説明

車両用シート

【課題】 衝突時に速やかにヘッドレストを確実に作動させることができる車両用シートを提供する。
【解決手段】 この車両用シートは、ヘッドレストを作動させるヘッドレスト駆動機構と、受圧部材と、受圧部材の動きを増速してワイヤ44を引く方向に駆動する増速ユニット79を備えている。増速ユニット79は、ワイヤ44の一端44aを接続するベースブラケット80と、一対のアーム81,82を回動可能に接続してなるリンク機構83と、アーム82の端部に回転自在に設けられたローラ97と、ローラ97の移動を案内するガイド孔100と、ワイヤ振れ止め手段として機能するアーム82の延出部82aを有している。アーム82の延出部82aは、ローラ97に巻き掛けられたワイヤ44がローラ97から離れることを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘッドレストを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の追突時等に乗員の頭部を拘束するために、衝突時にヘッドレストを前方に移動させる可動ヘッドレスト装置が提案されている。例えば、ヘッドレストのステ−を支持するブラケットの下部に受圧板を設け、該ブラケットが、ヘッドレストと受圧板との間に位置する軸を回動中心として、前後方向に回動するようなヘッドレスト装置が知られている。この種のヘッドレスト装置は、衝突によって乗員がシートバックに押し付けられ、受圧板が後方に押されたときに、ヘッドレストが前方に移動する。(下記特許文献1参照)
特許文献1に記載されているヘッドレスト装置は、受圧板の移動量に対してヘッドレストの前方への移動量が少ないため、早期に頭部を拘束することが難しく、障害低減効果が少ない。仮に、回動中心を下方に設定すれば、ヘッドレストの作動速度が上がり、頭部を早期に拘束することが可能となるが、頭部拘束時に入力する荷重により、ヘッドレストのステ−が後方に大きく撓んでしまうことから、障害低減効果が低下してしまう。このステ−の撓みを小さくするためにステ−の剛性を大きくすると、ステ−の重量が増加するという問題が生じる。
【0003】
前記受圧板をシートバックの上部に配置することによって、ヘッドレストの回動中心からヘッドレストまでの距離と、ヘッドレストの回動中心から受圧板までの距離との比(リンク比)を大きくしたヘッドレスト装置も提案されている。(下記特許文献2参照)
【特許文献1】特開平11−268566号公報
【特許文献2】特開2001−58533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1は、ヘッドレストと受圧板との間の軸を回動中心として、ヘッドレストと受圧板が互いに反対方向にシーソーのように動く構造であるため、構成部品が大形化し重量も大となる傾向がある。また、シートバックに組付ける作業に手間がかかるし、パワーシートの場合に、モータやパワーシートの機構部品と干渉しないように受圧板等の可動部品を配置する必要があり、シートバックへの組付け性が悪い。
【0005】
特許文献2に記載されているように受圧板を上方に配置したとしても、頭部の早期拘束化には不十分である。また、シートバックの上部に受圧板を配置する場合、受圧板が異物感の原因となることを回避するには、可能な限りこの受圧板をシートバックの厚み方向の後ろ側に配置する必要がある。その場合、作動開始時機が遅れるという問題が生じる。
【0006】
また特許文献2のように、受圧板がシートバックの比較的上部に設けられていて、この受圧板が乗員の背中によって押される構造の場合には、シートバックの下部に受圧板が配置されている構造と比較して、受圧板に入力する荷重が小さい。しかもシートバックフレーム自体が後方に撓むなどの理由から、作動開始がさらに遅れるという問題がある。
【0007】
これらの問題点を解決するために、本発明者らは、シートバックの内部に受圧部材の動きを増速させる増速ユニットを収容し、該増速ユニットの出力をワイヤを介してヘッドレスト駆動機構に伝達させる構造の車両用シートを考えた。この増速ユニットは、ワイヤの方向を変えるために該ワイヤに巻き掛けるローラが必要である。
【0008】
しかし増速ユニットとワイヤを用いる場合、ヘッドレスト作動時のワイヤの動きが急であることにより、ワイヤがローラから離れるような挙動が生じ、ワイヤがローラから外れたり、ワイヤがローラ以外の個所に引っ掛かるなど、ヘッドレストの作動に支障が生じる懸念がある。
【0009】
