説明

超音波モータ

【課題】円周方向にがたつきが生じることなく、適正な軸方向位置で支持部材を圧接固定することができ、また、容易に分解することができる超音波モータを提供する。
【解決手段】後ケース31の凸片31aを凸片嵌合部30cに軸方向(矢印A方向)に嵌合すると、凸片31aのくさび部31bにより支持板圧接部30aが円周方向(矢印B方向)に押される。これにより、支持板圧接部30aが支持板13を支持板係合部30b内で円周方向に挟み込むように弾性変形(或いは塑性変形)し、支持板13が外筒30の支持板係合部30bに圧接固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子に駆動信号を印加することにより振動体に振動を励起させ、振動体に押圧された移動体に摩擦による駆動力を与える超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータは、圧電素子等の電気−機械エネルギ変換素子に交流電圧を印加することにより高周波振動を励起させ、その振動エネルギを連続的な機械運動として取り出すように構成されたモータである(特許文献1)。
【0003】
図6および図7に、従来の超音波モータの一例を示す。
【0004】
この超音波モータは、モータ軸24の一端が軸受32を介して外筒50に回転可能に支持され、モータ軸24の他端が後ケース51に回転可能に支持されている。
【0005】
外筒50および後ケース51は、モータ軸24の軸方向の両側から互いに軸方向に嵌合されてモータケースを構成しており、該モータケース内の外筒50側にはステータ10が配設され、後ケース51側にはロータ20が配設されている。
【0006】
ステータ10は、スリーブ14に圧電素子群11、振動子12、および支持板13が固定され、モータ軸24と離間した状態で支持板13が外筒50の後ケース51側の端部に形成された切欠き状の支持板係合部50aに固定される構造になっている。なお、ステータ10をモータ軸24から離間配置するのは、ステータ10の圧電素子群11をモータ軸24に係合させると圧電素子群11の振動が抑制されてしまうからである。
【0007】
ロータ20は、モータ軸24に圧入固定されたバネ支持板23に加圧バネ22が取り付けられ、該加圧バネ22によりツバ21をステータ10の振動子12に加圧接触させる構造になっている。
【0008】
そして、ステータ10の圧電素子群11に交流電圧を印加することにより高周波振動を発生させて振動子12を励振させ、振動子12に加圧接触するツバ21を介してロータ20に摩擦による駆動力を付与することによりモータ軸24が回転駆動される。
【0009】
次に、図6および図8を参照して、支持板13を外筒50の支持板係合部50aに固定する構造について説明する。
【0010】
図6では、支持板13を外筒50の支持板係合部50aに対して軸方向(矢印A方向)に移動させると、支持板13が支持板係合部50aにはめあいで係合して固定される。支持板13を支持板係合部50aに固定した後、後ケース51が外筒50に装着される。
【0011】
図8(a)では、支持板13を外筒50の支持板係合部50aに対して軸方向(矢印A方向)に軽圧入することで、支持板13が支持板係合部50aに係合して固定される。
【0012】
図8(b)では、支持板13を外筒50の支持係合部50aに係合した後、係合部分に接着剤(斜線部)を塗布することで、支持板13が支持板係合部50aに固定される。
【0013】
図8(c)では、後ケース51の外筒50側の端部に、先端にくさび部51aを有する凸片52を形成している。また、外筒50の後ケース51側の端部には、凸片52の円周方向幅に支持板13の円周方向幅を加えた長さより若干短い円周方向幅を有する切欠き状の支持板係合部50bを形成している。
【0014】
そして、支持板13を外筒50の支持板係合部50bの円周方向の一側に配置した後、支持板係合部50bの円周方向の他側に後ケース51の凸片52を軸方向(矢印A方向)に装着する。これにより、凸片52の先端のくさび部51aが支持板13を円周方向に押して該支持板13が支持板係合部50bに圧接固定される。
【特許文献1】特開平11−46486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、ステータ10は、図7に示すように、モータ軸24の軸方向に対してスリーブ14が外筒50に当接する位置で位置決めされている。支持板13を外筒50の支持板係合部50a,50bに固定する位置については、ステータ10が位置決めされた後に軸方向に対して位置決めする必要がある。ここで、支持板13の軸方向の位置がずれた場合、支持板13が弾性変形して、弾性変形分の応力が圧電素子群11および振動子12に作用し、加圧バネ22の加圧力が適正に働かなくなってしまう。
【0016】
加圧バネ22の加圧力が適正に働かなくなった場合、超音波モータのトルクが仕様通りに発生しなかったり、また、振動子12とツバ21との接触部分が異常に摩耗してしまい、超音波モータの寿命が短くなるという不具合が生じる。
【0017】
図6に示す支持板の固定構造では、支持板13の軸方向の位置は適正に確保されるが、円周方向(モータ軸の回転方向:矢印C方向)に対しては支持板係合部50a内で嵌合分のガタが発生し、適正なモータ出力が得られない場合がある。
【0018】
