構成することで、水分がノズル出口に付着し、散布口より排出される薬剤がこの水分によって散布口周辺に固まることを防止することができる。
【0032】
また、苗載台31A〜31Hの下部前方には、4つの植付伝動ケース37を固設して備え、植付伝動ケース37の両端にはそれぞれ回転ケース38を設ける。さらに、それぞれの回転ケース38の上下端部には、苗植付装置(植付アーム)32を1つずつ回転自在に備える。したがって、1つの植付伝動ケース37で2条分の苗を植え付けることができるようになっている。
【0033】
図4に示すように、植付伝動ケース37は、エンジンからの駆動力を受け取るためのものであるとともに、その駆動力を両側に分岐して回転ケース38,38に伝達するためのものである。回転ケース38は、この駆動力を受け取って、植付伝動ケース37の回転軸37Rのまわりを自らが回転する。回転ケース38内には、不図示の複数のギアを噛合して備え、植付伝動ケース37の回転軸37Rからの駆動力をこれらのギアを介して苗植付装置32に伝達する。回転軸37Rの一端(回転ケース38内)にはギアが固設され、このギアは、両側に備える2つの別のギアと噛合している。これらのギアは、さらに別のギアを介して苗植付装置32の回転軸32Rの先端に固設されたギアと噛合している。回転軸37Rの回転に同期して回転ケース38が回転するとともに、回転ケース内のそれぞれのギアが回転し、苗植付装置32の回転軸32Rが回転する。なお、回転軸37Rは、回転ケース38の中心に取り付けられ、回転ケース38の両端にそれぞれ苗植付装置32を備える。したがって、回転軸37Rを中心として、2つの苗植付装置32,32はそれぞれ対称な位置に設けられる(すなわち、2つの苗植付装置32,32は、回転軸37Rの回転中心に対して、180度回転した位置にある)。
【0034】
苗植付装置32は、図5に示すように、植付装置本体(植付爪ケース)321、植付爪322、プッシュロッド323、押出片324などから構成されている(プッシュロッド323と押出片324とで苗押出具を構成する)。植付装置本体321は、鋳造のケース状で、内部には、カム32Kを備える(カム32Kは図中で矢印方向、すなわち、反時計回りに回転する)。このカム32Kは、回転軸32Rの一端に固設されている。回転軸32Rには、ギアが固設され、別のギアを介して、回転軸37Rに固設されたギアと連動している。回転軸37Rが1回転すると、回転軸32Rが一回転するように構成されている。カム32Kには、作動片32Oの先端部が当接している。その先端ぶには回動軸32O1を備え、作動片32Oはこの回動軸32O1によって回動自在に支持されている。回動軸32O1は、植付装置本体321に固定されている。したがって、作動片32Oは、回動軸32O1のまわりに回動自在に支持されている(作動片32Oの回動中心は、回動軸32O1の中心である)。
【0035】
作動片32Oの中央部には、コイルバネSPを当接させる(コイルバネSPの下端は、作動片32Oに設けられた円柱状の突起32Pに嵌めつける)。また、作動片32Oの他端には、取付回動軸32O2を介してリンク部材Lの上端部を回動自在に取り付ける。リンク部材Lの下端部には、別の取付回動軸AXを介してプッシュロッド323の上端部を回動自在に取り付ける。プッシュロッド323は鉄製の丸棒で、その下端は横断面視で略三角形に形成されている。プッシュロッド323の下端には、押出片324が固設されている。後述するように押出片324の先端は植付爪322の裏面に当接している。なお、符号32Cは、弾性部材であり、作動片32OがコイルバネSPによって押し出されたときにこれを弾力的に受け止めるためのものである。この弾性部材32Cは植付装置本体321内に形成されたブラケット321Bに載置、固定される。
【0036】
プッシュロッド323は、その中央部を支持部SUによって摺動自在に支持されている。支持部SUは、植付装置本体321内に嵌めつけられて固定されている。したがって、カム32Kが反時計回りに回転することで、カム32Kの外径rが次第に大きくなり、これにしたがって、カム32Kの外周面32KSには、作動片32Oの先端32OTから次第に側部32OSへと当接箇所が移動する。これによって、作動片32Oは、回動軸32O1を支点として図中で時計回りに回動する。このとき、作動片32Oには、上からコイルバネSPが当接しているので、作動片32OはこのコイルバネSPの付勢力に抗して上向きに(図中で時計回り)回動する。
