説明

診断システム

【課題】生体内の分光情報から病変部である可能性が高い領域を特定し、表示することが可能な診断システムを提供する。
【解決手段】診断システムが、体腔内において所定波長領域の分光画像を撮影して分光画像データを得る分光画像撮影手段と、分光画像撮影手段から分光画像データを取得し、該分光画像データと、病変部又は健常部を代表する教師データとに基づいて指標グラフを生成し、出力する画像処理手段と、指標グラフが表示されるモニタとを有し、画像処理手段は、分光画像の各画素について、教師データを第1のデータ系列とし、分光画像データを第2のデータ系列としてピアソンの積率相関係数を求め、該ピアソンの積率相関係数に基づいて前記指標グラフを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織中の病変部である可能性が高い領域を指標グラフによって表示することが可能な診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1に記載されているもののような、分光計としての機能を備えた電子内視鏡が提案されている。このような電子内視鏡によれば、胃や直腸等の消化器の粘膜等の生体組織の分光特性(光の吸収率の周波数ごとの分布)を得ることができる。物質の分光特性は、測定対象となる生体組織の表層近傍に含まれる物質の種類や濃度の情報を反映していることが知られており、分析化学の体系に属する学問分野として確立されている。その中で、複合成分よりなる物質の分光特性は、その複合物質を構成する要素物質の分光特性を重畳した情報であることも知られている。
【0003】
病変部の生体組織においては、健常部の生体組織には殆ど含まれていない化学構造の物質が多く含まれる場合がある。そのため、病変部を含む生体組織の分光特性は、健常部のみの生体組織の分光特性とは異なったものとなる。このように、健常部と病変部とでは分光特性が変化するため、両者の分光特性を比較して、生体組織における何らかの病変部が含まれるかどうかを判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−135989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、生体内の分光情報を入手して、その分光特性の差異から、生体組織における病変部の存在を判定することが研究されてきた。しかしながら、従来の研究では、生体組織中のどの領域に病変部に起因する分光変化が存在するかを画像やグラフ等に展開して表示し、病変部の位置や範囲を特定しながら、また周辺組織と比較しながら診断する実用的な方法については何ら提案されていない。
【0006】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、生体内の分光情報から病変部である可能性が高い領域を特定し、表示することが可能な診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の診断システムは、体腔内において所定波長領域の分光画像を撮影して分光画像データを得る分光画像撮影手段と、分光画像撮影手段から分光画像データを取得し、該分光画像データと、病変部又は健常部を代表する教師データとに基づいて指標グラフを生成し、出力する画像処理手段と、指標グラフが表示されるモニタとを有し、画像処理手段は、分光画像の各画素について、教師データを第1のデータ系列とし、分光画像データを第2のデータ系列としてピアソンの積率相関係数を求め、該ピアソンの積率相関係数に基づいて指標グラフを生成することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、分光画像の各画素について、病変部との類似性(又は非類似性)が求められ、その結果が指標グラフとしてモニタに表示される。すなわち、病変部である可能性が高い領域が特定、表示されるため、効率の良い診断支援を行うことが可能となる。
【0009】
また、画像処理手段は、分光画像データから教師データを生成する教師データ生成手段を有する構成とすることができる。この場合、ユーザから分光画像内の画素又は領域の指定を受け付ける操作部を更に有し、教師データ生成手段は、操作部で指定された分光画像内の画素又は領域に基づいて教師データを生成する構成とすることが好ましい。このような構成によれば、患者に応じた教師データを設定することが可能となるため、より正確に病変部との類似性又は非類似性を求めることが可能となる。
【0010】
また、教師データ生成手段は、操作部において、分光画像内の領域が指定された場合、該領域内の画素について分光画像データの平均値を求め、該平均値を教師データとすることが好ましい。
【0011】
また、画像処理手段は、分光画像データのうち、青色、緑色、赤色の波長帯域のものを合成してカラー画像を出力し、モニタには、カラー画像と指標グラフとが並べられて表示される構成とすることができる。このような構成とすると、分光画像撮影手段によって撮影された生体組織のカラー画像と指標グラフとの比較により、どの領域が病変部である可能性が高いかをより容易に判断可能となる。
