説明

超音波モータを備えた微動機構及び振動体保持機構

【課題】共振に起因する異音の発生を抑制して高い静粛性を得る。
【解決手段】超音波モータを備えた微動機構は、固定台1と、固定台1に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体3と、直方体形状であって、2つの突起部9(9a、9b)が設けられた一平面を有し、高周波信号により複数の振動モードを励起する振動体8と、振動体8を固定台1に対して保持する振動体保持機構14とを備える。振動体保持機構14は、移動体3の移動軸方向に振動体8を保持する薄板ばね部7と、振動体8を移動体3の方向に押圧するコイルばね12と、コイルばね12を変形させ押圧力を生じさせる押圧ねじ11と、薄板ばね部7とコイルばね12の両方に接するように配置された減衰材13とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータを備えた微動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や生体試料など微細構造の観察に顕微鏡がよく利用されている。観察対象の任意位置を顕微鏡観察下に位置づけるためにXYステージを利用するが、このとき、観察対象となる微細構造と同等以上の送り分解能や静止時の安定性が求められている。また、観察位置も高いスループットで複数箇所を観察する必要がある場合も多く、高速動作も求められている。
【0003】
以上のニーズに対応するアクチュエータの一つとして超音波モータが注目されている。例えば特許文献1には、超音波モータを備えた微動機構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−187768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の微動機構の場合、稀に、振動体に励起された屈曲振動が、移動体移動軸方向に振動体を保持する薄板ばねや押圧力を与えるプランジャ内部のコイルばねを共振させてしまい、自身の振動音及び薄板ばねやコイルばねの接触音等、不快な音を発することがあった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑み、共振に起因する異音の発生を抑制して高い静粛性を得ることが可能な、超音波モータを備えた微動機構及び振動体保持機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る装置は、超音波モータを備えた微動機構であって、固定台と、前記固定台に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体と、直方体形状であって、複数の突起部が設けられた一平面を有し、高周波信号により複数の振動モードを励起する振動体と、前記振動体を前記固定台に対して保持する振動体保持機構と、を備え、前記振動体保持機構は、前記移動体の移動軸方向に前記振動体を保持する第1の弾性体と、前記振動体を前記移動体の方向に押圧する第2の弾性体と、前記第2の弾性体を変形させ押圧力を生じさせる押圧ねじと、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体の両方に接するように配置された第1の減衰材と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様に係る装置は、上記第1の態様において、前記第2の弾性体は、コイルばねであり、単体としての前記第1の減衰材の外径は、前記コイルばねの内径より大きく、前記第1の減衰材は、前記コイルばねの内部に挿入される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の態様に係る装置は、上記第2の態様において、前記第1の弾性体は、前記移動体の移動軸方向に対して平行に設けられた板ばねであり、前記板ばねは、中央部にばねとして作用しない厚肉部を有し、前記コイルばねは、前記押圧ねじにより前記移動体の移動軸方向に対して垂直な方向から前記厚肉部を介して前記振動体を前記移動体の方向に押圧し、単体としての前記第1の減衰材における、前記押圧ねじによる押圧力の方向の長さは、前記厚肉部における前記コイルばねに接触する面と前記押圧ねじ先端部との間の長さ以上である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の態様に係る装置は、上記第3の態様において、前記振動体保持機構は、