【0037】
そして、頂部32KTにてカム32Kの外径rが最大となり、その直後に、段差32KGに行きつくとカム32Kは、コイルバネSPの付勢力によって下向き(図中で反時計回り)に回動し、作動片32Oの頂部32OTがカム32Kの外周面32KSに当接するようになる。このようにして、作動片32Oの先端が上下動することで、リンク部材Lを介してプッシュロッド323が上下動するようになっている。
【0038】
植付爪322は、縦長の鉄板状に形成され、その両側は折り曲げられている(すなわち、横断面視でコの字に形成される)。先端部は、2又に分かれて苗を挟持することができる空間としての挟持部322AV(図6に示す)を備える。植付爪322の表部322Aには、貫通孔を2つ設け、ボルトBTにて植付装置本体321にネジ付ける。
【0039】
植付爪322の裏側には、押出片324が摺動自在に当接している。押出片324は、図6に示すように、鉄製(鍛造)の板片を略コの字状に折り曲げて形成される。すなわち、押出片324は、2つの平坦な側部324A,324Aと、その間に配置される平坦な中間部324Bとで構成される。そして、中間部324Bの下部には切り欠き324L1を形成するとともに、両側部324A,324Aに別の切り欠き324L2を形成する。切り欠き324L1は、中間部324Bの底面から高さH3だけ上がった位置を水平方向にカットして形成される。
【0040】
また、切り欠き324L2は、側部324Aと中間部324Bとの接点から長さL1だけ円弧状にカットされる(切り欠き324L2は円弧状であることに限定されるものではなく、植付時に土壌からの抵抗が少なくなれば、どのような形状であってもよい。例えば、三角形状であってもよい)。なお、切り欠き324L1,324L2は同時にカットされることによって形成されてもよい。これによって、押出片324の下部で、プッシュロッド323側に肉盗みが形成される。そして、プッシュロッド323の下端323Eと、切り欠き324L1の上端324Uとが一致するようにして、中間部324Bの外側面324BOをプッシュロッド323の平坦面323Cに溶接などで固設する。
【0041】
なお、プッシュロッド323の下部側面は、横断面が略三角形状となるように三方よりそぎ落とされ、3つの平坦面323A,323B,323Cを形成する(プッシュロッド323の下部は、その横断面が三角形状となることに限定されるものではなく、横断面積が、プッシュロッド323の上部および中央部の横断面積よりも小さく、かつ、植付時に土壌からの抵抗が少なくなれば、どのような形状であってもよい)。これら平坦面323A〜323Cの高さH1は、押出片324の高さH2と同じかそれより大きくする。これは、押出片324の中間部324Bと押出片324とを確実に溶接などで固設させるためである。
【0042】
押出片324の側部324A,324Aの先端324AT,324ATは、植付爪322の表部322Aの裏面322ABに当接するように、かつ、上下に摺動自在に設けられる。
【0043】
このように構成された苗植付装置32を用いて水田に稲の植え付けをする動作を図1〜6を参照しつつ、図7を用いて説明する。なお、図中の一点鎖線は、植付爪322の先端の移動軌跡を示す。
【0044】
まず、植付伝動ケース37から伝達された駆動力によって回転ケース38が回転し、これと連動して苗植付装置32も所定量だけ回転して、植付爪322が苗載台31の下端に配置されている所定量の苗PLを掻き取る。そして、植付爪322の挟持部322AVに苗PLを把持した状態で、苗植付装置32はさらに回転して、植付爪322の先端が水田の軟弱な土壌SSに刺さる(図7(a)。なお、符号WSは水を示す)。なお、苗PLを苗載台31から掻き取る際、プッシュロッド323は、カム32Kの回転動作によって(頂部32KTと作動片32Oとが接している状態)、最上位置にまで上昇している。
【0045】