従って本発明の目的は、衝突時に速やかにかつ確実にヘッドレストを作動させることができる車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用シートは、シートバックフレームを有するシートバックと、該シートバックの上部に設けるヘッドレストと、前記シートバックフレームの上部に上下方向に移動可能かつ前後方向に傾動可能に設けられ前記ヘッドレストのステ−を挿入するサポートブラケットと、前記シートバックに設けられ、乗員によって押されたとき後方に移動する受圧部材と、一端と他端を有し前記シートバックに配置されるワイヤと、前記ワイヤの一端が接続され、前記受圧部材が後方に移動したとき前記受圧部材の動きを増速して前記ワイヤを引く方向に駆動する増速ユニットと、前記ワイヤの他端が接続され、前記ワイヤが引かれたとき前記サポートブラケットを上方に移動させつつ前側に傾かせるヘッドレスト駆動機構とを有している。
【0011】
前記増速ユニットは、前記シートバックフレームに設けられ前記ワイヤの一端が接続されるベースブラケットと、第1のアームと第2のアームを互いに回動可能に接続してなるリンク機構であって、前記第1のアームの端部が前記ベースブラケットに回動可能に支持され、前記第1のアームと第2のアームの接続部が前記受圧部材の方向に突き出るリンク機構と、前記第2のアームの端部に回転自在に設けられ前記ワイヤを巻掛けるローラと、前記第1のアームと第2のアームの接続部が前記受圧部材によって後方に押されたとき前記第1および第2のアームのなす角度が大きくなるように前記ローラの移動を案内するガイド手段と、前記ローラに巻き掛けられた前記ワイヤが前記ローラから離れることを抑制するワイヤ振れ止め手段とを具備している。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記第1のアームの端部にガイドローラが設けられ、前記第1のアームに、前記ガイドローラに接する前記ワイヤが該ガイドローラから離れることを抑制するワイヤ振れ止め手段が設けられている。
【0013】
本発明の一形態では、前記ローラの外周部に前記ワイヤが入る溝部が形成され、前記ワイヤ振れ止め手段が、前記第2のアームの一部を前記溝部と向かい合う位置に延出してなるものである。
【0014】
前記ワイヤ振れ止め手段の他の例は、前記第2のアームの一部に前記ワイヤが入る凹部を形成したものである。前記ワイヤ振れ止め手段が、前記ローラの外周部に前記ワイヤを囲むように嵌合される樹脂クリップであってもよい。
【0015】
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記ベースブラケットの一部を前記ローラに向かって突出させてなる塑性加工部であってもよい。ワイヤ振れ止め手段が、前記ローラに巻掛けられた前記ワイヤの弛みをとるべく該ワイヤの側方から張力を与えるばね等のテンション部材であってもよい。また、これら複数のワイヤ振れ止め手段を組合わせて用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衝突によって受圧部材が後方に移動する際に、受圧部材の動きが増速ユニットによって増速され、ワイヤを介してヘッドレスト傾動機構に伝達されるため、作動遅れを生じることなく、速やかに乗員の頭部を拘束することができる。また、増速ユニットとヘッドレスト傾動機構とをつなぐワイヤが増速ユニットのローラから外れることを防止でき、ヘッドレストを確実に作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の第1の実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。
図1は車両用シート10を示している。車両用シート10は、座部11と、シートバック12と、ヘッドレスト13を備えている。ヘッドレスト13は、シートバック12の上部に設けるヘッドレスト本体14と、ヘッドレスト本体14の下方に延びる左右一対のステ−15を有している。
【0018】
図2と図3はシートバック12の内部を示している。シートバック12は、シートバックフレーム20と、ばねアッセンブリ21と、ばねアッセンブリ21を覆うように配置されるパッド部材22(図3に2点鎖線で示す)と、パッド部材22の外面を覆うカバー部材23(図1に示す)などを有している。
【0019】
シートバックフレーム20は、左右一対のサイドフレーム部材30,31と、上側に位置するアッパフレーム部材32と、下側に位置するロアフレーム部材33などによって構成されている。サイドフレーム部材30,31とロアフレーム部材33は、金属板をプレス加工することにより、所定の形状に成形されている。アッパフレーム部材32は、例えば断面が円形のパイプからなり、その両端がサイドフレーム部材30,31の上部に溶接されている。ロアフレーム部材33の両端はサイドフレーム部材30,31の下部に溶接されている。
【0020】
