車両用シート
【課題】むち打ち防止機構を備えた車両用シートにおいて、通常着座時におけるむち打ち防止機構の異音を極力低減すること。
【解決手段】車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により受圧部材20を後方に移動させて、サブフレーム8を回転ヒンジ22を中心に揺動させ、ヘッドレスト10を前方に移動させて乗員のむち打ちを防止するようにした。また、サイドフレーム6に対するサブフレーム8の揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段を、サイドフレーム6に形成されたガイド孔6bと、このガイド孔6bに遊挿されサブフレーム8に取り付けられたボルト26と、このボルト26に外装された円筒状の緩衝材32とで構成した。
【解決手段】車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により受圧部材20を後方に移動させて、サブフレーム8を回転ヒンジ22を中心に揺動させ、ヘッドレスト10を前方に移動させて乗員のむち打ちを防止するようにした。また、サイドフレーム6に対するサブフレーム8の揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段を、サイドフレーム6に形成されたガイド孔6bと、このガイド孔6bに遊挿されサブフレーム8に取り付けられたボルト26と、このボルト26に外装された円筒状の緩衝材32とで構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後方から衝突された場合の乗員のむち打ちを防止することが可能な車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートには、通常シートバックの上方にヘッドレストが設けられており、乗員が着座した状態では、乗員の頭部とヘッドレストとの間には所定の隙間があり、車両後方から衝突された場合、身体は前方に移動するのに対し、頭部は後方に残ることで、頸部に負荷がかかりむち打ち症になることがある。
【0003】
そこで、頭部とヘッドレスト間の隙間を小さくして、被害を最小限に抑えることは可能ではあるが、通常使用状態でも頭部がヘッドレストに触れたり、頭部を少し動かすことでヘッドレストと干渉して不快に感じるという問題がある。
【0004】
また、受圧部に連結されたヘッドレストを揺動自在に取り付けるとともにコイルばねにより常時後方に付勢し、車両後方からの衝突(後突)に際し、受圧部に入力された荷重によりコイルばねの付勢力に抗してヘッドレストを前方に移動させて乗員の頭部を支持することで乗員のむち打ちを防止するようにした構成も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、本願出願人も、サイドフレームをシートバックフレームに揺動自在に取り付け、シートバックフレームにボルトを介して弾性体を取り付ける一方、サイドフレームに弾性体をガイドするガイド孔を形成した構成のものを提案している。この構成では、ガイド孔の前端部に弾性体を保持する凹部を形成し、通常着座時には、弾性体を凹部に嵌入させてシートバックフレームをサイドフレームに保持する一方、後突時には、弾性体が変形して凹部より離脱しガイド孔に沿って後方に移動することで、シートバックフレームが回転ヒンジを中心に揺動し、ヘッドレストを前方に移動させるようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−39194号公報
【特許文献2】特開2005−132345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
後突試験により、人体からの荷重は最初腰部が高く、その後胸部や頭部が高くなることが分かっているが、特許文献1に記載の車両用シートにおいては、受圧部が乗員の背中に対向する位置に設けられていることから、後突時におけるヘッドレストの前方への移動が多少遅延する傾向がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の構成では、ボルトとガイド孔の側縁部との間にはガタがあることから、通常着座時、車体の振動によりボルトがガイド孔の側縁部に当接して異音を発生することがあった。
