説明

藻場礁

【課題】藻場礁における海藻類の繁茂を促進するとともに、沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制する。
【解決手段】藻場礁は、海中に設置され、磯焼け現象を抑制するとともに、海藻類を繁茂させるためのものであって、収容空間Sを囲むように設けられ、その内外で海水が流通可能に構成された枠体2と、収容空間S内に詰め込まれるとともに、海水が流通可能な隙間を有するように配置される複数の石材4と、石材4間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように収容空間S内に石材4に対して水平方向に隣接して収容され、フミン質を放出可能なフミン質供給体6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磯焼け現象を抑制するとともに、海藻を繁茂させるための藻場礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沿岸海域には有用海藻類が繁茂する藻場が存在し、この藻場は海洋生物にとって餌場や生育場、産卵場等として重要な役割を担う場所となっている。このような藻場において、近年、今まで岩盤や岩で繁茂していた有用海藻類が育たずに死滅し、岩肌が露出するとともにその岩肌が石灰藻で覆われてしまういわゆる磯焼けと呼ばれる現象が見られている。このような磯焼けは、海藻を採取する漁師に被害を与えるとともに、海藻を住みかとしている魚介類の生態系にも悪影響を及ぼす。下記特許文献1には、このような磯焼けの問題を解消するための技術の一例が示されている。
【0003】
下記特許文献1に示されている技術は、磯焼けの抑制に効果のある腐植酸等のフミン質を供給する供給体を岩石が詰められた蛇籠とともに磯焼けを生じた海域や、その海域の上流側の水域に設置するものである。具体的には、前記供給体を麻袋に詰めたものを蛇籠の岩石上に設置するとともに、それらを前記海域又は水域に沈めて設置している。これにより、前記供給体から溶出したフミン質が麻袋を透過して拡散し、磯焼けを生じた海域に供給されるようになっている。フミン質は、有用海藻類の栄養となってその海藻類の繁茂を促進するとともに、前記石灰藻の増殖を抑える効果を有している。すなわち、フミン質が供給されることにより、前記石灰藻の増殖が抑制されて岩肌が石灰藻で覆われるのが防止される。そして、その岩肌に着床した胞子から海藻類の成育が可能となり、その海藻類がさらにフミン質の栄養を得て繁茂し、その結果、前記磯焼けが抑制される。
【特許文献1】特開2003−92号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された技術によれば、前記供給体が設けられた蛇籠の岩石やその蛇籠の近傍では、フミン質を供給して海藻類の繁茂を促進するとともに磯焼けを抑制することが可能かもしれないが、フミン質の拡散が不十分となる虞があり、沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制することが困難となる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、藻場礁における海藻類の繁茂を促進するとともに、沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明による藻場礁は、海中に設置され、磯焼け現象を抑制するとともに、海藻類を繁茂させるための藻場礁であって、所定の収容空間を囲むように設けられ、その内外で海水が流通可能に構成された枠体と、前記収容空間内に詰め込まれるとともに、海水が流通可能な隙間を有するように配置される複数の石材と、前記石材間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように前記収容空間内に前記石材に対して水平方向に隣接して収容され、フミン質を放出可能なフミン質供給体とを備えている。
【0007】
