説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】蓄電装置が満充電状態になった場合においても、摩擦係合装置を係合させて内燃機関を回転させることなしに、車両の制動を精度良く行うことができる制御装置の実現。
【解決手段】摩擦係合装置を介して内燃機関に連結される入力部材と、車輪に連結される出力部材と、変速機構と、回転電機と、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、内燃機関の回転が停止し、摩擦係合装置の解放状態で、車両の制動要求があった場合に、制動トルク制御の実行を判定する制動トルク制御実行判定部と、要求制動トルクを設定する制動トルク設定部と、蓄電装置の充電量が充電制限判定値以上であるかを判定する充電状態判定部と、制動トルク制御を実行し、充電量が充電制限判定値以上であると判定された場合に、伝達トルクが要求制動トルクとなるように、内燃機関を回転させない範囲内で伝達トルク容量及び変速比を制御するトルク制御部と、を備える制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合装置を介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に設けられた回転電機と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関及び回転電機を駆動力源として備えるハイブリッド車両用の駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。特許文献1に記載されたハイブリッド車両の車両用駆動装置には、内燃機関を動力伝達機構に選択的に駆動連結する摩擦係合装置が備えられている。そして、回転電機のみの駆動力で車両を駆動できるように、摩擦係合装置を解放して、内燃機関を動力伝達機構から分離できるように構成されている。摩擦係合装置が解放されている状態で、車両の制動要求があった場合は、回転電機に負トルクである回生トルクを出力させて、車両を制動すると共に、回生発電を行い、蓄電装置を充電するように構成されている。
【0003】
また、特許文献1の技術では、下り坂が続き、回転電機による回生発電が連続的に行われるなどして、蓄電装置が満充電状態になった場合は、回転電機に回生トルクを出力させることができなくなるため、摩擦係合装置を係合させることより、内燃機関を回転させてエンジンブレーキの負トルクを発生させ、車両を制動している。
【0004】
しかしながら、エンジンブレーキの負トルクの大きさは、内燃機関の回転速度に依存して変化する。このため、特許文献1の技術のように、蓄電装置が満充電状態になった際に、摩擦係合装置を係合させてエンジンブレーキの負トルクにより車両の制動を行う技術では、所望の制動トルクに制御することは容易でない。なお、蓄電装置が満充電状態になる前に、回転電機に回生トルクを出力させる場合は、所望の制動トルクに制御することができる。このため、特許文献1の技術では、蓄電装置が満充電状態になった場合に、車両の制動トルクの制御性が悪化する恐れがあった。
【0005】
また、内燃機関には、特定の回転速度において軸ねじれ振動が大きくなる共振点が存在する。このため、特許文献1の技術のように、蓄電装置が満充電状態になった際に、摩擦係合装置を係合させて内燃機関を回転させる技術では、車速に依存して内燃機関の回転速度が変化するため、共振点を回避するように内燃機関の回転速度を制御することは容易でない。なお、蓄電装置が満充電状態になる前に、回転電機に回生トルクを出力させる場合は、摩擦係合装置は解放され、内燃機関は回転停止されているため、上記の軸ねじれ振動の問題は生じない。このため、特許文献1の技術では、蓄電装置が満充電状態になった場合に、軸ねじれ振動が生じ、車両の制動トルクが変動する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−217201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、蓄電装置が満充電状態になった場合においても、摩擦係合装置を係合させて内燃機関を回転させることなしに、車両の制動を精度良く行うことができる制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、摩擦係合装置を介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に設けられた回転電機と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置の特徴構成は、前記内燃機関の回転が停止し、前記摩擦係合装置が解放された状態で、車両の制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する制動トルク制御実行判定部と、前記出力部材に伝達すべき制動トルクである要求制動トルクを設定する制動トルク設定部と、前記回転電機が発電した電力により充電される蓄電装置の充電量が所定の充電制限判定値以上であるか否かを判定する充電状態判定部と、前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電量が前記充電制限判定値以上であると判定された場合に、前記入力部材側から前記出力部材に伝達されるトルクが前記要求制動トルクとなるように、前記内燃機関を回転させない範囲内で前記摩擦係合装置の伝達トルク容量を制御すると共に前記変速機構の変速比を制御するトルク制御部と、を備える点にある。
【0009】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
また、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
【0010】
上記の特徴構成によれば、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量が充電制限判定値以上であると判定された場合に、内燃機関を回転させない範囲内で摩擦係合装置の伝達トルク容量が制御されるので、摩擦係合装置は、解放状態から摩擦部材間に回転速度差がある係合状態である滑り係合状態に制御される。この滑り係合状態では、伝達トルク容量に等しい大きさの負トルクが、摩擦係合装置から入力部材に伝達され、変速機構を介して出力部材に伝達される。この反力として、伝達トルク容量の大きさの正トルクが摩擦係合装置から内燃機関に伝達される。摩擦係合装置から内燃機関に伝達されるトルクが、所定の静止限界トルクを上回ると内燃機関は回転し始める。上記の特徴構成によれば、摩擦係合装置の伝達トルク容量は、内燃機関を回転させない範囲内、すなわち、静止限界トルク以下の範囲内に制御される。よって、静止限界トルク以下の範囲内で、摩擦係合装置の伝達トルク容量を変化させることにより、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクを制御することが可能になる。このため、内燃機関を回転させることなしに、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクが要求制動トルクとなるように制御することができる。
【0011】
また、上記の特徴構成によれば、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクが要求制動トルクとなるように、内燃機関を回転させない範囲内で変速機構の変速比も制御される。よって、変速機構の変速比を変更することにより、入力部材に伝達された伝達トルク容量の大きさの負トルクを、増減して出力部材に伝達することができる。このため、要求制動トルクの大きさが大きい場合であっても、摩擦係合装置の伝達トルク容量を静止限界トルク以下の範囲内に制御しつつ、変速機構の変速比を変更して、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクが要求制動トルクとなるようにすることができる。
従って、上記の特徴構成によれば、蓄電装置が満充電状態になった場合においても、内燃機関を回転させない範囲内で摩擦係合装置を係合させて、車両の制動を精度良く行うことができる。
【0012】
ここで、前記変速機構の変速比は、前記入力部材の回転速度を前記出力部材の回転速度で除算した値であり、前記トルク制御部は、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量に前記変速機構の変速比を乗算して得られるトルクが前記要求制動トルクとなると共に、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量が前記内燃機関を回転させない範囲内に設定された上限トルク容量以下となる範囲内になるように、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量及び前記変速機構の変速比を制御すると好適である。
【0013】
この構成によれば、摩擦係合装置の伝達トルク容量及び変速機構の変速比と、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクとの関係式に基づいて、伝達トルク容量が上限トルク容量以下となる範囲内になるように、伝達トルク容量及び変速比が制御されるので、内燃機関の回転を防止しつつ、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクを要求制動トルクに精度良く一致させることができる。ここで、上限トルク容量は、摩擦係合装置の伝達トルク容量が内燃機関を回転させない範囲内に設定されているので、内燃機関の回転防止の確実性を高めることができる。
【0014】
ここで、前記トルク制御部は、前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電量が前記充電制限判定値未満であると判定された場合に、前記回転電機から前記出力部材に伝達されるトルクが前記要求制動トルク以下となる範囲内で、前記回転電機に発電を行わせると好適である。
