説明

茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法

【課題】 多少の明暗の変化や温度変化があっても、菌床塊が所謂「モグラ」といわれている分割された塊になりにくくするとともに、栽培を行なうまでは不用意に小さな茸が発生しないようにして、栽培を行なうまでの管理が多少ラフでも、確実に品質の良い茸が発芽できるようにし、家庭でも茸栽培を容易に行なうことができるようにする。
【解決手段】 熱収縮性で非透明の可撓性樹脂シート1で形成されたカップ状の容器2を用い、オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊Kを該菌床塊Kの一部を露出させて上記樹脂シート1の熱収縮により圧縮して被覆し、樹脂シート1で被覆された菌床塊Kを一部に通気用のフィルタ12が設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋10に収納した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎茸などの茸を栽培するための茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法に係り、特に、オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊を備えた茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の茸栽培用菌床物としては、例えば、椎茸の場合で説明すると、図12に示すように製造されるものが知られている。これは、先ず、オガ屑に栄養素及び水を混合し、この混合物を、一部に通気用のフィルタ101が設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋100に充填し(図12(a))、塊状の菌床塊kとする(図12(b))。菌床塊kの大きさとしては、例えば、直径d、高さhとすると、d=12cm,h=16cm程度である。次に、高圧蒸気釜に入れて、数時間、菌床塊kの殺菌を行なう。それから、包装袋100を冷却室に移して十数時間冷却する。その後、クリーンルームにおいて、菌床塊kに椎茸の種菌eを接種し(図12(c))、接種後に包装袋100を封止する(図12(d))。そして、例えば30日程度、培養室で培養し(初期培養という)、茸栽培用菌床物Saの製品として出荷する(例えば、特開2001−299087号公報に記載)。
【0003】
このような、茸栽培用菌床物により、茸を栽培するときは、例えば、この菌床塊kを包装袋100に入れたまま、数十日間中期,後期培養し、適時に包装袋100を破袋して、菌床塊kを取出す。そして、この菌床塊kを、散水あるいは浸水などを施して、棚などに載置しておく。これにより、数日で茸が発芽し、更に数日で生長して成体になり、収穫を行なうことができるようになる。収穫したならば、再び、散水あるいは浸水などを施して、棚などに載置しておくと、再び茸が発生し、収穫できるようになる。例えば、上記の大きさのものであれば、3回程度収穫ができる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−299087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、種々の野菜や植物が家庭の室内でも行なわれており、茸においても家庭栽培が考えられるが、このような茸栽培用菌床物を家庭栽培に供しようとした場合、従来の茸栽培用菌床物Saは、主に茸栽培農家用のものなので、これをそのまま家庭で用いた場合には、栽培農家のように厳密な管理ができにくく、またその管理が煩雑で栽培が難しく、汎用性に劣るという問題があった。
【0006】
その理由は、先ず、図13(a)に示すように、菌床塊kは包装袋100に収納されてはいるが、菌床塊kと包装袋100との間に空間があることから、二酸化炭素の滞留,明暗や温度の環境変化などに起因して、菌床塊kが種菌の成熟にしたがって所謂「モグラ」といわれている分割された塊になり、茸の発芽が行なわれにくい状態になることがあるからである。栽培農家では、中期,後期培養においては、二酸化炭素を抑制した暗黒培養を行なう等の管理を十分に行なうことができるので、このようなことが少ないが、家庭栽培では、店頭に並べられた際や家庭に持ち帰った際に、明暗や温度の管理を十分に行なうことが難しいので、この所謂「モグラ」が生じやすくなってしまい、茸の発生が行なわれにくくなる。
【0007】