【0008】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、むち打ち防止機構を備えた車両用シートにおいて、通常着座時におけるむち打ち防止機構の異音を極力低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の発明は、シートクッションと、該シートクッションに対し傾倒自在に取り付けられたシートバックと、該シートバックの上部に取り付けられたヘッドレストとを有する車両用シートであって、シートクッションフレームと、該シートクッションフレームに傾倒自在に取り付けられた一対のサイドフレームと該サイドフレームに回転ヒンジを介して取り付けられたサブフレームとを有するシートバックフレームと、前記サブフレームの下部に取り付けられ乗員の腰部に対向する受圧部材と、前記サイドフレームと前記サブフレームとに設けられ前記サイドフレームに対する前記サブフレームの揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段と、前記サイドフレームに対し前記サブフレームを所定の位置に保持するための弾性部材とを備え、車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により前記受圧部材を後方に移動させて、前記サブフレームを前記回転ヒンジを中心に揺動させ、前記ヘッドレストを前方に移動させるようにした車両用シートにおいて、前記揺動範囲規制手段を、前記サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿され前記サブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記ガイド孔の周縁部に形成され前記緩衝材の外周面に対向するガイド壁を設けたことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記ボルトの頭部と前記サイドフレームの端面との間にスペーサを介装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揺動範囲規制手段を、サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿されサブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したので、ボルトとガイド孔の側縁部間のガタを緩衝材で規制することができるとともに、ガタに起因する異音を低減することができる。
【0013】
また、緩衝材の外周面に対向するガイド壁をガイド孔の周縁部に設けると、緩衝材とガイド孔の周縁部とが面接触することになるので、異音をさらに低減することができるばかりでなく、緩衝材の耐久性を向上させることができる。
【0014】
さらに、ボルトの頭部とサイドフレームの端面との間にスペーサを介装すると、ガタが低減して異音をさらに低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明にかかる車両用シートのシートフレームFを示しており、シートの前後方向の位置を適宜調節するためのスライド装置Sに取り付けられるシートクッションフレーム2と、シートクッションフレーム2にリクライニング装置4を介して取り付けられる左右一対のサイドフレーム6と、サイドフレーム6に取り付けられるサブフレーム8とにより構成されており、サイドフレーム6とサブフレーム8とでシートバックフレームを構成している。シートクッション及びシートバックはシートクッションフレーム2及びシートバックフレーム6,8にそれぞれ取り付けられ、ヘッドレスト10はサブフレーム8の上部に取り付けられる。
【0016】
左右のリクライニング装置4は連結軸12(図2あるいは図4参照)を介して連結されており、一方のリクライニング装置4に取り付けられた操作レバー(図示せず)を操作することにより、サイドフレーム6は所望の角度に設定される。
【0017】
図2乃至図4に示されるように、リクライニング装置4はシートクッションフレーム2に取り付けられるシートクッション側ブラケット16と、シートクッション側ブラケット16に対し揺動自在に取り付けられたシートバック側ブラケット18とを備えているが、リクライニング装置4は本発明の主眼ではないので、その詳細説明は省略する。
【0018】
リクライニング装置4のシートバック側ブラケット18には、サイドフレーム6が取り付けられ、サイドフレーム6の上部には回転ヒンジ挿入孔6aが形成されるとともに、サイドフレーム6の下部には、後述する揺動範囲規制ボルトが遊挿されるガイド孔6bが形成されている。このガイド孔6bは、回転ヒンジ挿入孔6aを中心とする円弧状の長孔形状を呈している。
【0019】
一方、サブフレーム8は逆U字状に折曲されており、サブフレーム8には、サイドフレーム6に形成された回転ヒンジ挿入孔6aとガイド孔6bに対向する部位に回転ヒンジ挿入孔8aと揺動範囲規制ボルト挿入孔8bがそれぞれ形成され、揺動範囲規制ボルト挿入孔8bの下方に位置するサブフレーム8には、乗員の腰部に対向する受圧板(受圧部材)20の両端が取り付けられている。
【0020】