【0015】
この構成によれば、蓄電装置の充電量が充電制限判定値未満であると判定された場合は、回転電機に発電を行わせ、所望の負トルクを出力させることにより、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクを要求制動トルクに精度良く一致させることができるとともに、車両の運動エネルギーを回収してエネルギー効率を高めることができる。
【0016】
また、前記充電状態判定部は、前記充電量が前記充電制限判定値未満であると判定した場合に、更に、前記充電量が前記充電制限判定値より小さい値に設定された第二充電制限判定値以上であるか否かを判定し、前記トルク制御部は、前記充電量が前記第二充電制限判定値以上であると判定した場合に、前記充電量に応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを前記回転電機に出力させて発電を行わせ、前記回転電機から前記出力部材に伝達されるトルクと前記摩擦係合装置を介して前記出力部材に伝達されるトルクとの合計が前記要求制動トルクとなるように、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量及び前記変速機構の変速比を制御する構成とすると好適である。
【0017】
この構成によれば、蓄電装置の蓄電量が満充電状態に近い場合など、蓄電装置への充電電力が制限されるものの制限範囲内で回転電機に発電を行わせることが可能な場合に、その充電許容電力に応じたトルクを回転電機に出力させることができる。このため、蓄電装置への充電電力が制限される場合でも、満充電状態ぎりぎりになるまで蓄電装置に充電を行うことができる。これによって、運動エネルギーの回生効率を限界近くまで高めることができ、燃費向上を図ることができる。
【0018】
また、蓄電装置への充電電力が制限される場合でも、回転電機にトルクを出力させることにより、入力部材側から出力部材に伝達されるトルクを要求制動トルクに精度良く一致させることができる。また、回転電機にトルクを出力させることにより、摩擦係合装置の摩擦熱を低減することができ、摩擦係合装置への熱負荷を軽減することができる。
【0019】
また前記制動トルク制御実行判定部は、前記車両のアクセルペダルの操作量を表すアクセル開度が所定の制動判定値未満である場合に、車両の制動要求があると判定すると好適である。
【0020】
この構成によれば、アクセル開度に応じた運転者の制動要求を精度良く検出して、制動トルク制御を実行することができる。従って、例えば、通常のエンジン車両におけるエンジンブレーキに相当する制動トルクを出力部材に伝達する制動トルク制御を実行する場合にも、適切な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第二の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図8】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図9】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第一の実施形態〕
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1(以下、駆動装置1と称す)及び制御装置30の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態に係る駆動装置1は、概略的には、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源として備え、これらの駆動力源の駆動力を、動力伝達機構を介して車輪Wへ伝達する構成となっている。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。駆動装置1は、エンジン分離クラッチCL1を介してエンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪Wに駆動連結される出力軸Oと、入力軸Iの回転を変速して出力軸Oに伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構TMと、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に設けられた回転電機MGと、を備えている。また、ハイブリッド車両は、車両用駆動装置1を制御するための制御装置30を備えている。
【0023】
本実施形態では、回転電機MGは、入力軸Iに駆動連結されている。また、制御装置30は、図1及び図2に示すように、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCL1の制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、エンジンEの制御を行うエンジン制御ユニット31も備えられている。駆動装置1は、回転電機MGを駆動するためのインバータIN及びバッテリBTが備えている。また、駆動装置1は、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCL1等の各部に所定油圧の作動油を供給するための油圧制御装置PCを備えている。なお、エンジンEが、本願における「内燃機関」であり、エンジン分離クラッチCL1が、本願における「摩擦係合装置」であり、入力軸Iが、本願における「入力部材」であり、出力軸Oが、本願における「出力部材」であり、バッテリBTが、本願における「蓄電装置」である。
【0024】
このような構成において、本実施形態に係る制御装置30は、図2に示すように、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、車両の制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する制動トルク制御実行判定部46と、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する制動トルク設定部47と、回転電機MGが発電した電力により充電されるバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定する充電状態判定部48と、を備えている。そして、制御装置30は、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定された場合に、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する制動トルク制御部49を備えている点に特徴を有している。以下、本実施形態に係る制御装置30について、詳細に説明する。
【0025】
1.駆動装置の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動伝達系の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、入力軸Iに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0026】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、エンジン分離クラッチCL1を介して入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、入力軸Iは、摩擦係合要素であるエンジン分離クラッチCL1を介してエンジンEと選択的に駆動連結される。なお、エンジン出力軸Eoが、ダンパ等の他の部材を介してエンジン分離クラッチCL1の入力部材に駆動連結された構成としても好適である。
【0027】
エンジン分離クラッチCL1は、摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の係合要素である。エンジン分離クラッチCL1は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0028】
摩擦係合要素は、その入出力部材間の摩擦により、入出力部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の摩擦部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、回転速度の大きい方の摩擦部材から小さい方の摩擦部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(滑り摩擦トルク)が伝達される。摩擦係合要素の摩擦部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、摩擦係合要素の摩擦部材に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側摩擦板と出力側摩擦板とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0029】
摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、摩擦係合要素に供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0030】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり、解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の摩擦部材間に滑りがある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の摩擦部材間に滑りがない係合状態である。
