説明

車両用制御装置

【課題】車両用制御装置において、バッテリが交換された時に、バッテリの総充放電量情報を初期化して、交換後のバッテリの実充放電量と極端にかけはなれた総充放電量情報を用いて制御することを避けることにある。
【解決手段】制御手段(5)は、バッテリ(3)が取り外されたかどうかを判定するバッテリ取り外し判定手段(5C)を備え、このバッテリ取り外し判定手段(5C)によりバッテリ(3)が取り外されたと判定された場合に、記憶手段(5A)に記憶されたバッテリ総充放電量情報を充放電量算出手段(5B)で初期化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用制御装置に係り、特に発電機(オルタネータ)付きのエンジンの発電制御においてバッテリの充放電状態の初期化を行う車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制御装置において、発電制御、アイドルストップ制御を実施する場合に、バッテリが放電してしまわないように、充電量を管理することが重要となり、現在の制御では、充放電量を制御手段(ECU)で計算して記憶させ、充電量が十分でないときには、発電制御、アイドルストップ制御を禁止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−188749号公報
【特許文献2】特開2004−278402号公報
【0004】
特許文献1に係るバッテリ充電量管理装置は、バッテリ交換時にエンジンを始動する時のバッテリ電圧、電流により放電の内部抵抗を、始動後の充電電圧、電流により充電の内部抵抗を算出して、アイドルストップの可否判断を行うものである。また、交換したバッテリ特性に合った発電制御により、燃料消費量を必要最小にするとともに、バッテリ電力不足によるエンジンの再始動性悪化を防ぐものである。
特許文献2に係るエンジンの自動停止装置は、バッテリ交換時にバッテリの充電終了が判定されるまで、エンジン停止を禁止するものである。また、エンジンが再始動できないほど、SOC(充電状態)が低下したバッテリに交換された場合でも、充電終了判定によりバッテリが満充電になるまでは、たとえ、エンジン停止のための所定条件が成立しても、エンジンは停止されずに運転を継続し、始動不能に陥る事態を回避するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、バッテリの充電量が十分でないときで、発電制御、アイドルストップ制御を禁止している場合には、以下のような不具合が生じた。
現在の制御では、制御手段に記憶させているバッテリ充放電量は、バッテリを新品に交換しても、その値は保持されたままとなっている。この場合、新品のバッテリでは充電される電流量が小さいため、充放電量の値が放電状態からなかなか戻らず、新品のバッテリに交換したにもかかわらず、長い時間、発電制御、アイドルストップ制御が働かなくなってしまい、燃費悪化及び運転者ヘ違和感を与えてしまう。
また、現在の制御では、制御手段の内部の充放電量を外部ツールからリセットできないため、バッテリの充電量が制御許可の値になるまでの時間で、発電制御、アイドルストップ制御が働かないことになっていた。
更に、工場での排ガス抜取り検査車両の場合に、車両完成後に、エンジンの始動停止を何度も繰り返したり、イグニッションスイッチがオンで放置したりした場合に、バッテリ放電量が多くなり、排ガス抜取りテストの時に、発電制御、アイドルストップ制御が働かなくなってしまい、燃費が悪化してしまうことになる。また、バッテリを新品にしても、直ぐには制御が作動しないため、工程に多大な時間がかかってしまう。
更にまた、市場では、発電制御、アイドルストップ制御が作動する条件が運転者には分からず、特に、アイドルストップ制御が働かない場合には、運転者のクレームとなる。また、バッテリ性能が低下してバッテリを新品に交換した場合に、古いバッテリの充放電量の値を保持してしまい、長い期間、発電制御、アイドルストップ制御が働かず、燃費悪化してしまう。
即ち、図7のタイムチャートに示すように、バッテリの充放電量の制御においては、エンジン停止後、バッテリが放電し始める(時間t0)。エンジンが始動すると(時間t1)、バッテリ充電電流が増加して、バッテリが充電開始され、制御手段(ECU)内の総充放電量情報は放電側から充電側へ向かって変化し始める。そして、バッテリを新品に交換、あるいは、充電したバッテリに交換するまで(時間t2)、制御手段(ECU)内の総充放電量情報は変化し続ける。この間、制御手段(ECU)内の総充放電量情報が発電制御、アイドルストップ実施判定レベルLを上回り、発電制御、アイドルストップ制御は作動しない。そして、バッテリを新品に交換、あるいは、充電したバッテリに交換すると(時間t2)、バッテリの充電電流は発電制御、アイドルストップ実施判定領域P内に移行するが、制御手段(ECU)内の総充放電量情報はそのまま保持されて、発電制御、アイドルストップ制御が作動しないままである。
【0006】
また、上記の特許文献1、2では、バッテリの充放電量情報を初期化するものではなく、さらに、交換後のバッテリの充放電量と極端にかけはなれた充放電量情報を用いて制御することを避けることを実施していない。
【0007】