図5及び図6Aに示されるように、サブフレーム8の両側部が左右一対のサイドフレーム6の内側に配置された状態で、前者の回転ヒンジ挿入孔8aと後者の回転ヒンジ挿入孔6aに回転ヒンジ用ボルト22が内側から挿入されてナット24が螺合され、前者の揺動範囲規制ボルト挿入孔8bと後者のガイド孔6bに揺動範囲規制用ボルト26が外側から挿入されてナット28が螺合される。
【0021】
回転ヒンジ用ボルト22はサイドフレーム6に対するサブフレーム8の回転(揺動)中心となるため、図5に示されるように、回転ヒンジ用ボルト22とサイドフレーム6の回転ヒンジ挿入孔6aの周縁部との間には殆どクリアランスがないのに対し、揺動範囲規制用ボルト26はサイドフレーム6に対するサブフレーム8の揺動範囲を規制するためのもので、図6Aに示されるように、揺動範囲規制用ボルト26とサイドフレーム6のガイド孔6bの周縁部との間には多少のクリアランスが設けられている。
【0022】
また、図4及び図7に示されるように、受圧板20の各端部にはコイルばね30の一端が係止され、コイルばね30の他端はサイドフレーム6の下端部に係止されており、コイルばね30の弾性力でサブフレーム8の下端部を前方に付勢するとともに、ヘッドレスト10を後方に付勢している。
【0023】
上記構成の本発明にかかる車両用シートは、通常の着座時には、図8に示されるように、コイルばね30の弾性力で揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの前端部に位置しており、この状態で乗員の上体をシートバックフレーム6,8で支持している。また、サブフレーム8の上部に取り付けられたヘッドレスト10は、乗員の頭部とは所定の間隔をおいて離隔している。
【0024】
一方、例えば車両後方から衝突(後突)され、後方から所定値以上の荷重が入力された場合、人体は相対的にシートバックに押しつけられる。このとき、人体の後方への移動により腰部がサブフレーム8の下部に設けられた受圧板20を後方に押すことになるので、コイルばね30の弾性力に抗してサブフレーム8がサイドフレーム6に対し回転ヒンジ用ボルト22を中心として図3の矢印A方向に回転し、サブフレーム8の下端部が後方に移動する。その結果、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの前端部からガイド孔6bに沿って後端部に向かって移動するので、ヘッドレスト10は乗員の頭部に向かって移動して乗員の頭部を支持することになる。
【0025】
図9は、通常の着座状態(a)と、後突時のサブフレーム8及びヘッドレスト10の作動状態(b)を示している。
【0026】
後突後は、コイルばね30の弾性力によりサブフレーム8がサイドフレーム6に対し回転ヒンジ用ボルト22を中心として矢印Aの逆方向に回転し、サブフレーム8の下端部が前方に移動する。その結果、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの後端部からガイド孔6bに沿って前端部に向かって移動するので、ヘッドレスト10は乗員の頭部から離反することになる。
【0027】
なお、乗員の体重等を考慮して、サブフレーム8の作動荷重が約100N以上で作動するように、コイルばね30はその弾性力が設定されている。
【0028】
また、図6Bに示されるように、緩衝材としてのブッシュ32を揺動範囲規制用ボルト26に外装すると、揺動範囲規制用ボルト26とガイド孔6bの側縁部間のガタをブッシュ32で規制することができるとともに、ガタに起因する異音を低減することができる。
【0029】
さらに詳述すると、円筒状のブッシュ32の内径を揺動範囲規制用ボルト26のシャンクの外径より僅かに小さく設定し、ブッシュ32の外径をガイド孔6bの幅より僅かに小さく設定するとともに、揺動範囲規制用ボルト26が挿入される部位におけるサイドフレーム6の外端面とサブフレーム8の外端面(サイドフレーム6との対向面)との長さよりブッシュ32の長さを僅かに長く設定し、ブッシュ32をゴム等の弾性材料で作製して揺動範囲規制用ボルト26のシャンクに圧入した後、揺動範囲規制用ボルト26をブッシュ32とともにサイドフレーム6のガイド孔6bに遊挿すると、通常着座時における揺動範囲規制用ボルト26とガイド孔6bの側縁部間のガタあるいはそれに起因する異音を低減することができる。
【0030】
また、ガイド孔6bの周縁部に沿ってブッシュ32の外周面に対向する所定長さのガイド壁34を形成することもできる。ガイド壁34がない場合、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの周縁部と線接触するのに対し、ガイド壁34を設けた場合、揺動範囲規制用ボルト26はガイド壁34と面接触し、異音をさらに低減することができるばかりでなく、ブッシュ32の耐久性向上にも役立つ。
【0031】