【0031】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸IにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータINを介して蓄電装置としてのバッテリBTに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータINを介してバッテリBTからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力を、インバータINを介してバッテリBTに蓄電(充電)する。なお、バッテリBTの充電量SOCがゼロに近づくと、回転電機MGが力行するように制御されても、回転電機MGは所望の正トルクを出力することができなくなる。一方、バッテリBTの充電量SOCが満充電状態に近づくと、回転電機MGが発電するように制御されても、回転電機MGは所望の負トルクを出力することができなくなる。なお、バッテリBTは蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。なお、以下では回転電機MGによる発電を回生又は回生発電と称し、発電中に回転電機MGが出力する負トルクを回生トルクと称する。回転電機MGの目標出力トルクが負トルクの場合には、回転電機MGは、エンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電しつつ回生トルクを出力する状態となる。
【0032】
駆動力源が駆動連結される入力軸Iには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速機構である。変速機構TMは、形成された変速比で、入力軸Iの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMの変速比には、上限(最大)値及び下限(最小)値があり、変速比は、最大値と最小値の間で、連続的に変更可能とされている。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて出力軸Oの回転速度に対する入力軸Iの回転速度の比であり、本願では入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、入力軸Iの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、入力軸Iから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0033】
本実施形態では、変速機構TMには、ベルト及びプーリが備えられており、入力軸Iに連結される入力側プーリと、出力軸O側に連結される出力側プーリとの間が、ベルトにより駆動連結されることにより、入力軸Iと出力軸Oとの間が所定の変速比で駆動連結される。入力側プーリの直径と出力側プーリの直径との比が変更されることにより、変速比が変更可能に構成されている。本実施形態では、油圧制御装置PCから各プーリの油圧サーボ機構に供給される油圧を制御することにより、入力側プーリの直径、及び出力側プーリの直径が変更可能に構成されている。入力側プーリの直径及び出力側プーリの直径の変更可能幅には上下限があり、これに対応して変速比の変更可能幅にも上下限がある。
変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車輪Wに分配されて伝達される。
【0034】
2.油圧制御系の構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、機械式や電動式の油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、エンジン分離クラッチCL1や変速機構TM等に供給される。
【0035】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30の構成について説明する。本実施形態では、図1及び図2に示すように、制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCL1の制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、制御装置30は、エンジンEの制御を行うエンジン制御ユニット31と、通信可能に接続されている。
【0036】
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、各制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図2に示すような制御装置30の各機能部42〜50が構成されている。また、各制御ユニット31〜34は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜50の機能が実現される。
【0037】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se6を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30に入力される。制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。エンジン回転速度センサSe1は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、エンジン回転速度センサSe1の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度を検出する。入力軸回転速度センサSe2は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸Iには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力軸回転速度センサSe2の入力信号に基づいて入力軸I及び回転電機MGの回転速度を検出する。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて車速を算出する。また、アクセル開度検出センサSe4は、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度検出センサSe4の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
【0038】
バッテリ充電状態検出センサSe5は、バッテリBTの充電状態を検出するためのセンサである。本実施形態では、バッテリ充電状態検出センサSe5は、バッテリ電圧を検出するための電圧センサ、バッテリ電流を検出するための電流センサ、及びバッテリ温度を検出するための温度センサなどから構成されたセンサである。
【0039】
シフト位置センサSe6は、シフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。制御装置30は、シフト位置センサSe6からの入力情報に基づいて、「ドライブレンジ」、「ニュートラルレンジ」、「後進ドライブレンジ」、「パーキングレンジ」等のいずれのレンジが運転者により指定されたかを検出する。また、本実施形態では、「ドライブレンジ」の中でも、「ダウンシフト」及び「アップシフト」等の運転者の変速比変更要求、又は車両の制動力の増加要求又は減少要求を受け付けるシフト位置を変更可能な構成となっている。
【0040】
3−1.エンジン制御ユニット
エンジン制御ユニット31は、エンジン制御部41を備えている。エンジン制御部41は、エンジンEの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジンEへの燃料供給停止が指令されている場合は、エンジンEへの燃料供給を停止して、エンジンEを燃料供給停止状態に制御する。
【0041】
3−2.回転電機制御ユニット
回転電機制御ユニット32は、回転電機制御部42を備えている。回転電機制御部42は、回転電機MGの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、回転電機制御部42は、車両制御ユニット34から指令された回転電機要求トルクTrqmが指令されている場合は、回転電機要求トルクTrqmをトルク指令値に設定し、回転電機MGがトルク指令値のトルクを出力するようにトルク制御を行う。具体的には、回転電機制御部42は、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクを制御する。
【0042】
回転電機MGは、基本的に正方向に回転するため、トルク指令値が負に設定されている場合は、回転電機MGは発電を行い、発電した電力はバッテリBTに充電される。すなわち、回転電機MGは正方向に回転しつつ負方向の回生トルクを出力して発電し、バッテリBTを充電する。よって、エンジンE又は車輪Wから伝達される回転駆動力により回生発電を行う場合には、トルク指令値は負に設定される。また、回転電機制御部42は、回転電機MGに流れる電流等から、回転電機MGが実際に出力している実出力トルクなどの回転電機MGの出力トルクの情報を推定して、他の機能部に伝達するように構成されている。
【0043】
回転電機制御ユニット32は、バッテリ充電状態推定部50を備えている。バッテリ充電状態推定部50は、バッテリ充電状態検出センサSe5の入力信号に基づいて、バッテリBTの充電量SOC、劣化状態、及び満充電量を推定する。そして、バッテリ充電状態推定部50は、推定したバッテリBTの充電量SOC、劣化状態、及び満充電量を、他の機能部に伝達するように構成されている。
【0044】
3−3.動力伝達制御ユニット
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCL1の制御を行う制御装置である。動力伝達制御ユニット33には、入力軸回転速度センサSe2、出力軸回転速度センサSe3等のセンサの検出情報が入力されている。動力伝達制御ユニット33は、変速機構制御部43、及びエンジン分離クラッチ制御部44を備えている。
【0045】
3−3−1.変速機構制御部
