説明

薄膜転写装置および薄膜転写方法

【課題】第2プレートで薄膜担持体の裏面を支持しつつ基板に押し付けて薄膜担持体の表面に形成した薄膜を基板に転写した際に、第2プレートが薄膜担持体に密着するのを防止しながら基板に薄膜を良好に転写することができる薄膜転写装置および薄膜転写方法を提供する。
【解決手段】第2プレート19のうちシートフィルムFの裏面を支持する上面37は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さをRz、粗さ曲線要素の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm、かつ、
RSm≦25μm
の関係を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートフィルムなどの薄膜担持体に担持される薄膜を基板に転写する薄膜転写装置および薄膜転写方法に関するものである。なお、当該基板としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハや液晶表示用ガラス基板などの基板の表面に薄膜を形成する技術として、近年、例えばシートフィルムなどの薄膜担持体上に形成した薄膜を基板表面に加圧転写するものが提案されている。例えば、特許文献1に記載の技術においては、下面が平面となった第1プレートに基板を押し当てるとともに、薄膜材料を含む塗布液が塗布された薄膜担持体を下方から第2プレートにより押し上げて基板に密着させることにより、基板表面に薄膜材料を転写させている。なお、こうした基板への薄膜の密着後に第2プレートが下方に移動して基板、薄膜および薄膜担持体から離れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3839772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような薄膜転写装置では、第2プレートのうち薄膜担持体を支持する表面領域を高い平坦性に仕上げている。より詳しくは、第2プレートは、第1プレートの下面と対向する上面に凹部が形成された台座と、当該凹部に嵌め込まれた定盤とを有しており、当該定盤の上面が上記表面領域として機能するが、当該定盤上面を鏡面仕上げすることで高い平坦性を確保している。そして、第2プレートを上昇させることで、鏡面状の定盤上面(表面領域)が薄膜担持体を介して薄膜を基板に押し付けている。このように定盤上面を鏡面仕上げすることで定盤上面が薄膜担持体の下面と接触する面積を大きくし、薄膜に印加される荷重を均一化して優れた転写性能を確保している。
【0005】
しかしながら、上記のようにして薄膜担持体を基板に密着させた際に、第2プレートを構成する定盤が薄膜担持体の下面と密着してしまい、薄膜転写後に第2プレートを下方に移動させると、台座のみが下方に移動し、定盤が薄膜担持体に密着したまま残存する場合があった。特に、上記薄膜転写処理を減圧された処理チャンバ内で行う場合、その発生頻度が高くなる傾向にある。このように薄膜担持体に対して定盤が密着してしまうと、薄膜転写処理を受けた基板を次の処理工程にそのまま搬送することができなくなる。また、上記のように薄膜担持体への定盤の密着が発生するごとに処理を中断し、定盤を台座に再セットする必要が生じてしまい、薄膜転写装置の稼動効率を低下させる主要因のひとつとなっている。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、第2プレートで薄膜担持体の裏面を支持しつつ基板に押し付けて薄膜担持体の表面に形成した薄膜を基板に転写した際に、第2プレートが薄膜担持体に密着するのを防止しながら基板に薄膜を良好に転写することができる薄膜転写装置および薄膜転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる薄膜転写装置は、上記目的を達成するため、一方面で基板を保持する第1プレートと、第1プレートの一方面に対向する表面で薄膜を担持する薄膜担持体に対して第1プレートの反対側から薄膜担持体の裏面を支持可能に設けられた第2プレートと、第2プレートを第1プレートに向けて相対的に移動させることで基板と薄膜を互いに当接させた後で、第2プレートを第1プレートから相対的に離間させる駆動手段とを備え、第2プレートのうち薄膜担持体の裏面を支持する表面領域は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さをRz、粗さ曲線要素の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm、かつ、
RSm≦25μm
の関係を満たすことを特徴としている。
【0008】
