説明

車両用空調装置

【課題】電力消費量を抑えて除湿と暖房とを両立させることができる車両用空調制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の車両用空調制御装置は、空調用冷却流路を流れる冷媒と前記ヒーター温水流路を流れる温水との間で熱交換させる熱交換器を備える。そしてヒーター温水流路の熱交換器よりも下流には、熱交換器で熱交換された温水をさらに温める電気ヒーターを設ける。さらに車載される電気機器の熱を室外熱交換器に通して冷却する電気用冷却流路を備え、電気用冷却流路とヒーター温水流路とを、ヒーター温水流路と電気機器とが並列になるように連絡流路で接続する。連絡流路とヒーター温水流路との接続部分には、ヒーター温水流路の温水の温度が所定温度よりも高い場合に、ヒーター温水流路を流れる温水を電気用冷却流路に流入させる流路切替バルブを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン冷却水を利用せずに車室内を空調する車両用空調装置は、暖房運転のときに、電気ヒーター又は燃焼ヒーターで温めた温水や温風を利用したり、ヒートポンプで汲み上げた外気の熱を利用している。特に電気自動車は、エンジンがないためエンジンの排熱を暖房に利用できず、電気ヒーターが必要となる。電気ヒーターの電力消費量は航続距離に影響を及ぼすため、冬場など電気ヒーターの電力消費量が大きくなると、航続距離が減少してしまう。そこで特許文献1では、冷媒水熱交換器から排出される凝縮熱を利用して暖房を行い、消費電力を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3477868号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の車両用空調装置は、寒冷地など外気温が非常に低い場合の暖房運転において、外気を導入している。車室内の暖かい内気を利用せずに車室外に排出するのは、暖房効率が悪い。とはいえ、内気循環暖房を行うと車室内の湿度が上昇するので除湿運転が必要となる。除湿能力を高めようとすると電気ヒーターの電力消費量が多くなるため、電気自動車の航続距離が減少してしまう。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、電力消費量を抑えて除湿と暖房とを両立させることができる車両用空調制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明の車両用空調制御装置は、車室内に送られる空気が流れるダクトと、ダクトに設けられる冷媒蒸発器と、冷媒蒸発器に対して冷却された冷媒を供給する空調用冷却流路と、を有する。さらにダクトの冷媒蒸発器よりも下流に設けられるヒーターコアと、ヒーターコアに対して温水を供給するヒーター温水流路と、を有する。そしてヒーター温水流路には、空調用冷却流路を流れる冷媒とヒーター温水流路を流れる温水との間で熱交換させる熱交換器と、ヒーター温水流路の熱交換器よりも下流に設けられ、熱交換器で熱交換された温水をさらに温める電気ヒーターと、が設けられる。また、車載される電気機器の熱を室外熱交換器に通して冷却する電気用冷却流路と、ヒーター温水流路と電気用冷却流路とを、ヒーター温水流路と電気機器とが並列になるように接続する連絡流路と、を有する。そしてヒーター温水流路と前記連絡流路との接続部分に流路切替バルブが設けられる。流路切替バルブは、ヒーター温水流路を流れる温水の温度を検出する水温センサーによって検出された温水の温度が所定温度よりも高い場合には、ヒーター温水流路を流れる温水を前記電気用冷却流路に流入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水冷式熱交換器によって空調用冷却流路を流れる冷媒とヒーター温水流路を流れる温水との間で熱交換が行われる。このためヒーター温水流路の電気ヒーターは、熱交換器で冷媒から受け取れる凝縮熱分の電力消費量を低減することができる。またヒーター温水流路の温水の温度が高い場合は流路切替バルブによって温度を下げる。また熱交換器に流入する冷媒の凝縮温度を高く保つことが可能になるので空調用冷却流路内の冷媒循環量を増やすことができる。これらより除湿能力を確保しながら電気ヒーターの消費電力量を低減して暖房効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の車両用空調制御装置の全体図である。
【図2】熱交換器の構造の一例を示す図である。
【図3】流路切替バルブの作動状態を示す図である。
【図4】外気温とヒーター温水流路および電気用冷却流路の水温との関係図である。
【図5】本発明の車両用空調制御装置の動作について説明するフローチャートである。
【図6】流路切替バルブの開度設定処理について説明するフローチャートである。
【図7】流路切替バルブの開度マップである。
【図8】外気温が−10℃のときの制御を説明するタイムチャートである。
【図9】外気温が20℃のときの制御を説明するタイムチャートである。
【図10】外気温が35℃のときの制御を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の車両用空調制御装置1の全体図である。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。
【0012】
車両用空調制御装置1は、車室内に送られる空気が流れるダクト10と、空気の温度を調節する冷媒が流れる空調用冷却流路20及び温水が流れるヒーター温水流路30と、を備える。さらに車載される電気機器を冷却する冷却水が流れる電気用冷却流路40と、ヒーター温水流路30と電気用冷却流路40とを繋ぐ連絡流路50と、ヒーター温水流路30を流れる温水の温度を制御するヒーターコントローラー100と、を備える。
【0013】
ダクト10は、外気の導入口11a及び内気の導入口11bと、内外気切替ダンパー12と、ブロワー13と、蒸発器25と、エアミックスダンパー14と、ヒーターコア33と、モード切替ダンパー15と、吹出口16と、を備える。
【0014】
外気の導入口11a及び内気の導入口11bは、ダクト10の上流側に設けられ、どちらの空気を取り込むかは内外気切替ダンパー12によって選択される。内外気切替ダンパー12は、回動自在に取り付けられ、図示しないサーボモーター等のアクチュエーターにより駆動される。本実施形態では、内気が導入される。
【0015】
導入された空気は、ブロワー13がその回転速度に応じてダクト10の下流側へと吸引する。ブロワー13は、ダクト10のスクロールケーシング内に設置され、図示しないブロワーモーターによって回転速度が制御される。
【0016】
蒸発器25は、ブロワー13の下流側でダクト10の中間部のクーリングユニットケース内に設置される。蒸発器25の冷媒は、蒸発器25を通過する空気との間で熱交換を行い、空気を冷却するとともに冷媒を蒸発させる。蒸発器25の作用についての詳細は後述する。
【0017】
エアミックスダンパー14は、蒸発器25の下流側にダクト10の中央に回動自在に設けられる。エアミックスダンパー14は、図示しないステッピングモーターやサーボモーター等のアクチュエーターにより駆動される。そしてエアミックスダンパー14は、蒸発器25で冷やされた空気を、ヒーターコア33を通過させるか、または迂回させるか、それぞれの空気量の割合を調節する。暖房運転開始直後は、蒸発器25で冷やされた空気がヒーターコア33を通過するようにエアミックスダンパー14を全開状態にする。