【0012】
また、所定波長領域は、400〜800nmであり、分光画像は、1〜10nmの範囲で定められる所定の波長毎に撮影された複数の画像であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の診断システムによれば、生体内の分光情報から病変部である可能性が高い領域を特定し、表示することが可能となる。その結果、診断時間が短縮されると共に、手術による切除等の必要な範囲の確認及び特定が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施形態の診断システム1のブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態の診断システム1で取得した胃粘膜の分光画像データを示すグラフである。図2(a)は、胃粘膜の健常部に対応する画素のスペクトルを示したグラフであり、図2(b)は、胃粘膜の病変部に対応する画素のスペクトルを示したグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施形態の画像処理部500によって実行される指標グラフ生成処理を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施形態の指標グラフ生成処理において生成、表示されるカラー画像を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態の指標グラフ生成処理において生成、表示される指標グラフである。
【図6】図6は、本発明の実施形態の指標グラフ生成処理において生成、表示される指標グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態の診断システム1のブロック図である。本実施形態の診断システム1は、胃や腸等の消化器の疾患を診断する際に医師によって参照される指標画像を生成するものである。診断システム1は、電子内視鏡100と、電子内視鏡用プロセッサ200と、画像表示装置300と、を有する。また、電子内視鏡用プロセッサ200には、光源部400と、画像処理部500が内蔵されている。
【0016】
電子内視鏡100は、体腔内に挿入される挿入管110を有し、挿入管110の先端部(挿入管先端部)111に、対物光学系121が設けられている。挿入管先端部111の周囲の生体組織Tの対物光学系121による像は、挿入管先端部111に内蔵されている撮像素子141の受光面に結像するようになっている。
【0017】
撮像素子141は、受光面に結像した像に対応する映像信号を、周期的に(例えば1/30秒おきに)出力している。撮像素子141から出力された映像信号は、ケーブル142を介して電子内視鏡用プロセッサ200の画像処理部500に送られる。
【0018】
画像処理部500は、A/D変換回路510、一時記憶メモリ520、コントローラ530、ビデオメモリ540及び信号処理回路550を有する。A/D変換回路510は、電子内視鏡100の撮像素子141からケーブル142を介して入力される映像信号をA/D変換してデジタル画像データを出力する。A/D変換回路510から出力されるデジタル画像データは、一時記憶メモリ520に送られ記憶される。コントローラ530は、一時記憶メモリ520に記憶された任意の単数又は複数の画像データを処理して一枚の表示用画像データを生成し、これをビデオメモリ540に送る。例えば、コントローラ530は、単一の画像データから生成された表示用画像データ、複数の画像データの画像が並べて表示される表示用画像データ、或いは複数の画像データを画像演算して得られた画像や、画像演算の結果得られるグラフが表示されている表示用画像データ等を生成して、これをビデオメモリ540に記憶させる。信号処理回路550は、ビデオメモリ540に記憶されている表示用画像データを所定の形式(例えばNTSC形式)のビデオ信号に変換し、出力する。信号処理回路550から出力されたビデオ信号は、画像表示装置300に入力される。この結果、電子内視鏡100によって撮像された内視鏡画像等が、画像表示装置300に表示される。
【0019】
また、電子内視鏡100にはライトガイド131が設けられている。ライトガイド131の先端部131aは挿入管先端部111の近傍に配置されており、一方ライトガイド131の基端部131bは電子内視鏡用プロセッサ200に接続されている。電子内視鏡用プロセッサ200は、キセノンランプ等の光量の大きい白色光を生成する光源430等を有する光源部400(後述)を内蔵しており、この光源部400によって生成された光は、ライトガイド131の基端部131bに入射するようになっている。ライトガイド131の基端部131bに入射した光は、ライトガイド131を通ってその先端部131aに導かれ、先端部131aから放射される。電子内視鏡100の挿入管先端部111の、ライトガイド131の先端部131aの近傍には、レンズ132が設けられており、ライトガイド131の先端部131aから放射される光は、レンズ132を透過して、挿入管先端部111の近傍の生体組織Tを照明する。