ばねアッセンブリ21の一例は、平面ばね35と、複数の引張りばね36などによって構成されている。平面ばね35は、上下方向に延びる複数本の縦ワイヤ37と、水平方向に延びる横ワイヤ38によって構成されている。平面ばね35の両側部が、引張りばね36によって、サイドフレーム部材30,31に支持されている。
【0021】
図2に示すように、シートバック12の内部に2系統のケーブル41,42が配置されている。図3は、一方のケーブル41を代表して示している。これらのケーブル41,42は、それぞれ、アウタチューブ43と、アウタチューブ43に挿入されたワイヤ44とを有している。ワイヤ44は索条体の一例であり、複数本の素線を撚り合わせることによって構成されている。
【0022】
ケーブル41,42の長手方向中間部は、リテーナ45(図3に示す)によって、例えばアッパフレーム部材32に支持されている。図2と図3に示すように、アウタチューブ43は、一端43aと他端43bを有している。ワイヤ44も一端44aと他端44bを有している。
【0023】
図2と図3に示すように、シートバックフレーム20のアッパフレーム部材32の両端部に、それぞれ、ガイド孔50を有する長孔ブラケット51が設けられている。ガイド孔50は、その一端50aが他端50bよりも前下方に位置するように、上下方向に斜めに延びている。これら一対の長孔ブラケット51間にサブフレーム55が設けられている。
【0024】
サブフレーム55は、水平方向に延びる横架部56と、横架部56の両端に形成された一対の腕部57とを備えている。腕部57は、横架部56の両端から斜め下前方に延びている。各腕部57の端部にスライド部材(例えばスライドピン)58が設けられている。スライド部材58は、長孔ブラケット51のガイド孔50に挿入され、ガイド孔50の上辺部50cに対し、接点C2(図4に示す)において接するようになっている。スライド部材58は、ガイド孔50に沿って、ガイド孔50の一端50aと他端50bとにわたって上下方向(ガイド孔の長手方向)に移動することができる。
【0025】
サブフレーム55の横架部56に、左右一対のサポートブラケット60の下部が固定されている。各サポートブラケット60にヘッドレスト13のステ−15が挿入される。サポートブラケット60は筒状をなし、上端にグロメット61が設けられている。アッパフレーム部材32に摺動ガイドブラケット65が設けられている。サポートブラケット60の上下方向中間部の背面60aは、この摺動ガイドブラケット65によってアッパフレーム部材32に向けて押付けられている。摺動ガイドブラケット65には、サポートブラケット60と接する部位に、合成樹脂製の摺動ガイド部材66が設けられている。
【0026】
サポートブラケット60は、摺動ガイド部材66によって、アッパフレーム部材32に対して上下方向に円滑に摺動できる。サポートブラケット60の上下方向中間部の背面60aは、アッパフレーム部材32に対し、接点C1(図4に示す)において接するよう、摺動ガイドブラケット65によって支持されている。しかもこのサポートブラケット60は、アッパフレーム部材32との接点C1を支点として、前後方向にある程度の角度θ1(図3に示す)の範囲で傾くことができるよう、摺動ガイドブラケット65とアッパフレーム部材32とによって、傾動可能に支持されている。
【0027】
これら長孔ブラケット51と、サブフレーム55と、スライド部材58と、サポートブラケット60と、摺動ガイドブラケット65などによって、ヘッドレスト13を前後方向に傾動可能に支持するためのヘッドレスト駆動機構67が構成されている。
【0028】
このヘッドレスト駆動機構67は、スライド部材58がガイド孔50に沿って斜め上後方(図3,図4に矢印Aで示す方向)に移動したときに、ヘッドレスト本体14とサポートブラケット60が上方に移動しつつ前側に傾くように、前記接点C1,C2の位置と、サブフレーム55の腕部57の長さと、腕部57とサポートブラケット60のなす角度θ2(図3に示す)などが設定されている。
【0029】
このヘッドレスト駆動機構67は、下記受圧部材70が後方に移動したときヘッドレスト本体14を作動させるためのものである。すなわちヘッドレスト駆動機構67は、受圧部材70が後方に移動したときに、スライド部材58がガイド孔50に沿って一端50aから他端50bに向かって斜め上方に移動することに伴い、ヘッドレスト本体14が上方に移動しつつ前側に傾くようサブフレーム55を駆動する機能を有している。
【0030】
長孔ブラケット51は、ガイド孔50の長手方向に沿うガイド面である上辺部50cを有している。上辺部50cは、ガイド孔50の一端50aから他端50bに向かって斜め後上方に延びている。スライド部材58に接続されるワイヤ44は、ガイド孔50の上辺部50cに対し、角度をなして上辺部50c側に斜めに延びている。このためスライド部材58がガイド孔50に沿って上方に移動する際に、スライド部材58が前記接点C2において接する。
