説明

蒸着膜厚測定方法及びその装置

【課題】有機物のような非常に薄い蒸着膜厚であっても正確に蒸着膜厚の計測が可能な蒸着膜厚測定方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】蒸着膜厚測定装置Bは、真空室2内の第1の位置に配設される透光性基板8への蒸着膜厚と真空室2内の第2の位置に配設される水晶発振子における固有振動周波数fとの関係を示す水晶振動子周波数特性Tが記憶された記憶手段21dを有している。膜厚データ補正処理部21は、水晶振動子周波数特性Tに基づいて実測ファクタZbを求める。膜厚計測部20は、実測ファクタZbに基づいて規定膜厚Yに達するか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着膜厚測定方法及びその装置に関し、特に蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の蒸着膜厚測定装置としては、水晶振動子を備え、この水晶振動子の固有振動数が
その質量の変化によって変化することを利用したものであり、蒸着チャンバー(真空蒸着装置)内に配設される被蒸着部材の近くに水晶発振子を配置し、前記被蒸着部材と略同等な条件にて前記水晶振動子にも蒸着を行って、蒸着によって生じた固有振動周波数の変化を蒸着膜厚に変換して所定の膜厚が得られるようにモニタしたり、あるいは所定の膜厚が得られた際に所定の制御を行うものであり、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2003−27213号公報
【0003】
このような蒸着膜厚測定装置は、前記水晶振動子の配設位置と前記被蒸着部材の配設位置とで前記蒸着チャンバー内での前記各配設位置での高さが異なるため、蒸着時間が同じであっても形成される膜厚は異なったものとなり、そのため各配設位置における水晶振動子の膜厚Zqと前記被蒸着部材の膜厚Zfとの比Za(以下、基準ファクタZa(Za=Zq/Zf)と記す)を前記蒸着膜厚測定装置の制御部に記憶させて、この基準ファクタZaに基づいて蒸着膜厚を計測するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しなしながら、前述した蒸着膜厚測定装置に備えられる前記水晶発振子は、被蒸着材料の蒸着膜厚に応じて固有振動周波数が変化するため、基準ファクタZaと剪断モードにおける音響インピーダンス比(以下、Z-ratioと記す)とをそれぞれ計算し、特にZ-ratioの調整によって、前記固有振動周波数の補正を行うことが一般的であった。しなしながら、このような補正処理は、無機材料の蒸着膜厚を計測するものとしては、膜厚が厚いため問題は生じないが、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)のように非常に薄い有機物からなる蒸着膜厚を計測する場合には、ばらつきが大きく正確な蒸着膜厚の測定ができず、結果的に精度の良い蒸着膜厚を形成できないといった問題点を有している。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みなされたものであり、有機物のような非常に薄い蒸着膜厚であっても正確に蒸着膜厚の計測が可能な蒸着膜厚測定方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、請求項1に記載した蒸着膜厚測定方法のように、蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定方法であって、蒸着チャンバー内の第1の位置に配設される前記被蒸着部材への蒸着膜厚と前記蒸着チャンバー内の第2の位置に配設される前記水晶発振子の固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性を予め測定するとともに前記水晶振動子周波数特性を記憶手段に記憶し、前記被蒸着部材に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚と前記水晶発振子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚との比を示す基準ファクタを求め、前記基準ファクタと、前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数に基づき前記記憶手段から読み出された前記蒸着膜厚と、前記被蒸着部材への規定膜厚とに基づいて、前記実測値に基づく実測ファクタを求め、この実測ファクタに基づいて、前記被蒸着部材への蒸着膜厚が前記規定膜厚に到達するか否かを判定することで前記被蒸着部材への蒸着膜厚を計測することを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項2に記載した蒸着膜厚測定装置のように、蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定装置であって、蒸着チャンバー内の第