説明

茸菌培養方法

【課題】培養袋内への雑菌の侵入を防止することができるとともに、散水による培養袋の目詰まりを生ずることがなく、しかも培養袋に要するコストの低減を図ることのできる茸菌培養方法を提供する。
【解決手段】培養袋2の上部を下方に一つ折りにすることにより、培養袋2の開口部を折り曲げ部分2aから通気可能に閉鎖し、輪ゴム3によって培養袋2の折り曲げ状態を保持して培養袋2内の茸菌を培養するようにしたので、下方に折り曲げられた培養袋2の開口部に上方から落下する雑菌が侵入することがなく、散水による培養袋2の目詰まりを生ずることもない。また、従来のようにフィルタ付きの高価な培養袋を使用する必要がなく、培養に要するコストの低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば椎茸、舞茸、なめこ等の菌茸類のきのこの栽培において、菌床を培養袋に収容して茸菌を培養する茸菌培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椎茸等の菌茸類のきのこを栽培する場合には、おが粉や米糠等からなる培地を加水調整して殺菌し、これを固めて円柱状に形成した菌床を培養袋に収容して種菌を接種した後、培養袋の上端開口部を閉鎖して菌床の茸菌を培養する工程がある。その際、培養袋の開口部を閉鎖し、培養袋内への雑菌の侵入を防止する必要がある。また、前記培養工程においては、種菌から伸長した菌糸を菌床に蔓延させた後、更に子実体の原基を誘起させるために長期間に渡って培養袋内で培養している。その際、雑菌の侵入を防止しつつ菌体の呼吸に供する空気を培養袋内に取り入れる必要があるため、従来では培養袋の開口部を熱溶着のシールによって密閉し、培養袋の側面にフィルタを有する通気口を設けたものが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−187168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記培養工程はビニールハウス等の培養室内で行われるが、培養室内は高湿度に保つ必要があるため、湿度を維持するための散水が定期的に行われる。その際、散水による水分が培養袋のフィルタに付着するため、フィルタが目詰まりを生じ、培養袋の通気性が低下して菌糸の生長を遅らせるという問題点があった。また、従来の培養袋はフィルタを備えている分だけ高価であるため、多数の菌床を用いて量産する場合には、培養袋に要するコストが高くつくという問題点があった。
【0004】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、培養袋内への雑菌の侵入を防止することができるとともに、散水による培養袋の目詰まりを生ずることがなく、しかも培養袋に要するコストの低減を図ることのできる茸菌培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前記目的を達成するために、菌床を収容した培養袋の上端開口部を閉鎖し、培養袋内で菌床の茸菌を培養する茸菌培養方法において、前記培養袋の上部を下方に一つ折りまたは複数折りにすることにより、培養袋の上部を前記折り曲げ部分から通気可能に閉鎖し、所定の固定部材によって前記折り曲げ状態を保持して培養袋内の茸菌を培養するようにしている。
【0006】
これにより、培養袋の上部が下方に折り曲げられることにより通気可能に閉鎖されることから、培養袋の開口部に上方から落下する雑菌が侵入することがなく、散水による培養袋の目詰まりを生ずることもない。また、培養袋には上端を開口した簡素なものを用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の茸菌培養方法によれば、培養袋の開口部に上方から落下する雑菌が侵入することがないので、雑菌による培養中の汚染を効果的に防止することができる。また、散水による培養袋の目詰まりを生ずることがないので、培養袋内に菌糸の呼吸に必要な空気を十分に供給することができる。更に、培養袋には上端を開口した簡素なものを用いることができるので、従来のようにフィルタ付きの高価な培養袋を使用する必要がなく、培養に要するコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1乃至図5は本発明の第1の実施形態を示すもので、図1は菌床及び培養袋の斜視図、図2は培養袋の閉鎖工程を示す概略側面図、図3は培養袋の閉鎖状態を示す正面図、図4は培養工程後の菌床を示す正面図、図5は椎茸の子実体が発生した状態の菌床を示す正面図である。
