説明

苗移植機

【課題】 従来の苗移植機では、苗を畝の中央に沿って所定間隔置きに植え付けていく所謂1条植しかできない構成であったが、本発明は、複数条植、つまり、少なくとも2条植を可能とし、そして、苗の種類や栽培方法に応じて左右の苗植付間隔が調整できるようにし、適正な苗植付間隔を保持せんとするものである。
【解決手段】 複数条植が可能な苗植付装置を設けた苗移植機において、苗植付装置には、下部が開閉する嘴状の作穴体(26)と該作穴体(26)を昇降させる作穴体作動機構を備え、基端部に対して先端部が変位する形態の左右の作穴体(26)を互いに交換することにより、苗植付装置の左右の苗植付条間隔を調節可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、野菜等の苗を移植する苗移植機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
複数株の苗を所定の軌跡に沿って搬送し、所定の位置で一株づつ植付装置へ苗を落下供給し、上下動する植付装置で供給された苗を土中に植え付けていく構成の苗移植機がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭52−098261号(実開昭54−025436号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の苗移植機では、苗を畝の中央に沿って所定間隔置きに植え付けていく所謂1条植しかできない構成であったが、本発明は、複数条植、つまり、少なくとも2条植を可能とし、そして、苗の種類や栽培方法に応じて左右の苗植付間隔が調整できるようにし、適正な苗植付間隔を保持せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、複数条植が可能な苗植付装置(6)を設けた苗移植機において、苗植付装置(6)には、下部が開閉する嘴状の作穴体(26)と該作穴体(26)を昇降させる作穴体作動機構(27)を備え、基端部に対して先端部が変位する形態の左右の作穴体(26)を互いに交換することにより、苗植付装置(6)の左右の苗植付条間隔を調節可能に構成してあることを特徴とする苗移植機とした
【0006】
また、請求項2に係る発明は、苗植付装置(6)の上側に設けた苗供給部(7)には、複数の苗供給カップ(46)を所定間隔毎に備え、苗供給カップ(46)は、所定の苗供給位置(A)に来たときに苗供給カップ開閉ガイド(47)により底面(46a)が開いて苗を作穴体(26)に落下供給する構成としてあることを特徴とする請求項1に記載の苗移植機とした。
【発明の効果】
【0007】
従って、この発明によれば、複数条植が可能な苗植付装置にあって条間調節が可能であるため、簡単に条間調節を行うことができ、苗の種類や栽培方法に応じた適正な苗植付間隔に適宜調整することができる。また、従来の苗植付装置へ苗を供給する機構も含めた1条分の植付部全体を機体に対して左右移動させるものと比較して、微妙な条間調節を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】苗移植機の側面図
【図2】苗植付装置の側面図
【図3】苗植付装置の平面図
【図4】作穴体の正面図
【図5】苗移植機の平面図
【図6】同上要部の背面図
【図7】作穴体の切断背面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1は、苗移植機の一例として歩行型の苗移植機1を示すものである。そして、この歩行型苗移植機1は、主として前部にエンジン2及び主伝動ケ−ス3と走行車輪としての左右一対の前輪4,4及び後輪5,5と後部に複数の苗植付装置6,6、苗供給部7、覆土鎮圧輪8及び操縦ハンドル9とを備えて構成される。この苗移植機1は、機体が圃場内の畝をまたぐように前記前輪4,4及び後輪5,5が畝間を走行し、畝の上面の左右両側に前記左右の苗植付装置6,6により苗を植付けていくようになっている。
【0010】