また、この発明にかかる薄膜転写方法は、上記目的を達成するため、第1プレートの一方面で基板を保持するとともに、第1プレートの一方面に対向する表面で薄膜を担持する薄膜担持体に対して第1プレートの反対側から第2プレートの表面領域により薄膜担持体の裏面を支持し、第2プレートを第1プレートに向けて相対的に移動させることで基板と薄膜を互いに当接させる第1工程と、第1工程後に、第2プレートを第1プレートから相対的に離間させる第2工程とを備え、第2プレートの表面領域は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さをRz、粗さ曲線要素の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm、かつ、
RSm≦25μm
の関係を満たすことを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明(薄膜転写装置および薄膜転写方法)では、最大高さRzが2μmを下回ると、第2プレートの表面領域が薄膜担持体を支持した際に、当該表面領域と薄膜担持体との間に存在する空間は非常に狭く、しかも薄膜転写時に荷重が上記表面領域と薄膜担持体との間に付加されるため、上記表面領域と薄膜担持体とが密着してしまう。逆に、最大高さRzが高くなると、表面領域と薄膜担持体との間に存在する空間が広がり、両者の密着は防止されるものの、表面領域と薄膜担持体との接触面積が小さくなり、荷重の均一性が損なわれて転写不良が発生してしまう。この転写不良に関しては、後述する実施例から最大高さRzを11μm以下に設定することが有効であると考えられるが、単に最大高さRzが11μm以下となるように構成すれば常に解消されるというわけではなく、粗さ曲線要素の平均長さRSmを25μm以下に設定することが重要となる。つまり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが25μmを超えると、表面領域の表面性状、特にうねりの周期性が大きくなり、表面領域と薄膜担持体との接触頻度が少なくなる。その結果、両者の接触面積が小さくなり、荷重の均一性が損なわれて転写不良が発生してしまう。
【0010】
このように第2プレートが薄膜担持体に密着するのを防止しながら基板に薄膜を良好に転写するためには、RzおよびRSmを上記範囲に設定する必要があるが、Rzを3μm以上でかつ5μm以下に設定したり、RSmを15μm以下に設定するのがより好ましい。
【0011】
また、第2プレートをプレート支持部に対して着脱自在に構成すると、第2プレートの汚染や破損などが生じた場合には、第2プレートを取り外して清掃・修理・交換などを行うことができ、メンテナンス性を高めることができる。
【0012】
また、処理チャンバの処理空間内に、第1プレート、基板、薄膜担持体および第2プレートを配置して基板と薄膜とを互いに当接させるように構成してもよく、圧力調整手段により上記当接時に処理空間を減圧することで基板への薄膜の密着性を高めるとともに、転写性を高めることができる。その一方で上記減圧処理により上記表面領域と薄膜担持体との空間内も減圧されてしまう。そこで、基板と薄膜を互いに当接させた後に圧力調整手段により処理空間を大気圧に戻すように構成すれば、第2プレートの表面領域と薄膜担持体との空間内に空気が入り込んで薄膜担持体への第2プレートの密着が効果的に防止される。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、第2プレートのうち薄膜担持体の裏面を支持する表面領域が凹凸形状を有し、その最大高さRzを2μm以上としているため、第2プレートの表面領域が薄膜担持体を支持した際に、当該表面領域と薄膜担持体との間に存在する空間が確保され、両者の密着を防止することができる。また、その最大高さRzを11μm以下とし、さらに粗さ曲線要素の平均長さRSmを25μm以下に設定しているので、表面領域と薄膜担持体の接触面積を確保して荷重を均一に印加することができ、優れた転写性能が得られる。このように第2プレートが薄膜担持体に密着するのを防止しながら基板に薄膜を良好に転写することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明にかかる薄膜転写装置の一実施形態を示す図である。
【図2】実施例および比較例を示す図である。
【図3】実施例および比較例の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1はこの発明にかかる薄膜転写装置の一実施形態を示す図である。この薄膜転写装置は、半導体ウエハなどの基板の表面に例えばSOG(Spin-On-Glass)などの薄膜を形成するための装置であり、図1はその内部構造を横から見た図である。この装置では、処理チャンバ1の内部に形成される処理空間内に薄膜転写装置の主要部が設置されており、基板表面への薄膜形成は、減圧された処理空間内で行われる。説明の便宜上、図1に示すようにX、Y、Zの各方向を定義する。