この藻場礁では、収容空間を囲む枠体がその内外で海水が流通可能に構成されているとともに、枠体内の収容空間に複数の石材が海水を流通可能な隙間を有するように配置されるので、潮流や海流が外部から枠体を透過して収容空間内に流れ込み、その流れが石材間の隙間を通って渦流が発生する。そして、この藻場礁では、フミン質供給体が石材間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように収容空間内に石材に対して水平方向に隣接して収容されているので、前記渦流がフミン質供給体に当たり、そのフミン質供給体から放出されたフミン質が渦流に乗って広範囲に拡散する。これに対して、従来のように供給体を石材上に配置する場合には、略水平方向に流れる潮流や海流が石材間の隙間を通ることによって発生する渦流が供給体に当たりにくく、フミン質の拡散性が悪くなる。本発明による藻場礁では、上記のように石材の水平方向に隣接してフミン質供給体が配置されることに起因して前記渦流が良好にフミン質供給体に当たり、フミン質の拡散性が向上するため、従来の供給体を石材上に配置する構成に比べて、より広範囲に亘る磯焼けを抑制することができる。また、フミン質は、藻場礁に着床する海藻類の栄養となるため、藻場礁における海藻類の繁茂を促進することができる。従って、この藻場礁では、藻場礁における海藻類の繁茂を促進するとともに、藻場礁の周辺の沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制することができる。
【0008】
上記藻場礁において、前記枠体は、前記収容空間内で前記フミン質供給体が上方から着脱可能に挿入可能な挿入空間を囲む部分を有することが好ましい。
【0009】
このように構成すれば、枠体内に石材とフミン質供給体がランダムに収容される構成に比べて、フミン質供給体を石材に邪魔されずに着脱し易くなるので、フミン質供給体から放出されるフミン質が減少してなくなった時にそのフミン質供給体の交換作業を容易に行うことができる。
【0010】
この場合において、前記挿入空間の上部を覆うように前記枠体に対して着脱可能に取り付けられる蓋部を備えることが好ましい。
【0011】
このように構成すれば、挿入空間内に挿入されたフミン質供給体を蓋部で押さえることができ、潮流や海流によってフミン質供給体が流されるのを確実に防ぐことができる。そして、この構成では、蓋部が枠体に対して着脱可能に取り付けられるので、フミン質供給体の交換作業時には、蓋部を枠体から取り外してフミン質供給体を容易に交換することができる。
【0012】
上記枠体が挿入空間を囲む部分を有する構成において、前記挿入空間の上部を覆うように前記枠体に対して取り付けられる蓋部を備え、前記蓋部には、外部から前記挿入空間内への前記フミン質供給体の通過を許容する一方、前記挿入空間内から外部への前記フミン質供給体の通過を阻止する開口部が設けられていてもよい。
【0013】
このように構成すれば、蓋部を取り外すことなく海上からフミン質供給体を前記開口部を通じて挿入空間に挿入することができるので、挿入空間へのフミン質供給体の設置作業が容易になる一方、挿入空間に一旦収容されたフミン質供給体が海流等により前記開口部から飛び出して流されるのを防ぐことができる。すなわち、挿入空間へのフミン質供給体の設置の容易性と、その挿入空間内でのフミン質供給体の確実な保持とを両立させることができる。
【0014】
上記藻場礁において、前記フミン質供給体は、フミン質供給材が内部に封入され、そのフミン質供給材から溶出したフミン質が浸出可能な内袋と、その内袋が周囲にさらにフミン質供給材が充填された状態で封入され、フミン質が浸出可能な外袋とを含むことが好ましい。
【0015】
このように構成すれば、外袋内で内袋の周囲に充填されたフミン質供給材から溶出したフミン質がまず外袋の外部に浸出して拡散し、その後、時間経過とともに外袋内で内袋の周囲のフミン質の濃度が減少するのに伴って内袋からフミン質が溶出して拡散する。すなわち、この構成では、フミン質の浸出、拡散が内袋と外袋とによって2段階に構成されるため、1重の袋のみにフミン質供給材が充填されている場合に比べて長期間に亘ってフミン質を海中に供給し続けることができる。その結果、長期間に亘って、藻場礁での海藻類の繁茂を促進するとともに、周辺海域における磯焼けを抑制することができる。
