説明

蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置

【課題】レール圧の制御モードの変更による振動音の変化が搭乗者に認識されることなく、制御モードを排出量制御モード以外の制御モードにできるだけ早期に変更されるようにした蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置を提供する。
【解決手段】車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベルが所定レベル以上か否かを判別する状態判定手段を備え、圧力制御モード設定手段は、エンジンがアイドリング状態に入り制御モードを排出量制御モードに設定した後、状態のレベルが所定レベル以上になったときに制御モードを排出量制御モード以外の制御モードに変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレールを備えた蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関するものである。特に、エンジンの運転状態に応じてコモンレール内の圧力の制御モードを設定可能に構成され、車両のエンジンへの燃料噴射を行うための蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジンの気筒内に燃料を噴射する装置として、高圧ポンプによって加圧された燃料を一時的に蓄積するためのコモンレールを備えた蓄圧式燃料噴射装置が用いられている。このコモンレールには複数の燃料噴射弁が接続されており、高圧の燃料が各燃料噴射弁に供給された状態で各燃料噴射弁の通電制御が行われることにより、所望の噴射タイミングでエンジンの気筒内に燃料が噴射される。
【0003】
このような蓄圧式燃料噴射装置では、コモンレール内の燃料の圧力(以下「レール圧」と言う。)が燃料の噴射量や燃焼性に影響を与えるために、エンジンの運転状態に応じてレール圧の制御が行われている。レール圧の制御モードには、レール圧の目標値(以下「目標レール圧」と言う。)に基づいて高圧ポンプの加圧室に供給する燃料の流量を調節してコモンレールへの燃料の供給量を調節する制御モード(以下、この制御モードを「供給量制御モード」と言う。)や、目標レール圧に基づいてコモンレールから低圧側に排出する燃料の流量を調節する制御モード(以下、この制御モードを「排出量制御モード」と言う。)がある。
【0004】
このうち、排出量制御モードは、コモンレールに対して高圧の燃料を大量に圧送しながらレール圧を制御するものであり、レール圧制御の応答性及び燃料温度の上昇性に優れているものの、高圧ポンプの駆動負荷に対して燃料の利用効率が低いというマイナス点がある。一方、供給量制御モードは、高圧ポンプへの燃料の導入量を調節するものであり、高圧ポンプの駆動負荷に対する燃料の利用効率に優れているものの、レール圧制御の応答性や燃料温度の上昇性にはやや劣っている。制御が複雑にはなるが、それぞれの利点を生かせるようにコモンレールへの燃料の供給量及びコモンレールからの燃料の排出量を同時に調節する制御モード(以下、この制御モードを「供給排出同時制御モード」と言う。)が実行される場合もある。
【0005】
これらの制御モードは、主としてエンジンの運転状態によって設定されるようになっている。具体的には、エンジン回転数及びエンジンの要求トルクに基づいてレール圧の制御モードが決定されるようになっている。特に、エンジンの始動時においては、燃料温度を上昇させて蓄圧式燃料噴射装置の各コンポーネントの温度を速やかに上昇させたいことや、また、応答性の良いレール圧制御が適していることから、排出量制御モードでレール圧制御が実行される。そして、その後にエンジンがアイドリング状態で安定したときには、高圧ポンプの駆動負荷を抑えるために制御モードが供給量制御モードに変更されてレール圧制御が実行されるようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−339830号公報 (段落[0029]〜[0030]、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レール圧の制御モードが変更される場合、燃料の流れや高圧ポンプの負荷条件が変化するため、車両の振動音に変化が現れる。エンジンがアイドリング状態にあるときにレール圧の制御モードが短時間で変更されると、エンジン音や車両の走行音が比較的小さいために振動音の変化が搭乗者に認識されて異音として伝わりやすい。ただし、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定される期間が長いほど、高圧ポンプの駆動源であるエンジンの出力が無駄に高くなることにつながってしまう。そのため、排出量制御モード以外の制御モードへの変更が可能になった時点以降、できるだけ早期に、搭乗者に認識されないようにレール圧の制御モードを変更することが望まれる。
【0008】