【0016】
この薄膜転写装置は、処理チャンバ1を構成する上板3に固定された上側ブロック5と、底板7に固定された下側ブロック9とを備えており、薄膜形成対象である基板Wと、薄膜材料を塗布された薄膜担持体としてのシートフィルムFとを上下ブロック5、9で挟み込むことにより、シートフィルムF上の薄膜を基板Wに転写する。
【0017】
処理空間SP内は、排気管11を介して処理チャンバ1と接続された真空ポンプ13によって真空排気可能になっている。この真空ポンプ13は装置全体を制御する制御ユニット15に制御されており、制御ユニット15からの動作指令に応じて作動して処理空間SP内を排気減圧することができるようになっている。また、制御ユニット15は真空ポンプ13による処理空間SPからの排気量を調整し、処理空間SP内の圧力(真空度)を制御可能となっている。これにより、薄膜の乾燥状態をコントロールしながら該薄膜を基板Wに転写することができる。さらに、制御ユニット15は転写処理の完了後に処理空間SPを大気圧に戻す。このように処理空間SP内の圧力は、薄膜の種類等に応じて大気圧から数Paまでの範囲内の所定の圧力に設定されており、本実施形態では制御ユニット15が本発明の「圧力調整手段」として機能している。
【0018】
処理空間SPには、第1、第2プレート17、19が上下に対向して収容されている。これらのうち第1プレート17は処理チャンバ1を構成する上板3の下面に固定された上ベース部材21によって水平に固定支持されており、第2プレート19の上方に位置している。第1プレート17は基板Wが装着される試料台を構成し、第2プレート19と対向する下面が基板Wの装着面を形成している。この実施形態では、第1プレート17の下面は円形に形成されている。ここで、薄膜形成対象となる基板Wとしては、例えば円板状に形成された半導体ウエハと、この半導体ウエハ上に電極配線をパターニングした構造を有するものがあり、基板Wのパターン形成面側に絶縁膜などの薄膜が転写される。
【0019】
第1プレート17は、内部に加熱手段として加熱ヒータ23を具備している。この加熱ヒータ23はヒータコントローラ25と電気的に接続されており、制御ユニット15からの基板温度情報に基づきヒータコントローラ25が加熱ヒータ23を加熱制御する。また、処理チャンバ1の上面を構成する上板3には、処理対象となる基板Wを保持したり該保持を解除することができるとともに、基板Wを上下方向に昇降させることができる基板保持機構27が設けられている。
【0020】
第2プレート19は、移動方向Z(鉛直方向)に沿って昇降自在に設けられた昇降ユニット29により昇降駆動されるように設けられており、第1プレート17の下方に軸線を一致させて対向して配置されている。より詳しくは、次のように構成されている。昇降ユニット29は底板7に取り付けられた下ベース部材31を有し、さらに下ベース部材31上にプレート支持部33が固定支持されている。そして、第1プレート17の下面に対向する表面側でプレート支持部33に対して第2プレート19が着脱自在となっている。このようにプレート支持部33に装着された第2プレート19のうちシートフィルムFの裏面に向いた上面37が本発明の「表面領域」としてシートフィルムFの下面を支持可能となっている。
【0021】
本実施形態では、第2プレート19として石英板を用いており、第2プレート19が上昇すると、第2プレート19の上面37がシートフィルムFの裏面を支持する。しかも、第2プレート19の上面37は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さ(表面粗さ)をRz、粗さ曲線要素(表面うねり)の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm … 式(1)
RSm≦25μm … 式(2)
の関係を満たしている。また、第2プレート19の上面37は円形に形成されている。また第2プレート19の上面周縁部はテーパー加工されてテーパー面が設けられている。シートフィルムFは基板Wより大きい円形に形成され、その表面(薄膜形成面)には薄膜が形成されている。また、第2プレート19の上面37の平面サイズはシートフィルムFの平面サイズよりも小さく形成されている。
【0022】
