説明

荷電粒子電流計測装置及びプラズマ処理装置

【課題】精度よく、被処理物品のプラズマ処理に悪影響を与えないでプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができる荷電粒子電流計測装置及びプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子を捕捉する第1電極部41及び第1電極部41の前方に配置され、第1電極部へ向かうべき荷電粒子を通過させるための孔42hを有する第2電極部42を含むファラデーカップ部40と、第1電極部41に直流電圧を印加するための出力電圧可変の第1直流電源と、第2電極部42に第1電極部41に印加される直流電圧とは逆極性の直流電圧を印加するための出力電圧可変の第2直流電源と、第1電極部41に流れる電流を計測する電流測定器Aとを含む荷電粒子電流計測装置。ファラデーカップ部40において第2電極部42前方には接地電極部43が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマを用いて被処理物品に膜形成、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理を実施するにあたり、所望の目的とするプラズマ処理を実施するために、プラズマ中の荷電粒子の状態(プラズマ中の荷電粒子の密度、ポテンシャル分布等)を知るために荷電粒子に基づく電流を計測する荷電粒子電流計測装置に関する。
【0002】
本発明はまたプラズマを用いて被処理物品に膜形成、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理を実施するプラズマ処理装置にも関係している。
【背景技術】
【0003】
プラズマを応用した膜形成(成膜)、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理においては、所望の目的とする処理を施すために、プラズマ中の荷電粒子の密度やポテンシャル等の制御が重要であり、そのためにはプラズマの状態をモニタリングすることが不可欠である。
【0004】
プラズマ状態のモニタリングには、静電プローブ法やOES(0ptical Emission Spectrometer)による発光強度測定が利用されてきた。
【0005】
静電プローブ法はプラズマ中に微小な電極(探針)を挿入し、電極に電圧を印加することにより、且つ、電極に印加する電圧を徐々に変化させていくことにより荷電粒子密度、電子温度、エネルギー分布等を求める方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
OESによる発光強度測定は次のような原理を利用したものである。
すなわち、プラズマ生成の際、原子が励起され、その後励起状態から再び基底状態に戻る。その時に原子はその原子固有の光を放射する。この原子固有の光をCCD(電荷結合素子)で受けて、光エネルギーを電気エネルギーに変え、波長ごとに強度を表したもの(発光強度スペクトル)得て、この強度の比率をとることによりプラズマ中の成分比率を知る方法である。
【0007】
また、イオン電流の測定には一般的にはファラデーカップが利用されている。
例えば特開平8−179046号公報には、イオン電流測定部の前に接地電極、二次電子抑制用電極を配置し、イオン電流測定部に当ったイオンにより生じる二次電子の影響が無いようにしたファラデーカップによるイオン電流計測装置が記載されている。
【0008】
特開2000−65942号公報には、二次電子だけでなく、2次イオンの影響も抑制できるようにしたファラデーカップ利用のイオンビーム量計測装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−179046号公報
【特許文献2】特開2000−65942号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】プラズマ・核融合学会誌 第69巻8 号1993/8月講座:プラズマ実験入門IV.4. 静電プローブでプラズマを探る 雨宮 宏
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、静電プローブ法はプローブをプラズマ中に挿入することが前提であり、プローブをプラズマ中に挿入するとプラズマの場を乱し、該プラズマによる目的とする処理に支障がでる恐れがあり、プラズマ状態の把握精度が低下する恐れがある。
【0012】