本発明の発明者らはこれらの問題に鑑み、エンジンがアイドリング状態に入りレール圧の制御モードが排出量制御モードに設定された後、車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベルが比較的高い時に、レール圧の制御モードを排出量制御モード以外の制御モードに変更するように設定することにより上述した問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、レール圧の制御モードの変更による振動音の変化が搭乗者に認識されることなく、制御モードを排出量制御モード以外の制御モードにできるだけ早期に変更されるようにした蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数の燃料噴射弁が接続されたコモンレールを有する蓄圧式燃料噴射装置を制御し車両のエンジンへの燃料噴射を行うための蓄圧式燃料噴射装置の制御装置において、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、エンジンの運転状態に応じて、コモンレール内の圧力の制御モードを、少なくとも、コモンレールに供給する燃料の流量を調節することで圧力を制御する供給量制御モード、又はコモンレールから排出する燃料の流量を調節することで圧力を制御する排出量制御モードに設定可能に構成され、少なくともエンジンがアイドリング状態に入るときには制御モードを排出量制御モードに設定するように構成された圧力制御モード設定手段と、車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベルが所定レベル以上か否かを判別する状態判定手段と、を備え、圧力制御モード設定手段は、エンジンがアイドリング状態に入り制御モードを排出量制御モードに設定した後、状態のレベルが所定レベル以上になったときに制御モードを排出量制御モード以外の制御モードに変更することを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置の制御装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0010】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、圧力制御モード設定手段は、エンジンの始動時にはエンジンの運転状態にかかわらず制御モードを排出量制御モードに設定した後、所定の制御モード切換条件が成立したときにエンジンの運転状態に応じて制御モードを設定する制御を開始し、状態のレベルが所定レベル以上であるときに、制御モードを排出量制御モード以外の制御モードに変更することが好ましい。
【0011】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、圧力制御モード設定手段は、制御モードを一旦排出量制御モード以外の制御モードに変更した後は、蓄圧式燃料噴射装置内の燃料温度が所定の閾値以下とならない限り制御モードを排出量制御モードに設定しないように構成されることが好ましい。
【0012】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、状態判定手段は、エンジン回転数、燃料噴射量、アクセル操作量、車内音響機器の音量、及び車内空調機の操作量のうちの少なくとも一つの情報に基づいて状態のレベルが所定レベル以上か否かを判別することが好ましい。
【0013】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、制御モードは、コモンレールに供給する燃料の流量及びコモンレールから排出する燃料の流量をともに調節することで圧力を制御する供給排出同時制御モードを含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかの制御装置を備えた蓄圧式燃料噴射装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置によれば、エンジンがアイドリング状態に入り、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定された後、車両の搭乗者によって感知される音に関する状態のレベルが所定レベル以上のときに、レール圧の制御モードが排出量制御モード以外の制御モードに変更される。したがって、レール圧の制御モードの変更による振動音の変化が搭乗者に認識されることなくレール圧の制御モードが排出量制御モード以外の制御モードに変更されて、燃料の利用効率の改善が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】蓄圧式燃料噴射装置の全体的構成の一例を示す図である。
【図2】制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】レール圧の制御モードの設定領域を説明するための図である。