主伝動ケ−ス3の左右端には該主伝動ケ−ス3に対して回動可能な走行エクステンションケ−ス10,10を左右それぞれ設け、前記左右の走行エクステンションケ−ス10,10のそれぞれの端部に走行チェ−ンケ−ス11,11を固着して設けている。従って、前記エンジン2から入力される主伝動ケ−ス3内の動力を走行チェ−ンケ−ス11,11内に伝動する構成となっている。前記走行チェ−ンケ−ス11,11の回動先端部の左右内側には走行車輪である左右一対の後輪5,5をそれぞれ取り付け、この左右一対の後輪5,5の駆動により機体が走行するようになっている。従って、主伝動ケ−ス3は、走行車輪としての後輪5,5に伝動する伝動装置となっている。一方、エンジン載置台の下部には左右方向に延びる前輪支持フレ−ム12を前後方向のロ−リング軸13回りに回動可能に設け、この前輪支持フレ−ム12の左右両端部に前輪4,4を取り付けた構成としている。
【0011】
前記左右フレ−ム14の後部には、右寄りの位置に延びる主フレ−ム15を設けている。該主フレ−ム15の後端部には操縦ハンドル9を設け、この操縦ハンドル9が主フレ−ム15を介して前記主伝動ケ−ス3に支持された構成となっている。
【0012】
また、主伝動ケ−ス3の後部で左右方向の中央には、油圧昇降シリンダ16を設けている。この油圧昇降シリンダ16は、主伝動ケース3に固着された油圧切替バルブ部17に固着して設けられ、主伝動ケ−ス3に固着された油圧ポンプ18からの油圧を切り替える前記油圧切替バルブ部17に備えられた昇降操作バルブを操作することにより作動するようになっている。前記油圧昇降シリンダ16のシリンダロッド端には左右に延びる横杆19を設け、この横杆19の左右端部にそれぞれ後輪昇降ロッド20,21を枢着し該ロッド20,21の他端をそれぞれの走行エクステンションケ−ス10,10に固着された上側ア−ム10a,10aに枢着して、前記横杆19と走行エクステンションケ−ス10,10とが連結された構成となっている。従って、前記油圧昇降シリンダ16の伸縮により前記横杆19、前記後輪昇降ロッド20,21を介して主伝動ケ−ス3の左右の出力軸回りに走行チェ−ンケ−ス11,11が回動され、該走行チェ−ンケ−ス11,11の回動により後輪5,5が上下して機体が昇降する構成となっている。
【0013】
また、左側の前記後輪昇降ロッド20が伸縮するように該ロッド20の中途部に油圧ポンプ18からの油圧により作動する水平用油圧シリンダ22を設けており、該水平用油圧シリンダ22の伸縮により右側の後輪5の上下位置に対して左側の後輪5を上下させて、畝の谷部の凹凸に関係なく機体を左右水平に維持できるようになっている。尚、主伝動ケ−ス3の右側には振り子式の左右傾斜センサ23が設けられて、この左右傾斜センサ23の検出により油圧切替バルブ部17に備えられた水平操作バルブを介して前記水平用油圧シリンダ22を作動させ機体を左右水平に維持する構成となっている。
【0014】
前記苗植付装置6は、一株の苗を圃場に植付けるべく主伝動ケ−ス3内からの動力が前記主伝動ケ−ス3の後側に設けた植付ミッションケ−ス24とこの植付ミッションケ−ス24から連動駆動される第1植付伝動ケ−ス25A及び第2植付伝動ケ−ス25Bを介して伝達され作動するようになっている。
【0015】
前記苗植付装置6は、下部が前後に開閉する嘴状の作穴体26と該作穴体26を昇降させるべく作動する作穴体作動機構27とで構成される。
作穴体26は前側部材26aと後側部材26bとからなっており、作穴体26の後方に位置する前側部材回動軸28aに回動自在に支持された前側部材取付ア−ム29aに前側部材26aが一体に取り付けられ、作穴体26の前方に位置する後側部材回動軸28bに回動自在に支持された後側部材取付ア−ム29bに後側部材26bが一体に取り付けられている。従って、回動軸28a,28bを支点として両部材26a,26bが回動すると、作穴体26の下部が前後に開閉する。前側部材取付ア−ム29aと後側部材取付ア−ム29bに形成された長穴に遊嵌する連動ピン30によって、前側部材26aと後側部材26bは互いに連動して回動する。前側部材取付ア−ム29aの脚部31aと後側部材取付ア−ム29bの脚部31bとの間に、前側部材26a及び後側部材26bを閉じる側に付勢するスプリング32が張設されている。
【0016】
