説明

車両の加熱および/または空調方法

【課題】可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調する方法。本発明方法は屋外の温度が−15℃以下であるときに特に有用である。本発明方法は熱機関と電気モータとを交互に用いて運転するように設計されたハイブリッド自動車で用いることもできる。
【解決手段】可逆冷却ループ中を流れる冷却剤が2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の客室を加熱および/または空調する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の熱機関(moteur thermique)は熱機関の冷却と客室の加熱に用いられる熱伝導流体が流れる回路を有している。この回路はポンプと空気加熱器を有し、この空気加熱器を空気流が通り、熱交換器流体が蓄えた熱を回収して客室を加熱する。
【0003】
客室を冷却する空調系は蒸発器、圧縮器、凝縮器、膨張弁および一般に冷却剤とよばれる状態を変える(液体と気体との間)ことができる流体を有している。圧縮器はベルトとプーリーを用いて自動車機関によって直接駆動され、冷却剤を圧縮し、冷却剤を高圧、高温下で凝縮器へ戻す。凝縮器は強制換気され、高圧、高温の気体状態で来る気体を凝縮する。凝縮器はその中を流れる空気の温度を下げて、気体を液化する。蒸発器は客室に送る空気から熱を取る熱交換器である。膨張弁は蒸発器の温度および圧力に応じて通路断面積を変え、ループへの気体の流入を調節できる。外部からの熱は蒸発器を通って冷却される。
【0004】
自動車の空調で一般に用いられる冷却剤は1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)である。
【0005】
特許文献1(国際特許第WO 2008/107623号公報)に記載の自動車エネルギー管理システムは冷却剤が循環する可逆冷却ループと、冷却モード位置とヒートポンプモード位置との間を移動可能な冷却ループの動作サイクルの逆転手段と、冷却剤からエネルギーを回収するための少なくとも一つの第1源と、冷却剤を蒸発させ、その流体を液体から二相状態へ膨張させる少なくとも第2源とを有し、上記逆転手段は、それがヒートポンプモードに対応する位置と同じ位置にあるときには、冷却剤を第1回収源から少なくとも一つの蒸発源へ流すことができる。
【0006】
しかし、この特許文献1に記載の系で冷却剤としてHFC-134aを用い且つ外部温度が約−15℃の場合には、圧縮器が起動する前にすでに蒸発器内で圧力降下が始まり、この圧力降下によって空気が系内に侵入し、腐食現象が促進され、圧縮器、交換器および膨張弁等の部品が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許第WO 2008/107623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、圧縮器の起動時に冷却ループの蒸発器へ空気が侵入するのを防止し、および/または、冷却ループの効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の対象は、第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調する方法において、上記冷却剤が2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから成ることを特徴とする方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例の概念図。
【図2】本発明の第2実施例の概念図。
【図3】本発明の第3実施例の概念図。
【図4】本発明の第4実施例の概念図。
【図5】圧縮器の等エントロピー効率を圧縮率の関数で表したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
冷却ループ内の冷却剤の流れ方向を逆にして冷却ループの動作サイクルを逆にする上記手段は四方弁にすることができる。
冷却剤は2,3,3,3−テトラフルオロプロペンに加えて飽和または不飽和のヒドロフルオロカーボンを含むことができる。
飽和ヒドロフルオロカーボンの例としては特にジフルオロメタン、ジフルオロエタン、テトラフルオロエタンおよびペンタフルオロエタンが挙げられる。
不飽和ヒドロフルオロカーボンの例としては特に1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、例えば3,3,3−トリフルオロプロペンおよびモノクロロトリフルオロプロペン、例えば1−クロロ,3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−クロロ,3,3,3−トリフルオロプロペンが挙げられる。
【0012】
下記組成物は本発明の方法で冷却剤として用いるのに適している:
80〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2〜20重量%のジフルオロメタン、
40〜95重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、5〜60重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、
90〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2〜10重量%のジフルオロエタン、
90〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2〜10重量%のペンタフルオロエタン。
【0013】
下記の組成物は本発明方法の冷却剤として用いるのに特に適している:
90〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2〜20重量%のジフルオロメタン、
90〜95重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、5〜10重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、
95〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2〜5重量%のジフルオロエタン、
