説明

貼り合せ構造体及び貼り合せ構造体の製造方法、並びに被処理基板の構造体の製造方法

【課題】被処理基板における凹凸形状を備えた面と下地基板の表面とを仮接着した後に減圧下において処理する際の、加工精度、処理効率、及び/又は処理の安全性を高める。
【解決手段】本発明の1つの貼り合せ構造体40の製造方法は、凹部42A及び凸部42Bが形成された第1表面を備える被処理基板41の第1表面42上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給工程と、その溶液状仮接着材を加熱することにより、第1表面42の凸部42Bを10μm超20μm以下の厚みの仮接着材46Bによって覆う仮接着材形成工程と、その仮接着材46Bを介して、第1表面42と平板状の下地基板48とを一時的に貼り合わせる貼り合せ工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合せ構造体及び貼り合せ構造体の製造方法、並びに被処理基板の構造体の製造方法
に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンやその他の材料を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスが適用される技術分野は日進月歩で拡大しており、近年では、その技術がマイクロタービンやセンサーのみならず情報通信分野や医療分野へも適用されている。加えて、シリコンやその他の材料の微細加工技術を利用した構造物も、前述の分野を含む多分野で活用されている。このMEMS技術及び微細加工技術を支える主要な要素技術は、シリコンやその他の材料の異方性ドライエッチング(以下、単に異方性エッチングともいう。)及び等方性ドライエッチング(以下、単に等方性エッチングともいう。)である。これらの要素技術の発展がMEMS技術及び微細加工技術の発展を支えているといえる。ここ数年来、シリコンやその他の材料の異方性ドライエッチング及び等方性ドライエッチングの技術は飛躍的に進歩した。
【0003】
上述の要素技術の開発に長年携わってきた本願出願人も、これまでに多数の新しい技術を、特許出願等を通して開示してきた。そのうち、ある下地基板(「保持基板」と言われることもあるが、本出願では、総称として「下地基板」を採用する。)上に仮接着したシリコンやその他の材料の基板をいわゆるドライプロセスによって処理する、下記特許文献1又は2に開示されるような技術は、基板の加工技術そのものではないが、その加工精度や処理効率を高めるための要素技術として極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−228556号公報
【特許文献2】特開2005−187740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1又は2に記載された開示技術は、前述の下地基板の表面と仮接着する面が平坦面である処理基板を、主たる適用対象として創出されている。そのため、特に、上述の処理対象基板がある程度の高さ/深さの凹凸面を有している基板にとって、必ずしも適用し易い技術であるとはいえないことが明らかとなってきた。
【0006】
処理対象となる基板の構造は、ドライプロセスに代表される処理技術の進歩に伴って近年さらに微細化が進むとともに複雑になっている。基板の両面が凹凸形状を備える被処理基板の構造体は、その代表的な例の1つである。例えば、ドライプロセスの1つであるプラズマ処理を用いてそのような構造を形成するためには、一方の面をプラズマ処理して凹凸形状を形成した後に、他方の面を処理することとなる。そうすると、その他方の面を処理する際に、凹凸形状を備えた面を前述の下地基板の表面と仮接着する必要が生じるため、それらの間に介在するワックスの状態によってはその後の加工処理に悪い影響を与え得ることが知見された。
【0007】
具体的には、ある凹凸形状を備えた面を仮接着面とする被処理基板において、貼り合せ前にその面上にワックス層を形成するときに、その凹凸形状の形態(morphology)やアスペクト比によってはワックスが十分に凹部の隅々にまで行き渡らない状況が生じ得る。そうすると、一般的にドライプロセスにおいて採用されている減圧下(又はいわゆる真空下)での処理においてその凹凸内に残存する空気等(以下、本出願では「残存ガス」という。)が処理中に膨張するため、被処理基板又はその一部がチャンバー内で破損する可能性が高まることになる。加えて、例えばプラズマ処理の場合、減圧下において処理中の処理基板温度が上昇するため、前述の残存ガスがさらに膨張することになる。そうすると、前述の影響がより生じ易くなる。また、異方性エッチングや等方性エッチング又はそれらの組合せによって形成された、高いアスペクト比を有する複雑な凹凸形状を備えた面を接着面とする場合も、残存ガスの量が比較的多くなるため、前述の影響が生じ易くなる。
【0008】
また、上述の問題に加え、特許文献1又は2ではワックスの粘度を下げるために加熱処理を行うことが開示されているが、この加熱処理に伴う電力や処理時間の無駄も、多くの基板を処理する量産段階においては無視できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の技術課題のうち少なくとも1つを解決することにより、特に、被処理基板における凹凸形状を備えた面と前述の下地基板の表面とを仮接着した後に減圧下においてドライプロセスを行う際の加工精度、処理効率、及び/又は処理の安全性の向上に大きく貢献するものである。
【0010】
発明者は、ドライプロセスにおける被処理対象基板が凹凸構造を有している場合は、平坦面のみを有する基板の処理とは異なる工夫が要求されると考えた。発明者が鋭意研究と試行錯誤を重ねた結果、仮接着面間に介在するワックスの質的側面と形態的側面とを同時に改善することにより、上述の課題が解決することを知見した。加えて、前述の技術的課題が、被処理基板がシリコンに代表される半導体基板を対象とする場合に限定されないことも、上述の要素技術が加工対象とする基板の種類が増えるにしたがって知見されてきた。本発明は、これらの知見に基づいて創出された。
【0011】
本発明の1つの貼り合せ構造体の製造方法は、以下の3つの工程を含む。
(1A)凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板のその第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給工程。
(2A)前述の溶液状仮接着材を加熱することにより、前述の第1表面の凸部を10μm超20μm以下の厚みの仮接着材によって覆う仮接着材形成工程。
(3A)前述の仮接着材を介して、前述の第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せ工程。
なお、各工程の間に基板の移動や検査等の本発明の要旨とは関係のない工程が行われることを妨げるものではない。
【0012】
