説明

豆腐用充填容器

【課題】密封式の充填豆腐のパッケージから豆腐を容易に取り出せるようにする。
【解決手段】樹脂積層体からなる樹脂製容器11の豆腐21と接する層12に、炭酸カルシウムなどの親水性無機粒子15を混合する。豆腐生成後、消費者の手元に届くまでの間に豆腐からしみ出た水分が親水性無機粒子15の周囲に集まり、水の膜23を形成する。この膜が樹脂製容器11と豆腐21との間に隙間を生じさせ、容易に豆腐を取り出せるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、豆腐を充填して密封する容器に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐の容器として、樹脂シートを成形した樹脂製容器を用い、小口に切断した豆腐を水に浸して密封することが従来行われていた。しかし、その形態では輸送時に豆腐が水中で揺れて容器に激突し、崩れてしまうことがあった。これに対し、直接に樹脂製容器へ豆乳とにがりなどの凝固剤とを流し込んで密封し、容器内にて固める充填豆腐が考案され、広く用いられるようになっている(例えば特許文献1)。容器内で密封、殺菌、凝固できるため、この充填豆腐は保存性が高く、長距離の輸送にも耐えうる。
【0003】
この充填豆腐は、消費者の手元に完全な状態で届けやすいが、容器に密着しているため、取り出す際に一部が容器にへばりついたままとなって、使用時には結局一部が崩れてしまうということがある。このため、鍔から容器の内側へ向かう切り込みを入れて豆腐を落としやすくしたり(特許文献2)、容器を構成するポリオレフィン系樹脂に多価アルコール及びポリオキシエチレン誘導体を添加したり(特許文献3)、界面活性剤を添加したりして、取り出しを容易にするといった検討がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−022377号公報
【特許文献2】特開2010−247892号公報
【特許文献3】特開平07−062163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の容器では形状を変化させるため、従来の製造装置を改造しなければならず、特許文献3の樹脂組成物では、取り出しを容易にするための配合が難しかった。また、界面活性剤による場合は十分な量を配合しなければならず、製造の際の負担が大きく、取り出しの成功率も十分ではなかった。
【0006】
そこでこの発明は、樹脂の配合とは異なったアプローチによって、樹脂製充填容器から内容物を取り出しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、炭酸カルシウムなどの、親水性を示す無機粒子を樹脂に含有させた樹脂組成物からなるシート又はフィルムを、樹脂積層体のうち豆腐に接する面に配して親水層と成し、これを成形させた豆腐充填用樹脂製容器により上記の課題を解決したのである。
【0008】
炭酸カルシウムなどの親水性無機粒子が、表面を構成するシートの樹脂組成物に添加されていると、シート及びフィルムの表面にこの親水性無機粒子が少なからず露出することになる。充填豆腐が出来てから、店頭に並んで台所に到達するまでは、少なくとも5時間以上、ほとんどの場合8時間以上かかるが、この間に、出来上がった豆腐が組織内に抱える水分子が、容器表面に露出する親水性無機粒子と親和して、豆腐と容器との間に水の膜を形成する。この膜によって豆腐と容器の間に隙間が生じるため、充填容器をひっくり返すだけで、容器から豆腐が容易に乖離して、皿に盛り付けることができる。これは、製造直後には見られない性質で、製造から店頭到達までにかかる豆腐ならではの時間経過によって初めて効果を発揮する。
【0009】
なお、特許文献3[0009]に、容器用樹脂組成物中に充填材や白色顔料として炭酸カルシウムを添加させた樹脂製容器は従来より存在していたが、容器を構成する樹脂全体に炭酸カルシウムを導入しても、親水性を発揮させるべき表面に集中せず、厚みのある容器の樹脂内部に埋没してしまい、本発明のような効果を発揮できなかった。本発明では、炭酸カルシウムなどの親水性無機粒子を充填材ではなく、親水性集水剤として用いるために、樹脂積層体のうち豆腐などに接する表面の親水層に用いる樹脂組成物に親水性無機粒子を集合させることで、この問題を解決している。
【発明の効果】
【0010】