95〜98重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンき、2〜5重量%のペンタフルオロエタン。
主として2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物が特に好ましい。
【0014】
本発明の冷却剤は2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの安定剤をさらに含むことができる。安定剤としては特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、アゾ−ル、例えばトルトリアゾールまたはベンゾトリアゾ−ル、フェノール化合物、例えばトコフェノール、ヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、エポキシド(アルキル、フッ素化またはパーフッ素化されていてもよく、また、アルケニルまたは芳香族でもよい)、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、ホスファイト、ホスフェート、ホスホネート、チオールおよびラクトンが挙げられる。
【0015】
第1熱交換器は、冷却モードまたはヒートポンプモードのループの動作モードに応じて蒸発器またはエネルギー回収装置の役目をする。同じことが第2熱交換器にもいえる。冷却モードでは第2交換器を自動車の客室に吹き込まれる空気流の冷却に使用できる。ヒートポンプモードでは第2交換器を自動車の客室への空気流を加熱するのに使用できる。
【0016】
第1熱交換器および第2熱交換器は空気/冷却剤型である。
【0017】
本発明方法では熱交換器を介して冷却ループを熱機関の冷却回路に熱的に結合できる。従って、冷却ループは少なくとも一つの熱交換器を有し、この熱交換器中を冷却剤と熱交換機流体、特に熱機関冷却回路の空気または水とが同時に流れる。
【0018】
本発明方法の変形例では、第1熱交換器中を冷却剤と自動車の熱機関からの放出ガスとの両方が同時に流れる。後者は熱交換器流体回路と熱的に連結できる。
【0019】
本発明方法では、冷却ループは分路として少なくとも一つの熱交換器を有することができ、この熱交換器は自動車の熱機関に入る空気流または自動車の熱機関からの放出ガスと熱的に連結する。
【0020】
本発明方法は、外部温度が約−15℃以下、好ましくは−20℃以下であるときに特に適している。
【0021】
本発明方法は、熱機関と電気モータを交互に用いて運転するように設計されたハイブリッド自動車にも同様に適している。本発明方法は、客室とバッテリーの両方に対して気候条件(高温または低温)に応じてエネルギーを最良に管理し、特に、熱交換器流体回路を介してバッテリーに温熱または冷熱を供給できる。
【0022】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む冷却剤が流れる可逆冷却ループを自動車に備えたものは、熱機関からのエネルギーを回収および/または低温起動時に客室の加熱およびの熱機関の加熱のために使用するバッテリーに特に適している。この可逆冷却ループにポンプを備えることによって、ランキンモード(すなわち、圧縮器がタービンの役目をする)で運転し、熱機関で生成され、熱交換器後に冷却剤によって運ばれる熱エネルギーを有効利用することができる。
本発明はさらに、上記冷却ループを備えた装置にも関するものである。
【実施例】
【0023】
[図1]は本発明の第1実施例の冷却ループ(16)の概念図を示し、第1熱交換器(13)と、膨張弁(14)と、第2熱交換器(15)と、圧縮器(11)と、四方弁(12)とを備えている。第1熱交換器および第2熱交換器は空気/冷却剤型である。第1熱交換器(13)には冷却ループ(16)の冷却剤とファンから送られる空気流が通る。この空気流の一部または全部はさらに機関冷却回路の熱交換器(図示せず)を通る。同様に、ファンから送られる空気流は第2熱交換器(15)を通る。この空気流の一部または全部はさらに機関冷却回路の別の熱交換器(図示せず)を通る。
【0024】
空気流の方向は冷却ループ(16)の動作モードと、熱機関の必要条件との関数である。すなわち、熱機関が定常モードで且つ冷却ループ(16)がヒートポンプモードの場合には、空気は熱機関の冷却回路の交換器で加熱された後に、交換器(13)に送られ、冷却ループ(16)の流体の蒸発を加速し、それによって、この冷却ループの性能を向上させることができる。
【0025】
冷却回路の熱交換器は熱機関の必要条件(熱機関に流入する空気の加熱または熱機関が生じるエネルギーの有効利用)に応じて弁を用いて作動できる。
【0026】
冷却モード時には、圧縮器(11)によって圧縮された冷却剤が弁(12)を通って流れ、さらに凝縮器の役目(熱を外に放出)をする熱交換器(13)を流れ、さらに膨張弁(14)を通り、次いで蒸発器の役目をする交換器(15)を通る。従って、自動車の客室に吹き込まれる空気流が冷却される。
【0027】
ヒートポンプモード時には、冷却剤の流れ方向を弁(12)で逆にする。従って、熱交換器(15)が凝縮器の役目をし、交換器(13)が蒸発器の役目をする。熱交換器(15)は自動車の客室の空気流を加熱するのに用いることができる。
【0028】
[図2]の概念図で示す本発明の第2実施例の冷却ループ(26)では、第1熱交換器(23)と、膨張弁(24)と、第2熱交換器(25)と、圧縮器(21)と、四方弁(22)と、冷却モードでの流体の流れに対して一端が交換器(23)の出口に連結され且つ他端が交換器(25)の出口に連結された分路(d3)とを備える。この分路は熱交換器(d1)(この熱交換器中を熱機関に入る空気流または放出ガス流が通る)と、膨張弁(d2)とを備える。第1熱交換器および第2熱交換器(23、25)は空気/冷却剤型である。冷却ループ(26)の冷却剤およびファンから供給される空気流は第1熱交換器(23)を通る。この空気流の一部または全部はさらに機関冷却回路の熱交換器(図示せず)を通る。同様に、ファンから送られる空気流は第2熱交換器(25)を通る。この空気流の一部または全部はさらに機関冷却回路の別の熱交換器(図示せず)を通る。
【0029】
空気流の方向はループ(26)の運転モードおよび熱機関の必要条件の関数である。例えば、熱機関が定常モードで且つ冷却ループ(26)がヒートポンプモードの場合には、空気は熱機関冷却回路の熱交換器で加熱された後、熱交換器(23)に送られ、冷却ループ(26)の流体の蒸発を加速する。従って、この冷却ループの性能を向上できる。冷却回路の熱交換器は熱機関の必要条件(熱機関に流入する空気の加熱またはこの熱機関が生じるエネルギーの有効利用)に応じて弁によって作動できる。