また、図13(b)に示すように、茸は、明暗や温度変化、あるいは、移動による環境変化などの何らかの刺激があると、包装袋100内で発芽(発茸)することがあり、この場合は、菌床塊kと包装袋100との間に空間があることから、菌床塊kと包装袋100との間に、小さい茸mが無数に発生してしまうことがあるからである。このような小さな茸mは、小さいことに加えて変色して色が悪いこともあって、品質が悪く商品価値がなく、また、この品質の悪い茸mを無効にしても、この発芽は1回茸が発生したことになるので、その後の繰り返しの発生が有効なものであっても、菌床塊1個あたりの収量が減少することになり、それだけ生産効率を損ねることになる。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、多少の明暗の変化や温度変化があっても、菌床塊が所謂「モグラ」といわれている分割された塊になりにくくするとともに、栽培を行なうまでは不用意に小さな茸が発生しないようにして、栽培を行なうまでの管理が多少ラフでも、確実に品質の良い茸が発芽できるようにし、家庭でも茸栽培を容易に行なうことができるようにした茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するための本発明の茸栽培用菌床物は、オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊を備えた茸栽培用菌床物において、熱収縮性の可撓性樹脂シートを用い、上記菌床塊を該菌床塊の一部を露出させて上記樹脂シートの熱収縮により圧縮して被覆した構成としている。
【0010】
これにより、例えば、家庭で茸を栽培する場合には、先ず、茸栽培用菌床物は、店頭に並べられて販売に供されるとともに、家庭に運ばれて室内におかれる。この場合、明暗や温度の環境変化があると、菌床塊が種菌の成熟にしたがって所謂「モグラ」といわれている分割された塊になり易いが、菌床塊は一部を除き樹脂シートで圧縮されて被覆されているので、菌床塊のほとんどの部分には樹脂シートが密着しており、菌床塊と樹脂シートとの間に空間がほとんどないので、二酸化炭素の滞留が防止され、そのため、菌床塊が所謂「モグラ」といわれている分割された塊になりにくく、そのため、茸の発芽が行なわれにくい状態になることが防止される。特に、樹脂シートは圧縮されているので、密着精度が極めて高くなり、確実に支障を防止できるようになる。
【0011】
また、菌床塊には、明暗や温度変化、あるいは、移動による環境変化などの何らかの刺激が与えられ、包装袋内で発芽(発茸)しようとすることがあるが、菌床塊は一部を除き樹脂シートで圧縮されて被覆されているので、菌床塊のほとんどの部分には樹脂シートが密着しており、菌床塊と樹脂シートとの間に空間がほとんどないので、発芽が抑制され、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止される。
【0012】
そして、茸を栽培するときは、予め、例えば冷蔵庫などによる低温刺激などの刺激を与えて発芽させ易いようにし、それから、はさみ等を用いて樹脂シートを切断して菌床塊を取出し、適宜に水遣りを行なって、トレーなどに載置しておく。これにより、例えば数日で茸が成長し、収穫できるようになる。この場合、上記のように、樹脂シートにより、ある程度発芽が抑制されて、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、最初に、発芽して成長する茸は、十数本程度になり、そのため、大きさも大きく色も良好になり、極めて品質のよい茸に成長させることができる。
【0013】
また、一回目の収穫が終わったならば、再び、適宜に水遣りを行なって、トレーなどに載置しておく。これにより、3〜4回程度、茸を生育させて収穫することができる。この場合、最初に、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、それだけ、菌床塊1個あたりの収量が増加し、生産効率が向上させられる。
【0014】
そして、必要に応じ、上記樹脂シートは、非透明である構成としている。これにより、明暗の影響を遮断できるので、菌床塊が所謂「モグラ」といわれている分割された塊に確実になりにくくすることができ、そのため、茸の発芽が行なわれにくい状態になることが確実に防止される。また、明暗の影響を遮断できるので、これによる発芽が抑制され、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止される。
【0015】
また、上記樹脂シートは、オガ屑が充填されるカップ状の容器で構成されていることが有効である。製造時に、オガ屑を入れやすくまた加熱するだけで容器を収縮させることができるので、被覆が容易に行なわれる。また、容器の開口から菌床塊を露出させることができ、接種を容易に行なわせることができる。
【0016】
更に、必要に応じ、上記樹脂シートで被覆された菌床塊を、一部に通気用のフィルタが設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋に収納した構成としている。加熱殺菌や培養を行ない易くすることができるとともに、保存,保持や持ち運びも容易に行なうことができる。
【0017】