【図4】エンジン始動時におけるレール圧の制御モードの設定方法の一例を示すフローチャート図である。
【図5】エンジンの通常運転時におけるレール圧の制御モードの設定方法の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照して、本発明の蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。なお、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0018】
1.蓄圧式燃料噴射装置の全体的構成
図1は、本発明の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射装置50の構成例を示している。この蓄圧式燃料噴射装置50は、車両のディーゼルエンジンの気筒内に燃料を噴射するための装置であり、燃料タンク1と、低圧フィードポンプ2と、流量制御弁8と、高圧ポンプ5と、コモンレール10と、圧力制御弁12と、燃料噴射弁13と、制御装置60等を主たる要素として備えている。
【0019】
低圧フィードポンプ2は、燃料タンク1内の燃料を吸い上げて高圧ポンプ5に供給する。低圧フィードポンプ2は、エンジン40の動力によって駆動されるギアポンプや、バッテリーから供給される電流によって駆動される電磁ポンプ等が用いられる。
【0020】
高圧ポンプ5は、低圧フィードポンプ2によって供給される燃料を加圧してコモンレール10へ圧送する。高圧ポンプ5には、エンジン40の駆動力によって上下動されるプランジャ7が備えられている。このプランジャ7の上下動によって容積が可変する加圧室5aには、燃料吸入弁15を介して燃料が流入するとともに、加圧された燃料が燃料吐出弁16を介してコモンレール10に圧送されるようになっている。
【0021】
低圧フィードポンプ2と高圧ポンプ5とは低圧供給通路18で接続されている。この低圧供給通路18の途中には、高圧ポンプ5の加圧室5aに供給される燃料の流量を比例制御するための流量制御弁8が備えられている。流量制御弁8よりも上流側の低圧供給通路18には第1のリターン通路30aが接続されており、第1のリターン通路30aの他端側は燃料タンク1に連通している。この第1のリターン通路30aにはオーバーフローバルブ14が備えられている。低圧フィードポンプ2によって過剰に供給された燃料は、第1のリターン通路30aを介して燃料タンク1へ戻されるようになっている。
【0022】
高圧ポンプ5と高圧供給通路37を介して接続されたコモンレール10は、高圧ポンプ5によって圧送される高圧の燃料を蓄積するとともに、複数の燃料噴射弁13に対して、均等な圧力で燃料を供給する。コモンレール10に接続されたそれぞれの燃料噴射弁13は、通電制御によって開閉の制御が行われ、コモンレール10から圧送される燃料をエンジン40の気筒内に噴射する。この燃料噴射弁13には、燃料噴射弁13の開閉の制御に伴って排出されるリーク燃料を燃料タンク1に戻すための第3のリターン通路30cが接続されている。第3のリターン通路30cの他端は燃料タンク1に連通している。
【0023】
また、コモンレール10にはレール圧センサ21が設けられている。このレール圧センサ21のセンサ値はレール圧制御に用いられる。また、コモンレール10には、コモンレール10から排出する燃料の流量を比例制御するための圧力制御弁12が備えられた第2のリターン通路30bが接続されている。第2のリターン通路30bの他端は、燃料タンク1に連通している。
【0024】
2.制御装置
図2は、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50に備えられた制御装置60のうち、レール圧制御に関連する部分を機能的なブロックで表した構成例を示している。
この制御装置(ECU:Electronic Control Unit)60は、公知の構成からなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に構成されており、運転状態検出手段61と、レール圧検出手段62と、燃料噴射制御手段63と、目標レール圧演算手段64と、流量制御弁制御手段65と、圧力制御弁制御手段66と、圧力制御モード設定手段67と、状態判定手段68とを備えている。これらの各手段はマイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現される。また、制御装置60には図示しないRAM(Random Access Memory)等の記憶手段が備えられ、読み込んだ各種の情報や演算結果が記憶される。
【0025】
このうち、運転状態検出手段61は、クランク角センサやアクセルセンサ、回転数センサ等から出力される信号に基づいて、エンジン回転数Neやアクセル操作量Acc、車速V等に例示されるエンジン40の運転状態を検出するようになっている。また、レール圧検出手段62は、レール圧センサ21から出力される信号に基づいて、実レール圧Pactを検出するようになっている。