【0031】
ヘッドレスト13のステ−15は、グロメット61の孔からサポートブラケット60の内部に挿入されている。各ステ−15は、それぞれ、サポートブラケット60に対して上下方向に移動可能である。ステ−15は、ヘッドレスト本体14を所望高さに調節した状態において、図示しないロック機構によってサポートブラケット60に固定される。
【0032】
シートバック12の内部には、ばねアッセンブリ21の下部、すなわち乗員(着座者)の腰部付近の後方に位置するように受圧部材70が設けられている。受圧部材70は、ばねアッセンブリ21に取付けられている。ばねアッセンブリ21が乗員によって押されて後方に撓んだときに、受圧部材70が、ばねアッセンブリ21と共に、前側の位置から後側の位置に向かって移動することができる。受圧部材70の一部に、後方に突出する凸部71が形成されている。
【0033】
受圧部材70の後面と対向する位置に増速ユニット79が設けられている。増速ユニット79は、ロアフレーム部材33に固定されたベースブラケット80と、ベースブラケット80に設けられた第1のアーム81および第2のアーム82を有している。この増速ユニット79は、第1のアーム81が上側に位置し、第2のアーム82が下側に位置するように、上下方向に縦置きの姿勢、すなわちベースブラケット80の長手方向が上下方向に沿う姿勢で、ロアフレーム部材33に配置されている。
【0034】
図3と図5に示すように、ベースブラケット80のケーブル支持部85に、前記一対のケーブル41,42の各アウタチューブ43の一端43aが接続されている。ケーブル41,42の各ワイヤ44の一端44aは、それぞれベースブラケット80のワイヤ支持部86に接続されている。
【0035】
第1のアーム81の一端(上端)は、第1のピン90によって、ベースブラケット80に回動可能に支持されている。第1のピン90は、第1の軸の一例である。ベースブラケット80には、第1のピン90を中心に回転可能なガイドローラ91が設けられている。
【0036】
第1のアーム81と第2のアーム82は、側面方向から見て横向きのV形をなすように、第2のピン92によって互いに回動可能に接続されている。言い換えると、第1のアーム81と第2のアーム82によって、<形のリンク機構83が構成され、第1のアーム81と第2のアーム82の接続部が受圧部材70の方向に突き出ている。第1のアーム81と第2のアーム82とのなす角度θ3は、好ましくは90°以上(鈍角)である。第2のピン92は第2の軸の一例である。
【0037】
第1のアーム81と第2のアーム82との接続部にローラ95が設けられている。ローラ95は当接部材の一例である。このローラ95は、第2のピン92を中心に回転自在である。このローラ95は、受圧部材70の後面に突出する凸部71と対向するよう配置され、受圧部材70が後方(図3と図5に矢印Bで示す方向)に移動したときに、凸部71がローラ95に当接するようになっている。
【0038】
第2のアーム82の他端(下端)に、第3のピン96と、第3のピン96を中心に回転自在なローラ97が設けられている。第3のピン96は、第3の軸の一例である。第3のピン96は、ベースブラケット80に形成されたガイド孔100に挿入され、ガイド孔100に沿ってガイド孔100の長手方向に移動できるようになっている。
【0039】
前記第3のピン96とガイド孔100によって、ガイド手段が構成されている。ガイド手段は、ローラ95が受圧部材70によって後方に押されたときに、第1および第2のアーム81,82のなす角度θ3が大きくなるようにローラ97の移動を案内するものである。
【0040】
ローラ95が受圧部材70よって図5中の矢印B方向に押されると、第1のアーム81と第2のアーム82のなす角度θ3が増加する。ここで第1のピン90はベースブラケット80に支持されているから、第3のピン96はガイド孔100の一端(上端)100aから他端(下端)100bに向かって移動する。このため、第1のピン90から第3のピン96までの距離が次第に大きくなってゆく。すなわち、ローラ97がガイド孔100に沿って下方に移動する。
【0041】
図5に示すようにガイド孔100は、第1のピン90に近い側に位置する第1の部分101と、第1のピン90から遠い側に位置する第2の部分102とを有している。第1の部分101は、第1のピン90と第3のピン96とを結ぶ延長線L1に対し、角度θ4をなして斜め下後方に延びている。第2の部分102は、前記延長線L1に対して第1の部分101とは逆側(斜め下前方)に曲がっている。
【0042】