この貼り合せ構造体の製造方法によれば、いわゆる常温(代表的には25℃。以下、同じ。)において低粘度な溶液状仮接着材(代表的にはワックス)が被処理基板の第1表面上に供給される。そのため、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができる。加えて、この貼り合せ構造体の製造方法によれば、単に低粘度の溶液状仮接着材を採用するだけではなく、溶液状仮接着材の加熱によって、10μm超20μm以下の厚みの仮接着材が前述の第1表面の凸部を覆うことになる。その結果、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【0013】
なお、上述の加熱後の仮接着材の厚みが10μm以下であれば、その後の処理が行われた後に下地基板と被処理基板とが密着しすぎて互いに離すことが出来ない、又は離す際に被処理基板を破損する可能性が高まる。一方、前述の厚みを20μm以上にすることも好ましくない。例えば、スピンコーター等を用いて前述の厚みを20μm以上になるように形成することが極めて困難であるとともに、処理効率の悪化を招くことになる。
【0014】
ところで、必ずしも要しないが、上述の貼り合せ構造体の製造方法における工程(1A)と工程(2A)との間、又は工程(2A)と工程(3A)との間に、その溶液状仮接着材中に含まれ得るガス(いわゆる溶存ガス)を取り除くために、溶液状仮接着材が供給された被処理基板を減圧下(例えば、真空チャンバー内)に置く処理(これを、便宜上「溶存ガス除去工程」という。)は上記製造方法の1つの好ましい態様である。これは、被処理基板の凹部内への溶液状仮接着材の到達不足による残存ガスに加えて、溶液状仮接着材内の溶存ガスも、場合によっては上述の被処理基板の破損等を引き起こす原因となり得るためである。
【0015】
また、必ずしも要しないが、上述と同様の観点から、上述の貼り合せ構造体の製造方法における工程(3A)の後に「溶存ガス除去工程」を行うことも、上記製造方法の他の1つの好ましい態様である。なお、上述の3種類の「溶存ガス除去工程」はいずれか1つのみ行われてもよいし、両方行われても良い。より確度高く溶存ガスを除去する観点から言えば、上述の3種類の「溶存ガス除去工程」を全て行うことが好ましいが、処理コスト又は処理効率を改善する観点から言えば、いずれか1つのみ行われるか、あるいは全く「溶存ガス除去工程」を行わない方が好ましい。
【0016】
また、本発明のもう1つの貼り合せ構造体の製造方法は、以下の4つの工程を含む。
(1B)凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板のその第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給工程。
(2B)前述の溶液状仮接着材を加熱することにより、前述の第1表面の凸部を第1仮接着材によって覆う第1仮接着材形成工程。
(3B)平板状の下地基板上に、前述の第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となるように、第2仮接着材の層を形成する第2仮接着材形成工程と、
(4B)前述の第1仮接着材及び前述の第2仮接着材を介して、前述の第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せ工程。
なお、各工程の間に基板の移動や検査等の本発明の要旨とは関係のない工程が行われることを妨げるものではない。また、上述の工程(3B)における、「第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となる」とは、被処理基板の凸部の最表面から上方に形成されている第1接着材の厚みと、前述の第2仮接着材の厚みとを合算した厚みを意味し、被処理基板の凹部内に埋め込まれている第1接着材の厚みを考慮しない。
【0017】
この貼り合せ構造体の製造方法によれば、いわゆる常温において低粘度な溶液状仮接着材(代表的にはワックス)が被処理基板の第1表面上に供給される。そのため、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができる。加えて、この貼り合せ構造体の製造方法によれば、その後の加熱処理により形成された第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となるように、第2仮接着材の層が形成される。その結果、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【0018】
なお、上述の加熱後の仮接着材の厚みの合計が10μm以下であれば、その後の処理が行われた後に下地基板と被処理基板とが密着しすぎて互いに離すことが出来ない、又は離す際に被処理基板を破損する可能性が高まる。一方、前述の厚みの合計を20μm以上にすることも好ましくない。これは、前述の厚みの合計を20μm以上となるように形成しても離間容易性を格段に向上させることはないためである。加えて処理効率の観点からもそのような厚みを形成する利益が乏しいためである。
【0019】
ところで、必ずしも要しないが、上述のもう1つの貼り合せ構造体の製造方法における工程(1B)と工程(2B)との間、又は工程(2B)と工程(4B)との間に「溶存ガス除去工程」を行うことは、上記製造方法の1つの好ましい態様である。これは、被処理基板の凹部内への溶液状仮接着材の到達不足による残存ガスに加えて、溶液状仮接着材内の溶存ガスも、場合によっては上述の被処理基板の破損等を引き起こす原因となり得るためである。
【0020】
また、必ずしも要しないが、上述と同様の観点から、上述の貼り合せ構造体の製造方法における工程(4B)の後に「溶存ガス除去工程」を行うことも、上記製造方法の他の1つの好ましい態様である。なお、上述の3種類の「溶存ガス除去工程」はいずれか1つのみ行われてもよいし、両方行われても良い。より確度高く溶存ガスを除去する観点から言えば、上述の3種類の「溶存ガス除去工程」を全て行うことが好ましいが、処理コスト又は処理効率を改善する観点から言えば、いずれか1つのみ行われるか、あるいは全く「溶存ガス除去工程」を行わない方が好ましい。
【0021】
また、本発明の1つの被処理基板の構造体の製造方法は、上記の(1A)乃至(3A)の工程、又は上記の(1B)乃至(4B)に加えて、以下の2つの工程を含む。
(4A又は5B)上述の貼り合せ構造体をチャンバー内に配置して減圧を施す減圧工程。
(5A又は6B)その減圧工程の後、上述の仮接着材を加熱することにより上述の下地基板と上述の被処理基板とを離間させる離間工程。
【0022】