OESによる発光強度測定では、光の強度を光ファイバーを用いて計測するため、光ファイバーで見通せる狭い立体角分の範囲しか測定できず、従って、一つのプラズマ処理装置等に対して複数個の設置が要求されるところ、OES計測装置は非常に高価であり、一つのプラズマ処理装置等に複数個取り付けるには費用がかかりすぎる。
【0013】
また従来のファラデーカップでは既述のように二次電子を抑制する等してイオン電流を正確に測定できるように工夫されたものは多々見受けられるが、それ自体でイオン等の荷電粒子のポテンシャル(電位)分布を測定できるものではない。
【0014】
そこで本発明は、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができる荷電粒子電流計測装置を提供することを第1の課題とする。
【0015】
また本発明は、上記第1の課題を解決できる荷電粒子電流計測装置であって、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品をプラズマ処理しているときでも該プラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができる荷電粒子電流計測装置を提供することを第2の課題とする。
【0016】
本発明は、プラズマを用いて被処理物品に目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、被処理物品の処理に用いるプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができ、それにより目的とするプラズマ処理が行えているかどうかを確認しつつ目的とするプラズマ処理を良好に実施することが可能となるプラズマ処理装置を提供することを第3の課題とする。
【0017】
また本発明は、上記第3の課題を解決できるプラズマ処理装置であって、被処理物品の処理に用いるプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、該プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品のプラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができるプラズマ処理装置を提供することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は前記第1の課題を解決するために次の荷電粒子電流計測装置を提供する。
すなわち、
プラズマ生成室内に生成されるプラズマ中の荷電粒子に基づく電流を計測する荷電粒子電流計測装置であり、荷電粒子を捕捉する第1電極部、前記第1電極部の前方に配置され、前記第1電極部へ向かうべき荷電粒子を通過させる孔を有する第2電極部及び前記第2電極部の前方に配置され、前記第2電極部の前記孔を通って前記第1電極部へ向かうべき荷電粒子を通過させる開口を有する接地電極部を含むファラデーカップ部と、前記第1電極部に直流電圧を印加するための第1直流電源と、前記第2電極部に前記第1電極部に印加される直流電圧とは逆極性の直流電圧を印加するための第2直流電源と、前記第1直流電源に直列接続された電流測定器とを含む荷電粒子電流計測装置を提供する。
【0019】
本発明に係る荷電粒子電流計測装置によると、荷電粒子を捕捉する第1電極部に第1直流電源から直流電圧を印加することができ、第1電極部の前方に配置された第2電極部に第2直流電源から第1電極部に印加される直流電圧とは逆極性の直流電圧を印加することができる。
【0020】
このとき、第1電極部に正の直流電圧を印加し、第2電極部に負の直流電圧を印加することで、第1電極部にイオンを衝突させ、前記電流測定器でイオン電流を計測することができる。そのようにして計測されるイオン電流を前記接地電極部の開口面積で除算することでイオン電流密度を得ることができる。
【0021】
また、第2電極部に印加する負の直流電圧を一定として第2電極部電位を負の一定電位に固定する一方、第1直流電源から第1電極部へ印加する正電圧を変化させることで、イオンの電位分布を求めることができる。
【0022】
また、第1電極部に負の直流電圧を印加し、第2電極部に正の直流電圧を印加することで、第1電極部に電子を衝突させ、前記電流測定器で電子電流を計測することができる。そのようにして計測される電子電流を前記接地電極部の開口面積で除算することで電子電流密度を得ることができる。
【0023】
