説明

菓子に印刷するための水性インク

工業用ピエゾジェット・プリントヘッドに適合し、疎水性の蝋艶だし剤で艶だしされた糖衣菓子を含む食用基体上に高解像度のイメージを形成するのに使用できる、顔料を含まない水性インクが開示されている。このインクは、疎水性表面へのインクの適合性を向上させる、タピオカデキストリンやアラビアゴムなどの加水分解型の多糖類付着剤を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用品にインクジェット印刷するための水性インク、そのインクを使用して食用品にインクジェット印刷する方法、およびその方法により製造された食用品に関する。ここに開示されるインクおよび方法は、薬剤の丸薬や錠剤からソーセージの皮までの多様な印刷済み食用品を形成するために使用してよい。しかしながら、本発明には、制限を意図するものではなく、チョコレートバーや錠剤製品、ゼリービーン、キュラメルおよびチューインガムを含む菓子に印刷するため、特に、M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートおよびピーナツチョコレートキャンディーの表面などの、艶だしされた糖衣菓子の非平坦かつ非多孔質の疎水性表面に高解像度および高鮮明度のイメージを印刷するために特殊な用途がある。
【背景技術】
【0002】
食用品に識別用または装飾用のイメージを印刷することが知られている。M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートおよびピーナツチョコレートキャンディーに印刷するための現行の技術は、ここではグラビア印刷と称する、オフセットローラを用いた接触印刷プロセスによるものである。グラビアシステムは、基体に塗布できる色の数が限られている。伝統的に、一色が印刷されており、変更によって二色か三色が塗布されるかもしれないが、食用品へのフルカラー印刷は不可能である。グラビアローラは、印刷できる非平坦品の表面積が限られている。他の接触印刷方法と同様に、グラビアローラにより、印刷される食用品が壊されてしまう虞がある。各新規のデザインは、ローラに彫り込まなければならないので、グラビア法を用いては、印刷デザインは容易に変更したり改変したりできない。インクジェット印刷などの非接触印刷方法を用いた場合、それには明白な利点があるであろう。
【0003】
グラビア印刷に使用されるインク系は一般に、シェラック、エチルアルコールおよび顔料を有してなり、インクの特徴を改変するために、これに、染料、可塑剤、追加の溶媒および他の成分を加えてもよい。そのようなインクは、乾燥するまで非多孔質表面上に留まっているほど比較的高い粘度を有し、それらはインク噴射可能(inkjettable)ではない。それゆえ、菓子の小片または薬剤の錠剤などにグラビア法によって印刷するために従来用いられるインクは、インクジェットプロセスには適用できない。
【0004】
食用品、特に、ケーキや他の大きな基体に印刷するための別の一般的な方法は、プリンタで取り扱うことができる食用転写シートであって、比較的多孔質かつ親水性であり、したがって、インクジェットされたイメージを含む、水性インクからのイメージを容易に受容できる食用転写シートの使用を含む。次いで、そのシートからイメージを食用基体に転写するために、様々な方法が用いられる。このタイプのシステムに使用するための例示のインクが特許文献1に開示されており、このインクは、水、イソプロピルアルコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびFD&C(食料品、薬品と化粧品用)着色剤を有してなる。転写シート技術において、印刷は、プリントヘッドを通過して搬送される食用品の表面に直接的には行われない。転写シートを使用するには、基体のある成分が、シートをある程度溶解させるか、またはシートを基体に付着させる必要がある。それゆえ、転写シート技術は、菓子片の非平坦表面へのイメージの高速製造に容易には適用できない。転写シートに使用するのに適用される水性インクは、付着が不十分であり、乾燥するのが遅すぎ、透明性が欠如しているので、非平坦かつ非多孔質の疎水性表面へのインクジェット印刷には適切に機能できない。
【0005】
食用品、特に糖衣菓子片上へのインクジェット印刷は、この技術が実施できる場合、有利な点が数多くあることから魅力的であろう。この印刷によって、食用基体にローラなどの接触部材を接触させる必要がなくなるであろう。さらに、インクジェット印刷は非接触印刷システムであるので、食用品のサイズのわずかな変動が、印刷品質に、一般にパッドやローラを用いたシステムに生じるような悪影響を与えないであろう。また、インクジェットプリンタのイメージは、データとして保存され、接触部材上には固定されない。それゆえ、インクジェットプリンタを効果的に使用できれば、イメージを、接触印刷におけるよりも、一層容易に選択し、変更し、転写したりして、デザインの切換えをより速くすることができる。インクジェット技術を使用すれば、多色プリントヘッドを用いたフルカラー印刷が可能になるであろう。
【0006】
インクジェット印刷システムは大ざっぱに、連続ジェットシステム、およびイメージを形成するために基体表面に拍出するために、液滴が必要に応じて生成されるドロップ・オン・デマンド(「インパルス」とも称される)システムに分類される。連続ジェット技術を用いた食用基体へのインクジェット印刷方法が開示されてきた。これらのほとんどは、高解像度を必要としないラベル付けなどの用途に関する。
【0007】
連続ジェットシステムにおいて、インクは、少なくとも1つのノズルを通して圧力下で連続流で放出される。この連続流は、一般に、インク流に隣接して制御された振動数で振動される圧電性結晶によって、オリフィスから所定の距離で液滴に分割される。圧電性結晶の機能は、ピエゾジェット式ドロップ・オン・デマンドシステムと、連続ジェットシステムとでは異なっている。連続ジェットシステムでは、インク流はリザーバ内において圧力下で生成され、圧電性結晶は、液滴を分割するように単純に機能する。インクの液滴の流れを制御するために、インクは静電荷電され(塩や他の導電性試薬を添加することにより)、液滴は、デジタルデータ信号にしたがって液滴の弾道を調節する静電場を通過させられる。したがって、連続ジェットインクのためのコンダクタンス要件は、700から2000マイクロジーメンスに及び、これには一般に、インクが、導電率を増大させる塩を含有することが必要とされる。液滴は、再循環のためにガターに戻されるか、または基体の特定の位置に向けられて、所望の特徴のマトリクスが形成される。1つのプリントヘッドおよびシングルパス印刷を用いた、業界設定における連続ジェットプリンタのイメージに関する典型的な解像度は、約75〜100ドット・パー・インチ(dpi)である。
【0008】
連続ジェットシステムのために開発されたインクのほとんどは、溶媒のメチルエチルケトン(MEK)を主成分としており、したがって、食用インクに使用するのには適していない。食用品、または食用品と接触するかもしれない表面への連続ジェット印刷のために開発されたインクは、顔料が添加されているか、または他の欠点に関連する溶媒を主成分としている。
