説明

起泡性乳化油脂組成部及び同組成物を用いたケーキ類

【課題】これまでにない程キメの荒いケーキが容易に得られるケーキ用起泡性乳化油脂組成物、それを用いてなるケーキ及びケーキ類の製造方法を提供すること。
【解決手段】ケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中、食用油脂5〜40重量%、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステル3〜10重量%、グリセリン脂肪酸エステル2〜8重量%を含有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの50%以上が重合度10のデカグリセリンモノステアリン酸エステルであることを特徴とするケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用い、スキャナーによる観察において、最も長い径が1500μm以上の気泡が400mm2中に10個以上存在するケーキ、或いは画像解析ソフトウェア「Image J」を用いた気泡解析による気泡数が250[個/cm2]以下で且つ気泡平均面積が0.15mm2以上であるケーキを作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製法によらずキメの荒いケーキが得られる起泡性乳化油脂組成部及びケーキ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキは、卵、砂糖、小麦粉を主な原料として、気泡を含んだフワッとした食感の食品である。その製法としては、起泡する時に全ての原料を混合してから起泡した生地を焼成するオールインミックス製法と、あらかじめ卵白、砂糖等を混合して起泡した生地と、これに卵、小麦粉、砂糖等を混合して起泡した生地とをさっくりと混合して焼成する別立て製法とがある。オールインミックス製法のケーキはキメが細かくしっとりしており、大量生産向きである。一方別立て製法のケーキはキメが荒く口ごなれが良いが、反面作業工程が複雑で熟練を要し、大量生産向きではない。
【0003】
そのような中、最近は消費者の嗜好が多様になり、これまでにない程キメが荒く、口ごなれの良いケーキも望まれるようになった。
【0004】
これまで、主な乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するケーキ用乳化起泡剤や(特許文献1)、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、及びグルテン分解物を含むケーキミックス(特許文献2)が開示されている。
【0005】
前記のような材料を用いたスポンジケーキは、キメが荒く、口ごなれの良いケーキとなるが、まだまだキメの荒さが不足で、多様な嗜好の消費者を満足しきれていない。
【特許文献1】特開2002−247952号公報
【特許文献2】特開平7−31359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これまでにない程キメの荒いケーキが容易に得られるケーキ用起泡性乳化油脂組成物、それを用いてなるケーキ類及びそれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定量の食用油脂を含有し、さらに乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル及びデカグリセリンモノステアリン酸エステルを含有するケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用いれば、これまでにない程キメの荒いケーキが容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、ケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中、食用油脂5〜40重量%、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステル3〜10重量%、グリセリン脂肪酸エステル2〜8重量%を含有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの50%以上が重合度10のデカグリセリンモノステアリン酸エステルであることを特徴とするケーキ用起泡性乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、上記記載のケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用いてなるケーキであって、スキャナーによる観察において、最も長い径が1500μm以上の気泡が400mm2中に10個以上存在するケーキに関する。本発明の第三は、上記記載のケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用いてなるケーキであって、画像解析ソフトウェア「Image J」を用いた気泡解析による気泡数が250[個/cm2]以下で且つ気泡平均面積が0.15mm2以上であるケーキに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、これまでにない程キメの荒いケーキが容易に得られるケーキ用起泡性乳化油脂組成物、それを用いてなるケーキ類及びそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のケーキ用起泡性乳化油脂組成物は、ケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中、食用油脂、50%以上が重合度10のデカグリセリンモノステアリン酸エステルであるHLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルを含有する。
【0011】
