説明

走行装置の異常監視装置

【課題】車両に搭載された走行装置における異常の発生をリアルタイムかつ高い精度で検出することが可能な走行装置の異常監視装置を提供する。
【解決手段】異常監視装置は、アクスル2の両端部における外周面にベアリング4を介して取り付けられたハブ3と、ハブ3の外周面側に締結部7によって締結されたホイール6とを含んで構成される走行装置1を備えた車両に搭載され、ハブ3の外周面に配置され、走行装置1において発生したAE波を検出するAEセンサ12と、AEセンサ12からの出力信号における所定の抽出幅から算出される移動平均値および標準偏差から標本線を設定し、出力信号が標本線の値に一致した回数によって所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたか否を判定し、これに基づいて走行装置1における異常の発生の有無を判定する判定部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のアクスル両端部に設けられる走行装置の異常監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、トラック等の特装車両には、車軸としてのアクスルが搭載されており、アクスルの両端部には、走行装置としてのハブ、ホイール等が設けられている。ハブは、ホイールを自由に回転させるためのベアリングを介してアクスルの内周面に外挿されている。ホイールは、タイヤを取り付けるための部品であって、ボルトおよびナットによってハブに締結されている。このような走行装置は、車両の走行に関わる重要な部品であるため、出荷する前には十分な検査が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−80903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、走行装置は、車両荷重や走行中の衝撃を繰り返し受ける部分であるため、時間の経過と共に走行装置の一部が損傷したり、ハブとホイールとの締結が緩んだりする等の異常が発生するおそれがある。このため、上記損傷や締結の緩みといった走行装置における異常をリアルタイムかつ高い精度で検出できることが好ましい。
【0005】
本発明は、車両に搭載された走行装置における異常の発生をリアルタイムかつ高い精度で検出することが可能な走行装置の異常監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の走行装置の異常監視装置は、アクスルの両端部における外周面に軸受を介して取り付けられたハブと、ハブの外周面側に締結手段によって締結されたホイールとを含んで構成される走行装置を備えた車両に搭載されており、走行装置における異常の発生の有無を監視する走行装置の異常監視装置であって、ホイールおよび締結手段に接触するハブにおける外周面に配置され、走行装置において発生したAE波を検出するAEセンサと、AEセンサからの出力信号における所定の抽出幅から算出される移動平均値および標準偏差から標本線を設定し、出力信号が標本線の値に一致した回数によって所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたか否かを判定し、これに基づいて走行装置における異常の発生の有無を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この走行装置の異常監視装置によれば、ハブの外周面にAEセンサを配置し、走行装置の一部に異常が発生した際に生じるAE波を検出するAEセンサからの出力信号に基づいて、走行装置における異常の発生の有無を判定する。AEセンサは、ハブの外周面に配置されているので、ハブにクラックが発生した際に生じるAE波だけでなく、このハブと接するベアリングや締結手段に異常が発生した際に生じるAE波も検出することができる。また、AEセンサの検出機能では、車両の走行時に生じる振動は検出されないので、走行装置に異常が発生した際に生じた振動のみを検出することができる。従って、このAEセンサで、走行装置からのAE波を常時監視することにより、走行装置に異常が発生したことをリアルタイムに検出することができる。さらに、この異常監視装置では、AEセンサからの出力信号に対して一定の処理を施しているので、走行装置における異常の発生の有無を精度よく判定することができる。
【0008】
また、走行装置の異常監視装置では、ホイールおよび締結手段に接触するハブの外周面において、衝撃波を検出する衝撃センサがAEセンサに隣接して配置され、判定部は、衝撃センサからの出力信号における所定の抽出幅から算出される移動平均値および標準偏差から標本線を設定し、出力信号が標本線の値に一致した回数によって所定閾値以上の出力信号を有する衝撃波が検出されたか否かを判定することが好ましい。また、走行装置の異常監視装置では、判定部は、所定閾値以上のAE波が検出され、かつ所定閾値以上の衝撃波が検出されなかったと判定された場合に、走行装置に異常が発生したと判定することが好ましい。また、走行装置の異常監視装置では、判定部は、所定閾値以上のAE波が検出され、かつ所定閾値以上の衝撃波が検出されたと判定された場合に、走行装置に異常は発生していないと判定することが好ましい。
【0009】
