説明

車両用自動高さ調整弁

【課題】車両用自動高さ調整弁において、新しい概念で、車高値に応じて、給気量の変化あるいは排気量の変化をきめ細かく設定できるようにすることである。
【解決手段】車両用自動高さ調整弁40は、X方向に沿って、+X方向から−X方向に向かって、給気開閉弁60、スプール・スリーブ機構78、変位センサ120が配置され、また、スプール・スリーブ機構78とリンク機構24との間に操作部44が設けられ、スプール・スリーブ機構78を挟んで操作部44と反対側にレゾルバ140が設けられる複合弁である。スプール・スリーブ機構78は、中立位置においてスプール80の中央ランド部がスリーブ90の負荷ポートを覆うように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動高さ調整弁に係り、特に、車両の台車に対する車体の高さを車高値として車高値が変化したときに、空気バネを伸長・縮小させて自動的に予め定めた車高値に調整する車両用自動高さ調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道を用いた交通機関では、乗客の乗り心地改善等のために、台車と車体との間に空気バネが設けられる。空気バネは、1両の車両の前後および左右にそれぞれ設けられ、これらの空気バネに加圧空気源からの加圧空気を供給しあるいは空気バネ中の空気を大気中に排出することで、車体は台車に対し上下方向に移動でき、前後・左右の空気バネを全て給気あるいは排気とすると、車体を上下並進移動させることができ、左右の空気バネの一方のみを給気、あるいはさらに他方も排気とすると、車体を左右方向(車幅方向)に傾斜させることができる。
【0003】
例えば、台車に対し車体の高さが予め定めた高さより全体的に高くなったり低くなったりするのを調整するレベル調整制御を行うことができる。また、車両の曲線部走行の際にレールのカント不足のために発生する超過遠心力を緩和するために車体を曲線の内側に傾斜させる車体傾斜制御を行うことができる。
【0004】
特許文献1には、車体傾斜制御の際に、精度の高い車高計測を行うことができる車体傾斜制御用車高計測装置が述べられている。ここでは、レベル調整制御のために、自動高さ調整弁の開閉操作部と一体回転するシャフトの先端部に開閉操作レバーの一端が一体回転可能に連結され、この開閉操作レバーの先端に調整棒の一端が接続され、調整棒の他端が台車にブラケットを介して接続され、このシャフトに車高計測用エンコーダが設けられている。台車に対する車体の上下方向を車高として、車高が変化して、例えば車高が下がったときは、調整棒を介して開閉操作レバーの先端側が突き上げられて自動高さ調整弁が切り換わり、加圧空気が空気バネに供給され、車体が上昇する。空気バネが伸長すると開閉操作レバーの先端側が調整棒を介して下向きに引っ張られ、空気バネへの加圧空気の供給が停止する。このようにして、台車に対し車体の床面は一定の高さに制御される。
【0005】
車体傾斜制御を行うときは、車高計測エンコーダを用いながら、レベル調整用の空気連通系を遮断し、車体傾斜制御用空気圧回路系を起動させ、小口径給気弁を開いて空気バネに給気を開始し、その後大口径給気弁を開き、これによって車高を高くする。所定の高さになれば、大口径給気弁を閉じ、ついで小口径給気弁を閉じる。車高を低くするときには、排気弁を開いて空気バネからの排気が行われる。
【0006】
また、特許文献2には、鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、台車上に左右一対の空気バネを介して車体を支持するとともに、空気バネ高さ検出手段により左右の空気バネの高さを検出して車体を一定高さに調整する自動高さ調整弁を備え、空気バネ高さ検出手段として、ステータに内蔵されるロータを有する2以上のレゾルバから構成し、各レゾルバのロータを自動高さ調整弁の共通の弁軸上に並べた構成が開示されている。この各レゾルバから検出された空気バネ高さ信号は相互に比較され、一致しないときは一方が故障と判定され、このように2重化によって信頼性を向上させることができると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3153160号公報
【特許文献2】特開2006−32791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両用自動高さ調整弁は、車高値の変化の方向に応じて、空気バネに給気し、あるいは空気バネから排気する三方弁の一種である。車両用自動高さ調整弁の動作は、車両の乗り心地に影響を与える。現在用いられている車両用自動高さ調整弁は、給気と排気とを切り替えることができるが、車高値に応じて、給気量の変化あるいは排気量の変化をきめ細かく設定することができれば、乗り心地の改善に寄与できる。