【0016】
上記藻場礁において、前記枠体の少なくとも一部は、鉄を含む材料からなることが好ましい。
【0017】
このように構成すれば、枠体から海中にFe(II)イオン(二価の鉄イオン)が溶出し、この溶出したFe(II)イオンは海藻類が摂取できる鉄の最適な形態であるため、海藻類に容易に取り込まれる。すなわち、海藻類の生長に必須の成分である鉄を海藻類に容易に取り込ませることができるので、海藻類の繁茂をより促進することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の藻場礁によれば、藻場礁における海藻類の繁茂を促進することができるとともに、沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による藻場礁の一部分解斜視図である。図2は、図1に示した藻場礁を構成する枠体2の分解斜視図であり、図3は、枠体2内に石材4が詰め込まれた状態を示す斜視図である。図4は、図1に示した藻場礁に含まれるフミン質供給体6の構成を示した概略図である。この図1〜図4を参照して、本発明の一実施形態による藻場礁の構成について説明する。
【0021】
本実施形態による藻場礁は、海中に設置され、磯焼け現象を抑制するとともに、海藻類を繁茂させるためのものである。
【0022】
具体的には、この藻場礁は、図1に示すように、枠体2と、多数の石材4と、フミン質供給体6とを備えている。
【0023】
枠体2は、鋼製であり、図2に示すように収容空間Sを囲むように設けられているとともに、その内外で海水が流通可能に構成されている。この枠体2は、底部2aと、囲い部2bと、仕切部2cと、天枠部2dとを有する。
【0024】
底部2aは、4本のH形鋼が矩形状に組み付けられるとともに、そのH形鋼で囲まれた部分に複数の鋼材が水平方向に隙間をあけて配設されることによって構成されている。
【0025】
囲い部2bは、底部2aの外縁を構成する前記4本のH形鋼上に立設されている。この囲い部2bは、複数の鋼材が柵状に組み付けられて構成されており、収容空間Sの周囲四方を囲っている。
【0026】
仕切部2cは、収容空間Sを4つの等しい大きさの矩形状の空間S1〜S4に仕切っている。この仕切部2cによって仕切られた4つの空間S1〜S4のうち一方の対角に配置された2つの空間S1,S2は、前記石材4が詰め込まれる石材収容空間S1,S2となっており、他方の対角に配置された2つの空間S3,S4は、前記フミン質供給体6が上方から着脱可能に挿入可能な供給体挿入空間S3,S4となっている。なお、供給体挿入空間S3,S4は、本発明の挿入空間の概念に含まれるものである。仕切部2cは、収容空間Sの中央に立設された2つの支柱部2e,2eと、各支柱部2eから囲い部2bの4つの各側面の長手方向中間部に向かって水平に延びる複数の鉄筋2fとによって構成されている。複数の鉄筋2fは、上下に間隔をあけて設けられており、前記各空間S1〜S4の間はこの鉄筋2fによって仕切られている。すなわち、前記石材収容空間S1,S2及び前記供給体挿入空間S3,S4は、それぞれ、それらの側方の2辺が前記囲い部2bの対応する部分で囲まれているとともに、残りの側方の2辺が仕切部2cの対応する鉄筋2fによって囲まれている。そして、石材収容空間S1,S2及び供給体挿入空間S3,S4は、上部が開口となっており、石材収容空間S1,S2には、その上部から石材4が詰め込まれる一方、供給体挿入空間S3,S4には、その上部からフミン質供給体6が挿入されるようになっている。
【0027】