【0009】
例えば、特許文献2には、食品、または食品に密接に関連する包装に直接塗布できると言われ、メチルエチルケトンを使用していないインクが開示されている。このインクは、ピエゾジェットプリントヘッドに使用するのに適していると言われている。しかしながら、このインクは、相当な量のアセトン溶媒の存在に依存している。そのようなインクは、MEKベースのインクよりも毒性が弱いかもしれないが、そのようなインクに含まれる相当な量のアセトンのために、食用品への印刷のための使用が制限される。相当な量のアセトンを含むインクは、この分野で取り扱うのにはそれほど望ましくない。
【0010】
特許文献3には、連続ジェットシステムを用いた、砂糖掛けキャンディーを含む食用品への印刷に適していると言われている顔料ベースのインクが開示されている。具体的には、この開示は、インクの乾燥時間と付着性を改善するための顔料粒子の表面特性の改質に関するものである。これらのインクは、導電率を増大させる塩の存在によっても特徴付けられている。
【0011】
特許文献4には、これも連続ジェットシステムのための、シトラス2番染料で果物などの基体にラベルを付けるための用途に焦点が置かれた非水性インクが開示されている。
【0012】
連続ジェットインクは、非常に幅の狭い許容粘度も有する。低剪断速度で約10センチポアズ(cp)より高い粘度を有するインクによって、プリントヘッド内のポンプが使用中に空洞を作る。約2から約3cpの粘度未満では、噴射は安定ではない。それゆえ、全てとは言わないがほとんどの連続ジェットインクは、約2.8から約6cpの粘度を有する。
【0013】
市販の連続ジェットインクは、疎水性食用基体への印刷のためには開発されていない。これらのインクに必要とされる導電率を増大させる塩の存在は、風味に影響を与える可能性がある。
【0014】
今日で最も経済的に重要なのは、ドロップ・オン・デマンドシステムの中のピエゾジェットおよびバブルジェット(登録商標)(サーマルインクジェットと称されることもある)システムである。「バブルジェット」システムにおいて、気泡がインクリザーバ内の抵抗加熱器により形成される。気泡から生じた圧力波が、インクをオリフィスプレートに押し通し、熱が除かれたときに、気泡が壊れ始め、液滴が射出される。「バブルジェット」プリントヘッドは、家庭用とオフィス用のインクジェットプリンタの市場の中心であり、非常に高解像度が可能である。しかしながら、いくつかの検討事項のために、産業設定において食用品への印刷にそれらを使用するのは制限される。
【0015】
「バブルジェット」インクの粘度は、約1.5cpと非常に低く、抵抗加熱器に最小電圧を印加したときに気泡を迅速に形成できる必要がある。公知の「バブルジェット」プリンタは、結合剤または高分子添加剤の存在を容易に取り扱うことができない。さらに、インクは、プリントヘッド内で遭遇する温度サイクルに耐えられなければならない。これらの理由のために、「バブルジェット」プリンタにより食用品に印刷するために開発できるインクの数は非常に限られる。サーマルジェットプリントヘッドは、噴射通路内の表面でのインクの乾燥にも関連する。ピエゾジェットプリントヘッドには大きな温度変動が必要ないので、ピエゾジェットシステムを食用品への印刷のために開発することが好ましいであろう。「バブルジェット」プリンタは、ずっと遅すぎて、高速での食用基体への直接印刷ができない。サーマルインクジェットプリントヘッド(または「バブルジェット」プリントヘッド)が転写シート用途に使用される。何故ならば、転写シートは公知のインクに使用するのに十分に多孔質かつ親水性であるからである。
【0016】
サーマルジェットに適合することが知られている水性食用インクが同時係属出願の特許文献5に開示されている。しかしながら、これらのインクは疎水性表面には適合できないことが示された。
【0017】
食用品へのインクジェット印刷方法が同時係属出願の特許文献6に記載されている。そこに記載されたインクは、チョコレートへの印刷に用途が見出された白色顔料インクである。
【0018】
非白色の顔料インクを含む顔料インク組成物が、前出の特許文献3を含む従来技術に開示されている。しかしながら、顔料インクは、顔料がインクのレオロジーに影響を与え、噴射能力が不十分になり得るので、ドロップ・オン・デマンド式インクジェットシステムにはそれほど好ましくない。また、顔料粒子が存在するには、プリントヘッドの余計なメンテナンスが必要であろう。一旦印刷されると、顔料インクは、基体表面上に乗っかり、容易に剥がれるか、または追加の結合剤を使用する必要があるおよび/またはイメージの付着性が不十分になる傾向がある。
【0019】
ピエゾジェットプリントヘッドは、データ信号にしたがってリザーバの壁を変形させる圧電性結晶によるように、リザーバからインクを排出させる圧電素子により特徴付けられる。これまで、食用インクは、これらのシステムのために開発されていない。ピエゾジェットプリントヘッドは、許容できるインク成分の範囲が広い「バブルジェット」プリントヘッドのものよりも通路が大きい。
【0020】
米国食品医薬品局により人の消費に認可された食品着色剤、および一般にそのような認可を必要としない天然の着色剤は、水溶性であり、その結果、そのような着色剤から製造された食品等級のインクは水性である。これらの水性着色剤は、カルナウバ蝋により仕上げられたM&M’s(登録商標)ミルクチョコレートおよびピーナツチョコレートキャンディーの疎水性表面への適合性が不十分な傾向にある。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0008751号明細書
【特許文献2】米国特許第5453122号明細書
【特許文献3】米国特許第5800601号明細書
【特許文献4】米国特許第5637139号明細書
【特許文献5】米国特許出願第10/211592号明細書
【特許文献6】米国特許出願第09/587108号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
要約すると、グラビア技術は、食用品へのフルカラー印刷ができず、印刷デザインを迅速に切り替えることができず、一方で、連続ジェット印刷は高解像度を達成できない。これらの目的を達成するために、ピエゾジェットインクジェットシステムで食用品に印刷することが望ましいであろう。しかしながら、ピエゾジェットプリントヘッドに適した、顔料を含まない非水性インク、特に、疎水性表面または蝋質表面との適合性を有するインクは、これまで入手できなかった。また、グラビア技法では提供できない、高解像度のフルカラーイメージを菓子に印刷する必要性もある。グラビア技法は、基体との接触に依存しているので、基体の限られた表面積にしか印刷できない。グラビアを含む接触印刷システムでは、例えば、M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートおよびピーナツチョコレートキャンディーに見られるような、食用印刷基体のサイズと形状にある凹凸に合わせられない。