【0009】
本発明の目的は、新しい概念の車両用自動高さ調整弁を提供することである。他の目的は、車高値に応じて、給気量の変化あるいは排気量の変化をきめ細かく設定することを可能とする車両用自動高さ調整弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両用自動高さ調整弁は、軸方向の一方端側を開閉弁端側として、開閉弁端側に排気用開口部を有し軸方向に延びて他方端が排気ポートに連通する中心穴が設けられるステム部と、ステム部よりも外径の大きい中央ランド部とを有するスプールと、軸方向の一方端側を開閉弁端側として、スプールの開閉弁端側の外径よりも大きい内径の開閉弁側開口部を開閉弁端側に有し、スプールを軸方向に摺動自在に支持し、スプールとの間の相対位置が中立状態のときにスプールの中央ランド部によって塞がれる位置に配置される負荷ポートと、軸方向に沿って負荷ポートの前後に配置され負荷ポートを越えて相互に連通する前ポートと後ポートとを有するスリーブと、一方端側が給気ポートに接続され他方端側がスリーブの開閉弁端に接続される筒状の開閉弁本体と、開閉弁本体の内部に収納されスリーブの開閉弁側開口部を塞ぐ大きさの開閉弁弁体と、開閉弁弁体をスリーブの開閉弁端側に付勢する付勢手段とを含む給気開閉弁と、車両の台車に対する車体の高さである車高値の変化に応じてスリーブに対しスプールを軸方向に移動させる移動機構と、を備え、移動機構によってスリーブに対しスプールが開閉弁端側に移動するとき、開閉弁弁体が付勢手段の付勢力に抗しながら給気ポート側に移動して給気ポートとスリーブの開閉弁側開口部が連通し、開閉弁側開口部から前ポートと後ポートを経て中央ランド部と負荷ポートとの間の隙間を介して、給気ポートと空気バネとが連通し、移動機構によってスリーブに対しスプールが開閉弁端側とは逆側に移動するとき、給気開閉弁の付勢手段の付勢力によって開閉弁弁体がスリーブの開閉弁側開口部を遮蔽すると共に、スプールの開閉弁端側と開閉弁弁体との間に隙間を生じてスプールの排気用開口部とスリーブの内部空間との間が連通し、中央ランド部と負荷ポートとの間の隙間を介して、排気ポートと空気バネとが連通することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る車両用自動高さ調整弁において、移動機構は、車高値の変化をスリーブに対する傾斜角度の変化で出力するレバーと、レバーの傾斜角度の変化をスリーブに対するスプールの軸方向の直進運動に変換する操作部と、を含み、スリーブに対するスプールの軸方向の直進運動の変化を車高値対応値として検出する軸方向変位センサを備えることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る車両用自動高さ調整弁において、さらに、操作部に設けられ、操作部の回転角度の変化を車高値対応値として検出する第2車高値検出手段を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る車両用自動高さ調整弁において、車高値検出手段のレバーの傾斜角度を検出する回転中心位置と、第2車高値検出手段の回転角度を検出する回転中心位置とが同軸に配置されることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る車両用自動高さ調整弁において、第2車高値検出手段はエンコーダまたはレゾルバであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成により、車両用自動高さ調整弁は、中央ランド部に対応して空気バネに連通する負荷ポートと、負荷ポートの前後に相互に連通する前ポートと後ポートを配置したスプール・スリーブ機構を基本とする。スプールは、軸方向に沿って排気用の穴が設けられている。そして、スプール・スリーブ機構の軸方向の一方端側を開閉弁端側として、その開閉弁端側に、付勢手段によってスリーブの開閉弁端側に付勢される開閉弁弁体を含む給気開閉弁が配置される。また、移動機構によって、車高値の変化に応じてスプールはスリーブに対し相対的に移動する。
【0016】
このような構成とすることで、移動機構によってスリーブに対しスプールが開閉弁端側に移動するときは、開閉弁弁体が付勢手段の付勢力に抗しながら給気ポート側に移動して給気ポートとスリーブの開閉弁側開口部が連通するので、給気ポートと空気バネとが連通する。スリーブに対しスプールが逆側に移動するときは、給気開閉弁の付勢手段の付勢力によって開閉弁弁体がスリーブの開閉弁側開口部を遮蔽すると共に、スプールの開閉弁端側と開閉弁弁体との間に隙間を生じてスプールの排気用開口部とスリーブの内部空間との間が連通するので、排気ポートと空気バネとが連通する。このように、スプール・スリーブ機構を基本とする新しい概念の車両用自動高さ調整弁である。また、中央ランド部と負荷ポートとの間に形成される開口隙間の形状を自由に設計できるので、これにより、スリーブに対するスプールの移動に応じて、つまり車高値に応じて、給気量の変化あるいは排気量の変化をきめ細かく設定することが可能となる。