第2電極部に印加する正の直流電圧を一定として第2電極部電位を正の一定電位に固定する一方、第1直流電源から第1電極部へ印加する負電圧を変化させることで、電子の電位分布を求めることができる。
【0024】
本発明に係る荷電粒子電流計測装置によると、このように簡単に荷電粒子電流を計測して荷電粒子密度や荷電粒子電位分布を求めることができる。
【0025】
本発明は前記第3の課題を解決するため、プラズマを用いて被処理物品に目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、本発明に係る上記の荷電粒子電流計測装置を備えたプラズマ処理装置を提供する。
【0026】
このプラズマ処理装置では、該荷電粒子電流計測装置により被処理物品をプラズマ処理するプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができ、それにより目的とするプラズマ処理が行えているかどうかを確認しつつ目的とするプラズマ処理を良好に実施することが可能となる。
【0027】
本発明に係る荷電粒子電流計測装置は、イオン電流計測においては前記第1電極部を正電位に設定するとともに前記第2電極部を負電位に設定し、電子電流計測においては前記第1電極部を負電位に設定するとともに前記第2電極部を正電位に設定するための印加電圧極性切り替え器が前記第1電極部と前記第1直流電源の組及び前記第2電極部と前記第2直流電源の組のそれぞれに対して設けられていてもよい。
【0028】
本発明に係る荷電粒子電流計測装置は、これを実際に使用するにあたってプラズマ生成室に簡易に取り付けられるようにするために、前記ファラデーカップ部は、前記プラズマ生成室壁に形成された開口部に予め気密に接続されたJIS真空規格のISO FKフランジの開口部に一部を嵌装するとともに該フランジ外に位置する残部の外周に気密シール用弾性リングを外嵌し、該気密シール用弾性リングを、前記ISO KFフランジと、該ISO KFフランジと同じISO KFフランジとの間に気密に挟着して前記プラズマ生成室に取り付けることができるファラデーカップ部としてもよい。
【0029】
また、本発明に係る荷電粒子電流計測装置における前記ファラデーカップ部は、大リングに該大リングより内径が小さい小リングが一体的に連設されてなる、内周面に段差棚部を有するセンターリングを含んでいるものとしてもよい。
【0030】
そして、前記第2電極部及び前記第1電極部はこの順序で該センターリングの小リング内に嵌装し、また、前記接地電極部を該センターリングの前記第2電極部側の端部に設け、これら第1及び第2の電極部を前記センターリング内側の前記段差棚部上に嵌められた蓋部材と前記接地電極部との間に挟むようにしてもよい。
【0031】
ファラデーカップ部についてこのような構成を採用する場合、ファラデーカップ部は、予め前記プラズマ生成室の壁に形成した開口部に気密に接続されたJIS真空規格のISO KFフランジの開口部に前記センターリングの小径リング側から嵌装するとともに該センターリングの前記大径リングの外周に気密シール用弾性リングを外嵌し、該気密シール用弾性リングを、前記ISO KFフランジと、該ISO KFフランジと同じISO KFフランジとの間に気密に挟着して前記プラズマ生成室に取り付けることができるファラデーカップ部としてもよい。このようにすることで、荷電粒子電流計測装置を簡易にプラズマ生成室に取り付けることができる。
【0032】
またこのような構成を採用する場合は、本発明の前記第2の課題を解決するために、ファラデーカップ部のセンターリング中心軸線方向長さを、該ファラデーカップ部が前記ISO KFフランジを用いて前記プラズマ生成室壁に取り付けられた状態で、前記接地電極部のプラズマ生成室内側の面が該プラズマ生成室壁の内面と面一に又は該プラズマ生成室壁の内面より該壁内へ後退して配置される長さとすることができる。
【0033】
このようにファラデーカップ部の接地電極部のプラズマ生成室内側の面がプラズマ生成室壁の内面と面一に又は該プラズマ生成室壁の内面より該壁内へ後退して配置されるようにすることで、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品のプラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができる。
【0034】
また前記第4の課題を解決するため、本発明に係るプラズマ処理装置は、このようなフアラデーカップ部を含む荷電粒子電流計測装置の該フアラデーカップ部をJIS真空規格のISO FKフランジを用いて取り付けたプラズマ生成室を含むものとすることができる。
