説明

製靴型の製造方法及び靴の製造方法

【課題】外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されずに痛みを伴うことがなく、かつ、足が前後にずれるおそれが少ない靴の製造方法を提供する。
【解決手段】足長と足囲と甲回りを測定し(S1)、足長と甲回りに応じた木型を選択し(S2)、足囲と甲回りの測定値により貼付け部材の厚みを算出し(S3)、算出された厚みに応じて貼付け部材を作成し(S4)、貼付け部材を木型に貼り付けて(S5)、該木型を用いて靴を製造する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴製造用の型である製靴型を製造する方法と、靴の製造方法に関するものであり、特に、外反母趾や内反小趾用の製靴型及び靴の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、外反母趾や内反小趾が問題となっている。外反母趾は、足の親指が小指の方向に曲がり、親指のつけ根部分が外側に突出する症状であり、内反小趾は、足の小指が親指の方向に曲がり、小指のつけ根部分が外側に突出する症状である。外反母趾や内反小趾の場合には、通常の靴を履いて歩くと、その突出部分が靴の内側の面に押されて痛みを伴う。
【0003】
ここで、従来、外反母趾用の靴として、靴の幅を全体的に大きくしたものがある。
【0004】
また、従来より、外反母趾用の靴の製靴用型として、型の最大幅の部位の近傍であって製靴用型の親指側の側面に肉盛り部を設けたものと、そのような製靴用型を用いて靴を製造する方法が存在する(特許文献1)。この特許文献1には、肉盛り部の大きさとして、座の部分の長径が1〜3cm程度、幅は0.5〜2cm程度であり、高さは、0.3〜1cm程度であるとしている。
【0005】
また、従来より、足の変形突出部が形成された専用の靴型を作り、この靴型を用いて、足の突出部の頂部に当たる部分に孔をあけるかまたはその部分の肉厚を薄くした柔軟な材料のパッドで、足の変形突出部にパッドを当てたときになめらかな外側の輪郭が形成されるように肉厚が決められたパッドを成形し、そのパッドを製甲工程で表皮の内側のダブラと裏皮の間に挿入して所定の位置に仮付けし、他は通常の製靴工程に従って靴を製造する方法がある(特許文献2)。
【0006】
また、出願人は、特許文献3〜5の先行技術文献を知得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−209610号公報
【特許文献2】実開昭62−131603号公報
【特許文献3】特許第3479019号公報
【特許文献4】特許第4087747号公報
【特許文献5】特開2008−206916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、靴の幅を全体的に大きくした外反母趾用の靴においては、変形した足幅に対応しているが、甲回りに余裕ができ過ぎるために、歩行により足が靴の中で前後に動き、靴擦れを起こすという問題がある。
【0009】
また、上記特許文献1に記載の靴の製造方法においては、肉盛り部の大きさを調整することができないことから、変形による突出部分の大きさに合わせて型を製造することができないという問題がある。例えば、足長や甲回りの大きさに従って型を選択すると、肉盛り部の大きさが合わないおそれがあり、また、足の変形した突出部分の大きさに適合した肉盛り部の大きさの型を選択すると、足長や甲回りが合わないおそれがある。
【0010】
また、特許文献2の靴の製造方法においては、足の変形突出部が形成された専用の靴型の製造方法が明らかとなっていない。
【0011】
そこで、本発明は、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されずに痛みを伴うことがなく、かつ、足が前後にずれるおそれが少ない靴の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、靴製造用の型である製靴型の製造方法であって、製造する靴の使用者の足における足長と足囲と甲回りを測定する測定工程と、測定工程において得られた足囲の測定値と甲回りの測定値とを用いて貼付け部材の厚みを算出する算出工程と、算出工程において算出された厚みを有する貼付け部材を作成する貼付け部材作成工程と、測定工程において得られた足長の測定値と甲回りの測定値とに応じた製靴型における足囲に対応するループ状の曲線における内側の位置を含む側面及び/又は外側の位置を含む側面に、貼付け部材作成工程において作成された貼付け部材を貼り付ける貼付け工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