変速機構制御部43は、変速機構TMを制御する機能部である。車両制御ユニット34から要求変速比Rrqが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令された要求変速比Rrqを目標変速比に設定し、変速機構TMに目標とされた変速比が形成されるように制御する。本実施形態では、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた各油圧サーボ機構に供給される油圧を制御することにより、入力側プーリの直径及び出力側プーリの直径を変更して、目標とされた変速比を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCに各油圧サーボ機構の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各油圧サーボ機構に供給する。
【0046】
3−3−2.エンジン分離クラッチ制御部
エンジン分離クラッチ制御部44は、エンジン分離クラッチCL1を制御する機能部である。ここで、エンジン分離クラッチ制御部44は、車両制御ユニット34から指令された要求伝達トルク容量Trqcに基づき、油圧制御装置PCを介してエンジン分離クラッチCL1に供給される油圧を制御することにより、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御する。具体的には、エンジン分離クラッチ制御部44は、要求伝達トルク容量Trqcに基づき設定した目標油圧(指令圧)を油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧をエンジン分離クラッチCL1に供給する。
【0047】
3−4.車両制御ユニット
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCL1等に対して行われる各種トルク制御、係合制御、及び変速制御等を車両全体として統合する制御を行う制御装置である。
【0048】
車両制御ユニット34は、入力軸I側から出力軸Oに伝達される目標駆動力である車両要求トルク、変速機構TMに対して要求する変速比である要求変速比Rrq、及びエンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定する。ここで、車両要求トルク、要求変速比Rrq、及び運転モードは、アクセル開度、車速、シフト位置及びバッテリBTの充電量SOC等に応じて決定される。なお、本実施形態では、後述するように、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqが、基本要求変速比Rrq_bsに設定される。
【0049】
そして、車両制御ユニット34は、エンジンEに対して要求する出力トルクであるエンジン要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルクTrqm、エンジン分離クラッチCL1に対して要求する伝達トルク容量である要求伝達トルク容量Trqcを算出し、それらを他の制御ユニット32、33及びエンジン制御ユニット31に指令して統合制御を行う機能部である。なお、本実施形態では、後述するように、負トルク側の車両要求トルクが、要求制動トルクTrqbkとして設定される。
【0050】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、シフト位置及びバッテリBTの充電量SOC等に基づいて、駆動力源の運転モードを決定する。本実施形態では、運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源とする電動モード、及び少なくともエンジンEを駆動力源とするパラレルモード等を有する。車両制御ユニット34は、バッテリBTの充電量SOCが電動モード禁止判定値を下回った場合には、電動モードを禁止して、パラレルモードに決定する。
【0051】
本実施形態では、車両制御ユニット34は、運転モードを電動モードに決定している場合は、基本的には、エンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcをゼロに設定し、エンジン分離クラッチCL1を解放状態に制御させる。これにより、駆動装置1の動力伝達機構からエンジンEが切り離され、回転電機MGの駆動力のみで車両を駆動する。このとき、車両制御ユニット34は、エンジンEへの燃料供給停止を指令する。このため、エンジンEは、回転停止状態になる。
【0052】
また、車両制御ユニット34は、電動モードにおいて車両の制動が要求されている場合であって、運転者によるシフト位置の変更を検出して、車両の制動力を増減させる指示があったと判定した場合は、負トルク側の車両要求トルク(要求制動トルクTrqbk)の大きさを増減させるように構成されている。
【0053】
本実施形態では、車両制御ユニット34は、シフト位置が「ダウンシフト」に変更されたと検出した場合に、車両の制動力を増加させる要求があったと判定して、負トルク側の車両要求トルクの大きさを増加させるように構成されている。また、車両制御ユニット34は、シフト位置が「アップシフト」に変更されたと検出した場合に、車両の制動力を減少させる要求があったと判定して、負トルク側の車両要求トルクの大きさを減少させるように構成されている。
【0054】
車両制御ユニット34は、電動モードにおいて車両の制動が要求された場合に、通常は、回転電機MGに負トルクである回生トルクを出力させる。しかし、バッテリBTの充電状態が満充電状態に近い場合は充電電流が制限されるため、回転電機MGに十分な大きさの回生トルクを出力させることができない場合がある。例えば、バッテリBTの充電状態が満充電状態に近い場合は、バッテリBT及び周辺回路を保護するために、バッテリBTに流れる充電電流を制限する必要があり、回転電機制御部42が回転電機MGの回生(発電)を制限する場合がある。
【0055】
3−4−1.制動制御部
本実施形態では、この回生トルクにより車両を十分制動できない場合にも対応できるように、車両制御ユニット34に制動制御部45が備えられている。制動制御部45は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定した場合には、エンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcを制御して、エンジン分離クラッチCL1の係合摩擦力(滑り摩擦トルク)を利用して、車両を制動するように構成されている。
【0056】
制動制御部45は、制動トルク制御実行判定部46、制動トルク設定部47、充電状態判定部48、及び制動トルク制御部49を備えている。
制動トルク制御実行判定部46は、上記したように、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、車両の制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する。制動トルク設定部47は、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する。充電状態判定部48は、回転電機MGが発電した電力により充電されるバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定する。そして、制動トルク制御部49は、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定された場合に、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する。
【0057】
上記の構成のように制動トルク制御を実行すると判定されていると共にバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定された場合に、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が制御されるので、エンジン分離クラッチCL1は、解放状態から摩擦部材間に回転速度差がある係合状態である滑り係合状態に制御される。この滑り係合状態では、エンジンE側の摩擦部材が回転停止しており、入力軸I側の摩擦部材が車速に応じて回転しているため、伝達トルク容量に等しい大きさの負トルクが、エンジン分離クラッチCL1から入力軸Iに伝達され、変速機構TMを介して出力軸Oに伝達される。この反力として、伝達トルク容量の大きさの正トルクがエンジン分離クラッチCL1からエンジンEに伝達される。エンジン分離クラッチCL1からエンジンEに伝達されるトルクが、所定の静止限界トルクを上回るとエンジンEは回転し始める。上記の構成によれば、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量は、エンジンEを回転させない範囲内、すなわち、静止限界トルク以下の範囲内に制御される。よって、静止限界トルク以下の範囲内で、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を変化させることにより、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクを制御することが可能になる。このため、エンジンEを回転させることなしに、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるように制御することができる。
【0058】
また、上記の構成によれば、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内で変速機構TMの変速比も制御される。よって、変速機構TMの変速比を変更することにより、入力軸Iに伝達された伝達トルク容量の大きさの負トルクを、増減して出力軸Oに伝達することができる。このため、要求制動トルクTrqbkの大きさが大きい場合であっても、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を静止限界トルク以下の範囲内に制御しつつ、変速機構TMの変速比を変更して、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるようにすることができる。