【0018】
ヒーターコア33は、エアミックスダンパー14の下流側でダクト10のヒーターユニットケース内に設置される。ヒーターコア33の温水は、エアミックスダンパー14の調節によってヒーターコア33を通過するように流れてきた空気との間で熱交換を行い、空気を暖める。ヒーターコア33の作用についての詳細は後述する。
【0019】
このように温度を調整された空気は、ダクト10のさらに下流に設けられる吹出口16に流れる。吹出口16は、デフ吹出口16a、センタ・サイドフェイス吹出口16b、及びフット吹出口16cの3口設けられる。吹出口16a〜16cには、それぞれモード切替ダンパー15a〜15cが設けられている。モード切替ダンパー15a〜15cは、回動自在に設けられ、吹出口16a〜16cに流れる空気量を調節する。モード切替ダンパー15a〜15cは、図示しないサーボモーター等のアクチュエーターにより駆動される。
【0020】
空調用冷却流路20は、圧縮機21と、熱交換器22と、レシーバー23と、減圧弁24と、蒸発器25と、を接続する。そして空調用冷却流路20を流れる冷媒は、状態変化しながら流路内を循環する。
【0021】
圧縮機21は、ガス状態(気体)の冷媒を圧縮して高温、高圧の冷媒ガスにして吐出する。圧縮機21は、図示しない電動モーターによって駆動される。圧縮機21は、図示しないインバーターを備えて、インバーターによって電動モーターの回転速度を制御する。これにより圧縮機21が冷媒ガスを吐出する量が変化するので、空調用冷却流路20を流れる冷媒量を調節することができる。すなわち圧縮機21の回転速度によって後述する熱交換器22の加熱能力や蒸発器25の冷房能力が決まる。
【0022】
熱交換器22は、圧縮機21の下流に設けられる。熱交換器22の冷媒入口22aには、圧縮機21から吐出された高温、高圧の冷媒ガスが流れ込む。熱交換器22は、高温、高圧の冷媒ガスを凝縮して液化する。冷媒ガスは等圧冷却される。このとき冷媒ガスの熱は、ヒーター温水流路30を流れる温水を加熱する。ほぼ液化された冷媒は、熱交換器22の冷媒出口22bからレシーバー23に送られる。
【0023】
レシーバー23は、熱交換器22の下流に設けられる。レシーバー22は、冷媒を気液分離して、液冷媒のみを減圧弁24に送る。なお、気液分離器として、アキュームレーターを使用してもよい。この場合はアキュームレーターを減圧弁24と圧縮機21との間に配置する。
【0024】
減圧弁24は、レシーバー23の下流に設けられる。減圧弁24は、膨張弁である。減圧弁24は、液冷媒を減圧により気化して蒸発器25内へ噴射する。このとき液冷媒は、気液二相状態の低温、低圧の冷媒になる。
【0025】
蒸発器25は、上述したようにダクト10に設けられ、蒸発器内部の低温である冷媒と、蒸発器25周りを通る空気とを熱交換させる。冷媒は、空気の熱を奪って蒸発する。そして空気は、熱を奪われるので温度が下がる。またこのとき空気中の水分は、冷えた蒸発器25の表面で凝縮されて水滴となる。このためダクト10を流れる空気は、蒸発器25を通過すると除湿された冷風となる。蒸発器25の冷媒は、圧縮機21へと戻されて再び圧縮される。
【0026】
ヒーター温水流路30は、前述した熱交換器22と、電気ヒーター31と、水温センサー32と、ヒーターコア33と、リザーブタンク34と、ウォーターポンプ35と、流路切替バルブ36と、を接続する。そしてヒーター温水流路30には温水が流れる。温水は温度を変化させながら流路内を循環する。温水には、エチレングリコール水溶液などの不凍液を利用する。
【0027】
熱交換器22は、上述したように空調用冷却流路20を流れる冷媒の熱でヒーター温水流路30を流れる温水を加熱する。熱交換器22の温水入口22cから流れ込んだ温水は、加熱されて温水出口22dから出る。熱交換器22における温水の加熱は、圧縮機21が駆動されて空調用冷却流路20内を冷媒が循環していることを前提とする。
【0028】
ここで、図2を参照して熱交換器22について説明する。図2は、熱交換器22の構造の一例を示す図である。
【0029】
熱交換器22は、空調用冷却流路20と接続される流路220と、ヒーター温水流路30と接続される流路221と、を備える。熱交換器22は、アルミニウム合金等の金属製でプレート式熱交換器である。プレート式熱交換器は、プレス加工された金属板の間にパッキンを挟んで重ね合わせている。また流路220と流路221とは、熱交換器22の内部に並行に設けられる。流路220の冷媒入口22aは、流路221の温水出口22dと隣り合う。また流路220の冷媒出口22bは、流路221の温水入口22cと隣り合う。流路220を流れる冷媒ガスと流路221を流れる温水とは対向流となる。そして冷媒入口22aから流入した高温、高圧の冷媒ガスは、流れに従って徐々にその熱を温水に与える。そして冷媒ガスは凝縮されて冷媒出口22bから流れ出る。冷媒と温水とが対向流となるので、温水入口22cから流入した温水は、流路221を流れる間に加熱されて、最後に、冷媒入口22aから流入した直後でまだ熱を失っていない高温の冷媒にさらに加熱されて温水出口22dから流れ出る。このように熱交換する媒体を対向流にすると熱交換器性能が上がる。
【0030】
図1に戻る。
【0031】
電気ヒーター31は、熱交換器22の下流に設けられる。電気ヒーター31は、必要に応じて熱交換器22で加熱された温水をさらに加熱する。電気ヒーター31は、図示しないヒーターコントローラーにより通電制御され、発熱によって温水を加熱する。
【0032】
水温センサー32は、電気ヒーター31の下流側の近傍に設けられる。水温センサー32は、ヒーター温水流路30を流れる温水の温度を検知する。水温センサー32は、熱交換器22、電気ヒーター31、及びヒーターコア33のいずれかの近傍に、又はいずれかに統合されて設けられる。
【0033】
ヒーターコア33は、上述したようにダクト10内で蒸発器25及びエアミックスダンパー14の下流に設けられる。ヒーターコア33は、ヒーターコア内部の高温に加熱された温水と、ヒーターコア33周りを通る空気とを熱交換させる。このとき空気は蒸発器25によって冷やされた低温の空気であるので、温水は空気に熱を奪われる。そして空気の温度は上昇して、温水は低温となる。加熱されて暖風となった空気は、エアミックスダンパー14の調整によってヒーターコア33を通らなかった空気と混合されて、さらに下流の吹出口16から車室内へと送られる。ヒーターコア33で放熱して低温となった温水は、ヒーターコア33からリザーブタンク34に向かって流れ出る。
【0034】
リザーブタンク34は、ヒーターコア33とウォーターポンプ35との間に設けられる。リザーブタンク34は、ヒーター温水流路30に流入した空気と液体とを分離する気液分離器である。このためリザーブタンク34は、液面がヒーター温水流路30において最上部になるように設けられる。リザーブタンク34には分離された空気が溜まり、液体のみがヒーター温水流路30に戻される。
【0035】
ウォーターポンプ35は、リザーブタンク34の下流に設けられる。ウォーターポンプ35は、リザーブタンク34から流れてきた温水を再び熱交換器22に流して、ヒーター温水流路30内の温水を循環させる。ウォーターポンプ35は、図示していないが、内部にインペラが取り付けられ、モーターによって駆動される。