この走行装置の異常監視装置では、衝撃センサが、AEセンサでは判別することができない所定の周波数を有する衝撃波を検出できる。これにより、走行装置を搭載した車両が跳ね上げた小石等がアクスルやホイールに衝突した場合であっても、その衝撃によって発生する振動と走行装置に異常が発生した際に生じる振動とを判別することができ、走行装置における異常の発生の有無をより高い精度で検出することが可能となる。
【0010】
また、走行装置の異常監視装置では、判定部において走行装置に異常が発生したと判定された場合に、その判定結果を報知する報知部をさらに備えていることが好ましい。これにより、例えば、車両の運転者あるいは管理者に対して、走行装置に発生した不具合を認識させることができる。
【0011】
また、走行装置の異常監視装置では、判定部において走行装置に異常が発生したと判定された場合に、車両の走行を禁止する制御部をさらに備えていることが好ましい。これにより、走行装置における異常の発生が原因となる不具合を回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両に搭載された走行装置における異常の発生をリアルタイムかつ高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る異常監視装置が取り付けられる走行装置の概略図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態に係る走行装置の異常監視装置の機能構成を示したブロック図である。
【図3】図2のAEセンサから出力される信号の一例を示す図である。
【図4】図2の信号処理部における波形処理解析を説明する図である。
【図5】本発明の好適な一実施形態に係る走行装置の異常監視装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図2のAEセンサから出力される信号の一例を示す図である。
【図7】図2の信号処理部における波形処理解析結果を説明する図である。
【図8】本発明の他の好適な一実施形態に係る走行装置の異常監視装置の機能構成を示したブロック図である。
【図9】図8のAEセンサおよび衝撃センサの検出機能を説明する図である。
【図10】図8の判定部における判定テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
本発明の好適な第1実施形態に係る走行装置の異常監視装置10について、図1〜図7を用いて説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1は、本発明の走行装置の異常監視装置の検査対象となる走行装置1を示す概略図である。
【0015】
本発明の走行装置の異常監視装置10が監視する対象となる走行装置1は、トラック等の特装車両に搭載されており、アクスル2の両端に配置されている。アクスル2は、図1に示すように、筒状のシャフト本体2aの端部にシャフト本体2a側に向かって大径となるスピンドル2bを溶接して形成されている。シャフト本体2aおよびスピンドル2bは、例えば、9mmの厚みを有する中空円筒状の部材である。走行装置1は、図1に示すように、ハブ3と、ベアリング(軸受)4と、アクスルナット5と、ホイール6と、締結部(締結手段)7と、ブレーキドラム8とを主に含んで構成されている。
【0016】
ハブ3は、後述するホイール6をアクスル2に取り付けるための部品であって、アクスル2におけるスピンドル2bの外周面に外挿されている。ハブ3は、スピンドル2bの端部に配置されたアクスルナット5によって軸方向への移動が規制されている。
【0017】
ベアリング4は、回転運動するハブ3と軸となるスピンドル2bとを互いに支持する部品であって、スピンドル2bの外周面とハブ3の内周面との間に互いに接触するように配置されている。これにより、ハブ3は、アクスル2に対して回転することが可能となっている。
【0018】
ホイール6は、タイヤ9を装着する部品であって、ハブ3の外周面側に配置されている。ホイール6は、ホイールボルト7aおよびホイールナット7bの締結部7によって、ハブ3の外周面側に形成されたブラケット3aに締結されている。これにより、ホイール6は、ハブ3と共にアクスル2に対して回転することが可能となっている。
【0019】
ブレーキドラム8は、ブレーキ機構を構成する部品であって、ハブ3の外周面側に配置されている。ブレーキドラム8は、ホイールボルト7aおよびドラムナット7cの締結部7によって、ハブ3の外周面側に形成されたブラケット3aに締結されている。これにより、ブレーキドラム8は、ハブ3と共にアクスル2に対して回転することが可能となっている。
【0020】
以下、上述したような走行装置1における異常の発生の有無を監視する異常監視装置10について、図2〜図7を用いて説明する。
【0021】
異常監視装置10は、上述の走行装置1を備えた車両に搭載されており、図2に示すように、AEセンサ12と、信号処理部13と、判定部15と、報知部16と、制御部17とを含んで構成されている。
【0022】
AEセンサ12は、ハブ3における外周面に固定されており、走行装置1の一部に異常が発生した際に生ずるAE波を検出する部分である。AEセンサ12は、ハブ3の外周面に配置されているので、ハブ3においてクラックが発生した際に生ずるAE波だけでなく、ハブ3に接するベアリング4にクラックが発生した際に生ずるAE波や、ハブ3に接する締結部7が緩んだ際に生ずるAE波も検出する。このAEセンサ12は、通常走行時に受ける振動よりもはるかに高い数10kHz〜数MHzという周波数帯域の振動のみを検出する特性を有している。AEセンサ12は、検出したAE波の強度に対応する出力信号を、帯域周波数が、例えば、40kHz〜1.2MHzであるアンプ(図示せず)を介して信号処理部13に出力する。なお、AEセンサ12から信号処理部13への出力は有線または無線のいずれであってもよい。