この発明により、充填豆腐の容器から豆腐を容易に取り出すことが出来る。親水性無機粒子を含有させるのは、一体成形の樹脂ではなく、積層体の表面層とするため、含有させた親水性無機粒子が樹脂中に埋没せずに、表面に露出しやすく、効果を発揮しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明にかかる充填豆腐のパッケージの外観図
【図2】開封時の外観図
【図3】(a)第一の実施形態にかかる容器に豆腐原料を流し込む際の容器内の断面図、(b)豆腐生成から一定時間経過した後の容器内の断面図
【図4】(a)第二の実施形態にかかる容器に豆腐原料を流し込む際の容器内の断面図、(b)豆腐生成から一定時間経過した後の容器内の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明について説明する。この発明は、図1に示すような充填豆腐21用の樹脂製容器11である。輸送時保存時は樹脂フィルム22が、樹脂製容器11の外周に設けた鍔部16にラミネートされて密封されており、食べる際には樹脂フィルム22を剥がして、図2の使用図のように樹脂製容器11をひっくり返すことで、豆腐21を取り出すことができる。
【0013】
この樹脂製容器11は、樹脂積層体のシートを成形したものであり、少なくとも二層の樹脂製シートからなり、三層であってもよい。第一の実施形態として、二層の場合の断面図を図3(a)に示す。豆乳及び凝固剤からなる豆腐原料20と接するのが親水層12であり、その下に基盤層13が積層されている。これらの層を構成する樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を用いるとよく、プロピレンホモポリマー、又はエチレン−プロピレンランダム共重合体が好ましい。
【0014】
特に、親水層12は、樹脂フィルム22と接着させやすくするため、エチレン−プロピレンランダム共重合体を用いると好ましい。なお、その場合のエチレン単位の占める率は5%程度であればよい。
【0015】
親水層12を構成する樹脂組成物シートには、親水性無機粒子15が含まれる。親水性無機粒子15は、水との親和性が高く、水を集めやすい無機粒子であり、例えば炭酸カルシウムを用いると、親和性が高く、入手しやすく、白色顔料としての効果も併せ持つため好ましい。
【0016】
親水層12を構成する樹脂組成物のうち、親水性無機粒子15が占める比率は、樹脂組成物全体のうち4質量%以上であることが望ましく、5.5質量%以上であるとより望ましい。4質量%未満では表面に露出する親水性無機粒子の量が不足して表面に集まる水の量が不十分になり、水の膜が十分に形成されずに豆腐が破損してしまう可能性が無視できなくなる。一方で15質量%以下であることが望ましく、9質量%以下であるとより望ましい。15質量%を超えると、容器を製造するための積層シートを形成することが困難になり、出来たとしても容器への加工がしにくくなるおそれが高まってしまう。
【0017】
また、親水層12は充填豆腐21をさらに剥がし易くするための離型剤として作用する配合剤を含んでいてもよい。そのような配合剤として用いることができる物質としては、多価アルコール及びその誘導体、並びにポリオキシエチレン誘導体が上げられる。上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン等が挙げられる。また上記の多価アルコール誘導体としては、上記多価アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。ここで利用可能な脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリル酸、オレイン酸、カプロン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸などの、炭素数6〜22の脂肪酸が挙げられる。ポリオキシエチレン誘導体の具体例としては、例えば、ステアリルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミド、ラウリルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。また、これらを混合して用いてもよい。
【0018】
一方、基盤層13は容器として一定の強度を有することが望ましいため、比較的強度が高いプロピレンホモポリマーであると好ましい。
【0019】