【0036】
流路切替バルブ36は、ウォーターポンプ35の下流に設けられる。流路切替バルブ36は、三方弁である。流路切替バルブ36は、ヒーター温水流路30のウォーターポンプ35側から温水が流れ込む流入口36aと、ヒーター温水流路30の下流側に温水が流れ出る流出口36bと、後述する連絡流路50aに温水が流れ出る流出口36cと、を有する。流路切替バルブ36は、PWN信号(パルス幅変調信号)により駆動され、そのデューティー比によって開度が設定される。
【0037】
ここで図3を参照して、流路切替バルブ36について説明する。図3は、流路切替バルブの作動状態を示す図である。
【0038】
図3(A)は、流路切替バルブが全開の状態である。このときヒーター温水流路30uの温水は、下流のヒーター温水流路30lには流れずに、全て流路切替バルブ36から連絡流路50aに流れる。そして温水は、連絡流路50aを介して後述する電気用冷却流路40に流れる。
【0039】
図3(B)は、流路切替バルブが全閉の状態である。このときヒーター温水流路30uの温水は、そのまま下流のヒーター温水流路30lに流れて、連絡流路50aには流れない。すなわちヒーター温水流路30と、電気用冷却流路40とは、それぞれ独立した循環流路となる。
【0040】
図3(C)は、流路切替バルブが開度70%で開弁している状態である。ヒーター温水流路30uの温水は、連絡流路50aと、下流のヒーター温水流路30lと、に分配されて流れる。
【0041】
このように流路切替バルブ36を開閉することで、ヒーター温水流路30から電気用冷却流路40に流れる温水の量を調整することができる。流路切替バルブ36の開度制御については後述する。
【0042】
再び図1に戻る。
【0043】
電気用冷却流路40は、電気機器41と、ラジエーター42と、水温センサー43と、リザーブタンク44と、ウォーターポンプ45と、を接続する。そして電気用冷却流路40には冷却水が流れて、冷却水は温度を変化させながら流路内を循環する。冷却水には、エチレングリコール水溶液などの不凍液を利用する。
【0044】
電気機器41とは、例えば、車両を駆動するモーター、インバーター、強電バッテリ、DC/DCコンバーター、充電器である。電気機器41は、通電に伴って発熱する。電気機器41は、熱による性能低下や故障を防止するために、冷却水で冷却される。
【0045】
ラジエーター42は、電気機器41の下流に設けられる。ラジエーター42は、車両の走行風を受けやすい場所、例えばフロントエンドに設置される。ラジエーター42は、冷却水が運んでくる電気機器41の熱と、走行風や冷却ファン42aによる冷却風と、を熱交換させる。ここで電気機器41の熱により高温となった冷却水は、冷やされて所定温度以下となる。
【0046】
冷却ファン42aは、ラジエーター42に取り付けられる。車両が走行中であればラジエーター42は、走行風によって冷却されるが、車両が渋滞中のときなど外気だけではラジエーター42の冷却が不十分となる場合ある。このようなときに冷却ファン42aは、図示しないモーターによって駆動され、ラジエーター42を通る空気量を増やして冷却する。
【0047】
水温センサー43は、ラジエーター42の出口側に設けられる。水温センサー43は、ラジエーター42から電気機器41に流れる冷却水の温度を検知する。水温センサー43で検知された冷却水の温度が所定温度以上である場合に、上述した冷却ファン42aが駆動される。
【0048】
リザーブタンク44は、ラジエーター42の下流に設けられる。リザーブタンク44は、電気用冷却水流路40に流入した空気と液体とを分離する気液分離器である。このためリザーブタンク44は、液面が電気用冷却流路40において最上部になるように設けられる。リザーブタンク44には分離された空気が溜まり、液体のみが電気用冷却流路40に戻される。リザーブタンク44は、上述したヒーター温水流路30に設けられるリザーブタンク34と一体にしてもよい。
【0049】
ウォーターポンプ45は、リザーブタンク44の下流に設けられる。ウォーターポンプ45は、リザーブタンク44から流れてきた冷却水を再び電気機器41n流して、電気用冷却流路40内の冷却水を循環させる。ウォーターポンプ45は、図示していないが、内部にインペラが取り付けられ、モーターによって駆動される。
【0050】
連絡流路50は、ヒーター温水流路30と電気用冷却流路40との間に設けられ、両流路を繋ぐ。連絡流路50は、流路50a及び流路50の2流路である。連絡流路50aは、一端がヒーター温水流路40の流路切替バルブ36の流出口50cと接続され、他端が電気用冷却流路40の電気機器41とラジエーター42との間に接続される。連絡流路50bは、一端がヒーター温水流路40の流路切替バルブ36と熱交換器22との間に接続され、他端が電気用冷却流路40のラジエーター42とリザーブタンク44との間に接続される。連絡流路50aには、流路切替バルブ36が開いたときにヒーター温水流路30の温水が流入する。そして流入した温水は電気用冷却流路40の冷却水と混ざり合ってラジエーター42を通って連絡流路50bからヒーター温水流路30に戻る。このとき連絡流路50bを流れる温水は、連絡流路50aを流れる温水よりも温度が低くなる。
【0051】
ヒーターコントローラー100は、ヒーター温水流路30を流れる温水の温度を制御するために、電気ヒーター31及び流路切替バルブ36を制御する。ヒーターコントローラー100は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。ヒーターコントローラー100を複数のマイクロコンピューターで構成してもよい。
【0052】
次に図4を参照して、本発明の車両用空調制御装置1の作用を説明する。図4は、外気温とヒーター温水流路及び電気用冷却流路の水温との関係図である。
【0053】
本発明の車両用空調制御装置1は、電気ヒーター31及び流路切替バルブ36を制御して、ヒーター温水流路30を流れる温水の温度を、吹出温度から設定される目標温度に保つことで、電気ヒーター31の消費電力量を抑えつつ、車室内の快適性を得ている。
【0054】
ここで横軸は外気温である。外気温は、図示しないが、ラジエーター42の前方に外気温センサーが設けられ、その検出値である。縦軸は、ヒーター温水流路30を流れる温水の水温(以下、ヒーター水温)及び電気用冷却流路40を流れる冷却水の水温(以下、電気用冷却水温)である。ヒーター水温及び電気用冷却水温は、各流路に設けられる水温センサー32,43によって検出された値である。
【0055】
まず車両が始動した直後は、ヒーター水温は外気温に等しい。図中領域Dの下値ラインにおいて、外気温と水温とが等しい。そしてヒーター水温は、領域Aにおいて電気ヒーター31や熱交換器22で発生した熱によって上昇する。車両が始動した直後で安定走行状態になっていないときは車室内の温度も安定していない。この間のヒーター水温の目標温度は領域Bの値に設定される。このときのヒーター水温の目標温度を初期ヒーター目標水温とし、一例を図中の点線で示す。そして、車室内の温度が安定してきたら、ヒーター水温の目標温度は領域Cの値に設定される。このときのヒーター水温の目標温度を安定ヒーター目標水温とし、一例を図中の点線で示す。また、電気用冷却水温も、車両が始動した直後は外気温と等しく、その後目標温度は領域Dの値に設定される。電気用冷却水温は、電気機器41から発生する発熱量とラジエーター42を通過する風速とに基づいて、領域Dに収まるように制御される。領域Dは、下値ライン(すなわち外気温)から最大20度の幅で、電気機器41を冷却する水温の許容水温ラインを上回らない。
