説明

車両のバッテリシステム

【課題】車両のバッテリシステムにおいて、バッテリの発生ガスが車両の客室内に流入するのを防止することにある。
【解決手段】空調システム(2)は温調用ダクト(4)とのガス流通を遮断する遮断ダンパ(8)を備える一方、バッテリパック(3)を金属ケース(14)と樹脂カバー(15)とを最中合せにより密閉して設けるとともに、樹脂カバー(15)は内部容積の増大方向に変形可能な脆弱部(18)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のバッテリシステムに係り、特に内部で発生したガスの排出を行うバッテリを複数備えたバッテリパックにおいて空調システムと接続してバッテリの温度調節を行うダクトを備えたバッテリパックのバッテリシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、バッテリシステムを搭載しているものがある。
この車両のバッテリシステムは、車両に搭載するとともに内部に備えたダンパ(遮断ダンパ)を開度切り替え制御して客室内の空調を可能とする空調システムと、車両に搭載するとともに内部で発生したガスの排出を行うバッテリを複数備えたバッテリパックと、このバッテリパックに接続して内部のバッテリの温度調節する空気等のガスを流通可能な温調用ダクトとを備え、この温調用ダクトを空調システムと接続して内部を通過するガスを相互に流通可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−272589号公報
【0004】
特許文献1に係る密閉型アルカリ電池は、バッテリセルに内部で発生したガスを排出する際に変形可能な弁体を備えた安全弁を設けたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、複数のバッテリセルを直列に接合してモジュール化し、複数のモジュールを直列に接合してパックを形成してなるバッテリパックを搭載する電気自動車におい
ては、製造不良等にて1つのセル内でも内部短絡等が発生した場合に、多量のガスが発生する場合がある。この発生するガス中には、人体に対し有害な成分も含まれる。当然、1セル当たりの電池容量が大きくなると、発生するガスの量も多くなる。
また、1セル当たりの電池容量が小さい電池を搭載した車両では、セル自体にガス排出機構を設置し、ガスを車室外に排出することを実施し、車室内にバッテリパックを搭載することを実施しているが、排出ガスが多い電池容量の大きいセルの場合には、ガス排出機構を付けられない場合があるため、車室外に設置せざるをえない場合がある。
一般に、バッテリは、充放電を繰り返すと発熟し、寿命に影響をあたえたり、性能が低下するために、冷却をする必要がある。特に、大電流を流す、急速充電等を実施する場合は、積極的にバッテリを冷却しなければならない。この場合、空調された空気を使うと、より効果的であるので、空調システムとつなぐことが行われる。
また、基本的に、冷却風は、常時開口された排気ダクト及び排気ファンにて車室外に排出される。
更に、バッテリ冷却ダクトが車室内に接合されている場合には、ガスが発生した場合に車室内に逆流することが考えられ、改善が望まれていた。
【0006】
また、車室内に開口する箇所には、遮断ダンパを設置している。ガスの発生継続時間は、大旨1分以内であり、バッテリパックの内圧が排気ファンによって排出減圧されるまで遮断ダンパにて遮断の必要がある。
通常、遮断ダンパは、空調性能確保のために設置されるもので、空調装置からの冷却風を遮断する方向に設置され、押付力が遮断ダンパのアクチュエータに依存している。
しかし、バッテリパックの内圧が高すぎる場合は、閉方向のシール圧(押付力/ダンパ面積)が条件により、遮断ダンパの向き(開閉方向)に依存することになり、遮断ダンパを押し開けるおそれが生じている。
【0007】
そこで、この発明の目的は、バッテリの発生ガスが車両の客室内に流入するのを防止する車両のバッテリシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、車両に搭載するとともに内部に備えたダンパを開度切り替え制御して客室内の空調を可能とする空調システムと、前記車両に搭載するとともに内部で発生したガスの排出を行うバッテリを複数備えたバッテリパックと、このバッテリパックに接続して内部の前記バッテリの温度調節する空気等のガスを流通可能な温調用ダクトとを備え、
この温調用ダクトを前記空調システムと接続して内部を通過するガスを相互に流通可能とする車両のバッテリシステムにおいて、前記空調システムは前記温調用ダクトとのガス流通を遮断する遮断ダンパを備える一方、前記バッテリパックを金属ケースと樹脂カバーとを最中合せにより密閉して設けるとともに、前記樹脂カバーは内部容積の増大方向に変形可能な脆弱部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の車両のバッテリシステムは、バッテリの発生ガスが車両の客室内に流入するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は車両のバッテリシステムの構成図である。(実施例)
【図2】図2はバッテリパックの樹脂カバーの変形状態を示す側面図である。(実施例)
【図3】図3はバッテリパックの斜視図である。(実施例)
【図4】図4はバッテリパックの樹脂カバーの変形状態を示す側面図である。(変形例1)
【図5】図5はアキュムレータを備えたバッテリパックの一部側面図である。(変形例1)