【0023】
図3は、走行装置1に異常が発生したにAEセンサ12から出力される信号の一例を示す図である。AEセンサ12は、走行装置1に異常がない場合には何ら信号を出力しないが、走行装置1にクラックに異常が発生した場合には、ハブ3に伝播してくるAE波を検出し、例えば図3に示すように、最初に振幅のピークがあって次第に小さくなるような信号を出力する。
【0024】
信号処理部13は、AEセンサ12において検出された出力信号から、走行装置1における異常の発生の有無を判定するのに必要な判定値を抽出する部分である。信号処理部13は、後述する判定部15が、走行装置1における異常の発生の有無を判定するにあたって客観的に判定を行えるようにするために、波形処理解析によって出力信号を特徴化する。
【0025】
以下、信号処理部13が行う処理の一つである波形処理解析について説明する。この波形処理解析では、まず、図4に示すように、所定抽出幅における出力信号の移動平均値μを求める。次に、移動平均値μの標準偏差σに基づいて標本線を設定する。標本線は、標準偏差σを所定倍することによって得ることができる。例えば、図4に示すように、標準偏差σを、−3.0倍、−1.5倍、+1.5倍、+3.0倍することによって、−3σの標本線、−1.5σの標本線、+1.5σの標本線、+3.0σの標本線を得ることができる。次に、出力信号が、所定の標本線(例えば、+3σの標本線)の値に一致する回数を算出する。信号処理部13は、この回数を判定値とし、判定部15に出力する。
【0026】
判定部15は、信号処理部13において算出された判定値に基づいて、所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたか否かを判定し、これに基づいて走行装置1における異常の発生の有無を判定する部分である。具体的には、判定部15は、出力信号が標本線の値に一致した回数が基準データを満たす場合、所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたと判定し、これに基づいて当該走行装置1に異常が発生したと判定し、出力信号が標本線の値に一致した回数が基準データを満たさない場合、所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されなかったと判定し、これに基づいて走行装置1に異常が発生していないと判定する。なお、基準データは、標準偏差σを所定倍することによって得られる標本線ごとに設定された値であり、データベース部14に格納されている。また、判定部15は、シャフト本体2aの外周面に設けられている。
【0027】
報知部16は、判定部15において走行装置1に異常が発生したと判定された場合、このことをアクスル2が搭載された車両の運転者あるいは管理者へ報知する部分である。報知部16は、例えば走行装置1に異常が発生したことを警告音として報知したり、車両の表示部等に走行装置1に異常が発生したことを表示したりして報知する。
【0028】
制御部17は、判定部15において、走行装置1に異常が発生したと判定された場合、アクスル2が搭載された車両の走行を禁止する部分である。例えば、制御部17は、車両が走行中の場合には、車両のブレーキを制御して車両を停止させたり、車両が停止中の場合は、エンジンを停止させたりするよう制御して車両が走行することを禁止する。
【0029】
以下、図5に示す走行装置の異常監視装置の処理の流れを示すフローチャートを使用して、上述した走行装置1の異常監視装置10の動作について説明する。AEセンサ12は、走行装置1において発生するAE波を常時監視しており、AE波を検出すると、検出したAE波の強度に対応する出力信号を信号処理部13に出力する(ステップS1)。
【0030】
次に、信号処理部13は、AEセンサ12において取得された出力信号から走行装置1における異常の発生の有無を判定するのに必要な判定値を抽出する(ステップS2)。具体的には、図6に示すように、まず、AEセンサ12から出力される信号について所定抽出幅(図6の例では、AE波の周期である150ns)における移動平均値μを求め、移動平均値μに基づく標準偏差σを算出する。次に、算出した標準偏差σを所定倍(図6の例では、標準偏差σの3倍)することによって得られる標本線を設定する。そして、出力信号が当該標本線の値に一致する回数を算出し、図7(a)に示すように判定値を取得する。なお、図7(a)に示す判定値は、図6に示す出力信号M1が、標本線3σの値を上回ったときと標本線3σを下回ったときとをカウントして算出されたものである。
【0031】