第1の構成の製靴型の製造方法によれば、貼付け部材の厚みを足囲の測定値と甲回りの測定値に基づき算出して決定して貼付け部材の厚みを調整できるので、製造された製靴型を用いて靴を製造することにより、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されないので痛みを伴うことがない。また、甲回りは測定値に応じた製靴型を用いるので、足囲が通常よりも大きくなっても、甲回りが大きくなることがなく、靴が甲回りの箇所で足を締めることになり、靴を履いた場合に、足が靴の中で前後にずれるおそれが少なく、靴擦れ等を起こすおそれがない。
【0014】
また、第2には、上記第1の構成において、貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記算出工程において、貼付け部材の厚みを(足囲の測定値−甲回りの測定値−n)/2の計算式により算出することを特徴とする。よって、適切に貼付け部材の厚みを算出することができる。
【0015】
また、第3には、上記第1の構成において、貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記貼付け部材作成工程において、貼付け部材の周囲の領域を周囲の端部にいくほど薄くなるように傾斜面を形成し、該傾斜面における傾斜方向の長さをh1とし、足囲の測定値をVとし、甲回りの測定値をWとした場合に、上記算出工程において、貼付け部材の厚みを式(A)により算出することを特徴とする。
【0016】
【数1】

【0017】
よって、貼付け部材の周囲の端部との段差をなくすために傾斜面を設ける場合に、適切に貼付け部材の厚みを算出することができる。
【0018】
また、第4には、上記第1の構成において、貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記貼付け部材作成工程において、貼付け部材の周囲の領域を周囲の端部にいくほど薄くなるように傾斜面を形成し、傾斜面とは反対側の面における傾斜面の傾斜方向の長さに対応した長さをh2とし、足囲の測定値をVとし、甲回りの測定値をWとした場合に、上記算出工程において、貼付け部材の厚みを式(B)により算出することを特徴とする。
【0019】
【数2】

【0020】
よって、貼付け部材の周囲の端部との段差をなくすために傾斜面を設ける場合に、適切に貼付け部材の厚みを算出することができる。
【0021】
また、第5には、前記第1から第4までのいずれかの構成において、製靴型においては、足長と足囲と甲回りとが予め定められた長さごとの寸法が設定され、上記貼付け工程においては、足長については、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも大きく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択し、甲回りについては、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも小さく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択することにより、足長の値と甲回りの値とに応じた製靴型とすることを特徴とする。
【0022】
また、第6には、前記第1から第5までのいずれかの構成において、上記測定工程が、足長を測定するための方向を示す前後方向直線部に沿って足の足長を測定する足長測定工程と、平面視における足の踵の後端点から、足長測定工程により測定した足長に対して61.5〜71.5%の割合の位置で、前後方向直線部のつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度が、男性用の場合は69.0〜79.0度で、女性用の場合は68.0〜78.0度となるように、メジャー部を配置して足囲を測定する足囲測定工程と、平面視における足の踵の後端点から、足長測定工程により測定した足長に対して51.0〜61.0%の割合の位置で、前後方向直線部のつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度が、男性用の場合は75.5〜85.5度で、女性用の場合は74.5〜84.5度となるように、メジャー部を配置して甲回りを測定する甲回り測定工程と、を有することを特徴とする。よって、足長と足囲と甲回りとを適切に測定することができる。
【0023】
また、第7には、前記第1から第6までのいずれかの構成において、靴の製造方法であって、上記第1又は2又は3又は4又は5又は6の製靴型の製造方法により製造された製靴型を用いて靴を製造することを特徴とする。
【0024】
よって、貼付け部材の厚みを足囲の測定値と甲回りの測定値に基づき算出して決定して貼付け部材の厚みを調整できるので、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されないので痛みを伴うことがない。また、甲回りは測定値に応じた製靴型を用いるので、足囲が通常よりも大きくなっても、甲回りが大きくなることがなく、靴が甲回りの箇所で足を締めることになり、靴を履いた場合に、足が靴の中で前後にずれるおそれが少なく、靴擦れ等を起こすおそれがない。
【0025】