このため、ローラ97が、ガイド孔100に沿ってガイド孔100の一端100aから他端100bに向かって移動する際、第3のピン96が第1の部分101に沿って容易に移動できる。そして第3のピン96が第2の部分102に沿って移動するときには、ローラ97の移動速度が第1の部分101を移動するときよりも大きくなる。
【0043】
図5と図6に示すように、ガイドローラ91の一部に、一対のケーブル41,42のそれぞれのワイヤ44の一部44cが接している。その下方に位置するローラ97には、各ワイヤ44の他端側の部位44dが、それぞれ半周程度巻掛けられている。言い換えると、ワイヤ44の他端側の部位44dは、ローラ97によって、方向がほぼ180°変換(Uターン)した状態で、それぞれの一端44aがベースブラケット80のワイヤ支持部86に固定されている。
【0044】
このためローラ97がガイド孔100に沿って、ガイド孔100の一端100aから他端100bに向かって移動すると、ローラ97が動滑車のように下方に移動することにより、各ワイヤ44が、ローラ97の移動量の2倍の距離に相当する長さ分だけ引かれる。言い換えると、受圧部材70が後方(矢印B方向)に移動するときに、受圧部材70の動きが増速ユニット79によって増速され、ワイヤ44が速やかに引かれるようになっている。
【0045】
図7〜図9に示すように、第1のアーム81に取付けられたガイドローラ91の外周部に、ガイドローラ91の周方向に沿う溝部91aが形成されている。この溝部91aに、ガイドローラ91に接するワイヤ44の一部が入ることにより、ワイヤ44がガイドローラ91の軸線X(図9に示す)方向に移動することが阻止される。
【0046】
第1のアーム81に延出部81aが形成されている。延出部81aは、発明で言うワイヤ振れ止め手段として機能するものである。図7〜図9に示すように、延出部81aの先端81bは、ガイドローラ91の近傍位置まで延出している。
【0047】
この延出部81aが、ワイヤ44を挟んで溝部91aと向かい合うことによって、溝部91aに入っているワイヤ44が、ガイドローラ91の径方向に浮き上がることが抑制される。延出部81aの先端81bは、ワイヤ44に対して滑らかな曲面が対向できるように湾曲した形状をなしている。
【0048】
図5と図6に示すように、ローラ97の外周部に、ローラ97の周方向に沿う溝部97aが形成されている。この溝部97aに、ローラ97に接するワイヤ44の一部が入ることにより、ワイヤ44がローラ97の軸線方向に移動することが阻止される。
【0049】
第2のアーム82に延出部82aが形成されている。この延出部82aも、発明で言うワイヤ振れ止め手段として機能するものである。図5に示すように延出部82aの先端82bは、ローラ97の近傍位置まで延出している。この延出部82aが、ワイヤ44を挟んで溝部97aと向かい合うことによって、溝部97aに入っているワイヤ44が、ローラ97の径方向に浮き上がることが抑制される。
【0050】
前記一対のケーブル41,42の各ワイヤ44の他端44b(図3に示す)は、ヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58に接続されている。このため増速ユニット79によって各ワイヤ44が図3に矢印Dで示す方向に引かれると、ヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が矢印Aで示す方向に移動する。
【0051】
次に上記構成の車両用シート10の作用について説明する。
衝突時に乗員がシートバック12に押し付けられると、乗員の腰部付近からシートバック12に入力する荷重によって、受圧部材70が後方に押される。このことにより、受圧部材70が増速ユニット79のローラ95を押すため、第1のアーム81と第2のアーム82のなす角度θ3(図5に示す)が大きくなる方向に、第2のアーム82が移動する。
【0052】
このとき第3のピン96がガイド孔100に沿って下方に移動することにより、ローラ97が下方に移動する。ローラ97には、一対のケーブル41,42の各ワイヤ44が半周程度U形に巻掛けられているため、いわゆる動滑車の原理により、ローラ97の移動速度の約2倍の速度でワイヤ44が図5に矢印Eで示す方向に引かれる。このためヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が図3に矢印Aで示す方向に移動する。
【0053】
ガイド孔100の第1の部分101は、第1および第3のピン90,96の延長線L1に対して角度θ4(図5に示す)をなして後方に傾いているため、ローラ95が矢印B方向に押されるときに、最初のうちは、第3のピン96が第1の部分101に沿って少し後方に移動しながら下方に移動する。このため、ワイヤ44をアウタチューブ43から容易に引出すことができる。
【0054】