このシートフィルムFは上クランプ39と下クランプ41によって移動方向Zに挟み込まれることによって保持されており、第2プレート19はシートフィルムFの裏面(シートフィルムの両主面のうち薄膜形成面に対して反対の非薄膜形成面)側に配置されている。また、第2プレート19には加熱手段として加熱ヒータ43が内蔵されている。この加熱ヒータ43はヒータコントローラ45と電気的に接続されており、制御ユニット15からの基板温度情報に基づきヒータコントローラ45が加熱ヒータ43を加熱制御する。
【0023】
なお、シートフィルムFとしては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)もしくはETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)などの可撓性を有し、また可塑性を有する有機材料からなるシート状のフィルムを用いることができる。
【0024】
昇降ユニット29は、下ベース部材31の下面中央部に一体に垂設された支持軸47を有している。支持軸47は移動方向Zに沿って昇降自在に軸支され、加重モータ49によって昇降されるように構成されている。すなわち、支持軸47の下端には加重モータ49が接続されており、制御ユニット15からの動作指令に応じて加重モータ49が作動することで、昇降ユニット29を移動方向Zに沿って昇降させることができる。昇降ユニット29の昇降により、下ベース部材31上に支持された第2プレート19が移動方向Zに沿って昇降する。このように本実施形態では、加重モータ49が本発明の「駆動手段」に相当している。
【0025】
上記のように構成された薄膜転写装置では、第1プレート17側に基板Wが搬入されると、第1プレート17に基板Wが装着され、薄膜転写のための位置(処理位置)に位置決めされる。一方、第2プレート19側では、シートフィルムFが処理空間SP内に搬入される。このシートフィルムFの表面(薄膜形成面)には予め薄膜が形成されており、薄膜形成面を上方に向けてシートフィルムFが搬入され、上クランプ39と下クランプ41によって挟み込まれて保持される。
【0026】
こうして、基板WおよびシートフィルムFの搬入が完了すると、制御ユニット15は装置各部を制御し、以下に示すように薄膜を基板Wに転写する転写工程を実行する。まず、真空ポンプ13による処理空間SPの排気減圧を開始する。また、ヒータコントローラ25によって加熱ヒータ23に通電して第1プレート17を加熱して基板Wを所望の温度に加熱するとともに、ヒータコントローラ45によって加熱ヒータ43に通電して第2プレート19を加熱してシートフィルムFを所望の温度に加熱する。
【0027】
そして、処理空間SPが所望の圧力まで減圧されると、制御ユニット15より加重モータ49に信号が送られ、昇降ユニット29(第2プレート19)の上昇駆動を開始する。第2プレート19が上昇すると、シートフィルムFの裏面(非薄膜形成面)と第2プレート19の上面37とが接触して第2プレート19にシートフィルムFが装着される。このとき、第2プレート19の上面37の平面サイズはシートフィルムFの平面サイズよりも小さく形成されているため、第2プレート19上面37の全面がシートフィルムFにより覆われる。そして、第2プレート19の上面37がシートフィルムFに接触した状態で第2プレート19がさらに上昇すると、シートフィルムFが緊張し、該シートフィルムFに張力が発生する。
【0028】
第2プレート19がさらに上昇すると、シートフィルムF上の薄膜が基板Wに当接する。これによりシートフィルムF上の薄膜と基板Wとが密着し、基板Wへの薄膜の転写が開始される。さらに、処理空間SPを排気減圧したまま、基板WとシートフィルムFとが所定の加重で一定時間互いに押し付けられる。そして、一連の加重操作が終了して転写処理が完了すると、ヒータコントローラ25、45により加熱ヒータ23、43の作動を停止させて第1、第2プレート17,19の加熱を停止する。続いて、加重の状態が零となるように制御ユニット15から加重モータ49に信号を送り、昇降ユニット29を下降させる。こうして、第2プレート19が転写前の初期位置に戻った後、真空ポンプ13を停止させる。なお、上記のようにして薄膜の密着が完了すると、基板Wは薄膜を挟んでシートフィルムFと一体となっている。そして、処理空間SP内が大気圧に戻された後、基板WをシートフィルムFと一体化状態のまま処理チャンバ1から取り出し、シートフィルムFを剥離する剥離装置(図示せず)に搬送する。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、第2プレート19のうちシートフィルムFの裏面を支持する上面37が上記(1)、(2)式を満足する凹凸形状に仕上げられている。このため、第2プレート19とシートフィルムFとが互いに密着するのを防止することができる。また、第2プレート19の上面37とシートフィルムFの接触面積を十分に確保して荷重を均一に印加することができ、優れた転写性が得られる。このように第2プレート19がシートフィルムFに密着するのを防止しながら基板Wに薄膜を良好に転写することが可能となっている。