この被処理基板の構造体の製造方法によれば、上述のとおり、凹凸形状が形成された面を仮接着面として被処理基板を減圧下において処理した場合であっても、残存ガスが少ない又は皆無であるため、その処理中に被処理基板の破損等する可能性を顕著に低減し得る。加えて、10μm超20μm以下の厚みの仮接着材が前述の第1表面の凸部を覆った後に被処理基板と下地基板とが仮接着されるため、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に仮接着材の適度な厚みが維持されることになる。そうすると、その後の減圧下における処理が行われた後に、離間工程において下地基板から被処理基板を離し易くなる。その結果、加工精度の高い被処理基板の構造体を効率よく製造することができる。
【0023】
なお、上述の被処理基板の構造体の製造方法における「減圧工程」は、代表的には、その貼り合せ構造体の第1表面と反対側の被処理基板の第2表面に対してプラズマ処理を施すプラズマ工程であるが、それに限定されない。例えば、この「減圧工程」は、減圧下においてプラズマを形成しない処理、例えば、二フッ化キセノン(XeF)にその第2表面を曝露する処理を含み得る。
【0024】
また、本発明の1つの貼り合せ構造体は、凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板のその凹部内とその凸部上に形成された仮接着材を介して、前述の第1表面と平板状の下地基板とが貼り合わされ、かつその仮接着材により、前述の被処理基板と前述の下地基板とが10μm以上20μm以下離れている。
【0025】
この貼り合せ構造体によれば、凹凸形状が形成された面を仮接着面として被処理基板を下地基板と仮接着した場合であっても、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に仮接着材の適度な厚みが維持される、換言すれば、前述の被処理基板と前述の下地基板とが適度に離されていることになる。そうすると、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。その結果、被処理基板の構造体の破損等を確度高く防ぐことができる。。
【0026】
また、本発明の他の1つの一態様として、被処理基板の構造体の製造プログラムが挙げられる。この被処理基板の構造体の製造プログラムは、以下の3つのステップを含む。
(1C)凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板のその第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給ステップ。
(2C)前述の溶液状仮接着材を加熱することにより、前述の第1表面の凸部を10μm超20μm以下の厚みの仮接着材によって覆う仮接着材形成ステップ。
(3C)前述の仮接着材を介して、前述の第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せステップ。
なお、各ステップの間に基板の移動や検査等の本発明の要旨とは関係のないステップが行われることを妨げるものではない。
【0027】
この貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、いわゆる常温において低粘度な溶液状仮接着材(代表的にはワックス)が被処理基板の第1表面上に供給される溶液状仮接着材供給ステップが実行される。そのため、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができる。加えて、この貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、単に低粘度の溶液状仮接着材を採用するだけではなく、溶液状仮接着材の加熱によって、10μm超20μm以下の厚みの仮接着材が前述の第1表面の凸部を覆う仮接着材形成ステップが実行される。その結果、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【0028】
なお、上述の加熱後の仮接着材の厚みが10μm以下であれば、その後の処理が行われた後に下地基板と被処理基板とが密着しすぎて互いに離すことが出来ない、又は離す際に被処理基板を破損する可能性が高まる。一方、前述の厚みを20μm以上にすることも好ましくない。例えば、スピンコーター等を用いて前述の厚みを20μm以上になるように形成することが極めて困難であるとともに、処理効率の悪化を招くことになる。
【0029】
ところで、必ずしも要しないが、上述の貼り合せ構造体の製造プログラムにおけるステップ(1C)とステップ(2C)との間、又はステップ(2C)とステップ(3C)との間に、その溶液状仮接着材中に含まれ得るガス(いわゆる溶存ガス)を取り除くために、溶液状仮接着材が供給された被処理基板を減圧雰囲気内(例えば、真空チャンバー内)に置く処理を実行するステップ(これを、便宜上「溶存ガス除去ステップ」という。)は上記製造プログラムの1つの好ましい態様である。これは、被処理基板の凹部内への溶液状仮接着材の到達不足による残存ガスに加えて、溶液状仮接着材内の溶存ガスも、場合によっては上述の被処理基板の破損等を引き起こす原因となり得るためである。
【0030】
また、必ずしも要しないが、上述と同様の観点から、上述の貼り合せ構造体の製造プログラムにおけるステップ(3A)の後に「溶存ガス除去ステップ」を行うことも、上記製造プログラムの他の1つの好ましい態様である。なお、上述の3種類の「溶存ガス除去ステップ」はいずれか1つのみ行われてもよいし、両方行われても良い。より確度高く溶存ガスを除去する観点から言えば、上述の3種類の「溶存ガス除去ステップ」を全て行うことが好ましいが、処理コスト又は処理効率を改善する観点から言えば、いずれか1つのみ行われるか、あるいは全く「溶存ガス除去ステップ」を行わない方が好ましい。
【0031】
さらに、本発明の他の1つの一態様として、もう1つの被処理基板の構造体の製造プログラムが挙げられる。この被処理基板の構造体の製造プログラムは、以下の4つのステップを含む。
(1D)凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板のその第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給ステップ。
(2D)前述の溶液状仮接着材を加熱することにより、前述の第1表面の凸部を第1仮接着材によって覆う第1仮接着材形成ステップ。
(3D)平板状の下地基板上に、前述の第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となるように、第2仮接着材の層を形成する第2仮接着材形成ステップと、
(4D)前述の第1仮接着材及び前述の第2仮接着材を介して、前述の第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せステップ。
なお、各ステップの間に基板の移動や検査等の本発明の要旨とは関係のないステップが行われることを妨げるものではない。また、上述のステップ(3D)における、「第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となる」とは、被処理基板の凸部の最表面から上方に形成されている第1接着材の厚みと、前述の第2仮接着材の厚みとを合算した厚みを意味し、被処理基板の凹部内に埋め込まれている第1接着材の厚みを考慮しない。