【0020】
このように、電子内視鏡用プロセッサ200は、電子内視鏡100の撮像素子141から出力される映像信号を処理するビデオプロセッサとしての機能と、電子内視鏡100の挿入先端部111近傍の生体組織Tを照明するための照明光を電子内視鏡100のライトガイド131に供給する光源装置としての機能を兼ね備えるものである。
【0021】
本実施形態においては、電子内視鏡用プロセッサ200の光源部400は、光源430と、コリメータレンズ440と、分光フィルタ410と、フィルタ制御部420と、集光レンズ450とを有している。光源430から出射される白色光は、コリメータレンズ440によって平行光となり、分光フィルタ410を通過した後、集光レンズ450によってライトガイド131の基端部131bに入射する。分光フィルタ410は、光源430から入射される白色光を所定の波長の光に分光する(すなわち、波長選択する)円盤型のフィルタであり、回転角度に応じて400、405、410、・・・、800nmの狭帯域(帯域幅約5nm)の光を波長選択して出力する。分光フィルタ410の回転角度は、コントローラ530に接続されたフィルタ制御部420によって制御されており、コントローラ530がフィルタ制御部420を介して分光フィルタ410の回転角度を制御することにより、所定の波長の光がライトガイド131の基端部131bに入射し、挿入管先端部111の近傍の生体組織Tを照明する。そして、生体組織Tによって反射された光が、上述のように撮像素子141の受光面に結像し、映像信号がケーブル142を介して画像処理部500に送られる。
【0022】
画像処理部500は、ケーブル142を介して得られた生体組織Tの像から、波長5nm刻みの複数の分光画像を得る装置である。具体的には、分光フィルタ410が、中心波長400、405、410、・・・、800nmの狭帯域(帯域幅約5nm)の光をそれぞれ波長選択して出力している場合に、各波長の分光画像を得る。
【0023】
画像処理部500は、分光フィルタ410によって生成される複数の分光画像を処理して、後述するようにカラー画像又は指標グラフを生成する機能を有する。そして、画像処理部500は、処理された分光画像及び指標グラフを画像表示装置300に表示させる。なお、本実施形態においては、画像表示装置300は、タッチパネルスクリーンで構成され、例えば、後述する指標グラフ生成処理において、ユーザが画面をタッチすることにより各種入力を行うことができる。
【0024】
なお、分光フィルタ410には、分光フィルタ(ファブリ=ペロー型のフィルタ等)や、透過型回折格子を使用して分光画像を得る、既知の分光画像撮影方法を採用したものが利用可能である。
【0025】
前述のように、本実施形態の画像処理部500は、波長の異なる複数枚の分光画像を用いて、指標グラフを生成する機能を有する。この指標グラフを生成する指標グラフ生成処理について、以下に説明する。
【0026】
まず、分光画像のデータを評価するための指標値及び病変部及び健常部を特定する原理について説明する。図2は、本発明の実施形態の診断システム1で取得した胃粘膜の分光画像データを示しており、個々の波形は、分光画像中の特定の画素のスペクトル(すなわち、各波長における輝度値)を示している。なお、図2(a)は、胃粘膜の健常部に対応する画素のスペクトルを示したものであり、図2(b)は、胃粘膜の病変部に対応する画素のスペクトルを示したものである。図2に示されるように、胃粘膜画像のスペクトルは、健常部であるか病変部であるかに拘わらず、波長600〜700nmに大きなピーク(第1のピーク)を有し、且つ、波長500nmを中心に小さなピーク(第2のピーク)を有する点で共通するが、病変部に対応する画素のスペクトルは、健常部に対応する画素のスペクトルに比較して分散(バラツキ)が大きく、第2のピークについては、健常部の画素のレベルの方が、病変部の画素のレベルよりも、明らかに高いことが分かる。従って、分光画像の各画素のスペクトルを解析することにより、健常部と病変部とを識別することが可能であることが分かる。しかしながら、通常、健常部と病変部とは連続しているため、このようなスペクトルの形状による判断では、健常部と病変部との境界を明確に区別することは困難である。そこで、後述するように、本発明の発明者は、分光画像データについてピアソンの相関係数を用いて分析を行い、相関係数に基づいて健常部と異常部とを定量的に判断する構成を見出した。
【0027】
ピアソンの積率相関係数によれば、2組の数値からなるデータ列x及びyを下記の数1で表した場合、相関係数は下記の数2のように求められる。
【0028】
【数1】

【数2】

【0029】