そして、作動片32Oが段差32KGに当接すると同時にプッシュロッド323がコイルバネSPの付勢力によって一気に下方に押し出される。このとき、押出片324は植付爪322に挟持された苗PLを押し出しながら下方に移動し、苗PLの根元PRを土壌SS中に押し込む(図7(b))。そして、苗植付装置32と回転ケース38との回転の合成動作によって植付爪322、押出片324、プッシュロッド323が土壌SSより抜け出る(図7(c),(d))。
【0046】
押出片324には切り欠き324L1,324L2が形成されているので、押出片324が抜け出す方向に対して土壌SSとの間の摩擦抵抗を低減することができ、抜け出しに伴う土壌SSの蹴り上げ量を少なくすることができる。また、従来、苗PLを土壌SSに植えつける際、押出片324が土壌SSに侵入することで、苗PL近傍の土壌SSには窪みができてしまい、この窪みのために、植えつけた後の苗PLが不安定になってしまう。この例の押出片324は、切り欠き324L1,324L2が形成されることによって、苗PLを土壌SSに植えつける際、押出片324が土壌SSに侵入する体積を低減することができる。これにより、植えつけた苗PLの周囲に形成される窪みを小さくすることに寄与する。したがって、植えつけた苗PLを安定さえることができる。切り欠き324L1,324L2は、土壌SS中に侵入する押出片324の長さを低減することにも寄与している。したがって、押出片324が土壌SSと接する部分の側面積を低減することができ、土壌SSとの間の摩擦抵抗をいっそう低減することに寄与する。
【0047】
また、プッシュロッド323の先端部が、横断面視において三角形状にそぎ取られているので、プッシュロッド323の側面積を低減し、土壌SSとの間の摩擦抵抗を低減することができる。したがって、プッシュロッド323も土壌SSをかき上げる量を少なくすることができる。さらに、プッシュロッド323の下端323Eを押出片324の下端よりも上方に備えているので、土壌SS中に侵入するプッシュロッド323の長さを短くすることができる。これによって、プッシュロッド323が土壌SSと接する部分の側面積を低減することができ、土壌SSとの間の摩擦抵抗をいっそう低減することに寄与する。加えて、プッシュロッド323が土壌SSに形成する窪みを小さくすることができる。
【0048】
ところで、この発明の苗植付装置は、図8に示すように構成してもよい。すなわち、苗植付装置32´にカム32K´を備える(なお、その他の構成については、前の例と同様であるので説明を省略する)。カム32K´には、その外周に沿って、第1頂部32K´T1と第2頂部32K´T2を設ける。第1頂部32K´T1は、回転中心32RCから半径r1の位置に形成される凸部である。一方、第2頂部32K´T2は、回転中心32RCから半径r2(r2<r1)の位置に形成される凸部である。
【0049】
第1頂部32K´T1から(カム32K´の)回転方向に少し進んだ位置には、第1底部32K´B1を設ける。この第1底部32K´B1は回転中心32RCから半径r3の位置に形成される。第1頂部32K´T1と第1底部32K´B1との間は、落差(r1−r3)で形成される(第1段差と称する)。一方、第2頂部32K´T1の、カム32K´の回転方向に少し進んだ位置には、第2底部32K´B2を設ける。この第2底部32K´B2は回転中心32RCから半径r4の位置に形成される。第2頂部32K´T2と第2底部32K´B2との間は、落差(r2−r4)が形成される(第2段差と称する)。第1段差と第2段差との位置関係は、第1落差からカム32K´の回転方向に角度αだけすすんだ位置に第2段差を設ける。なお、角度αは、180度よりもやや小さく、例えば160度程度である(第1段差と第2段差とがカム32K´の回転中心32RCに対して略対称な位置に設けられる)。また、第1段差の落差(r1−r3)は、第2段差の落差(r2−r4)よりも大きい。
【0050】
このように、カム32K´には、第1段差,第2段差が形成され、第1段差は、プッシュロッド323が苗PLを土壌SSに植えつける際に押出片324を植付爪322の先端に向けて押し出すのに適用するものである(これによるプッシュロッド323の動作をメインプッシュと呼ぶ)。また、第2段差は、プッシュロッド323が苗PLを土壌SSに植えつけた後、上昇する際に植付爪322と押出片324との間に付着した土を除去する動作に適用するものである(これによるプッシュロッド323の動作をサブプッシュと呼ぶ)。植付動作にサブプッシュを追加することで、特に、植付爪322に付着した(植付時の)土壌SSを払い落とすことができ、次に、苗載台31から苗PLを掻き取る際、苗PLを適切に植付爪322に挟持することができる。