【0032】
この貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、いわゆる常温において低粘度な溶液状仮接着材(代表的にはワックス)が被処理基板の第1表面上に供給される。そのため、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができる。加えて、この貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、その後の加熱処理により形成された第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となるように、第2仮接着材の層が形成される。その結果、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【0033】
なお、上述の加熱後の仮接着材の厚みの合計が10μm以下であれば、その後の処理が行われた後に下地基板と被処理基板とが密着しすぎて互いに離すことが出来ない、又は離す際に被処理基板を破損する可能性が高まる。一方、前述の厚みの合計を20μm以上にすることも好ましくない。これは、前述の厚みの合計を20μm以上となるように形成しても離間容易性を格段に向上させることはないためである。加えて処理効率の観点からもそのような厚みを形成する利益が乏しいためである。
【0034】
ところで、必ずしも要しないが、上述のもう1つの貼り合せ構造体の製造プログラムにおけるステップ(1D)とステップ(2D)との間、又はステップ(2D)とステップ(4D)との間に「溶存ガス除去ステップ」を行うことは、上記製造プログラムの1つの好ましい態様である。これは、被処理基板の凹部内への溶液状仮接着材の到達不足による残存ガスに加えて、溶液状仮接着材内の溶存ガスも、場合によっては上述の被処理基板の破損等を引き起こす原因となり得るためである。
【0035】
また、必ずしも要しないが、上述と同様の観点から、上述の貼り合せ構造体の製造プログラムにおけるステップ(4D)の後に「溶存ガス除去ステップ」を行うことも、上記製造プログラムの他の1つの好ましい態様である。なお、上述の3種類の「溶存ガス除去ステップ」はいずれか1つのみ行われてもよいし、両方行われても良い。より確度高く溶存ガスを除去する観点から言えば、上述の3種類の「溶存ガス除去ステップ」を全て行うことが好ましいが、処理コスト又は処理効率を改善する観点から言えば、いずれか1つのみ行われるか、あるいは全く「溶存ガス除去ステップ」を行わない方が好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明の1つの貼り合せ構造体の製造方法によれば、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができるため、その後の処理中に被処理基板の破損等する可能性を顕著に低減し得る。加えて、この貼り合せ構造体の製造方法によれば、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【0037】
また、本発明の1つの被処理基板の構造体の製造方法によれば、凹凸形状が形成された面を仮接着面として被処理基板を減圧下において処理した場合であっても、残存ガスが少ない又は皆無であるため、その処理中に被処理基板の破損等する可能性を顕著に低減し得る。加えて、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に仮接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の減圧下における処理が行われた後に、離間工程において下地基板から被処理基板を離し易くなる。その結果、加工精度の高い被処理基板の構造体を効率よく製造することができる。
【0038】
また、本発明の1つの貼り合せ構造体によれば、凹凸形状が形成された面を仮接着面として被処理基板を下地基板と仮接着した場合であっても、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に仮接着材の適度な厚みが維持される、換言すれば、前述の被処理基板と前述の下地基板とが適度に離されていることになる。そうすると、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。その結果、被処理基板の構造体の破損等を確度高く防ぐことができる。
【0039】
加えて、本発明の1つの態様としての貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、被処理基板の仮接着面(第1表面)が凹凸形状を有する場合であっても、加熱処理を要せずに、溶液状仮接着材を特に凹部の隅に到達させ易くなる。その結果、被処理基板の第1表面の凹部内の残存ガス量を低減または皆無にすることができるため、その後の処理中に被処理基板の破損等する可能性を顕著に低減し得る。加えて、この貼り合せ構造体の製造プログラムによれば、被処理基板と下地基板とが貼り合された後に接着材の適度な厚みが維持されることになるため、その後の処理が行われた後に下地基板から被処理基板を離し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体の製造工程の一部を担う溶液状仮接着材供給装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における被処理基板の構造体の製造工程の一部を担う異方性エッチングをするためのプラズマ処理装置の構成を示す断面図である。
【図3A】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3B】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3C】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3D】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3E】本発明の第1の実施形態における被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3F】本発明の第1の実施形態における被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図3G】本発明の第1の実施形態における被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造フローチャートである。