【0022】
それゆえ、食用基体、特に、蝋または脂肪艶だしコーティングを有する糖衣表面を持つものなどの、従来の技術を用いて印刷するのが難しい食用基体に、高解像度のイメージを直接印刷するのに使用できる、食用のインクジェット適合インク、特にピエゾジェット適合インクが当該業界で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
ある態様において、本発明は、疎水性の食用基体に高解像度のイメージを形成できる、顔料を含まない水性のインクジェット用食用インクに関する。このインクは、水、食用着色剤、および疎水性表面に関するインクの適合性を向上させる加水分解性多糖類付着剤を有してなる。
【0024】
別の態様において、本発明は、菓子片にイメージをインクジェット印刷する方法であって、疎水性表面を有する菓子片が、疎水性表面へのインクの付着性を向上させるための加水分解性多糖類付着剤と共に、導電性を増大させる塩を実質的に含まない食用の水性インクを収容している少なくとも1つのインクリザーバを有するピエゾジェット・ジェットインクプリントヘッドを有してなる印刷ステーションに隣接して配置される方法に関する。個々の乾燥したインク液滴からなる高解像度のイメージが、ピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドからインクを疎水性表面に、プリントヘッドに供給されるイメージデータにしたがって射出することによって菓子に印刷される。
【0025】
さらに別の態様において、本発明は、食用着色剤および表面へのインクの適合性を向上させる加水分解性多糖類付着剤を有する顔料を含まない水性インクで印刷された個々の乾燥インク液滴からなるイメージを有する疎水性表面(蝋により艶だしされた糖衣などの)を持つ菓子片自体に関する。このイメージは、好ましくは約100dpi解像度より大きい、最も好ましくは約300dpi解像度より大きいdpi解像度を有する。
【0026】
さらに別の態様において、本発明は、着色剤、着色剤のための水性キャリアおよびイメージ定着系を有してなる食用インクに関する。インク定着系は、インクが適切かつ迅速に表面に定着するように、食用基体、特に疎水性基体にピエゾジェット・インクジェット印刷用インクの物理的性質を最適にするように選択される。したがって、インクは、約20センチポアズから約20センチポアズの範囲にある粘度および約500μN/cm(約50Dyn/cm)未満の表面張力を有する。最も好ましい実施の形態において、インクは、それぞれ、インクが約7から約15センチポアズの範囲にある粘度および約400〜450μN/cm(約30〜45Dyn/cm)の表面張力を有するように選択される、有機溶媒、付着剤および結合剤を含有するイメージ定着系を含む。
【0027】
本発明は、これまで食用基体に高解像度のイメージを印刷するために用いられていなかったピエゾジェット式ドロップ・オン・デマンドシステムの工業的適応に関する。プリントヘッドの特徴によって、どの食用成分を使用してよいのかいけないのかが決まる。プリントヘッドの設計は異なるけれども、それらは全て、データ信号にしたがってリザーバの壁を変形させる圧電式結晶によるものなどの、リザーバからインクを排出させる圧電素子により特徴付けられる。本発明に使用するための好ましいピエゾジェットプリントヘッドは、英国ケンブリッジ所在のザー・テクノロジー社(Xaar Technology Limited)により製造されている。ピエゾジェットシステムは、連続ジェットシステムや「バブルジェット」システムから、当業者によって容易に区別される。それゆえ、ここに用いている「インク噴射可能な」とは、プリントヘッドの過剰な改変やメンテナンス問題を要求せずに、ピエゾジェットプリントヘッドから容易に射出できるインクを意味する。
【0028】
「導電率を増大させる塩を実質的に含まない」とは、塩が、インクの液滴が連続ジェットプリンタの静電場において制御された弾道を持てるような、インク組成物がそのような塩の不在下では持たないであろうレベルまでインク組成物の導電率を上昇させるほど本質的に加えられないことを意味する。これらの塩は、ドロップ・オン・デマンドシステムにおいて要求されないことに加え、腐食などの悪影響をプリントヘッド部材に及ぼし得る。好ましい実施の形態において、本発明によるインクは、約1500マイクロジーメンス未満、好ましくは約700マイクロジーメンス未満の導電率を有する。導電率を増大させる塩を実質的に含まないインクは、「非導電性」インクと称してもよい。
【0029】
本発明によるインク系は、インクジェットプリントヘッドにこのインク系を適合させる成分を含有しており、それゆえ、このインク系は、プリントヘッド部材を損傷させたり、一貫性のないジェットを発射したりしない。インクは、食用基体の表面に適合し、一旦表面で硬化されたら、容易には剥がれ落ちない高解像度のイメージを提供しなければならない。この点に関する「硬化」とは、溶媒が気化し、イメージが基体上によく付着し、固化し、乾燥していることを意味する。
【0030】
本発明にしたがって用いられるインクは、使用されているように食用であり、食品に使用するための規制基準を満たすことが好ましい。これは、菓子の印刷の分野において特に重要である。薬剤の錠剤は特定の安全要件を満たさなければならず、一方で、菓子製品は薬剤よりも多量で食べられることが多いという事実のために、インクに使用してもよい成分への追加の制約が加わる。
【0031】
ここに記載されたインクは全て水性である。ここで用いているように「水性(aqueous)」は、「水性(water-based)」と同義であり、50.0重量パーセントより多く水を有する組成物を称する。水性インクは一般に、約50.0重量パーセントから約85.0重量%の範囲で水を含有する。脱イオン水を使用することが好ましい。好ましい実施の形態において、インクは、50.0重量パーセントから80.0重量パーセントの水、より好ましくは50重量パーセントから約75.0重量パーセントの水を含有し、最も好ましくはインクの55.0重量パーセントから約75.0重量パーセントが水である。
【0032】
キャリヤは通常、インクの乾燥時間を減少させるかまたは調節するのに効果的な量で、少なくとも一種類の低級(C1−C6)アルコール、プロピレングリコールまたは他の有機溶媒を含有する。水の表面張力は高い(約720μN/cm(約72Dyn/cm))ので、ピエゾジェットプリントヘッドによって食用基体に効率的に印刷を行うために、水性インクのイメージ定着系にある成分を加えて、この表面張力を約500μN/cm(約50Dyn/cm)未満、好ましくは約250から約450μN/cm(約25から約45Dyn/cm)の範囲に下げる必要がある。インクの表面張力は、食用基体の表面との適合性の観点から、またプリントヘッド内で液滴を形成するために重要である。
【0033】