また、第8には、靴製造用の型である製靴型の製造方法であって、製造する靴の使用者の足における足長と甲回りを測定し、測定して得られた足長の測定値と甲回りの測定値とに応じた製靴型を用いて靴を製造することにより、靴の使用者の足に疾病等による変形がある場合でも甲回りの位置で足を固定することにより足が靴の中で前後に移動するのを防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に基づく製靴型の製造方法及び靴の製造法によれば、貼付け部材の厚みを足囲の測定値と甲回りの測定値に基づき算出して決定して貼付け部材の厚みを調整できるので、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されないので痛みを伴うことがない。また、甲回りは測定値に応じた製靴型を用いるので、足囲が通常よりも大きくなっても、甲回りが大きくなることがなく、靴が甲回りの箇所で足を締めることになり、靴を履いた場合に、足が靴の中で前後にずれるおそれが少なく、靴擦れ等を起こすおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】靴の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】足サイズの測定の方法を説明するための説明図である。
【図3】足サイズ測定具の例を示す平面図である。
【図4】足サイズ測定具の他の例を示す平面図である。
【図5】足サイズ測定具の他の例を示す底面図である。
【図6】貼付け部材の厚みの算出方法を説明するための説明図である。
【図7】貼付け部材の例を示す図であり、(a)は傾斜面を形成していない状態を示す図であり、(b)は傾斜面を形成した状態を示す図である。
【図8】貼付け部材の他の例を示す図であり、(a)は傾斜面を形成していない状態を示す図であり、(b)は傾斜面を形成した状態を示す図である。
【図9】貼付け部材の厚みの他の算出方法を説明するための説明図である。
【図10】木型に貼付け部材を貼り付けた状態を示す斜視図である。
【図11】木型に貼付け部材を貼り付けた状態を示す部分平面図である。
【図12】木型に貼付け部材を貼り付けた状態を示す斜視図である。
【図13】木型に貼付け部材を貼り付けた状態を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明においては、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されず痛みを伴うことがなく、かつ、足が前後にずれるおそれが少ない靴の製造方法を提供するという目的を以下のようにして実現した。
【0029】
本発明における靴の製造方法は、足サイズを測定し、測定した足サイズに基づき製靴型(製靴用型、靴型としてもよい。他においても同じ)としての木型を選択するとともに、外反母趾や内反小趾により変形して突出した突出部分に対応する箇所に貼り付ける貼付け部材の厚みを算出して、該厚みの貼付け部材を木型に貼り付けて、貼付け部材を貼り付けた状態の木型を用いて靴を製造する。
【0030】
本実施例の製靴型の製造方法及び靴の製造方法を図1等を使用してより具体的に説明すると、まず、製造する靴の使用者の足の足長と足囲と甲回りを測定する(S1、測定工程)。
【0031】
まず、足長Aについては、図2に示すように、踵の後端部から降ろした垂線の位置(後端点)から足の先端から降ろした垂線の位置までの長さを測定する。足の先端としては、足先の一番長い部分とする。つまり、人間の足は通常母指と第2指のいずれかが足先において最も突出しているが、最も突出した部分を足の先端とする。例えば、図2のように、踵の後端と足の先端とを前後方向直線部(中心線)aに合わせて足長Aを測定する。なお、第2指の先端を足の先端として足長を測定してもよい。
【0032】
また、足囲については、最も足幅の広い部分、すなわち、母指(親指)の付け根と小指の付け根とを結ぶ足の周囲の長さを測定する。
【0033】
なお、具体的には、以下のように、足の後端点から所定の長さの位置で前後方向直線部に対して所定の角度にメジャー部を配置して足囲を測定するのが好ましい。すなわち、図2に示すように、平面視における足の後端点から足長に対して61.5〜71.5%(好適には、66.5%)の割合の位置P1で、前後方向直線部aのつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部(巻き尺)の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度α1が、男性の場合は69.0〜79.0度(好適には、74.0度)となるようにメジャー部を配置して足囲を測定する。つまり、図2において、足長Aに対する長さbの割合が61.5〜71.5%(好適には、66.5%)であり、足囲を表す曲線(ループ状の曲線)Bを平面視した際には、該曲線B(平面視においては直線)が踵の後端点からbの位置P1を通り、前後方向直線部aのつま先側と該曲線Bとがなす角度(足の配置位置の内側の角度)α1が、69.0〜79.0度(好適には、74.0度)となっている。