【0017】
また、車両用自動高さ調整弁において、スリーブに対するスプールの軸方向の直進運動の変化を車高値対応値として検出する軸方向変位センサを備えるので、この出力を用いて、例えば、車体の傾斜制御等を行うことが可能になる。
【0018】
また、車両用自動高さ調整弁において、さらに、レバーの傾斜角度の変化をスプールの軸方向の直進運動に変換する操作部に設けられ、操作部の回転角度の変化を車高値対応値として検出する第2車高値検出手段を備えるので、車高値検出が二重系となり、信頼性が向上する。
【0019】
また、車両用自動高さ調整弁において、車高値検出手段のレバーの傾斜角度を検出する回転中心位置と、第2車高値検出手段の回転角度を検出する回転中心位置とが同軸に配置されるので、二重系とされる車高値検出の対応関係が良好になる。
【0020】
また、車両用自動高さ調整弁において、第2車高値検出手段はエンコーダまたはレゾルバであるので、軸方向の変位検出と回転角度検出と異なる検出方法で車高値検出の二重系を構成できる。これにより、二重系のそれぞれが同時に故障する可能性を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施の形態の車両用自動高さ調整弁が用いられる車両の様子を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の車両用自動高さ調整弁の断面図である。
【図3】図2に対し直交する方向の断面図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の車両用自動高さ調整弁の要部の断面図である。
【図5】図4を用いて、空気バネに給気される場合を説明する図である。
【図6】図4を用いて、空気バネから排気される場合を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の車両用自動高さ調整弁の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。以下では、車両用自動高さ調整弁として、路面が平坦なときに台車に対する車体の高さを自動的に調整する作用としてのレベル調整制御作用を説明するが、例えば車両が左右方向に傾斜している場合であっても同様にレベル調整制御作用が働くことは言うまでもない。また、このように、車両用自動高さ調整弁をレベル調整制御に用いられるものとして説明するが、車両用自動高さ調整弁に設けられる変位センサ等は、車体傾斜システムに利用することができ、その意味では、広義の車体傾斜制御用の調整弁に相当するものである。
【0023】
なお、以下では、空気バネに加圧空気が供給されるものとして説明するが、ここでの空気は、外気の他に、乾燥空気、あるいは窒素と酸素の成分比を適当に変更した気体、適当な不活性ガス等を添加した気体等であってもよい。
【0024】
また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0025】
図1は、車両用自動高さ調整弁40,41が用いられる車両10の構成を説明する図である。なお、図1には、直交するXYZ方向が示されている。X方向が車両10の幅方向である左右方向、Y方向が車体の長手方向であり、Z方向が車両10の高さ方向である。
【0026】
車両10は、路面12の上に敷設されるレール14,15の上を回転する車輪16,17を備える台車18と、乗客等が利用する車体20と、台車18と車体20の間に設けられる空気バネ22,23と、台車18と車体20との間に設けられるリンク機構24,25と、車両用自動高さ調整弁40,41を含んで構成される。1両の車両について、その前後左右に空気バネとそれに対応するリンク機構と車両用自動高さ調整弁がそれぞれ設けられるが、図1では、そのうちの左右の2つの空気バネ22,23とリンク機構24,25と車両用自動高さ調整弁40,41についてのみ図示されている。
【0027】
図1では、3つの図が並べられている。真ん中の図が、台車18に対し車体20の高さである車高値hが予め定めた一定値h0となっている状態を示し、左の図は、車高値h1が一定値h0よりも低い状態、右の図は、車高値h2が一定値h0よりも高い状態を示す。このように、台車18に対し車体20の高さがあらかじめ定めた高さより全体的に高くなったり低くなったりする場合に、予め定めた高さに戻すようにする調整がレベル調整制御である。図1の例では、低い車高値h1に対応して空気バネ22,23が伸長され、高い車高値h2に対応して空気バネ22,23が縮小され、いずれもが車高値h0となるように、レベル調整制御が行なわれる。レベル調整制御は、リンク機構24,25と、自動高さ調整弁40,41の機能によって行なわれる。