【0030】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、第2プレート19を石英により構成しているが、第2プレート19の材質はこれに限定されるものではなく、例えば後述する実施例に示すようにセラミックスにより構成された第2プレートを用いた場合であっても、シートフィルムFの裏面を支持する表面領域が(1)、(2)式を満たす凹凸形状に仕上げることで上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0031】
また、上記実施形態では、第2プレート19を第1プレート17側に移動させて薄膜転写を行う装置に対して本発明を適用しているが、第2プレート19を第1プレート17に対して相対的に移動させて薄膜転写を行う薄膜転写装置および方法全般に対して本発明を適用することができる。
【0032】
また、最大高さRzについては3μm以上でかつ5μm以下が好ましく、粗さ曲線要素の平均長さRSmについては15μm以下が好ましい。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
本願発明者は、第2プレート19の上面37、つまりシートフィルムFの裏面を支持する表面領域の凹凸形状がシートフィルムFへの第2プレート19の密着および薄膜の転写性に及ぼす影響を検証するため、図2中の「材質」、「Rz」、「RSm」の欄で特定される第2プレート19を準備し、以下の条件で薄膜転写を行った。なお、同図中の「セラミックス」としては、窒化アルミニウム(AlN)を用い、「モデルパターン」とは、粗さ曲線要素の平均長さRSmが20〜300μmになる様に表面凹凸加工を施したシリコン(Si)基板にフォトリソ工程とドライエッチングを用いてアルミニウム(Al)の凹凸形状を有するものである。
【0035】
<転写条件>
・基板W:ベアシリコン基板
・薄膜材料:住友ベークライト社製の半導体ウエハーバッファーコート用樹脂(型番CRC8300)
・シートフィルムF:ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)
・転写温度:80℃
・荷重圧力:5kPa
・処理空間SPの圧力:10Pa
・転写時間:60秒
そして、上記転写条件にて実施例1〜15および比較例1〜10の第2プレート19を第1プレート17に向けて移動させることで基板WとシートフィルムF上の薄膜を互いに当接させた後で、第2プレート19を第1プレート17から離間駆動させた際における、第2プレート19のシートフィルムFへの密着の有無を目視観察した。その観察結果を図2中の「密着」の欄にまとめるとともに、RzおよびRSmに対応付けて図3にプロットした。また、薄膜の密着が完了すると、薄膜を挟んでシートフィルムFと一体となった基板Wをそのまま処理チャンバ1から取り出し、剥離装置(図示せず)によりシートフィルムFを剥離し、転写が良好に行われているか否かを判定した。それらの判定結果を図2中の「転写不良」の欄にまとめるとともに、RzおよびRSmに対応付けて図3にプロットした。
【0036】
図3は実施例および比較例の検証結果を示すグラフであり、同図中の「●」印は第2プレート19がシートフィルムFに密着することなく基板Wに薄膜を良好に転写することができたことを示し、「◇」印は基板Wに薄膜を良好に転写することができたものの第2プレート19がシートフィルムFに密着してしまったことを示し、「×」印は第2プレート19がシートフィルムFに密着してしまい、しかも転写不良が発生してしまったことを示している。
【0037】
これらの検証結果から明らかなように、第2プレート19がシートフィルムFに密着するのを防止するためには、第2プレート19の上面(表面領域)37が凹凸形状を有し、しかも、その最大高さRzが2μm以上となるように設定する必要がある。そして、今回の検証結果では最大高さRzが11μmを超える凹凸形状を第2プレート19に形成した場合について確認されていないが、少なくとも最大高さRzを2μm以上でかつ11μm以下に設定することで第2プレート19のシートフィルムFへの密着を防止することができることは上記検証結果から明らかである。また、最大高さRzが大きくなると粗さ曲線要素の平均長さRSmも製作上大きくなる可能性が高くなる。そのため、最大高さRzとしては製作上で上限を11μmに設定することが好ましい。
【0038】
