走行式動力散布機
【課題】圃場内や畦畔等を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う走行式動力散布機において、散布物を広範囲に効率的に散布すると共に、畦畔際等に生じる散布物の散布ムラも解消できるようにする。
【解決手段】動力散布機31の散布管65を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段Kと、手動で揺動させる手動揺動手段Lとを切換え可能に設け、且つ強制揺動手段Kよる散布管65の揺動角度を変更自在に構成すると共に、当該散布管65を操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できる操作具78を設けた。
【解決手段】動力散布機31の散布管65を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段Kと、手動で揺動させる手動揺動手段Lとを切換え可能に設け、且つ強制揺動手段Kよる散布管65の揺動角度を変更自在に構成すると共に、当該散布管65を操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できる操作具78を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場内や畦畔等を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う走行式動力散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の防除や施肥等に使用される動力散布機としては、背負い式のものが一般的に使用されている。ところが、この背負い式の動力散布機は、貯留タンク、送風機及び原動機等の機体部分だけでも相当重く、それに加えて前記貯留タンクに貯留された散布すべき農薬、肥料、種子等の散布物の重量も付加されて35kg程度になることから、当該動力散布機を背負って足場の悪い畦畔や圃場内を歩行しながら散布作業を行うことは極めて重労働であった。
【0003】
そこで、クローラ走行装置に機体フレームを支持すると共に、この機体フレームに、堆肥に化学肥料、農薬、及び種子等を混合してなる圃場用資材を一時貯留する第1ホッパと、該第1ホッパ内の圃場用資材がバケットコンベアを介して定量供給される第2ホッパと、この定量供給された圃場用資材を一定長に成形する成形装置及び誘導樋と、更に一定長に成形された圃場用資材を吸引して散布管から放出する空気搬送装置と、これら装置の駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載してなる自走式動力散布機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、前後方向に伸びる揺動支軸を備えた機体(基体)フレームに、主車輪である遊転前輪と駆動後輪を前後一直線上に配設すると共に、機体フレームの後部に左右一対の操縦ハンドルを設け、更に前記揺動支軸に揺動フレームを上下揺動自在に支持し、この揺動フレームに散布物が貯留される貯留タンクと、該貯留タンク内の散布物を散布する動力散布機と、その駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載し、且つ前記揺動フレームの機体進行方向に対する左右一側(片側)に側車を配設することによって、凹凸のある畦畔等の不整地を走行する際にも、操縦ハンドルの左右方向の揺動を可及的に抑えて姿勢安定性及び走行安定性を向上させ、当該動力散布機による散布物の散布むらの減少を図るように構成した車輪走行装置による走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−4720号公報(第3−4頁、図3)
【特許文献2】特開平10−244188号公報(第2−3頁、図1−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の自走式動力散布機は、圃場内を走行しながら60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業等を行おうとすると、機体フレームや該機体フレームに搭載した動力散布機の構成装置等が水稲に接触し、この水稲が損傷するといった不具合を有していた。そして、散布管を揺動させながら広範囲に効率的に散布物を散布しようとするものではなかった。
【0006】
また、特許文献2の車輪走行装置を備える走行式動力散布機は、主として略台形状の凹凸のある畦畔を走行しながら管状散布具から散布物を散布せしめるものであり、その際、揺動フレームに搭載した散布物の貯留タンクや、この散布物を散布する動力散布機等の重量を利用し、側車を当該畦畔の側面上部に押し付けながら姿勢を安定させて移動しようとするものであるが、このものでは操縦ハンドルの左右方向の揺動を抑えて、軟弱且つ幅が不揃いな畦畔を安定した機体姿勢で走行することは困難であった。更に、この走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、貯留タンクや管状散布具の基端部を構成する湾曲管等が水稲に接触し、この水稲が損傷するといった不具合を有していた。そして、特許文献1ものと同様に管状散布具を揺動させながら広範囲に効率的に散布物を散布しようとするものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、走行装置と操縦ハンドルを備える機体フレームに、動力散布機と走行用の原動機を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段と、手動で揺動させる手動揺動手段とを切換え可能に設けたことを第1の特徴としている。
【0008】
そして、強制揺動手段による散布管の揺動角度を変更自在に構成したことを第2の特徴としている。
【0009】
そして、散布管を操縦ハンドル側から手動で揺動操作できる操作具を設けたことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、走行装置と操縦ハンドルを備える機体フレームに、動力散布機と走行用の原動機を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段と、手動で揺動させる手動揺動手段とを切換え可能に設けたことによって、当該走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、強制揺動手段により散布管を左右方向に自動的に揺動させて、散布管の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる一方、畦畔際等に生じる散布物の散布ムラを解消する際は、手動揺動手段により散布管を的確に手動で揺動させて散布物を散布することによって、圃場全体への散布物の均一散布を図ることができる。
【0011】
そして、請求項2の発明によれば、強制揺動手段による散布管の揺動角度を変更自在に構成したことによって、圃場の広さや作業状態に応じて散布物の散布範囲を的確に調節することができるようになる。
【0012】
そして、請求項3の発明によれば、散布管を操縦ハンドル側から手動で揺動操作できる操作具を設けたことによって、走行式動力散布機の操縦性を損なうことなく散布管による的確な散布物の散布が行なえるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、走行式動力散布機の一例である歩行式動力散布機11の左側面図、図2は、一部を省略した歩行式動力散布機11の平面図、図3は、一部を省略した歩行式動力散布機11の背面図、及び図4は、伝動系統図であって、該歩行式動力散布機11は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを走行方向に沿わせて配設すると共に、両クローラ走行装置12L,12Rを支持する機体フレーム13を備えている。
【0014】
更に詳しくは、機体フレーム13に対して左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持すべく、当該機体フレーム13の左右両側には、平行リンク機構14,14を介して左右一対のチェンケース15L,15Rを連結している。そして、チェンケース15L,15R下側の出力軸16に駆動スプロッケト17を固設すると共に、当該出力軸16を中心として両クローラ走行装置12L,12Rを構成する走行フレーム18を回動可能に支承している。
【0015】
また、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rに巻き掛ける走行クローラ19の張力を調節するアイドラ21を走行フレーム18の前端に設けると共に、駆動スプロッケト17とアイドラ21の略中間位置に走行クローラ19の外れを防止するクローラガイド22を設けている。
【0016】
上述した構成により左右一対のクローラ走行装置12L,12Rは、チェンケース15L,15R下側の出力軸16、即ち駆動スプロケット17を回動中心として図1に示すA矢印の如く上下揺動可能に支持されており、この上下揺動可能なクローラ走行装置12L,12Rによって、畦畔を乗り越えて隣接圃場へ歩行式動力散布機11を進入させる移動作業や、傾斜した坂道での移動走行が安定した機体姿勢で行えるようになっている。
【0017】