当該振動体保持機構における固定部と前記厚肉部の両方に接するように設けられた第2の減衰材を更に含む、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第5の態様に係る装置は、固定台と、前記固定台に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体と、超音波モータとを備えた微動機構に使用される、前記超音波モータに含まれる振動体を前記固定台に対して保持する振動体保持機構であって、前記移動体の移動軸方向に前記振動体を保持する第1の弾性体と、前記振動体を前記移動体の方向に押圧する第2の弾性体と、前記第2の弾性体を変形させ押圧力を生じさせる押圧ねじと、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体の両方に接するように配置された第1の減衰材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の第6の態様に係る装置は、上記第5の態様において、当該振動体保持機構における固定部と前記厚肉部の両方に接するように設けられた第2の減衰材、を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、共振に起因する異音の発生を抑制することができるので、高い静粛性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係る、超音波モータを備えた微動機構の斜視図である。
【図2】(a) は実施例1に係る微動機構の一部上面図であり、(b) は(a) に示したA−A´断面図である。
【図3】(a) は実施例2に係る微動機構の一部上面図であり、(b) は(a) に示したB−B´断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係る、超音波モータを備えた微動機構の斜視図である。図2(a) は、本実施例に係る微動機構の一部上面図であり、同図(b) は、同図(a) に示したA−A´断面図である。
【0017】
本実施例に係る微動機構は、例えば、移動対象物の正確な微小移動が要求される顕微鏡システムや電子機器等に適用可能な装置である。
図1に示したように、固定台1上には、例えばリニアボールガイド等のガイド2(同図では2a,2b,2c)によって固定台1に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体3が保持されている。移動体3の側面には、例えばセラミック等の硬い材料で作られた摺動部材4が設けられている。
【0018】
また、固定台1上には、直方体形状の振動体8を固定台1に対して保持する振動体保持機構14も設けられている。振動体保持機構14は、詳しくは図2(a),(b) に示したように、保持部材5、押圧ねじ11、コイルばね12、及び減衰材13を含んで構成されている。
【0019】
保持部材5は、例えばアルミニウム等の金属材料で構成されており、詳しくは図2(a) に示したように、ワイヤ放電加工等により切り欠き穴部6を設けることによって形成された薄板ばね部7(同図(a) では斜線で示した部分)を有する。なお、薄板ばね部7は、移動体3の移動軸方向に振動体8を高い剛性で保持する第1の弾性体の一例であり、移動体3の移動軸方向に対して平行に設けられた板ばねと言うこともできる。この薄板ばね部7の中央には、ばねとして作用しない厚肉部7aが形成されており、厚肉部7aと振動体8とが例えばセラミック接着材等の硬度の高い接着剤で接着されている。ここで、薄板ばね部7と振動体8は平行に近接して設けられ、振動体8の接着位置は、振動体8の接着面中央付近である。
【0020】
このように、本実施例では、ばねとして作用しない厚肉部7aに振動体8を接着することによって、薄板ばね部7がたわんだときに振動体8との接着が剥がれないようにしている。また、薄板ばね部7と振動体8とを近接して設けるように構成することによって、薄板ばね部7の引っ張り圧縮方向の剛性をより高めるようにしている。
【0021】
なお、薄板ばね部7の中央に形成される厚肉部7aの形状は、図示した形状に限らず、振動体8との接着が剥がれない程度の厚みを持ちながら薄板ばね部7と振動体8とを平行に近接して設けることができるような形状であって、さらに後述の押圧ねじ11及びコイルばね12等により適切に押圧力を与えることができるような形状であるならば、他の形状であってもよい。
【0022】