また、上記の目的を達成するための本発明の茸栽培用菌床物の製造方法は、オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊を備えた茸栽培用菌床物を製造する茸栽培用菌床物の製造方法において、熱収縮性で非透明の可撓性樹脂シートで形成されたカップ状の容器を用い、該容器にオガ屑を充填し、次に、該容器をオガ屑とともに加熱しオガ屑を殺菌するとともに該オガ屑で構成される菌床塊をその一部を露出させて該樹脂シートの熱収縮により圧縮して被覆し、その後、該容器及び菌床塊を冷却し、それから、菌床塊の露出した部位に茸の種菌を接種して茸栽培用菌床物を製造する構成としている。
【0018】
このようにして製造された茸栽培用菌床物は、上記の作用,効果を奏する。特に、この製造方法によれば、オガ屑を樹脂シートで形成されたカップ状の容器に充填するので、オガ屑を入れやすく、また、加熱するだけで容器を収縮させることができるので、被覆が容易に行なわれる。更に、容器の開口から菌床塊を露出させることができ、接種を容易に行なわせることができる。
【0019】
また、必要に応じ、上記加熱前にオガ屑が充填された容器を一部に通気用のフィルタが設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋に入れ、上記種菌の接種後に該包装袋を封止する構成としている。この場合、容器は包装袋に収納されているので、蒸気が包装袋内に入って直接菌床塊に作用することが防止され、そのため、菌床塊の水分量などが安定させられる。また、加熱殺菌や培養を行ない易くすることができるとともに、保存,保持や持ち運びも容易に行なうことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法によれば、菌床塊は一部を除き樹脂シートで圧縮されて被覆されているので、菌床塊のほとんどは樹脂シートが密着しており、菌床塊と樹脂シートとの間に空間がほとんどないので、二酸化炭素の滞留が防止され、そのため、菌床塊が所謂「モグラ」といわれている分割された塊になりにくく、そのため、茸の発芽が行なわれにくい状態になることを防止することができる。また、菌床塊と樹脂シートとの間に空間がほとんどないので、発芽が抑制され、小さい茸が無数に発生してしまう事態も防止することができる。特に、樹脂シートは圧縮されているので、密着精度が極めて高くなり、確実に支障を防止できるようになる。
【0021】
そして、茸を栽培するときは、樹脂シートにより、ある程度発芽が抑制されて、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、最初に、発芽して成長する茸は、数が限定され、そのため、大きさも大きく色も良好になり、極めて品質のよい茸に成長させることができる。
また、一回目の収穫が終わったならば、再び、適宜に水遣りなどを行なって、3〜4回程度、茸を生育させて収穫することができる。この場合、最初に、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、それだけ、菌床塊1個あたりの収量が増加し、生産効率を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の茸栽培用菌床物の製造方法によれば、オガ屑を樹脂シートで形成されたカップ状の容器に充填するので、オガ屑を入れやすく、また、加熱するだけで容器を収縮させることができるので、被覆を容易に行なわせることができる。更に、容器の開口から菌床塊を露出させることができ、接種を容易に行なわせることができるなど種々の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物及び茸栽培用菌床物の製造方法について詳細に説明する。本発明の実施の形態において、茸として椎茸の場合で説明する。
先ず、本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物について説明する。図1及び図2に示すように、本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物Sは、オガ屑が塊状に形成され茸の種菌e(図8(a))が接種された菌床塊Kを備えたもので、熱収縮性の可撓性樹脂シート1を用い、菌床塊Kをこの菌床塊Kの一部を露出させて樹脂シート1の熱収縮により圧縮して被覆したものである。
【0024】
詳しくは、オガ屑は、例えば、広葉樹を用い、粒子径範囲が0.075〜2.0mm程度のものである。実施の形態では、比較的粒径の粗い粗目と、粒径の細かい細目との比が、粗目:細目=1〜2:9〜8にして用いている。
また、オガ屑には、種々の栄養剤及び水が混合される。
【0025】
熱収縮性の可撓性樹脂シート1は、図8にも示すように、青色に着色され非透明の例えばポリエチレンで形成され、オガ屑が収容されるカップ状の容器2で構成されている。容器2の上方は開放した開口3であり、底壁4の中央には孔5が設けられ、この開口3及び孔5に菌床塊Kが露出する。そして、容器2にオガ屑,栄養剤及び水を混合した混合物が充填された後、容器2は熱収縮されて縮小し、菌床塊Kを開口3及び孔5に露出させて圧縮して被覆している。