天枠部2dは、囲い部2bの上面に取り付けられている。この天枠部2dは、外縁部2hと、区画部2iと、覆部2jとからなる。外縁部2hは、鋼製の細い板材が矩形状に組み合わされて構成されており、囲い部2b上に取り付けられる部分である。区画部2iは、外縁部2hと同様の細い板材からなり、外縁部2hに対して十字に組み付けられてその外縁部2hで囲まれた領域を4つの等しい大きさの矩形状の領域に区画している。この区画部2iによって区画された4つの矩形状の領域は、前記石材収容空間S1,S2、前記供給体挿入空間S3,S4のそれぞれの空間に対応している。覆部2jは、区画部2iによって区画された4つの矩形状の領域のうち前記石材収容空間S1,S2に対応する2つの領域に設けられており、前記石材収容空間S1,S2上をそれぞれ覆うように配設されている。この覆部2jは、間隔をあけて縦横に配された複数の鉄筋によって構成されている。区画部2iによって区画された4つの領域のうち覆部2jによって覆われていない残りの2つの領域、すなわち、前記供給体挿入空間S3,S4に対応する領域はそれぞれ開口となっている。
【0028】
そして、供給体挿入空間S3,S4にフミン質供給体6がそれぞれ収容された状態で前記天枠部2dの各開口、すなわち供給体挿入空間S3,S4上をそれぞれ覆うように2つの蓋部8が天枠部2dに取り付けられている。各蓋部8は、通水性の蓋材(例えばグレーチング等の通水可能な多数の開口を有する蓋材)からなり、天枠部2dに対して着脱可能に取り付けられる。具体的には、蓋部8は、天枠部2dに対して図略の結束バンドによって結び付けられており、その結束バンドを切断することによって天枠部2dから蓋部8を取り外せるようになっている。このように蓋部8が天枠部2dに対して着脱可能であることにより、フミン質供給体6から放出されるフミン質が減少してなくなった時には、藻場礁を海中に設置したままの状態で蓋部8を取り外してフミン質供給体6を新しいものと交換し、その後、蓋部8を取り付け直すことによって容易にフミン質供給体6の交換が行えるようになっている。
【0029】
また、鋼製の枠体2からは海水中に高濃度のFe(II)イオンが溶出する。鉄は、海藻類にとって光合成色素の生合成や、呼吸や、摂取した硝酸塩を体内で還元するための硝酸還元酵素等に関与している。このため、海藻類は、鉄を摂取しないとリン、窒素等を体内に取り込むことができず、生長することができない。前記枠体2から溶出するFe(II)イオンは、海水中に溶存し、粒子状のFe(III)と異なり、海藻類の細胞膜を容易に通過し、海藻類の体内に摂取される。換言すれば、Fe(II)イオンは、海藻類が摂取できる鉄の最適な形態であり、海藻類に容易に取り込まれる。その結果、海藻類の生長が促進され、海藻類の繁茂が促進される。
【0030】
石材4は、海藻類の胞子が着床し、海藻類が生長する基盤となるものであり、図3に示すように枠体2内の石材収容空間S1,S2に多数詰め込まれている。そして、各石材4は、石材収容空間S1,S2内で各石材4間に海水が流通可能な隙間が形成されるように積み上げられている。これにより、外部から枠体2の囲い部2bを構成する各鋼材間の隙間を通って潮流や海流が流れ込むとともに、その流れが各石材4間の隙間を通り、渦流が作り出されるようになっている。
【0031】
フミン質供給体6は、フミン質を放出可能に構成されており、供給体挿入空間S3,S4にそれぞれ収容されている。このフミン質供給体6は、前記各石材4間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように前記石材4に対して水平方向に隣接して配設されている。詳細には、石材収容空間S1,S2の水平方向に隣接する供給体挿入空間S3,S4にフミン質供給体6が収容されることによって、フミン質供給体6と石材収容空間S1,S2に収容された石材4とが水平方向に隣接するように配置されており、各石材4間の隙間を通ってできた前記渦流が仕切部2cの鉄筋2f間の隙間を通って石材収容空間S1,S2から供給体挿入空間S3,S4に流れ込み、その供給体挿入空間S3,S4内のフミン質供給体6に当たるようになっている。そして、フミン質供給体6から放出されるフミン質は、このフミン質供給体6に当たる渦流に乗り、囲い部2bを構成する鋼材間の隙間を通って外部へ流れ出すとともに、藻場礁の周辺の広範囲に拡散する。同時に、フミン質供給体6から放出されるフミン質は、隣接する石材4の周囲にも供給される。
【0032】
そして、フミン質供給体6は、図4に示すように、内袋6aと、外袋6bとを備えている。
【0033】