振動体8における厚肉部7aが接着された面と反対の面には、例えば強化繊維を含むポリアセタールやセラミック等の、摩擦係数の比較的小さな樹脂を母材とした材料で形成された突起部9(9a,9b)が2個設けられている。保持部材5は、この突起部9が2個とも摺動部材4に接する状態で、固定用ビス穴10(10a,10b)を通してビスにより固定台1に固定される。このとき、薄板ばね部7のたわみは殆ど無い状態で、移動体3側への押圧力はゼロ近傍であることが望ましい。なお、図1においては保持部材5を固定台1に固定するための固定用ビス穴10及びビスを省略して示している。
【0023】
保持部材5にはメネジが形成されており、詳しくは図2(b) に示したように、外周の一部にオネジが形成された押圧ねじ11をねじ込むことによって、押圧ねじ11と厚肉部7aとの間に設けられたコイルばね12を変形させ、厚肉部7aを押圧できるようになっている。このため、押圧ねじ11におけるコイルばね12に接触する位置の移動量に応じた押圧力が厚肉部7aに負荷される。このとき、振動体8も突起部9と共に摺動部材4に押圧される。なお、コイルばね12は、振動体8を移動体3の方向に押圧する第2の弾性体の一例であり、押圧ねじ11により移動体3の移動軸方向に対して垂直な方向から厚肉部7aを介して振動体8を移動体3の方向に押圧する。
【0024】
押圧ねじ11の先端部外径は、コイルばね12の内径より僅かに小さくなっている。また、厚肉部7aには、コイルばね12の外径より僅かに大きな内径のザグリが設けられている。このため、コイルばね12は、押圧ねじ11の先端部と厚肉部7aに設けられたザグリにより位置を規制され、保持部材5の内部で動くことは無い。
【0025】
コイルばね12の内部には、例えばゴムやゲル等の減衰材(第1の減衰材の一例)13が挿入されている。単体としての減衰材13の外径は、コイルばね12の内径より大きく構成されている。従って、コイルばね12の内部に挿入されている減衰材13は、コイルばね12と確実に接触するようになっている。また、単体としての減衰材13における押圧方向長さ(押圧ねじ11による押圧方向の長さ)は、厚肉部7aに設けられたザグリ底面(厚肉部7aにおけるコイルばね12に接触する面)と押圧ねじ12の先端部(押圧ねじ12における移動体3側の先端部)との間の長さ以上に構成されている。従って、コイルばね12の内部に挿入されている減衰材13は、厚肉部7a(薄板ばね部7)とも確実に接触するようになっている。このように、コイルばね12の内部に挿入されている減衰材13が、コイルばね12と厚肉部7aの両方に確実に接触するようになっていることから、振動体8に振動が励起されたときに、薄板ばね部7及び又はコイルばね12が共振したとしても、その両方に確実に接触している減衰材13により速やかに共振が減衰され、共振に起因する異音の発生を抑制することが可能となる。
【0026】
なお、本実施形例に係る微動機構において、移動体3の移動軸方向と、振動体8における突起部9が設けられた平面と、振動体8における厚肉部7aが接着された平面と、薄板ばね部7の引っ張り圧縮方向とは平行である。
【0027】
また、振動体8は、不図示の駆動回路により所定の高周波電圧信号が印加されることにより、複数の振動モードを励起することが可能になっている。そして、振動体8に複数の振動モードを励起させることによって、振動体8に設けられている突起部9に接触している摺動部材4と共に移動体3を移動させることが可能になっている。
【0028】
また、本実施例に係る微動機構において、超音波モータは、少なくとも振動体8及び突起部9を含んで構成されている。
以上、本実施例に係る微動機構によれば、振動体8に振動が励起されたときに、薄板ばね部7及び又はコイルばね12が共振したとしても、その共振に起因する異音の発生を減衰材13により抑制することができるので、高い静粛性を得ることができる。
【0029】
なお、本実施例に係る微動機構では、振動体8における厚肉部7aが接着された面と反対の面に形成された突起部9を2つとしたが、2つ以外の複数の突起部を形成するように構成することも可能である。
【実施例2】
【0030】
図3(a) は、本発明の実施例2に係る微動機構の一部上面図であり、同図(b) は、同図(a) に示したB−B´断面図である。なお、同図(a),(b) は、図2(a),(b) に対応する図である。
【0031】