インクの非多孔質基体との適合性の都合よい尺度は、液滴が基体表面と形成する接触角である。インクの成分は、接触角が50度未満、約10度から約50度の範囲、好ましくは約20度から約45度の範囲、より好ましくは約30度から約40度の範囲にあるように選択される。もちろん、この検討事項は、比較的非多孔質である表面に主に関連する。
【0034】
低級アルコール、プロピレングリコールまたは他の有機溶媒は、約7.0重量パーセントから約35.0重量パーセントの範囲、好ましくは約7.0重量パーセントから約30.0重量パーセントの範囲、最も好ましくは約10.0重量パーセントから約30.0重量パーセントの範囲で存在する。「有機溶媒」は、水およびインクの他の成分と主に混和性である全ての公知の溶媒を含む。しかしながら、本発明による水性インクに関して、好ましい有機溶媒は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物からなる。インクの約10.0から約20.0重量パーセントがエタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物であることが最も好ましい。
【0035】
ここに用いているように、「溶媒系」は、約35重量パーセントより多く有機溶媒を含有する組成物を意味する。一般に、本発明によるインク組成物は、酢酸エステル、乳酸エステルまたはベンジル基を含有する揮発性有機溶媒などの溶媒は含まない。好ましい実施の形態において、この組成物は、グリセロールおよびエステル溶媒、例えば、酢酸エステルを実質的に含まない。
【0036】
適切な食用着色剤としては、ここでは、「FD&C染料」と称される、米国食品医薬品局(FDA)により施行された食品医薬品化粧品法のもとで人による摂取が認可された食品染料;人が摂取するのに安全であると一般にみなされる天然(通常は、植物)の供給源から由来する天然着色剤;FDAにより認可された天然の供給源から由来する着色剤;および米国管轄外において使用が認可された合成着色剤が挙げられる。本発明に使用できる食用着色剤の全ては、水溶性または水−アルコール混合物中に溶性でなければならない。
【0037】
使用してよいFD&C染料としては、レッド3号(エリスロシン)、レッド40号(アルーラレッド)、イエロー6号(サンセットイエローFCF)、イエロー5号(タートラジン)、グリーン3号(ファーストグリーンFCF)、ブルー1号(ブリリアントブルーFCF)、ブルー2号(インジゴチン)、およびそれらの混合物が挙げられる。使用してよい天然着色剤としては、アントシアニン、ベタリン、カロチノイドなどとそれらの混合物が挙げられる。配合物が全体として、プリントヘッドに適合しており、食用基体の表面に十分な付着性を与えるという条件で、上述した着色剤のいずれを本発明によるインク配合物に使用してもよい。最も好ましい実施の形態において、上述した着色剤は、インク中に着色剤の固形物が実質的にないほど完全にインク配合物中に溶媒和されている。この点に関して、着色剤の固形物が実質的に存在しないことは、約5.0重量パーセント未満の固形物、好ましくは約1.0重量パーセント未満の固形物を意味する。インクが0.1重量パーセント未満しか固形物を含有しないことがさらにより好ましい。
【0038】
食用着色剤は、約0.5重量パーセントから約15.0重量パーセントの量でインク中に存在する。インクは、好ましくは約0.5重量パーセントから約10.0重量パーセント、より好ましくは約0.5重量パーセントから約8.0重量パーセント、最も好ましくは約0.5重量パーセントから約6.0重量パーセントの食用着色剤を含有する。インク中の着色剤の最適量は、約0.5重量パーセントから約4.0重量パーセントの範囲に及ぶようである。上記範囲において、ある食用着色剤(ブルーなどの)は、製品の表面に表れるので同じレベルの彩度を与えるのにいくぶん低い濃度しか必要とせず、一方で、他の食用着色剤(イエローなどの)はいくぶん多く必要とすることが分かった。
【0039】
インク組成物はまた、加水分解性の多糖類付着剤も含有する。この多糖類付着剤は、インク組成物の約0.1重量パーセントから約15.0重量パーセントの範囲、好ましくは約0.5重量パーセントから約12.0重量パーセントの範囲、より好ましくは約1.0重量パーセントから約10.0重量パーセントの範囲、最も好ましくは約1.5重量パーセントから約8.0重量パーセントの範囲でインク中に存在する。加水分解性多糖類付着剤の最適範囲は、インク組成物の約2.0重量パーセントから約6.0重量パーセントまでのようである。
【0040】
加水分解性多糖類は、デキストリン、シクロデキストリン、またはゴム、カラギーナン、エルギン酸塩またはアルギン酸カルシウム、もしくはそのような多糖類の組合せである。最も好ましいデキストリンはタピオカデキストリンである。最も好ましいゴムはアラビアゴムである。
【0041】
硬化したときに、架橋を経てイメージの食用基体への付着性を向上させる他の付着剤を代わりに使用することも可能である。この点に関して、ゼラチンを含むタンパク質物質、またはセルロース物質および/または加水分解デンプンを使用してもよい。
【0042】
本発明によるインク配合物が結合剤を含有することが好ましい。「結合剤」は、溶媒が全て除去され、イメージが基体上で硬化した後にインクの成分間に膜を形成する成分を称する。それゆえ、結合剤は、特定の表面に関するインクの適合性を改善するために加えられる付着剤とは、機能と組成両方の観点から容易に区別できる。公知の結合剤としては、シェラック(水中でシェラックを可溶化するためにpHを約9まで上昇させるためにアンモニアと通常組み合わせられる)が挙げられる。シェラックは、水により、もしくはエチルアルコールまたは同様の溶媒により希釈されてもよい。シェラックベースの膜形成体は、コネチカット州ウエストポート所在のマントロース・ヘーワー社(Mantrose-Haeuer Co., Inc.)からMantrolac(登録商標)の商標名で市販されている。ここに用いているように、「シェラック」は「シェラックベースの膜形成体」と等価に用いられ、重量パーセントは、シェラックベースの膜形成体の重量パーセントを称する。
【0043】
ポリビニルピロリドン(ポリビニルピロリジノン、ポビドンまたはPVPとも称される)も食用結合剤系に使用してもよい。本発明による非顔料系の水性インクに使用するための好ましい結合剤は、ポリビニルピロリドンとシェラックとの組合せであり、この組合せは、この組合せを含有しない組成物よりも優れた、乾燥時間とイメージ品質への予期せぬ改善された影響を有することが示された。
【0044】
この組成物は、約2.0重量パーセントから約40.0重量パーセントの範囲で結合剤を含有する。シェラックベースの膜形成体は、インクの約2.0重量パーセントから約40.0重量パーセントの量で存在してよい。シェラックは、インク組成物に関して、好ましくは約4.0重量パーセントから約35.0重量パーセントの範囲で、より好ましくは約5.0重量パーセントから約30.0重量パーセントの範囲で、最も好ましくは約8.0重量パーセントから約25.0重量パーセントの範囲で存在する。シェラックの最適量は、インク組成物の約10.0重量パーセントから約20.0重量パーセントの範囲にあると考えられる。