【0051】
図9には、この例のカム32K´と回転ケース38´との関係を示す。回転ケース38´内には、5つのギアG11,G21,G3,G22,G12が1列に配置されている。ギアG3は、回転軸37Rに固設されており、回転軸37Rの回転に同期して回転する(回転ケース38´も回転軸37Rの回転に合わせて回転する。すなわち、ギアG3は回転ケース38´に対しては回転していない)。これによって、ギアG11,G21,G3,G22,G12は、回転ケース38´内で回転する。詳しくは、ギアG3が反時計回りに回転することで、これに噛合するギアG21,G22は時計回りに回転する。そして、ギアG21,G22にそれぞれ噛合するギアG11,12は、いずれも反時計回りに回転する。ギアG11,12の中心には、それぞれ回転軸32Rを固設する。また、回転軸32R,32Rには、それぞれカム32K´も固設する。したがって、ギアG11,12の回転にそれぞれ同期してカム32K´,32K´も、反時計回りに回転する。
【0052】
なお、カム32K´,32K´はそれぞれギアG3に対して同一位相となるように回転軸32R,32Rに固設される。
【0053】
次にカム32K´と作動片32Oとの間の動作について説明する。なお、実際には、回転ケース38´が回転軸37Rとともに回転しているが、ここでは、回転ケース38´を相対的に固定した状態で説明する。回転軸37Rが回転することでカム32K´が回転すると、上側のカム32K´の第1頂部32K´T1が作動片32Oに近づいてくる。これにつれて、カム32K´の半径がr1に向けて増大する。一方、下側にカム32K´では、第2頂部32K´T2が作動片32Oに近づいてくる。これにつれて、カム32K´の半径がr2に向けて増大する。
【0054】
そして、上側のカム32K´に当接する作動片32Oでは、カム32K´の第1頂部32K´T1、第1段差、第1底部32K´B1が順次通過すると、作動片32Oは(図8にて)反時計回りに回動し、プッシュロッド323を苗植付装置32´から押し出す(メインプッシュ)。一方、上側のカム32K´の第1頂部32K´T1が作動片32Oを通過する少し前(すなわち、カム32K´の半径がr1に向けて増大している途中)に、下側のカム32K´に当接する作動片32Oでは、第2頂部32K´T2、第2段差、第2底部32K´B2が順次通過する。
【0055】
このときの2つのカム32K´,カム32K´が作動片32Oと当接する位置のカム32K´の半径をそれぞれ図9(b)に示す(図中の2つの曲線のうち曲線Aは、上側のカム32K´、曲線Bは、下側のカム32K´の作動片32Oと当接する位置における半径の推移を示したものである)。曲線Aと曲線Bとが、それぞれのピークを打ち消すように位相をずらしていることがわかる。この位相のずれ分dは、(180−α)である(αは、前述のように第1段差と第2段差との間のなす角を示す)。このように、α(<180)を適宜設定して2つの曲線A,Bの位相をずらすことで、2つのカム32K´,カム32K´の回転に起因する負のトルクが回転ケース38´に与える歪を相殺しあい、回転ケース38´を安定して回転させることができる(負のトルクが回転ケース38´に与えるメカニズムについては、例えば、特開平6−133614号公報を参照)。なお、時刻T1と時刻T3との間が曲線Aに示すカム32K´の一回転の周期となる。
【0056】
なお、上述の例では、苗植付装置32を乗用の田植機に適用した例について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、例えば、特開平11−155318号公報に記載のような歩行型の田植機に適用してもよい。
【0057】