【0028】
なお、図1に示されるように、空気バネ22,23とリンク機構24,25と車両用自動高さ調整弁40,41は、車両10の幅方向である左右方向に対称に設けられるので、以下では、空気バネ22、リンク機構24、車両用自動高さ調整弁40に代表させて説明を続けるものとする。
【0029】
リンク機構24は、台車18に対し回動可能に一方端が支持される台車側アームと、車体20に対し回転可能に他方端が支持される車体側アームであるレバーと、台車側アームの他方端と車体側アームの一方端が相互に回動可能に接続される機構で、台車18に対する車体20の高さ位置が変わると、リンク機構24のリンク形状が変化し、その形状変化は、台車18に対する車体20の高さによって一意に定まる。そこで、例えば、予め定められた車体20の基準面に対する車体側アームの傾斜角度を、台車に対する車体の高さに対応する高さ対応値として用いることができる。その意味から、リンク機構24は、高さ対応値を車高値として提供することができる車高検出器である。
【0030】
車両用自動高さ調整弁40は、リンク機構24の傾斜角度に基いて機械的に駆動され、空気バネ22に接続される負荷ポートと、気体供給源32に接続される給気ポートと、大気に開放される排気ポートを有する一種の三方弁で、後述するように、スプール・スリーブ型弁と給気開閉弁とを一体化した構造を有する。気体供給源32は加圧気体供給装置で、例えばコンプレッサで構成できる。操作部44は、リンク機構24の傾斜角度の変化をスプールの直進運動に変換して、スプールを機械的に駆動する機構である。給排気路42は、車両用自動高さ調整弁40の負荷ポートと空気バネ22とを接続する流路部材である。
【0031】
図2と図3は、車両用自動高さ調整弁40の構成を示す断面図である。図2は、XZ面に平行な面で切った断面図、図3はXY面に平行な面で切った断面図である。
【0032】
車両用自動高さ調整弁40は、X方向に沿って、+X方向から−X方向に向かって、給気開閉弁60、スプール・スリーブ機構78、変位センサ120が配置され、また、スプール・スリーブ機構78とリンク機構24との間に操作部44が設けられ、操作部44に同軸にレゾルバ140が備えられ、これらが外側ケース91に納められる複合弁である。
【0033】
給気開閉弁60は、気体供給源32に接続される給気接続口53とスプール・スリーブ機構78との間に配置され、給気接続口53とスプール・スリーブ機構78との間の連通を開閉する機能を有する弁で、筒状部材である開閉弁本体61と、開閉弁本体61の内部に収納される形で配置される弁体機構64を含んで構成される。給気開閉弁60の詳細な構成は図4を用いて後述する。
【0034】
スプール・スリーブ機構は、軸方向であるX方向に沿って移動可能なスプール80と、スプール80を摺動可能に支持するスリーブ90とを含んで構成される。スリーブ90は外側ケース91に固定して支持される。スプール・スリーブ機構78の詳細な構成は図4を用いて後述する。ここでは、大気に開放される排気口55に連通する中心穴84がスプール80に設けられ、空気バネ22に接続される負荷接続口51に連通する負荷ポート50がスリーブ90に設けられる様子が示されている。
【0035】
操作部44を説明する前に、操作部44に接続されるリンク機構24を説明する。リンク機構24は、台車18に回転自在に他方端が保持される台車側アーム26と、車体20に回転自在に一方端が保持される車体側アームであるレバー28とで構成され、台車側アーム26の一方端とレバー28の他方端は回転部27によって相互に回転自在に接続される構成を有する。この構成によって、台車18に対する車体20の高さである車高値hが変化すると、レバー28は、車体20に回転自在に取り付けられる車体側取付部に対し、その傾斜角度を変化させる。図2では、この傾斜角度がθとして示されている。
【0036】
操作部44は、車両用自動高さ調整弁40の筐体部に回転可能に取り付けられた円筒状の部材で、その回転中心45の位置にレバー28の一方端が固定して取り付けられる。つまり、この操作部44の回転中心45の位置がレバー28の車体側取付部である。したがって、車高値hが変化して、レバー28の傾斜角度θが変化すると、操作部44は、その回転中心45の周りに傾斜角度θの変化分だけ回転することになる。
【0037】
操作部44は、レバー28の車体側取付部としての機能と共に、レバー28の傾斜角度θの変化に対応する回転角度の変化を、スプール・スリーブ機構78のスプール80の軸方向であるX方向に沿った直進運動に変換する回転・直進変換機能を有する。