【0026】
燃料噴射制御手段63は、エンジン回転数Neやアクセル操作量Acc等に基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求めるとともに、実レール圧Pact及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいて燃料噴射弁13の通電時間を求めて、燃料噴射弁13のアクチュエータに対する通電の指示を出力するようになっている。また、目標レール圧演算手段64は、エンジン回転数Neやアクセル操作量Acc等に基づいて目標レール圧Ptgtを求めるようになっている。
【0027】
流量制御弁制御手段65は、流量制御弁8のアクチュエータに対する通電の指示を出力し、高圧ポンプ5の加圧室5aへの燃料の供給量を制御するようになっている。この流量制御弁制御手段65は、後述する圧力制御モード設定手段67によってレール圧の制御モードが供給量制御モードに設定されている場合においては、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分に応じて、流量制御弁8の通電量をフィードバック制御するようになっている。
【0028】
一方、流量制御弁制御手段65は、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定されている場合においては、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分を考慮しないフィードフォワード制御によって流量制御弁8への通電指示を行うようになっている。さらに、流量制御弁制御手段65は、レール圧の制御モードが供給排出同時制御モードに設定されている場合においても、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分に応じて、流量制御弁8の通電量をフィードバック制御するようになっている。
【0029】
圧力制御弁制御手段66は、圧力制御弁12のアクチュエータに対する通電の指示を出力し、コモンレール10からの燃料の排出量を制御するようになっている。この圧力制御弁制御手段66は、後述する圧力制御モード設定手段67によってレール圧の制御モードが供給量制御モードに設定されている場合においては、圧力制御弁12を全閉状態にするようになっている。
【0030】
一方、圧力制御弁制御手段66は、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定されている場合においては、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分に応じて、圧力制御弁12の通電量をフィードバック制御するようになっている。さらに、圧力制御弁制御手段66は、レール圧の制御モードが供給排出同時制御モードに設定されている場合においても、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分に応じて、圧力制御弁12の通電量をフィードバック制御するようになっている。
【0031】
圧力制御モード設定手段67は、レール圧の制御モードを、高圧ポンプ5の加圧室5aへの燃料の供給量をフィードバック制御する供給量制御モード、コモンレール10からの燃料の排出量をフィードバック制御する排出量制御モード、高圧ポンプ5の加圧室5aへの燃料の供給量及びコモンレール10からの燃料の排出量を同時にフィードバック制御する供給排出同時制御モードのいずれかに設定するようになっている。
【0032】
図3は、本実施形態の制御装置60において、圧力制御モード設定手段67によって設定される圧力制御モードの領域を表したものである。エンジン40の始動時においては、エンジン40の運転状態にかかわらず圧力制御モードは排出量制御モードに設定されるようになっている(始動時モード)。また、それ以外の期間においては、基本的に、圧力制御モード設定手段67はエンジン回転数Neと目標燃料噴射量Qtgtとに応じて供給量制御モード、排出量制御モード、供給排出同時制御モードのいずれかの圧力制御モードに設定されるようになっている(通常運転モード)。
【0033】
エンジン40の始動時において、始動時モードから通常運転モードへの設定モードの切換は、例えば、蓄圧式燃料噴射装置50内の燃料温度が所定の閾値を超えたとき、あるいは、エンジン始動から所定時間が経過したときのうちのいずれかの切換条件が成立することによって行われる。また、設定モードが一旦通常運転モードに切換えられた後においては、燃料温度が閾値を越える限り設定モードは通常運転モードで維持される一方、燃料温度が閾値以下になっている場合には設定モードは始動時モードに切換えられる。
【0034】