そして、歩行式動力散布機11には、操向操作具であるローリング(上下動)操作可能な左右両側(両端)に把持部を有する両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rを備えている。即ち操縦ハンドル23L,23Rは、左右一体に形成されており、その基端部中央には、機体フレーム13を構成する上部部材13a,13bの左右中間部の前後方向に向けて固設した丸パイプ24に嵌挿する支軸25を備え、この支軸25の先端に介装する一対のバネ座金26の押圧力をナット27の締め付け力により調整することによって、当該操縦ハンドル23L,23Rの左右ローリングの適切な操作感を得ることができるように構成している。
【0018】
また、チェンケース15L,15R下側の出力軸16の他端を、内側支持アーム28L,28Rによって支持すると共に、この内側支持アーム28L,28Rをチェンケース15L,15Rに対向させて、上述した平行リンク機構14,14を構成する上下のアーム14a,14bと一体的に連結している。即ち、機体フレーム13、左右一対のチェンケース15L,15R、及び内側支持アーム28L,28Rによって、図3に示すように、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行可能な門型状の機体29を構成しており、それによって、当該水稲Pを損傷することなく圃場内での散布作業が行えるようになる。尚、符号30は、門型状に形成した機体29の内側に水稲Pの葉をスムーズに案内するために設けた左右一対のガイド体である。
【0019】
そして、機体フレーム13を構成する左右一対に設けた支柱13c,13cと支柱13d,13dとの間には、平行リンク機構14,14を構成する上下のアーム14a,14bの回動支点軸P1,P2が設けてあり、この回動支点軸P1,P2を、作業機31を装着する台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rの回動支点に共用することによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持する平行リンク機構14,14と、台座32を上下動可能に支持する両平行リンク機構33L,33Rとをコンパクト且つ安価に構成している。
【0020】
更に詳しくは、台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rのうち左側の平行リンク機構33Lは、回動支点軸P2を回動支点とするプレート状の下部アーム34と、右側の平行リンク機構33Rの下部アームを兼ねる平面視でコの状に溶接形成した上部アーム(パイプ)35を回動支点軸P1に支持する一方、詳細は後述する右側の平行リンク機構33Rの上部アーム36を、エンジン37の動力が変速機38及びチェン伝動機構39を介して伝達される中間伝動軸41と同軸に支持することによって、
当該平行リンク機構33L,33Rを構成している。
【0021】
尚、本実施例では、作業機31として水田の防除や施肥等に使用される市販の背負い式の動力散布機を装着している。そして、この背負い式の動力散布機を図示しない螺設手段や締着手段を介して台座32に装着できるように構成すると共に、左右一対のチェンケース15L,15Rに固設した支持部材42と、左側の平行リンク機構33Lを構成する上部アーム35、及び右側の平行リンク機構33Rを構成する下部アーム(35)の基端側下部に設けたアームプレート35a,35aとの間にガススプリング43,43を介装することによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが接地する圃場面Gに対する当該作業機31の上下三段の高さ調節を、プレート状の上下調節レバー44を操作して容易に行うことができるように構成している。
【0022】
即ち、プレート状の下部アーム34の略中間部に上下調節レバー44を回動可能に軸支し、この上下調節レバー44の中間部に側面視で上下三段の係合溝44aを形成すると共に、該係合溝44aに係止するピン45を上部アーム(パイプ)35に突設することによって、歩行式動力散布機11で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、係合溝44aの下段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を上段位置に高さ調節(図1参照)することにより、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いでの走行を可能にしている。また、前記係合溝44aの中段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を中段位置に高さ調節した場合は、30〜40cmの高さに生育した水稲Pを跨いでの走行が可能である。
【0023】
一方、畦畔の上面に左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、前記係合溝44aの上段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を下段位置に高さ調節することにより、低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになっている。
【0024】
また、機体フレーム13の後側で、且つ左右の操縦ハンドル23L,23Rの略中間部には、図示しないブラケットを介して上述した減速機38に連結する遠心クラッチを備えた走行用の原動機であるエンジン37を螺設している。このエンジン37の動力は、変速機38及びチェン伝動機構39を介して機体フレーム13に固設した図示しない軸受に支承する中間伝動軸41に伝達され、次いでこの中間伝動軸41の両側に設けたサイドクラッチ機構51,51を経て左右一対のチェンケース15L,15Rの入力軸52、52に伝達される。そして、両チェンケース15L,15R内のチェン53を介して出力軸16を回転駆動させ、この出力軸16に固設してなる駆動スプロッケト17によって走行クローラ19が駆動されるようになっている。尚、両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rの把持部には、サイドクラッチ機構51,51をワイヤを介して断接操作するサイドクラッチレバー40,40を設けている。
【0025】
また、中間伝動軸41の右側軸端は、右側チェンケース15Rの外側まで延出させてあり、その右側軸端に入力プーリ54を固設すると共に、台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rのうち、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36の先端側と、下部アーム(35)の先端側を上下に連結するリンクプレート55に設けた上部連結軸56にカウンタプーリ57を回転自在に支承することによって、両プーリ54,57に巻き掛けてなるVベルト58、及びテンションクラッチ59等によるベルト伝動機構61を構成している。
【0026】
尚、上部アーム36は、テンションクラッチ59を構成する図示しないクラッチアームを回動可能に支承すると共に、ベルト伝動機構61を外側から被包するカバー62を螺設するための図示しない複数の取り付け座を備えている。そして、ベルト伝動機構61は、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36に一体的に設けてあり、それによって台座32に装着した作業機(動力散布機)31の上下三段の高さ調節を行ってもベルト伝動機構61の動力伝達は不都合なくなされる。
【0027】
また、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36の先端側と、下部アーム(35)の先端側を上下に連結するリンクプレート55の上部には、前方に延出する角パイプからなる支持アーム62が設けてあり、この支持アーム62の先端に左右(水平)方向に揺動可能な平面視L字状の揺動リンク63を支持している。そして、この揺動リンク63の長腕部63aの先端と、カウンタプーリ57の外周近傍とに連結したロッド64を介して前後方向に揺動するクランク機構、即ち動力散布機(作業機)31の散布管65を図中B矢印範囲で示すように強制揺動させる強制揺動手段Kを構成すると共に、散布管65を揺動リンク63の左右揺動に連係して揺動させるべく、当該散布管65を保持するスイングアーム66を設けている。尚、スイングアーム66の先端側には、散布管65基部の屈曲可能な蛇腹部分65aが無理なく自在に変形するように、当該散布管65の直管部位65bを保持するクランプ66aを設けている。
【0028】
更に詳しくは、左右の操縦ハンドル23L,23Rの把持部近傍に横設した補強パイプ23Mの右端部側には、上述したベルト伝動機構61のテンションクラッチ59をワイヤ67を介して入/切操作するテンションクラッチ操作レバー68を設けている。そして、このテンションクラッチ操作レバー68でテンションクラッチ59を入り操作することにより、ベルト伝動機構61に連係するクランク機構を構成する揺動リンク63と一体揺動するスイングアーム66を介して、散布管65を図2にB矢印範囲で示した所定の角度で自動的(強制的)に左右方向に揺動させることができるようになっている。
【0029】
そして、図5及び図6に示すように、支持アーム62の先端に立設した支持ピン71の下部に、上述した平面視L字状の揺動リンク63を揺動可能に支持すると共に、この揺動リンク63の上方には、当該支持ピン71に、スイングアーム66の基端部の螺設角度を変更して、散布管65の上下高さを調節できるプレート状のスイングアーム支持部材72を揺動可能に支持している。尚、スイングアーム支持部材72の先端側に形成した円弧状の長孔72a,72aにより、図示C矢印範囲のスイングアーム66の上下螺設角度を調節するこができる。