そののち、第3のピン96が第2の部分102に沿って移動するため、ワイヤ44の引出し速度が大きくなる。このようなガイド孔100は、第1の部分101の傾き角度θ4を変更することや、第1の部分101に対して第2の部分102のなす角度を変更することなどにより、ワイヤ44の引出し速度を調整することができる。
【0055】
リンク機構83を構成する第1のアーム81と第2のアーム82には、それぞれ、ワイヤ振れ止め手段として機能する延出部81a,82aが形成されている。このため、ワイヤ44がローラ91,97の外周面から浮き上がることが抑制される。しかもこのワイヤ44は、ローラ91,97に形成された溝部91a,97aによって、ローラ91,97の軸線方向に移動することが阻止される。
【0056】
このため、衝突時に増速ユニット79によってワイヤ44が高速で移動しても、ワイヤ44がガイドローラ91から外れたり、ワイヤ44が弛んでローラ91,97以外の部材と干渉し合うなどの不具合を回避でき、ヘッドレスト13を確実に作動させることができる。
【0057】
以上説明したように、衝突時に増速ユニット79によってケーブル41,42の各ワイヤ44が同時に引かれることにより、左右一対のヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が、それぞれ、ガイド孔50に沿って、斜め上後方(図3と図4に矢印Aで示す方向)に移動する。
【0058】
スライド部材58がガイド孔50に沿って一端50aから他端50bに向かって移動すると、サブフレーム55の腕部57が上後方に移動する。このことに伴い、サポートブラケット60が上昇しつつ、接点C1を支点として前方に倒れるように移動する。接点C1自体は前方に移動することなく同一位置にとどまるため、乗員の首下の拘束を早めることなく、ヘッドレスト本体14が図4に矢印M1で示すような軌跡を描いて前上方に移動する。このことにより、首下が拘束される前に頭部がヘッドレスト本体14によって速やかに拘束される。
【0059】
ヘッドレスト13が作動した後、あるいは作動途中で、頭部がヘッドレスト本体14に接触することにより、ヘッドレスト本体14に水平後方荷重Fa(図3に示す)が入力する。この後方荷重Faを支持するために、第1の接点C1ではサポートブラケット60に前方荷重Fbが、第2の接点C2ではスライド部材58に後方荷重Fcが生じる。よってその反力として、第1の接点C1ではアッパフレーム部材32に後方荷重Fb´が加わり、第2の接点C2では長孔ブラケット51に前方荷重Fc´が加わる。
【0060】
アッパフレーム部材32に入力された後方荷重Fb´は、アッパフレーム部材32によって支持される。長孔ブラケット51に入力された前方荷重Fc´は、サイドフレーム部材31,32によって支持される。このようにして、ヘッドレスト本体14の後方荷重Faを上下2箇所の接点C1,C2(図4に示す)で受けることにより、ヘッドレスト本体14の戻りが抑制される。このため確実に頭部を拘束することができ、むち打ち障害値低減に効果的である。
【0061】
本実施形態のシートバック12では、受圧部材70の後方への動きが、増速ユニット79から一対のケーブル41,42の各ワイヤ44を介して、ヘッドレスト駆動機構67へと伝達されるため、増速ユニット79からヘッドレスト駆動機構67までの距離が大きくても、ワイヤ44によって受圧部材70の動きをヘッドレスト駆動機構67に速やかに伝達することができる。
【0062】
このため、増速ユニット79からヘッドレスト駆動機構67までの距離が比較的大きくても、受圧部材70とヘッドレスト駆動機構67とを含む装置全体を軽量に構成することができる。また、シートバック12の内部に増速ユニット79とヘッドレスト駆動機構67を組付けることが容易である。
【0063】
しかも本実施形態の車両用シート10は、衝突時の受圧部材70の移動速度を増速ユニット79によって増速し、ワイヤ44を介してヘッドレスト駆動機構67を作動させる構成であるため、応答性に優れており、作動遅れを生じない。この増速ユニット79は、受圧部材70から独立して構成されているため、シートバックフレーム20への組付性が良い。
【0064】
図10は本発明の第2の実施形態の増速ユニット79Aを示している。この増速ユニット79Aは、第1の実施形態で使われているガイドローラ91を用いることなく、ケーブル41,42の各アウタチューブ43の一端43aから引出されたワイヤ44を、直接、ローラ97に巻掛けている。そしてワイヤ44の向きをローラ97によって180°反転(Uターン)させ、各ワイヤ44をベースブラケット80のワイヤ支持部に接続している。それ以外の構成と作用、効果については、第1の実施形態の増速ユニット79と同様であるため、第1の実施形態と共通の符号を付して説明は省略する。
【0065】