また、上記の親水層12及び基盤層13を構成する樹脂組成物のいずれも、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂や添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
これらの層を構成する樹脂組成物のメルトフローレートは1以下であることが望ましい。1を超えると加熱成形しにくく、容器として不向きである。また、層間の接着を安定させるため、各層のメルトフローレートはほぼ同一であることが望ましい。
【0021】
樹脂製容器11の厚み、すなわち、親水層12、基盤層13を合わせた厚みは、1mm以下であるのが望ましく、0.7mm以下であるとより望ましい。1mmを超えると厚すぎて容器に成形しにくく、また、樹脂が無駄になってしまうからである。一方、薄い方が親水性無機粒子を表面に露出させやすくなるため好ましいが、薄すぎると強度に不安が生じるので、0.2mm以上であると望ましい。
【0022】
上記樹脂製容器11のうち、親水層12の厚みは、0.05mm以下が望ましい。厚すぎると表面に露出しない親水性無機粒子が多すぎて、発明の効果が十分に発揮されず、また、無駄が多くなりすぎる。一方で、0.02mm以上が望ましい。接着力の向上と、炭酸カルシウムの配置のため、連続層を形成できる最小限の厚さであればよいが、0.02mm未満では連続層の形成が難しくなるからである。薄すぎるとかえって十分な量の親水性無機粒子を配置させることができなくなってしまう。
【0023】
また、親水層12が含む親水性無機粒子の平均粒径は、上記の親水層12の厚みに対して、4%〜9%ほどであると好ましい。小さすぎると表面に露出しにくく、大きすぎると成形の邪魔になる可能性があり、それ以上大きくても水を集める効果に大きな向上が見込みにくい。具体的には、最大径が0.03mm以下であると望ましく、0.02mm以下であると望ましい。また、重量中間値が0.002〜0.005mm程度であるとよい。
【0024】
上記の基盤層13の厚みは、樹脂製容器11の厚み全体のうち80%以上を占めると、強度の点から望ましい。親水層12が厚すぎると無駄が多く、容器の強度が低下してしまうためである。一方で、90%を超えると、親水層12が薄くなりすぎて接着性親水性の点から問題を起こすか、又は基盤層13自体が厚くて無駄となってしまう。
【0025】
このような親水層12,基盤層13からなる樹脂積層体は、一般的な押出成形によって積層されたシートとして製造することができる。そうして得られた樹脂積層体を、真空成形や圧空成形、プレス成形などによって、図1に示すような樹脂製容器11の形状に成形する。成形の条件は一般的な樹脂成形品と同様でよい。
【0026】
樹脂製容器11には、豆乳と凝固剤とからなる豆腐原料20を流し込み(図3(a))、その上からポリプロピレン製フィルムを接着面に配した樹脂フィルム22を、樹脂製容器11の鍔部16に接着させて密封する。なお、樹脂フィルム22はポリプロピレンのみからなるフィルムでもよいし、ポリプロピレン製フィルムとポリエステル製フィルムなどとの積層フィルムでもよい。密封後、時間をおくか、又は必要に応じて加熱することで、凝固剤により密封された樹脂製容器11内部で豆腐原料20が豆腐21に変性する。
【0027】
上記凝固剤としては、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどのカルシウムイオン又はマグネシウムイオンがタンパク質分子間を架橋するものや、有機酸によりタンパク質を変性させるものなど、特に限定されない。
【0028】
豆腐21に変性した後、さらに時間経過が進むにつれて、豆腐21が有する水分の一部が染み出し、親水層12の表面に露出した親水性無機粒子15と親和して、表面に水の膜23を形成する(図3(b))。こうして得られた充填豆腐の密封式パッケージの中から容易に豆腐21を取り出せるに十分な水の膜23が生じるのは、加熱によって豆腐21を生じさせてから概ね5時間以上であり、8時間以上経過すればほぼ十分な水の膜23が生じる。
【0029】
また、樹脂製容器11が三層からなる実施形態について説明する。この場合の断面図を図4(a)及び(b)に示す。すなわち、基盤層13のさらに外側に、最外層14を有する形態である。この最外層14の組成を親水層12と同じ組成とすることで、両面対照の積層シートとし、いずれの面からでも内容部17を形成できるようにしてもよい。この形態の場合、基盤層13の望ましい厚さは、上記の第一の実施形態と同様に、樹脂製容器11全体の80〜90%である。また、最外層14の望ましい厚さは、親水層12と同様となる。