1の位置に配設される前記被蒸着部材への蒸着膜厚と前記蒸着チャンバー内の第2の位置に配設される前記水晶発振子における固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性が記憶された記憶手段と、前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数を入力するとともに前記記憶手段から前記第1の固有振動周波数に基づく前記蒸着膜厚データを読み出し、前記記憶手段から読み出された前記蒸着膜厚データと、前記被蒸着部材に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚と前記水晶発振子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚との比を示す基準ファクタと、前記被蒸着部材への規定膜厚とに基づいて、前記実測値に基づく実測ファクタを求める制御手段と、前記制御手段によって新たに求めた前記実測ファクタに基づいて前記被蒸着部材への蒸着膜厚が前記規定膜厚に到達するか否かを判定する計測手段と、を備えてなるものである。
【0008】
また、請求項3に記載したように、請求項2に記載の蒸着膜厚測定装置において、前記記憶手段は、複数の蒸着材料毎に前記水晶振動子周波数特性を有してなることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項4に記載したように、請求項2に記載の蒸着膜厚測定装置において、前記制御手段もしくは前記計測手段は、前記規定膜厚に到達したと判定すると外部機器に対して制御信号を出力してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定方法及びその装置に関し、有機物のような非常に薄い蒸着膜厚であっても正確に蒸着膜厚の計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態を説明するが、本発明の蒸着膜厚測定装置を有機EL素子を形成する場合に用いられる蒸着装置に適応した場合を例に挙げ説明する。
【0012】
図1は蒸着装置の概略図を示すものであり、蒸着装置Aは、排気ポート1を介して図示しない真空ポンプで高真空に排気された真空室(蒸着チャンバー)2を有している。真空室2の下側には、有機EL素子を構成するための蒸着材料3を収納するルツボ(クヌンセンセル)4が配設されており、このルツボ4には、加熱コイル5が捲回されるとともに、加熱コイル5による加熱温度を正確にルツボ4に伝達するための熱遮蔽板6がルツボ4及び加熱コイル5の外側を覆うように配設される。またルツボ4には、ルツボ4の温度を検出するための熱電対等からなる温度センサ7が設けられている。温度センサ7は、各蒸着室の蒸着温度制御を行うための図示しないパーソナルコンピュータへ蒸着温度データを出力するもので、前記パーソナルコンピュータは、生産管理情報に基づく蒸着温度になるように加熱コイル5に対してフィードバック制御(電流量調整)を行い、ルツボ4の温度を生産管理情報に基づく適正温度になるように制御するものである。
【0013】
一方、真空室2の上側には、ガラス材料からなり、正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,電子注入層及び背面電極を形成するための透光性基板(被蒸着部材)8を備えた基板ホルダー9と、透光性基板8に所定の蒸着パターンを形成するための蒸着マスク10を備えたマスクホルダー11とを、ルツボ4が配設される蒸着源に対し位置決め保持するための保持機構12が備えられている。
【0014】
また、真空室2内において、ルツボ4と透光性基板8との間には、成膜される各層の厚みを制御するシャッター13と、膜厚を計測するための水晶振動子からなる膜厚センサ14とが配設される。膜厚センサ14は、前記水晶振動子の振動板自体に蒸着される蒸着材料の膜厚に応じて変化する固有振動周波数を後述する蒸着膜厚測定装置へ伝達する。前記蒸着膜厚測定装置は、入力される固有振動周波数を透光性基板8へ蒸着される蒸着材料の膜厚に換算してこの膜厚をモニタ部に表示とともに、蒸着膜厚測定装置にて予め設定された規定膜厚に達した際に、シャッター13の後述する駆動手段を動作させ、透光性基板8への蒸着膜厚を管理するものである。
【0015】
次に、図2を用いて蒸着膜厚測定装置Bの電気的構成について説明する。
【0016】
蒸着膜厚測定装置Bは、膜厚計測部(計測手段)20と、制御手段である膜厚データ補正処理部21と、から構成されている。
【0017】
膜厚計測部20は、膜厚センサ14と、周波数/膜厚変換部20aと、を備えており、例えばINFICON社製,商品名IC−5やULVAC社製,商品名CRTM−9000が用いられる。
【0018】