【0045】
ポリビニルピロリドンは、インクの約0.01重量パーセントから約20.0重量パーセントの量で存在してよい。ポリビニルピロリドンは、インク組成物に関して、好ましくは約0.5重量パーセントから約18.0重量パーセントの範囲で、より好ましくは約1.0重量パーセントから約15.0重量パーセントの範囲で、最も好ましくは約1.5重量パーセントから約12.0重量パーセントの範囲で存在する。ポリビニルピロリドンの最適量は、インク組成物の約1.5重量パーセントから約10.0重量パーセントの範囲にあると考えられる。
【0046】
有機溶媒(低級アルコールが好ましい)、付着剤(デンプン、デキストリンまたはゴムが好ましい)、および結合剤系(シェラックとポリビニルピロリドンとの組合せが最も好ましい)が、「イメージ定着系」として一緒に考えられる。これらは、インクの乾燥時間と表面張力を減少させるため、また耐久性のある付着イメージが硬化の際に形成されるようにインクの食用基体との適合性を向上させるために、水性キャリヤおよび着色剤に加えられる成分である。
【0047】
インクの性能を改善するために、他の機能性成分を組成物に加えてもよい。例えば、ポリソルベート80などの防腐剤/殺菌剤を、好ましくは約1重量パーセント未満の量で加えてもよい。シメチコンエマルジョンなどの消泡剤を、好ましくは約1重量パーセント未満の量で加えてもよい。
【0048】
防腐剤、香味料、芳香剤、微量栄養素およびビタミン類は全て、完成した菓子の特性を改善するのに通常の量で加えてよい。
【0049】
上述した成分は、粘度が、200s-1の剪断速度および20℃で測定して、約5センチポアズから約20センチポアズの範囲、より好ましくは約7から約15センチポアズの範囲にあるように選択されることが好ましい。インクの粘度が5センチポアズよりずっと低いと、インクジェットされたイメージを形成する主な液滴の周りに衛星のようにインク液滴が形成され、イメージの解像度が低下する傾向にある。粘度が高すぎると、圧電性結晶を用いてリザーバ内に十分な圧力を生じさせることが難しくなる。一般的な法則として、食用インクの分野外の技術分野において知られているように、成分は、インク中に溶解ガスが存在しないように選択すべきである。このようなガスはプリントヘッドに空洞を形成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
インク組成の具体例
以下の組成物はタピオカデキストリンを含有する。
【表1】

【0051】
インク組成の比較具体例
以下の組成物は、加水分解性多糖類付着剤を含まずに、シェラック/ポビドン結合剤系を含有する。
【表2】

【0052】
デキストリンを2.5グラムのアラビアゴムと置換したことを除いて、具体例1による組成物を調製して、本発明による別の実施の形態を生成した。デキストリンの代わりに5.0グラムのカラギーナンを用いたことを除いて、具体例2の組成を持つ組成物を調製した。得られたインクは本発明の範囲に含まれる。具体例12による組成物を調製し、5.0グラムのシクロデキストリンを加えて、本発明の範囲に含まれる別の組成物を生成した。
【0053】
インク特性とインクイメージ特性
食用品への印刷のためのインク系を特徴付けるのに有用である重要なパラメータは、無限希釈での濃度に対する比粘度の比の限界値として定義される、固有粘度である。
【数1】

【0054】
ここで、[η]は固有粘度であり、[ηi]は比粘度であり(ηr−1に等しい、ここで、ηr=溶液粘度/溶媒粘度)、cは濃度であり、ηinhはインヘレント粘度である(lnηr/cに等しい)。
【0055】
固有粘度は通常、特定の溶媒中のポリマーの粘性作用を特徴付けるために用いられる。本発明において、結合剤および粘着剤は「ポリマー」と考えられ、インク中の残りの成分は、固有粘度を決定するための「溶媒」と考えられる。固有粘度は逆濃度単位を有する。意外なことに、固有粘度は、所定の食用基体表面に関するインクの適合性と相関することが分かった。より高い固有粘度は、より良好な付着と相関する。
【0056】
インク中の結合剤/粘着剤に関する固有粘度を得るために、キャノン−フェンスケ(オストワルドタイプ)粘度計を用いた。この粘度計は、公知の粘度を有する、20℃の脱イオン水により校正した。次いで、粘度計に、試験すべきインクを充填し、粘度を測定した。インクを、脱イオン水で50体積パーセントに希釈し、粘度を再度測定した。連続して希釈しながらこのプロセスを繰り返し、得られたプロットをゼロ濃度まで外挿した。
【0057】
表3は、キャノン−フェンスケ粘度計において20℃で測定した、本発明による例示のインクおよび比較具体例の固有粘度を示している。本発明による好ましいインクは、約23から約30cc/グラムの範囲の固有粘度を有する。
【表3】

【0058】
ある表面との適合性は、様々な方法によって判定されるであろう。例えば、食用基体の表面が非多孔質かつ疎水性である場合、表面上のインク液滴による形成される小さな接触角は、基体に関するインクの良好な適合性と付着性、並びに減少した乾燥時間と呼応する。
【0059】
M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートキャンディーに見られる表面に似たカルナウバ蝋艶だしコーティングを有する菓子片の表面上で本発明によるインク液滴の接触角の測定を行った。この接触角(液滴の左側と右側)の脱イオン水の液滴に関して行った同様の測定との比較により、イメージ定着系によりもたらされた接触角の相当な減少が示される。
【表4】

【0060】
好ましい実施の形態において、本発明による方法は、多色プリントヘッドを用いた多色イメージの印刷を含む。好ましい実施の形態において、標準的なインクジェットプリントヘッドは、黒色インクのリザーバとプリントエンジンが標準的なプリントヘッドの構成に見られるところに白色インクリザーバとプリントエンジンを取り付け、そのリザーバに白色顔料インクを提供することによって改変されている。残りのプリントエンジンには、通常の構成で、慣例の色(シアン、マゼンタ、およびイエロー)の水性インクを提供してもよい。標準的なKCMY配置を用いても差し支えなく、この場合、KCMYの文字は、印刷進行方向にこの順序で配置された、白、シアン、マゼンタおよびイエローのプリントエンジンを称することが理解されよう。4色より多く有するプリントヘッドを使用しても差し支えないと考えられる。白色のプリントエンジンを用いずに、別個の黒色プリントエンジンまたは黒を生成するためのシアン、マゼンタおよびイエローの組合せを用いて印刷することも知られている。本発明の範囲から逸脱せずに、上述した構成のいずれを用いても差し支えない。
【0061】