図11〜図13は本発明の第3の実施形態の増速ユニットのアーム81とローラ91を示している。図13に示すようにこの実施形態のローラ91の外周部には溝部が形成されていない。その代わりに、ワイヤ振れ止め手段として、アーム81に形成された延出部81aに、プレス等の塑性加工によって凹部200が形成されている。
【0066】
この凹部200にワイヤ44の一部が入ることにより、ワイヤ44が所定位置に保持されるとともに、ワイヤ44がガイドされるようになっている。このような凹部200を有する延出部81aによって、ローラ91に接するワイヤ44がローラ91の軸線X方向と径方向に移動することが抑制される。
【0067】
この実施形態では、図13に示すようにローラ91に溝部を形成する必要がないため、ローラ91の形状が複雑化せず低コスト化が図れる。それ以外の構成と作用は第1の実施形態の増速ユニット79と同様である。なお図11から図13に示した振れ止め手段(凹部200を有する延出部81a)を、第1の実施形態で説明した第2のアーム82に適用してもよい。
【0068】
図14は本発明の第4の実施形態の増速ユニットのアーム81とローラ91を示している。この実施形態では、アーム81の端部にプレス等の塑性加工によって凹部200が形成されている。この凹部200にワイヤ44の一部が入ることにより、ローラ91に接するワイヤ44がローラ91の軸線方向と径方向に移動することが抑制される。この構成によれば、アーム81の形状をさらに単純化することができる。このような凹部200を利用したワイヤ振れ止め手段を、第1の実施形態で説明した第2のアーム82に採用してもよい。
【0069】
図15〜図17は本発明の第5の実施形態を示している。この実施形態のワイヤ振れ止め手段は、ローラ97の外周部に嵌合される樹脂クリップ220である。樹脂クリップ220は、それ自身が弾性変形することによりローラ97に装着される。この樹脂クリップ220によって、ローラ97に接するワイヤ44の一部が囲まれる。
【0070】
樹脂クリップ220の内面側に、ワイヤ44の一部が入る溝221が形成されている。この溝221によって、ワイヤ44がローラ97の軸線方向と径方向に移動することが抑制される。それ以外の構成は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態と共通の部位に共通の符号を付して説明を省略する。
【0071】
図18は本発明の第6の実施形態の増速ユニットの一部を示している。この実施形態のワイヤ振れ止め手段は、ベースブラケット80に形成された塑性加工部250である。塑性加工部250は、絞り加工等によってベースブラケット80の一部をローラ97の方向に突出させることにより形成されている。塑性加工部250のワイヤ44と対向する側に、ワイヤ44の一部が入る凹部251が形成されている。
【0072】
このような凹部251を有する塑性加工部250によって、ワイヤ44がローラ97の軸線方向と径方向に移動することが抑制される。それ以外の構成は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態と共通の部位に共通の符号を付して説明を省略する。
【0073】
図19は本発明の第7の実施形態を示している。この実施形態のワイヤ振れ止め手段は引っ張りばね等のテンション部材260である。テンション部材260は、ローラ91,97間のワイヤ44の弛みをとるべく、ワイヤ44とベースブラケット80との間にテンションを与えた状態で設けられている。
【0074】
このテンション部材260によって、ワイヤ44の側方から張力が付与され、ワイヤ44がローラ91,97の径方向に移動することが抑制される。このため、ワイヤ44が弛んでローラ91,97から離れることを防止できる。それ以外の構成は第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態と共通の部位に共通の符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す車両用シートの斜視図。
【図2】図1に示された車両用シートのシートバックの内部を示す斜視図。
【図3】図1に示された車両用シートのシートバックの内部を示す側面図。
【図4】図3に示されたシートバックのヘッドレスト駆動機構の側面図。
【図5】図3に示されたシートバックの増速ユニットの側面図。
【図6】図5に示された増速ユニットの斜視図。
【図7】図5に示された増速ユニットの一部の斜視図。
【図8】図5に示された増速ユニットの一部の側面図。
【図9】図8中のF9−F9線に沿う断面図。
【図10】本発明の第2の実施形態を示す増速ユニットの斜視図。
【図11】本発明の第3の実施形態を示す増速ユニットの一部の斜視図。
【図12】図11に示された増速ユニットの一部の側面図。