なお、ガイド壁34は、ガイド孔6bと同一形状の内縁部を有する筒状の部材をガイド孔6bの周縁部に接合してもよいが、ガイド孔6bをサイドフレーム6にバーリング加工を行って形成すると、下孔のバリがバーリング形状となるので、このバーリング形状をガイド壁34として使用することもできる。
【0032】
また、図6Cに示されるように、図6Aあるいは図6Bの構成において、揺動範囲規制用ボルト26の頭部とサイドフレーム6との間にスペーサ36を介装すると、車体振動等により揺動範囲規制用ボルト26の頭部がサイドフレーム6に当接することがなく、サイドフレーム6の外端面と揺動範囲規制用ボルト26の頭部間のガタが解消して、異音の低減に効果がある。スペーサ36としては、金属製や樹脂製のワッシャ、あるいは板ばね等を使用することができる。
【0033】
また、上記実施の形態において、回転ヒンジ用ボルト22の位置を変更して揺動範囲規制用ボルト26との間隔を変えたりガイド孔6bの長さを変更することにより、ヘッドレスト10のストローク量を適宜調節することができる。
【0034】
さらに、上記実施の形態において、コイルばね30の一端を受圧板20に係止する構成としたが、コイルばね30の一端を受圧板20以外のサブフレーム8の下部に係止するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態においては、サブフレーム8を付勢する弾性部材として引張コイルばね30を採用したが、引張コイルばね以外にも圧縮コイルばね、渦巻ばね、トーションバー等の弾性部材を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる車両用シートは、後突時ヘッドレストを素早く前方に移動させて乗員の頭部を支持することができるので、簡素な構成で乗員のむち打ち症を防止することができる車両用シートとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかる車両用シートを構成するシートフレームの斜視図である。
【図2】図1のシートフレームを構成するシートバックフレームの正面図である。
【図3】図2のシートバックフレームの側面図である。
【図4】図2のシートバックフレームの分解斜視図である。
【図5】図3における線V−Vに沿った断面図である。
【図6A】図3における線VI−VIに沿った断面図である。
【図6B】図3における線VI−VIに沿った図6Aの変形例の断面図である。
【図6C】図3における線VI−VIに沿った図6Aの別の変形例の断面図である。
【図7】図2のシートバックフレームの下部の斜視図である。
【図8】図2のシートバックフレームの中間部の斜視図である。
【図9】本発明にかかる車両用シートの側面図を示しており、(a)は通常着座時を、(b)は後突時の状態をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0038】
2 シートクッションフレーム、 4 リクライニング装置、 6 サイドフレーム、
6a 回転ヒンジ挿入孔、 6b ガイド孔、 8 サブフレーム、
8a 回転ヒンジ挿入孔、 8b 揺動範囲規制ボルト挿入孔、 10 ヘッドレスト、
12 連結軸、 16 シートクッション側ブラケット、
18 シートバック側ブラケット、 20 受圧板、 22 回転ヒンジ用ボルト、
24 ナット、 26 揺動範囲規制用ボルト、 28 ナット、 30 コイルばね、
32 ブッシュ、 34 ガイド壁、 36 スペーサ、 F シートフレーム、
S スライド装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後方から衝突された場合の乗員のむち打ちを防止することが可能な車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートには、通常シートバックの上方にヘッドレストが設けられており、乗員が着座した状態では、乗員の頭部とヘッドレストとの間には所定の隙間があり、車両後方から衝突された場合、身体は前方に移動するのに対し、頭部は後方に残ることで、頸部に負荷がかかりむち打ち症になることがある。
【0003】
そこで、頭部とヘッドレスト間の隙間を小さくして、被害を最小限に抑えることは可能ではあるが、通常使用状態でも頭部がヘッドレストに触れたり、頭部を少し動かすことでヘッドレストと干渉して不快に感じるという問題がある。
【0004】