【0056】
ヒーター水温は、ヒーターコア33からの放熱量と熱交換器22及び電気ヒーター31の発熱量とが等しいときに安定する。このときヒーター温水流路30と電気用冷却流路40とは、それぞれが独立した流路とすることができる。またヒーターコア33からの放熱量が熱交換器22及び電気ヒーター31の発熱量よりも大きいときは、電気ヒーター31の発熱量を調整すればよいので、この場合もヒーター温水流路30と電気用冷却流路40とは独立する。しかし、圧縮機21の回転数が増えて熱交換器22の発熱量がヒーターコア33からの放熱量よりも大きくなるときは、ヒーター水温が上昇し続ける。このようなときに、流路切替バルブ36を開弁してヒーター温水流路30と電気用冷却流路40とを一体にする。ヒーター水温よりも温度が低い電気用冷却水がヒーター温水流路30に流入することになるので、上昇するヒーター水温を下げることができる。しかし電気用冷却水を多量にヒーター温水流路30に流入させると、ヒーター水温は目標水温より大きく下がってしまう。これでは、車室内の快適性が悪化するだけでなく、ヒーター水温を再び上昇させるために電気ヒーター31を出力させることになり消費電力量が増大してしまう。特に外気温が低い場合は、ヒーター水温(領域B、C)と電気用冷却水温(領域D)との差が大きいので、影響が大きくなる。そこで流路切替バルブ36の開度は、ヒーター水温と電気用冷却水温との水温差を考慮して設定される。
【0057】
続いて本実施形態の車両用空調制御装置1の具体的な制御ロジックについてフローチャートに沿って説明する。図5は、本発明の車両用空調制御装置の動作について説明するフローチャートである。なお車両用空調制御装置1は、この処理を微少時間(たとえば10ミリ秒)サイクルで繰り返し実行する。
【0058】
ステップS1において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター要求があるか否かを判定する。ヒーター要求とは、乗員がファンスイッチをONにしたか否かである。ヒーター要求がある場合は、ヒーターコントローラー100はステップ2に処理を移行する。ヒーター要求がない場合は、ヒーターコントローラー100は処理を抜ける。
【0059】
ステップS2において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の目標水温Twtを算出する。目標水温Twtは、目標吹出温度ToにΔTw1を足し合わせて算出される。目標吹出温度Toは、車内の空調吹出口の目標温度である。目標吹出温度Toは、図示しない複数のセンサー(外気温センサー、車室内温度センサー、蒸発器25の出口温度センサー、日射センサー)の検出値及び乗員の設定する温度設定値などから決定される。吹出温度は、蒸発器25を通過した空気と、ヒーターコア33を通過した空気とが混合されて決まる。このとき、ヒーターコア33に流れる温水の温度を目標吹出温度ToよりもΔTw1だけ高くすることで、実際の吹出温度が目標吹出温度Toになる。本実施形態においてΔTw1は、5℃程度にすることが望ましい。
【0060】
ステップS3において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の目標水温Twtが所定温度Txよりも高いか否かを判定する。所定温度Txは、固定値であり上限値である。前述した目標吹出温度Toは様々なパラメータによって算出されるので、異常に高い値が算出されることもある。電気ヒーターの消費電力量を抑えつつ、車室内の快適性を維持するためにも、所定温度Txは、60〜70℃程度であることが望ましい。ヒーター水温の目標水温Twが所定温度Txよりも高い場合は、ヒーターコントローラー100はステップS4に処理を移行する。ヒーター水温の目標水温Twが所定温度Tx以下の場合は、ヒーターコントローラー100はステップS5に処理を移行する。
【0061】
ステップS4において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の目標水温Twtを所定温度Txに設定する。
【0062】
ステップS5において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の目標水温Twtが外気温Tよりも低く、かつ実際のヒーター水温Twよりも低いか否かを判定する。前述条件を満たす場合は、ヒーターコントローラー100はステップS6に処理を移行する。条件を満たさない場合は、ヒーターコントローラー100はステップS8に処理を移行する。
【0063】
ステップS6において、ヒーターコントローラー100は、電気ヒーター31をOFFとする。
【0064】
ステップS7において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度設定処理を実行する。詳細については後述する。
【0065】
ステップS8において、ヒーターコントローラー100は、圧縮機21がONとなっているか否かを判定する。圧縮機21は、乗員によってエアコンスイッチがONにされて車室内温度と吹出温度との差がある場合や、暖房において除湿が必要である場合などに駆動される。圧縮機21がONである場合は、ヒーターコントローラー100はステップS9に処理を移行する。圧縮機21がOFFである場合は、ヒーターコントローラー100はステップS10に処理を移行する。
【0066】
ステップS9において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の許容範囲を設定する係数aを−7とし、係数bを−2とする。ヒーター水温の許容範囲は、目標水温Twに対して電気ヒーター31をON/OFFする閾値からなる。この範囲にヒーター水温が保たれるように電気ヒーター31は制御される。
【0067】
ステップS10において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温の許容範囲を設定する係数aを−2とし、係数bを3とする。
【0068】
ステップS11において、ヒーターコントローラー100は、電気ヒーター31によって維持されるヒーター水温の範囲を設定する。ヒーター水温の下限温度を目標水温Twに係数aを足した値とし、上限温度を目標水温Twに係数bを足した値とする。電気ヒーター31は、ヒーター水温が下限温度Tw+aを下回るとONになり、上限温度Tw+bを上回るとOFFになる。これら係数a,bは、実験により室内温度を安定して維持することができるヒーター水温の範囲が求められて算出される。圧縮機21が作動している場合は、電気ヒーター31だけでなく熱交換器22においても加熱されるので、電気ヒーター31により維持される温度領域は下がる。
【0069】
ステップS12において、ヒーターコントローラー100は、実際のヒーター水温Twが上限温度Tw+bよりも高いか否かを判定する。実際のヒーター水温が上限温度よりも高い場合は、ヒーターコントローラー100はステップS13に処理を移行する。実際のヒーター水温が上限温度以下である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS15に処理を移行する。
【0070】