【0030】
また、スイングアーム支持部材72の基端側には、上下一対のガイドパイプ73,73が固設してあり、このガイドパイプ73,73に挿通した係合ピン74を平面視L字状の揺動リンク63の短腕部63bに係止(挿入)可能に構成し、当該係合ピン74の下端を揺動リンク63の短腕部63bに設けた孔H1に係止することによって、揺動リンク63の左右揺動に連係してのスイングアーム66の左右揺動を可能にしている。尚、係合ピン74の軸方向に直交させて固設したロック(ロール)ピン75を、引張スプリング76を介してスイングアーム支持部材72の基端側に形成したノッチ72bに係止することにより、上述した係合ピン74と揺動リンク63の短腕部63bの係止状態を確実に保持している。
【0031】
そして、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2に連結するロッド64の一端を、図6に示す実線位置D1(内側)から二点鎖線位置D2(外側)に変更することによって、強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲をB矢印範囲からE矢印範囲まで自在に変更することができるようになっている。また、上述した強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲を複数段に変更自在に構成してもよい。
【0032】
更に、図7に示すように、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2の外側位置D2にロッド64の一端を連結し、且つ平面視で係合ピン74を揺動リンク63の短腕部63bの左側面と接当するようにセットすれば、強制揺動手段Kを介して散布管65を図示F矢印範囲、即ち機体進行方向に対して右側約90°範囲で揺動させることができる。この時、散布管65基部の屈曲可能な蛇腹部分65aの変形反力によって、当該散布管65の機体進行方向への戻り揺動がなされる。
【0033】
一方、図8に示すように、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2の外側位置D2にロッド64の一端を連結し、且つ平面視で係合ピン74を揺動リンク63の短腕部63bの右側面と接当するようにセットすれば、強制揺動手段Kを介して散布管65を図示G矢印範囲、即ち機体進行方向に対して左側約90°範囲で揺動させることができるので、当該散布管65による左右片振りでの散布作業を所望の作業形態に応じて選択的に実行可能である。
【0034】
以上、強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲の調節方法について説明したが、本発明の歩行式動力散布機11は、散布管65を手動で左右方向に揺動させることができる手動揺動手段Lも備え、且つこの手動揺動手段Lと強制揺動手段Kとを圃場の広さや作業状態に応じて容易に切り換えることができるように構成している。以下、手動揺動手段Lによる散布管65の左右揺動範囲の調節(変更)方法及びその構成について説明する。
【0035】
上述した動力散布機31の散布管65を揺動させるスイングアーム支持部材72の上方には、支持ピン71に、基端側に係合ピン74を係止可能なピン孔77aを設けると共に、先端側に一対のクレビスピン77b,77cを固設した二股状プレート77を揺動可能に支持している。そして、強制揺動手段Kにおいて、揺動リンク63とスイングアーム支持部材72とを連係せしめた係合ピン74のロックピン75を解除した後、図9及び図10に示すように、係合ピン74の上端を二股状プレート77の基端側のピン孔77aに係止(挿入)した状態で、当該係合ピン74のロックピン75をスイングアーム支持部材72の基端側に形成したノッチ72cに係止することによって、手動揺動手段Lを構成する二股状プレート77の左右揺動に連係してスイングアーム66が左右揺動するようになっている。
【0036】
更に、二股状プレート77の先端側に設けたクレビスピン77bに連結するロッド78の他端を、歩行式動力散布機11のオペレータが操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できるように操作具として後方に延出してあって、当該ロッド(操作具)78
を前後方向に押し引き操作することにより、散布管65を図示H矢印範囲、即ち機体進行方向に対して右側約90°範囲を手動操作によって所望角度で揺動させることができるようになっている。
【0037】
一方、図11に示すように、散布管65を図示J矢印範囲、即ち機体進行方向に対して左側約90°範囲を手動操作によって所望角度で揺動させたい場合は、先ず、図10に示す二股状プレート77先端側のクレビスピン77bに連結してなるロッド78を取り外した後、二股状プレート77を180°回転させ、今度は二股状プレート77先端側の他方のクレビスピン77cにロッド78を連結して、当該ロッド78を前後方向に所望範囲を押し引き操作すればよい。
【0038】
更に詳しくは、台座32に装着した動力散布機31の高さ調節を行った場合、上述した長尺なロッド78と右側のチェンケース15Rとの干渉を防止すべく、図12及び図13に示すような融通手段79を設けている。この融通手段79は、台座32を上下動可能に支持する右側の平行リンク機構33Rの上部アーム36に揺動可能に下端部を支承した揺動プレート81と、該揺動プレート81の上端に固設したピン81aを、作業機31の高さ調節に伴って略上下方向に摺動させる案内溝82aを備えて支持アーム62の基端部に立設したガイドプレート82と、前記ピン81aに案内されてロッド78の前後方向の押し引き操作を容易にする当該ロッド78の略中間部に固設したガイド83とを備えている。
【0039】
即ち、上述した融通手段79によって、作業機(動力散布機)31の高さ調節に伴うロッド78と右側のチェンケース15Rとの干渉を回避すると共に、当該ロッド78の把持部の高さ変化が大きくなることを抑制できるようにしてある。そして、ガイド83の前後方向に設けた長穴83aにより、上述したピン81aに案内されながらのロッド78の前後方向の押し引き操作が可能になると共に、前記長穴83aに一体的に形成した複数のノッチN1,N2にのうち、例えばピン81aにノッチN1を係止させると散布管65の揺動角度を機体進行方向に対し45°の位置で固定することができ、またピン81aにノッチN2を係止させると散布管65の揺動角度を機体進行方向に対し90°位置で固定することができるようになっており、当該散布管65による散布物の散布方向を作業形態に応じて容易に変更可能である。
【0040】
以上説明した歩行式動力散布機11の実施形態によれば、動力散布機31の散布管65を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段Kと、手動で揺動させる手動揺動手段Lとを切換え可能に設けたことによって、当該走行行式動力散布機11を圃場G内で走行させながら、強制揺動手段Kにより散布管65を左右方向に自動的に揺動させて、散布管65の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる一方、畦畔際等に生じる散布物の散布ムラを解消する際は、手動揺動手段Lにより散布管65を的確に手動で揺動させて散布物を散布することによって、圃場G全体への散布物の均一散布を図ることができる。
【0041】
そして、強制揺動手段Kによる散布管65の揺動角度を変更自在に構成したことによって、圃場Gの広さや作業状態に応じて散布物の散布範囲を的確に調節することができるようになると共に、散布管65を操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できる操作具78を設けたことによって、歩行式動力散布機11の操縦性を損なうことなく散布管による的確な散布物の散布が行なえるようになる。
【0042】
また、台座32に装着した動力散布機31の下部左側には、貯留タンク91に貯留した農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を散布管65から放出する際、その散布量を段階的に調節することができる調量レバー92を備えており、この調量レバー92による散布量調節を、歩行式動力散布機11の両手把持式の操縦ハンドル23L,23R側から行えるようにしてある。
【0043】
即ち、調量レバー92先端の把持部92aには、この把持部92aに外嵌する着脱容易な筒状の保持具93と、該保持具93に連結して操縦ハンドル23L,23R側からオペレータが操作可能な棒状の操作具94を設けている。更に詳しくは、操作具94は、その略中間部を動力散布機31を運搬する際に用いる取っ手95の内側にガイドされると共に、この取っ手95に螺設して後方に延出させた多段ノッチ付調量ガイド96によって、散布物の散布量を段階的に調節できるように構成している。
【0044】
また、本発明の歩行式動力散布機11では、左右両側に把持部を有する両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rを、機体フレーム13の前後方向に向く丸パイプ24に嵌挿する支軸25を介してローリング(上下動)操作できるように取り付け、且つ機体フレーム13に対して左右一対の走行装置であるクローラ走行装置12L,12Rを独立的若しくは背反的に上下動可能に支持すると共に、両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作に連動して左右の走行装置12L,12Rを上下動させることができる連係手段101を設けることによって、歩行式動力散布機11が軟弱な土壌や凹凸のある圃場面を走行する際、これらの土壌状態により当該歩行式動力散布機11が左右一側に傾倒しても機体29の姿勢修正が容易に行えることが可能な傾斜制御装置を構成している。