また、受圧部に連結されたヘッドレストを揺動自在に取り付けるとともにコイルばねにより常時後方に付勢し、車両後方からの衝突(後突)に際し、受圧部に入力された荷重によりコイルばねの付勢力に抗してヘッドレストを前方に移動させて乗員の頭部を支持することで乗員のむち打ちを防止するようにした構成も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、本願出願人も、サイドフレームをシートバックフレームに揺動自在に取り付け、シートバックフレームにボルトを介して弾性体を取り付ける一方、サイドフレームに弾性体をガイドするガイド孔を形成した構成のものを提案している。この構成では、ガイド孔の前端部に弾性体を保持する凹部を形成し、通常着座時には、弾性体を凹部に嵌入させてシートバックフレームをサイドフレームに保持する一方、後突時には、弾性体が変形して凹部より離脱しガイド孔に沿って後方に移動することで、シートバックフレームが回転ヒンジを中心に揺動し、ヘッドレストを前方に移動させるようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−39194号公報
【特許文献2】特開2005−132345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
後突試験により、人体からの荷重は最初腰部が高く、その後胸部や頭部が高くなることが分かっているが、特許文献1に記載の車両用シートにおいては、受圧部が乗員の背中に対向する位置に設けられていることから、後突時におけるヘッドレストの前方への移動が多少遅延する傾向がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の構成では、ボルトとガイド孔の側縁部との間にはガタがあることから、通常着座時、車体の振動によりボルトがガイド孔の側縁部に当接して異音を発生することがあった。
【0008】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、むち打ち防止機構を備えた車両用シートにおいて、通常着座時におけるむち打ち防止機構の異音を極力低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の発明は、シートクッションと、該シートクッションに対し傾倒自在に取り付けられたシートバックと、該シートバックの上部に取り付けられたヘッドレストとを有する車両用シートであって、シートクッションフレームと、該シートクッションフレームに傾倒自在に取り付けられた一対のサイドフレームと該サイドフレームに回転ヒンジを介して取り付けられたサブフレームとを有するシートバックフレームと、前記サブフレームの下部に取り付けられ乗員の腰部に対向する受圧部材と、前記サイドフレームと前記サブフレームとに設けられ前記サイドフレームに対する前記サブフレームの揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段と、前記サイドフレームに対し前記サブフレームを所定の位置に保持するための弾性部材とを備え、車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により前記受圧部材を後方に移動させて、前記サブフレームを前記回転ヒンジを中心に揺動させ、前記ヘッドレストを前方に移動させるようにした車両用シートにおいて、前記揺動範囲規制手段を、前記サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿され前記サブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記ガイド孔の周縁部に形成され前記緩衝材の外周面に対向するガイド壁を設けたことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記ボルトの頭部と前記サイドフレームの端面との間にスペーサを介装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揺動範囲規制手段を、サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿されサブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したので、ボルトとガイド孔の側縁部間のガタを緩衝材で規制することができるとともに、ガタに起因する異音を低減することができる。
【0013】
また、緩衝材の外周面に対向するガイド壁をガイド孔の周縁部に設けると、緩衝材とガイド孔の周縁部とが面接触することになるので、異音をさらに低減することができるばかりでなく、緩衝材の耐久性を向上させることができる。
【0014】
さらに、ボルトの頭部とサイドフレームの端面との間にスペーサを介装すると、ガタが低減して異音をさらに低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明にかかる車両用シートのシートフレームFを示しており、シートの前後方向の位置を適宜調節するためのスライド装置Sに取り付けられるシートクッションフレーム2と、シートクッションフレーム2にリクライニング装置4を介して取り付けられる左右一対のサイドフレーム6と、サイドフレーム6に取り付けられるサブフレーム8とにより構成されており、サイドフレーム6とサブフレーム8とでシートバックフレームを構成している。シートクッション及びシートバックはシートクッションフレーム2及びシートバックフレーム6,8にそれぞれ取り付けられ、ヘッドレスト10はサブフレーム8の上部に取り付けられる。