次に作穴体作動機構27について説明すると、第2植付伝動ケ−ス25Bから突出する支持部に後リンク支持ア−ム33aが回動自在に取り付けられ、その支持ア−ムに基部が枢着された後リンク34aの後端に前側部材回動軸28aが連結されている。後リンク34aの中間部には、第2植付伝動ケ−ス25Bの後端部に設けた後リンク駆動ア−ム35aが連結されている。また、植付ミッションケ−ス24から第1植付伝動ケ−ス25Aへの伝動ケ−スに前リンク支持ア−ム33bが回動自在に取り付けられ、その支持ア−ムに基部が枢着された前リンク34bの後端に筒状の支持部材28cを介して後側部材回動軸28bが連結されている。前リンク34bの中間部には、第1植付伝動ケ−ス25Aから駆動するように設けた前リンク駆動ア−ム35bが連結されている。両駆動ア−ム35a,35bが駆動回転すると、後リンク34a及び前リンク34bが基部の位置を前後に変動させつつ上下に揺動し、作穴体26が上下方向の楕円軌跡Kを描いて一定姿勢のまま上下動する。
【0017】
後リンク34aの基部には開閉ア−ム36が回動自在に取り付けられ、その開閉ア−ム36の先端部と前側部材取付ア−ム29aとが開閉ロッド37で連結されている。また、後リンク34aの中間部には後リンク駆動ア−ム35aと一体に回転する開閉カム38が設けられ、この開閉カム38と作用するベアリング製のカムフォロア39が開閉ア−ム36に設けられている。
【0018】
作穴体26が下死点に位置するときに開閉カム38とカムフォロア39が係合し、これによって開閉ロッド37が引かれることにより、作穴体26の前側部材26aと後側部材26bが互いに連動して前後に回動し、作穴体26の下部が開く。作穴体26が上昇する行程では下部が開いた状態のまま保持される。そして、開閉カム38にカムフォロア39が作用している場合は、作穴体26が上死点に達した時点で、開閉カム38とカムフォロア39の係合が外れ、スプリング32の張力によって作穴体26の下部が閉じる。
【0019】
作穴体26が上死点を少し過ぎた位置にある時に、苗供給部7により作穴体内に苗が落下供給される。このとき、作穴体26の下部は閉じている。苗を保持した作穴体26が下降し、畝の土中に突入する。そして、下死点で作穴体26の下部が開き、苗移植用穴を形成すると共に、その穴の中に保持していた苗を解放して植付ける。
【0020】
上記のように構成された苗植付装置6においては、一つの畝幅内で左右両側に沿って2条の苗植付ができるように複数の苗植付部6A,6Bを設けて左右に並設した構成としている。
【0021】
そして、苗植付部6A側の前側部材回動軸28a及び後側部材回動軸28bを支持する支持部材28c,28cには、苗植付部6B側の回動軸28a,28bを軸方向にスライド調節自在に螺合軸架させた条間調節用螺旋軸40,40が挿通支架されている。従って、調節ハンドル41を回すと、苗植付部6B側が苗植付部6Aに対して近づいたり遠ざかったりし、左右方向にスライド調節されることで、左右の作穴体26,26による苗植付間隔(条間)が任意に調整される構成である。
【0022】
従って、調節ハンドル41を回すことで苗植付間隔(条間)が調整できるので、従来の苗植付装置へ苗を供給する機構も含めた1条分の植付部全体を機体に対して左右移動させるものと比較して、微妙な条間調節を容易に行うことができ、植付作業途中でも植付状態に応じて適宜機体を停止させて容易に条間調節を行うことができる。また、左右の作穴体26,26の下部を開閉させたり該作穴体26,26を昇降させる作穴体作動機構27より作穴体26,26側で一方の作穴体26のみを左右移動させて条間調節が行えるようにしたので、調節ハンドル41の操作荷重も低減できて容易に条間調節を行うことができる。また、左右の作穴体26,26の左右一方側(この実施例では左側)に前記作穴体作動機構27を配置しているので、左右の作穴体の間隔を近付けることができ、条間調節範囲を広くとることができ、例えば玉ねぎやほうれん草など1株当たりの栽培スペ−スが小さいものでは狭い条間(15cm程度)で植え付けることにより単位面積当たりの収量を得ることができ、苗の種類や栽培方法に応じて適正な植付条間を得ることができる。
【0023】
なお、この条間調節は、上記実施例の他に次のような手段によっても行なうことができる。
即ち、図4に示すように、作穴体26をこの先端部が基端部の取付位置軸芯線Y上に位置する形態261のものと、その先端部が取付位置軸芯線Yより所定距離変位する形態262のものとに区分し、そして、この異なる形態の作穴体261,262を互いに交換することによって植付間隔L1からL2に、また、逆に、植付間隔L2からL1に変更調節することができる。