【0045】
即ち、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを平行リンク機構14,14を介して機体フレーム13に支持すると共に、前記連係手段101を、機体フレーム13に軸支して両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rと両クローラ走行装置12L,12Rに連結する左右一対の揺動アーム102,102によって構成しており、歩行式動力散布機11が軟弱な土壌や凹凸のある圃場面を走行する際、例えば凹んだ圃場面に左側のクローラ走行装置12Lが嵌まり歩行式動力散布機11が左側に傾倒しても、この傾倒状態を立て直す方向に両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rをローリング操作すると、当該操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作に連動する連係手段101を介して左右の走行装置12L,12Rが上下に応動し、それによって左側に傾倒した歩行式動力散布機11の姿勢修正が容易になされ、機体29の左右バランスを安定させながら所望の作業を連続して行えるようになっている。
【0046】
尚、歩行式動力散布機11を路上走行させる際やトラック等の運搬車両への積み込み/積み降ろしを行う場合は、上述の如く平行リンク機構14,14を介して機体フレーム13に支持した左右一対の走行装置12L,12Rと、操縦ハンドル23L,23Rと両走行装置12L,12Rとに連結する左右一対の揺動アーム102,102とを一体に固定して、両走行装置12L,12Rの上下動と両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作を一時的に不能にするロック手段(ローリングストッパー)103を設けている。
【0047】
このロック手段103は、右側操縦ハンドル23Rの基端部に上部に固設したパイプ104と、該パイプ104に挿通して右側の揺動アーム102に係止可能なロックピン105と、該ロックピン105を常時は係止方向に付勢する圧縮スプリング106等を備えており、当該ロックピン105を右側の揺動アーム102に係止することによって、両走行装置12L,12Rの独立的若しくは背反的な上下動と、操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作とを不能とし、歩行式動力散布機11の路上走行やトラック等の運搬車両への積み込み/積み降ろし作業において、不要な機体29のローリングが起こすことなく安全な作業が行えるようにしている。
【0048】
また、歩行式動力散布機11は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを駆動させるチェンケース15L,15R下側の出力軸16、即ち駆動スプロッケト17を回動中心として両クローラ走行装置12L,12Rを上下揺動可能に支持すると共に、両クローラ走行装置12L,12Rを上下揺動可能な状態と、所定の上下揺動位置で固定することができる切換手段を備えている。
【0049】
この切換操作手段の詳細な構成の説明は省略するが、上述した駆動スプロッケト17とアイドラ21との略中間部に相当する走行フレーム18の内側には、図14に示すように、ピン111が突設してあり、このピン111に嵌挿するボスを備えた左右一対のロッド112,112を上方に向けて後上がり傾斜で取り付け、更に両ロッド112,112の上部に、側面視でT字状のパイプ体113を構成する縦パイプ113aを嵌挿すると共に、クローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持する平行リンク機構14,14の下側アーム14bの回動支点軸P3に、当該縦パイプ113aの横方向に固設したボス113bを嵌挿した状態で支持できるように構成している。
【0050】
そして、T字状のパイプ体113には、圧縮スプリング114によってロッド112の軸心方向に常時付勢されるロックピン115を内挿している。そして、このロックピン115がパイプ体113から突出する部位に左右のワイヤ116L,116Rの一端を連結し、且つパイプ体113に一体に備える支持部材113cに両ワイヤ116L,116Rの策端金具を支持すると共に、両ワイヤ116L,116Rの他端(策端金具)を左側操縦ハンドル22の把持部の側方に設けたロックピン解除レバー117と一体的に連結してあり、これらロック解除レバー117、両ワイヤ116L,116R、T字状のパイプ体113、該T字状のパイプ体113に内挿したロックピン115、及び左右一対のロッド112,112等によって上述した切換操作手段を構成している。
【0051】
上述した構成によって、歩行式動力散布機11を路上走行、または圃場内を走行させながら散布作業を行う時は、左右一対のロッド112,112の上部に設けた下段切欠き112aにロックピン115を係止させることによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12R、即ち駆動スプロッケト17とアイドラ21に巻き掛けられている走行クローラ19の接地部が、左右の操縦ハンドル23L,23Rに対して略平行の安定した固定姿勢状態(図14に実線で示すaの状態)での通常走行が可能になる。
【0052】
また、左右一対のロッド112,112の略中間部には、ロールピン121を固設してあり、例えばロックピン解除レバー117を把持してロックピン115とロッド112の下段切欠き112aとの係止を解除しながら、操縦ハンドル23L,23Rを上方に持ち上げると、当該ロールピン121とパイプ体113を構成する縦パイプ113aの下端が当接して、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが相対的に前上がり状態(図14に二点鎖線で示すbの状態)に規制され、このクローラ走行装置12L,12Rの前上がり姿勢によって、歩行式動力散布機11の畦畔等を乗り越えての移動作業が安定した機体姿勢で行える。
【0053】
そして、左右一対のロッド112,112の上部に設けた上段切欠き112bにロックピン115を係止させた場合は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが相対的に前下がり状態(図14に二点鎖線で示すcの状態)にとなり、このクローラ走行装置12L,12Rの前下がり姿勢によって、歩行式動力散布機11の傾斜した坂道等での移動走行が安定した機体姿勢で行えるようになっている。
【0054】
ところで、歩行式動力散布機11の台座32上に装着される動力散布機31の散布管65は、図15に示すように長尺であって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを駆動させて圃場G内や畦畔を走行しながら散布作業を行なう際は、地面の凹凸により機体が上下動すると散布管65も大きくバウンドするので、この散布管65のバウンドを軽減すべく、スイングアーム66を揺動可能に支持するスイングアーム支持部材72の支持ピン71の頂部近傍にフック125を固設し、該フック125と散布管65の略中間部とをロープ126用いて連結することによって、当該散布管65の振れ防止を図ってもよい。
【0055】
尚、本実施例では、走行式動力散布機として歩行式動力散布機11を例に説明したが、本発明は、歩行式動力散布機11に限定されるものではなく、乗用式動力散布機に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】歩行式動力散布機の側面図。
【図2】歩行式動力散布機の一部省略平面図。
【図3】歩行式動力散布機の一部省略背面図。
【図4】歩行式動力散布機の伝動系統図。
【図5】スイングアーム基部周辺の要部構成(強制揺動手段)を示す側面図。
【図6】スイングアーム基部周辺の要部構成(強制揺動手段)を示す平面図。
【図7】強制揺動手段による散布管の右側揺動範囲の調節方法を示す平面図。
【図8】強制揺動手段による散布管の左側揺動範囲の調節方法を示す平面図。
【図9】スイングアーム基部周辺の要部構成(手動揺動手段)を示す側面図。
【図10】手動揺動手段による散布管の右側揺動範囲を示す平面図。
【図11】手動揺動手段による散布管の左側揺動範囲を示す平面図。
【図12】手動操作具の構成を示す側面図(作業機高さ最低調整位置)。
【図13】手動操作具の構成を示す側面図(作業機高さ最高調整位置)。
【図14】クローラ走行装置の上下揺動位置の調整方法を示す側面図。
【図15】散布管の振れ止め策を示す側面図。
【符号の説明】
【0057】
12L 走行装置(左)
12R 走行装置(右)
13 機体フレーム
31 動力散布機
37 原動機
23L 操縦ハンドル(左)
23R 操縦ハンドル(右)
65 散布管
78 操作具
K 強制揺動手段