【0035】
このプラズマ処理装置によると、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布をプラズマを乱さないで、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品のプラズマ処理を邪魔しないで求めることができる。
【0036】
なお、本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマを用いて被処理物品に膜形成、イオン注入、エッチング、表面清浄化処理等の処理のうち1又は2以上を実施できる装置である。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように本発明によると、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができる荷電粒子電流計測装置を提供することができる。
【0038】
また本発明によると、上記荷電粒子電流計測装置であって、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品をプラズマ処理しているときでも該プラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができる荷電粒子電流計測装置を提供することができる。
【0039】
本発明によると、プラズマを用いて被処理物品に目的とする処理を施すプラズマ処理装置であって、被処理物品の処理に用いるプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができ、それにより目的とするプラズマ処理が行えているかどうかを確認しつつ目的とするプラズマ処理を良好に実施することが可能となるプラズマ処理装置を提供することを第3の課題とする。
【0040】
また本発明によると、上記プラズマ処理装置であって、被処理物品の処理に用いるプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、該プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品のプラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができるプラズマ処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の1例を示す図である。
【図2】本発明に係る荷電粒子電流計測装置の1例の一部を、図1のプラズマ処理装置のプラズマ生成室にJIS真空規格のISO KFフランジを用いて取り付けようとしている様子を示す図である。
【図3】図2に示す荷電粒子電流計測装置の部分をさらにクランプを用いてプラズマ生成室に固定取り付けしようとしている様子を示す図である。
【図4】図2に示す荷電粒子電流計測装置部分、特にファラデーカップ部の拡大断面図である。
【図5】図2に示す荷電粒子電流計測装置部分、特にファラデーカップ部の分解図である。
【図6】図6(A)は荷電粒子電流計測装置の電極部への電圧印加回路の1例を示す図であり、図6(B)は同電圧印加回路の他の例を示す図である。
【図7】荷電粒子電流計測装置によるプラズマ中のイオン、電子に基づく電流の計測例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明に係るプラズマ処理装置の1例を示している。
【0043】
図1のプラズマ処理装置1はプラズマCVD法により被処理物品に膜形成する膜形成装置であり、膜形成室を兼ねるプラズマ生成室11を備えている。プラズマ生成室11の天井壁111から室内へ高周波放電アンテナ2が挿入設置されている。高周波アンテナ2は絶縁性部材20で被覆されており、該部材20ごと室天井壁111に設けた絶縁性部材110に挿通されている。
【0044】
アンテナ2は、本例ではU字形状のアンテナである。アンテナ2の室天井壁111から室外へ突出した部分21、21’のうち一方の部分21はマッチングボックス31を介して高周波電源32に接続されている。部分21’は接地されている。
【0045】
プラズマ生成室11内のアンテナ2の下方域に被処理物品(図示例では基板S)のホルダ12が設置されており、ホルダ12には必要に応じ被処理物品を加熱するヒータ121が内蔵さている。
【0046】