これらのインクを用いてほとんどどのような食用表面に印刷できると考えられる。これらの食品の例としては、制限するものではなく、焼いた食品、ビスケットやケーキ、クッキー、ナッツ、チョコレート、チーズ、クラッカーやチップス、ねり菓子、プリンやムース、アイスクリームやクリーム、ペットフードやペットのおやつ、主食のスナック、シリアル、ソーセージの皮、薬剤の錠剤、丸薬、カプセル、カプレットや糖衣錠が挙げられる。特に好ましい実施の形態において、M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートキャンディーなどの、疎水性蝋コーティングを有する糖衣菓子上にイメージを印刷する。本発明のインクに使用するための特の好ましい食用表面は、疎水性および/または非多孔質の食用表面である。ここに用いているように、疎水性表面という用語は、水に拮抗しており、水中に感知できるほど溶解しない表面を意味する。そのような表面は一般に、油、脂肪または蝋から構成され、当業者によって容易に認識される。ここに用いているように、「非多孔質表面」という用語は、水に対して実質的に浸透性ではない表面を意味する。そのような非多孔質表面は、当業者によって容易に明白であろう。非多孔質かつ疎水性の表面の例示であって、明らかに限定するものではない例は、カルナウバ蝋表面である。
【0062】
インクジェットプリンタの解像度は、イメージを構成するピクセルの密度により定義される。連続ジェットシステムは一般に、約75から約100dpiの解像度を達成できる。本発明において、約100dpi未満が低解像度と考えられ、約100dpiより大きいのが高解像度と定義される。高解像度のイメージを生成できるプリントヘッドの中でも、低価格帯のピエゾジェットシステムが、ここでは中程度に高解像度と定義される、約100dpiから約150dpiの範囲の解像度を達成できる。ザー・テクノロジー社(英国、ケンブリッジ)やスペクトラ社(Spectra, Incorporated)(米国ニューハンプシャー州レバノン)から得られるものなどの新型のピエゾジェットシステムは、ここでは、非常に高解像度と定義される、150dpiから300dpiで印刷できる。この解像度では、非常に大型の線画イメージ、クリップアートイメージ、マンガタイプのイメージ並びにテキストや図面イメージが可能になる。印刷技法を最適化することによって、300dpiから800dpiの解像度が達成でき、これは、写真レベルのまたは写真に近いレベルの高解像度と称される。家庭用とオフィス用のプリンタ市場で主に見られる「バブルジェット」式インクジェット技術では、ある場合には、1600dpiまでのイメージを生成できる。しかしながら、「バブルジェット」プリントヘッドは、遅く、非常に小さな通路を有し、かなり低粘度のインクを必要とし、これらのために、幅広いインクにより食用品への商業的印刷には適さない。疎水性表面とのイメージの付着性を改善するのに必要な成分は、サーマルジェットシステムに使用した場合、それらのプリントヘッド内で遭遇する高温のために、おそらく付着物問題を生じるであろう。本発明による方法の利点は、様々なインクを用いて、約100dpiより高い、好ましくは約150dpiより高い、さらにより好ましくは約300dpiより高い解像度を有するイメージを担持した菓子製品が可能になることである。ここに記載した技術を用いて、本発明者等は、M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートおよびピーナツチョコレートキャンディー上で個別のインクジェットの写真画像を形成した。
【0063】
インクジェット印刷イメージのドット・パー・インチの解像度を増大させるための技法が当該技術分野において知られている。これらには、プリントヘッドの「スティッチング(stitching)」または「インターレーシング(interlacing)」として知られているものがある。別の技法としては、プリントヘッドを基体の進行方向に対してある角度で配置することがある。これの方法の両者により、より多くの液滴が所定の印刷範囲に当たることになる。これらの技法を本発明に使用することができるが、まず第一にこれらの技法を使用できるようにしたのは、問題の基体上でのインクの性能である。インクの性能としては、各液滴の、完全さを維持し、乾燥前に他の液滴と混ざらない能力が挙げられる。それゆえ、解像度は、単に使用する装置の関数ではなく、所定の食用基体上でのインクの性能の関数である。
【0064】
イメージ品質の別の尺度は、ここでは付着性と称される。イメージの付着性を判定するために、菓子片の保持用の空洞を有するアルミニウムブロックを設計した。この菓子片は、カルナウバ蝋コーティングを備えた糖衣を有する、白色のM&M’s(登録商標)ミルクチョコレートキャンディー片であった。この菓子片を、イメージを上向きにして配置した。21.6cm(8.5インチ)長の紙片を、紙が印刷したイメージの頂面に直接置かれるようにキャンディーの頂部に配置した。使用した紙は、Xerox(登録商標)ブランドの4024タイプのコピー紙であった。キャンディーの湾曲に従う溝が設けられた別のブロックをキャンディーの頂部に配置し、二本のピンで下にあるブロックと整合させた。454g(1ポンド)の錘を上側の金属ブロックの頂部に配置し、キャンディーの「イメージ」部分を横断するように紙片を引いた。キャンディーを横断して動かされた紙の長さは、454g(1ポンド)の錘の下で19.05cm(7.5インチ)であった。
【0065】
イメージは、1cmの幅と0.6cmの高さで、0.15cmの線幅の、赤インクで印刷された大きな「m」であった。各場合において、イメージは、ミルノタCM−3500d分光光度計を用いて全体の輝度について分析した。分析のために、中位の開口を持つ試料ホルダを用いた。キャンディーは全て白色だったので、より高い輝度値は、荷重下での紙の磨耗中にイメージがある程度失われたことを意味する。輝度測定「L」は、上述した試験の前後に行った。試験の前後の輝度の差(「ΔL」)が大きいことは、イメージの付着が不十分であることに相当する。
【0066】
以下の結果が、具体例1と6および比較具体例10について観察された。
【表5】

【0067】
少なくとも定量的に、デキストリンが存在すると、付着力が増加することになるのが観察され、ポビドン、シェラックおよびデキストリンの組合せによって、さらに良好な付着結果が生じる。4未満のイメージ付着値(「ΔL」)が得られるインクを使用することが好ましく、その付着値は、3未満がより好ましく、2未満が最も好ましい。
【0068】
クッキーなどの焼いた食品を印刷する場合、食用基体は、ベルトコンベヤなどの当該技術分野において従来実施されている任意の様式で搬送される。食用基体は、英国、ケンブリッジ所在のザー・テクノロジー社から市販されているタイプなどの、固定圧電プリントヘッドを通過させて搬送する。上述した、本発明による水性インクがプリントヘッドに供給される。標準構成は、シアン、マゼンタおよびイエローのリザーバを提供する。第4のリザーバ(従来は黒色インクが供給される)に食用の黒色インクを供給してもよく、食用の白色顔料インクを供給することがより好ましい。インクは、イメージデータにしたがってプリントヘッドから射出され、射出された液滴は表面で硬化して、100dpiより高い解像度を有するイメージで基体上に乾燥インク液滴を形成する。
【0069】