この図3に示すように、始動時モード又は通常運転モードいずれの設定モードにおいても、エンジン40がアイドリング状態にある場合においては、圧力制御モード設定手段67は、基本的にレール圧の制御モードを排出量制御モードに設定するようになっている。ただし、本実施形態の制御装置60では、エンジン40の運転状態に応じてレール圧の制御モードが設定される状況においてエンジン40がアイドリング状態に入りレール圧の制御モードが排出量制御モードに設定された後には、後述する状態判定手段68によって、車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベルが所定レベル以上であると判別されると、レール圧の制御モードが排出量制御モードから供給排出同時制御モードに変更されるようになっている。このとき、排出量制御モードに設定される領域のすべてが供給排出同時制御モードに変更される。
【0035】
すなわち、本実施形態の制御装置60は、エンジン40の運転状態に応じてレール圧の制御モードが設定される状況においてエンジン40がアイドリング状態に入った後、レール圧の制御モードが変更されることによる車両の振動音の変化が搭乗者に感知されにくいときを狙って、レール圧の制御モードを排出量制御モードから供給排出同時制御モードに置き換えるようになっている。したがって、車両の搭乗者に認識されることなくレール圧の制御モードが早期に変更され、排出量制御モードによってレール圧制御が実行された場合での高圧ポンプ5の駆動負荷に対する燃料の利用効率が不利であるという点について改善が図られる。
【0036】
状態判定手段68は、車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベル(以下、単に「感音状態レベル」と言う。)が所定レベル以上であるか否かを判別するようになっている。この状態判定手段68は、レール圧の制御モードが変更されることによる車両の振動音の変化が搭乗者に感知されない程度に、車室内で何らかの音が発生している状態、あるいは、車室内に何らかの音が到達している状態が把握できるようになっていればよい。
【0037】
例えば、エンジン回転数Neが所定値Ne0以上であるときや、目標燃料噴射量Qtgtが所定値Qtgt0以上であるときには、エンジン音が比較的大きい状態と推定されるため、感音状態レベルが所定レベル以上であると判別することができる。あるいは、アクセル操作量Accが正の値になっているとき、すなわち、アクセルが踏まれているときには、エンジン40のアイドリング状態から抜け出ており、車両の走行音が比較的大きい状態と推定されるため、感音状態レベルが所定レベル以上であると判別することができる。
【0038】
このうち、エンジン回転数Neやアクセル操作量Accは運転状態検出手段61によって検出され、目標燃料噴射量Qtgtは燃料噴射制御手段63によって算出されるものであり、状態判定手段68は、これらの情報を取得すればよい。これらのエンジン回転数Neや目標燃料噴射量Qtgt、アクセル操作量Accの違いによるエンジン音や走行音の違いは車両によって異なるものであり、それぞれの閾値は車両ごとに適宜設定される。
【0039】
また、車内の音響機器の音量が所定レベル以上であるときや、車内の空調設備の操作量が所定レベル以上であるときにも、レール圧の制御モードが変更されることによる車両の振動音の変化が搭乗者に感知されにくいと推定されるため、感音状態レベルが所定レベル以上であると判別することができる。音響機器の音量や空調設備の操作量は、それぞれの機器からそれらの情報を読み取り可能に構成することによって、判別に用いることができる。これらの音量や操作量の閾値についても、車両ごとに適宜設定される。
【0040】
感音状態レベルを判定する具体的な手段については、車内で発生し、あるいは、車内に到達する音に関連する情報であればここに例示したもの以外にもあらゆる手段を利用することができ、それらの態様のすべてが本発明に包含される。
【0041】
3.レール圧の制御モードの設定方法のフローチャート
次に、上述した本実施形態の制御装置60によって実行されるレール圧の制御モードの設定方法の具体例を、図4及び図5のフローチャートに基づいて説明する。図4は、エンジン40の始動時に実行されるフローを示し、図5は、エンジン40の通常運転時に実行されるフローを示している。
【0042】
(1)始動時のフローチャート
まず、エンジン40の始動時においては、ステップS1においてエンジン40の始動が検知されると、ステップS2においてエンジン40の運転状態にかかわらずレール圧の制御モードが排出量制御モードに設定される始動時モードが選択され、排出量制御モードでレール圧制御が実行され始める。
【0043】
次いで、ステップS3において、エンジン始動からの経過時間あるいは燃料温度を読み込み、エンジン40の運転状態に応じてレール圧の制御モードが設定される通常運転モードへの切換条件が成立しているか否かが判別される。エンジン始動から所定時間経過していない場合や、燃料温度が所定温度に到達していない場合には、燃料温度を上昇させるために設定モードを始動時モードで維持して排出量制御モードでのレール圧制御を継続し、切換条件が成立するまでステップS3を繰り返す。一方、切換条件が成立している場合には、ステップS4に進み、感音状態レベルが所定レベル以上であるか否かが判別される。