L 手動揺動手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場内や畦畔等を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う走行式動力散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の防除や施肥等に使用される動力散布機としては、背負い式のものが一般的に使用されている。ところが、この背負い式の動力散布機は、貯留タンク、送風機及び原動機等の機体部分だけでも相当重く、それに加えて前記貯留タンクに貯留された散布すべき農薬、肥料、種子等の散布物の重量も付加されて35kg程度になることから、当該動力散布機を背負って足場の悪い畦畔や圃場内を歩行しながら散布作業を行うことは極めて重労働であった。
【0003】
そこで、クローラ走行装置に機体フレームを支持すると共に、この機体フレームに、堆肥に化学肥料、農薬、及び種子等を混合してなる圃場用資材を一時貯留する第1ホッパと、該第1ホッパ内の圃場用資材がバケットコンベアを介して定量供給される第2ホッパと、この定量供給された圃場用資材を一定長に成形する成形装置及び誘導樋と、更に一定長に成形された圃場用資材を吸引して散布管から放出する空気搬送装置と、これら装置の駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載してなる自走式動力散布機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、前後方向に伸びる揺動支軸を備えた機体(基体)フレームに、主車輪である遊転前輪と駆動後輪を前後一直線上に配設すると共に、機体フレームの後部に左右一対の操縦ハンドルを設け、更に前記揺動支軸に揺動フレームを上下揺動自在に支持し、この揺動フレームに散布物が貯留される貯留タンクと、該貯留タンク内の散布物を散布する動力散布機と、その駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載し、且つ前記揺動フレームの機体進行方向に対する左右一側(片側)に側車を配設することによって、凹凸のある畦畔等の不整地を走行する際にも、操縦ハンドルの左右方向の揺動を可及的に抑えて姿勢安定性及び走行安定性を向上させ、当該動力散布機による散布物の散布むらの減少を図るように構成した車輪走行装置による走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−4720号公報(第3−4頁、図3)
【特許文献2】特開平10−244188号公報(第2−3頁、図1−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の自走式動力散布機は、圃場内を走行しながら60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業等を行おうとすると、機体フレームや該機体フレームに搭載した動力散布機の構成装置等が水稲に接触し、この水稲が損傷するといった不具合を有していた。そして、散布管を揺動させながら広範囲に効率的に散布物を散布しようとするものではなかった。
【0006】
また、特許文献2の車輪走行装置を備える走行式動力散布機は、主として略台形状の凹凸のある畦畔を走行しながら管状散布具から散布物を散布せしめるものであり、その際、揺動フレームに搭載した散布物の貯留タンクや、この散布物を散布する動力散布機等の重量を利用し、側車を当該畦畔の側面上部に押し付けながら姿勢を安定させて移動しようとするものであるが、このものでは操縦ハンドルの左右方向の揺動を抑えて、軟弱且つ幅が不揃いな畦畔を安定した機体姿勢で走行することは困難であった。更に、この走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、貯留タンクや管状散布具の基端部を構成する湾曲管等が水稲に接触し、この水稲が損傷するといった不具合を有していた。そして、特許文献1ものと同様に管状散布具を揺動させながら広範囲に効率的に散布物を散布しようとするものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、走行装置と操縦ハンドルを備える機体フレームに、動力散布機と走行用の原動機を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段と、手動で揺動させる手動揺動手段とを切換え可能に設けたことを第1の特徴としている。
【0008】
そして、強制揺動手段による散布管の揺動角度を変更自在に構成したことを第2の特徴としている。
【0009】
そして、散布管を操縦ハンドル側から手動で揺動操作できる操作具を設けたことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、走行装置と操縦ハンドルを備える機体フレームに、動力散布機と走行用の原動機を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段と、手動で揺動させる手動揺動手段とを切換え可能に設けたことによって、当該走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、強制揺動手段により散布管を左右方向に自動的に揺動させて、散布管の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる一方、畦畔際等に生じる散布物の散布ムラを解消する際は、手動揺動手段により散布管を的確に手動で揺動させて散布物を散布することによって、圃場全体への散布物の均一散布を図ることができる。
【0011】
そして、請求項2の発明によれば、強制揺動手段による散布管の揺動角度を変更自在に構成したことによって、圃場の広さや作業状態に応じて散布物の散布範囲を的確に調節することができるようになる。
【0012】
そして、請求項3の発明によれば、散布管を操縦ハンドル側から手動で揺動操作できる操作具を設けたことによって、走行式動力散布機の操縦性を損なうことなく散布管による的確な散布物の散布が行なえるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、走行式動力散布機の一例である歩行式動力散布機11の左側面図、図2は、一部を省略した歩行式動力散布機11の平面図、図3は、一部を省略した歩行式動力散布機11の背面図、及び図4は、伝動系統図であって、該歩行式動力散布機11は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを走行方向に沿わせて配設すると共に、両クローラ走行装置12L,12Rを支持する機体フレーム13を備えている。
【0014】
更に詳しくは、機体フレーム13に対して左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持すべく、当該機体フレーム13の左右両側には、平行リンク機構14,14を介して左右一対のチェンケース15L,15Rを連結している。そして、チェンケース15L,15R下側の出力軸16に駆動スプロッケト17を固設すると共に、当該出力軸16を中心として両クローラ走行装置12L,12Rを構成する走行フレーム18を回動可能に支承している。
【0015】
また、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rに巻き掛ける走行クローラ19の張力を調節するアイドラ21を走行フレーム18の前端に設けると共に、駆動スプロッケト17とアイドラ21の略中間位置に走行クローラ19の外れを防止するクローラガイド22を設けている。
【0016】
上述した構成により左右一対のクローラ走行装置12L,12Rは、チェンケース15L,15R下側の出力軸16、即ち駆動スプロケット17を回動中心として図1に示すA矢印の如く上下揺動可能に支持されており、この上下揺動可能なクローラ走行装置12L,12Rによって、畦畔を乗り越えて隣接圃場へ歩行式動力散布機11を進入させる移動作業や、傾斜した坂道での移動走行が安定した機体姿勢で行えるようになっている。
【0017】
そして、歩行式動力散布機11には、操向操作具であるローリング(上下動)操作可能な左右両側(両端)に把持部を有する両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rを備えている。即ち操縦ハンドル23L,23Rは、左右一体に形成されており、その基端部中央には、機体フレーム13を構成する上部部材13a,13bの左右中間部の前後方向に向けて固設した丸パイプ24に嵌挿する支軸25を備え、この支軸25の先端に介装する一対のバネ座金26の押圧力をナット27の締め付け力により調整することによって、当該操縦ハンドル23L,23Rの左右ローリングの適切な操作感を得ることができるように構成している。
【0018】
また、チェンケース15L,15R下側の出力軸16の他端を、内側支持アーム28L,28Rによって支持すると共に、この内側支持アーム28L,28Rをチェンケース15L,15Rに対向させて、上述した平行リンク機構14,14を構成する上下のアーム14a,14bと一体的に連結している。即ち、機体フレーム13、左右一対のチェンケース15L,15R、及び内側支持アーム28L,28Rによって、図3に示すように、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行可能な門型状の機体29を構成しており、それによって、当該水稲Pを損傷することなく圃場内での散布作業が行えるようになる。尚、符号30は、門型状に形成した機体29の内側に水稲Pの葉をスムーズに案内するために設けた左右一対のガイド体である。
【0019】