そして、メジャー部をこの曲線Bに沿うように、メジャー部を足の下に直線状に伸ばした状態で配置し、足の後端点から足長に対して61.5〜71.5%(好適には、66.5%)の割合の位置P1を通り、前後方向直線部aのつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部(巻き尺)の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度α1が69.0〜79.0度となるようにメジャー部を配置して、その後、メジャー部を足に巻き付けて足囲を測定する。なお、足の内側から側面視した場合には、足囲を表わす曲線と水平面とがなす角度α2が略直角(直角としてもよい)となるようにし、足囲を測定するメジャーについても、足の内側から側面視した場合には、水平面に対するメジャー部の角度が略直角(直角としてもよい)となるようにする。
【0034】
なお、女性の場合には、角度α1を68.0〜78.0度(好適には、73.0度)とし、他は同様とする。
【0035】
また、甲回りについては、土踏まずの上の位置で最も甲の高い部分の足の周囲の長さを測定する。
【0036】
なお、具体的には、以下のように、足の後端点から所定の長さの位置で前後方向直線部に対して所定の角度にメジャー部を配置して甲回りを測定するのが好ましい。すなわち、図2に示すように、平面視における足の踵の後端点から足長に対して51.0〜61.0%(好適には、56.0%)の割合の位置P2で、前後方向直線部aのつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度β1が、男性用の場合は75.5〜85.5度(好適には、80.5度)となるようにメジャー部を配置して足囲を測定する。つまり、図2において、足長Aに対する長さcの割合が51.0〜61.0%(好適には、56.0%)であり、甲回りを表す曲線(ループ状の曲線)Cを平面視した際には、該曲線C(平面視においては直線)が踵の後端点からcの位置P2を通り、前後方向直線部aのつま先側と該曲線Cとがなす角度(足の配置位置の内側の角度)β1が、75.5〜85.5度(好適には、80.5度)となっている。そして、メジャー部をこの曲線Cに沿うように、メジャー部を足の下に直線状に伸ばした状態で配置し、足の後端点から足長に対して51.0〜61.0%(好適には、56.0%)の割合の位置P2を通り、前後方向直線部aのつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部(巻き尺)の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度β1が75.5〜85.5度(好適には、80.5度)となるようにメジャー部を配置して、その後、メジャー部を足に巻き付けて甲回りを測定する。なお、足の内側から側面視した場合には、甲回りを表わす曲線は水平面のつま先側となす角度β2が71.0〜81.0度(好適には、76.0度)となるようにし、甲回りを測定するメジャーについても、足の内側から側面視した場合には、水平面のつま先側に対してメジャー部が71.0〜81.0度(好適には、76.0度)となるようにする。
【0037】
なお、女性の場合には、角度β1を74.5〜84.5度(好適には、79.5度)とし、他は同様とする。
【0038】
なお、足長と足囲と甲回りを測定するには、上記特許文献3〜5の足サイズ測定具を使用するのが好ましい。
【0039】
特許文献3、4に記載されている足サイズ測定具Aは、図3に示すように構成され、略長方形状のシート状部材5に、足型表示部10と、足長測定部20と、足囲測定部30と、甲回り測定部40等を有している。
【0040】
また、特許文献5に記載されている足サイズ測定具1は、図4、図5に示すように構成され、測定具本体部1Aを有し、この測定具本体部1Aは、本体領域部5と、踵当て部70とを有していて、本体領域部5の表側の面には、図4に示すように、足型表示部10と、足長測定部20と、足囲測定部40と、甲回り測定部50と、記入欄68とを有し、本体領域部5の裏側の面には、図5に示すように、足型表示部110と、足長測定部120と、足囲測定部140と、甲回り測定部150と、記入欄168とを有している。特に、足の後端点から所定の長さの位置で前後方向直線部に対して所定の角度にメジャー部を配置して足囲を測定する場合や、足の後端点から所定の長さの位置で前後方向直線部に対して所定の角度にメジャー部を配置して甲回りを測定する場合には、特許文献5に示す足サイズ測定具を使用するのが好ましい。
【0041】
以上のように、足の足長と足囲と甲回りとを測定したら、測定により得られた足長の測定値と甲回りの測定値に対応した木型(製靴型)1010を選択する(S2)。なお、前提として、木型は、足長と甲回りと足囲の寸法に応じてその規格が用意されているので、測定値に近い寸法のものを選択する。つまり、足長については、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも大きく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択する。また、甲回りについては、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも小さく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択する。つまり、甲回りについては、足を甲回りの位置で締めて固定するようにするため、上記のように寸法を選択する。