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、バッテリの発生ガスが車両の客室内に流入するのを防止する目的を、バッテリパックを金属ケースと樹脂カバーとにより設け、樹脂カバーには変形可能な脆弱部を備えて実現するものである。
【実施例】
【0012】
図1〜図3は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は電気自動車(以下「車両」という)に搭載されるバッテリシステムである。このバッテリシステム1は、空調システム2とバッテリパック3と温調用ダクト4とを備える。
空調システム2は、内部にエバポレータ5が設置された空調ユニット6を備え、この空調ユニット6に空調ダクト接続部7によって温調用ダクト4を接続し、また、空調ユニット6と温調用ダクト4との接続部位の内部で遮断ダンパ8を揺動可能に取り付けている。
この遮断ダンパ8は、アクチュエータ9を介して空調用制御手段10で開閉状態を切り替えるように駆動制御されるとともに、バッテリパック3側を全閉とした内開き構造となっており、さらに、ガスの逆流を受けて、そのガスの圧力である内圧が過大となった場合には開く構造となっている。
この空調システム2では、内部に備えた遮断ダンパ8を開度切り替え制御して客室内の空調を可能とする。
バッテリパック3は、内部で発生したガスの排出を行うバッテリ11を複数備えている。このバッテリパック11には、温調用ダクト4から離れた箇所で、排気ファン12が設けられている。この排気ファン12は、バッテリ制御手段13に連絡して作動制御される。
温調用ダクト4は、バッテリパック3に接続して内部のバッテリ11の温度調節する空気等のガスを流通可能なものである。
そして、バッテリシステム1においては、温調用ダクト4を空調システム2と接続して内部を通過するガスを相互に流通可能とするものである。
【0013】
空調システム2は、温調用ダクト4とのガス流通を遮断する前記遮断ダンパ8を備える一方、図2、図3に示すように、バッテリパック3を底部側の金属ケース14と上部蓋としての樹脂カバー15とを最中合せにより樹脂カバー15の接続部16で密閉して設けている。金属ケース14は、バッテリパック3の底部の強度を確保するためのものである。
図3に示すように、金属ケース14には、略直方体の形状である。また、樹脂カバー15には、段差部17として、第1〜3段差部17A〜17Cが形成され、金属ケース14に上方から接合されている。
この段差部17は、そのギャップ方向高さを、幅方向の中央が高く、両端で低くなるようにして、全体的に、小さく且つ滑らかに高さが変化する形状に形成されている。これにより、樹脂カバー15の膨張(変形)によってそのギャップが小さくなる際に、樹脂カバー15の変形によって無理な力が掛かることなく変形可能となる。また、樹脂カバー15が幅方向に指向することで、長手方向に依存して膨張容積を確保することができる。更に、湾曲形状を与えている形状であることにより、段差部17は、負圧方向には耐え得る剛性を確保できる。
樹脂カバー15は、内部容積の増大方向に変形可能な脆弱部18を備え、膨らみやすい形状である。つまり、この樹脂カバー15は、内圧が発生した場合にこの内圧で膨らむことが可能であり、内圧の上昇を抑制し、また、減圧している瞬間にも排気ファン12にてガスを排出させるため、内圧の上昇を緩やかにし、よって、遮断ダンパ8の誤動作を防止できる。
また、排気ファン8の駆動によって、内部圧力が下がるため、樹脂カバー15は、膨張方向には脆弱であるが、負圧方向には剛性を与える構造とすることが好ましいものである。
脆弱部18は、樹脂カバー15の側壁面15Aに繋がる上面15Bに設けた曲率半径の極めて大きな湾曲面であり、強度を一様にするよう特別な形状を与えずに広い面積を確保すると、比較的膨張時の容積増加量を確保できる。膨張方向への変形を阻害しないように方向性を与えて(例えば、全幅方向にわたって)一様に段差部17(第1〜3段差部17A〜17C)を形成することにより、表面積は変わらす、内部容積を増して、ガスの発生によって空気を含むガスの体積が増加しても、圧力増加を抑制できるので、圧力上昇に因って遮断ダンパ8が開いた結果としてガスが客室側に逆流することを防止できる。
上記の構造により、発生ガスの空調システム2を通じて客室内ヘの流入(逆流)量を抑制することができる。
【0014】
また、脆弱部18は、図2に示すように、樹脂カバー15の側壁面15Aに繋がる湾曲する上面15Bとして形成するとともに、空調システム2の遮断ダンパ8の逆開弁圧よりも低い圧力によって変形する強度として設けている。
この遮断ダンパ8の逆開弁圧とは、アクチュエータ9によって閉じ力を与え、遮断ダンパ8を全閉状態に維持している場合であって、その閉じ力に逆らって開弁する際の圧力とする。この閉じ力は、遮断ダンパ8のシール圧と相関性がある。
このように、空調システム2の遮断ダンパ8が開かない程度に減圧することにより、逆流量を略無くすことができ、また、樹脂カバー15の形状を成型し易くできる。
【0015】
即ち、この実施例においては、バッテリ11の発生ガスが排気ファン12にて排出されるまで、バッテリパック3の内圧をコントロールする。
通常、バッテリパック3を車室外に配置する際、強度と防錆性を考慮し、金属でケースを作成することが多いものである。
しかし、金属のケースの場合は、内圧が発生したとき、ケース自体の変形が少ないために、ダクトに内圧分が全てかかることになる。
そして、遮断ダンパ8の押付力以上の内圧が逆作用すると、遮断ダンパ8が押し開けられ、ガスが逆流する。
そこで、バッテリパック3の底部は強度を確保するために、金属ケース14とし、上部蓋を樹脂カバー15とした。