従って、上記の構成によれば、バッテリBTが満充電状態になった場合においても、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1を係合させて、車両の制動を精度良く行うことができる。
【0059】
本実施形態では、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量に変速機構TMの変速比を乗算して得られるトルクが要求制動トルクTrqbkとなると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量がエンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行するように構成されている。
【0060】
この構成によれば、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比と、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクとの関係式に基づいて、伝達トルク容量が上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、伝達トルク容量及び変速比が制御されるので、エンジンEの回転を防止しつつ、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクを要求制動トルクTrqbkに精度良く一致させることができる。ここで、上限トルク容量Xtcmaxは、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量がエンジンEを回転させない範囲内に設定されているので、エンジンEの回転防止の確実性を高めることができる。
【0061】
一方、制動トルク制御部49は、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定された場合には、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbk以下となる範囲内で、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する。
【0062】
この構成によれば、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定された場合は、回転電機MGに発電を行わせ、所望の負トルクを出力させることにより、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクを要求制動トルクTrqbkに精度良く一致させることができる。
【0063】
3−4−1−1.制動トルク制御の実行判定
以下で、本実施形態に係わる制動制御部45によって実行される処理について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
制動トルク制御実行判定部46は、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、車両の制動要求があったか否か判定する(ステップ♯01)。制動トルク制御実行判定部46がこれらの条件を満たすと判定した場合(ステップ♯01:Yes)には、制動トルク制御を実行すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を開始する。すなわち、ステップ♯01の処理は、制動トルク制御の実行開始判定となっている。本実施形態では、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqが、基本要求変速比Rrq_bsに設定される。
【0064】
本実施形態では、制動トルク制御実行判定部46は、エンジンEの回転速度がゼロである場合に、エンジンEの回転が停止していると判定する。また、制動トルク制御実行判定部46は、エンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcがゼロに設定されている場合、又はエンジン分離クラッチCL1に供給される油圧の目標油圧(指令圧)がストロークエンド圧未満に設定されている場合に、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態であると判定する。なお、本実施形態では、運転モードが電動モードに設定されている場合には、上記したように、基本的に、エンジン分離クラッチCL1が解放状態に制御され、エンジンEが回転停止状態に制御されるため、制動トルク制御実行判定部46は、運転モードが電動モードに設定されているか否かを判定するようにしてもよい。
【0065】
制動トルク制御実行判定部46は、車両のアクセルペダルAPの操作量を表すアクセル開度が所定の制動判定値未満である場合に、車両の制動要求があると判定する。ここで、制動判定値は、例えば、アクセル開度の操作可能幅の5%程度に対応する値に設定される。なお、制動判定値は、車速に応じて異なる値に設定されるようにしてもよい。この場合は、車速の増加に比例し、走行抵抗が増加することなどを考慮して、車速が増加するにつれ、制動判定値が増加するように設定されてもよい。
【0066】
アクセル開度に応じた車両の制動要求の有無の判定は、アクセル開度、車速、及びシフト位置などに応じて設定される車両要求トルクに基づき判定できる。よって、本実施形態では、制動トルク制御実行判定部46は、アクセル開度、及び車速などに応じて設定される車両要求トルクが負トルクに設定されている場合、すなわち車両要求トルクがゼロ未満である場合に、車両の制動要求があると判定するように構成されている。
【0067】
また、本実施形態では、制動トルク制御実行判定部46は、制動トルク制御を実行すると判定した(ステップ♯01:Yes)後、車両の制動要求がなくなったと判定した場合(ステップ♯02:No)には、制動トルク制御の実行を終了すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を終了する。すなわち、制動トルク制御実行判定部46は、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、車両の制動要求があった場合であって、引き続き車両の制動要求がある場合に、制動トルク制御を実行すると判定するように構成されている。
【0068】
3−4−1−2.要求制動トルクの設定
制動トルク設定部47は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(ステップ♯01:Yes、ステップ♯02:Yes)に、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する(ステップ♯03)。
【0069】
制動トルク設定部47は、アクセル開度が制動判定値未満である場合に、アクセル開度に応じた要求制動トルクTrqbkを設定する。本実施形態では、要求制動トルクTrqbkは、アクセル開度、車速、及びシフト位置などに応じて設定される車両要求トルクに基づいて設定されるように構成されている。すなわち、制動トルク設定部47は、アクセル開度、車速、及びシフト位置などに応じて設定される車両要求トルクがゼロ以下である場合に、負トルク側の車両要求トルクを、要求制動トルクTrqbkとして設定する。なお、要求制動トルクTrqbkは、ゼロ以下の値となる。
【0070】
3−4−1−3.バッテリの充電状態の判定
充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定する(ステップ♯04)。本実施形態では、充電状態判定部48は、バッテリ充電状態推定部50から伝達されたバッテリBTの充電量SOCなどを用いる。なお、充電状態判定部48が、バッテリ充電状態検出センサSe5の入力信号に基づいて、バッテリBTの充電量SOCなどを推定するように構成されてもよい。
【0071】
バッテリBTの充電量SOCを、満充電量まで充電すると、バッテリBTの劣化が進行する恐れがあるため、バッテリBTの充電量SOCが満充電量に近づくと、回転電機MGが発電しないように制御する必要がある。
【0072】
このため、本実施形態では、充電制限判定値Xsoc1は、バッテリBTの満充電量より小さい値に設定されている。例えば、充電制限判定値Xsoc1は、使用可能範囲として設定した充電量の上限値とされてもよい。よって、バッテリBTの劣化が進行することを抑制しつつ、回転電機MGの回生トルクの大きさが制限されて車両の制動が不十分になることを抑制して、エンジン分離クラッチCL1の滑り摩擦トルクにより、車両を制動することができる。なお、充電状態判定部48は、バッテリ充電状態推定部50から伝達された、バッテリ温度、或いは劣化状態又は満充電量に応じて充電制限判定値Xsoc1を変更するように構成されてもよい。
あるいは、充電制限判定値Xsoc1は、バッテリBTの満充電量に設定されてもよい。この場合でも、高性能なバッテリBTを用いるなどにより、回生トルクの大きさが制限されることを抑制したり、劣化の進行を抑制したり、回生発電による燃費の向上を最大限まで高めたり、することができる。
【0073】
3−4−1−4.エンジン分離クラッチの伝達トルク容量による制動
制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し(ステップ♯01:Yes、ステップ♯02:Yes)、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であると判定した(ステップ♯04:Yes)場合に、制動トルク制御部49は、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルク(以下、出力軸伝達トルクと称す)が要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する(ステップ♯05〜ステップ♯10)。
【0074】
具体的には、制動トルク制御部49は、次式のように、回転電機要求トルクTrqmをゼロに設定する(ステップ♯05)。