内袋6aには、砂状から粒状のフミン質供給材が所定量封入されている。フミン質供給材は、低品質の石炭、ニトロフミン及びフミン酸の混合物を砂状から粒状にしたものであり、水に溶解することによってフミン質を放出する。内袋6aは、ポリプロピレン製の細かい目の網材からなる小袋であり、内部で海水中に溶出したフミン質が外部に浸出可能となっている。
【0034】
外袋6bには、複数の内袋6aがそれらの周囲にさらにフミン質供給材が充填された状態で封入されている。この外袋6bは、内袋6aよりも大きな袋であり、内袋6aと同じ材質によって形成されている。これにより、外袋6bは、内部で海水中に溶出したフミン質が外部に浸出可能となっている。外袋6b内では、内袋6aの周囲に充填されたフミン質供給材がまず溶解してフミン質を放出し、そのフミン質が外袋6bの外部に浸出して拡散する。この時、内袋6aの周囲には所定濃度のフミン質が存在するため、内袋6aからのフミン質の浸出が制限を受け、その内袋6a内のフミン質はほとんど外部に浸出、拡散しない。そして、時間の経過とともに内袋6aの周囲のフミン質の浸出、拡散が進行してその内袋6aの周囲のフミン質の濃度が減少すると、内袋6aからフミン質が浸出して拡散する。このように内袋6aと外袋6bによってフミン質の浸出、拡散が2段階に構成されているため、フミン質供給体6から長期間に亘ってフミン質が海中に供給されるようになっている。
【0035】
フミン質は、海藻類の栄養となって海藻類の繁茂を促進するとともに、石灰藻の生育を妨げる効果を有するものである。石灰藻は、大部分が炭酸カルシウムからなる光合成生物である。この石灰藻は、多数の胞子を放出し、その胞子が拡散することによって至る所の岩肌に付着して増殖する。そして、石灰藻は、岩肌に着床する海藻類の胞子を殺す物質を分泌すると考えられ、この石灰藻によって覆われた岩肌では海藻類が生育せず、いわゆる磯焼けが生じる。石灰藻の硬度は高く、石灰藻で岩肌が覆われてしまうと半永久的に海藻類が生育できなくなる。フミン質は、この石灰藻の胞子を構成する炭酸カルシウムの結晶化を阻害する効果を有しており、フミン質が存在する環境下では石灰藻の胞子は数日で死滅することが判っている。このため、フミン質供給体6から供給されるフミン質によって、藻場礁の石材4の表面に石灰藻が繁殖することが防がれてその石材4を基盤とする海藻類の繁茂が確保されるとともに、藻場礁の周辺に拡散するフミン質によってその周辺の広範囲に亘る岩肌において石灰藻の繁殖が抑制され、磯焼けが抑制される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の藻場礁では、収容空間Sを囲む枠体2の囲い部2bがその内外で海水が流通可能に構成されているとともに、収容空間Sのうち石材収容空間S1,S2に多数の石材4が海水を流通可能な隙間を有するように配置されるので、潮流や海流が外部から枠体2の囲い部2bを透過して収容空間S内に流れ込み、その流れが石材4間の隙間を通って渦流が発生する。そして、本実施形態の藻場礁では、フミン質供給体6が石材間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように収容空間Sのうち供給体挿入空間S3,S4内に前記石材4に対して水平方向に隣接して収容されているので、前記渦流がフミン質供給体6に当たり、そのフミン質供給体6から放出されたフミン質が渦流に乗って広範囲に拡散する。
【0037】
これに対して、従来のように供給体を石材上に配置する場合には、略水平方向に流れる潮流や海流が石材間の隙間を通ることによって発生する渦流が供給体に当たりにくく、フミン質の拡散性が悪くなる。本実施形態による藻場礁では、上記のように石材4の水平方向に隣接してフミン質供給体6が配置されることに起因して前記渦流が良好にフミン質供給体6に当たり、フミン質の拡散性が向上するため、従来の供給体を石材上に配置する構成に比べて、より広範囲に亘る磯焼けを抑制することができる。また、フミン質は、藻場礁に着床する海藻類の栄養となるため、藻場礁における海藻類の繁茂を促進することができる。従って、本実施形態では、藻場礁における海藻類の繁茂を促進するとともに、藻場礁の周辺の沿岸海域に発生する磯焼けを広範囲に抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の藻場礁では、枠体2の囲い部2b及び仕切部2cが、フミン質供給体6を上方から着脱可能に挿入可能な供給体挿入空間S3,S4を囲む部分を有するので、枠体内に石材4とフミン質供給体6がランダムに収容される構成に比べて、フミン質供給体6を石材4に邪魔されずに着脱し易くなる。このため、フミン質供給体6から放出されるフミン質が減少してなくなった時にそのフミン質供給体6の交換作業を容易に行うことができる。