【0026】
容器2としては広口のものが用いられ、収縮前の容器2の大きさは、図8(a)に示すように、開口径D1,底壁径D2,高さH1,厚さtとすると、D1=10〜12cm,D=6.5〜8.5cm,H1=8〜10cm,t=0.2〜0.4mmである。実施の形態では、D1=9cm,D2=7.5cm,H1=9cm,t=0.3mmのものを用いた。
また、図8(b)に示すように、容器2が収縮する際には、比較的開口3側の収縮率が大きくなり、直径は多少開口3側が大きいが、全体としては外側は凸凹するものの、略円柱状の塊になる。容器2が収縮した後の樹脂シート1で被覆された菌床塊Kの大きさは、図8(b)に示すように、例えば、中央の直径D、高さHとすると、D=7〜9cm,H=8〜10cm程度になる。
【0027】
また、樹脂シート1で被覆された菌床塊Kは、包装袋10に収納されている。包装袋10は、耐熱性の例えばポリプロピレンなどの樹脂製であり、一部に孔11が開設され、この孔11には通気用の樹脂製不織布等からなるフィルタ12が孔11の開口縁に溶着されて設けられている。また、菌床塊Kが収納された包装袋10の開口13は、溶着されて封止されている。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物Sの製造方法について、図3に示す工程図に基づいて説明する。
(1)混合工程
図3に示すように、ミキサーに、オガ屑,栄養剤及び水を入れ、攪拌混合し、菌床塊材料を調整する。水分量は、例えば、62〜63%になるように調整する。
【0029】
(2)充填工程
図3に示すように、オガ屑,栄養剤及び水の混合物を、熱収縮性で非透明の可撓性樹脂シート1で形成されたカップ状の容器2に充填する。
詳しくは、例えば、図4及び図5に示すように、高さが容器2の高さに対応した矩形の枠体21をワイヤ22で容器2が入る大きさの格子状に区画(例えば100に区画)した保持体20を用い、この保持体20をテーブル24に載置し、この保持体20の各区画に容器2を入れてテーブル24に載置する。
次に、保持体20の上に、各区画の容器2の開口3に対応した貫通孔31が開設され所定量のオガ屑の混合物が収容される箱状の計量体30を重ね、この計量体30にオガ屑の混合物を収容し、ヘラ33などを用いて、均一に混合物を押圧する。これにより、所定量の混合物が容器2内に充填されていく。この場合、オガ屑を樹脂シート1で形成されたカップ状の容器2に充填するので、オガ屑を入れやすくすることができる。
【0030】
(3)包装袋収納工程
次に、図3及び図6に示すように、オガ屑の混合物が充填された容器2を、一部に通気用のフィルタ12が設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋10に入れる。そして、包装袋10の開口13側を折って、仮に封止し、図7に示すように、このものを矩形の網篭40に、例えば、16袋並べて入れる。そして、この網篭40に同様の網篭40で蓋をする。図3に示すように、この包装袋10が入れられた網篭40を、台車41に搭載する。例えば、台車41には、15篭(240袋)搭載される。
【0031】
(4)加熱工程
図3に示すように、包装袋10を搭載した台車41を、高圧蒸気釜50に入れ、100℃〜150℃の温度、実施の形態では、120℃の温度で、例えば4時間加熱する。これにより、オガ屑が加熱され、オガ屑が殺菌される。また、この際には、図8に示すように、容器2が熱収縮し菌床塊Kをその一部を露出させて圧縮して被覆する。この場合、容器2は開口13側を折った包装袋10に収納されているので、蒸気が包装袋10内に入って直接菌床塊Kに作用することがなく、そのため、菌床塊Kの水分量などが安定する。この場合、オガ屑を樹脂シート1で形成されたカップ状の容器2に充填しているので、加熱するだけで容器2を収縮させることができることから、被覆を容易に行なわせることができる。
【0032】
(5)冷却工程
次に、図3に示すように、室温が15〜20℃に調整された冷却室(クリーンルーム)51に、台車41を移送し、例えば、14時間放置し、包装袋10に収納された容器2及び菌床塊Kを20℃以下に冷却する。
【0033】
(6)接種工程
それから、図3に示すように、台車41を、接種室(クリーンルーム)52に移送し、網篭40から包装袋10を取り出して、図9(a)に示すように、包装袋10の開口13を開け、専用のスプーンなどで計量した茸の種菌eを、容器2の開口3から露出した菌床塊Kの一部に散布する。この場合、容器2の開口3により菌床塊Kの一部が露出しているので、種菌eを散布するだけの簡単な作業で接種を行なうことができ、作業が容易で作業性が向上させられる。この場合、オガ屑を樹脂シート1で形成されたカップ状の容器2に充填しているので、容器2の開口3から菌床塊Kを露出させることができ、接種を容易に行なわせることができる。