また、上記検証結果から粗さ曲線要素の平均長さRSmが転写性能に影響することも明らかである。つまり、実施例1〜15および比較例1〜6の結果から明らかなように平均長さRSmが25μm以下の範囲では転写不良の発生は見られず、良好な転写性が得られる。これに対し、比較例8〜10のように粗さ曲線要素の平均長さRSmが25μmを超えると、転写不良が発生している。これは、粗さ曲線要素の平均長さRSmが大きくなると、第2プレート19の上面37の表面性状、特にうねりの周期性が大きくなり、上面37とシートフィルムFとの接触頻度が少なく、両者の接触面積が小さくなり、荷重の均一性が損なわれて転写不良が発生してしまうという考察と合致する結果である。
【0039】
また、上記転写性の判断基準は転写不良箇所が1箇所でも発生しているか否かであるが、さらに密着が発生しなかった実施例1〜15について基板W上の転写された薄膜の表面状態をさらに観察すると、実施例1〜5で行われた結果がより良好であった。したがって、Rzを3μm以上でかつ5μm以下に設定したり、RSmを15μm以下に設定するのがより好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明は、半導体ウエハに限定されず、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板に薄膜担持体に担持された薄膜を転写する薄膜転写装置および方法全般に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…処理チャンバ
15…制御ユニット(圧力調整手段)
17…第1プレート
19…第2プレート
33…プレート支持部
37…(第2プレートの)上面
49…加重モータ(駆動手段)
F…シートフィルム(薄膜担持体)
SP…処理空間
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面で基板を保持する第1プレートと、
前記第1プレートの一方面に対向する表面で薄膜を担持する薄膜担持体に対して前記第1プレートの反対側から前記薄膜担持体の裏面を支持可能に設けられた第2プレートと、
前記第2プレートを前記第1プレートに向けて相対的に移動させることで前記基板と前記薄膜を互いに当接させた後で、前記第2プレートを前記第1プレートから相対的に離間させる駆動手段とを備え、
前記第2プレートのうち前記薄膜担持体の裏面を支持する表面領域は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さをRz、粗さ曲線要素の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm、かつ、
RSm≦25μm
の関係を満たすことを特徴とする薄膜転写装置。
【請求項2】
前記Rzは、3μm以上で、かつ5μm以下である請求項1に記載の薄膜転写装置。
【請求項3】
前記RSmは15μm以下である請求項1または2に記載の薄膜転写装置。
【請求項4】
前記第2プレートはプレート支持部に対して着脱自在となっており、前記表面領域を前記薄膜担持体の裏面に向けて前記プレート支持部に装着された状態で前記プレート支持部と一体的に前記第1プレートに対して相対的に移動可能となっている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の薄膜転写装置。
【請求項5】
前記第1プレート、前記基板、前記薄膜担持体および前記第2プレートを取り囲んで処理空間を形成する処理チャンバと、
前記基板と前記薄膜を互いに当接させるときに前記処理空間を減圧し、前記基板と前記薄膜を互いに当接させた後に前記処理空間を大気圧に戻す圧力調整手段と
をさらに備える請求項1ないし4のいずれか一項に記載の薄膜転写装置。
【請求項6】
第1プレートの一方面で基板を保持するとともに、前記第1プレートの一方面に対向する表面で薄膜を担持する薄膜担持体に対して前記第1プレートの反対側から第2プレートの表面領域により前記薄膜担持体の裏面を支持し、前記第2プレートを前記第1プレートに向けて相対的に移動させることで前記基板と前記薄膜を互いに当接させる第1工程と、
前記第1工程後に、前記第2プレートを前記第1プレートから相対的に離間させる第2工程とを備え、
前記第2プレートの表面領域は凹凸形状を有し、JIS B 0601−2001で定義される最大高さをRz、粗さ曲線要素の平均長さをRSmとしたとき、
2μm≦Rz≦11μm、かつ、
RSm≦25μm
の関係を満たすことを特徴とする薄膜転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−100766(P2011−100766A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252873(P2009−252873)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】