【図5A】本発明の第2の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図5B】本発明の第2の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造方法の一過程を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における貼り合わせ構造体/被処理基板の構造体の製造フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
つぎに、本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。また、特に言及がない限り、以下の各種ガスの流量は、標準状態の流量を示す。
【0042】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態における貼り合わせ構造体40の製造工程の一部を担う溶液状仮接着材(代表的にはワックス)供給装置10の構成を示す断面図である。なお、本図面は概略図であるため、排気機構、各種液体の供給源等の周辺装置は省略されている。また、図2は、本実施形態における被処理基板の構造体50の製造工程の一部を担う異方性エッチングをするためのプラズマ処理装置20の構成を示す断面図である。加えて、図3A乃至図3Gは、本実施形態における貼り合わせ構造体40/被処理基板の構造体50の製造方法の一過程を示す断面図である。
【0043】
まず、図1に示す溶液状仮接着材供給装置10の具体的な構成及び溶液状仮接着材供給工程について説明する。本実施形態の溶液状仮接着材供給装置10は、その構成が一部を除いて公知のスピンコーターと同一である。具体的には、以下の通りである。
【0044】
本実施形態の溶液状仮接着材供給装置10は、コーターカップ12内に収められ、静電吸着しつつ回転モーター15によって回転するステージ16上に配置された被処理基板41の表面(第1表面)42に対して、ノズル13から吐出する常温の溶液状仮接着材を供給する。なお、本実施形態では、図3Aに示すように、被処理基板41はシリコン基板であり、予め、仮接着面となる第1表面42が凹凸形状を有している。一例として、この凹凸形状は、後述するプラズマプロセス用チャンバーZを用いた異方性エッチングプロセスによって形成され得る。しかしながら、この凹凸形状の形成は、その異方性エッチングプロセスとは異なるプロセス(例えば、二フッ化キセノン(XeF)にその第1表面42を曝露する公知の等方性エッチングプロセス)によって形成されることも他の採用し得る一態様である。
【0045】
ここで、本実施形態の溶液状仮接着材は、固形分として軟化点が約76℃で流動開始温度が約82℃であるとともに、液体としての25℃での粘度が約0.0285Pa・sであるワックス(日化精工株式会社製、型式NY−5011H)である。また、本実施形態の溶液状仮接着材の主たる溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)である。ここで、溶液状仮接着材の25℃における粘度は、0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下となるように溶媒と溶質の比率等が調整される。溶液状仮接着材の25℃における粘度が0.02Pa・s未満になると、その後の加熱処理によっても適切な仮接着材の層が形成されにくくなる。一方、溶液状仮接着材の25℃における粘度が0.1Pa・sを超えると、第1表面42の凹凸の、特に凹部42A内の隅々に溶液状仮接着材が確度高く行き渡らなくなるため、その後に形成される仮接着材と第1表面42との間に空隙が生じやすくなる。
【0046】
また、本実施形態では、供給された溶液状仮接着材のうち、被処理基板41の周縁部の第1表面42を洗浄するための洗浄液が第1表面リンス用ノズル14Aから供給される。なお、この被処理基板41の周縁部の第1表面42を洗浄するための洗浄液は、要求される被処理基板41の仕様によっては必ずしも供給されなくてもよい。従って、必ずしも第1表面リンス用ノズル14Aが設けられることを要しない。また、被処理基板41の周縁部の第2表面44を洗浄するための洗浄液は、第2表面リンス用ノズル14Bから供給される。なお、前述の各洗浄液は、例えば、IPAやアセトンである。また、被処理基板41上に仮接着用として用いられる量を超える量の溶液状仮接着材及び各洗浄液の廃液は、コーターカップ12の底部から廃液管17Aにより排出される。加えて、コーターカップ12の排気は、コーターカップ12の底部に設けられた排気管17Bを介して行われる。また、被処理基板41付近の温度や湿度を制御するコーターカップ温調室11も適宜設けられる。
【0047】
加えて、本実施形態においては、図1に示すように、少なくとも溶液状仮接着材を吐出するノズル13、第1表面リンス用ノズル14A、第2表面リンス用ノズル14B、及び回転モーター15が制御部29に接続する。この制御部29は、例えば、ノズル13から吐出する溶液状仮接着材の量及び吐出時間、回転モーター15の回転速度及び回転数、並びに第1表面リンス用ノズル14A及び第2表面リンス用ノズル14Bの各洗浄液の吐出量及び吐出時間を制御する。
【0048】
この溶液状仮接着材供給装置10を用いた処理により、図3Bに示すように、被処理基板41の凹部42Aを含む第1表面42上に溶液状仮接着材46Aの層が形成される。本実施形態では、本願出願人が従来採用していた固形状ワックスとは異なり、常温において液状のワックス(溶液状仮接着材)46Aを用いている。従って、たとえ第1表面42が凹凸形状を有している場合でも、従来と比較して、特に凹部42A内の隅にまでワックスが到達し易くなる。換言すれば、本実施形態の溶液状仮接着材供給工程によれば、溶液状仮接着材46Aの層と第1表面42との間に空隙が生じにくくなる。
【0049】
本実施形態では、その後、上述の溶存ガス除去工程が行われる。ここで、溶液状仮接着材46Aの層が形成された被処理基板41は、約650Pa〜約800Paである減圧雰囲気内に、約40分間置かれることにより、溶液状仮接着材46A内の溶存ガス量を低減する。なお、溶液状仮接着材46Aの組成(又は組成比)や被処理基板41の材質によって、あるいは処理時間を短縮する目的のために、この溶存ガス除去工程が実施されない場合もある。
【0050】
次に、仮接着材形成工程について説明する。本実施形態では、溶液状仮接着材46Aの層が形成された被処理基板41は、その後、公知のホットプレートにより、溶液状仮接着材46Aの溶媒であるIPAの沸点以上の温度(例えば、約90℃において約5分間加熱される。その結果、溶媒成分が揮発することにより、図3Cに示すように、仮接着材46Bの層が被処理基板41の第1表面42上に形成される。
【0051】