膜厚センサ14は、水晶発振子からなり、真空室2内において透光性基板8との配設位置とは異なる位置に配設され、蒸着されることによる質量変化に応じた固有振動周波数を発振するものである。周波数/膜厚変換部20aは、膜厚センサ14から発せられる膜厚に応じた固有発振周波数を入力し、所定の演算処理を行って膜厚データに変換するとともに、固有発振周波数を膜厚データ補正処理部21へ出力するものである。周波数/膜厚変換部20aは、透光性基板8に蒸着される蒸着材料の膜厚が予め設定された規定膜厚に達したと判定すると、シャッター13を閉動作させるべく、モータ用駆動ドライバや駆動シリンダー用電磁弁等の駆動手段22を動作させる。
【0019】
膜厚センサ14は、その配設位置と透過性基板8の配設位置とで真空室(蒸着チャンバー)内での前記各配設位置での高さが異なるため、蒸着時間が同じであっても形成される膜厚は異なったものとなる。そのため各配設位置における水晶振動子の膜厚Zqと透光性基板8の膜厚Zfとの比を示す基準ファクタ(基準ツーリングファクタ)Zaを周波数/膜厚変換部20aに設定する必要があり、この基準ファクタZaは、周波数/膜厚変換部20aに設けられる入力手段や後述する操作手段を用いて記憶されるものである。
【0020】
具体的には、透光性基板8に100nmの膜厚Zfを蒸着させたい場合に、水晶振動子に500nmの膜厚Zqを蒸着させなければならず、この場合における基準ファクタZaは「5」であり(Za=Zq/Zf=500/100=5)、この基準ファクタZaを周波数/膜厚変換部20aに入力する。
【0021】
一方、膜厚データ補正処理部21は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータ等からなり、その構成としては、CPU21a、ROM21b、RAM21c,記憶手段21d及び入出力インターフェイス21eを有し、前述した各部はバスにより接続されている。膜厚データ補正処理部21は、透光性基板8に蒸着される蒸着材料の規定膜厚を設定(入力)する場合等に用いられ、キーボードからなる入力手段23を有しており、膜厚データ補正処理部21は、入力手段23により設定された規定膜厚データを膜厚計測部20の周波数/膜厚変換部20aへ出力する。
【0022】
また、膜厚データ補正処理部21に備えられる記憶手段21dは、EEPROMやフラッシュメモリ、バードディスク等の不揮発性の記憶媒体が用いられ、図3で示す水晶振動子周波数特性Tが記憶されている。水晶振動子周波数特性Tは、透光性基板8への蒸着材料の膜厚と、膜厚が増えることによって減衰する水晶振動子の固有振動周波数との関係を示すものであり、記憶手段21dに水晶振動子周波数特性Tをデータテーブルとして記憶されている。P1点において、水晶振動子の固有発振周波数fが略6「MHz」の際は、透光性基板8に蒸着される蒸着材料の膜厚が100「%」で有ることを示し、P2点において、水晶発振子の固有発振周波数fが略5「MHz」の際は、透光性基板8に蒸着される蒸着材料の膜厚が20「%」以下であることを示している。即ち、水晶発振子の固有発振周波数fが低下するに従って透光性基板8への蒸着量の割合が減少するものであり、言い換えると水晶発振子の固有発振周波数fの低下に応じて透光性基板8に蒸着する蒸着材料における形成膜厚の蒸着誤差が大きくなることを示している。なお、前述した水晶発振子周波数特性Tは、蒸着材料によって異なるため、単一の蒸着装置Aにて複数種類の蒸着材料を蒸着する場合にあっては、蒸着材料毎の水晶発振子周波数特性を有する必要がある。
【0023】
次に、図4を用いて蒸着膜厚計測方法及び蒸着方法について詳述する。なお、以下の説明において、蒸着材料3は所定の生産条件の基に一定量で蒸着されるものとして説明する。
【0024】
膜厚データ補正処理部21は、周波数/膜厚変換部20bから現時点の膜厚センサ14の固有発振周波数fを入力し(ステップS1)、この固有発振周波数fに応じた蒸着膜厚データを記憶手段21dから読み出す処理を実行する(ステップS2)。
【0025】
次に、膜厚データ補正処理部21は、記憶手段21dから読み出した蒸着膜厚データに応じて実測値に応じた新たなツーリングファクタ(以下、実測ファクタ)Zbを下記式1)により算出する(ステップS3)。なお、式1)において、Zaは基準ファクタ(膜厚センサ14への蒸着膜厚/透光性基板8への蒸着膜厚)、Xは記憶手段21dから読み出された膜厚センサ14の固有発振振動数fに応じた蒸着膜厚、Yは予め定められた規定膜厚である。
Zb=Za・(X/Y)・・・1)
なお、基準ファクタZaは、初期時において、膜厚センサ14への蒸着膜厚/透光性基板8への蒸着膜厚により求められるが、2回目以降の基準ファクタZaとしては、前回求めた実測ファクタZbが用いられることになる。
【0026】
具体的に膜厚データ補正処理部21は、Za=5、X=80nm、Y=100nmで有る場合に、実測ファクタZb=4(Zb=5・(80/100))とする。
【0027】
次に、膜厚データ補正処理部21は、実測ファクタを膜厚計測部20の周波数/膜厚変換部20aに入力するべく、ステップS3により求めた実測ファクタZbを周波数/膜厚変換部20aへ出力する(ステップS4)。
【0028】
そして、周波数/膜厚変換部20aは、実測ファクタZa=4が入力されると、膜厚形成処理を実行するべくシャッター用駆動手段22に対してシャッター13を「開」とするための制御信号を出力し、蒸着処理を開始する(ステップS5)。