ステップS13において、ヒーターコントローラー100は、電気ヒーター31をOFFとする。
【0071】
ステップS14において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度設定処理を実行する。
【0072】
ステップS15において、ヒーターコントローラー100は、実際のヒーター水温Twが下限温度Tw+aよりも高いか否かを判定する。実際のヒーター水温が下限温度よりも高い場合は、ヒーターコントローラー100はステップS16に処理を移行する。実際のヒーター水温が下限温度以下である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS19に処理を移行する。
【0073】
ステップS16において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温Twが下降中であるか否かを判定する。ヒーター水温Twが下降中である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS17に処理を移行する。ヒーター水温Twが上昇中である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS19に処理を移行する。ここでヒーター水温Twが下降中か否かではなく、電気ヒーター31がOFFか否かを判定してもよい。
【0074】
ステップS17において、ヒーターコントローラー100は、電気ヒーター31をOFFとする。
【0075】
ステップS18において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度設定処理を実行する。
【0076】
ステップS19において、ヒーターコントローラー100は、電気ヒーター31をONとする。
【0077】
ステップS20において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36を全閉とする。
【0078】
次に図6を参照して、上述したステップS7、S14、S18における流路切替バルブ36のバルブ開度設定処理について説明する。図6は、流路切替バルブの開度設定処理について説明するフローチャートである。
【0079】
ステップS100において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温のバルブ許容範囲を設定する。ヒーター水温のバルブ許容範囲は、目標水温Twtを下限温度とし、目標水温TwtにΔTw2を足し合わせた温度を上限温度とする。バルブ許容範囲は、流路切替バルブ36によって維持されるヒーター水温の範囲である。流路切替バルブ36は、ヒーター水温が上限温度Twt+ΔTw2を超えたら開弁し、下限温度Twtに戻ったら閉弁する。本実施形態において、ΔTw2は3℃程度とすることが望ましい。
【0080】
ステップS101において、ヒーターコントローラー100は、実際のヒーター水温Twが上限温度Twt+ΔTw2よりも高いか否かを判定する。実際のヒーター水温が上限温度よりも高い場合は、ヒーターコントローラー100はステップS102に処理を移行する。実際のヒーター水温が上限温度以下である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS103に処理を移行する。
【0081】
ステップS102において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度をマップから設定する。詳細は後述する。
【0082】
ステップS103において、ヒーターコントローラー100は、実際のヒーター水温Twが下限温度Twtよりも高いか否かを判定する。実際のヒーター水温が下限温度よりも高い場合は、ヒーターコントローラー100はステップS104に処理を移行する。実際のヒーター水温が下限温度以下である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS107に処理を移行する。
【0083】
ステップS104において、ヒーターコントローラー100は、ヒーター水温Twが下降中であるか否かを判定する。ヒーター水温Twが下降中である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS105に処理を移行する。ヒーター水温Twが上昇中である場合は、ヒーターコントローラー100はステップS106に処理を移行する。ここでヒーター水温Twが下降中か否かではなく、電気ヒーター31がOFFか否かを判定してもよい。
【0084】
ステップS105において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度をマップから設定する。
【0085】
ステップS106において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度をゼロに設定する。ヒーター温水流路30を流れる温水は、電気用冷却流路40に流れない。すなわちヒーター温水流路30と、電気用冷却流路40とは、独立した流路となる。
【0086】
ステップS107において、ヒーターコントローラー100は、流路切替バルブ36の開度をゼロに設定する。
【0087】
ここで図7を参照して、ステップS102及びS105で用いられる流路切替バルブ36の開度マップについて説明する。図7は、流路切替バルブの開度マップである。
【0088】
横軸は、ヒーター水温Twから電気用冷却水温Thを引いた水温差である。縦軸は、流路切替バルブ36のデューティー比である。流路切替バルブ36は、ヒーター温水流路30から電気用冷却流路40にヒーター温水が流れず、両流路がそれぞれ独立しているときを開度ゼロとする。流路切替バルブ36のデューティー比は、ヒーター温水流路30から電気用冷却流路40にヒーター温水を流す分配の比であり、バルブ開度に相当する。
【0089】
ヒーター水温Twと電気用冷却水温Thとの水温差が小さければ、バルブ開度を100%にして電気用冷却水をヒーター温水流路30に流入させても急にヒーター温水の温度が下がることはない。水温差が大きくなるほどバルブ開度を小さくして電気用冷却水を少しずつヒーター温水流路30に流入させることで、急なヒーター温水の水温低下を防止する。水温差が所定値H2以上の場合は、バルブ開度をゼロとし、水温差が所定値H1以下の場合は、バルブ開度を100%とする。このように水温差に応じて流路切替バルブ36の開度を調整することで、急に低下したヒーター水温を再び電気ヒーター31で上昇させるといった無駄な電気ヒーターの使用を防止する。
【0090】
図8〜図10を参照して、外気温が異なる場合における本実施形態の車両用空調制御装置1の制御について説明する。フローチャートとの対応を明確にするため、フローチャートのステップ番号を併記して説明する。
【0091】
図8は、外気温が−10℃のときの制御を説明するタイムチャートである。ヒーター水温の目標水温などを具体的に数字で表すが、これに限定されるものではなく、一例である。
【0092】