【0016】
左右のリクライニング装置4は連結軸12(図2あるいは図4参照)を介して連結されており、一方のリクライニング装置4に取り付けられた操作レバー(図示せず)を操作することにより、サイドフレーム6は所望の角度に設定される。
【0017】
図2乃至図4に示されるように、リクライニング装置4はシートクッションフレーム2に取り付けられるシートクッション側ブラケット16と、シートクッション側ブラケット16に対し揺動自在に取り付けられたシートバック側ブラケット18とを備えているが、リクライニング装置4は本発明の主眼ではないので、その詳細説明は省略する。
【0018】
リクライニング装置4のシートバック側ブラケット18には、サイドフレーム6が取り付けられ、サイドフレーム6の上部には回転ヒンジ挿入孔6aが形成されるとともに、サイドフレーム6の下部には、後述する揺動範囲規制ボルトが遊挿されるガイド孔6bが形成されている。このガイド孔6bは、回転ヒンジ挿入孔6aを中心とする円弧状の長孔形状を呈している。
【0019】
一方、サブフレーム8は逆U字状に折曲されており、サブフレーム8には、サイドフレーム6に形成された回転ヒンジ挿入孔6aとガイド孔6bに対向する部位に回転ヒンジ挿入孔8aと揺動範囲規制ボルト挿入孔8bがそれぞれ形成され、揺動範囲規制ボルト挿入孔8bの下方に位置するサブフレーム8には、乗員の腰部に対向する受圧板(受圧部材)20の両端が取り付けられている。
【0020】
図5及び図6Aに示されるように、サブフレーム8の両側部が左右一対のサイドフレーム6の内側に配置された状態で、前者の回転ヒンジ挿入孔8aと後者の回転ヒンジ挿入孔6aに回転ヒンジ用ボルト22が内側から挿入されてナット24が螺合され、前者の揺動範囲規制ボルト挿入孔8bと後者のガイド孔6bに揺動範囲規制用ボルト26が外側から挿入されてナット28が螺合される。
【0021】
回転ヒンジ用ボルト22はサイドフレーム6に対するサブフレーム8の回転(揺動)中心となるため、図5に示されるように、回転ヒンジ用ボルト22とサイドフレーム6の回転ヒンジ挿入孔6aの周縁部との間には殆どクリアランスがないのに対し、揺動範囲規制用ボルト26はサイドフレーム6に対するサブフレーム8の揺動範囲を規制するためのもので、図6Aに示されるように、揺動範囲規制用ボルト26とサイドフレーム6のガイド孔6bの周縁部との間には多少のクリアランスが設けられている。
【0022】
また、図4及び図7に示されるように、受圧板20の各端部にはコイルばね30の一端が係止され、コイルばね30の他端はサイドフレーム6の下端部に係止されており、コイルばね30の弾性力でサブフレーム8の下端部を前方に付勢するとともに、ヘッドレスト10を後方に付勢している。
【0023】
上記構成の本発明にかかる車両用シートは、通常の着座時には、図8に示されるように、コイルばね30の弾性力で揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの前端部に位置しており、この状態で乗員の上体をシートバックフレーム6,8で支持している。また、サブフレーム8の上部に取り付けられたヘッドレスト10は、乗員の頭部とは所定の間隔をおいて離隔している。
【0024】
一方、例えば車両後方から衝突(後突)され、後方から所定値以上の荷重が入力された場合、人体は相対的にシートバックに押しつけられる。このとき、人体の後方への移動により腰部がサブフレーム8の下部に設けられた受圧板20を後方に押すことになるので、コイルばね30の弾性力に抗してサブフレーム8がサイドフレーム6に対し回転ヒンジ用ボルト22を中心として図3の矢印A方向に回転し、サブフレーム8の下端部が後方に移動する。その結果、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの前端部からガイド孔6bに沿って後端部に向かって移動するので、ヘッドレスト10は乗員の頭部に向かって移動して乗員の頭部を支持することになる。
【0025】
図9は、通常の着座状態(a)と、後突時のサブフレーム8及びヘッドレスト10の作動状態(b)を示している。
【0026】
後突後は、コイルばね30の弾性力によりサブフレーム8がサイドフレーム6に対し回転ヒンジ用ボルト22を中心として矢印Aの逆方向に回転し、サブフレーム8の下端部が前方に移動する。その結果、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの後端部からガイド孔6bに沿って前端部に向かって移動するので、ヘッドレスト10は乗員の頭部から離反することになる。
【0027】