ここで、X及びYは、それぞれデータx={x}及びy={y}の相加平均である。数2によって求められる相関係数は、データ列xの平均からのずれを表すベクトルとデータ列yの平均からのずれを表すベクトルとのなす角の余弦を表しており、−1から1の間の実数値をとる。そして、相関係数が1に近いときはデータ列xとyには正の相関(同じ方向の相関)があることとなり、−1に近ければ負の相関(逆の方向の相関)があることとなり、相関係数が0に近いときはデータ列xとyの相関は弱いこととなる。このように、数2に2つのデータ列xとyを与えることで、データ列xとyの類似性及び非類似性を評価することができる。
【0030】
本実施形態の指標グラフ生成処理は、数2のピアソンの相関係数を指標値として利用したものであり、本実施形態においては、健常部の画素のスペクトルを教師データとしてデータ列xに与え、分光画像の各画素のデータをデータ列yに与えることにより、分光画像の各画素と健常部の各画素との非類似性を評価し、また、病変部の画素のスペクトルを教師データとしてデータ列xに与え、分光画像の各画素のデータをデータ列yに与えることにより、分光画像の各画素と病変部の各画素の類似性を評価している。健常部の画素のスペクトルを教師データとした場合、教師データとの非相関性(非類似性)について評価することにより、健常部とは異なる特性の画素(すなわち、病変部と思われる画素)の有無を容易に調べることができるため、電子内視鏡によるスクリーニング検査(一次検査)を行う上で有効である。また、病変部の画素のスペクトルを教師データとした場合、教師データとの相関性(類似性)について評価することにより、病変部と思われる範囲を容易に特定することができるため、例えば、切除範囲を特定する目的で行われる確認検査(二次検査)を行う際に有効である。このように、本実施形態においては、数2で求められる分光画像の各画素の相関係数を指標値とし、画像処理部500が、この指標値に基づいた指標グラフを生成、表示することにより、ユーザが病変部の有無の判断及び病変部の範囲の特定をし易いように構成されている。そして、更に本実施形態においては、2次元的な分光情報を用いることにより、1地点(画素)の分光特性の絶対評価だけではなく、周辺領域との変化を相対的に比較できる構成としている。これによって、生体の組織、構造、個体差、疾患の状態により、絶対評価が困難な場合でも、高い精度での病変部の検出を可能にしている。
【0031】
次に、本実施形態の画像処理部500によって実行される指標グラフ生成処理について説明する。図3は、本実施形態の画像処理部500によって実行される指標グラフ生成処理を示すフローチャートである。指標グラフ生成処理は、カラー画像及び指標グラフを生成し、画像表示装置300に表示を行うためのルーチンである。図4は、図3の指標グラフ生成処理によって画像表示装置300に表示されるカラー画像を示した模式図であり、図5及び図6は、図3の指標グラフ生成処理によって画像表示装置300に表示される指標グラフである。本ルーチン(指標グラフ生成処理)は、診断システム1の電源投入によって実行される。
【0032】
本ルーチンが開始すると、ステップS1が実行される。ステップS1では、画像処理部500は、フィルタ制御部400に分光画像を取得させるための制御信号を送る。フィルタ制御部400は、この制御信号を受信すると、分光フィルタ410の回転角度を制御し、400、405、410、・・・、800nmの狭帯域(帯域幅約5nm)の光を順次波長選択し、画像処理部500は、各波長で得られる分光画像を撮影して一時記憶メモリ520に記録する。次いでステップS2に進む。
【0033】
ステップS2では、ステップS1にて取得した分光画像のうち、中心波長が435nm、545nm、及び700nmとなる3枚の画像を取り出し、中心波長が435nmの画像を青色プレーンに、中心波長が545nmの画像を緑色プレーンに、中心波長が700nmの画像を赤色プレーンに記憶させた一枚のカラー画像データを生成する。このカラー画像データは、上記のように青色の波長である435nmの分光画像、緑色の波長である545nmの分光画像及び赤色の波長である700nmの分光画像から得られるものであり、図4に模式的に示されるような通常観察の内視鏡画像と同等のカラー画像となる。そして、画像処理部500は、生成されたカラー画像データをビデオメモリ540に送り画像表示装置300のスクリーンの左側に表示させる。なお、図4の略円形で示される部分は、腫瘍部(病変部)であることを示している。次いで、ステップS3に進む。
【0034】
ステップS3では、ステップS1又はS2が実行されている間に、電子内視鏡用プロセッサ200の操作部(不図示)が操作されて、指標グラフの生成を指示するトリガ入力が発生したか否かの確認が行われる。トリガ入力が発生していないのであれば(S3:NO)、ステップS1に進み、再度分光画像の取得が行われる。すなわち、トリガ入力が無い場合、分光画像から得られるカラー画像は、逐次更新されて画像表示装置300に表示され続ける。一方、ステップS1からS2が実行されている間にトリガ入力が発生していた場合は(S3:YES)、ステップS4に進む。
