説明

複製金型

【課題】複製金型100における電鋳層主面11上の凹凸を、UV硬化樹脂や熱可塑性樹脂に転写するインプリント成形において電鋳層反対面12に凹凸があっても均一なプレス圧力で転写できる複製金型を提供する。
【解決手段】凹凸形状を備える母型主面41を有する母型40から、母型主面41上に電鋳を成長させた後、母型40から離脱させた電鋳層10と、電鋳層10の母型主面41と接していた面に相対する位置にある電鋳層反対面12に設けられた緩衝層20と、を有する。この複製金型100を用いることで、インプリント成形において、緩衝層20がプレスの圧力均一化を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複製金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ等の微細光学部品を樹脂にて製造する方法において、インプリント成形法が良く知られている。インプリント成形法には、大きく分類して熱インプリント成形法とUVインプリント成形法とがある。熱インプリント成形法とは、熱可塑性樹脂を型と重ねて熱プレスし、熱可塑性樹脂を熱軟化または溶融させて型の凹凸形状に熱可塑性樹脂を倣わせた後、熱可塑性樹脂を冷却して、型の凹凸形状を転写した熱可塑性樹脂を得る方法である。UVインプリント成形法とは、UV硬化樹脂を型の上に塗布し、UV硬化樹脂に透明部材を重ねてプレスし、UV硬化樹脂を型の凹凸形状に倣わせるように押し広げUV光を照射して硬化し、型の凹凸形状を転写したUV硬化樹脂を得る方法である。
【0003】
インプリント成形法にて使用する型は特許文献1に記載されているように、高価な母型ではなく、母型から電鋳により製造した複製金型を使用することが一般的である。この複製金型はインプリント成形にて複製金型が破損してしまっても、母型から何度も複製金型を製造することが可能である。
【0004】
インプリント成形法では、樹脂に対して複製金型を均一な圧力でプレスする必要があるため、複製金型の裏面を平坦化しておく必要がある。複製金型の電鋳による製造方法では母型の母型主面から電鋳層を成長させていく。電鋳はほぼ等方的に成長していくため母型主面と接していた面に相対する位置にある電鋳層反対面は、母型主面の凹凸の影響が残っており裏面は平面にはならない(特許文献1には図示されていない)。これを平面にするためには、母型から電鋳層を離脱する前に電鋳層反対面を平面研磨して、その後母型から離脱した電鋳層を複製金型として使用することが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−156484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、平面研磨するためには、電鋳層をあらかじめ厚くしておく必要がある。例えば3mmの厚みの複製金型が欲しい場合には、電鋳層を5mm程度にしておいて電鋳層反対面の凹凸を平面研磨して3mmの厚さにするなどの必要がある。電鋳はニッケルリン(NiP)などの材料を用いることが多いが、この材料費は高価であり、これを平面研磨のために厚くすることは複製金型の高コスト化につながる。
【0007】
また、大型の複製金型を作成する場合、電鋳層の反りが大きくなり、精度良く平面研磨して平坦化することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例に係る複製金型は、凹凸形状を備える母型主面を有する母型から、前記母型主面上に電鋳を成長させた後、前記母型から離脱させた電鋳層と、前記電鋳層の前記母型主面と接していた面に相対する位置にある電鋳層反対面に設けられた緩衝層と、を有することを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、電鋳層の凹凸が残っていても緩衝層が凹凸を吸収するためインプリント成形における圧力の均一化が可能である。また、電鋳層を厚くして電鋳層反対面を平面研磨する必要がないため、複製金型のコストを低減できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に記載の複製金型は、前記電鋳層と前記緩衝層との間に接着層を有することが好ましい。
【0012】
本適用例によれば、電鋳層と緩衝層とが接着されており一体化するため取り扱いが容易で、接着層が電鋳層の凹凸を吸収する効果もあり、インプリント成形における圧力均一効果が高まる。また、電鋳層と緩衝層がずれて、成形時の圧力が不均一になることを防止できる。
【0013】
[適用例3]上記適用例に記載の複製金型は、前記緩衝層は、樹脂製緩衝層であることが好ましい。
【0014】
本適用例によれば、緩衝層は樹脂で形成された層であるため、電鋳層より弾性があり電鋳層の凹凸を充分に吸収でき、インプリント成形における圧力均一効果が高まる上、軽量となる。
【0015】
[適用例4]上記適用例に記載の複製金型は、前記樹脂製緩衝層は、シリコーン樹脂製であることが好ましい。
【0016】
本適用例によれば、緩衝層は樹脂の中でも特に高弾性なシリコーン樹脂製であるため、電鋳層の凹凸を充分に吸収でき、インプリント成形における圧力均一効果が高まる。また、耐熱性が200℃程度と高いため、熱可塑性樹脂の熱インプリント成形にも使用できる。