【0044】
感音状態レベルが所定レベル以上であるか否かは、エンジン回転数Ne、目標燃料噴射量Qtgt、アクセル操作量Acc、車内音響機器の音量、車内空調機の操作量等が閾値以上であるか否かによって判別される。感音状態レベルが所定レベル未満と判別される場合には、レール圧の制御モードを変更すると搭乗者に振動音の変化が認識されるおそれがあるために、レール圧の制御モードを排出量制御モードに維持したままステップS3に戻る。
【0045】
一方、感音状態レベルが所定レベル以上と判別される場合には、レール圧の制御モードの変更による振動音の変化が搭乗者に認識されるおそれがないことから、ステップS5に進んで設定モードを通常運転モードに切換えるとともに、ステップS6でレール圧の制御モードを排出量制御モードから供給排出同時制御モードあるいは供給量制御モードに変更する。このとき、本実施形態の制御装置60では、通常運転モードにおいて排出量制御モードに設定される領域全体が供給排出同時制御モードに置き換えられる。
【0046】
このように、エンジン40の始動直後において、エンジン40の運転状態にかかわらずレール圧の制御モードが排出量制御モードに設定される始動時モードから、エンジン40の運転状態に応じてレール圧の制御モードを設定する通常運転モードに切換える際に、搭乗者に振動音の変化を認識されることなく、排出量制御モード以外の制御モードへの変更が行われる。その結果、高圧ポンプ5の駆動負荷に対する燃料の利用効率が改善される。
【0047】
(2)通常運転時のフローチャート
エンジン40の始動後に、設定モードが一旦通常運転モードに切換えられた後においては、まず、ステップS11において、エンジン40がアイドリング状態にあるか否かが判別される。エンジン40がアイドリング状態でなければそのまま本ルーチンを終了し、スタートに戻る。エンジン40がアイドリング状態にある場合にはステップS12に進み、現在のレール圧の制御モードの設定を読み込み、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定されているか否かが判別される。
【0048】
レール圧の制御モードが排出量制御モード以外の制御モードに設定されている場合には、高圧ポンプ5の駆動負荷に対する燃料の利用効率が比較的良好な状態であるため、そのまま本ルーチンを終了してスタートに戻る。一方、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定されている場合にはステップS13に進む。
【0049】
ステップS13においては、エンジン40の運転状態に応じてレール圧の制御モードを設定する通常運転モードで設定モードが維持されているか否かが判別される。設定モードが一旦通常運転モードに切換えられた後であるため、ここではエンジン始動からの経過時間は条件に含まない。設定モードが通常運転モードで維持されている場合にはそのままステップS15に進む一方、設定モードが始動時モードに切換えられている場合にはステップS14に進む。
【0050】
設定モードが始動時モードに切換えられている場合に進んだステップS14においては、燃料温度を読み込み、通常運転モードへの設定モードの切換条件が成立しているか否かが判別される。切換条件が成立していない場合には、燃料温度を上昇させるために排出量制御モードでのレール圧制御を継続して、スタートに戻る。一方、切換条件が成立している場合には、ステップS15に進む。
【0051】
ステップS13において設定モードが通常運転モードで維持されていると判別されるか、あるいは、ステップS14において切換条件が成立していると判別されて進んだステップS15においては、ステップS4と同様に感音状態レベルが所定レベル以上であるか否かが判別される。感音状態レベルが所定レベル未満と判別される場合には、レール圧の制御モードを変更すると搭乗者に振動音の変化が認識されるおそれがあるために、レール圧の制御モードを排出量制御モードで維持したままスタートに戻る。
【0052】
一方、感音状態レベルが所定レベル以上と判別される場合には、レール圧の制御モードの変更による振動音の変化が搭乗者に認識されるおそれがないことから、ステップS16に進み、設定モードを通常運転モードに維持あるいは切換えた後、ステップS17でレール圧の制御モードを排出量制御モードから供給排出同時制御モードあるいは供給量制御モードに変更する。このとき、本実施形態の制御装置60では、通常運転モードにおいて排出量制御モードに設定される領域全体が供給排出同時制御モードに置き換えられる。
【0053】
このように、エンジン40の始動後、設定モードが一旦通常運転モードに切換えられた後において、レール圧の制御モードが排出量制御モードに設定された状態でアイドリング状態に入ったときに、搭乗者に振動音の変化を認識されることなく、排出量制御モード以外の制御モードへの変更が行われる。その結果、高圧ポンプ5の駆動負荷に対する燃料の利用効率が改善される。
【0054】