本実施形態では、仮接着材46Bの厚み(図3Cにおける厚みt)は、約13μmである。なお、本実施形態の溶液状仮接着材供給装置10は、加熱後に形成される仮接着材46Bによって凸部42Bを覆う厚み(t)が、10μm超20μm以下となるように溶液状仮接着材を供給する。この厚み(t)が10μm以下になると、仮接着する下地基板48との接着力を必要以上に高めるため、その後に被処理基板41を下地基板48から引き離すことが非常に困難になる。そして無理に引き離そうとすれば、被処理基板41を破損する可能性が高まる。一方、この厚み(t)を20μm以上にすることも好ましくない。本実施形態のようにスピンコーター等を用いてこの厚み(t)を20μm以上になるように形成することが極めて困難であるとともに、処理効率の悪化を招くことになる。
【0052】
本実施形態では、その後、平板状の下地基板48と被処理基板41の第1表面42とが仮接着材46Bを介して接着することにより、貼り合せ構造体40が製造される(図3C〜図3D)。ここで、貼り合せ構造体40が製造された後の、第1表面42の凸部42Bを覆う仮接着材46Bの厚み(t)は、10μm以上20μm以下である。この厚み(t)が10μm未満になると、上述と同様に、仮接着する下地基板48との接着力を必要以上に高めるため、その後に被処理基板41を下地基板48から引き離すことが非常に困難になる。
【0053】
本実施形態の貼り合せ構造体40の特徴は、仮接着材46Bと第1表面42の特に凹部42Aとの間に形成される空隙の数又は量が非常に少ない、又は皆無である点である。なお、本実施形態では行わないが、前述の空隙の数又は量をさらに低減するため、仮接着材46Bの形成のための加熱処理後に、及び/又は貼り合せ構造体40の形成後に、再度、上述の溶存ガス除去工程が行われることも採用し得る他の一態様である。
【0054】
その後、本実施形態では、貼り合せ構造体40の第2表面44上に、公知のフォトリソグラフィープロセスによりパターニングされたレジストマスク又は二酸化シリコン(SiO)マスクが形成される(図示しない)。そして、プラズマプロセス用チャンバーZ内に搬送された後、第2表面44に対して公知の異方性エッチングが行われる。
【0055】
次に、図2に示される、異方性エッチングを行うためのプラズマ処理装置20の構成及びプロセスについて具体的に説明する。
【0056】
プラズマプロセス用チャンバーZ(以下、便宜上、単にチャンバーZともいう。)の下部側に設けられたステージ21は、上述のアーム機構によって搬送された貼り合せ構造体40が載置される場所である。また、プラズマプロセス用チャンバーZには、必要に応じ、エッチングガス、有機堆積物形成ガス(以下、保護膜形成ガスともいう。)、及び酸素ガスから選ばれる少なくとも一種類のガスが、各ボンベ22a,22b,22cからそれぞれガス流量調整器23a,23b,23cを通して供給される。これらのガスは、第1高周波電源25により高周波電力を印加されたコイル24によりプラズマ化される。その後、必要に応じて、第2高周波電源26を用いてステージ21に高周波電力が印加されることにより、これらの生成されたプラズマは貼り合せ構造体40に引き込まれる。このチャンバーZ内を減圧し、かつプロセス後に生成されるガスを排気するため、プラズマプロセス用チャンバーZには真空ポンプ27が排気流量調整器28を介して接続されている。なお、このチャンバーZからの排気流量は排気流量調整器28により変更される。上述のガス流量調整器23a,23b,23c、第1高周波電源25、第2高周波電源26、及び排気流量調整器28は、制御部29により制御される。なお、チャンバーZ内の圧力を計測する公知の圧力計は図示されていない。
【0057】
本実施形態の異方性エッチングの処理条件は次のとおりである。本実施形態は、保護膜形成工程とエッチング工程とを順次繰り返す方法を採用する。具体的には、保護膜形成工程では、一単位時間としての処理時間である数秒間に、保護膜形成ガスが400sccm、(400mL/min.ともいう。以下の各流量において同じ。)で供給され、チャンバーZ内の圧力は6Paに制御される。コイル24には、13.56MHzの高周波電力が2200W印加されるが、ステージ21には13.56MHzの高周波電力が印加されない。一方、つづくエッチング工程では、一単位時間としての処理時間である数秒間に、エッチングガスが400sccmで供給され、チャンバーZ内の圧力は6Paに制御される。コイル24には、13.56MHzの高周波電力が2200W印加され、ステージ21にも13.56MHzの高周波電力が20W印加される。本実施形態では、保護膜形成ガスはCであり、エッチングガスはSFである。なお、本実施形態におけるステージ21によって貼り合せ構造体40の下面(すなわち、下地基板48の下面)は冷却されているが、貼り合せ構造体40における被処理基板41及び仮接着材46Bの温度は、70℃〜80℃程度になっていると推測される。
【0058】
上述の方法により、約30分間の実施により、図3Eに示すように、被処理基板41の第2表面44において、異方性ドライエッチングによる凹部44Aと異方性エッチングされなかった凸部44Bとが形成された貼り合せ構造体40が製造される。その内の1つの凹部44Aは、マスクの開口幅が約10μmであって、その深さが約200μm(アスペクト比は約20)のトレンチ状の凹部である。なお、図3Eでは便宜上、上述のマスクは図示されていない。
【0059】
上述のとおり、本実施形態の異方性エッチングプロセスは、減圧下におけるプロセスであるだけでなく、貼り合せ構造体40がプラズマに曝されることによって貼り合せ構造体40の温度が上昇するプロセスである。本実施形態における上述の溶液状仮接着材供給工程、仮接着材形成工程、及び貼り合せ構造体40の温度上昇を伴う減圧工程が複数のサンプルにおいて何回か実施された。その結果、貼り合せ構造体40が、上述の極めて低い圧力(数Pa)のチャンバーZ内に配置され、かつ70℃〜80℃程度に加熱されたにもかかわらず、再現性よく、貼り合せ構造体40の破損又は仮接着材46Bの滲出が生じなかった点は特筆に値する。なお、さらなる調査によれば、異方性エッチングプロセス中における貼り合せ構造体40ないし前記被処理基板41の温度が40℃以上90℃以下であれば、確度高く本実施形態の効果と同様の効果が奏され得ることが知見できた。
【0060】
ところで、本実施形態では、減圧工程の1つとして上述の異方性エッチングプロセスが採用されているが、本実施形態において適用可能な減圧工程はこのプロセスに限定されない。例えば、貼り合せ構造体40を減圧下において単に加熱する処理、減圧下においてスパッタリング法によって貼り合せ構造体40上に蒸着膜を形成する処理、又は公知のアッシング処理等、処理中に仮接着材46Bが滲出しない程度の加熱しかされない処理であれば、本実施形態の減圧工程として適用し得る。仮接着材46Bの組成、被処理基板41及び下地基板48の材質に依存し得るため、具体的な上限温度を明示することは難しいが、敢えて言及すれば、上記減圧工程における貼り合せ構造体40の温度が80℃以下であることが好ましい。
【0061】
また、従来のワックスおよびその使用方法を採用した場合、6664Pa以下の減圧工程において貼り合せ構造体40の破損の発生が顕著になる傾向があることが確認された。従って、本実施形態の上述の各工程が、特に6664Pa以下の減圧工程において効果を奏する点も特筆すべきである。
【0062】