【0035】
ステップS4では、表示されているカラー画像から教師データの選択を行う。具体的には、画像処理部500は、画像表示装置300上に、教師データの選択を促す表示を行い、ユーザはこの表示に従って、カラー画像内の教師データとすべき画素又は領域を画像表示装置300上をタッチすることで入力する。上述したように、本実施形態においては、画像表示装置300はタッチパネルスクリーンで構成されており、ユーザの指によってタッチされて特定されたカラー画像内の画素、又は、ユーザの指によってなぞられて特定されたカラー画像内の領域の分光画像データ(スペクトル)が教師データとして選択される。上述したように、スクリーニング検査(一次検査)においては、健常部とは異なる特性の画素(すなわち、病変部と思われる画素)の有無を調べることを目的とするため、例えば、明らかな健常部の画素又は領域が教師データとして選択される。また、確認検査(二次検査)においては、病変部と思われる範囲を特定することを目的とするため、例えば、明らかな病変部の画素又は領域が教師データとして選択される。次いで、ステップS5に進む。
【0036】
ステップS5では、画像処理部500は、ステップS4の教師データの選択が終了したか否かを判断する。教師データの選択が終了していない場合には(S5:NO)、処理はステップS4に戻り、教師データの選択を待ち、教師データの選択が終了している場合には(S5:YES)、処理はステップS6に進む。
【0037】
ステップS6では、ステップS4で選択されたカラー画像内の画素又は領域について、教師データの代表値が求められる。具体的には、ステップS4において、カラー画像内の特定の画素が選択された場合には、その画素の分光画像データ(スペクトル)を教師データの代表値とし、ステップS4において、カラー画像内の特定の領域が選択された場合には、その領域に含まれる画素の分光画像データを平均して教師データの代表値として算出する。次いで、ステップS7に進む。
【0038】
ステップS7では、画像処理部500は、数2を用いてピアソンの相関係数を算出する。具体的には、画像処理部500は、ステップS6で算出された教師データの代表値を数2のデータ列xに与え、ステップS1で取得された分光画像の各画素のデータを順次データ列yに与えることにより、画素毎に相関係数を求める。すなわち、ステップS7によって、分光画像一画面分の画素の相関係数が求められる。次いで、ステップS8に進む。
【0039】
ステップS8では、画像処理部500は、ステップS7で算出されたピアソンの相関係数についてグラフ(指標グラフ)を生成し、画像表示装置300のスクリーンの右側にカラー画像と並べて表示する。図5は、ステップS4において、明らかな健常部の画素又は領域が教師データとして選択された場合に、ステップS8で表示される相関係数の等高線グラフを示し、図6は、ステップS4において、明らかな病変部の画素又は領域が教師データとして選択された場合に、ステップS8で表示される相関係数の等高線グラフを示している。なお、図5及び図6のX軸及びY軸は、分光画像(カラー画像)を構成する各画素の座標を示し、Z軸は相関係数の絶対値を示している。
【0040】
ステップS4において、明らかな健常部の画素又は領域が教師データとして選択された場合、健常部とは異なる特性の画素(すなわち、病変部と思われる画素)は教師データとの相関性が低くなるため、病変部に相当する画素の相関係数は小さい値(0に近い値)をとり、病変部に相当する領域が窪んで観察される(図5)。一方、ステップS4において、明らかな病変部の画素又は領域が教師データとして選択された場合、病変部とは異なる特性の画素(すなわち、健常部と思われる画素)は教師データとの相関性が低くなるため、健常部に相当する画素の相関係数は小さい値(0に近い値)をとり、病変部に相当する領域が突出して観察される(図6)。このように、カラー画像と並べて指標グラフを表示することで、カラー画像のどの領域が病変部である可能性の高いかを確認、特定することが可能となる。次いで、ステップS9に進む。
【0041】
ステップS9では、画像処理部500は、再度指標グラフを生成するかどうかを問い合わせるメッセージを画像表示装置300に表示させると共に、電子内視鏡用プロセッサ200の操作部(不図示)からの入力を受け付ける。診断システム1のユーザが操作部を操作して、指標グラフの再生成を選択した場合は(S9:YES)、ステップS1に戻る。一方、一定時間(例えば数秒)の間、指標グラフの再生成が指示されなかった場合は(S9:NO)、ステップS10に進む。
【0042】
ステップS10では、画像処理部500は、指標グラフの表示を終了させるかどうかを問い合わせるメッセージを画像表示装置300に表示させると共に、電子内視鏡用プロセッサ200の操作部(不図示)からの入力を受け付ける。診断システム1のユーザが操作部を操作して、指標グラフの表示を終了することを選択した場合は(S10:YES)、本ルーチンを終了する。一方、一定時間(例えば数秒)の間、指標グラフの表示の終了指示されなかった場合は(S10:NO)、ステップS9に進む。