時刻t0で、乗員から暖房を要求される(S1でYes)。このときヒーター水温及び電気用冷却水温は外気温と同じく−10℃である。ここでヒーター水温の初期目標水温は70℃に設定される(S2→S3)。また目標水温は外気温よりも高く(S5でNo)、圧縮機21は作動していないので(図8(C),S8でNo)、ヒーター水温の許容範囲は68℃〜73℃となる(図8(A),S10→S11)。ここでヒーター水温は外気温と同じく−10℃なので(図8(A),S12→S15でNo)、電気ヒーター31はON状態になってヒーター温水流路30の温水を加熱する(図8(B),S19)。電気ヒーター31がON状態のとき流路切替バルブ36は閉弁状態に設定されるので(図8(D),S20)、ヒーター温水流路30の温水のみが上昇し、電気用冷却流路40の冷却水はほとんど上昇しない(図8(A))。時刻t1まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S19→S20の処理を繰り返す。
【0093】
時刻t1で、ヒーター水温が許容範囲の下限温度68℃を超える(図8(A),S12→S15でYes)。ヒーター水温は上昇中なので(図8(A),S16でNo)、電気ヒーター31は引き続きON状態で、ヒーター温水流路30の温水を加熱する(図8(B)(D),S19→S20)。時刻t2まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S16→S19→S20の処理を繰り返す。
【0094】
時刻t2で、ヒーター水温が目標水温70℃を超える(図8(A),S12→S15でYes)。時刻t1〜時刻t2と同様に、電気ヒーター31はON状態で、ヒーター水温は上昇中である(図8(A(B),S15→S16でNo→S19)。そして流路切替バルブ36は閉弁状態である(S20)。時刻t3まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S16→S19→S20の処理を繰り返す。
【0095】
時刻t3で、ヒーター水温が許容範囲の上限温度73℃を超える(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFF状態になってヒーター温水流路30の温水の加熱を止める(図8(B),S13)。そして高くなりすぎたヒーター水温を下げるために流路切替バルブ36のバルブ開度を設定する。ここではヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が大きいので、流路切替バルブ36のバルブ開度は0%、すなわち閉弁状態に設定される(図8(D),S14)。時刻t4まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S102)の処理を繰り返す。
【0096】
ここでヒーター水温のバルブ許容範囲は、図6においてΔTw2を3℃として、70℃〜73℃に設定される(図8(A),S100)。時刻t3でヒーター水温が73℃を超えたので(図8(A)S101でYes)、図7のマップから流路切替バルブ36の開度が設定される(S102)。また図7における水温差H2は50℃とする。ヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が50℃以上ある場合に、流路切替バルブ36を開弁すると、ヒーター水温の急激な低下を招くことになる。そこで水温差が50℃以上の場合は、流路切替バルブ36を作動させずに閉弁状態に設定する。
【0097】
時刻t4で、ヒーター水温は許容範囲の上限温度73℃を下回る(図8(A),S12→S15でYes,S101→S103でYes)。このとき電気ヒーター31はOFF状態で、ヒーター水温は徐々に低下している状態、すなわち下降中である(S16でYes)。電気ヒーター31は引き続きOFF状態であり、水温差が大きく、ヒーター水温は下降中なので流路切替バルブ36も引き続き閉弁状態に設定される(図8(B)(D),S17→S18)。時刻t5まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S16→S17→S18(S100→S101→S103→S104→S105)の処理を繰り返す。
【0098】
時刻t5で、ヒーター水温はヒーター目標水温、すなわちバルブ許容範囲の下限温度70℃を下回る(図8(A),S101→S103でNo)。ヒーター水温は目標水温に達して、これ以上下げる必要がないので、流路切替バルブ36は閉弁状態に設定される(図8(D),S107)。時刻t6まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S16→S17→S18(S100→S101→S103→S107)の処理を繰り返す。
【0099】
時刻t6で、ヒーター水温は許容範囲の下限温度68℃を下回る(図8(A),S12→S15でNo)。そこで電気ヒーター31をON状態にしてヒーター水温を上昇させる(図8(B),S19)。電気ヒーター31がONのときは、作用が背反するので流路切替バルブ36は閉弁状態に設定される(図8(D),S20)。時刻t7まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S10→S11→S12→S15→S19→S20の処理を繰り返す。
【0100】
時刻t7で、ヒーター水温が許容範囲の下限温度68℃を超える(図8(A),S15でYes)。時刻t7は時刻t1のときと同様の状態であり、これ以降時刻t1〜時刻t7におけるヒーター水温の温度変化を繰り返す。
【0101】
次に車室内の温度が安定した状態での制御について説明する。ここでヒーター水温の安定目標水温は65℃に設定される(S2→S3→S5でNo)。このとき内気循環暖房により車室内の湿度が上がってきているので、除湿が行われる。すなわち圧縮機21が作動される(図8(C),S8でYes)。圧縮機21が作動される場合は、熱交換器22において、空調用冷却流路20を流れる高温、高圧の冷媒ガスの凝縮熱によってヒーター温水流路30の温水が加熱される。この加熱分を考慮して電気ヒーター31によって維持されるヒーター水温の温度領域は下げられる。ヒーター水温の許容範囲は58℃〜63℃に設定される(図8(A),S9→S11)。また流路切替バルブ36のバルブ許容範囲は、65℃〜68℃に設定される(図8(A),S100)。
【0102】
時刻t10で、ヒーター水温は下限温度58℃を下回る(図8(A),S12→S15でNo)。そして電気ヒーター31がONとなる(図8(B),S19)。このとき流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(D),S20)。時刻t11まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S15→S19→S20の処理を繰り返す。
【0103】
時刻t11で、ヒーター水温は下限温度58℃を超える(図8(A),S12→S15でYes)。電気ヒーター31はONとなっていて、ヒーター水温は上昇中である(図8(A)(B),S16でNo→S19)。このとき流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(D),S20)。時刻t12まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S15→S16→S19→S20の処理を繰り返す。
【0104】