【0039】
また、本実施形態の藻場礁では、供給体挿入空間S3,S4の上部を覆うように枠体2に対して着脱可能に取り付けられる蓋部8が設けられているので、供給体挿入空間S3,S4内に挿入されたフミン質供給体6を蓋部8で押さえることができ、潮流や海流によってフミン質供給体6が流されるのを確実に防ぐことができる。そして、本実施形態では、蓋部8が枠体2に対して着脱可能に取り付けられるので、フミン質供給体6の交換作業時には、蓋部8を枠体2から取り外してフミン質供給体6を容易に交換することができる。
【0040】
また、本実施形態の藻場礁では、フミン質供給体6は、フミン質供給材が内部に封入され、そのフミン質供給材から溶出したフミン質が浸出可能な内袋6aと、その内袋6aが周囲にさらにフミン質供給材が充填された状態で封入され、フミン質が浸出可能な外袋6bとを有するので、外袋6b内で内袋6aの周囲に充填されたフミン質供給材から溶出したフミン質がまず外袋6bの外部に浸出して拡散し、その後、時間経過とともに外袋6b内で内袋6aの周囲のフミン質の濃度が減少するのに伴って内袋6aからフミン質が溶出して拡散する。すなわち、本実施形態では、フミン質の浸出、拡散が内袋6aと外袋6bとによって2段階に構成されるため、1重の袋のみにフミン質供給材が充填されている場合に比べて長期間に亘ってフミン質を海中に供給し続けることができる。その結果、長期間に亘って、藻場礁での海藻類の繁茂を促進するとともに、周辺海域における磯焼けを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の藻場礁では、枠体2が鋼製であるため、枠体2から海中にFe(II)イオンが溶出する。この溶出したFe(II)イオンは海藻類が摂取できる鉄の最適な形態であるため、海藻類に容易に取り込まれる。すなわち、海藻類の生長に必須の成分である鉄を海藻類に容易に取り込ませることができるので、海藻類の繁茂をより促進することができる。
【0042】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0043】
例えば、図5及び図6に示す上記実施形態の第1変形例のように、供給体挿入空間S3,S4の上部を覆う蓋部10に開口部10aが設けられていてもよい。
【0044】
この第1変形例による蓋部10に設けられた開口部10aは、外部から供給体挿入空間S3,S4内へのフミン質供給体6の通過を許容する一方、供給体挿入空間S3,S4内から外部へのフミン質供給体6の通過を阻止するように構成されている。
【0045】
具体的には、蓋部10は、図5に示すように通水性の蓋材によって構成されており、枠体2の天枠部2d(図2参照)に固定されている。この蓋部10は、図6に示すように、当該蓋部10の幅方向両端部から幅方向中央部へ向かうにつれて傾斜しながら下方に延びる一対の傾斜部10b,10cを有する。これら一対の傾斜部10b,10cのうち一方の傾斜部10bは他方の傾斜部10cよりも長くなっており、両傾斜部10b,10cは、互い違いに配置されている。これにより、一方の傾斜部10bの下端部が他方の傾斜部10cから下側に離れて配置されている。両傾斜部10b,10c間には、隙間が設けられており、この隙間がこの蓋部10における開口部10aとなっている。
【0046】