そこで、この発明は、バッテリが交換された時に、交換後のバッテリの実充放電量と極端にかけはなれた総充放電量情報を用いて制御することを避けることができる車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、車両に搭載されたバッテリの充放電電流を検出する電流検出手段を設け、バッテリ総充放電量情報を記憶する記憶手段と、前記電流検出手段により検出された充放電電流からバッテリ充放電量を算出し、前記記憶手段に記憶されたバッテリ総充放電量情報に前記算出されたバッテリ充放電量を加減算して、バッテリ総充放電量情報を更新する充放電量算出手段とを備えた制御手段を設けた車両用制御装置において、前記制御手段は、前記バッテリが取り外されたかどうかを判定するバッテリ取り外し判定手段を備え、このバッテリ取り外し判定手段により前記バッテリが取り外されたと判定された場合に前記記憶手段に記憶されたバッテリ総充放電量情報を前記充放電量算出手段で初期化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の車両用制御装置は、バッテリが交換された時に、バッテリの総充放電量情報を初期化するので、交換後のバッテリの実充放電量と極端にかけはなれた総充放電量情報を用いて制御することを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は車両用制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図2】図2はバッテリ電流と電流検出手段の出力値との関係で充電側及び放電側を示す図である。(実施例)
【図3】図3は発電制御実施条件の成立を説明する図である。(実施例)
【図4】図4はバッテリの充放電量制御のタイムチャートである。(実施例)
【図5】図5は充放電量算出のフローチャートである。(実施例)
【図6】図6は外部ツールによるバッテリの充放電量設定のフローチャートである。(実施例)
【図7】図7は従来におけるバッテリの充放電量制御のタイムチャートである。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、バッテリが交換された時に、交換後のバッテリの実充放電量と極端にかけはなれた総充放電量情報を用いて制御することを避ける目的を、バッテリが取り外されたと判定された場合に、記憶されたバッテリ総充放電量情報を初期化して実現するものである。
【実施例】
【0012】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は車両に搭載されたエンジン、2はこのエンジン1に付設された発電機(オルタネータ)、3は車両に搭載されて発電機2に接続するバッテリ、4は発電機2及びバッテリ3に接続されて電力が供給される電気負荷である。
また、車両には、発電制御、アイドルストップ制御を実施する制御手段(ECU)5を備えた車両用制御装置6が搭載される。
この制御手段5には、バッテリ3のマイナス(−)端子側でバッテリ3の充放電電流を検出する電流検出手段7及びバッテリ3の温度を検出する温度検出手段8が連絡するとともに、クラッチのオン/オフを検出するクラッチ検出手段9と、ブレーキ操作のオン/オフを検出するブレーキ検出手段10と、車両の速度である車速を検出する車速検出手段11と、エンジン1への吸入空気の温度を検出する吸気温度検出手段12と、エンジン1の冷却水の温度である水温を検出する水温検出手段13とが連絡している。
また、制御手段5は、バッテリ電圧を検出するために、バッテリ3のプラス(+)端子側に連絡している。
さらに、制御手段5は、並列のC端子信号線14A及びFR信号線14Bを介して発電機2に連絡している。
また、制御手段5には、バッテリ3の充電状態を表示するメータ等の表示手段15が連絡している。
【0013】
制御手段5には、図2に示すように、バッテリ電流と電流検出手段7の出力値(充放電電流)との関係で、充電側及び放電側を設定するマップが組み込まれている。
また、制御手段5では、図3に示すように、発電制御実施条件は、充放電量>0の条件と、バッテリ充電電流<設定値(5(A))の条件と、バッテリ電圧>設定値(11.5(V))の条件と、バッテリ温度>設定値(−5(℃))の条件との全てを満たした場合に、成立する。
【0014】
制御手段5は、バッテリ総充放電量情報を記憶する記憶手段5Aと、電流検出手段7により検出された充放電電流からバッテリ充放電量を算出し、記憶手段5Aに記憶されたバッテリ総充放電量情報に前記算出されたバッテリ充放電量を加減算して、バッテリ総充放電量情報を更新する充放電量算出手段5Bとを備えている。
また、制御手段5は、バッテリ3が取り外されたかどうかを判定するバッテリ取り外し判定手段5Cを備え、このバッテリ取り外し判定手段5Cによりバッテリ3が取り外されたと判定された場合に、記憶手段5Aに記憶されたバッテリ総充放電量情報を充放電量算出手段5Bで初期化する。
上記のバッテリ取り外し判定方法としては、例えば、マイクロコンピュータにバッテリ電圧を入力する回路構成とし、バッテリ3の取り外し時には予備電源からの電力でマイクロコンピュータを動作させ、マイクロコンピュータは入力されたバッテリ電圧がしきい値以下になったらバッテリ3が取り外されたと判定する方法や、あるいは、バッテリ3の脱着時にオン/オフ操作されるようにバッテリトレイにスイッチを内蔵させ、予備電源と予備の記憶装置を用いてそのスイッチのオン/オフ状態の履歴を保持しておき、その履歴に基づいてバッテリ3の取り外しを判定する方法がある。
更に、制御手段5は、メイン電源5Dと、タイマ5Eとを備えている。
【0015】
次に、バッテリ3の充放電量算出について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