時刻t12で、ヒーター水温は上限温度63℃を超える(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFFとなる(図8(B),S13)。ヒーター水温はバルブ許容範囲の下限温度65℃には達しておらず、流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(D),S14,S101→S103→S107)。時刻t13まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S103→S107)の処理を繰り返す。
【0105】
時刻t13で、ヒーター水温は、目標水温(バルブ許容範囲の下限温度)65℃を超えて上昇する(図8(A),S12でYes)。引き続き電気ヒーター31はOFF、かつ流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(B)(D),S13→S14,S101→S103→S104→S106)。時刻t14まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S103→S104→S106)の処理を繰り返す。
【0106】
時刻t14で、ヒーター水温は、バルブ許容範囲の上限温度68℃を超える(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFFである(図8(B),S13)。流路切替バルブ36はマップから開度が設定されるが、ヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が大きいので閉弁状態である(図8(D),S14,S101→S102)。時刻t15まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S102)の処理を繰り返す。
【0107】
時刻t15で、ヒーター水温は、バルブ許容範囲の上限温度68℃を下回る(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFFである(図8(B),S13)。流路切替バルブ36はマップから開度が設定されるが、ヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が大きいので閉弁状態である(図8(D),S14,S101→S103→S104→S105)。時刻t16まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S103→S104→S105)の処理を繰り返す。
【0108】
時刻t16で、ヒーター水温は、目標水温(バルブ許容範囲の下限温度)65℃を下回って下降する(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFFである(図8(B),S13)。流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(D),S14,S101→S103→S107)。時刻t17まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14(S100→S101→S103→S107)の処理を繰り返す。
【0109】
時刻t17で、ヒーター水温は、許容範囲の上限温度63℃を下回って下降する(図8(A),S12→S15→S16でYes)。電気ヒーター31はOFFである(図8(B),S17)。流路切替バルブ36は、マップから開度が設定されるが、ヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が大きいので閉弁状態である(図8(D),S18,S101→S103→S104→S105)。時刻t18まで車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S15→S16→S17→S18(S100→S101→S103→S104→S105)の処理を繰り返す。
【0110】
時刻t18で、ヒーター水温は、再び63℃を上回る(図8(A),S12でYes)。電気ヒーター31はOFFである(図8(B),S13)。流路切替バルブ36は閉弁状態である(図8(D),S14,S101→S103→S107)。時刻t18は時刻t12と同様の状態であり、これ以降時刻t12〜時刻t18におけるヒーター水温の変化を繰り返す。
【0111】
外気温が−10℃の場合では、電気用冷却水温がヒーター水温と比べてかなり低い領域で推移する。上述の説明では、流路切替バルブ36のバルブ開度設定処理(S7,S14,S18)において水温差が50℃以上あることから閉弁状態にするように設定したが、バルブ開度を小さく調整して電気用冷却流路40からの流入する流量を絞ることによってヒーター水温を下げることも可能である。
【0112】
図9は、外気温が20℃のときの制御を説明するタイムチャートである。
【0113】
ヒーター水温の初期目標水温は43℃で、安定目標水温は30℃に設定される。外気温−10℃の場合と目標水温が異なるが、起動初期における制御フローは同じである。また水温変動期及び安定除湿期においても外気温−10℃の場合の安定除湿期と同様の制御フローとなるが、外気温が20℃の場合は、流路切替バルブ36のバルブ開度設定処理(S7,S14,S18)において、流路切替バルブ36を開弁してヒーター水温を維持する(図9(A)(D))。水温変動期及び安定除湿期では圧縮機21が作動しており、回転速度が上昇するとヒーター水温も上昇する(図9(C))。
【0114】
水温変動期において時刻t1で、ヒーター水温は、バルブ許容範囲の上限温度46℃を超える(図9(A))。このとき車両用空調制御装置1は、S1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14と処理を進み、バルブ開度設定処理でS100→S101→S102と処理を進む。そしてバルブ開度を図7のマップから設定する。外気温20℃の場合は電気用冷却水温も20℃から上昇し始めて水温変動期には28℃程度になっている(図9(A))。外気温−10℃の場合のようにヒーター水温と電気用冷却水温との水温差が大きくないので、ここではバルブ開度を20%として電気用冷却流路40の冷却水をヒーター温水流路30に流れるようにしてヒーター水温を下げる(図9(D))。そして時刻t2で、ヒーター水温は目標水温、すなわちバルブ許容範囲の下限温度43℃に達するので、バルブ開度をゼロに戻す(図9(A)(D))。
【0115】
また安定除湿期において時刻t3で、ヒーター水温は、バルブ許容範囲の上限温度33℃を超える(図9(A))。このとき車両量空調制御装置1は、時刻t1のときと同様にS1→S2→S3→S5→S8→S9→S11→S12→S13→S14と処理を進み、バルブ開度設定処理でS100→S101→S102と処理を進む。このときのヒーター水温と電気用冷却水温との水温差は水温変動期からさらに小さくなっている(図9(A))。そこでバルブ開度を40%として電気用冷却流路40の冷却水をヒーター温水流路30に流れるようにしてヒーター水温を下げる(図9(D))。そして時刻t4で、ヒーター水温は目標水温、すなわちバルブ許容範囲の下限温度30℃に達するので、バルブ開度をゼロに戻す(図9(A)(D))。
【0116】
図10は、外気温が35℃のときの制御を説明するタイムチャートである。
【0117】