そして、開口部10aは、フミン質供給体6が上から通過可能な大きさとなっている。これにより、図6に示すように、例えば漁業者が海上からフミン質供給体6を開口部10aを通じて供給体挿入空間S3,S4に押し込むことが可能となっている。一方、供給体挿入空間S3,S4に一旦収容されたフミン質供給体6は、海流等によって浮き上がったとしても、前記一方の傾斜部10bの下端部に当たって開口部10aから飛び出すことが阻止されるようになっている。なお、上記実施形態と異なり、この第1変形例のように各供給体挿入空間S3,S4にそれぞれ複数のフミン質供給体6を収容するようにしてもよい。
【0047】
この第1変形例の構成によれば、蓋部10を取り外すことなく海上からフミン質供給体6を開口部10aを通じて供給体挿入空間S3,S4に挿入することができるので、供給体挿入空間S3,S4へのフミン質供給体6の設置作業が容易になる一方、供給体挿入空間S3,S4に一旦収容されたフミン質供給体6が海流等により開口部10aから飛び出して流されるのを防ぐことができる。すなわち、供給体挿入空間S3,S4へのフミン質供給体6の設置の容易性と、その供給体挿入空間S3,S4内でのフミン質供給体6の確実な保持とを両立させることができる。
【0048】
また、図7及び図8に示す上記実施形態の第2変形例のように、外部から供給体挿入空間S3,S4内へのフミン質供給体6の通過を許容する一方、供給体挿入空間S3,S4内から外部へのフミン質供給体6の通過を阻止する開口部12aを有する別の構成の蓋部12も考えられる。
【0049】
この第2変形例による蓋部12は、上記第1変形例と同様に枠体2の天枠部2d(図2参照)に固定されている。この蓋部12は、図7に示すように、天枠部2dに固定される矩形状の外枠部12bと、その外枠部12bの内側に固定されている円環状の第1円枠部12cと、その第1円枠部12cの内側に同軸に配置されている円環状の第2円枠部12dと、第1円枠部12cの周方向に等間隔で配設され、第1円枠部12cの内周面から径方向内側に向かって斜め下へ延びる複数の弾性変形部12eとによって構成されている。弾性変形部12eは、弾性変形可能な材料からなっている。また、各弾性変形部12eは、その中間部で第2円枠部12dに結合されており、一体となっている。そして、各弾性変形部12eで囲まれることによって蓋部12の中央部に開口部12aが形成されている。この開口部12aの大きさは、各弾性変形部12eが変形していない状態ではフミン質供給体6よりも少し小さくなっている。そして、図8に示すようにフミン質供給体6を上方から開口部12aに押し込むことによって、各弾性変形部12eは、その下端部が径方向外側へ広がるように弾性変形して開口部12aが広がり、供給体挿入空間S3,S4へのフミン質供給体6の通過が可能となる。一方、供給体挿入空間S3,S4に収容されたフミン質供給体6は、海流等によって浮き上がったとしても、弾性変形部12eの下端部に当たって開口部12aから飛び出さないようになっている。
【0050】
この第2変形例の構成でも、上記第1変形例と同様に、蓋部12を取り外すことなく海上からフミン質供給体6を開口部12aを通じて供給体挿入空間S3,S4に挿入することができる一方、供給体挿入空間S3,S4に一旦収容されたフミン質供給体6が海流等により開口部12aから飛び出して流されるのを防ぐことができるので、供給体挿入空間S3,S4へのフミン質供給体6の設置の容易性と、その供給体挿入空間S3,S4内でのフミン質供給体6の確実な保持とを両立させることができる。
【0051】
なお、上記第1変形例及び第2変形例の構成では、フミン質供給体6から放出されるフミン質が減少してなくなったとしても、そのフミン質供給体6を回収することが困難であるため、フミン質供給体6を構成する内袋6a及び外袋6bは、生分解性の素材からなることが好ましい。このような生分解性の内袋6a及び外袋6bは、時間経過とともに生分解され、供給体挿入空間S3,S4内に残らないので、回収が不要となる。
【0052】
また、上記実施形態では、供給体挿入空間S3,S4にフミン質供給体6のみを収容する構成を例にとって説明したが、供給体挿入空間S3,S4内にフミン質供給体6に加えてその周りを囲むように石材が収容されていてもよい。
【0053】