図1のプラズマ処理装置1は、さらに、プラズマ生成室11内へ所定のガスを導入するガス導入部13、14及び室内から排気して室内を所定の圧力に設定、維持するための排気装置15を備えている。
【0047】
それとは限定されないが、本例ではガス導入部13にモノシランガス供給装置130が接続されており、ガス導入部14に水素ガス供給装置140が接続されている。
【0048】
また、このプラズマ処理装置1にはプラズマ生成室1内のプラズマ中の荷電粒子に基づく電流を計測する荷電粒子電流計測装置4が取り付けられている。装置4はプラズマ生成室1の側壁112にJIS真空規格のISO FKフランジ5、5’を用いて簡易に、しかし気密に取り付けられている(図2、図3参照)。
【0049】
プラズマ処理装置1によると、次のようにして基板Sにシリコン膜を形成することができる。
【0050】
すなわち、排気装置15にてプラズマ生成室1から排気してプラズマ生成室1内をガス導入前の所定の減圧状態に設定する。このプラズマ生成室1内へモノシランガス供給装置130からガス導入部13を介して所定流量でモノシランガスを導入するとともに水素ガス供給装置140からガス導入部14を介して所定流量で水素ガスを導入しつつプラズマ生成室1内のガス圧を排気装置15の運転にて膜形成が可能なプラズマ生成圧に維持しつつ、アンテナ2に高周波電源から高周波電圧を印加することで、これら導入ガスから誘導結合プラズマを生成させ、このプラズマのもとで基板Sにシリコン膜を形成することができる。
【0051】
このとき、プラズマ生成室1内のプラズマ中のイオンや電子といった荷電粒子に基づく電流を荷電粒子電流計測装置4で計測し、プラズマの荷電粒子密度や荷電粒子電位分布などを求めることができ、それにより基板S上へのシリコン膜形成が所望どおり行えているかどうかを確認でき、シリコン膜形成の歩留り向上に利用できる。
【0052】
以下、特に図2〜図6を参照して荷電粒子電流計測装置4について説明する。
計測装置4はファラデーカップ部40を含んでいる。
【0053】
図2はファラデーカップ部40をプラズマ生成室11の側壁112にJIS真空規格のISO KFフランジ5、5’を用いて取り付けようとしている様子を示している。
【0054】
図3はファラデーカップ部40をさらにクランプ6を用いてプラズマ生成室側壁112に固定取り付けしようとしている様子を示している。
【0055】
図4はファラデーカップ部40を拡大して断面図で示している。
【0056】
図5はファラデーカップ部40の分解図である。
【0057】
図6(A)は計測装置4の電極部への電圧印加回路を示している。
【0058】
ファラデーカップ部40は、
荷電粒子を捕捉する(衝突させる)第1電極部41と、
第1電極部41の前方に配置され、第1電極部41へ向かうべき荷電粒子を通過させる孔42hを有する第2電極部42と、
第2電極部42の前方に配置され、第2電極部42の孔42hを通って第1電極部41へ向かうべき荷電粒子を通過させる開口43hを有する接地電極部43を含んでいる。
【0059】
図1及び図6(A)に示すように、第1電極部41にはこれに直流電圧を印加するための出力電圧可変の第1直流電源(反射電源)PW1が接続されており、第2電極部42にはこれに第1電極部41に印加される直流電圧とは逆極性の直流電圧を印加するための出力電圧可変の第2直流電源(極性分離電源)PW2が接続されている。
さらに言えば、反射電源PW1は第1電極部41と第2電極部42との間に接続されており、さらに電源PW1に直列に電流測定器Aが接続されている。極性分離電源PW2は接地電極部43と第2電極部42との間に接続されている。
【0060】
ファラデーカップ部40は、図3〜図5に示すように、断面円形のセンターリング44を含んでいる。センターリング44は断面円形の大リング441に、それより小径の小リング442を中心軸線を一致させて一体的に連設したものである。かくしてセンターリング44は内周面に段差棚部443を有している。また、大リング441には気密シール用弾性リングを外嵌するための部分444を有しており、ここに気密シール用弾性リングとして所謂オーリング445が嵌められている。
【0061】
小リング442のプラズマ生成室内へ向けられる開口部には接地電極部43が底部材を兼ねて当てがわれている。
小リング442内に電気絶縁性部材45が内嵌されている。絶縁性部材45は、接地電極部43側に位置すべき端縁部451を内側へ屈曲させた円筒形状の部材である。この部材45内へ第2電極部42が内嵌されている。
かくして、第2電極部42はセンターリング44に対しても、接地電極部43に対しても電気的に絶縁状態にある。