【0030】
また、さらに他の形態として、最外層14に高い強度を発揮する樹脂組成物を用いてもよい。
【実施例1】
【0031】
次に、この発明にかかる豆腐充填用樹脂製容器を、図4に示す三層構造にて実際に製造した例を示す。
【0032】
親水層及び最外層に用いる樹脂組成物として、ポリエチレン樹脂と炭酸カルシウムとを質量混合比20:80で混合したマスターバッチ(竹原化学工業株式会社製:MAX6080,粒度40±5個/g)と、ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製:プライムポリプロB221WB)と、ポリエチレン樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製サンテックM1703)と、帯電防止剤(理研ビタミン(株)製:リケマスターESR−793:グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物をポリエチレン樹脂に分散させたもの)とを、質量混合比7.5:65:22.5:4.0で混合して、炭酸カルシウムが6質量%を占める樹脂組成物を得た。なお、ここで帯電防止剤は、充填豆腐に対する離型剤として作用させるために含有させている。
【0033】
また、中間層には、メルトフローレート(MFR)=0.5の押出用ポリプロピレンと、MFR=0.3のポリエチレンとからなる樹脂組成物を用いた。
【0034】
押し出し成形機によりこれらの三層からなる樹脂積層体を製造した。親水層、基盤層、最外層の厚みはそれぞれ、0.04mm、0.52mm、0.04mmとした。この樹脂積層体を、真空成形機によって、鍔部の幅が7mm、内容部の深さが35mm、正方形である内容部の縁の一辺が68mmである充填容器を得た。
【0035】
これに、豆乳と、凝固剤の混合物である豆腐原料を流し込み、樹脂フィルム(ポリプロピレン製、厚み0.05mm)を鍔部に接着させて密封した。次に、90℃の熱湯に漬けて加熱して豆腐原料を変性させて豆腐を得た。それから、冷水で冷却した後、冷蔵庫にて10時間保管した後に樹脂フィルムを剥がして容器をひっくり返したところ、豆腐が崩れたり破損したりすることなく、容器に移すことができた。
【符号の説明】
【0036】
11 樹脂製容器
12 親水層
13 基盤層
14 最外層
15 親水性無機粒子
16 鍔部
17 内容部
20 豆腐原料
21 豆腐
22 樹脂フィルム
23 水の膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性無機粒子を樹脂に含有させた樹脂組成物からなる親水層を豆腐と接する面に配した樹脂積層体からなる豆腐充填用樹脂製容器。
【請求項2】
上記親水性無機粒子が炭酸カルシウムである請求項1に記載の豆腐充填用樹脂製容器。
【請求項3】
上記樹脂積層体は、親水層に隣接してプロピレンホモポリマーからなる基盤層を有し、
上記親水層を構成する上記樹脂組成物に用いる樹脂は、エチレン−プロピレンランダム共重合体であり、
上記基盤層が容器の厚みのうち、80%以上90%以下を占める、請求項1又は2に記載の豆腐充填用樹脂製容器。
【請求項4】
親水性無機粒子を樹脂に含有させた樹脂組成物からなる親水層を一の表面に配した樹脂積層体を、周囲に鍔部を有し中心に内容部となる凹みを有し、前記親水層を有する面が内容部の内側となるように、真空成形、圧空成形、又はプレス成形した豆腐充填用樹脂製容器に、豆乳及び凝固剤を含む豆腐原料を充填し、樹脂フィルムを前記鍔部に接着させて密封した後、加熱して豆腐原料を豆腐に変性させ、五時間以上経過させて生成した豆腐と親水層との間に水の膜を生じさせ、開封の際にその水の膜の介在によって豆腐を容器から乖離させやすくした、充填豆腐の密封式パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112375(P2013−112375A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260191(P2011−260191)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(504014831)ワイコム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】