また、上述の例では、ロータリー式に適用した苗植付装置32について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、例えば、特開2003−339216号公報に記載のようなクランク式に適用してもよい。クランク式に適用する場合には、回転ケース38(または38´)、および、それに内装する5つのギアなどが不要となり、簡単な構成で、田植機を構成することができる。また、クランク式の技術を歩行型の田植機と組み合わせることで、小規模な水田での作業に適する小型でシンプルな構成の歩行型田植機とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明の苗植付装置は、田植機に加えて、あらゆる種類の苗を軟弱土壌に植えつける作業に適用しうる。
【符号の説明】
【0059】
32 苗植付装置
32C 弾性部材
32K,32K´ カム
32K´B1 第1底部
32K´B2 第2底部
32KG 段差
32KS 外周面
32K´T1 第1頂部
32K´T2 第2頂部
32R 回転軸
32RC 回転中心
32O 作動片
32O1 回動軸
32O2,AX 取付回動軸
32OS 側部
32OT 先端
321 植付装置本体
321B ブラケット
322 植付爪
322A 表部
322AV 挟持部
322AB 裏面
323 プッシュロッド
323A,323B,323C 平坦面
323E 下端
324 押出片
324U 上端
324A 側部
324AT 先端
324B 中間部
324BO 外側面
324L1,L2 切り欠き
37R 回転軸
38,38´ 回転ケース
BT ボルト
G11,G12,G21,G22,G3 ギア
L リンク部材
PL 苗
PR 根元
SP コイルバネ
SS 土壌
SU 支持部
WS 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付爪と、該植付爪に挟持された苗を押し出す苗押出具と、前記植付爪および苗押出具を保持する植付爪ケースとを備え、苗載台から所定量の苗を掻き取って土中に植え付ける苗植付装置であって、
前記苗押出具が、前記挟持された苗に当接して該苗を押し出す押出片と、該押出片を前記植付爪に沿って摺動させるプッシュロッドとを備える苗植付装置において、
板状の部材を横断面視でコの字状となるように形成された前記押出片が、2つの側部と、該2つの側部の間にある中間部とで構成され、
前記側部の先端を前記植付爪の裏面に摺動自在に当接させるとともに、前記中間部の外側面に前記プッシュロッドの下端を固設した苗植付装置であって、
前記中間部の下端に切り欠きを設けることを特徴とする、苗植付装置。
【請求項2】
前記側部に、前記中間部の切り欠きと連続して別の切り欠きを設け、該別の切り欠きが下方に張り出した円弧状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の苗植付装置。
【請求項3】
前記プッシュロッドの下部の横断面積を小さくすることを特徴とする、請求項1に記載の苗植付装置。
【請求項4】
前記プッシュロッドの下部を、その横断面視が三角形状となるように削ぎ落として、前記プッシュロッドの下部の横断面積を小さくするともに、
前記プッシュロッドの下部の三角形状の一辺に前記押出片の中間部を固設することを特徴とする、請求項3に記載の苗植付装置。
【請求項5】
前記プッシュロッドの上端に作動片の一端を回動自在に取り付け、該作動片の回動中心である他端にカムを当接させ、該カムの回転によって前記作動片が上下動し、前記プッシュロッドを上下動させる苗植付装置であって、
前記カムが外周に沿って2つの段差を備え、一方の段差が他方の段差よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の苗植付装置。
【請求項6】
前記2つの段差が、前記カムの回転中心に対して略対称な位置に設けられることを特徴とする、請求項5に記載の苗植付装置。
【請求項7】
クランク式の田植機に備えることを特徴とする、請求項1に記載の苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−193772(P2011−193772A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62923(P2010−62923)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】