図5に示すように、充放電量算出のプログラムがスタートすると(ステップA01)、先ず、制御手段5のメイン電源5Dがオンか否かを判断し(ステップA02)、このステップA02がNOの場合には、この判断を継続する。
このステップA02がYESの場合には、バッテリ3が取り外されたかどうかを判定し(ステップA03)、このステップA03がYESの場合には、記憶されている総充放電情報を初期化する(ステップA04)。
このステップA04の処理後、又は、前記ステップA03がNOの場合には、バッテリ3の自然放電量を減算する(ステップA05)。
そして、エンジン1が始動か否かを判断し(ステップA06)、このステップA06がNOの場合には、前記ステップA05に戻す。
このステップA06がYESの場合には、バッテリ電流が充電側か否かを判断する(図2参照)(ステップA07)。
このステップA07がYESの場合には、バッテリ充放電量を加算する(ステップA08)。
一方、このステップA07がNOの場合には、バッテリ充放電量を減算する(ステップA09)。
前記ステップA08の処理後、又は、前記ステップA09の処理後は、制御手段5のメイン電源5Dがオフか否かを判断する(ステップA10)。
このステップA10がNOの場合には、前記ステップA05に戻す。
このステップA10がYESの場合には、バッテリ3の自然放電量の計算をするためのタイマ5Eを起動し(ステップA11)、そして、前記ステップA02に戻す。
【0016】
次いで、外部ツールによる充放電量設定について、図6のフローチャートに基づいて説明する。
図6に示すように、外部ツールによる充放電量設定のプログラムがスタートすると(ステップB01)、先ず、充放電量の初期化のコマンドがあったか否かを判断する(ステップB02)。
このステップB02がYESの場合には、充放電量を初期化する(ステップB03)。
このステップB02がNOの場合には、充放電量の設定のコマンドがあったか否かを判断する(ステップB04)。
このステップB04がNOの場合には、前記ステップB02に戻す。
このステップB04がYESの場合には、充放電量量を設定する(ステップB05)。
前記ステップB03の処理後、又は、前記ステップB05の処理後は、プログラムをエンドとする(ステップB06)。
【0017】
また、図4には、この実施例に係るバッテリ3の充放電量制御のタイムチャートを示す。
図4に示すように、エンジン停止後、バッテリ3が放電し始める(時間t0)。エンジン1が始動すると(時間t1)、バッテリ充電電流が増加して、バッテリ3が充電開始され、制御手段5内の総充放電量情報は放電側から充電側へ向かって変化し始める。そして、バッテリ3を新品に交換、あるいは、充電したバッテリに交換するまで(時間t2)、制御手段5内の総充放電量情報は変化し続ける。この間、制御手段(ECU)内の総充放電量情報が発電制御、アイドルストップ実施判定レベルLを上回り、発電制御、アイドルストップ制御は作動しない。そして、バッテリ3を新品に交換、あるいは、充電したバッテリに交換すると(時間t2)、バッテリ3の充電電流は発電制御、アイドルストップ実施判定領域P内に移行する。同時に、バッテリ3の取り外し判定によって総充放電量情報が初期化され(時間t2)、制御手段5内の総充放電量情報が発電制御、アイドルストップ実施判定領域P内に移行する。あるいは、外部ツールから総充放電量情報を初期化すると(時間t2)、制御手段5内の総充放電量情報が発電制御、アイドルストップ実施判定領域P内に移行する。
【0018】
この結果、この実施例では、上記のような制御により、バッテリ3が交換された時に、バッテリ3の総充放電量情報を初期化するので、交換後のバッテリ3の実充放電量と極端にかけはなれた総充放電量情報を用いて制御することを避けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明に係る車両用制御装置を、各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 エンジン
2 発電機
3 バッテリ
4 電気負荷
5 制御手段
5A 記憶手段
5B 充放電量算出手段
5C バッテリ取り外し判定手段
5D メイン電源
5E タイマ
6 車両用制御装置
7 電流検出手段
8 温度検出手段
9 クラッチ検出手段
10 ブレーキ検出手段
11 車速検出手段
12 吸気温度検出手段
13 水温検出手段
14A C端子信号線
14B FR信号線
15 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリの充放電電流を検出する電流検出手段を設け、バッテリ総充放電量情報を記憶する記憶手段と、前記電流検出手段により検出された充放電電流からバッテリ充放電量を算出し、前記記憶手段に記憶されたバッテリ総充放電量情報に前記算出されたバッテリ充放電量を加減算して、バッテリ総充放電量情報を更新する充放電量算出手段とを備えた制御手段を設けた車両用制御装置において、前記制御手段は、前記バッテリが取り外されたかどうかを判定するバッテリ取り外し判定手段を備え、このバッテリ取り外し判定手段により前記バッテリが取り外されたと判定された場合に前記記憶手段に記憶されたバッテリ総充放電量情報を前記充放電量算出手段で初期化することを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82383(P2013−82383A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224819(P2011−224819)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】