【0062】
また、小リング442内には、第2電極部42の上側から電気絶縁性部材46が内嵌されている。絶縁性部材46は、第2電極部42側に位置すべき端縁部461を内側へ屈曲させた円筒形状の部材である。この部材46内へ第1電極部41が内嵌されている。
かくして、第1電極部41はセンターリング44に対しても、第2電極部42に対しても電気的に絶縁状態にある。
【0063】
そして大リング441に蓋部材47が内嵌され、段差棚部443上に配置されている。 蓋部材47は本例では電気的に非導通性のセラミック材料で形成されている。
この状態でボルト48が蓋部材47側から接地電極部43の方へ差し込まれ、接地電極部43へ螺合され、かくして、電極部41、42は電気絶縁性部材45、46を間に介在させた状態で蓋部材47と接地電極部43との間に挟着され、且つ、センターリング442内に固定されている。
【0064】
第1電極部41には配線接続用端子411が、第2電極部42には配線接続用端子421がそれぞれ立設されており、これらは、蓋部材47に形成された孔を蓋部材47に触れることなく貫通して蓋部材47の外側まで延び出ている。
【0065】
このファラデーカップ部40は、図3に示すように、プラズマ生成室壁112に形成された開口部に予め気密に接続されたJIS真空規格のISO FKフランジ5の開口部に一部が嵌装される。この場合のファラデーカップ部40の一部とは、接地電極部43と、電極部41及び42等を含むセンターリング44の小リング442と、センターリング44の前記段差棚部443とを含む部分である。
センターリング44の大リング441の大部分とオーリング445はプラズマ生成室11に接続されたフランジ5のフランジ面上に位置する。
【0066】
このようにファラデーカップ部40がフランジ5にセットされた状態では、接地電極部43のプラズマ生成室内側に向けられた面がプラズマ生成室壁112の内面と同じ面に位置する(面一配置になる)。
【0067】
換言すれば、センターリング44の中心軸線方向長さは、ファラデーカップ部40がフランジ5を用いてプラズマ生成室壁112に取り付けられた状態で、センターリング底部材を兼ねる接地電極部43のプラズマ生成室内側の面が該プラズマ生成室壁112の内面と面一に配置される長さである。
【0068】
プラズマ生成室11に接続されたフランジ5のフランジ面上に位置するオーリング445はもう一つの同じサイズの、ISO KFフランジ5’との間に挟まれ、その状態で両フランジ5、5’が互いに接近するようにクランプ6により保持され、それによりオーリング445が両フランジ5、5’間に気密に保持されている。
【0069】
クランプ6は基本的にはそれ自体すでに広く知られているタイプのクランプであり、フランジ5、5’を対向させた状態で嵌め込む凹所を有する一対の開閉可能の部材と、これら部材を閉じ位置に保持する螺子機構を有するものである。
【0070】
フランジ5’には、筒状部材7が連設されている。筒状部材7にはさらにフランジ71が連設されている。このフランジ71も、前記フランジ5、5’とはサイズは異なるが、同じくJIS真空規格のISO KFフランジである。
【0071】
フランジ71には同じフランジ72が対向配置されており、両フランジ71、72の間にセンターリング8及びこれに気密に外嵌された、気密シール用弾性リングとしてのオーリング81とが挟まれている。そしてオーリング81が両フランジ71、72の間に挟まれた状態で両フランジ71、72が互いに接近するようにクランプ6’により保持され、それによりオーリング81が両フランジ71、72間に気密に保持されている。
クランプ6’も前記クランプ6と同タイプのものである。
【0072】
フランジ72には一般にBNCフィードスルーと称されている電源接続用端子91、92が一体的に設けられており、ファラデーカップ部40の第1電極部41の端子411はラインL1にてセンターリング8を通って端子91に接続され、第2電極部42の端子421はラインL2にてセンターリング8を通って端子92に接続されている。
かくしてファラデーカップ40はプラズマ生成室11に気密に取り付けられている。
【0073】
図1、図6(A)に示すように、端子91、従って第1電極部41には出力電圧可変の第1直流電源PW1が接続されており、端子92、従って第2電極部42には出力電圧可変の第2直流電源PW2が接続されている。電極部41、42に印加される電圧は互いに逆極性のものである。接地電極部43はプラズマ生成室壁と同電位に設定されている。
【0074】