次に、ステップS2において抽出された判定値に基づいて、判定部15は、走行装置1における異常の発生の有無を判定する(ステップS3)。具体的には、判定部15は、図7(a)に示すように、+3σの標本線に対して、出力信号が標本線の値に一致した回数が1回でもあれば、所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたと判定し、これに基づいて当該走行装置1に異常が発生したと判定する。一方、判定部15は、図7(b)に示すように、+3σの標本線に対して、出力信号が標本線の値に一致することがない場合、所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されなかったと判定し、これに基づいて当該走行装置1に異常が発生していないと判定する。なお、ここでは、標本線3σに対して出力信号が標本線の値に一致した回数が1回以上あることを走行装置1に異常が発生したと判定される判定基準としたがこれに限定されるものではない。この判定値は、例えば、走行装置1において異常が発生したときに生ずるAE波から得られる時系列波形を波形処理解析した結果に基づいて、標準偏差σを所定倍することによって得られる標本線ごとに値を設定することができる。
【0032】
ステップS3において、当該走行装置1に異常が発生したと判定された場合(ステップS3:有)、報知部16は、警告音を出力して、アクスル2の走行装置1に異常が発生したことを車両の運転者へ報知する(ステップS4)。次に、制御部17は、車両が走行中の場合には、車両のブレーキを制御して車両を停止させ、停止中の場合は、エンジンを停止あるいはエンジンの始動を制限するように制御して車両が走行することを禁止する(ステップS5)。
【0033】
一方、ステップS3において、当該走行装置1に異常が発生していないと判定された場合(ステップS3:無)、一連の処理を終了する。
【0034】
以上に説明したように、本実施形態の走行装置1の異常監視装置10によれば、クラックが発生した際や締結部7が緩んだ際に生じる数10kHz〜数MHzという周波数帯域の振動をAEセンサ12によって検出できる。そして、AEセンサ12の検出機能では、車両の走行時に生じる振動は検出されないので、ハブあるいはベアリング4においてクラックが発生あるいは締結部7が緩んだ際に生じる振動のみを検出することができる。また、本実施形態の走行装置1の異常監視装置10によれば、AEセンサ12が、走行装置1からのAE波を常時監視しているので、クラックが発生あるいは締結部が緩んだことをリアルタイムに検出することができる。さらに、判定部15は、AEセンサ12からの出力信号に対してステップS2において抽出されるような判定値に基づいて判定を行っているので、走行装置1における異常の発生の有無を精度よく判定することができる。この結果、走行装置1において異常が発生したことをリアルタイムかつ高い精度で検出することができる。
【0035】
〔第2実施形態〕
本発明の好適な第2実施形態に係る走行装置1の異常監視装置110について、図8〜図10を用いて説明する。なお、当該異常監視装置110の構成は、上記第1実施形態の異常監視装置10に対して衝撃センサ21を備える点と、判定部15における判定処理のみが異なる。以下、上記異なる点について主に説明し、同一番号が付された同一要素についてはその説明を省略する。
【0036】
衝撃センサ21は、図8に示すように、ハブ3における外周面において、AEセンサ12に隣接して固定されている。衝撃センサ21の周波数帯域は、例えば数Hz〜数kHz程度となっており、AEセンサ12に比べて低周波帯域をカバーするようになっている。衝撃センサ21は、検出した衝撃波の強度に対応する出力信号を信号処理部13に出力する。信号処理部13は、AEセンサ12および衝撃センサ21からの出力信号に対して第1実施形態と同様の波形解析処理を実行し、所定閾値以上のAE波・衝撃波が検出されたか否かを示す判定値を判定部15に出力する。なお、衝撃センサ21から信号処理部13への出力は有線または無線のいずれであってもよい。
【0037】
図9は、AEセンサと衝撃センサとの検出機能を示す図である。図9に示すように、車両の走行時の振動やホイール6への小石等の衝突によって生じる衝撃波の周波数は、例えば数Hz〜数10kHzとなっている。したがって、衝撃波がハブ3を伝播してきた場合には、衝撃センサ21で検出可能となっている。なお、衝撃波のうちの高周波帯域部分については、AEセンサ12において検出される場合がある。また、クラックの発生あるいは締結部7の緩みによって生じたAE波は、衝撃センサ21では検出されず、AEセンサ12のみで検出可能となっている。
【0038】
また、図10は、判定部15における判定テーブルの一例を示す図である。図10に示すように、判定部15は、衝撃センサ21およびAEセンサ12のいずれにおいても所定閾値以上の信号が検出されなかった場合、および衝撃センサ21のみで所定閾値以上の信号が検出された場合には、走行装置1に異常が発生していないと判定する。また、判定部15は、衝撃センサ21およびAEセンサ12の双方で所定閾値以上の信号が検出された場合についても、走行装置1に異常が発生していないと判定する。これは、上述のように、衝撃波のうちの高周波帯域部分については、AEセンサ12において検出される場合があることを考慮したものである。そして、判定部15は、AEセンサ12のみで所定閾値以上の信号が検出された場合には、走行装置1に異常が発生したと判定する。
【0039】
以上に説明したように、本実施形態の走行装置1の異常監視装置110によれば、上記実施形態の異常監視装置10と同様の効果に加え、AEセンサ12に隣接して衝撃センサ21を備えているので、AEセンサ12と衝撃センサ21とで互いに異なる検出機能を利用した図10に示すような判定テーブルに基づいて、走行装置1における異常の発生の有無を判定する。これにより、ハブ3に伝播する、例えば、クラックの発生により生ずるAE波、飛来物の衝突により生ずる衝撃波、走行時の振動等の中からAE波を判別し、走行装置1における異常の発生の有無をより高い精度で検出することができる。