【0034】
(7)包装袋封止工程
次に、図3及び図9(b)に示すように、包装袋10の開口を溶着により封止する。接種が行なわれた容器2内の菌床塊Kは、包装袋10内に収納されるが、包装袋10には、通気用のフィルタ12が設けられているので、支障がない。そして、再び、包装袋10を網篭40に収納し、パレット43に載置する。
【0035】
(8)培養工程
図3に示すように、最後に、パレット43を、20〜22℃,湿度70%,CO2 濃度が1,700ppm以下に調整された培養暗室53に入れ、例えば、30日〜100日程度、培養する。これにより、種菌eの菌糸が発生して菌床塊Kに成長していく。これにより、茸栽培用菌床物Sが製品として完成する。
【0036】
(9)出荷
そして、図3に示すように、初期培養が終了したならば、茸栽培用菌床物Sを製品として順次出荷する。
【0037】
次に、この茸栽培用菌床物Sにより、家庭で茸を栽培する場合について説明する。先ず、茸栽培用菌床物Sは、図1及び図2に示す状態で、店頭に並べられて販売に供されるとともに、家庭に運ばれて室内におかれる。
この場合、樹脂シート1で被覆された菌床塊Kの大きさは、D=7〜9cm,H=8〜10cm程度の比較的小さく、コンパクトなものなので、持ち運びなどの取り扱いがきわめて容易になる。
【0038】
また、この場合、明暗や温度の環境変化があると、菌床塊Kが種菌eの成熟にしたがって所謂「モグラ」といわれている分割された塊になり易いが、菌床塊Kの周囲及び底部は樹脂シート1で圧縮されて被覆されているので、即ち、菌床塊Kのほとんどは樹脂シート1が密着しており、菌床塊Kと樹脂シート1との間に空間がほとんどないので、二酸化炭素の滞留が防止され、また、樹脂シート1は非透明であることから明暗の環境変化の影響を受けなくなる。そのため、菌床塊Kが所謂「モグラ」といわれている分割された塊になりにくく、そのため、茸の発芽が行なわれにくい状態になることが防止される。
【0039】
更に、この場合、菌床塊Kには、明暗や温度変化、あるいは、移動による環境変化などの何らかの刺激が与えられ、包装袋10内で発芽(発茸)しようとすることがあるが、菌床塊Kの周囲及び底部は樹脂シート1で圧縮されて被覆されているので、即ち、菌床塊Kのほとんどは樹脂シート1が密着しており、菌床塊Kと樹脂シート1との間に空間がほとんどないので、発芽が抑制され、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止される。
【0040】
そして、茸を栽培をするときは、以下のようにして行なう。図10に示すように、まず、包装袋10ごと、冷蔵庫の野菜室に1晩入れ、低温刺激を与える(図10(a))。そして、冷蔵庫から取出したならば、菌床塊Kの容器2を包装袋10から取り出すとともに、はさみ等を用いて樹脂シート1を切断して容器2内から菌床塊Kを取出す(図10(b))。
次に、菌床塊Kを水で洗い(図10(c))、15℃前後の水に30分程度浸漬する(図10(d))。それから、水を入れたトレー60に載置し(図10(e))、18〜26℃程度の室温環境におく。30℃を超えると、椎茸は発芽しにくくなる。この際には、図11に示すように、菌床塊Kが乾燥しないように、濡らした布や紙(例えば、ティッシュペーパ61)などで被覆しておく(図11(a))。
【0041】
この状態で、2〜3日程度経過すると、菌床塊Kの表面から茸の芽が出てくる。芽が出たならば、濡らした布や紙を取り除く(図11(b))。そして、更に、3〜4日ほどの間に茸が成長していき(図11(c))、その後、順次収穫できるようになる(図11(d))。大きく成長したものから順次収穫する。
この場合、上記のように、樹脂シート1により、ある程度発芽が抑制されて、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、最初に、発芽して成長する茸は、十数本程度になり、そのため、大きさも大きく色も良好になり、極めて品質のよい茸になる。
【0042】
一回目の収穫が終わったならば、再び、15℃前後の水に30分程度浸漬し、上記の工程を繰り返す。これにより、3〜4回程度、茸を生育させて収穫することができる。
この場合、最初に、小さい茸が無数に発生してしまう事態が防止されているので、それだけ、菌床塊K1個あたりの収量が増加し、生産効率が向上させられる。
【0043】