本実施形態では、その後、貼り合せ構造体40を、例えば常圧下において100℃に加熱することにより、被処理基板41を下地基板48から引き離す離間工程が行われる(図3F)。そして、被処理基板41をN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と記載する。)が収容された槽内に浸漬する又はNMPに接触させることによって、第1表面42に付着する仮接着材46Bを除去する。その結果、被処理基板の構造体50が製造される(図3G)。
【0063】
ところで、上述の溶液状仮接着材供給装置10の制御部19はコンピュータ61に接続し、異方性エッチングを行うためのプラズマ処理装置20の制御部29は、コンピュータ62に接続している。コンピュータ61,62は、上述の各工程を実行するための貼り合せ構造体40及び/又は被処理基板の構造体50の製造プログラムにより、上述の各工程を監視し、又は統合的に制御する。以下に、具体的な製造フローチャートを示しながら、貼り合せ構造体40及び被処理基板の構造体50の製造プログラムを説明する。なお、本実施形態では、上述の製造プログラムがコンピュータ61,62内のハードディスクドライブ、又はコンピュータ61,62に設けられた光ディスクドライブ等に挿入される光ディスク等の公知の記録媒体に保存されているが、この製造プログラムの保存先はこれに限定されない。例えば、この製造プログラムの一部又は全部は、本実施形態における各工程チャンバーに備えられている制御部19,29内に保存されていてもよい。また、この製造プログラムは、ローカルエリアネットワークやインターネット回線等の公知の技術を介して上述の各工程を監視し、又は制御することもできる。
【0064】
図4は、本実施形態の貼り合せ構造体40及び被処理基板の構造体50の製造フローチャートである。
【0065】
図4に示すとおり、本実施形態の貼り合せ構造体40及び被処理基板の構造体50の製造プログラムが実行されると、以下の各ステップが実行される。まず、ステップS101において、被処理基板41における凹凸形状を備えた第1表面42上に対して、常温においてノズル13から吐出する上述の溶液状仮接着材が供給される。このとき、溶液状仮接着材供給装置10は、加熱後に形成される仮接着材46Bによって凸部42Bを覆う厚み(t)が、10μm超20μm以下となるように溶液状仮接着材を供給する。
【0066】
次に、本実施形態では、ステップS102において、溶液状仮接着材46A内の溶存ガス量を低減するための処理(溶存ガス除去ステップ)が行われる。なお、上述のとおり、この溶存ガス除去ステップが実施されない場合がある。
【0067】
その後、ステップS103において、溶液状仮接着材46Aの層が形成された被処理基板41が、溶液状仮接着材46Aの溶媒であるIPAの沸点以上の温度に加熱される。その結果、溶媒成分が揮発することにより、図3Cに示すように、仮接着材46Bの層が被処理基板41の第1表面42上に形成される。
【0068】
続いてステップS104において、平板状の下地基板48と被処理基板41の第1表面42とが仮接着材46Bを介して接着することにより、貼り合せ構造体40が製造される。なお、本実施形態では行わないが、ステップS103の後に、及び/又はステップS104の後に、再度、上述の溶存ガス除去ステップが行われることも採用し得る他の一態様である。
【0069】
その後、ステップS105において、貼り合せ構造体40がプラズマ処理装置20のチャンバーZ内に搬送され、減圧下において、上述の条件により貼り合せ構造体40に対して異方性ドライエッチングが実施される。このとき、本実施形態のプログラムは、保護膜形成工程とエッチング工程とを順次繰り返す際に、ガス流量、圧力、及び各高周波電力等を制御する。
【0070】
その後、ステップS106において、貼り合せ構造体40を例えば常圧下において100℃に加熱されることにより、被処理基板41が下地基板48から引き離される。
【0071】
その後、ステップS107において、被処理基板41をNMPが収容された槽内に浸漬する又はNMPに接触させることによって、第1表面42に付着する仮接着材46Bを除去する。その結果、被処理基板の構造体50が製造される。上述の製造プログラムが実行される結果、上述の極めて低い圧力(数Pa)のチャンバーZ内に配置され、かつ80℃程度に加熱されたにも拘らず、再現性よく、貼り合せ構造体40の破損又は仮接着材46Bの滲出が生じることのない貼り合せ構造体40及び被処理基板の構造体50が製造される。
【0072】
<第2の実施形態>
図5A及び図5Bは、本発明の第2の実施形態における貼り合わせ構造体240/被処理基板の構造体50の製造方法の一過程を示す断面図である。また、図6は、本実施形態の貼り合せ構造体240及び被処理基板の構造体50の製造フローチャートである。本実施形態では、溶液状仮接着材供給工程、貼り合せ構造体240に使用している仮接着材246B及び247Bの材質、並びに仮接着前の態様が第1の実施形態のそれらと異なる点を除いては、第1の実施形態の貼り合わせ構造体40/被処理基板の構造体50の構造及び製造方法と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0073】
本実施形態の溶液状仮接着材供給工程では、溶液状仮接着材供給装置10から供給される溶液状仮接着材が第1の実施形態のワックスと異なる。具体的には、本実施形態の溶液状仮接着材は、固形分として軟化点が約76℃で流動開始温度が約82℃であるとともに、液体としての25℃での粘度が約0.014Pa・sであるワックス(日化精工株式会社製、型式NY−4011H)である。また、本実施形態の溶液状仮接着材の主たる溶媒は、第1の実施形態と同様、イソプロピルアルコール(IPA)ある。
【0074】
被処理基板41の第1表面42に対して前述の溶液状仮接着材が供給されることにより、第1表面42の凹凸の、特に凹部42A内の隅々に溶液状仮接着材が確度高く行き渡る。その後、第1の実施形態と同様の加熱処理が行われることにより、仮接着材246Bの層が被処理基板41の第1表面42上に形成される。
【0075】
加えて、本実施形態では、下地基板48の表面上にも、仮接着材247Bとして、仮接着材246Bと異なる材質のワックスが供給される。下地基板48上に供給されるワックスは、上述の特開2005−187740号公報に開示されるワックスである。一例として、この特開2005−187740号公報において開示される方法によって、下地基板48上に仮接着材247Bの層が形成される。
【0076】
その後、図5Aに示すように、被処理基板41と下地基板48とを、仮接着材246B及び仮接着材247Bを介して仮接着、換言すれば一時的に接着させる。その結果、図5Bに示すように、貼り合せ構造体240を製造することができる。
【0077】