Trqm=0 ・・・(1)
これにより、回転電機MGの出力トルクがゼロになり、回転電機MGは回生発電を行わない状態になる。このため、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量により生じる滑り摩擦トルクのみが、変速機構TMの変速比で出力軸Oに伝達される状態になる。そして、制動トルク制御部49は、当該エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量による出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する。
【0075】
本実施形態では、制動トルク制御部49は、エンジンEを回転させない範囲内で伝達トルク容量及び変速比を制御するに際し、上記のように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量に変速機構TMの変速比を乗算して得られるトルクが要求制動トルクTrqbkとなると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量がエンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行するように構成されている(ステップ♯06〜ステップ♯10)。なお、ステップ♯06〜ステップ♯10の処理は、このような摩擦制動制御を実行するための、演算方法の一例である。
【0076】
ここで、上限トルク容量Xtcmaxは、エンジンEを回転させ始める直前のエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量である静止限界伝達トルク容量以下に設定される。なお、静止限界伝達トルク容量は、エンジンEが回転し始める直前にエンジンEにかかるトルクである静止限界トルクの大きさに等しい。すなわち、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が静止限界伝達トルク容量より大きくなると、エンジン分離クラッチCL1からエンジンEに伝達されるエンジン分離クラッチCL1の滑り摩擦トルクの大きさが、静止限界トルクの大きさを上回り、エンジンEが回転し始める。
【0077】
本実施形態では、上限トルク容量Xtcmaxは、静止限界伝達トルク容量より小さく設定されている。これにより、静止限界伝達トルク容量と上限トルク容量Xtcmaxとの間に余裕を設けることができる。よって、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が、上限トルク容量Xtcmaxをオーバーシュートして制御された場合や、静止限界トルクの特性変動や上限トルク容量Xtcmaxの設定誤差が生じた場合でも、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が、静止限界伝達トルク容量を上回ることを抑制でき、エンジンEが回転されることを抑制できる。
【0078】
また、静止限界トルクは、エンジンEの油温、水温、又は吸気温など温度条件により変化する各部の摩擦係数、或いは、吸排気弁のばね力などにより変化する各種抵抗などのエンジンEの停止条件に応じて変化する。よって、制動トルク制御部49は、エンジンEの停止条件に応じて変化する静止限界伝達トルク容量に対応するように、エンジンEの油温、水温、吸気温、又は吸排気弁のばね力等のエンジンEの停止条件に応じて上限トルク容量Xtcmaxを変化させるように構成されてもよい。
【0079】
次に、図3に示す演算方法の例について説明する。
制動トルク制御部49は、次式のように、要求制動トルクTrqbkの大きさ(絶対値)を、車両制御ユニット34がアクセル開度、車速、及びシフト位置などに応じて設定した基本要求変速比Rrq_bsで除算した値を、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに設定する(ステップ♯06)。
Trqc_tmp=|Trqbk|/Rrq_bs ・・・(2)
この仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpは、変速機構TMの変速比が基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合において、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量により生じる出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるようなエンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcである。
【0080】
そして、制動トルク制御部49は、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、エンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmaxより大きいか否か判定する(ステップ♯07)。ステップ♯07の処理は、言い換えると、変速機構TMの変速比が基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合において、要求伝達トルク容量Trqcが、上限トルク容量Xtcmaxより大きくなるか否かを判定する。
【0081】
仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが上限トルク容量Xtcmax以下であると判定された場合(ステップ♯07:No)には、制動トルク制御部49は、次式のように、変速機構TMに対する要求変速比Rrqを基本要求変速比Rrq_bsに設定すると共に、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを要求伝達トルク容量Trqcに設定する(ステップ♯08)。
Trqc=Trqc_tmp
Rrq=Rrq_bs ・・・(3)
そして、設定された要求変速比Rrq及び要求伝達トルク容量Trqcは動力伝達制御ユニット33に伝達され、動力伝達制御ユニット33により変速機構TMの変速比が要求変速比Rrqに制御され、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が要求伝達トルク容量Trqcになるように制御される。
【0082】
このように、基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合の仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内になる場合は、変速機構TMの変速比は、そのまま基本要求変速比Rrq_bsに制御されると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量は、そのまま仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに制御される。
【0083】
一方、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが上限トルク容量Xtcmaxより大きいと判定された場合(ステップ♯07:Yes)には、制動トルク制御部49は、次式のように、要求伝達トルク容量Trqcを、上限トルク容量Xtcmaxに設定する(ステップ♯09)。
Trqc=Xtcmax ・・・(4)
すなわち、制動トルク制御部49は、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを上限トルク容量Xtcmaxで上限制限する。そして、制動トルク制御部49は、次式のように、要求制動トルクTrqbkの大きさを、要求伝達トルク容量Trqc(上限トルク容量Xtcmax)で乗算した値を、要求変速比Rrqに設定する(ステップ♯10)。
Rrq=|Trqbk|/Trqc ・・・(5)
そして、設定された要求変速比Rrq及び要求伝達トルク容量Trqcは動力伝達制御ユニット33に伝達され、動力伝達制御ユニット33により変速機構TMの変速比が要求変速比Rrqに制御され、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が要求伝達トルク容量Trqcに制御される。
【0084】
このように、基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合の仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内にならない場合は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量は、上限トルク容量Xtcmaxに制御されると共に、変速機構TMの変速比は、伝達トルク容量が上限トルク容量Xtcmaxに制御された場合において、出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるような変速比に制御される。
【0085】
3−4−1−5.回転電機の回生発電による制動
一方、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し(ステップ♯01:Yes、ステップ♯02:Yes)、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1未満であると判定した(ステップ♯04:No)場合に、制動トルク制御部49は、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbk以下となる範囲内で、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する(ステップ♯11)。
【0086】