【0029】
次に、周波数/膜厚変換部20aは、膜厚センサ4から固有発振周波数fを入力するとともに、所定の演算処理を行って膜厚データを求め、この膜厚データと規定膜厚Yと比較し、この比較処理により規定膜厚Yに達するか否かを判定する(ステップS6)。
【0030】
周波数/膜厚変換部20aは、規定膜厚Yに達したと判断すると、シャッター用駆動手段22に対してシャッター13を「閉」とするための制御信号を出力し、蒸着処理を終了させる(ステップS7)。
【0031】
前述した処理を繰り返すことによって、透光性基板8を入れ替えて蒸着処理する毎に実測ファクタZbに基づいて蒸着処理を行うことができる。
【0032】
かかる蒸着膜厚測定方法は、蒸着材料を膜厚センサ4に備えられる水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数fを検出し、この固有振動周波数fを蒸着膜厚に換算し透光性基板8への蒸着膜厚を計測する方法に関し、真空室2内の第1の位置に配設される透光性基板8への蒸着膜厚と真空室2内の第2の位置に配設される前記水晶振動子の固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性Tを予め測定するとともに水晶振動子周波数特性Tを記憶手段21dに記憶し、透光性基板8に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚Zqと前記水晶振動子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚Zfとの比を示す基準ファクタZa(=Zf/Zq)を求め、前記基準ファクタと、前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数fに基づき記憶手段21dから読み出された蒸着膜厚Xと、透光性基板8への規定膜厚Yとに基づいて、前記実測値に基づく実測ファクタZb(=Za・(X/Y))を求め、この実測ファクタZbに基づいて、膜厚センサ14から入力される固有発振周波数fに基づいて求められる蒸着量が規定膜厚Yに到達するか否かを判定することで透光性基板8への蒸着膜厚を測定するものである。
【0033】
また、その方法を用いた蒸着膜厚測定装置Bとしては、蒸着材料を膜厚センサ14の水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数fを検出し、この固有振動周波数fを蒸着膜厚に換算し透光性基板8への蒸着膜厚を計測する装置に関し、真空室2内の第1の位置に配設される透光性基板8への蒸着膜厚と真空室2内の第2の位置に配設される前記水晶発振子における固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性Tが記憶された記憶手段21dと、前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数を入力するとともに記憶手段21dから前記第1の固有振動周波数fに基づく蒸着膜厚データXを読み出し、この蒸着膜厚データXと、透光性基板8に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚Zqと前記水晶発振子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚Zfとの比を示す基準ファクタZa(=Zf/Zq)と、透光性基板8への規定膜厚Yとに基づいて、前記水晶振動子からの実測値に基づく実測ファクタZb(Za・X/Y)を求める膜厚データ補正処理部21と、この新たに求めた実測ファクタZbに基づいて、膜厚センサ14から入力される固有発振周波数fに基づいて求められる透光性基板8へ蒸着される膜厚が規定膜厚Yに到達するか否かを判定し、透光性基板8への蒸着膜厚を計測する膜厚計測部20である周波数/膜厚変換部20aと、備えるものである。
【0034】
従って、記憶手段21dに水晶振動子周波数特性Tを記憶させることで実測値に基づくツーリングファクタ(実測ファクタZb)を求め、このツーリングファクタに基づいて膜透光性基板8へ蒸着される膜厚を正確に計測できるため、Z-ratioの調整を用いることなく、有機物のような非常に薄い蒸着膜厚であっても正確に蒸着膜厚の計測を行うことができる。
【0035】
また、記憶手段21dは、複数の蒸着材料毎の水晶振動子周波数特性Tを有するようにすることで、単一の蒸着装置Aにて複数種類の蒸着材料の膜厚を正確に計測することができる。
【0036】
また、膜厚計測部20は、規定膜厚Yに到達したと判定すると外部機器であるシャッター用駆動手段22を制御することから蒸着材料の膜厚を正確に成膜することができる。
【0037】
本発明の実施形態では、膜厚計測部20と、膜厚データ補正処理部21とを別々に設けるようにしたが、本発明にあっては、膜厚計測部20における周波数/膜厚変換部20aの機能を膜厚データ補正処理部21に持たせることで構成を簡素化することができる。