M&M’s(登録商標)ミルクチョコレートやピーナツチョコレートキャンディーなどの比較的小さな菓子片の印刷において、それらの菓子片をコンベア上で搬送し、固定プリントヘッドを通過するときに菓子片を適所に保持することが好ましく、このプリントヘッドは上述したものと同じ構成を有するものであってよい。一般に、菓子片を保持するような形状のポケットが、菓子片を適所に保持するのに十分であるが、必要であれば、最良の解像度を確実にするために、印刷プロセス中に菓子片を不動に維持するためにトラップ機構や真空を用いてもよい。コンベヤは、ポケットを備えたドラムまたはキャリア・バーを持つ無端ベルトであってよい。小さな食用片を搬送するための方法および装置が米国同時係属出願第09/479549号明細書に記載されている。他の手法、例えば、小片をベルト上で直接運ぶことも可能である。
【0070】
本発明を、好ましい実施の形態であると現在考えられるものに関して説明してきたが、本発明は、開示された実施の形態に制限されるものではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれる様々な改変および同等物を包含する。その特許請求の範囲は、な改変と同動物の物質と機能の全てを包含するように最も広い解釈が与えられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100ドット・パー・インチより高い解像度を有する個々の乾燥したインク液滴からなるインクジェット印刷されたイメージをその表面に有してなる菓子片であって、前記個々の乾燥したインク液滴の少なくとも1つが、前記イメージの前記表面への付着性を向上させるのに効果的な量で存在する加水分解性多糖類付着剤と食用着色剤とを有してなる非顔料系の水性食用インクで印刷されている菓子片。
【請求項2】
前記表面が、疎水性脂肪ベースまたは蝋ベースの磨きコーティングをその上に有する非平坦の糖衣表面であることを特徴とする請求項1記載の菓子片。
【請求項3】
前記イメージが、300ドット・パー・インチより高い解像度を有することを特徴とする請求項2記載の菓子片。
【請求項4】
前記インク液滴が、
約50.0重量パーセントから約85.0重量パーセントの水、
約7.0重量パーセントから約35.0重量パーセントのエタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物、
約0.5重量パーセントから約15.0重量パーセントの食用着色剤、
約2.0重量パーセントから約4.0重量パーセントの食用結合剤系、および
約0.1重量パーセントから約15.0重量パーセントの加水分解性多糖類付着剤、
を含有するインク組成物から乾燥されたものであることを特徴とする請求項1記載の菓子片。
【請求項5】
前記表面が、疎水性脂肪ベースまたは蝋ベースの磨きコーティングをその上に有する非平坦の糖衣表面であることを特徴とする請求項4記載の菓子片。
【請求項6】
前記食用結合剤系が、約8.0重量パーセントから約25.0重量パーセントのシェラックベースの膜形成体、および約1.5重量パーセントから約12.0重量パーセントのポリビニルピロリドンを有してなることを特徴とする請求項5記載の菓子片。
【請求項7】
前記加水分解性多糖類付着剤がデキストリンまたはゴムであることを特徴とする請求項6記載の菓子片。
【請求項8】
前記インクジェットされたイメージが、300ドット・パー・インチより高い解像度を有することを特徴とする請求項7記載の菓子片。
【請求項9】
疎水性食用基体上に印刷するための、導電率を増大させる塩を実質的に含まない、非顔料系のインクジェット可能な水性食用インクであって、
a) 水、
b) 食用着色剤、および
c) 疎水性食用基体のための加水分解性多糖類付着剤、
を有してなる食用インク。
【請求項10】
前記多糖類付着剤がデキストリンまたはゴムであることを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項11】
前記多糖類付着剤が、前記インクの約1.0重量パーセントから約8.0重量パーセントの範囲で存在するデキストリンまたはゴムであることを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項12】
約10.0重量パーセントから約30.0重量パーセントのC1〜C6アルコール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物をさらに有することを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項13】
防腐剤、消泡エマルジョン、またはそれらの混合物をさらに有することを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項14】
食用結合剤系において、約8.0重量パーセントから約25.0重量パーセントのシェラックベースの膜形成体、および約1.5重量パーセントから約12.0重量パーセントのポリビニルピロリドンをさらに有することを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項15】
前記インクの約50.0重量パーセントから約85.0重量パーセントの範囲で水を含有することを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項16】
前記食用着色剤が、前記インクの約0.5重量パーセントから約6.0重量パーセントの範囲で存在する、レッド3号(エリスロシン)、レッド40号(アルーラレッド)、イエロー6号(サンセットイエローFCF)、イエロー5号(タートラジン)、グリーン3号(ファーストグリーンFCF)、ブルー1号(ブリリアントブルーFCF)、ブルー2号(インジゴチン)、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項17】
前記食用着色剤が天然着色剤であることを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項18】
前記インクが実質的に固形物を含まないことを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項19】
前記インクが、ベンジル基を含有する揮発性有機溶媒を実質的に含まないことを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項20】
約1500マイクロジーメンス未満の導電率を有することを特徴とする請求項9記載の食用インク。
【請求項21】
導電率を増大させる塩を実質的に含まない、非顔料系の水性食用インクであって、
約50.0重量パーセントから約85.0重量パーセントの水、
約7.0重量パーセントから約35.0重量パーセントのC1〜C6アルコール、プロピレングリコールまたはそれらの混合物、
約0.5重量パーセントから約15.0重量パーセントの完全に溶媒和した食用染料、
約2.0重量パーセントから約4.0重量パーセントの結合剤、および