【0042】
つまり、足長については、所定長さごと(例えば、5mmごと)の寸法のものが用意され、甲回りと足囲については、所定長さごと(例えば、4mmごと)の寸法のものが用意され、甲回りと足囲とは、甲回りの長さに所定の長さを加算した値が足囲となるように設定されている。例えば、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数の長さ)となるように設定され、nの値としては、例えば、2mmとなっている。なお、2mmでなくても、他の長さでもよい。
【0043】
例えば、足長については、5mmピッチで250mmの次が255mmの寸法に設定され、また、甲回りについては、4mmピッチで246mmの次が250mmの寸法に設定され、足囲の長さ=甲回りの長さ+2mmに設定されているとした場合に、測定した足長が253mm、甲回りが249mmであるとすると、足長が255mmで甲回りが246mmの木型を選択する。なお、甲回りが246mmであるので、その木型の足囲は、248mm(246mm+2mm)となっている。
【0044】
なお、上記の例で、甲回りの測定値が250mmの場合には、甲回りが250mmの木型を選択する。なお、甲回りが250mmであるので、その木型の足囲は、252mm(250mm+2mm)となっている。
【0045】
なお、木型を予め準備した複数種類の中から選択するとしたが、選択した寸法の木型を作成するようにしてもよい。
【0046】
次に、測定した足囲と甲回りの値から貼付け部材1020の厚みを算出する(S3、算出工程)。ここで、貼付け部材1020の厚みhは、式(1)に示すようになるので、この式(1)に従い算出する。
【0047】
h=(足囲の測定値−甲回りの測定値−n)/2・・・式(1)
つまり、図6に示す模式図によると、木型1010に板状の貼付け部材1020を貼り付けた場合には、足囲は、貼付け部材の厚みの2つ分の長さだけ長くなるので、製造する靴の足囲(=足囲の測定値)=甲回りの測定値+n+2×hとなり、この式から上記の式が導かれる。つまり、足囲の測定値と甲回りの測定値と予め設定されたnの値により貼付け部材の厚みを算出することができる。なお、例えば、木型において、足囲の長さ=甲回りの長さ+nにおけるnの値が2mmに設定されている場合には、式(1)のnは2mmとして算出する。図6の模式図において、点線は足囲の線を表す。なお、足囲の測定値から甲回りの測定値を減じた値がn以下の場合には、貼付け部材の貼付けは必要ないことになる。
【0048】
次に、算出した貼付け部材の厚みに応じて、貼付け部材を作成する(S4、貼付け部材作成工程)。貼付け部材の作成に際しては、例えば、合成樹脂製の板状部材(例えば、合成皮革又は合成ゴム)を用い、該板状部材を図7(a)に示す楕円形状や図8(a)に示す長方形状の両端を円弧状に形成した形状に形成する。なお、図8の平面形状としては、長方形状の両端を円弧状に形成する以外に、長方形状の角部を円弧状に形成してもよい。
【0049】
なお、板状部材の厚みが不足する場合には、板状部材の複数枚を重ねて貼り合わせる。また、1枚の板状部材や複数枚を貼り合わせた板状部材の厚みが所望の厚みよりも大きい場合には、板状部材を削り具(例えば、ヤスリ)により削るようにする。また、木型の表面との段差が生じないように、板状部材の端部(又は周囲)は、図7(b)、図8(b)に示すように、貼付け部材1020の周囲の領域を削って傾斜面1020aを形成するのが好ましい。つまり、貼付け部材1020の周囲の領域を斜めに傾斜させる。
【0050】
なお、木型の表面との段差が生じないように板状部材の端部を斜めに傾斜させる場合には、以下のようにしてもよい。すなわち、図9に示すように、傾斜部分の傾斜面の傾斜方向の長さをh1、傾斜面に対する水平部分の長さ(傾斜面とは反対側の面における傾斜面の長さ(傾斜方向の長さ)に対応した長さ)をh2(h2=h1cosγ)、貼付け部材の厚みをh3とし、貼付け部材を貼り付けることにより1つの傾斜部分について長くなる足囲の長さをUとし、足囲の測定値をV、甲回りの測定値をWとすると、製造する靴の足囲(=足囲の測定値:V)=W+n+2×U(この式を式(2)とする)となり、Uは、図9の模式図から式(3)により表される。図9の模式図において、点線は足囲の線を表す。
【0051】
【数3】

【0052】
すると、式(3)と式(2)とから式(4)が導かれるので、式(4)により、傾斜面の長さ(傾斜方向の長さ)h1を定め、足囲の測定値と甲回りの測定値を入れることにより、貼付け部材の厚みの長さを決定することができる。つまり、足囲の測定値と甲回りの測定値と傾斜面の長さ(傾斜方向の長さ)h1と予め設定されたnの値により貼付け部材の厚みを算出することができる。なお、木型において、例えば、足囲の長さ=甲回りの長さ+nにおけるnの値が2mmに設定されている場合には、式(4)のnは2mmとして算出する。