本実施形態では、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1未満であると判定された場合には、エンジン分離クラッチCL1を解放したままに制御させる。そして、制動トルク制御部49は、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkになるように、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する(ステップ♯11)。具体的には、制動トルク制御部49は、次式のように、要求制動トルクTrqbkを、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqに設定された基本要求変速比Rrq_bsで除算した値を、回転電機要求トルクTrqmに設定すると共に、基本要求変速比Rrq_bsをそのまま要求変速比Rrqに設定する。なお、この場合は、エンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcはゼロに設定される。
Trqm=Trqbk/Rrq_bs
Rrq=Rrq_bs ・・・(6)
【0087】
制動制御部45は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定する場合(ステップ♯02:Yes)は、一連の制動トルク制御の処理(ステップ♯02〜ステップ♯11)を、繰り返し(例えば、所定演算周期毎に)実行する。一方、制動制御部45は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行しないと判定した場合(ステップ♯02:No)は、一連の制動トルク制御の処理を終了する。
【0088】
3−4−1−6.タイムチャート
次に、制動制御部45によって実行される処理について、図4に示すタイムチャートの例を参照して説明する。
制動トルク制御実行判定部46は、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、アクセル開度の減少などにより、車両の制動要求があったと判定した場合(時刻t11)に、制動トルク制御を実行すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を開始する。
【0089】
制動トルク設定部47は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(時刻t11から時刻t15)に、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する。
【0090】
そして、充電状態判定部48は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(時刻t11から時刻t15)に、バッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定する。図4に示す例では、充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定している(時刻t11から時刻t15)。
【0091】
制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であると判定している場合(時刻t11から時刻t15)に、制動トルク制御部49は、入力軸I側から出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する。図4に示す例では、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量に変速機構TMの変速比を乗算して得られるトルクが要求制動トルクTrqbkとなると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量がエンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行している(時刻t11から時刻t15)。
【0092】
時刻t11から時刻t13までは、要求制動トルクTrqbkの大きさが比較的小さく、変速機構TMの要求変速比Rrqを基本要求変速比Rrq_bsに設定しても、出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkとなるように設定される要求伝達トルク容量Trqcは、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内になる。よって、制動トルク制御部49は、変速機構TMの要求変速比Rrqを基本要求変速比Rrq_bsのままに設定すると共にエンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcを、要求制動トルクTrqbkの大きさを基本要求変速比Rrq_bsで除算した値に設定している(時刻t11から時刻t13)。
【0093】
本例では、車両制御ユニット34は、時刻t12でシフト位置の変更を検出し、車両の制動力を増加させる要求があったと判定して、負トルク側の車両要求トルク(要求制動トルクTrqbk)の大きさを徐々に増加させている(時刻t12から時刻t14)。なお、アクセル開度、車速が変化した場合も、車両要求トルクが変化され得る。
【0094】
このように、要求制動トルクTrqbkの大きさが増加されていくと、要求制動トルクTrqbkの大きさを基本要求変速比Rrq_bsで除算して設定される要求伝達トルク容量Trqcが増加されていく(時刻t12から時刻t13)。基本要求変速比Rrq_bsに基づいて設定された要求伝達トルク容量Trqcが増加して、上限トルク容量Xtcmaxより大きくなる場合(時刻t13から時刻t15)には、要求伝達トルク容量Trqcは、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内になるように上限制限されて、上限トルク容量Xtcmaxに設定されると共に、要求変速比Rrqは、要求伝達トルク容量Trqcが上限トルク容量Xtcmaxに設定された場合において、出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるような変速比に設定される。具体的には、要求変速比Rrqは、要求制動トルクTrqbkの大きさを、上限トルク容量Xtcmaxに設定された要求伝達トルク容量Trqcで除算した値に設定される。この場合は、要求変速比Rrqが、基本要求変速比Rrq_bsより増加される。
【0095】
そして、制動トルク制御実行判定部46が、アクセル開度の増加などにより、車両の制動要求がなくなったと判定した場合(時刻t15)に、制動トルク制御を実行しないと判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を終了する。
【0096】
〔第二の実施形態〕
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。上記の第一の実施形態では、充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定するように構成されている場合を例として説明した。
また、上記の第一の実施形態では、制動トルク制御部49は、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定された場合に、回転電機MGに発電を行わせず、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行するように構成されている場合を例として説明した。一方、制動トルク制御部49は、制動トルク制御を実行すると判定されていると共に充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定された場合には、エンジン分離クラッチCL1の制御を行わず、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbk以下となる範囲内で、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する場合を例として説明した。
【0097】
しかし、本実施形態では、充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定した場合に、更に、充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1より小さい値に設定された第二充電制限判定値Xsoc2以上であるか否かを判定するように構成されている。
そして、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2以上であると判定した場合に、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させて発電を行わせ、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクとエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計が要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御するように構成されている。
【0098】
よって、上記の第一の実施形態と本実施形態では、制動制御部45における充電状態判定部48及び制動トルク制御部49の構成が相違する。その他の構成は、第一の実施形態と同様とすることができる。従って、上記の第一の実施形態との相違点について以下に説明する。
【0099】
4.制動制御部
上記の第一の実施形態では、制動制御部45は、バッテリBTの充電量SOCが満充電状態に近く、回転電機MGに十分な大きさの回生トルクを出力させることができない場合に、回転電機MGに回生トルクを出力させず、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を生じさせることにより、車両を制動するように構成されていた。