図3(a),(b) に示したように、本実施例の係る微動機構は、保持部材5の上面において、厚肉部7aと薄板ばね部7以外の保持部材5の部分である固定部21とに跨るように、例えばポリイミドテープやテフロン(登録商標)テープ等の粘着テープ(第2の減衰材の一例)22が貼付される点のみが実施例1に係る微動機構と異なり、その他の構成は同じである。このように、本実施例に係る微動機構では、振動体保持機構14が、厚肉部7aと固定部21とに跨るように粘着テープ22が貼付される構成を更に有することから、振動体8に振動が励起されたときに、薄板ばね部7が共振したとしても、その共振が粘着テープ22によっても速やかに減衰され、その共振に起因する異音の発生を、より抑制することが可能となる。
【0032】
以上、本実施例に係る微動機構によれば、実施例1に係る微動機構により得られる効果に加え、更に、薄板ばね部7の共振に起因する異音の発生を粘着テープ22によっても抑制することができるので、より高い静粛性を得ることができる。
【0033】
なお、本実施例に係る微動機構において、保持部材5の上面において、薄板ばね部7の一部又は全部(但し、少なくとも厚肉部7aを含む)と固定部21の一部又は全部とに跨るように粘着テープ22は貼付するように構成することも可能である。
【0034】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良及び変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0035】
1 固定台
2 ガイド
3 移動体
4 摺動部材
5 保持部材
6 切り欠き穴部
7 薄板ばね部
8 振動体
9 突起部
10 固定用ビス穴
11 押圧ねじ
12 コイルばね
13 減衰材
14 振動体保持機構
21 固定部
22 粘着テープ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波モータを備えた微動機構であって、
固定台と、
前記固定台に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体と、
直方体形状であって、複数の突起部が設けられた一平面を有し、高周波信号により複数の振動モードを励起する振動体と、
前記振動体を前記固定台に対して保持する振動体保持機構と、
を備え、
前記振動体保持機構は、
前記移動体の移動軸方向に前記振動体を保持する第1の弾性体と、
前記振動体を前記移動体の方向に押圧する第2の弾性体と、
前記第2の弾性体を変形させ押圧力を生じさせる押圧ねじと、
前記第1の弾性体と前記第2の弾性体の両方に接するように配置された第1の減衰材と、
を含む、
ことを特徴とする微動機構。
【請求項2】
前記第2の弾性体は、コイルばねであり、
単体としての前記第1の減衰材の外径は、前記コイルばねの内径より大きく、
前記第1の減衰材は、前記コイルばねの内部に挿入される、
ことを特徴とする請求項1記載の微動機構。
【請求項3】
前記第1の弾性体は、前記移動体の移動軸方向に対して平行に設けられた板ばねであり、
前記板ばねは、中央部にばねとして作用しない厚肉部を有し、
前記コイルばねは、前記押圧ねじにより前記移動体の移動軸方向に対して垂直な方向から前記厚肉部を介して前記振動体を前記移動体の方向に押圧し、
単体としての前記第1の減衰材における、前記押圧ねじによる押圧力の方向の長さは、前記厚肉部における前記コイルばねに接触する面と前記押圧ねじ先端部との間の長さ以上である、
ことを特徴とする請求項2記載の微動機構。
【請求項4】
前記振動体保持機構は、当該振動体保持機構における固定部と前記厚肉部の両方に接するように設けられた第2の減衰材を更に含む、
ことを特徴とする請求項3記載の微動機構。
【請求項5】
固定台と、前記固定台に対して移動軸方向に移動可能に支持された移動体と、超音波モータとを備えた微動機構に使用される、前記超音波モータに含まれる振動体を前記固定台に対して保持する振動体保持機構であって、
前記移動体の移動軸方向に前記振動体を保持する第1の弾性体と、
前記振動体を前記移動体の方向に押圧する第2の弾性体と、
前記第2の弾性体を変形させ押圧力を生じさせる押圧ねじと、
前記第1の弾性体と前記第2の弾性体の両方に接するように配置された第1の減衰材と、
を備えることを特徴とする振動体保持機構。
【請求項6】
当該振動体保持機構における固定部と前記厚肉部の両方に接するように設けられた第2の減衰材、
を更に備えることを特徴とする請求項5記載の振動体保持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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