そして、機体フレーム13を構成する左右一対に設けた支柱13c,13cと支柱13d,13dとの間には、平行リンク機構14,14を構成する上下のアーム14a,14bの回動支点軸P1,P2が設けてあり、この回動支点軸P1,P2を、作業機31を装着する台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rの回動支点に共用することによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持する平行リンク機構14,14と、台座32を上下動可能に支持する両平行リンク機構33L,33Rとをコンパクト且つ安価に構成している。
【0020】
更に詳しくは、台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rのうち左側の平行リンク機構33Lは、回動支点軸P2を回動支点とするプレート状の下部アーム34と、右側の平行リンク機構33Rの下部アームを兼ねる平面視でコの状に溶接形成した上部アーム(パイプ)35を回動支点軸P1に支持する一方、詳細は後述する右側の平行リンク機構33Rの上部アーム36を、エンジン37の動力が変速機38及びチェン伝動機構39を介して伝達される中間伝動軸41と同軸に支持することによって、
当該平行リンク機構33L,33Rを構成している。
【0021】
尚、本実施例では、作業機31として水田の防除や施肥等に使用される市販の背負い式の動力散布機を装着している。そして、この背負い式の動力散布機を図示しない螺設手段や締着手段を介して台座32に装着できるように構成すると共に、左右一対のチェンケース15L,15Rに固設した支持部材42と、左側の平行リンク機構33Lを構成する上部アーム35、及び右側の平行リンク機構33Rを構成する下部アーム(35)の基端側下部に設けたアームプレート35a,35aとの間にガススプリング43,43を介装することによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが接地する圃場面Gに対する当該作業機31の上下三段の高さ調節を、プレート状の上下調節レバー44を操作して容易に行うことができるように構成している。
【0022】
即ち、プレート状の下部アーム34の略中間部に上下調節レバー44を回動可能に軸支し、この上下調節レバー44の中間部に側面視で上下三段の係合溝44aを形成すると共に、該係合溝44aに係止するピン45を上部アーム(パイプ)35に突設することによって、歩行式動力散布機11で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、係合溝44aの下段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を上段位置に高さ調節(図1参照)することにより、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いでの走行を可能にしている。また、前記係合溝44aの中段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を中段位置に高さ調節した場合は、30〜40cmの高さに生育した水稲Pを跨いでの走行が可能である。
【0023】
一方、畦畔の上面に左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、前記係合溝44aの上段溝にピン45を係止させて動力散布機(作業機)31を下段位置に高さ調節することにより、低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになっている。
【0024】
また、機体フレーム13の後側で、且つ左右の操縦ハンドル23L,23Rの略中間部には、図示しないブラケットを介して上述した減速機38に連結する遠心クラッチを備えた走行用の原動機であるエンジン37を螺設している。このエンジン37の動力は、変速機38及びチェン伝動機構39を介して機体フレーム13に固設した図示しない軸受に支承する中間伝動軸41に伝達され、次いでこの中間伝動軸41の両側に設けたサイドクラッチ機構51,51を経て左右一対のチェンケース15L,15Rの入力軸52、52に伝達される。そして、両チェンケース15L,15R内のチェン53を介して出力軸16を回転駆動させ、この出力軸16に固設してなる駆動スプロッケト17によって走行クローラ19が駆動されるようになっている。尚、両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rの把持部には、サイドクラッチ機構51,51をワイヤを介して断接操作するサイドクラッチレバー40,40を設けている。
【0025】
また、中間伝動軸41の右側軸端は、右側チェンケース15Rの外側まで延出させてあり、その右側軸端に入力プーリ54を固設すると共に、台座32を上下動可能に支持する左右の平行リンク機構33L,33Rのうち、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36の先端側と、下部アーム(35)の先端側を上下に連結するリンクプレート55に設けた上部連結軸56にカウンタプーリ57を回転自在に支承することによって、両プーリ54,57に巻き掛けてなるVベルト58、及びテンションクラッチ59等によるベルト伝動機構61を構成している。
【0026】
尚、上部アーム36は、テンションクラッチ59を構成する図示しないクラッチアームを回動可能に支承すると共に、ベルト伝動機構61を外側から被包するカバー62を螺設するための図示しない複数の取り付け座を備えている。そして、ベルト伝動機構61は、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36に一体的に設けてあり、それによって台座32に装着した作業機(動力散布機)31の上下三段の高さ調節を行ってもベルト伝動機構61の動力伝達は不都合なくなされる。
【0027】
また、右側の平行リンク機構33Rを構成する上部アーム36の先端側と、下部アーム(35)の先端側を上下に連結するリンクプレート55の上部には、前方に延出する角パイプからなる支持アーム62が設けてあり、この支持アーム62の先端に左右(水平)方向に揺動可能な平面視L字状の揺動リンク63を支持している。そして、この揺動リンク63の長腕部63aの先端と、カウンタプーリ57の外周近傍とに連結したロッド64を介して前後方向に揺動するクランク機構、即ち動力散布機(作業機)31の散布管65を図中B矢印範囲で示すように強制揺動させる強制揺動手段Kを構成すると共に、散布管65を揺動リンク63の左右揺動に連係して揺動させるべく、当該散布管65を保持するスイングアーム66を設けている。尚、スイングアーム66の先端側には、散布管65基部の屈曲可能な蛇腹部分65aが無理なく自在に変形するように、当該散布管65の直管部位65bを保持するクランプ66aを設けている。
【0028】
更に詳しくは、左右の操縦ハンドル23L,23Rの把持部近傍に横設した補強パイプ23Mの右端部側には、上述したベルト伝動機構61のテンションクラッチ59をワイヤ67を介して入/切操作するテンションクラッチ操作レバー68を設けている。そして、このテンションクラッチ操作レバー68でテンションクラッチ59を入り操作することにより、ベルト伝動機構61に連係するクランク機構を構成する揺動リンク63と一体揺動するスイングアーム66を介して、散布管65を図2にB矢印範囲で示した所定の角度で自動的(強制的)に左右方向に揺動させることができるようになっている。
【0029】
そして、図5及び図6に示すように、支持アーム62の先端に立設した支持ピン71の下部に、上述した平面視L字状の揺動リンク63を揺動可能に支持すると共に、この揺動リンク63の上方には、当該支持ピン71に、スイングアーム66の基端部の螺設角度を変更して、散布管65の上下高さを調節できるプレート状のスイングアーム支持部材72を揺動可能に支持している。尚、スイングアーム支持部材72の先端側に形成した円弧状の長孔72a,72aにより、図示C矢印範囲のスイングアーム66の上下螺設角度を調節するこができる。
【0030】
また、スイングアーム支持部材72の基端側には、上下一対のガイドパイプ73,73が固設してあり、このガイドパイプ73,73に挿通した係合ピン74を平面視L字状の揺動リンク63の短腕部63bに係止(挿入)可能に構成し、当該係合ピン74の下端を揺動リンク63の短腕部63bに設けた孔H1に係止することによって、揺動リンク63の左右揺動に連係してのスイングアーム66の左右揺動を可能にしている。尚、係合ピン74の軸方向に直交させて固設したロック(ロール)ピン75を、引張スプリング76を介してスイングアーム支持部材72の基端側に形成したノッチ72bに係止することにより、上述した係合ピン74と揺動リンク63の短腕部63bの係止状態を確実に保持している。
【0031】
そして、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2に連結するロッド64の一端を、図6に示す実線位置D1(内側)から二点鎖線位置D2(外側)に変更することによって、強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲をB矢印範囲からE矢印範囲まで自在に変更することができるようになっている。また、上述した強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲を複数段に変更自在に構成してもよい。
【0032】