【0040】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で以下のような様々な変形が可能である。
【0041】
上記実施形態においては、報知部16は、走行装置1に異常が発生したことを車両の運転者に報知する例を挙げて説明したが、例えば、遠隔地にいる当該車両の管理者等へ通信手段を介して報知するようにしてもよい。この場合、車両にGPS等の現在位置特定手段を搭載することによって、管理者に車両の位置と共に異常が発生したことを報知することが可能となる。また、車両に搭載された積算メータ等の走行距離特定手段等と連携することにより、管理者に走行距離と共に異常が発生したことを報知することが可能となる。これにより、より緻密に車両の状態を管理することが可能となる。
【0042】
上記実施形態においては、ステップS2において、信号処理部13は、AEセンサ12において取得された出力信号から走行装置1における異常の発生の有無を判定するのに必要な判定値を抽出する例を挙げて説明したが、これに限定されるものではない。AEセンサ12が測定できる最大振幅の例えば20%以上の振幅を有するAE波が検出されたか否かを判定し、走行装置1における異常の発生の有無を判定してもよい。
【0043】
上記実施形態の走行装置1の異常監視装置10,110では、標本線を設定するにあたり標準偏差σを3倍した3σを設定したがこれ限定されるものではなく、例えば、標準偏差σを1.5倍した1.5σや標準偏差σを6倍した6σ等を設定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…走行装置、2…アクスル、2a…シャフト本体、2b…スピンドル、3…ハブ、3a…ブラケット、4…ベアリング、5…アクスルナット、6…ホイール、7…締結部、7a…ホイールボルト、7b…ホイールナット、7c…ドラムナット、8…ブレーキドラム、9…タイヤ、10…異常監視装置、12…センサ、13…信号処理部、14…データベース部、15…判定部、16…報知部、17…制御部、21…衝撃センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルの両端部における外周面に軸受を介して外挿された筒状のハブと、前記ハブの外周面側に締結手段によって締結されたホイールとを含んで構成される走行装置を備えた車両に搭載されており、前記走行装置における異常の発生の有無を監視する走行装置の異常監視装置であって、
前記ホイールおよび締結手段に接触する前記ハブにおける外周面に配置され、前記走行装置において発生したAE波を検出するAEセンサと、
前記AEセンサからの出力信号における所定の抽出幅から算出される移動平均値および標準偏差から標本線を設定し、前記出力信号が前記標本線の値に一致した回数によって所定閾値以上の出力信号を有するAE波が検出されたか否かを判定し、これに基づいて前記走行装置における異常の発生の有無を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする走行装置の異常監視装置。
【請求項2】
前記ホイールおよび締結手段に接触する前記ハブの外周面において、衝撃波を検出する衝撃センサが前記AEセンサに隣接して配置され、
前記判定部は、前記衝撃センサからの出力信号における所定の抽出幅から算出される移動平均値および標準偏差から標本線を設定し、前記出力信号が前記標本線の値に一致した回数によって所定閾値以上の出力信号を有する衝撃波が検出されたか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の走行装置の異常監視装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記所定閾値以上の前記AE波が検出され、かつ前記所定閾値以上の前記衝撃波が検出されなかったと判定された場合に、前記走行装置に異常が発生したと判定することを特徴とする請求項2に記載の走行装置の異常監視装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記所定閾値以上の前記AE波が検出され、かつ前記所定閾値以上の前記衝撃波が検出されたと判定された場合に、前記走行装置に異常は発生していないと判定することを特徴とする請求項2または3に記載の走行装置の異常監視装置。
【請求項5】
前記判定部において前記走行装置に異常が発生したと判定された場合に、その判定結果を報知する報知部をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の走行装置の異常監視装置。
【請求項6】
前記判定部において前記走行装置に異常が発生したと判定された場合に、前記車両の走行を禁止する制御部をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の走行装置の異常監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−64552(P2011−64552A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214900(P2009−214900)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】