【0038】
回転・直進変換機能は、操作部44のスプール・スリーブ機構78の側に設けられた偏心ピン112と、スプール80の移動板部110に設けられた案内溝114とによって行なわれる。移動板部110と外側ケース91との間には付勢バネ111が設けられることが好ましい。場合によっては付勢バネ111を省略してもよい。ここで、操作部44の回転中心45の軸方向は、Y方向に平行で、スプール・スリーブ機構78の軸方向と垂直である。そして、回転中心45は、スプール・スリーブ機構78と予め定められた距離だけ−Z方向に離されている。偏心ピン112は、回転中心45からスプール・スリーブ機構78に向かって予め定められた距離だけ−Z方向に偏心して配置される。つまり、偏心ピン112は、Z方向の高さ位置として、スプール・スリーブ機構78の軸方向のZ方向高さと同じ位置に配置されていることになる。
【0039】
このように偏心ピン112が配置されることで、操作部44が回転中心45の周りに回転すると、偏心ピン112がスプール・スリーブ機構78の軸方向にほぼ沿って円弧状に移動することになる。スプール80の移動板部110に設けられる案内溝114は偏心ピン112を案内する機能を有するので、偏心ピン112の移動に対応して、移動板部110が移動し、これによって、スプール80は、その軸方向であるX方向に沿って移動することになる。以上が、偏心ピン112と案内溝114を有した移動板部110による回転・直進変換機能の内容である。
【0040】
変位センサ120は、スプール・スリーブ機構78におけるスプール80のX方向に沿った直進運動の位置の変化である変位を検出する差動トランス型の変位センサである。変位センサ120は、スプール80の−X方向の端部に接続され、−X方向に延びる磁性体軸122と、磁性体軸122の外周の周りに沿って配置される3つのコイル124を含んで構成される。コネクタ126は、3つのコイル124からの信号線を外部に取り出す信号端子コネクタである。
【0041】
ここで、磁性体軸122がX方向に移動すると、3つのコイル124に誘起信号が発生し、これらの信号を差動処理することで、磁性体軸122のX方向の位置の変化、すなわちスプール80の軸方向の位置の変化を検出できる。
【0042】
このように、変位センサ120は、リンク機構24と、操作部44の回転・直進運動変換機能によって、車高値hの変化を電気信号で取り出すことができる。このようにしなくても、直接電気的センサを用いて車高値hを検出することは可能であるが、電気信号系は、断線、誤動作等が生じることがある。変位センサ120は、車高値hを機械的検出手段であるリンク機構24を用いて、その形状変化を操作部44の機械的機能である回転・直進運動変換機能を用いて、最後に電気信号に変換しているので、直接的な電気的センサによる車高値hの検出に比較して、電気的信号による脆弱性を大幅に抑制することができる。
【0043】
スプール・スリーブ機構78に対し操作部44の側に、操作部44と同軸に設けられるレゾルバ140は、変位センサ120による車高値hの検出を二重系で補強するためのセンサである。レゾルバ140は、操作部44の中心軸に取り付けられる極付きロータと、その外周の周りに沿って配置される検出コイルを含んで構成される。ここで、操作部44が回転すると、極付きロータの極の回転位置が変化するので、その変化を検出コイルで検出する。
【0044】
このように、リンク機構24のレバー28の傾斜角度θの変化は、操作部44の回転・直進変換機能によってスプール・スリーブ機構78のスプール80の直進運動に変換され、また、操作部44の回転運動は、レゾルバ140によって角度位置として検出される。
【0045】
このように、変位センサ120は、直進運動の変化であるX方向に沿った変位を検出し、レゾルバ140は、回転位置を検出する。検出値はいずれも車高値hに対応する値であるが、検出方法が異なるので、車高値hを電気信号で得るシステムの二重系としては、堅牢なものとなる。なお、レゾルバ140に代えて、他の回転検出センサを用いるものとしてもよい。例えば、エンコーダを用いるものとしてもよい。
【0046】
次に、給気開閉弁60とスプール・スリーブ機構78について、図4を用いて詳細に説明する。図4は、車両用自動高さ調整弁40の一部を拡大した断面図である。
【0047】
給気開閉弁60は、車両用自動高さ調整弁40の筐体部の一部を構成する開閉弁本体61と、その内部空間62に収納されるようにして配置される弁体機構64を含んで構成される。
【0048】
開閉弁本体61は、一方端側が給気ポート52に接続され、他方端側がスプール・スリーブ機構78のスリーブ90の開閉弁端に接続される筒状部材である。開閉弁本体61の一方端側には、円環状の突出部63が設けられる。