【0024】
前記苗供給部7は、前記苗植付装置6の上側に設けられ、一株の苗を前記苗植付装置6に順次供給する苗供給回転台42を備えて構成されている。前記苗供給回転台42は、前記植付ミッションケ−ス24からの伝動により前後に往復作動するクランクロッド43、一方向クラッチ機構44を介して上下方向の回転軸45回りに回転駆動するようになっている。また、苗供給回転台42は、前記回転軸45を中心とする円周に沿って所定間隔毎に複数の苗供給カップ46…が設けられた構成となっている。
【0025】
前記苗供給カップ46…は該カップ46…の底面46a…が開閉可能に設けられると共に、苗供給カップ46…の下方には苗供給回転台42の回転により苗供給カップ46…が所定の位置(苗供給位置)に来たときのみ該カップ46…の底面が開くように設けられた苗供給カップ開閉ガイド47が機体側に固着して設けられている。従って、苗供給回転台42の回転により苗供給カップ46…が所定の位置Aに来ると、苗供給カップ46…の底面46a…が開いて苗供給カップ46…内のポット苗を下方の作穴体26に落下供給し、更に苗供給回転台42が回転し苗供給カップ46…が前記所定の位置Aから外れると苗供給カップ46…の底面46a…が閉じるようになっている。
【0026】
覆土鎮圧輪8は、苗植付位置の後方位置において左右一対設けられ、機体の進行に伴って畝面を転動し、苗が植え付けられた後の苗植付用穴の周囲の土を崩落させて穴を埋め戻すと共にその跡を軽く鎮圧をするようになっている。
【0027】
別の例について説明する。
1条植用苗移植機において、図6に示すように、作穴体26の形状を、(イ)のような従来構造から(ロ)に示すような畝の中央より片寄った側にオフセットさせることで2条植ができるように構成したものである。つまり、例えば、往路で畝の左側に片寄った位置に沿って1条植してゆき、そして、折り返し復路では畝の右側に片寄った位置に沿って1条植していくことにより、往復路で2条植を可能にしたものである。
【0028】
また、上記のようにオフセットされた形状の作穴体において、従来では、図7(イ)に示すように、ガイドパイプ47の下端を作穴体26の受入れ口上部に臨ませた構成であるため、案内落下される苗の姿勢が定まらず、作穴体の屈曲経路部であちこち倒れかかり、植付姿勢を乱す問題があったが、本案実施例では、図7(ロ)に示すように、ガイドパイプ47を下方に延長し、作穴体の屈曲経路部にまで沿わせるようにしたので、苗が一定の姿勢を保ってスム−スに案内落下されることになる。
【符号の説明】
【0029】
苗移植機、6苗植付装置苗供給部26作穴体27作穴体作動機構、46:苗供給カップ、46a:底面、47:苗供給カップ開閉ガイド、A:所定の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数条植が可能な苗植付装置(6)を設けた苗移植機において、苗植付装置(6)には、下部が開閉する嘴状の作穴体(26)と該作穴体(26)を昇降させる作穴体作動機構(27)を備え、基端部に対して先端部が変位する形態の左右の作穴体(26)を互いに交換することにより、苗植付装置(6)の左右の苗植付条間隔を調節可能に構成してあることを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
苗植付装置(6)の上側に設けた苗供給部(7)には、複数の苗供給カップ(46)を所定間隔毎に備え、苗供給カップ(46)は、所定の苗供給位置(A)に来たときに苗供給カップ開閉ガイド(47)により底面(46a)が開いて苗を作穴体(26)に落下供給する構成としてあることを特徴とする請求項1に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−246568(P2010−246568A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178230(P2010−178230)
【出願日】平成22年8月7日(2010.8.7)
【分割の表示】特願2000−274858(P2000−274858)の分割
【原出願日】平成12年9月11日(2000.9.11)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】