【0017】
[適用例5]上記適用例に記載の複製金型は、前記樹脂製緩衝層は、フェルトであることであることが好ましい。
【0018】
本適用例によれば、繊維を編みこんだフェルトであるため、空隙が弾性体となって電鋳層の凹凸を充分に吸収でき、インプリント成形における圧力均一効果が高まる。
【0019】
[適用例6]上記適用例に記載の複製金型は、前記フェルトは、アラミド繊維フェルトであることが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、アラミドフェルトは、耐熱性が200℃から250℃程度と高いため、熱可塑性樹脂の熱インプリント成形にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の複製金型の概略断面図である。
【図2】本実施形態の複製金型の製造工程図である。
【図3】本実施形態の複製金型を使用したUVインプリント成形法の工程図である。
【図4】本実施形態の複製金型を使用した熱インプリント成形法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0023】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る複製金型の概略断面図である。図2は、複製金型の製造工程図である。まず、実施形態1に係る複製金型について図1、図2を用いて説明する。
【0024】
図1、図2における複製金型100は、電鋳層10、緩衝層20、接着層30から構成されている。電鋳層10は凹凸形状を持つ電鋳層主面11とその電鋳層反対面12からなる。電鋳層主面11の形状を凸形状で示しているが、凹形状であっても、凹凸の両方を有しても構わない。電鋳層反対面12には緩衝層20が接着層30を介して備えられている。
【0025】
緩衝層20は電鋳層10より高弾性である必要があり、ゴム材料やフェルト材料などの樹脂材料であることが望ましい。特にフェルト材料は、繊維を編みこんだ構造となっているため、空隙が高弾性体として望ましい。
【0026】
接着層30は、両面テープや、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などの各種接着剤を使用することができる。また、接着層30は省略することもできる。電鋳層反対面12の下に緩衝層20を一体化せずに設けるだけでも効果はある。電鋳層10を緩衝層20に静電気で貼り付けたり、電鋳層10と緩衝層20を枠にはめて擬似的に一体化することもできる。
【0027】
<複製金型の製造方法>
次に図2を用いて、複製金型100の製造方法について述べる。電鋳層10は、母型40より作成する。母型40は凹凸形状が加工された母型主面41を持つ。凹凸形状は、マシニング加工やエッチングにより形成される。
【0028】
母型40の材質は、金属、ガラス、樹脂などが挙げられる。ただし、材質がガラスや樹脂など非導電性物質である場合には、母型主面41に導電化処理をする必要がある。
【0029】
図2(a)のように、母型40を陽極電極201と共に、電鋳槽200に入れ電圧を印加する。電鋳槽200はニッケルやクロム、銅などの電鋳浴202で満たされている。電鋳は母型40の母型主面41から成長し、図2(b)のように電鋳層10が形成される。この時、母型40の横や裏面など、電鋳を成長させたくない部分には、母型40に絶縁テープや塗料で絶縁処理をしておけば良い。母型主面41と接していた面が、電鋳層主面11、これに相対する面が電鋳層反対面12となる。電鋳はほぼ等方的に成長するため、電鋳層反対面12は母型主面41の凹凸の影響を受け、凹凸形状となっている。
【0030】
図2(c)に示すように、母型40から成長させた電鋳層10を母型40から離脱する。
図2(d)のように、離脱した電鋳層10の電鋳層反対面12に接着層30を塗布し緩衝層20を貼った後、接着層30を硬化する。これにより複製金型100が完成する。
【0031】
<UVインプリント成形法>
図3に、この複製金型100を用いたUVインプリント成形法について説明する。
【0032】
図3(a)に示すように、複製金型100における電鋳層主面11上に、UV硬化樹脂50をのせ、透明基板60を載せる。UV硬化樹脂50は、UV光で硬化するアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエンポリチオール樹脂などを使用することができる。透明基板60はガラス基板やアクリル、ポリカーボネートなどの透明樹脂基板を使用することができる。
【0033】
これを図3(b)に示すように、プレス下板301と透明プレス上板302でプレスしながら、UV光303を、透明プレス上板302の上部から照射する。UV硬化樹脂50はプレスにより電鋳層主面11の凹凸形状に倣って押し広げられ硬化する。この時、緩衝層20により圧力均一化が図られているため、電鋳層主面11のどの部分においてもUV硬化樹脂50が均一に電鋳層主面11の凹凸に倣うことができる。
【0034】
図3(c)のように電鋳層主面11の凹凸形状を転写した、UV硬化樹脂50が透明基板60と一体化したUVインプリント成形物110が製造される。
【0035】
以上述べたように、本実施形態に係る複製金型100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0036】