【0049】
弁体機構64は、両側に円板を有し、その円板の間に弱いバネ定数のコイルバネ70が取り付けられるバネ付双方向弁体である。具体的には、弁体機構64は、給気ポート52側の円板である給気側弁体66と、スプール・スリーブ機構78側の円板である開閉弁弁体68と、給気側弁体66と開閉弁弁体68とを接続する付勢手段であるコイルバネ70を含んで構成される。コイルバネ70は、給気側弁体66と開閉弁弁体68に対し、互いに引き離す方向に付勢力を与える。
【0050】
給気側弁体66は、開閉弁本体61の内部の圧力が供給圧力よりも高くなった場合に、逆流を防止する逆止弁の機能を有し、開閉弁本体61の一方端側に設けられる円環状の突出部63に囲まれる開口部を塞げる大きさの外形を有する円板である。
【0051】
開閉弁弁体68は、中立状態では、後述するスリーブ90の開閉弁端側に設けられる円環状の突出部98によって囲まれる開口部である開閉弁側開口部を塞げる大きさの外形を有する円板である。開閉弁弁体68は、コイルバネ70によって開閉弁本体61の他方端側に向かうように付勢されるので、中立状態では、開閉弁弁体68は、スリーブ90の開閉弁端側の突出部98に押し付けられる。なお、図4では、開閉弁端側の近傍部65が破線で囲んで示されている。
【0052】
また、スプール80とスリーブ90が中立状態のときは、スプール80の開閉弁端側に設けられる円環状の突出部88もちょうどスリーブ90の円環状の突出部98とX方向の位置が同じとなるように設定されるので、中立状態では、開閉弁弁体68は、スプール80の開閉弁端側の突出部88にも同時に押し付けられる。これによって、中立状態では、スリーブ90の開閉弁端側の突出部98で囲まれる開口部と、スプール80の開閉弁端側の突出部98で囲まれる開口部は、共にその開口部が塞がれる。開閉弁弁体68のスプール・スリーブ機構78側の表面69と、スリーブ90の突出部98の先端部と、スプール80の突出部88の先端部とは、相互に気密に密着できるようにされる。
【0053】
スプール・スリーブ機構78のスプール80は、軸方向の一方端側である+X方向端を開閉弁端側として、開閉弁端側に排気用開口部82を有し、軸方向に沿って延びて他方端が排気ポート54に連通する中心穴84が設けられる細軸のステム部と、ステム部よりも外径の大きい中央ランド部86とを有する軸部材である。排気用開口部82は、円環状の突出部88に囲まれる開口部である。排気ポート54は、大気に開放される排気口55に連通する。
【0054】
スリーブ90は、軸方向の一方端側である+X方向端を開閉弁端側として、スプール80の開閉弁端側の外径よりも大きい内径の開閉弁側開口部を開閉弁端側に有し、スプール80を軸方向に摺動自在に支持する内部に案内穴を有する部材である。開閉弁側開口部は、開閉弁端側の円環状の突出部98によって囲まれた開口部である。図4には、スプール80の開閉弁端側の外径とスリーブ90の開閉弁側開口部の内径との隙間空間100が示されている。
【0055】
スリーブ90は、スプール80を摺動自在に支持する精密加工部品であるので、比較的小型に作られる。精密加工部品であるスリーブ90の外側に配置され、スリーブ90を保持する外側ケース91は、車両用自動高さ調整弁40の筐体部を構成する部品で、開閉弁本体61と一体的に組み合わされる。
【0056】
スリーブ90は、スプール80との間の相対位置が中立状態のときにスプール80の中央ランド部86によって塞がれる位置に配置される負荷ポート50と、軸方向に沿って負荷ポート50の前後に配置され負荷ポート50を越えて連通路96によって相互に連通する前ポート92と後ポート94とを有する。負荷ポート50は、図1で説明した給排気路42を介して空気バネ22に接続される。
【0057】
このように、負荷ポート50の前後に相互に連通する前ポート92と後ポート94を設けたので、スリーブ90に対し、スプール80が相対的に移動するとき、その移動方向が+X方向であっても、−方向であっても、負荷ポート50と前ポート92と後ポート94は連通状態とすることができる。
【0058】
上記構成の作用を図5と図6を用いて説明する。図5は、実際の車高値hが、平坦高さh0よりも低いh1となっているときで、空気バネ22に加圧空気を供給する場合、図6は、実際の車高値hが、平坦高さh0よりも高いh2となっているときで、空気バネ22から排気を行う場合に対応する。
【0059】