【0009】
本実施形態は、例えば茸菌類としての椎茸の栽培において、菌床1を培養袋2に収容して茸菌を培養する方法に関するものである。
【0010】
菌床1は、おが粉や米糠等からなる培地を加水調整して殺菌し、円柱状に形成したものである。菌床1には種菌を接種するための孔1aが設けられ、孔1aは菌床1の上面から底面側に向かって延びている。
【0011】
培養袋2は、上端を開口した縦長の透明なビニール袋からなり、菌床1を収容可能な大きさに形成されている。
【0012】
前記菌床1及び培養袋2を用いて茸菌を培養する場合には、まず、菌床1の孔1aに所定量の種菌を投入するとともに、図2(a) に示すように培養袋2内に菌床1を収容する。次に、図2(b) に示すように培養袋2の上部を前後方向に閉じるとともに、図2(c) に示すように培養袋2の上部を下方に一つ折りにすることにより、培養袋2の上部を通気可能に閉鎖する。続いて、図3に示すように固定部材としての輪ゴム3を用いて培養袋2の折り曲げ状態を保持する。その際、菌床1の側面部分に位置する折り曲げ部分2aに輪ゴム3を一回巻きにして装着することにより、折り曲げ部分2aが開かないように止める。この場合、培養袋2は上部を折り曲げられているだけで完全に密閉されていないので、輪ゴム3で止めても折り曲げ部分2aの僅かな隙間を介して空気の流通が可能である。
【0013】
以上のようにして培養袋2の上端開口部を閉鎖することにより、菌床1の茸菌培養工程を開始し、例えば90〜105日間に渡って培養袋2内で培養する。この培養工程の初期の段階では、種菌から伸長した菌糸を菌床1に蔓延させた後、更に子実体の原基を誘起させるために培養袋2内で培養する。この場合、培養袋2は折り曲げ部分2aの僅かな隙間を介して空気が流通するので、培養袋2内の菌糸の呼吸が確保されるとともに、培養袋2の開口部は下方に折り曲げられているため、上方から落下する雑菌が培養袋2内に侵入することがない。次に、菌糸が成長して菌床1の表面全体に蔓延した後、ビニールハウス等の培養室内に移し高湿度下で培養を続ける。その際、湿度を維持するための散水が定期的に行われるが、培養袋2の開口部は下方に折り曲げられているので、散水による水分によって目詰まりを生ずることはない。この後、培養を続けると、図4に示すように菌床1の表面が褐変化し、子実体の原基が誘導される。ここで、培養袋2を除去すると、図5に示すように菌床1に子実体Aが発生し、子実体Aを所望の大きさまで成長させることにより採取可能となる。
【0014】
このように、本実施形態の茸菌培養方法によれば、培養袋2の上部を下方に一つ折りにすることにより、培養袋2の開口部を折り曲げ部分2aから通気可能に閉鎖し、輪ゴム3によって培養袋2の折り曲げ状態を保持して培養袋2内の茸菌を培養するようにしたので、下方に折り曲げられた培養袋2の開口部に上方から落下する雑菌が侵入することがなく、雑菌による培養中の汚染を効果的に防止することができる。また、培養袋2の上部が下方に折り曲げられているため、散水による培養袋2の目詰まりを生ずることがなく、培養袋2内に菌糸の呼吸に必要な空気を十分に供給することができる。更に、培養袋2には上端を開口した簡素なものを用いることができるので、従来のようにフィルタ付きの高価な培養袋を使用する必要がなく、培養に要するコストの低減を図ることができる。
【0015】
また、培養袋2の折り曲げ部分2aを固定する固定部材として輪ゴム3を用いるようにしたので、培養袋2の折り曲げ状態を容易に保持することができ、培養袋2の閉鎖時の作業性を格段に向上させることができる。この場合、培養工程の後期には菌糸の呼吸量が増えるが、この段階では輪ゴム3が自然劣化して締結力が低下し、或いは破断するため、輪ゴム3による培養袋2の閉鎖状態が解除されて培養袋2の通気量を増加させることができる。
【0016】
尚、前記実施形態では、培養袋2の上部を一つ折りにしたものを示したが、複数折りにしてもよい。また、前記実施形態では、輪ゴム3を一回巻きにして培養袋2に装着するようにしたものを示したが、図6に示すように複数巻きにして装着するようにしてもよい。
【0017】