また、図8(a)に示す支持板の固定構造では、支持板13を支持板係合部50aに軽圧入で固定するために、軸方向に対して位置決めをしづらいという問題が発生する。
【0019】
更に、図8(b)に示す支持板の固定構造では、支持板13の係合部分を接着剤で固定してしまうため、かかる固定後は、超音波モータを分解することができなくなるという不具合が生じる。
【0020】
更に、図8(c)に示す支持板の固定構造では、後ケース51のくさび部51aで支持板13を円周方向に圧接固定するとき、支持板13を軸方向(矢印A方向)に押す力が働く。このため、支持板係合部50bに支持板13を軸方向に対して位置決めしても、支持板13が軸方向に動いてしまうという不具合が生じる。
【0021】
そこで、本発明は、円周方向にがたつきが生じることなく、適正な軸方向位置で支持部材を圧接固定することができ、また、容易に分解することができる超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の超音波モータは、電気−機械エネルギ変換素子と、該電気−機械エネルギ変換素子に駆動信号を印加することにより振動が励起される振動体と、該振動体に励起した振動により駆動される移動体と、該移動体の駆動力により回転駆動される出力軸と、前記電気−機械エネルギ変換素子を支持する支持部材と、前記出力軸の軸方向の両側から前記電気−機械エネルギ変換素子、前記振動体、前記移動体および前記支持部材を覆った状態で互いに軸方向に嵌合される一対のケース部材と、を備え、該一対のケース部材のうちの一方のケース部材に前記支持部材の係合部が形成される超音波モータであって、前記一方のケース部材の前記係合部に対して周方向に隣接する位置に他方のケース部材に設けた被嵌合部が軸方向に嵌合される嵌合部を設けて、該嵌合部と前記係合部との間に圧接部を形成し、前記一方のケース部材の前記嵌合部に前記他方のケース部材の前記被嵌合部を軸方向に嵌合することにより、前記圧接部を、前記係合部に対して前記支持部材を周方向に圧接させる方向に変形させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、円周方向にがたつきが生じることなく、軸方向の適正な位置で支持部材を一方のケース部材に固定することができ、また、超音波モータの分解も容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明の実施の形態の一例である超音波モータを説明するための外観斜視図、図2は図1に示す超音波モータの軸方向に沿う断面図、図3は図1に示す超音波モータの分解斜視図、図4は支持板を外筒に固定する構造の一例を説明するための図である。なお、既に図6および図7で説明した従来の超音波モータに対して重複する部分については各図に同一符号を付して説明する。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施形態の超音波モータ1は、モータ軸(出力軸)24の一端が軸受32を介して外筒(一対のケース部材の一方のケース部材)30に回転可能に支持されている。また、モータ軸24の他端は、外筒30と略同一径の後ケース(他方のケース部材)31に回転可能に支持されている。
【0027】
外筒30および後ケース31は、軸方向に互いに嵌合されてモータケースを構成しており、該モータケース内の外筒30側にはステータ10が配設され、後ケース31側にはロータ(移動体)20が配設されている。
【0028】
ステータ10は、スリーブ14に振動子(振動体)12、圧電素子群11および支持板(支持部材)13が外嵌固定され、モータ軸24と離間した状態で支持板13が外筒30の後ケース31側の端部に形成された切欠き状の支持板係合部30bに固定される。なお、支持板13の固定構造については、後述する。
【0029】
ロータ20は、モータ軸24に圧入固定されたバネ支持板23に加圧バネ22が取り付けられ、該加圧バネ22によりツバ21をステータ10の振動子12に加圧接触させている。
【0030】
上記構成の超音波モータ1を組み立てるには、図3を参照して、まず、ステータ10を外筒30に固定した後、ロータ20のバネ支持板23が圧入固定されたモータ軸24をステータ10のスリーブ14に軸方向(矢印A方向)に差し込んでいく。このとき、ロータ20の加圧バネ22がツバ21を加圧して、ツバ21がステータ10の振動子12に加圧接触し、この状態で、後ケース31を外筒30に装着する。
【0031】
そして、ステータ10の圧電素子群11に交流電圧を印加することにより高周波振動を発生させて振動子12を励振させ、振動子12に加圧接触するツバ21を介してロータ20に摩擦による駆動力を付与することによりモータ軸24が回転駆動される。
【0032】
次に、図3および図4を参照して、支持板13を外筒30に固定する構造について説明する。
【0033】
後ケース31を外筒30に装着する前において、ステータ10を外筒30に固定した状態では、支持板13は外筒30の支持板係合部30bに対してはめあいによって係合している。このとき、ローラ20の加圧バネ22の加圧力が作用した状態で、支持板13がモータ軸24の軸方向に対して適正な位置で支持板係合部30bに係合している。ただし、この状態においては、支持板13は軸方向に移動することが可能である。
【0034】
ここで、本実施形態では、後ケース31の外筒30側の端部に、先端にくさび部31bを有する凸片(凸形状の被嵌合部)31aを形成している。一方、外筒30の支持板係合部30bの円周方向に隣接する部位には、後ケース31の凸片31aが軸方向に嵌め込まれる凹形状の凸片嵌合部30cを形成している。