図5は、実際の車高値hが、平坦高さh0よりも低いh1となっているときである。これは、スリーブ90に対しスプール80が+X方向に移動した場合に相当する。ここでは、開閉弁弁体68が付勢手段であるコイルバネ70の付勢力に抗しながら給気ポート52側に移動するので、これにより、開閉弁端側の近傍部65において、スリーブ90の突出部98と開閉弁弁体68との間に隙間が生じ、その隙間を通って、給気ポート52からの加圧気体が、スリーブ90の内径とスプール80の外径との間の隙間空間100に流れ込む。そして、流れ込んだ加圧気体は、前ポート92、連通路96、後ポート94を経て、スプール80の中央ランド部86と負荷ポート50との間の位置関係のずれによって生じた−X方向側の開口から負荷ポート50に流れ込み、給排気路42から空気バネ22に供給される。
【0060】
このようにして、給気ポート52と空気バネ22とが連通することで、空気バネ22に加圧空気が供給され、空気バネ22が伸長する。空気バネ22が伸長すると、車高値hがh1よりも高くなる。車高値hが高くなると、スリーブ90に対しスプール80は−X方向に戻される。車高値hが平坦高さh0に達すると、スプール80の中央ランド部86が負荷ポート50をちょうど塞ぐ位置に戻り、これにより、図4の初期状態に戻って、給気ポート52からの加圧気体の供給が止まる。このようにして、車高値がh1から平坦高さh0に戻すレベル調整制御が自動的に行なわれる。
【0061】
図6は、実際の車高値hが、平坦高さh0よりも高いh2となっているときである。これは、スリーブ90に対しスプール80が−X方向に移動した場合に相当する。ここでは、給気開閉弁60の付勢手段であるコイルバネ70の付勢力によって開閉弁弁体68がスリーブ90の開閉弁側開口部を遮蔽する。具体的には、開閉弁端側の近傍部65においてスリーブ90の円環状の突出部98に開閉弁弁体68が押し付けられる。これによって、給気ポート52からの加圧気体の供給が遮断される。そして、このとき、スプール80の開閉弁端側と開閉弁弁体68との間に隙間が生じるので、スプール80の排気用開口部82と、スリーブ90の内径とスプール80の外径との間の内部空間との間が連通する。具体的には、スプール80の開閉弁端側の円環状の突出部88と、開閉弁弁体68との間に隙間が生じる。これによって、スリーブ90の内径とスプール80の外径との間の隙間空間100と、スプール80の排気用開口部82が連通する。
【0062】
そして、スプール80の中央ランド部86と負荷ポート50との間の位置関係のずれによって生じた+X方向側の開口から負荷ポート50に連通し、給排気路42から空気バネ22に連通する。したがって、空気バネ22からの気体は、給排気路42、負荷ポート50、隙間空間100、排気用開口部82を通って、排気ポート54を介して、排気口55から大気に放出される。
【0063】
このようにして、空気バネ22と排気口55が連通することで、空気バネ22から大気に気体が解放され、空気バネ22が縮小する。空気バネ22が縮小すると、車高値hがh2よりも低くなる。車高値hが低くなると、スリーブ90に対しスプール80は+X方向に戻される。車高値hが平坦高さh0に達すると、スプール80の中央ランド部86が負荷ポート50をちょうど塞ぐ位置に戻り、これにより、図4の初期状態に戻って、空気バネ22からの気体の放出が止まる。このようにして、車高値がh2から平坦高さh0に戻すレベル調整制御が自動的に行なわれる。
【0064】
次に、車両用自動高さ調整弁40において、中央ランド部86と負荷ポート50を有することの効果について図7を用いて説明する。図7は、横軸に車高値の変化Δhをとり、縦軸に負荷ポート50に流れる流量Qがとられている。横軸のΔhは、スプール・スリーブ機構78のX方向の移動量に相当し、中央ランド部86と負荷ポート50との間の相対的な位置関係を示している。
【0065】
ここで、流量Qは、負荷ポート50と中央ランド部86の重なりで定まる気体連通面積に比例する。したがって、負荷ポート50の開口部の形状と、中央ランド部86の負荷ポート50に向かい合う遮蔽部の形状とを工夫することで、Q/Δhを任意に設計することができる。例えば、中央ランド部86と負荷ポート50との間の相対的な位置関係に対し、気体連通面積が線形的に変化するように設計することもでき、気体連通面積が非線形的に変化するように設計することもできる。このように、図7の実線、破線、一点鎖線のように様々なQ/Δh特性を選択することができる。これにより、Q/Δh特性の設計自由度が高まるので、例えば、レベル調整制御を車両の仕様に合わせきめ細かく設定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る車両用自動高さ調整弁は、鉄道車両等に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