本発明の食用油脂は、食用に適する油脂であれば特に限定はないが、例えばナタネ油・コーン油・大豆油・パーム油・パーム核油・ヤシ油・カカオ脂・ラード・牛脂・魚油などの油脂、及びこれらの分別・硬化・エステル交換などの処理された油脂が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。食用油脂の含有量は、ケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中5〜40重量%使用される。5重量%未満であると乳化剤のダマが生じ易くなる場合があり、一方40重量%より多いと乳化組成物の乳化安定性は悪くなる場合がある。
【0012】
前記油脂の中では、起泡性の面から常温で液状の油脂が好ましい。逆に常温で固体の油脂は使用可能であるが起泡性の面から不利である。常温で液状の油脂としては、ナタネ油・コーン油・大豆油・パーム分別油などが挙げられる。
【0013】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンが2分子以上重合したポリグリセリンと脂肪酸のモノエステル及び/又はジエステルである。該脂肪酸としては、炭素数が8〜18のカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは6以上が必要であり、HLBが6より少ないとキメの荒いケーキは得られない場合がある。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量はケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中3〜10重量%が好ましい。含有量が3重量%より少ないとケーキのキメの荒さは十分でない場合があり、一方含有量10重量%より多くてもキメの荒さの効果は変わらず、風味が悪くなる場合がある。
【0014】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ケーキのキメの荒さをより顕著にするためには、ポリグリセリン脂肪酸エステルの内50重量%以上が、グリセリンの重合度10であり且つ脂肪酸がステアリン酸である、デカグリセリンステアリン酸エステルである事が好ましい。
【0015】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの脂肪酸モノエステル及び/又はジエステルである。構成脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘン酸などが挙げられるが、起泡性の面からステアリン酸が好ましい。
【0016】
本発明のケーキ用起泡性乳化油脂組成物には、さらに必要に応じて有機酸モノグリセライド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステルなどの他の乳化剤、香料、PH調整剤、風味付与材、着色料、糖類、ソルビトール、塩類、保存料などが使用できる。
【0017】
本発明のケーキ用起泡性乳化油脂組成物は、当該組成物中のポリグリセリン脂肪酸エステルの量がケーキ中の小麦粉100重量部に対し、1〜3重量部となるように使用することが好ましい。
【0018】
ケーキの配合は特に限定はされず、小麦粉、卵、砂糖、水、香料、乳化剤及び乳化剤含有組成物、乳製品、膨張剤その他風味素材などが好みに応じて使用可能である。製法は材料を混合した後、ミキサーで混合してホイップするオールインミックス法が簡便で好ましいが、別立て製法等他の製法で使用する事も可能である。ホイップするミキサーはバッチ式や連続式を問わず使用が可能である。ホイップ後の生地の比重は特に限定するものではなく、0.3〜0.6まで好みに応じて選定できる。
【0019】
本発明のケーキ用起泡性乳化油脂組成物及びそれを用いたケーキの製造方法は、特に限定はないが、以下に例示する。
【0020】
<ケーキ用起泡性乳化油脂組成物の作製>
まず、水相を次のように作製する。ポリグリセリン脂肪酸エステル、糖類、ソルビトールなどを水に添加し、攪拌しながら温度を上げ、65〜85℃にて溶解と殺菌を行い水相とする。一方、油脂に油溶性成分即ち、グリセリン脂肪酸エステル、香料、着色料等を加え、攪拌しながら65℃〜75℃にて溶解させ油相とする。前記水相に攪拌しながら油相を徐々に加え乳化する。乳化をしながらゆっくりと冷却していき、温度が低下し流動性がなくなったら攪拌と冷却を停止し、本発明のケーキ用起泡性乳化油脂組成物を得る。得られた乳化油脂は必要に応じて35〜40℃にてテンパリング(熟成)を行った後冷蔵庫で冷却し、起泡性乳化油脂を得る。
【0021】
<ケーキの作製>
通常のケーキの製法に従えばよいが、例えば、原材料を全て混合した後、ミキサーで混合してホイップするオールインミックス法で作製できる。ホイップするミキサーとしては、バッチ式や連続式を問わず使用が可能である。ホイップ後のケーキ生地は型に入れてオーブン等で焼成されるが、オーブンの種類は特に限定されない。
【0022】
本発明のケーキは、非常にキメが荒く、該ケーキは、スキャナーによる断面観察において、最も長い径が1500μm以上の気泡が400mm2中に10個以上存在する、及び/又は、画像解析ソフトウェア「Image J」(アメリカ国立衛生研究所NIH製)を用いた気泡解析による気泡数が250[個/cm2]以下で且つ気泡平均面積が0.15mm2以上となる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0024】
<キメ評価>
実施例・比較例で得られたケーキを鋭利な回転式スライサーで縦に2cm厚にスライスし、その断面を目視で観察してキメを評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。5:荒い、4:やや荒い、3:普通、2:やや細かい、1:細かい。
【0025】
<1500μm以上の気泡の数測定>
実施例・比較例で得られたケーキを鋭利な回転式スライサーで縦に2cm厚にスライスし、得られたケーキ断面の中央部分の20mm×20mm四方の面積をスキャナー(RICOH社製「IPSiOSCAN 3000DC」)で画像を取り込んで観察し、最も長い径が1500μm以上の気泡の数を目視でカウントした。
【0026】
<単位面積当たりの気泡数測定>