なお、乗員の体重等を考慮して、サブフレーム8の作動荷重が約100N以上で作動するように、コイルばね30はその弾性力が設定されている。
【0028】
また、図6Bに示されるように、緩衝材としてのブッシュ32を揺動範囲規制用ボルト26に外装すると、揺動範囲規制用ボルト26とガイド孔6bの側縁部間のガタをブッシュ32で規制することができるとともに、ガタに起因する異音を低減することができる。
【0029】
さらに詳述すると、円筒状のブッシュ32の内径を揺動範囲規制用ボルト26のシャンクの外径より僅かに小さく設定し、ブッシュ32の外径をガイド孔6bの幅より僅かに小さく設定するとともに、揺動範囲規制用ボルト26が挿入される部位におけるサイドフレーム6の外端面とサブフレーム8の外端面(サイドフレーム6との対向面)との長さよりブッシュ32の長さを僅かに長く設定し、ブッシュ32をゴム等の弾性材料で作製して揺動範囲規制用ボルト26のシャンクに圧入した後、揺動範囲規制用ボルト26をブッシュ32とともにサイドフレーム6のガイド孔6bに遊挿すると、通常着座時における揺動範囲規制用ボルト26とガイド孔6bの側縁部間のガタあるいはそれに起因する異音を低減することができる。
【0030】
また、ガイド孔6bの周縁部に沿ってブッシュ32の外周面に対向する所定長さのガイド壁34を形成することもできる。ガイド壁34がない場合、揺動範囲規制用ボルト26はガイド孔6bの周縁部と線接触するのに対し、ガイド壁34を設けた場合、揺動範囲規制用ボルト26はガイド壁34と面接触し、異音をさらに低減することができるばかりでなく、ブッシュ32の耐久性向上にも役立つ。
【0031】
なお、ガイド壁34は、ガイド孔6bと同一形状の内縁部を有する筒状の部材をガイド孔6bの周縁部に接合してもよいが、ガイド孔6bをサイドフレーム6にバーリング加工を行って形成すると、下孔のバリがバーリング形状となるので、このバーリング形状をガイド壁34として使用することもできる。
【0032】
また、図6Cに示されるように、図6Aあるいは図6Bの構成において、揺動範囲規制用ボルト26の頭部とサイドフレーム6との間にスペーサ36を介装すると、車体振動等により揺動範囲規制用ボルト26の頭部がサイドフレーム6に当接することがなく、サイドフレーム6の外端面と揺動範囲規制用ボルト26の頭部間のガタが解消して、異音の低減に効果がある。スペーサ36としては、金属製や樹脂製のワッシャ、あるいは板ばね等を使用することができる。
【0033】
また、上記実施の形態において、回転ヒンジ用ボルト22の位置を変更して揺動範囲規制用ボルト26との間隔を変えたりガイド孔6bの長さを変更することにより、ヘッドレスト10のストローク量を適宜調節することができる。
【0034】
さらに、上記実施の形態において、コイルばね30の一端を受圧板20に係止する構成としたが、コイルばね30の一端を受圧板20以外のサブフレーム8の下部に係止するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態においては、サブフレーム8を付勢する弾性部材として引張コイルばね30を採用したが、引張コイルばね以外にも圧縮コイルばね、渦巻ばね、トーションバー等の弾性部材を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる車両用シートは、後突時ヘッドレストを素早く前方に移動させて乗員の頭部を支持することができるので、簡素な構成で乗員のむち打ち症を防止することができる車両用シートとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかる車両用シートを構成するシートフレームの斜視図である。
【図2】図1のシートフレームを構成するシートバックフレームの正面図である。
【図3】図2のシートバックフレームの側面図である。
【図4】図2のシートバックフレームの分解斜視図である。
【図5】図3における線V−Vに沿った断面図である。
【図6A】図3における線VI−VIに沿った断面図である。
【図6B】図3における線VI−VIに沿った図6Aの変形例の断面図である。
【図6C】図3における線VI−VIに沿った図6Aの別の変形例の断面図である。
【図7】図2のシートバックフレームの下部の斜視図である。
【図8】図2のシートバックフレームの中間部の斜視図である。
【図9】本発明にかかる車両用シートの側面図を示しており、(a)は通常着座時を、(b)は後突時の状態をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0038】
2 シートクッションフレーム、 4 リクライニング装置、 6 サイドフレーム、
6a 回転ヒンジ挿入孔、 6b ガイド孔、 8 サブフレーム、
8a 回転ヒンジ挿入孔、 8b 揺動範囲規制ボルト挿入孔、 10 ヘッドレスト、