ここで、被処理基板41と下地基板48とを仮接着する前において、加熱後に形成される仮接着材246Bによって凸部42Bを覆う厚み(t)と仮接着材247Bの厚み(t)とを合わせた厚み(すなわち、t+t)は、10μm超20μm以下となるように設定される。前述の厚みの範囲が維持されていれば、その後に被処理基板41を下地基板48から引き離すことが容易になるとともに、処理効率を悪化させることがない。
【0078】
また、貼り合せ構造体240が製造された後の、第1表面42の凸部42Bを覆う仮接着材246Bの厚みと仮接着材247Bの厚みとを合わせた厚み(t)は、10μm以上20μm以下である。この厚み(t)が10μm未満になると、上述と同様に、仮接着する下地基板48との接着力を必要以上に高めるため、その後に被処理基板41を下地基板48から引き離すことが非常に困難になる。
【0079】
その後は、第1の実施形態の各工程と同様に、異方性エッチングを伴う減圧工程、離間工程、及び被処理基板41の第1表面42に付着する仮接着材246B,247Bを除去する工程が行われることにより、被処理基板の構造体50が製造される。
【0080】
また、図6におけるステップS201〜S208に示すように、本実施形態の貼り合せ構造体240及び被処理基板の構造体50の製造プログラムを実行することにより、上述の各工程が制御される。その結果、貼り合せ構造体240及び被処理基板の構造体50を製造することができる。なお、図6におけるステップS201〜S208において、本実施形態と第1の実施形態との主たる相違点は、ステップS204に示すように、下地基板48上に上述のワックスを供給することにより、仮接着材247Bの層を形成する点である。
【0081】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、再現性よく、貼り合せ構造体240の破損又は仮接着材246B,247Bの滲出が生じることのない貼り合せ構造体240及び被処理基板の構造体50を製造することができる。
【0082】
なお、本実施形態では、仮接着材246Bと仮接着材247Bとが互いに異なる材質であったが、本実施形態はこれらの仮接着材に限定されない。例えば、仮接着材246Bと仮接着材247Bとが同一の材質ないし組成であっても、上述の厚みの範囲(t+t)及び(t)が所定の範囲内であれば、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0083】
<その他の実施形態>
ところで、上述の実施形態では、被処理基板41としてシリコン基板が用いられているが、被処理基板41の材質は、シリコンに限定されない。例えば、GaAs・AlN・GaN等の半導体基板、セラミックス基板、ガラス基板を被処理基板41として用いた場合であっても、上述の各実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。以上、述べたとおり、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、産業機器分野、電子機器分野、情報通信分野、及び医療分野等の各種デバイスの要素技術として広範に適用され得る。
【符号の説明】
【0085】
10 溶液状仮接着材供給装置
11 コーターカップ温調室
13 ノズル
14A 第1表面リンス用ノズル
14B 第2表面リンス用ノズル
15 回転モーター
16,21 ステージ
17A 廃液管
17B 排気管
19,29 制御部
20 プラズマ処理装置
22a,22b,22c22 各ボンベ
23a ガス流量調整器
24 コイル
25 第1高周波電源
26 第2高周波電源
27 真空ポンプ
28 排気流量調整器
40,240 貼り合わせ構造体
41 被処理基板
42 第1表面
42A,44A 凹部
42B,44B 凸部
44 第2表面
46A 溶液状仮接着材
46B,246B,247B 仮接着材
48 下地基板
50 被処理基板の構造体
61,62 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板の前記第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給工程と、
前記溶液状仮接着材を加熱することにより、前記第1表面の前記凸部を10μm超20μm以下の厚みの仮接着材によって覆う仮接着材形成工程と、
前記仮接着材を介して、前記第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せ工程と、を含む
貼り合せ構造体の製造方法。
【請求項2】
凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板の前記第1表面上に、25℃における粘度が0.02Pa・s以上0.1Pa・s以下である溶液状仮接着材を供給する溶液状仮接着材供給工程と、
前記溶液状仮接着材を加熱することにより、前記第1表面の前記凸部を第1仮接着材によって覆う第1仮接着材形成工程と、
平板状の下地基板上に、前記第1仮接着材の厚みとの合計が10μm超20μm以下となるように、第2仮接着材の層を形成する第2仮接着材形成工程と、
前記第1仮接着材及び前記第2仮接着材を介して、前記第1表面と平板状の下地基板とを一時的に貼り合わせる貼り合せ工程と、を含む
貼り合せ構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の貼り合せ構造体をチャンバー内に配置して減圧を施す減圧工程と、
前記減圧工程の後、前記仮接着材を加熱することにより前記下地基板と前記被処理基板とを離間させる離間工程と、をさらに含む、
被処理基板の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記減圧工程が、前記貼り合せ構造体の前記第1表面と反対側の前記被処理基板の第2表面にプラズマ処理を施すプラズマ工程を含む、
請求項3に記載の被処理基板の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記減圧工程における前記チャンバー内の圧力が、6664Pa以下である、
請求項3に記載の被処理基板の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ工程における前記被処理基板の温度が、40℃以上90℃以下である、
請求項4に記載の被処理基板の構造体の製造方法。
【請求項7】
凹部及び凸部が形成された第1表面を備える被処理基板の前記凹部内と前記凸部上に形成された仮接着材を介して、前記第1表面と平板状の下地基板とが貼り合わされ、かつ
前記仮接着材により、前記被処理基板と前記下地基板とが10μm以上20μm以下離れている、
貼り合せ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251066(P2012−251066A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124367(P2011−124367)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】