実施例・比較例で得られたケーキを回転式スライサーでスライスし、得られた2cm厚のケーキ断面の端から3cm、底面から2cmを中心に撮影した画像を画像解析ソフトウェア「Image J」を用いて取り込み、各測定サンプル5個の単位面積当たりの気泡数から平均値を算出した。
【0027】
<気泡平均面積測定>
実施例・比較例で得られたケーキを回転式スライサーでスライスし、得られた2cm厚のケーキ断面の端から3cm、底面から2cmを中心に撮影した画像を画像解析ソフトウェア「Image J」を用いて取り込み、各測定サンプル5個の単位面積当たりの気泡から平均面積を算出した。
【0028】
(実施例1) 起泡性乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従って、70重量%ソルビトール46重量部、水24重量部を混合し、これを攪拌しながらデカグリセリンステアリン酸モノエステル(HLB12)4重量部、ジグリセリンステアリン酸モノエステル(HLB7)1重量部、テトラグリセリンステアリン酸モノエステル(HLB8)1重量部、を少しずつ加え分散させた。これらを攪拌しながら加熱し、75℃で30分間殺菌溶解させ、これを水相とした。ナタネ油20重量部にグリセリンステアリン酸モノエステル4重量部を加え、攪拌しながら加熱し75℃にて溶解させてこれを油相とした。上記水相を攪拌しながら、75℃にて溶解させた上記油相を徐々に加えて10分間乳化した。この乳化物を攪拌しながらゆっくり冷却し、45℃にて攪拌を停止したら乳化物を取り出し、起泡性乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性乳化油脂組成物を35℃にて48時間テンパリングした後、冷蔵庫にて保管した。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例2〜4) 起泡性乳化油脂組成物の作製
配合を表1に従って変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性乳化油脂組成物を35℃にて48時間テンパリングした後、冷蔵庫にて保管した。
【0031】
(比較例1〜4) 起泡性乳化油脂組成物の作製
配合を表1に従って変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性乳化油脂組成物を35℃にて48時間テンパリングした後、冷蔵庫にて保管した。
【0032】
(実施例5) スポンジケーキの作製
砂糖100重量部、起泡性乳化油脂組成物(実施例1)20重量部、水20重量部、殺菌全卵180重量部を攪拌機(HOBART社製「MODEL N50」)に投入し、軽く馴染ませてから、次いで薄力粉100重量部、ベーキングパウダー2重量部を投入し、中速で5分間攪拌して起泡させて生地を得た。得られた生地を直径18cmのスポンジケーキ用の丸型に流し込み、180℃のオーブンで40分間焼成し、室温にてあら熱をとり、型からはずしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0033】
(実施例6) スポンジケーキの作製
実施例2の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0034】
(実施例7) スポンジケーキの作製
実施例3の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0035】
(実施例8) スポンジケーキの作製
実施例4の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0036】
(比較例5) スポンジケーキの作製
比較例1の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0037】
(比較例6) スポンジケーキの作製
比較例2の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0038】
(比較例7) スポンジケーキの作製
比較例3の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0039】
(比較例8) スポンジケーキの作製
比較例4の起泡性乳化油脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にしてスポンジケーキを得た。得られたスポンジケーキの各評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0040】
表1に示す通り、本発明の起泡性乳化油脂組成物を用いることによりオールインミックス製法でも、キメの荒いケーキが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーキ用起泡性乳化油脂組成物全体中、食用油脂5〜40重量%、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステル3〜10重量%、グリセリン脂肪酸エステル2〜8重量%を含有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの50%以上が重合度10のデカグリセリンモノステアリン酸エステルであることを特徴とするケーキ用起泡性乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用いてなるケーキであって、スキャナーによる観察において、最も長い径が1500μm以上の気泡が400mm2中に10個以上存在するケーキ。
【請求項3】
請求項1に記載のケーキ用起泡性乳化油脂組成物を用いてなるケーキであって、画像解析ソフトウェア「Image J」を用いた気泡解析による気泡数が250[個/cm2]以下で且つ気泡平均面積が0.15mm2以上であるケーキ。

【公開番号】特開2010−110250(P2010−110250A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284764(P2008−284764)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】