尚、上記実施の形態では、茸栽培用菌床物Sを、椎茸の場合で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、別種の茸に適用できることは勿論である。また、上記実施の形態では、茸栽培用菌床物Sを、家庭栽培用に用いる場合で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、農家における業務用として用いても良いことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る茸栽培用菌床物Sは、これを用いて家庭で簡単に茸を栽培して楽しむことができることから、家庭用としての大幅な需要及び普及が期待される。特に、樹脂シート1で被覆された菌床塊Kの大きさを、D=7〜9cm,H=8〜10cm程度の比較的小さく、コンパクトなものにすることができるので、持ち運びなどの取り扱いをきわめて容易にすることができ、この点からも、家庭用としての大幅な需要及び普及が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、充填工程に用いる器具の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、充填工程での状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、包装袋収納工程での状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、包装袋を加熱処理する際の保持状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、加熱工程での容器及び菌床塊の変化を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物の製造方法において、接種工程での状態(a)及び包装袋封止工程での状態(b)示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物において、茸栽培時の工程を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る茸栽培用菌床物において、茸栽培時の工程を示す図である。
【図12】従来の茸栽培用菌床物の製造工程を示す図である。
【図13】従来の茸栽培用菌床物において、茸栽培時の問題点を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
S 茸栽培用菌床物
K 菌床塊
e 種菌
1 樹脂シート
2 容器
3 開口
10 包装袋
11 孔
12 フィルタ
13 開口
(1)混合工程
(2)充填工程
(3)包装袋収納工程
(4)加熱工程
(5)冷却工程
(6)接種工程
(7)包装袋封止工程
(8)培養工程
(9)出荷
20 保持体
21 枠体
22 ワイヤ
30 計量体
31 貫通孔
33 ヘラ
40 網篭
41 台車
43 パレット
50 高圧蒸気釜
51 冷却室(クリーンルーム)
52 接種室(クリーンルーム)
53 培養暗室
60 トレー
61 ティッシュペーパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊を備えた茸栽培用菌床物において、
熱収縮性の可撓性樹脂シートを用い、上記菌床塊を該菌床塊の一部を露出させて上記樹脂シートの熱収縮により圧縮して被覆したことを特徴とする茸栽培用菌床物。
【請求項2】
上記樹脂シートは、非透明であることを特徴とする請求項1記載の茸栽培用菌床物。
【請求項3】
上記樹脂シートは、オガ屑が充填されるカップ状の容器で構成されていることを特徴とする請求項2記載の茸栽培用菌床物。
【請求項4】
上記樹脂シートで被覆された菌床塊を、一部に通気用のフィルタが設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋に収納したことを特徴とする請求項3記載の茸栽培用菌床物。
【請求項5】
オガ屑が塊状に形成され茸の種菌が接種された菌床塊を備えた茸栽培用菌床物を製造する茸栽培用菌床物の製造方法において、
熱収縮性で非透明の可撓性樹脂シートで形成されたカップ状の容器を用い、該容器にオガ屑を充填し、次に、該容器をオガ屑とともに加熱しオガ屑を殺菌するとともに該オガ屑で構成される菌床塊をその一部を露出させて該樹脂シートの熱収縮により圧縮して被覆し、その後、該容器及び菌床塊を冷却し、それから、菌床塊の露出した部位に茸の種菌を接種して茸栽培用菌床物を製造することを特徴とする茸栽培用菌床物の製造方法。
【請求項6】
上記加熱前にオガ屑が充填された容器を一部に通気用のフィルタが設けられた耐熱性の樹脂製の包装袋に入れ、上記種菌の接種後に該包装袋を封止することを特徴とする請求項5記載の茸栽培用菌床物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−109729(P2006−109729A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298895(P2004−298895)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(399022825)岩手中央農業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】