【0035】
これにより、凸片嵌合部30cと支持板係合部30bとの間に、支持板13を円周方向(図4の矢印B方向)に押圧する支持板圧接部30aが形成される。凸片嵌合部30cの外筒30の円周方向幅は、凸片31aの後ケース31の円周方向幅より若干狭くなっている。ただし、支持板圧接部30aの先端の凸片嵌合部30c側を向く部位には、切欠きが形成されて、凸片31aの先端を凸片嵌合部30cに軸方向にスムースに嵌合できるようになっている。
【0036】
そして、ステータ10を外筒30に固定した状態で後ケース31を外筒30に装着して、凸片31aを凸片嵌合部30cに軸方向(矢印A方向)に嵌合すると、凸片31aのくさび部31bにより支持板圧接部30aが円周方向(矢印B方向)に押される。これにより、支持板圧接部30aが支持板13を支持板係合部30b内で円周方向に挟み込むように弾性変形(或いは塑性変形)し、支持板13が外筒30の支持板係合部30bに圧接固定される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態では、後ケース31の凸片31aを外筒30の凸片嵌合部30cに軸方向に嵌合して支持板圧接部30aを円周方向に変形させることで、支持板13を外筒30の支持板係合部30bに圧接固定している。
【0038】
これにより、円周方向にがたつきが生じることなく、軸方向の適正な位置で支持板13を外筒30の支持板係合部30bに固定することができ、また、超音波モータ1の分解も容易に行なうことができる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0040】
例えば、上記実施の形態では、支持板圧接部30aの支持板13に接触する面を平面形状としているが、これに代えて、図5に示すように、支持板圧接部30aの支持板13に対する接触面をある一定の曲率を有する曲面形状にしてもよい。
【0041】
このようにすると、支持板圧接部30aで支持板13を円周方向に圧接する際に、支持板圧接部30aが必ず支持板13に対して点接触で圧接するようになる。これにより、より効果的に支持板13を軸方向の適正な位置で外筒30の支持板係合部30bに固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の一例である超音波モータを説明するための外観斜視図である。
【図2】図1に示す超音波モータの軸方向に沿う断面図である。
【図3】図1に示す超音波モータの分解斜視図である。
【図4】支持板を外筒に固定する構造の一例を説明するための図である。
【図5】支持板を外筒に固定する構造の変形例を説明するための図である。
【図6】従来の超音波モータを説明するための図である。
【図7】図6に示す超音波モータの軸方向に沿う断面図である。
【図8】支持板を外筒に固定する構造の従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
1 超音波モータ
10 ステータ
11 圧電素子群
12 振動子
13 支持板
14 スリーブ
20 ロータ
21 ツバ
22 加圧バネ
23 バネ支持板
24 モータ軸
30 外筒
30a 支持板圧接部
30b 支持板係合部
30c 凸片嵌合部
31a 凸片
31b くさび部
32 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギ変換素子と、該電気−機械エネルギ変換素子に駆動信号を印加することにより振動が励起される振動体と、該振動体に励起した振動により駆動される移動体と、該移動体の駆動力により回転駆動される出力軸と、前記電気−機械エネルギ変換素子を支持する支持部材と、前記出力軸の軸方向の両側から前記電気−機械エネルギ変換素子、前記振動体、前記移動体および前記支持部材を覆った状態で互いに軸方向に嵌合される一対のケース部材と、を備え、該一対のケース部材のうちの一方のケース部材に前記支持部材の係合部が形成される超音波モータであって、
前記一方のケース部材の前記係合部に対して周方向に隣接する位置に他方のケース部材に設けた被嵌合部が軸方向に嵌合される嵌合部を設けて、該嵌合部と前記係合部との間に圧接部を形成し、
前記一方のケース部材の前記嵌合部に前記他方のケース部材の前記被嵌合部を軸方向に嵌合することにより、前記圧接部を、前記係合部に対して前記支持部材を周方向に圧接させる方向に変形させる、ことを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記嵌合部が凹形状であり、前記被嵌合部が先端にくさび部を有する凸形状である、ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記圧接部の前記支持部材に対する周方向の接触面が、該支持部材に点接触する曲面形状である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−44858(P2009−44858A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207025(P2007−207025)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】