【0053】
【数4】

【0054】
なお、Uは、式(5)のように表わすこともできる。
【0055】
【数5】

【0056】
すると、式(5)と式(2)とから式(6)が導かれるので、式(6)により、長さh2(傾斜面とは反対側の面における傾斜面の長さに対応した長さ)を定め、足囲の測定値と甲回りの測定値を入れることにより、貼付け部材の厚みの長さを決定することができる。つまり、足囲の測定値と甲回りの測定値と長さh2と予め設定されたnの値により貼付け部材の厚みを算出することができる。なお、木型において、例えば、足囲の長さ=甲回りの長さ+nにおけるnの値が2mmに設定されている場合には、式(6)のnは2mmとして算出する。
【0057】
【数6】

【0058】
よって、貼付け部材を構成する板状部材を算出された厚みに製造し、さらに、予め定めた長さh2分だけ傾斜部分(直線状の傾斜部分)を設けることにより、貼付け部材を製造することができる。
【0059】
上記のように、貼付け部材1020を製造したら、木型1010に貼り付けて、補正木型(補正製靴型)1005を作成する(S5、貼付け工程)。つまり、木型1010における足囲に対応するループ状の曲線における内側の位置を含む側面(内側側面)及び/又は外側の位置を含む側面(外側側面)に貼付け部材1020を貼り付けて補正木型1005を作成する。つまり、該内側側面の位置が、親指の付け根の位置に対応し、該外側側面の位置が、小指の付け根に対応する。つまり、靴の使用者の足の突出部分(つまり、外反母趾や内反小趾により変形して突出した部分)に対応する位置に貼付け部材1020を貼り付けて、補正木型1005を作成するのである。
【0060】
例えば、外反母趾の場合には、図10、図11に示すように、木型1010における親指の付け根に対応する位置に貼付け部材1020を貼り付け、内反小趾の場合には、図12、図13に示すように、木型1010における小指の付け根に対応する位置に貼付け部材1020を貼り付ける。なお、製造した補正木型1005における足囲の長さを測定して、足囲の測定値と一致しているか否かを確認し、一致していない場合には、足囲の測定値よりも長い場合には、貼付け部材1020を削り、足囲の測定値よりも短い場合には、貼付け部材1020の上に他の貼付け部材を貼る等の調整を行う。
【0061】
以上のようにして、製靴型としての補正木型1005が製造される。つまり、上記ステップS1からステップS5までの工程が、製靴型の製造方法に当たる。
【0062】
その後、補正木型1005、つまり、貼付け部材1020を貼り付けた木型1010を用いて靴を製造する(S6)。補正木型1005を用いた靴の製法は、従来と同様であり、公知のセメント式(セメンテッド式)製法、グットイヤーウエルト式製法、マッケイ式製法、ステッチダウン式製法、カリフォルニア式(プラットホーム式)製法等により製造する。
【0063】
セメント式の例を示すと、補正木型1005の裏側に中底を固定し、アッパー(甲革)を釣り込む。すなわち、アッパーを補正木型1005に被せて皺ができないように補正木型5に押しつけて、アッパーの釣り込みしろを中底に接着する。なお、このアッパーは、予め縫製や接着、射出成型等によって作成されたものである。次に、中底の底部に表底を接着して靴を製造する。上記ステップS6が、靴の製造方法に当たる。
【0064】
なお、上記の靴の製造方法は、製造する靴の使用者の足における足サイズ(特に、足長と甲回り)を測定し、測定して得られた足長の測定値と甲回りの測定値とに応じた製靴型を用いて靴を製造することにより、靴の使用者の足に疾病等による変形がある場合でも甲回りの位置で足を固定することにより足が靴の中で前後に移動するのを防止するものともいえる。
【0065】
以上のように、本実施例の製靴型の製造方法及び靴の製造方法によれば、貼付け部材の厚みを足囲の測定値と甲回りの測定値に基づき算出して決定して貼付け部材の厚みを調整できるので、外反母趾や内反小趾等の疾病により変形して突出した突出部分の大きさに応じて靴を製造することができ、靴を履いた場合に、突出部分が靴の内側に押されないので痛みを伴うことがない。また、甲回りは測定値に応じた木型を用いるので、足囲が通常よりも大きくなっても、甲回りが大きくなることがなく、靴が甲回りの箇所で足を締めることになり、靴を履いた場合に、足が靴の中で前後にずれるおそれが少なく、靴擦れ等を起こすおそれがない。
【0066】
なお、製靴型として木型を例にとったが、木型には限られず、合成樹脂製の製靴型であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1005 補正木型
1010 木型
1020 貼付け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴製造用の型である製靴型の製造方法であって、