12 連結軸、 16 シートクッション側ブラケット、
18 シートバック側ブラケット、 20 受圧板、 22 回転ヒンジ用ボルト、
24 ナット、 26 揺動範囲規制用ボルト、 28 ナット、 30 コイルばね、
32 ブッシュ、 34 ガイド壁、 36 スペーサ、 F シートフレーム、
S スライド装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションと、該シートクッションに対し傾倒自在に取り付けられたシートバックと、該シートバックの上部に取り付けられたヘッドレストとを有する車両用シートであって、
シートクッションフレームと、該シートクッションフレームに傾倒自在に取り付けられた一対のサイドフレームと該サイドフレームに回転ヒンジを介して取り付けられたサブフレームとを有するシートバックフレームと、前記サブフレームの下部に取り付けられ乗員の腰部に対向する受圧部材と、前記サイドフレームと前記サブフレームとに設けられ前記サイドフレームに対する前記サブフレームの揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段と、前記サイドフレームに対し前記サブフレームを所定の位置に保持するための弾性部材とを備え、車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により前記受圧部材を後方に移動させて、前記サブフレームを前記回転ヒンジを中心に揺動させ、前記ヘッドレストを前方に移動させるようにした車両用シートにおいて、
前記揺動範囲規制手段を、前記サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿され前記サブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記ガイド孔の周縁部に形成され前記緩衝材の外周面に対向するガイド壁を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記ボルトの頭部と前記サイドフレームの端面との間にスペーサを介装したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の車両用シート。
【請求項1】
シートクッションと、該シートクッションに対し傾倒自在に取り付けられたシートバックと、該シートバックの上部に取り付けられたヘッドレストとを有する車両用シートであって、
シートクッションフレームと、該シートクッションフレームに傾倒自在に取り付けられた一対のサイドフレームと該サイドフレームに回転ヒンジを介して取り付けられたサブフレームとを有するシートバックフレームと、前記サブフレームの下部に取り付けられ乗員の腰部に対向する受圧部材と、前記サイドフレームと前記サブフレームとに設けられ前記サイドフレームに対する前記サブフレームの揺動範囲を規制するための揺動範囲規制手段と、前記サイドフレームに対し前記サブフレームを所定の位置に保持するための弾性部材とを備え、車両後方より所定値以上の荷重が入力された場合には、乗員の腰部により前記受圧部材を後方に移動させて、前記サブフレームを前記回転ヒンジを中心に揺動させ、前記ヘッドレストを前方に移動させるようにした車両用シートにおいて、
前記揺動範囲規制手段を、前記サイドフレームに形成されたガイド孔と、該ガイド孔に遊挿され前記サブフレームに取り付けられたボルトと、該ボルトに外装された円筒状の緩衝材とで構成したことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記ガイド孔の周縁部に形成され前記緩衝材の外周面に対向するガイド壁を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記ボルトの頭部と前記サイドフレームの端面との間にスペーサを介装したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の車両用シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−265378(P2008−265378A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107235(P2007−107235)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000109738)デルタ工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000109738)デルタ工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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