更に、前記実施形態では、菌床1の側面部分に位置する培養袋2の折り曲げ部分に輪ゴム3を装着するようにしたものを示したが、図7に示すように菌床1の上方に位置する培養袋2の折り曲げ部分2aに輪ゴム3を一回巻きにして装着したり、図8に示すように複数巻きにして装着するようにしてもよい。
【0018】
また、前記実施形態では、固定部材として輪ゴム3を用いたものを示したが、固定部材として挟み金具を用いることも可能である。例えば、図9に示すように培養袋2の折り曲げ部分2aの上端に挟み金具としてのクリップ4を装着したり、図10に示すように折り曲げ部分2aの幅方向両端にそれぞれクリップ4を装着するようにしてもよい。尚、クリップ4に代えて、洗濯ばさみ等の他の挟み金具を用いることも可能である。
【0019】
更に、図11に示すように固定部材としての粘着テープ5を培養袋2の折り曲げ部分2aの下端に貼り付けることにより、折り曲げ部分2aを培養袋2の本体側に固定するようにしてもよい。
【0020】
尚、前記実施形態では、椎茸を栽培する場合を例示したが、本発明は舞茸やなめこ等の他の菌茸類のきのこを栽培する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す菌床及び培養袋の斜視図
【図2】培養袋の閉鎖工程を示す概略側面図
【図3】培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図4】培養工程後の菌床を示す正面図
【図5】椎茸の子実体が発生した状態の菌床を示す正面図
【図6】本発明の第2の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図7】本発明の第3の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図8】本発明の第4の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図9】本発明の第5の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図10】本発明の第6の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【図11】本発明の第7の実施形態に係る培養袋の閉鎖状態を示す正面図
【符号の説明】
【0022】
1…菌床、2…培養袋、2a…折り曲げ部分、3…輪ゴム、4…クリップ、5…粘着テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床を収容した培養袋の上端開口部を閉鎖し、培養袋内で菌床の茸菌を培養する茸菌培養方法において、
前記培養袋の上部を下方に一つ折りまたは複数折りにすることにより、培養袋の上部を前記折り曲げ部分から通気可能に閉鎖し、所定の固定部材によって前記折り曲げ状態を保持して培養袋内の茸菌を培養する
ことを特徴とする茸菌培養方法。
【請求項2】
前記固定部材として輪ゴムを用いる
ことを特徴とする請求項1記載の茸菌培養方法。
【請求項3】
前記菌床の側面部分に位置する培養袋の折り曲げ部分に輪ゴムを少なくとも一回巻きにして装着する
ことを特徴とする請求項2記載の茸菌培養方法。
【請求項4】
前記菌床の上方に位置する培養袋の折り曲げ部分に輪ゴムを少なくとも一回巻きにして装着する
ことを特徴とする請求項2記載の茸菌培養方法。
【請求項5】
前記固定部材として挟み金具を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の茸菌培養方法。
【請求項6】
前記培養袋の折り曲げ部分の上端に挟み金具を少なくとも一つ装着する
ことを特徴とする請求項5記載の茸菌培養方法。
【請求項7】
前記培養袋の折り曲げ部分の幅方向両端にそれぞれ挟み金具を少なくとも一つずつ装着する
ことを特徴とする請求項5記載の茸菌培養方法。
【請求項8】
前記固定部材として粘着テープを用いる
ことを特徴とする請求項1記載の茸菌培養方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−296233(P2006−296233A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119768(P2005−119768)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(505144555)株式会社あらき (2)
【Fターム(参考)】