また、収容空間Sに石材4及びフミン質供給体6を収容する構成は、上記実施形態で示した構成に限らない。例えば、仕切部2cを省略して収容空間S内に上記以外の配置で石材4とフミン質供給体6を収容してもよく、また、上記以外の構成の仕切部を用いて収容空間S内を種々の形状の空間に仕切ってそれら各空間に石材4とフミン質供給体6をそれぞれ収容するようにしてもよい。
【0054】
また、収容空間Sにおいて石材4に対して少なくとも水平方向に隣接してフミン質供給体6が収容されていればよく、それら互いに水平方向に隣接して配置された石材4とフミン質供給体6の上方や下方にさらに別の石材やフミン質供給体が配設されていてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、枠体2が、フミン質供給体6を上方から挿入可能な供給体挿入空間S3,S4を囲む部分を有しているが、この構成に限らない。すなわち、枠体2が、フミン質供給体6を上方以外の種々の方向、例えば側方から着脱可能に挿入可能な挿入空間を囲む部分を有していてもよい。
【0056】
また、枠体2は、鋼以外の鉄を含む材料によって形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態による藻場礁の一部分解斜視図である。
【図2】図1に示した藻場礁を構成する枠体の分解斜視図である。
【図3】図2に示した枠体内に石材が詰め込まれた状態を示す斜視図である。
【図4】図1に示した藻場礁に含まれるフミン質供給体の構成を示した概略図である。
【図5】本発明の一実施形態の第1変形例による藻場礁の蓋部を示した平面図である。
【図6】図5に示す第1変形例の蓋部で覆った供給体挿入空間にフミン質供給体を投入する状態を概略的に示した模式図である。
【図7】本発明の一実施形態の第2変形例による藻場礁の蓋部を示した平面図である。
【図8】図7に示す第2変形例の蓋部で覆った供給体挿入空間にフミン質供給体を投入する状態を概略的に示した模式図である。
【符号の説明】
【0058】
2 枠体
4 石材
6 フミン質供給体
6a 内袋
6b 外袋
8、10、12 蓋部
10a、12a 開口部
S 収容空間
S1、S2 石材収容空間
S3、S4 供給体挿入空間(挿入空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置され、磯焼け現象を抑制するとともに、海藻類を繁茂させるための藻場礁であって、
所定の収容空間を囲むように設けられ、その内外で海水が流通可能に構成された枠体と、
前記収容空間内に詰め込まれるとともに、海水が流通可能な隙間を有するように配置される複数の石材と、
前記石材間の隙間を通って流通する海水の流れが当たるように前記収容空間内に前記石材に対して水平方向に隣接して収容され、フミン質を放出可能なフミン質供給体とを備えた、藻場礁。
【請求項2】
前記枠体は、前記収容空間内で前記フミン質供給体が上方から着脱可能に挿入可能な挿入空間を囲む部分を有する、請求項1に記載の藻場礁。
【請求項3】
前記挿入空間の上部を覆うように前記枠体に対して着脱可能に取り付けられる蓋部を備える、請求項2に記載の藻場礁。
【請求項4】
前記挿入空間の上部を覆うように前記枠体に対して取り付けられる蓋部を備え、
前記蓋部には、外部から前記挿入空間内への前記フミン質供給体の通過を許容する一方、前記挿入空間内から外部への前記フミン質供給体の通過を阻止する開口部が設けられている、請求項2に記載の藻場礁。
【請求項5】
前記フミン質供給体は、フミン質供給材が内部に封入され、そのフミン質供給材から溶出したフミン質が浸出可能な内袋と、その内袋が周囲にさらにフミン質供給材が充填された状態で封入され、フミン質が浸出可能な外袋とを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の藻場礁。
【請求項6】
前記枠体の少なくとも一部は、鉄を含む材料からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の藻場礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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