10 車両、12 路面、14,15 レール、16,17 車輪、18 台車、20 車体、22,23 空気バネ、24,25 リンク機構、26 台車側アーム、27 回転部、28 レバー、32 気体供給源、40,41 車両用自動高さ調整弁、42 給排気路、44 操作部、45 回転中心、50 負荷ポート、51 負荷接続口、52 給気ポート、53 給気接続口、54 排気ポート、55 排気口、60 給気開閉弁、61 開閉弁本体、62 内部空間、63,88,98 突出部、64 弁体機構、65 開閉弁端側の近傍部、66 給気側弁体、67、69 表面、68 開閉弁弁体、70 コイルバネ、78 スプール・スリーブ機構、80 スプール、82 排気用開口部、84 中心穴、86 中央ランド部、90 スリーブ、91 外側ケース、92 前ポート、94 後ポート、96 連通路、100 隙間空間、110 移動板部、111 付勢バネ、112,132 偏心ピン、114,134 案内溝、120 変位センサ、122 磁性体軸、124 (変位センサの)コイル、126 コネクタ、140 レゾルバ、142 ロータ軸、144 (レゾルバの)コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一方端側を開閉弁端側として、開閉弁端側に排気用開口部を有し軸方向に延びて他方端が排気ポートに連通する中心穴が設けられるステム部と、ステム部よりも外径の大きい中央ランド部とを有するスプールと、
軸方向の一方端側を開閉弁端側として、スプールの開閉弁端側の外径よりも大きい内径の開閉弁側開口部を開閉弁端側に有し、スプールを軸方向に摺動自在に支持し、スプールとの間の相対位置が中立状態のときにスプールの中央ランド部によって塞がれる位置に配置される負荷ポートと、軸方向に沿って負荷ポートの前後に配置され負荷ポートを越えて相互に連通する前ポートと後ポートとを有するスリーブと、
一方端側が給気ポートに接続され他方端側がスリーブの開閉弁端に接続される筒状の開閉弁本体と、開閉弁本体の内部に収納されスリーブの開閉弁側開口部を塞ぐ大きさの開閉弁弁体と、開閉弁弁体をスリーブの開閉弁端側に付勢する付勢手段とを含む給気開閉弁と、
車両の台車に対する車体の高さである車高値の変化に応じてスリーブに対しスプールを軸方向に移動させる移動機構と、
を備え、
移動機構によってスリーブに対しスプールが開閉弁端側に移動するとき、開閉弁弁体が付勢手段の付勢力に抗しながら給気ポート側に移動して給気ポートとスリーブの開閉弁側開口部が連通し、開閉弁側開口部から前ポートと後ポートを経て中央ランド部と負荷ポートとの間の隙間を介して、給気ポートと空気バネとが連通し、
移動機構によってスリーブに対しスプールが開閉弁端側とは逆側に移動するとき、給気開閉弁の付勢手段の付勢力によって開閉弁弁体がスリーブの開閉弁側開口部を遮蔽すると共に、スプールの開閉弁端側と開閉弁弁体との間に隙間を生じてスプールの排気用開口部とスリーブの内部空間との間が連通し、中央ランド部と負荷ポートとの間の隙間を介して、排気ポートと空気バネとが連通することを特徴とする車両用自動高さ調整弁。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用自動高さ調整弁において、
移動機構は、
車高値の変化をスリーブに対する傾斜角度の変化で出力するレバーと、
レバーの傾斜角度の変化をスリーブに対するスプールの軸方向の直進運動に変換する操作部と、
を含み、
スリーブに対するスプールの軸方向の直進運動の変化を車高値対応値として検出する軸方向変位センサを備えることを特徴とする車両用自動高さ調整弁。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用自動高さ調整弁において、
さらに、
操作部に設けられ、操作部の回転角度の変化を車高値対応値として検出する第2車高値検出手段を備えることを特徴とする車両用自動高さ調整弁。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用自動高さ調整弁において、
車高値検出手段のレバーの傾斜角度を検出する回転中心位置と、第2車高値検出手段の回転角度を検出する回転中心位置とが同軸に配置されることを特徴とする車両用高さ調整弁。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用自動高さ調整弁において、
第2車高値検出手段はエンコーダまたはレゾルバであることを特徴とする車両用自動高さ調整弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−232716(P2012−232716A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104411(P2011−104411)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】