図6(A)に示す例では、電源PW1から第1電極部41に正電圧を印加可能であり、電源PW2から第2電極部に負電圧を印加可能である。これにより第1電極部41には第2電極部42とは逆極性電圧を印加可能であり、第2電極部42は接地電極部43に対して負電位に設定可能である。この状態では、検出装置4の電流測定器Aにおいてプラズマ生成室11内プラズマ中のイオン電流を計測することができる。電流測定器Aで検出されるイオン電流を接地電極部43の開口43hの開口面積で除算することでイオン電流密度を求めることができる。
【0075】
また、第2電極部42に電源PW2から印加する負電圧を一定にして第2電極部電位を一定電位とした状態で電源PW1から第1電極部41に印加する正電圧を変化させることで、図7の右側部分に示すようにプラズマ中イオンの電位分布を求めることができる。
【0076】
例えば、接地電極部43に対して第2電極部42の電位を−30Vの一定として、第1電極部41に0〜30Vの範囲で正電圧を変化させて印加することでイオンの電位分布を求めることができる。例えば、第1電極部41の電位を0Vにすると、0〜30Vのポテンシャルを持ったイオン電流が電流測定器Aで検出される。ここで第1電極部41に1Vを印加すると、0〜1Vのポテンシャルを持ったイオンが第1電極部41から第2電極部42の方へ跳ね返され、電源PW1から電極部41への印加電圧が0Vのときに測定される電流から電源PW1から電極部41への印加電圧が1Vのときに測定される電流を差し引くと0〜1Vの範囲のポテンシャルを持ったイオン電流を求めることができる。このようにして電源PW1からの印加電圧を0〜30Vまで変化させることで、各範囲でのイオン電流を求めることができる。
【0077】
ここで、電源PW1から第1電極部41に負電圧を印加し、電源PW2から第2電極部42に正電圧を印加するならば、電流測定器Aにおいてプラズマ生成室11内プラズマ中の電子電流を計測することができる。電流測定器Aで検出される電子電流を接地電極部43の開口43hの開口面積で除算することで電子電流密度を求めることができる。
【0078】
また、第2電極部42に電源PW2から印加する正電圧を一定にして第2電極部電位を一定電位とした状態で電源PW1から第1電極部41に印加する負電圧を変化させることで、図7の左側部分に示すようにプラズマ中電子の電位分布を求めることができる。
【0079】
図6(B)に示すように、イオン電流計測においては第1電極部41を正電位に設定するとともに第2電極部42を負電位に設定し、電子電流計測においては第1電極部41を負電位に設定するとともに第2電極部42を正電位に設定するための、切り替えスイッチSW11、SW12を含む電源PW1及び電極部41に対する印加電圧極性切り替え器及び切り替えスイッチSW21、SW22を含む電源PW2及び電極部42に対する印加電圧極性切り替え器を設けてもよい。
【0080】
以上説明したように、荷電粒子電流計測装置4によると、簡単にイオン電流や電子電流を計測してイオン密度やイオンの電位分布、或いは電子電流密度や電子の電位分布を求めることができ、それにより目標とするプラズマ状態の再現性を感度よく確認することができ、ひいては膜形成等のプラズマ処理の歩留りの向上等が期待できる。
【0081】
また、ファラデーカップ部4はプラズマ生成室11内へ突出しないから、プラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を、プラズマの乱れを抑制できる状態で、従ってそれだけ精度よく、また、被処理物品のプラズマ処理に悪影響を与えないで求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明はプラズマ中の荷電粒子の密度や荷電粒子の電位分布を簡易に求めることができる荷電粒子電流計測装置を提供することに利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1 プラズマ処理装置
11 プラズマ生成室
111 プラズマ生成室の天井壁
112 プラズマ生成室の側壁
110 絶縁性部材
12 ホルダ
121 ヒータ
S 基板
2 アンテナ
20 絶縁性部材
31 マッチングボックス
32 高周波電源
4 32に接続されている。部分21’は接地されている。
13、14 ガス導入部
130 モノシランガス供給装置
140 水素ガス供給装置
15 排気装置
5、5’ JIS真空規格のISO FKフランジ
4 荷電粒子電流計測装置
40 ファラデーカップ部
6 クランプ
41 第1電極部