製造する靴の使用者の足における足長と足囲と甲回りを測定する測定工程と、
測定工程において得られた足囲の測定値と甲回りの測定値とを用いて貼付け部材の厚みを算出する算出工程と、
算出工程において算出された厚みを有する貼付け部材を作成する貼付け部材作成工程と、
測定工程において得られた足長の測定値と甲回りの測定値とに応じた製靴型における足囲に対応するループ状の曲線における内側の位置を含む側面及び/又は外側の位置を含む側面に、貼付け部材作成工程において作成された貼付け部材を貼り付ける貼付け工程と、
を有することを特徴とする製靴型の製造方法。
【請求項2】
貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記算出工程において、貼付け部材の厚みを(足囲の測定値−甲回りの測定値−n)/2の計算式により算出することを特徴とする請求項1に記載の製靴型の製造方法。
【請求項3】
貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記貼付け部材作成工程において、貼付け部材の周囲の領域を周囲の端部にいくほど薄くなるように傾斜面を形成し、該傾斜面における傾斜方向の長さをh1とし、足囲の測定値をVとし、甲回りの測定値をWとした場合に、上記算出工程において、貼付け部材の厚みh3を式(A)により算出することを特徴とする請求項1に記載の製靴型の製造方法。
【数1】

【請求項4】
貼付け部材を貼り付ける前の製靴型は、足囲の長さ=甲回りの長さ+n(nは正数)となるように設定され、上記貼付け部材作成工程において、貼付け部材の周囲の領域を周囲の端部にいくほど薄くなるように傾斜面を形成し、傾斜面とは反対側の面における傾斜面の傾斜方向の長さに対応した長さをh2とし、足囲の測定値をVとし、甲回りの測定値をWとした場合に、上記算出工程において、貼付け部材の厚みh3を式(B)により算出することを特徴とする請求項1に記載の製靴型の製造方法。
【数2】

【請求項5】
製靴型においては、足長と足囲と甲回りとが予め定められた長さごとの寸法が設定され、上記貼付け工程においては、足長については、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも大きく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択し、甲回りについては、測定値に一致する寸法がない場合には、測定値よりも小さく、かつ、測定値に最も近い寸法を選択し、測定値に一致する寸法がある場合には、その寸法を選択することにより、足長の値と甲回りの値とに応じた製靴型とすることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4に記載の製靴型の製造方法。
【請求項6】
上記測定工程が、
足長を測定するための方向を示す前後方向直線部に沿って足の足長を測定する足長測定工程と、
平面視における足の踵の後端点から、足長測定工程により測定した足長に対して61.5〜71.5%の割合の位置で、前後方向直線部のつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度が、男性用の場合は69.0〜79.0度で、女性用の場合は68.0〜78.0度となるように、メジャー部を配置して足囲を測定する足囲測定工程と、
平面視における足の踵の後端点から、足長測定工程により測定した足長に対して51.0〜61.0%の割合の位置で、前後方向直線部のつま先側の方向と足囲を測定するためのメジャー部の足の配置位置に対する内側の方向とがなす角度が、男性用の場合は75.5〜85.5度で、女性用の場合は74.5〜84.5度となるように、メジャー部を配置して甲回りを測定する甲回り測定工程と、
を有することを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5に記載の製靴型の製造方法
【請求項7】
靴の製造方法であって、
請求項1又は2又は3又は4又は5又は6の製靴型の製造方法により製造された製靴型を用いて靴を製造することを特徴とする靴の製造方法。
【請求項8】
靴製造用の型である製靴型の製造方法であって、
製造する靴の使用者の足における足長と甲回りを測定し、測定して得られた足長の測定値と甲回りの測定値とに応じた製靴型を用いて靴を製造することにより、靴の使用者の足に疾病等による変形がある場合でも甲回りの位置で足を固定することにより足が靴の中で前後に移動するのを防止することを特徴とする靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−200560(P2011−200560A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72465(P2010−72465)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(507066703)株式会社大島商事 (2)
【Fターム(参考)】