更に、図7に示すように、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2の外側位置D2にロッド64の一端を連結し、且つ平面視で係合ピン74を揺動リンク63の短腕部63bの左側面と接当するようにセットすれば、強制揺動手段Kを介して散布管65を図示F矢印範囲、即ち機体進行方向に対して右側約90°範囲で揺動させることができる。この時、散布管65基部の屈曲可能な蛇腹部分65aの変形反力によって、当該散布管65の機体進行方向への戻り揺動がなされる。
【0033】
一方、図8に示すように、揺動リンク63の長腕部63aの先端に形成した長孔H2の外側位置D2にロッド64の一端を連結し、且つ平面視で係合ピン74を揺動リンク63の短腕部63bの右側面と接当するようにセットすれば、強制揺動手段Kを介して散布管65を図示G矢印範囲、即ち機体進行方向に対して左側約90°範囲で揺動させることができるので、当該散布管65による左右片振りでの散布作業を所望の作業形態に応じて選択的に実行可能である。
【0034】
以上、強制揺動手段Kによる散布管65の左右揺動範囲の調節方法について説明したが、本発明の歩行式動力散布機11は、散布管65を手動で左右方向に揺動させることができる手動揺動手段Lも備え、且つこの手動揺動手段Lと強制揺動手段Kとを圃場の広さや作業状態に応じて容易に切り換えることができるように構成している。以下、手動揺動手段Lによる散布管65の左右揺動範囲の調節(変更)方法及びその構成について説明する。
【0035】
上述した動力散布機31の散布管65を揺動させるスイングアーム支持部材72の上方には、支持ピン71に、基端側に係合ピン74を係止可能なピン孔77aを設けると共に、先端側に一対のクレビスピン77b,77cを固設した二股状プレート77を揺動可能に支持している。そして、強制揺動手段Kにおいて、揺動リンク63とスイングアーム支持部材72とを連係せしめた係合ピン74のロックピン75を解除した後、図9及び図10に示すように、係合ピン74の上端を二股状プレート77の基端側のピン孔77aに係止(挿入)した状態で、当該係合ピン74のロックピン75をスイングアーム支持部材72の基端側に形成したノッチ72cに係止することによって、手動揺動手段Lを構成する二股状プレート77の左右揺動に連係してスイングアーム66が左右揺動するようになっている。
【0036】
更に、二股状プレート77の先端側に設けたクレビスピン77bに連結するロッド78の他端を、歩行式動力散布機11のオペレータが操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できるように操作具として後方に延出してあって、当該ロッド(操作具)78
を前後方向に押し引き操作することにより、散布管65を図示H矢印範囲、即ち機体進行方向に対して右側約90°範囲を手動操作によって所望角度で揺動させることができるようになっている。
【0037】
一方、図11に示すように、散布管65を図示J矢印範囲、即ち機体進行方向に対して左側約90°範囲を手動操作によって所望角度で揺動させたい場合は、先ず、図10に示す二股状プレート77先端側のクレビスピン77bに連結してなるロッド78を取り外した後、二股状プレート77を180°回転させ、今度は二股状プレート77先端側の他方のクレビスピン77cにロッド78を連結して、当該ロッド78を前後方向に所望範囲を押し引き操作すればよい。
【0038】
更に詳しくは、台座32に装着した動力散布機31の高さ調節を行った場合、上述した長尺なロッド78と右側のチェンケース15Rとの干渉を防止すべく、図12及び図13に示すような融通手段79を設けている。この融通手段79は、台座32を上下動可能に支持する右側の平行リンク機構33Rの上部アーム36に揺動可能に下端部を支承した揺動プレート81と、該揺動プレート81の上端に固設したピン81aを、作業機31の高さ調節に伴って略上下方向に摺動させる案内溝82aを備えて支持アーム62の基端部に立設したガイドプレート82と、前記ピン81aに案内されてロッド78の前後方向の押し引き操作を容易にする当該ロッド78の略中間部に固設したガイド83とを備えている。
【0039】
即ち、上述した融通手段79によって、作業機(動力散布機)31の高さ調節に伴うロッド78と右側のチェンケース15Rとの干渉を回避すると共に、当該ロッド78の把持部の高さ変化が大きくなることを抑制できるようにしてある。そして、ガイド83の前後方向に設けた長穴83aにより、上述したピン81aに案内されながらのロッド78の前後方向の押し引き操作が可能になると共に、前記長穴83aに一体的に形成した複数のノッチN1,N2にのうち、例えばピン81aにノッチN1を係止させると散布管65の揺動角度を機体進行方向に対し45°の位置で固定することができ、またピン81aにノッチN2を係止させると散布管65の揺動角度を機体進行方向に対し90°位置で固定することができるようになっており、当該散布管65による散布物の散布方向を作業形態に応じて容易に変更可能である。
【0040】
以上説明した歩行式動力散布機11の実施形態によれば、動力散布機31の散布管65を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段Kと、手動で揺動させる手動揺動手段Lとを切換え可能に設けたことによって、当該走行行式動力散布機11を圃場G内で走行させながら、強制揺動手段Kにより散布管65を左右方向に自動的に揺動させて、散布管65の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる一方、畦畔際等に生じる散布物の散布ムラを解消する際は、手動揺動手段Lにより散布管65を的確に手動で揺動させて散布物を散布することによって、圃場G全体への散布物の均一散布を図ることができる。
【0041】
そして、強制揺動手段Kによる散布管65の揺動角度を変更自在に構成したことによって、圃場Gの広さや作業状態に応じて散布物の散布範囲を的確に調節することができるようになると共に、散布管65を操縦ハンドル23L,23R側から手動で揺動操作できる操作具78を設けたことによって、歩行式動力散布機11の操縦性を損なうことなく散布管による的確な散布物の散布が行なえるようになる。
【0042】
また、台座32に装着した動力散布機31の下部左側には、貯留タンク91に貯留した農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を散布管65から放出する際、その散布量を段階的に調節することができる調量レバー92を備えており、この調量レバー92による散布量調節を、歩行式動力散布機11の両手把持式の操縦ハンドル23L,23R側から行えるようにしてある。
【0043】
即ち、調量レバー92先端の把持部92aには、この把持部92aに外嵌する着脱容易な筒状の保持具93と、該保持具93に連結して操縦ハンドル23L,23R側からオペレータが操作可能な棒状の操作具94を設けている。更に詳しくは、操作具94は、その略中間部を動力散布機31を運搬する際に用いる取っ手95の内側にガイドされると共に、この取っ手95に螺設して後方に延出させた多段ノッチ付調量ガイド96によって、散布物の散布量を段階的に調節できるように構成している。
【0044】
また、本発明の歩行式動力散布機11では、左右両側に把持部を有する両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rを、機体フレーム13の前後方向に向く丸パイプ24に嵌挿する支軸25を介してローリング(上下動)操作できるように取り付け、且つ機体フレーム13に対して左右一対の走行装置であるクローラ走行装置12L,12Rを独立的若しくは背反的に上下動可能に支持すると共に、両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作に連動して左右の走行装置12L,12Rを上下動させることができる連係手段101を設けることによって、歩行式動力散布機11が軟弱な土壌や凹凸のある圃場面を走行する際、これらの土壌状態により当該歩行式動力散布機11が左右一側に傾倒しても機体29の姿勢修正が容易に行えることが可能な傾斜制御装置を構成している。
【0045】
即ち、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを平行リンク機構14,14を介して機体フレーム13に支持すると共に、前記連係手段101を、機体フレーム13に軸支して両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rと両クローラ走行装置12L,12Rに連結する左右一対の揺動アーム102,102によって構成しており、歩行式動力散布機11が軟弱な土壌や凹凸のある圃場面を走行する際、例えば凹んだ圃場面に左側のクローラ走行装置12Lが嵌まり歩行式動力散布機11が左側に傾倒しても、この傾倒状態を立て直す方向に両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rをローリング操作すると、当該操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作に連動する連係手段101を介して左右の走行装置12L,12Rが上下に応動し、それによって左側に傾倒した歩行式動力散布機11の姿勢修正が容易になされ、機体29の左右バランスを安定させながら所望の作業を連続して行えるようになっている。
【0046】