UVインプリント成形時には、図3(b)に示すようにプレス下板301と透明プレス上板302でプレスすることによって、UV硬化樹脂50を均一に電鋳層主面11に押し広げ、電鋳層主面11の凹凸形状に倣わせる必要がある。電鋳層反対面12が凹凸であっても、緩衝層20によって凹凸が吸収されてプレスの圧力均一化が図られ、UV硬化樹脂50が均一に電鋳層主面11の凹凸に倣うことができる。そのため電鋳層反対面12の凹凸をなくす平面研磨工程を入れる必要がなく、より安価な複製金型100を提供できる。そして、この複製金型100を使用することで、品質の良いUVインプリント成形物110を得ることができる。
特に大型の複製金型を製作する場合、電鋳層反対面に平面研磨をする必要がなく、低コストで大型の複製金型も容易に製作できる。
【0037】
<熱インプリント成形法>
図4に、この複製金型100を用いた他の実施形態である熱インプリント成形法について説明する。なお、複製金型100及び複製金型100の製造法については実施形態1と同一であり、図1、図2と同一の番号を使用し、重複する説明は省略する。
【0038】
図4(a)に示すように、複製金型100における電鋳層主面11上に、熱可塑性樹脂70を載せる。熱可塑性樹脂70は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリポロピレン樹脂などを使用することができる。
【0039】
後述するように、熱インプリント成形法では、熱可塑性樹脂70を熱軟化あるいは熱溶融させる。そのため、複製金型100の緩衝層20や接着層30は耐熱性のある物を使用する必要がる。耐熱性のある緩衝層20としては、シリコーン樹脂やアラミド繊維フェルトを使用することが望ましい。
【0040】
これを、図4(b)のように熱可塑性樹脂70の熱軟化点以上の温度に加温したプレス下板401と、同じく加温したプレス上板402でプレスする。熱可塑性樹脂70は熱軟化、あるいは溶融し、凹凸形状にならって変形する。これを冷却して熱可塑性樹脂70を硬化する。この時、緩衝層20により圧力均一化が図られているため、電鋳層主面11のどの部分においても熱可塑性樹脂70が均一に凹凸に倣うことができる。
【0041】
ここでは、熱可塑性樹脂70とプレス上板402との間に、適宜シリコーン樹脂やアラミド繊維フェルトなどの緩衝層を設けることも可能である。これは上板のうねりや凹凸などで不均一となる圧力を均一化するのに役立つ。
【0042】
これにより、図4(c)に示す、電鋳層主面11の凹凸形状を転写した熱インプリント成形物120が製造される。
【0043】
以上述べたように、本実施形態に係る複製金型100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0044】
熱インプリント成形時には、図4(b)に示すようにプレス下板401とプレス上板402で熱プレスすることによって、熱軟化あるいは溶融した熱可塑性樹脂70を均一に電鋳層主面11の凹凸形状にならって変形させる必要がある。電鋳層反対面12が凹凸であっても、緩衝層20によって凹凸が吸収されてプレスの圧力均一化が図られるため、熱可塑性樹脂70が均一に電鋳層主面11の凹凸に倣うことができる。そのため電鋳層反対面12の凹凸をなくす平面研磨工程を入れる必要がなく、より安価な複製金型100を提供できる。そして、この複製金型100を使用することで、品質の良い熱インプリント成形物120を得ることができる。
特に大型の複製金型を製作する場合、電鋳層反対面に平面研磨をする必要がなく、低コストで大型の複製金型も容易に製作できる。
【符号の説明】
【0045】
10…電鋳層、11…電鋳層主面、12…電鋳層反対面、20…緩衝層、30…接着層、40…母型、41…母型主面、100…複製金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸形状を備える母型主面を有する母型から、前記母型主面上に電鋳を成長させた後、前記母型から離脱させた電鋳層と、
前記電鋳層の前記母型主面と接していた面に相対する位置にある電鋳層反対面に設けられた緩衝層と、を有することを特徴とする複製金型。
【請求項2】
前記電鋳層と前記緩衝層との間に接着層を有することを特徴とする、請求項1に記載の複製金型。
【請求項3】
前記緩衝層は、樹脂製緩衝層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複製金型。
【請求項4】
前記樹脂製緩衝層は、シリコーン樹脂製であることを特徴とする、請求項3に記載の複製金型。
【請求項5】
前記樹脂製緩衝層は、フェルトであることを特徴とする、請求項3に記載の複製金型。
【請求項6】
前記フェルトは、アラミド繊維フェルトであることを特徴とする、請求項5に記載の複製金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−166496(P2012−166496A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30543(P2011−30543)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】