【0043】
以上のように、図3のフローチャートで示されるルーチンを画像処理部500が実行することにより、病変部の位置を推定するのに有効な指標グラフが、画像表示装置300に表示される。このように、病変部である可能性の高い領域が指標グラフとして表示されることにより、ユーザは、病変部の位置や範囲を特定しながら、また周辺組織と比較しながら診断することが可能となる。
【0044】
上記のように、本実施形態においては、分光画像から教師データを選択して代表値を算出し、この教師データの代表値を数2のデータ列xに与え、分光画像の各画素のデータをデータ列yに与えることにより、画素毎に相関係数(指標値)を求めている。しかしながら、本発明は上記の構成に限定されるものではない。例えば、分光画像から教師データを選択する構成に代えて、教師データとして既知のデータ(例えば、病変部分の既知のデータ)を用いる構成としても良い。
【0045】
また、本実施形態のステップS8で表示される指標グラフは、図5及び図6に示されるものに限定されるものではなく、相関係数を等高線表示するものや相関係数の大きさに応じて色分けされたカラーの二次元グラフとしても良い。
【0046】
また、本実施形態においては、画像処理部500は、波長400〜800nmの範囲について5nm刻みで取得した分光画像データを用いる構成としたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。病変部に対応する画素のスペクトルと健常部に対応する画素のスペクトルとを識別できれば、必ずしも5nm刻みで分光画像データを取得する構成である必要はなく、分光画像データを取得する波長の間隔は、例えば、1〜10nmの範囲で選択可能な構成とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 診断システム
100 電子内視鏡
110 挿入管
111 挿入管先端部
121 対物光学系
131 ライトガイド
131a 先端部
131b 基端部
132 レンズ
141 撮像素子
142 ケーブル
200 電子内視鏡用プロセッサ
300 画像表示装置
400 光源部
410 分光フィルタ
420 フィルタ制御部
430 光源
440 コリメータレンズ
450 集光レンズ
500 画像処理部
510 A/D変換回路
520 一時記憶メモリ
530 コントローラ
540 ビデオメモリ
550 信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内において所定波長領域の分光画像を撮影して分光画像データを得る分光画像撮影手段と、
前記分光画像撮影手段から前記分光画像データを取得し、該分光画像データと、病変部又は健常部を代表する教師データとに基づいて指標グラフを生成し、出力する画像処理手段と、
前記指標グラフが表示されるモニタと、
を有し、
前記画像処理手段は、前記分光画像の各画素について、前記教師データを第1のデータ系列とし、前記分光画像データを第2のデータ系列としてピアソンの積率相関係数を求め、該ピアソンの積率相関係数に基づいて前記指標グラフを生成すること
を特徴とする診断システム。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記分光画像データから前記教師データを生成する教師データ生成手段を有することを特徴とする請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
ユーザから前記分光画像内の画素又は領域の指定を受け付ける操作部を更に有し、
前記教師データ生成手段は、前記操作部で指定された前記分光画像内の画素又は領域に基づいて前記教師データを生成すること
を特徴とする請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記教師データ生成手段は、前記操作部において、前記分光画像内の領域が指定された場合、該領域内の画素について前記分光画像データの平均値を求め、該平均値を教師データとすること
を特徴とする請求項3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記分光画像データのうち、青色、緑色、赤色の波長帯域のものを合成してカラー画像を出力し、
前記モニタには、前記カラー画像と前記指標グラフとが並べられて表示される
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の診断システム。
【請求項6】
前記所定波長領域は、400〜800nmであり、前記分光画像は、1〜10nmの範囲で定められる所定の波長毎に撮影された複数の画像であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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