【0038】
また、蒸着膜厚管理装置Bの入出力インターフェイス21eに温度センサ7及び加熱コイル5を接続し、ルツボ4の蒸着条件管理を行うようにすることで、更に装置としての構成を簡素化することができる。
【0039】
また、本発明の実施形態では、実測ファクタZbを求めるために記憶手段21dから膜厚センサ14の固有発振振動数fに応じた蒸着膜厚の値を用いるものであったが、本発明における記憶手段から読み出す蒸着膜厚は、膜厚センサを使用するに従って減衰する固有発振周波数fに応じた蒸着膜厚の割合(比率:例えば80%)であっても良い。この場合における水晶振動子周波数特性Tは、真空室2内の第1の位置に配設される透光性基板8への蒸着膜厚と、真空室2内の第2の位置に配設される膜厚センサ14の水晶発振子の固有振動周波数fとの関係を示すとともに、膜厚センサ14から発せられる固有発振周波数fが減衰する際の透光性基板8への蒸着量の減少割合を示すものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態を示す蒸着装置の概略図。
【図2】同上実施形態の蒸着膜厚測定装置を示すブロック図。
【図3】同上実施形態の水晶振動子周波数特性を示す図。
【図4】同上実施形態の蒸着膜厚測定方法及び蒸着方法を説明する図。
【符号の説明】
【0041】
A 蒸着装置
2 真空室(蒸着チャンバー)
3 蒸着材料
4 ルツボ
8 透光性基板(被蒸着部材)
13 シャッター
14 膜厚センサ
B 蒸着膜厚測定装置
20 膜厚測定部(計測手段)
20a 周波数/膜厚変換部
21 膜厚データ補正処理部
21d 記憶手段
22 シャッター用駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定方法であって、
蒸着チャンバー内の第1の位置に配設される前記被蒸着部材への蒸着膜厚と前記蒸着チャンバー内の第2の位置に配設される前記水晶発振子の固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性を予め測定するとともに前記水晶振動子周波数特性を記憶手段に記憶し、
前記被蒸着部材に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚と前記水晶発振子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚との比を示す基準ファクタを求め、
前記基準ファクタと、前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数に基づき前記記憶手段から読み出された前記蒸着膜厚と、前記被蒸着部材への規定膜厚とに基づいて、前記実測値に基づく実測ファクタを求め、
この実測ファクタに基づいて、前記被蒸着部材への蒸着膜厚が前記規定膜厚に到達するか否かを判定することで前記被蒸着部材への蒸着膜厚を計測することを特徴とする蒸着膜厚測定方法。
【請求項2】
蒸着材料を水晶発振子に蒸着させて、この蒸着膜厚に応じて変化する前記水晶振動子の固有振動周波数を検出し、この固有振動周波数を蒸着膜厚に換算し被蒸着部材への蒸着膜厚を計測する蒸着膜厚測定装置であって、
蒸着チャンバー内の第1の位置に配設される前記被蒸着部材への蒸着膜厚と前記蒸着チャンバー内の第2の位置に配設される前記水晶発振子における固有振動周波数との関係を示す水晶振動子周波数特性が記憶された記憶手段と、
前記水晶発振子からの実測値である第1の固有振動周波数を入力するとともに前記記憶手段から前記第1の固有振動周波数に基づく前記蒸着膜厚データを読み出し、前記記憶手段から読み出された前記蒸着膜厚データと、前記被蒸着部材に蒸着される前記蒸着材料の第1の蒸着膜厚と前記水晶発振子に蒸着される前記蒸着材料の第2の蒸着膜厚との比を示す基準ファクタと、前記被蒸着部材への規定膜厚とに基づいて、前記実測値に基づく実測ファクタを求める制御手段と、
前記制御手段によって新たに求めた前記実測ファクタに基づいて前記被蒸着部材への蒸着膜厚が前記規定膜厚に到達するか否かを判定する計測手段と、
を備えてなることを特徴とする蒸着膜厚測定装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、複数の蒸着材料毎に前記水晶振動子周波数特性を有してなることを特徴とする請求項2に記載の蒸着膜厚測定装置。
【請求項4】
前記制御手段もしくは前記計測手段は、前記規定膜厚に到達したと判定すると外部機器に対して制御信号を出力してなることを特徴とする請求項2に記載の蒸着膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−171028(P2007−171028A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370304(P2005−370304)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】