前記インクの疎水性表面への付着性を向上させるのに効果的な量で存在するデキストリンまたはゴム、
を有してなる水性食用インク。
【請求項22】
前記結合剤がポリビニルピロリドンとシェラックベースの膜形成体を有してなることを特徴とする請求項21記載の水性食用インク。
【請求項23】
前記デキストリンまたはゴムが前記インクの約2.0重量パーセントから約6.0重量パーセントの範囲で存在することを特徴とする請求項21記載の水性食用インク。
【請求項24】
菓子片にイメージをインクジェット印刷する方法であって、
疎水性表面を有する菓子片を、少なくとも1つのインクリザーバを有するピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドを備えた印刷ステーションに近接して配置し、
前記インクリザーバに、多糖類粘着剤を有してなる非導電性の水性食用インクを、前記疎水性表面への該インクの付着性を向上させるのに効果的な量で供給し、
前記ピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドで、前記疎水性表面上に前記プリントヘッドに伝送されるイメージデータにしたがって印刷して、個々の乾燥したインク液滴からなるイメージを形成する、
各工程を有してなる方法。
【請求項25】
前記印刷工程が、前記イメージが100ドット・パー・インチより高い解像度を有するようにイメージデータにしたがって印刷する工程を含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記印刷工程が、前記イメージが300ドット・パー・インチより高い解像度を有するようにイメージデータにしたがって印刷する工程を含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記菓子片を配置する工程が、該菓子片をコンベヤ上で前記プリントヘッドを通過させるように連続的に搬送する工程を含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記ピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドが多数のリザーバを有し、
前記方法が、
白色の顔料食用インクを前記多数のリザーバの内の1つに供給し、
加水分解性多糖類付着剤および食用結合剤系を有する非顔料系の水性食用インクを前記多数のリザーバの別のものに供給する、
各工程をさらに含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項29】
前記菓子片が前記コンベヤ上の個々のポケット内の適所に保持されていることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記菓子片を配置する前に、該菓子片を蝋ベースまたは脂肪ベースのコーティングで艶だしして、前記疎水性表面を形成する工程を含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項31】
前記蝋ベースまたは脂肪ベースのコーティングを塗布する前に、前記菓子片をパンニングして菓子片に糖衣を与える工程を含むことを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記ピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドから射出されたインク液滴が、前記菓子の表面に接触したときに、約50度未満の接触角を形成することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項33】
食用基体に印刷するための非顔料系のインクジェット可能な水性食用インクであって、
着色剤と、
前記着色剤のための水性キャリヤと、
(a)有機溶媒、(b)付着剤、および(c)結合剤を含有するイメージ定着系と、
を有してなり、
前記イメージ定着系が、前記インクが、約5センチポアズから約20センチポアズの範囲の粘度および前記食用基体に施されたときに500μN/cm(50Dyn/cm)未満の表面張力を有するように選択される食用インク。
【請求項34】
前記キャリヤが、約50.0重量パーセントから約85.0重量パーセントの範囲で存在する脱イオン水であり、
前記有機溶媒が、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物からなる群より選択され、
前記粘着剤が加水分解性多糖類であることを特徴とする請求項33記載の食用インク。
【請求項35】
前記インクが、ピエゾジェット・インクジェットプリントヘッドから射出されたときに、蝋艶だしされた菓子の表面と約50度未満の接触角を形成することを特徴とする請求項33記載の食用インク。
【請求項36】
疎水性表面に高解像度印刷するために適用され、
前記付着剤が、疎水性表面への前記インクの付着性を向上させるのに効果的な量のデンプン、デキストリンまたはゴムを有してなり、
一緒になった前記水性キャリヤおよび前記有機溶媒に関する一緒になった前記付着剤および前記結合剤の固有粘度が、約23から約30cc/gの範囲にあることを特徴とする請求項33記載の食用インク。
【請求項37】
印刷済み食用製品において、
焼いた食品、ビスケット、ケーキ、クッキー、ナッツ、チョコレート、チーズ、クラッカー、チップス、ねり菓子、プリン、ムース、アイスクリーム、クリーム、ペットフード、ペットのおやつ、主食のスナック、シリアル、ソーセージの皮、および薬剤の錠剤からなる群より選択される食用基体と、
前記食用基体の表面上に100ドット・パー・インチより高い解像度を有する個々の乾燥したインク液滴からなるインクジェット印刷されたイメージであって、前記個々の乾燥したインク液滴の少なくとも1つが、前記イメージの前記表面への付着性を向上させるのに効果的な量で存在する加水分解性多糖類付着剤および食用着色剤を有してなる非顔料系の水性食用インクで印刷されているイメージと、
を有してなる食用製品。

【公表番号】特表2006−523751(P2006−523751A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506980(P2006−506980)
【出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/007131
【国際公開番号】WO2004/081126
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(390037914)マーズ インコーポレイテッド (80)
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
【出願人】(505338316)ビーピーエスアイ ホールディングズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】BPSI HOLDINGS, INCORPORATED
【Fターム(参考)】