【0030】
熱交換器(d1)は冷却モードまたはヒートポンプモードのいずれかのエネルギー必要条件に従って作動できる。この分路(d3)に逆止弁を取り付けて、分路(d3)を作動または停止させることができる。
【0031】
ファンによって送られた空気流は熱交換器(d1)を通る。同じ空気流が熱機関の冷却回路の別の熱交換器を通ることができ、さらに、放出ガス回路、熱機関の空気取り入れ口またはハイブリッド自動車のバッテリーに設けた他の熱交換器を通ることもできる。
【0032】
[図3]の概念図で示す本発明の第3実施例の冷却ループ(36)は第1熱交換器(33)と、膨張弁(34)と、第2熱交換器(35)と、圧縮器(31)と、四方弁(32)とを備える。第1熱交換器および第2熱交換器(33、35)は空気/冷却剤型である。これらの熱交換器(33、35)の動作は[図1]に示す第1実施例の動作と同じである。冷却ループ回路(36)と熱機関の冷却回路または第2グリコール−水回路の両方に2つの流体/液体交換器(38、37)を付ける。中間気体流体(空気)の無いこの流体/液体交換器を取り付けることによって空気/流体交換器に対する熱交換が向上する。
【0033】
[図4]の概念図で示す本発明の第4実施例の冷却ループ(46)は、第1熱交換器セット(43、48)と、膨張弁(44)と、第2熱交換器セット(45、47)と、圧縮器(41)と、四方弁(42)とを備える。分路(d1)は冷却モードでの流体の流れに対して一端が交換器(43)の出口に連結され且つ他端が交換器(47)の出口に連結される。この分路は熱交換器(d1)(熱機関に入る空気流または放出ガス流れが通る)と、膨張弁(d2)とを備える。この分路の動作は[図2]に示す第2実施例の動作と同じである。
熱交換器(43、45)は空気/冷却剤型であり、交換器(48、47)は液体/冷却剤型である。これらの交換器の動作は[図3]に示す第3実施例のものと同じである。
【0034】
実験部分
車両でのヒートポンプ運転条件での冷却剤の性能のシミュレーションを凝縮器温度を30℃に固定して行った。
凝縮温度:+30℃(T cond)
圧縮器入口温度:+5℃(Te comp)
蒸発器Pは蒸発器の圧力。
凝縮器Pは凝縮器の圧力。
圧縮器出口Tは圧縮器出口温度。
圧縮率:圧縮率は低圧に対する高圧の比。
COP:これは性能係数(coefficient de performance)で、ヒートポンプの場合、系に供給される有効熱能力を系が受け取ったまたは消費した動力で割ったもので定義される。
CAP:これは容積能力(capacite volumetrique)すなわち容積単位当たりの熱能力(kJ/m3)である。
%CAPまたはCOPは2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)のHFC-134aのそれに対するCAPまたはCOPの値の比である。
圧縮器の等エントロピー効率:これは流体に伝達される実際のエネルギーと等エントロピーエネルギーとの比である。
圧縮器の等エントロピー効率は圧縮率の関数として表される([図5])。
η=a+bτ+c・τ2+d・τ3+e・τ4
η:等エントロピー効率
τ:圧縮率
a、b、c、e:定数
【0035】
定数a、b、c、d、eの値は下記文献に記載の標準効率曲線から求めた。
【非特許文献1】Shan K.Wang、「空調および冷凍の手引き」
【0036】
HFC-134aの場合は、COPおよび蒸発器の圧力は蒸発温度とともに下がる。
【表1】

【0037】
HFO-1234yfの場合は、同じ条件下で以下の通り:
【表2】

【0038】
HFO-1234yfは、蒸発器圧力がHFC-134aを用いた場合よりも高い。従って、系を極めて低い温度で運転する場合、空気が系に侵入するのを制限するのに役立つ。
HFO-1234yfは、同じ圧縮器で、極めて低い温度で、HFC-134aよりもの性能が良い。加熱モードで且つ凝縮温度が30℃の場合、HFO-1234yfは圧縮器の効率が良く、COPおよび能力が良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段を有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調する方法において、
上記冷却剤が2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記冷却剤が飽和および不飽和のヒドロフルオロカーボンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1交換器および第2交換器が空気/冷却剤型である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
冷却ループが熱機関の冷却回路に熱的に結合されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1熱交換器を冷却剤と自動車の熱機関からの排ガスの両方が同時に流れる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記冷却ループが自動車の熱機関に入る空気流または自動車の熱機関から放出される放出ガスと熱的に連結する少なくとも一つの熱交換器を分路(derivation)として有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
冷却ループが、熱機関および/またはバッテリーからエネルギーを回収するために車両に設置される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の可逆冷却ループを備えた装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−507682(P2012−507682A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533789(P2011−533789)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052075
【国際公開番号】WO2010/061084
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】