尚、歩行式動力散布機11を路上走行させる際やトラック等の運搬車両への積み込み/積み降ろしを行う場合は、上述の如く平行リンク機構14,14を介して機体フレーム13に支持した左右一対の走行装置12L,12Rと、操縦ハンドル23L,23Rと両走行装置12L,12Rとに連結する左右一対の揺動アーム102,102とを一体に固定して、両走行装置12L,12Rの上下動と両手把持式の操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作を一時的に不能にするロック手段(ローリングストッパー)103を設けている。
【0047】
このロック手段103は、右側操縦ハンドル23Rの基端部に上部に固設したパイプ104と、該パイプ104に挿通して右側の揺動アーム102に係止可能なロックピン105と、該ロックピン105を常時は係止方向に付勢する圧縮スプリング106等を備えており、当該ロックピン105を右側の揺動アーム102に係止することによって、両走行装置12L,12Rの独立的若しくは背反的な上下動と、操縦ハンドル23L,23Rのローリング操作とを不能とし、歩行式動力散布機11の路上走行やトラック等の運搬車両への積み込み/積み降ろし作業において、不要な機体29のローリングが起こすことなく安全な作業が行えるようにしている。
【0048】
また、歩行式動力散布機11は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを駆動させるチェンケース15L,15R下側の出力軸16、即ち駆動スプロッケト17を回動中心として両クローラ走行装置12L,12Rを上下揺動可能に支持すると共に、両クローラ走行装置12L,12Rを上下揺動可能な状態と、所定の上下揺動位置で固定することができる切換手段を備えている。
【0049】
この切換操作手段の詳細な構成の説明は省略するが、上述した駆動スプロッケト17とアイドラ21との略中間部に相当する走行フレーム18の内側には、図14に示すように、ピン111が突設してあり、このピン111に嵌挿するボスを備えた左右一対のロッド112,112を上方に向けて後上がり傾斜で取り付け、更に両ロッド112,112の上部に、側面視でT字状のパイプ体113を構成する縦パイプ113aを嵌挿すると共に、クローラ走行装置12L,12Rを上下動可能に支持する平行リンク機構14,14の下側アーム14bの回動支点軸P3に、当該縦パイプ113aの横方向に固設したボス113bを嵌挿した状態で支持できるように構成している。
【0050】
そして、T字状のパイプ体113には、圧縮スプリング114によってロッド112の軸心方向に常時付勢されるロックピン115を内挿している。そして、このロックピン115がパイプ体113から突出する部位に左右のワイヤ116L,116Rの一端を連結し、且つパイプ体113に一体に備える支持部材113cに両ワイヤ116L,116Rの策端金具を支持すると共に、両ワイヤ116L,116Rの他端(策端金具)を左側操縦ハンドル22の把持部の側方に設けたロックピン解除レバー117と一体的に連結してあり、これらロック解除レバー117、両ワイヤ116L,116R、T字状のパイプ体113、該T字状のパイプ体113に内挿したロックピン115、及び左右一対のロッド112,112等によって上述した切換操作手段を構成している。
【0051】
上述した構成によって、歩行式動力散布機11を路上走行、または圃場内を走行させながら散布作業を行う時は、左右一対のロッド112,112の上部に設けた下段切欠き112aにロックピン115を係止させることによって、左右一対のクローラ走行装置12L,12R、即ち駆動スプロッケト17とアイドラ21に巻き掛けられている走行クローラ19の接地部が、左右の操縦ハンドル23L,23Rに対して略平行の安定した固定姿勢状態(図14に実線で示すaの状態)での通常走行が可能になる。
【0052】
また、左右一対のロッド112,112の略中間部には、ロールピン121を固設してあり、例えばロックピン解除レバー117を把持してロックピン115とロッド112の下段切欠き112aとの係止を解除しながら、操縦ハンドル23L,23Rを上方に持ち上げると、当該ロールピン121とパイプ体113を構成する縦パイプ113aの下端が当接して、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが相対的に前上がり状態(図14に二点鎖線で示すbの状態)に規制され、このクローラ走行装置12L,12Rの前上がり姿勢によって、歩行式動力散布機11の畦畔等を乗り越えての移動作業が安定した機体姿勢で行える。
【0053】
そして、左右一対のロッド112,112の上部に設けた上段切欠き112bにロックピン115を係止させた場合は、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rが相対的に前下がり状態(図14に二点鎖線で示すcの状態)にとなり、このクローラ走行装置12L,12Rの前下がり姿勢によって、歩行式動力散布機11の傾斜した坂道等での移動走行が安定した機体姿勢で行えるようになっている。
【0054】
ところで、歩行式動力散布機11の台座32上に装着される動力散布機31の散布管65は、図15に示すように長尺であって、左右一対のクローラ走行装置12L,12Rを駆動させて圃場G内や畦畔を走行しながら散布作業を行なう際は、地面の凹凸により機体が上下動すると散布管65も大きくバウンドするので、この散布管65のバウンドを軽減すべく、スイングアーム66を揺動可能に支持するスイングアーム支持部材72の支持ピン71の頂部近傍にフック125を固設し、該フック125と散布管65の略中間部とをロープ126用いて連結することによって、当該散布管65の振れ防止を図ってもよい。
【0055】
尚、本実施例では、走行式動力散布機として歩行式動力散布機11を例に説明したが、本発明は、歩行式動力散布機11に限定されるものではなく、乗用式動力散布機に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】歩行式動力散布機の側面図。
【図2】歩行式動力散布機の一部省略平面図。
【図3】歩行式動力散布機の一部省略背面図。
【図4】歩行式動力散布機の伝動系統図。
【図5】スイングアーム基部周辺の要部構成(強制揺動手段)を示す側面図。
【図6】スイングアーム基部周辺の要部構成(強制揺動手段)を示す平面図。
【図7】強制揺動手段による散布管の右側揺動範囲の調節方法を示す平面図。
【図8】強制揺動手段による散布管の左側揺動範囲の調節方法を示す平面図。
【図9】スイングアーム基部周辺の要部構成(手動揺動手段)を示す側面図。
【図10】手動揺動手段による散布管の右側揺動範囲を示す平面図。
【図11】手動揺動手段による散布管の左側揺動範囲を示す平面図。
【図12】手動操作具の構成を示す側面図(作業機高さ最低調整位置)。
【図13】手動操作具の構成を示す側面図(作業機高さ最高調整位置)。
【図14】クローラ走行装置の上下揺動位置の調整方法を示す側面図。
【図15】散布管の振れ止め策を示す側面図。
【符号の説明】
【0057】
12L 走行装置(左)
12R 走行装置(右)
13 機体フレーム
31 動力散布機
37 原動機
23L 操縦ハンドル(左)
23R 操縦ハンドル(右)
65 散布管
78 操作具
K 強制揺動手段
L 手動揺動手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(12L,12R)と操縦ハンドル(23L,23R)を備える機体フレーム(13)に、動力散布機(31)と走行用の原動機(37)を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機(31)の散布管(65)を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段(K)と、手動で揺動させる手動揺動手段(L)とを切換え可能に設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項2】
強制揺動手段(K)による散布管(65)の揺動角度を変更自在に構成した請求項1に記載の走行式動力散布機。
【請求項3】
散布管(65)を操縦ハンドル(23L,23R)側から手動で揺動操作できる操作具(78)を設けた請求項1または請求項2に記載の走行式動力散布機。
【請求項1】
走行装置(12L,12R)と操縦ハンドル(23L,23R)を備える機体フレーム(13)に、動力散布機(31)と走行用の原動機(37)を搭載した走行式動力散布機において、前記動力散布機(31)の散布管(65)を左右方向に強制揺動させる強制揺動手段(K)と、手動で揺動させる手動揺動手段(L)とを切換え可能に設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項2】
強制揺動手段(K)による散布管(65)の揺動角度を変更自在に構成した請求項1に記載の走行式動力散布機。
【請求項3】
散布管(65)を操縦ハンドル(23L,23R)側から手動で揺動操作できる操作具(78)を設けた請求項1または請求項2に記載の走行式動力散布機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−143404(P2007−143404A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337935(P2005−337935)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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