42 第2電極部
42h 孔
43 接地電極部
43h 開口
PW1 第1直流電源(反射電源)
PW2 第2直流電源(極性分離電源)
A 電流測定器
44 センターリング
441 大リング
442 小リング
443 段差棚部
444 オーリング嵌合部分
445 オーリング
45 絶縁性部材
451 部材45の端縁部
46 絶縁性部材
461 部材46の端縁部
47 蓋部材
7 筒状部材
71、72 フランジ
8 センターリング
81 オーリング
6’ クランプ
91、92 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成室内に生成されるプラズマ中の荷電粒子に基づく電流を計測する荷電粒子電流計測装置であり、荷電粒子を捕捉する第1電極部、前記第1電極部の前方に配置され、前記第1電極部へ向かうべき荷電粒子を通過させる孔を有する第2電極部及び前記第2電極部の前方に配置され、前記第2電極部の前記孔を通って前記第1電極部へ向かうべき荷電粒子を通過させる開口を有する接地電極部を含むファラデーカップ部と、前記第1電極部に直流電圧を印加するための第1直流電源と、前記第2電極部に前記第1電極部に印加される直流電圧とは逆極性の直流電圧を印加するための第2直流電源と、前記第1直流電源に直列接続された電流測定器とを含むことを特徴とする荷電粒子電流計測装置。
【請求項2】
前記ファラデーカップ部は、前記プラズマ生成室壁に形成された開口部に予め気密に接続されたJIS真空規格のISO FKフランジの開口部に一部を嵌装するとともに該フランジ外に位置する残部の外周に気密シール用弾性リングを外嵌し、該気密シール用弾性リングを前記ISO KFフランジと、該ISO KFフランジと同じISO KFフランジとの間に気密に挟着して前記プラズマ生成室に取り付けることができるファラデーカップ部である請求項1記載の荷電粒子電流計測装置。
【請求項3】
前記ファラデーカップ部は、大リングに該大リングより内径が小さい小リングが一体的に連設されてなる、内周面に段差棚部を有するセンターリングを含んでおり、
前記第2電極部及び前記第1電極部はこの順序で該センターリングの小リング内に嵌装されており、前記接地電極部は前記センターリングの前記第2電極部側の端部に設けられており、前記第2電極部及び前記第1電極部は前記センターリング内側の前記段差棚部上に嵌められた蓋部材と前記接地電極部との間に挟まれている請求項1記載の荷電粒子電流計測装置。
【請求項4】
前記ファラデーカップ部は、予め前記プラズマ生成室の壁に形成した開口部に気密に接続されたJIS真空規格のISO KFフランジの開口部に前記センターリングの小径リング側から嵌装するとともに該センターリングの前記大径リングの外周に気密シール用弾性リングを外嵌し、該気密シール用弾性リングを前記ISO KFフランジと、該ISO KFフランジと同じISO KFフランジとの間に気密に挟着して前記プラズマ生成室に取り付けることができるファラデーカップ部である請求項3記載の荷電粒子電流計測装置。
【請求項5】
前記ファラデーカップ部のセンターリング中心軸線方向長さは、該ファラデーカップ部が前記ISO KFフランジを用いて前記プラズマ生成室壁に取り付けられた状態で、前記接地電極部のプラズマ生成室内側の面が該プラズマ生成室壁の内面と面一に又は該プラズマ生成室壁の内面より該壁内へ後退して配置される長さである請求項4記載の荷電粒子電流計測装置。
【請求項6】
イオン電流計測にあたっては前記第1電極部を正電位に設定するとともに前記第2電極部を負電位に設定し、電子電流計測にあたっては前記第1電極部を負電位に設定するとともに前記第2電極部を正電位に設定するための印加電圧極性切り替え器が前記第1電極部と前記第1直流電源の組及び前記第2電極部と前記第2直流電源の組のそれぞれに対して設けられている請求項1から5のいずれか1項に記載の荷電粒子電流計測装置。
【請求項7】
請求項2、4又は5記載の荷電粒子電流計測装置を該荷電粒子電流計測装置の前記ファラデーカップ部で前記JIS真空規格のISO KFフランジを用いて取り付けた前記プラズマ生成室を含むプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−38525(P2012−38525A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176647(P2010−176647)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】