ヒーター水温の初期目標水温は7℃で、安定目標水温は24℃に設定される。このとき初期目標水温及び安定目標水温は外気温35℃よりも低い。さらにヒーター水温は外気温と同じ35℃からスタートするので、初期目標水温及び安定目標水温はヒーター水温よりも低い(図10(A),S1→S2→S3→S5でYes)。よってヒーター水温を上昇させる必要がないので、電気ヒーター31はOFFにする(図10(B),S6)。この制御は18℃など低温度設定の暖房を想定している。よって圧縮機21は起動初期に最大回転速度で作動して車室内への空気を冷却し、安定したらほぼ半分の回転速度で作動する(図10(C))。またヒーター水温と電気用冷却水温との水温差もほとんどなく、ヒーター温水流路30の熱交換器22での発熱をラジエーター42で放熱する必要があるので、流路切替バルブ36は常に全開状態とする(図10(D),S7,S100→S101→S102)。
【0118】
本実施形態によれば、空調用冷却流路とヒーター温水流路との間で熱交換する水冷式熱交換器が設けられる。内気循環暖房により除湿する場合は、空調用冷却流路の圧縮機が駆動され、そこで高温、高圧となった冷媒ガスが熱交換器に流れ込み、ヒーター温水流路の温水を加熱する。このためヒーター温水流路の電気ヒーターは、外気ではなく内気を利用することによる電力消費量の差分だけでなく、熱交換器で受け取れる凝縮熱分の電力消費量も低減することができる。
【0119】
また電気ヒーターは、熱交換器での水温上昇分を考慮して、電気ヒーターによるヒーター水温の上昇を必要最低限に調整する。このため熱交換器で熱交換されるときにヒーター水温が高すぎて熱交換が不十分になる、すなわち除湿能力の低下を招くことがない。必要な除湿能力を維持しながら、電力消費量を低減した暖房を実施することができる。
【0120】
また空調用冷却流路を流れる冷媒は、熱交換器において凝縮温度を高く保つことができるので、流路内の冷媒循環量を確保でき、燃焼ヒーターによる補助がなくても低外気温での暖房性能を確保することができる。
【0121】
そしてヒーター水温が必要以上に高くなった場合は、流路切替バルブを開弁して電気用冷却流路の冷却水をヒーター温水流路に流してヒーター水温を下げる。流路切替バルブは、両流路の水温差を考慮してバルブ開度を調整するので、ヒーター水温が急に低下するようなことがない。急に低下したヒーター水温を再び電気ヒーターで上昇させるといった無駄な電気ヒーターの使用を防止できる。電気ヒーターの使用を必要最低限に抑えるので、電力消費量を低減することができる。
【0122】
また電気用冷却流路の電気機器は、ヒーター温水流路と並列になるように配置されている。このため低外気温時や車両ヒーター温水流路の熱が電気機器を暖めてしまって無駄に電力消費量を増やすことがない。電気ヒーターの電力消費量を必要最低限に抑えることができる。
【0123】
また流路切替バルブが開弁されるのは、ヒーターコアからの放熱量よりも熱交換器の発熱量が大きくなってヒーター水温が高くなりすぎた場合である。このとき熱交換器の余分な熱は、電気用冷却流路のラジエーターから排出されることとなる。よって空調冷却用に室外熱交換器を別途設ける必要がない。これにより車両のフロントエンドにはラジエーターのみが配置され、他の室外熱交換器が排出する熱によってラジエーターの性能が悪化することがない。
【0124】
さらに外気温が高いときは、ヒーター温水流路の温水よりも電気用冷却流路の冷却水の方が温度が高くなる場合がある。このとき流路切替バルブは全開となり、熱交換器の発熱はラジエーターから放熱される。このためラジエーターの容量は、電気機器の最大発熱量と熱交換器の最大発熱量とを考慮して設計されるのが一般的である。しかし、本実施形態では電気機器とヒーター温水流路とが並列に配置されているので、直列の場合よりも電力量が小さくなる。また電気機器の発熱量が最大となるのは、車両が最高速度で走行しているときである。一方、熱交換器の発熱量が最大となるのは、外気温が高いときに冷房をフルクールにしたときで、車両が走行し始めて2,3分がピークとなり、タイミングが異なる。このため本実施形態のラジエーターは小型化を図ることが可能である。
【0125】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。例えば、ヒーター温水流路から電気用冷却流路に流れる温水の流量は、流路切替バルブの開度だけによらず、各流路に設けられるウォーターポンプによる流量調整を加味することも可能である。流路切替バルブやウォーターポンプも電力で動かされるので、電力消費量の合計が小さくなるように流量を調整すれば、空調にかかる電力消費量をさらに低減することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 車両用空調制御装置
10 ダクト
20 空調用冷却流路
22 熱交換器
25 蒸発器
30 ヒーター温水流路
31 電気ヒーター
32 水温センサー
33 ヒーターコア
36 流路切替バルブ
40 電気用冷却流路
41 電気機器
42 ラジエーター(室外熱交換器)
35,45 ウォーターポンプ
100 ヒーターコントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に送られる空気が流れるダクトと、
前記ダクトに設けられる冷媒蒸発器と、
前記冷媒蒸発器に対して冷却された冷媒を供給する空調用冷却流路と、
前記ダクトの前記冷媒蒸発器よりも下流に設けられるヒーターコアと、
前記ヒーターコアに対して温水を供給するヒーター温水流路と、
前記空調用冷却流路を流れる冷媒と前記ヒーター温水流路を流れる温水との間で熱交換させる熱交換器と、
前記ヒーター温水流路の前記熱交換器よりも下流に設けられ、熱交換器で熱交換された温水をさらに温める電気ヒーターと、
車載される電気機器の熱を室外熱交換器に通して冷却する電気用冷却流路と、
前記ヒーター温水流路と前記電気用冷却流路とを、前記ヒーター温水流路と前記電気機器とが並列になるように接続する連絡流路と、
前記ヒーター温水流路を流れる温水の温度を検出する水温センサーと、
前記ヒーター温水流路と前記連絡流路との接続部分に設けられ、前記水温センサーによって検出された温水の温度が所定温度よりも高い場合には、前記ヒーター温水流路を流れる温水を前記電気用冷却流路に流入させる流路切替バルブと、
を備える車両用空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調制御装置において、
前記ヒーター温水流路から前記電気用冷却流路に流れる温水の流量は、前記流路切替バルブの開度によって調整される、
ことを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用空調制御装置において、
前記ヒーター温水流路と前記電気用冷却流路とは、それぞれウォーターポンプを備え、
前記ヒーター温水流路から前記電気用冷却流路に流れる温水の流量は、前記ウォーターポンプ及び前記流路切替バルブの消費電力の合計が小さくなるように調整される、
ことを特徴とする車両用空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1072(P2012−1072A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137027(P2010−137027)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】