なお、排出量制御モードからそれ以外の制御モードへの置き換えは、エンジン40がアイドリング状態に入るごとに実行されるようになっていてもよく、あるいは、エンジン40の始動後に一度だけ実行されるようにするとともに、その後はレール圧の制御モードが供給量制御モード及び供給排出同時制御モードのいずれかに設定されるようにすることもできる。
【0055】
また、本実施形態の制御装置60は、レール圧の制御モードが、供給量制御モード、排出量制御モード、供給排出同時制御モードのいずれかの制御モードに設定されるものであるが、供給量制御モード及び排出量制御モードのみ、すなわち、図3中の供給排出同時制御モードの設定領域についても供給量制御モードに設定される場合であっても、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1:燃料タンク、2:低圧フィードポンプ、5:高圧ポンプ、5a:加圧室、7:プランジャ、8:流量制御弁、10:コモンレール、12:圧力制御弁、13:燃料噴射弁、14:オーバーフローバルブ、15:燃料吸入弁、16:燃料吐出弁、18:低圧供給通路、21:レール圧センサ、30a・30b・30c:リターン通路、37:高圧供給通路、40:エンジン、50:蓄圧式燃料噴射装置、60:制御装置、61:運転状態検出手段、62:レール圧検出手段、63:燃料噴射制御手段、64:目標レール圧演算手段、65:流量制御弁制御手段、66:圧力制御弁制御手段、67:圧力制御モード設定手段、68:状態判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料噴射弁が接続されたコモンレールを有する蓄圧式燃料噴射装置を制御し車両のエンジンへの燃料噴射を行うための蓄圧式燃料噴射装置の制御装置において、
前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記エンジンの運転状態に応じて、前記コモンレール内の圧力の制御モードを、少なくとも、前記コモンレールに供給する燃料の流量を調節することで前記圧力を制御する供給量制御モード、又は前記コモンレールから排出する燃料の流量を調節することで前記圧力を制御する排出量制御モードに設定可能に構成され、少なくとも前記エンジンがアイドリング状態に入るときには前記制御モードを前記排出量制御モードに設定するように構成された圧力制御モード設定手段と、
前記車両の搭乗者によって感知される音に関連する状態のレベルが所定レベル以上か否かを判別する状態判定手段と、を備え、
前記圧力制御モード設定手段は、前記エンジンがアイドリング状態に入り前記制御モードを前記排出量制御モードに設定した後、前記状態のレベルが前記所定レベル以上になったときに前記制御モードを前記排出量制御モード以外の制御モードに変更することを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項2】
前記圧力制御モード設定手段は、前記エンジンの始動時には前記エンジンの運転状態にかかわらず前記制御モードを前記排出量制御モードに設定した後、所定の制御モード切換条件が成立したときに前記エンジンの運転状態に応じて前記制御モードを設定する制御を開始し、前記状態のレベルが前記所定レベル以上であるときに、前記制御モードを前記排出量制御モード以外の制御モードに変更することを特徴とする請求項1に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項3】
前記圧力制御モード設定手段は、前記制御モードを一旦前記排出量制御モード以外の制御モードに変更した後は、前記蓄圧式燃料噴射装置内の燃料温度が所定の閾値以下とならない限り前記制御モードを前記排出量制御モードに設定しないように構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項4】
前記状態判定手段は、エンジン回転数、燃料噴射量、アクセル操作量、車内音響機器の音量、及び車内空調機の操作量のうちの少なくとも一つの情報に基づいて前記状態のレベルが前記所定レベル以上か否かを判別することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御モードは、前記コモンレールに供給する燃料の流量及び前記コモンレールから排出する燃料の流量をともに調節することで前記圧力を制御する供給排出同時制御モードを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載された制御装置を備えた蓄圧式燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−247220(P2011−247220A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123377(P2010−123377)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】