そして、内圧が発生した場合、遮断ダンパ8の逆開弁圧よりも低い内圧により樹脂カバー15が膨らみ、体積を増やすことで、圧力を減ずる。
この減圧している瞬間にも、排気ファン12にてガスは排出されるため、内圧上昇が緩やかにすることができる。よって、遮断ダンパ8の誤動作を防止することができる。
なお、温調用ダクト4の接合強度、シール能力は、上昇内圧以上の能力を持たせている。
【0016】
図4は、この発明の変形例1を示すものである。
この変形例1において、脆弱部18は、図4に示すように、樹脂カバー15の金属ケース14と接続する環状の接続部16に沿って環状に配置される蛇腹形状により構成される。
このように、空調システム2の遮断ダンパ8が開かない程度に減圧することにより、逆流量を略無くすことができ、また、樹脂カバー15の形状が成型し難いが、脆弱性(変形容易性)の確保や膨張時の容量確保がし易くできる。
なお、脆弱部17を、樹脂カパー15の金属ケース14と接続する環状の接続部18に沿って設けた蛇腹形状により構成する場合、一重の環状に配置しても良いし、半環状の蛇腹を部分的にオーバーラップさせて環状とする配置としてもよい。樹脂カパー15の上面15Bは、特に、剛性を下げる必要はないが、前述した脆弱な湾曲面を採用しても良い。
【0017】
図5は、この発明の変形例2を示すものである。
この変形例2において、脆弱部18は、図5に示すように、アキュームレータ19の内部機能として設けられ、この作動する圧力を逆開弁圧よりも低い圧力としている。この場合、バッテリパック3の上側のカバーを金属製とすることも可能である。
アキュームレータ19は、受圧板20と受圧スプリング21とを備え、バッテリパック3の樹脂カバー15の一部を遮断ダンパ8のシール圧(押付力/ダンパ面積)に比べて十分低い圧力で変形をはじめるとともに、樹脂カバー15の内圧をシール圧以下に保つことができる調圧手段である。
このような構造により、別体としてアキュームレータ19を備えるので、バッテリパック3の表面に比べて小面積で実現でき、また、部品点数やコストは増加し易いが、広い面積の変形空間が採り難い場合に、有効である。
【0018】
なお、この発明においては、図1に示すように、バッテリパック3の内部には、バッテリ11の温度や電流・電圧等を検知してバッテリ11の状態を監視する内部制御装置22を備える。この内部制御装置22は、バッテリ制御手段13に連絡している。また、バッテリ制御手段13を、空調用制御手段10に連絡する。
これにより、ガス発生時には、内部制御装置22やバッテリ制御手段13がガス発生を判断して、排気ファン12を駆動制御し、ガスを排出させる。
また、バッテリパック3を監視し、排気ファン12を制御するバッテリ制御手段13は、空調用制御手段10と相互通信して、協調制御することができる。
更に、遮断ダンパ8を、バッテリ制御手段13によって駆動制御されることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明に係るバッテリシステムを、各種電動車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 バッテリシステム
2 空調システム
3 バッテリパック
4 温調用ダクト
6 空調ユニット
8 遮断ダンパ
9 アクチュエータ
10 空調用制御手段
11 バッテリ
12 排気ファン
13 バッテリ制御手段
14 金属ケース
15 樹脂カバー
17 段差部
18 脆弱部
19 アキュムレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載するとともに内部に備えたダンパを開度切り替え制御して客室内の空調を可能とする空調システムと、前記車両に搭載するとともに内部で発生したガスの排出を行うバッテリを複数備えたバッテリパックと、このバッテリパックに接続して内部の前記バッテリの温度調節する空気等のガスを流通可能な温調用ダクトとを備え、この温調用ダクトを前記空調システムと接続して内部を通過するガスを相互に流通可能とする車両のバッテリシステムにおいて、前記空調システムは前記温調用ダクトとのガス流通を遮断する遮断ダンパを備える一方、前記バッテリパックを金属ケースと樹脂カバーとを最中合せにより密閉して設けるとともに、前記樹脂カバーは内部容積の増大方向に変形可能な脆弱部を備えることを特徴とする車両のバッテリシステム。
【請求項2】
前記脆弱部を、前記樹脂カバーの側壁面に繋がる湾曲する上面として形成するとともに、前記空調システムの前記遮断ダンパの逆開弁圧よりも低い圧力によって変形する強度として設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリシステム。
【請求項3】
前記脆弱部を、前記樹脂カバーの前記金属ケースと接続する環状の接続部に沿って環状に配置される蛇腹形状により構成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両のバッテリシステム。
【請求項4】
前記脆弱部をアキュームレータの内部機能として設け、このアキュームレータを作動する圧力を逆開弁圧よりも低い圧力とすることを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228946(P2012−228946A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98249(P2011−98249)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】