【図13】図12中のF13−F13線に沿う断面図。
【図14】本発明の第4の実施形態を示す増速ユニットの一部の斜視図。
【図15】本発明の第5の実施形態を示す増速ユニットの一部の側面図。
【図16】図15に示された増速ユニットの一部の分解斜視図。
【図17】図15に示された増速ユニットの一部の断面図。
【図18】本発明の第6の実施形態を示す増速ユニットを一部断面で示す側面図。
【図19】本発明の第7の実施形態を示す増速ユニットの側面図。
【符号の説明】
【0076】
10…車両用シート
12…シートバック
13…ヘッドレスト
20…シートバックフレーム
44…ワイヤ
60…サポートブラケット
67…ヘッドレスト駆動機構
70…受圧部材
79…増速ユニット
80…ベースブラケット
81…第1のアーム
82…第2のアーム
82a…延出部(ワイヤ振れ止め手段)
83…リンク機構
91…ガイドローラ
97…ローラ
100…ガイド孔(ガイド手段)
200…凹部(ワイヤ振れ止め手段)
220…樹脂クリップ(ワイヤ振れ止め手段)
250…塑性加工部(ワイヤ振れ止め手段)
260…テンション部材(ワイヤ振れ止め手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックフレームを有するシートバックと、
該シートバックの上部に設けるヘッドレストと、
前記シートバックフレームの上部に上下方向に移動可能かつ前後方向に傾動可能に設けられ前記ヘッドレストのステ−を挿入するサポートブラケットと、
前記シートバックに設けられ、乗員によって押されたとき後方に移動する受圧部材と、
一端と他端を有し前記シートバックに配置されるワイヤと、
前記ワイヤの一端が接続され、前記受圧部材が後方に移動したとき前記受圧部材の動きを増速して前記ワイヤを引く方向に駆動する増速ユニットと、
前記ワイヤの他端が接続され、前記ワイヤが引かれたとき前記サポートブラケットを上方に移動させつつ前側に傾かせるヘッドレスト駆動機構とを有し、
前記増速ユニットは、
前記シートバックフレームに設けられ前記ワイヤの一端が接続されるベースブラケットと、
第1のアームと第2のアームを互いに回動可能に接続してなり、前記第1のアームの端部が前記ベースブラケットに回動可能に支持され、前記第1のアームと第2のアームの接続部が前記受圧部材の方向に突き出るリンク機構と、
前記第2のアームの端部に回転自在に設けられ前記ワイヤを巻掛けるローラと、
前記第1のアームと第2のアームの接続部が前記受圧部材によって後方に押されたとき前記第1および第2のアームのなす角度が大きくなるように前記ローラの移動を案内するガイド手段と、
前記ローラに巻き掛けられた前記ワイヤが前記ローラから離れることを抑制するワイヤ振れ止め手段と、
を具備したことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記第1のアームの端部にガイドローラが設けられ、前記第1のアームに、前記ガイドローラに接する前記ワイヤが該ガイドローラから離れることを抑制するワイヤ振れ止め手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記ローラの外周部に前記ワイヤが入る溝部が形成され、
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記第2のアームの一部を前記溝部と向かい合う位置に延出させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記第2のアームの一部に前記ワイヤが入る凹部を形成したものであることを特徴とする請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記ローラの外周部に前記ワイヤを囲むように嵌合される樹脂クリップであることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記ベースブラケットの一部を前記ローラに向かって突出させてなる塑性加工部であることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記ワイヤ振れ止め手段が、前記ローラに巻掛けられた前記ワイヤの弛みをとるべく該ワイヤの側方から張力を与えるテンション部材であることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−82773(P2006−82773A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271791(P2004−271791)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】