しかし、本実施形態では、制動制御部45は、回転電機MGに十分な大きさの回生トルクを出力させることができない場合でも、回転電機MGに出力可能な範囲内で回生トルクを出力させ、回転電機MGの回生トルクだけでは不足する分を、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を生じさせることにより補って、車両を制動するように構成されている。
【0100】
具体的には、上記したように、本実施形態に係わる充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定した場合に、更に、充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1より小さい値に設定された第二充電制限判定値Xsoc2以上であるか否かを判定するように構成されている。
また、本実施形態に係わる制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2以上であると判定した場合に、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させて発電を行わせる発電制動制御を実行し、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクとエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計が要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行するように構成されている。
【0101】
この構成によれば、バッテリBTの充電量SOCが満充電状態に近い場合など、蓄電装置への充電電力が制限されるものの制限範囲内で回転電機MGに発電を行わせることが可能な場合に、その充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させることができる。このため、バッテリBTへの充電電力が制限される場合でも、満充電状態ぎりぎりになるまでバッテリBTに充電を行うことができる。これによって、運動エネルギーの回生効率を限界近くまで高めることができ、燃費向上を図ることができる。
【0102】
また、バッテリBTへの充電電力が制限される場合でも、回転電機MGにトルクを出力させることにより、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクを要求制動トルクTrqbkに精度良く一致させることができる。また、回転電機MGにトルクを出力させることにより、エンジン分離クラッチCL1の摩擦熱を低減することができ、エンジン分離クラッチCL1への熱負荷を軽減することができる。
【0103】
4−1.制動トルク制御の実行判定
以下で、本実施形態に係わる制動制御部45によって実行される処理について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
制動トルク制御実行判定部46は、第一の実施形態と同様に、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、車両の制動要求があったか否か判定する(ステップ♯21)。制動トルク制御実行判定部46が車両の制動要求があったと判定した場合(ステップ♯21:Yes)には、制動トルク制御を実行すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を開始する。
【0104】
また、制動トルク制御実行判定部46は、第一の実施形態と同様に、制動トルク制御を実行すると判定した(ステップ♯21:Yes)後、車両の制動要求がなくなったと判定した場合(ステップ♯22:No)には、制動トルク制御の実行を終了すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を終了する。
【0105】
4−2.要求制動トルクの設定
制動トルク設定部47は、第一の実施形態と同様に、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(ステップ♯21:Yes、ステップ♯22:Yes)に、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する(ステップ♯23)。
【0106】
4−3.バッテリの充電状態の判定
充電状態判定部48は、第一の実施形態と同様に、バッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定する(ステップ♯24)。本実施形態では、充電状態判定部48は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であると判定した場合(ステップ♯24:No)に、更に、充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1より小さい値に設定された第二充電制限判定値Xsoc2以上であるか否かを判定するように構成されている(ステップ♯32)。
【0107】
第二充電制限判定値Xsoc2は、バッテリBTの満充電量より小さい値であって、本実施形態における充電制限判定値Xsoc1より小さい値に設定されている。ここで、本実施形態における充電制限判定値Xsoc1は、第一の実施形態における充電制限判定値Xsoc1と同様の値に設定される。あるいは、本実施形態における充電制限判定値Xsoc1は、第一の実施形態における充電制限判定値Xsoc1よりも大きい値、又は小さい値に設定されてもよい。また、充電状態判定部48は、バッテリBTのバッテリ温度、劣化状態、又は満充電量に応じて、充電制限判定値Xsoc1及び第二充電制限判定値Xsoc2を変更するように構成されてもよい。
【0108】
4−4.エンジン分離クラッチの伝達トルク容量による制動
制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し(ステップ♯21:Yes、ステップ♯22:Yes)、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であると判定した(ステップ♯24:Yes)場合に、制動トルク制御部49は、上記の第一の実施形態と同様に、入力軸I側から出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジンEを回転させない範囲内でエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を制御すると共に変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する(ステップ♯25〜ステップ♯30)。
ステップ♯25〜ステップ♯30の処理は、上記の第一の実施形態におけるステップ♯05〜ステップ♯10の処理と同様であり、説明は省略する。
【0109】
4−5.回生発電及び伝達トルク容量による制動
一方、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し(ステップ♯21:Yes、ステップ♯22:Yes)、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1未満であると判定した(ステップ♯24:No)場合に、制動トルク制御部49は、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbk以下となる範囲内で、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する(ステップ♯31〜ステップ♯38)。
【0110】
本実施形態では、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって(ステップ♯24:No)、第二充電制限判定値Xsoc2未満である(ステップ♯32:No)と判定した場合に、制動トルク制御部49は、上記の第一の実施形態と同様に、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkになるように、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する(ステップ♯31)。具体的には、制動トルク制御部49は、式(6)で示したように、要求制動トルクTrqbkを、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqに設定された基本要求変速比Rrq_bsで除算した値を、回転電機要求トルクTrqmに設定すると共に、基本要求変速比Rrq_bsをそのまま要求変速比Rrqに設定する。なお、この場合は、エンジン分離クラッチCL1の要求伝達トルク容量Trqcはゼロに設定される。
【0111】
充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって(ステップ♯24:No)、第二充電制限判定値Xsoc2以上である(ステップ♯32:Yes)と判定した場合に、本実施形態における制動トルク制御部49は、上記したように、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させて発電を行わせる発電制動制御を実行すると共に、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクとエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計が要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する(ステップ♯31〜ステップ♯38)。
【0112】
図5に示す演算方法の例では、ステップ♯33で、制動トルク制御部49は、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させて発電を行わせる発電制動制御を実行する。
【0113】
具体的には、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCに基づいて回生トルク制限値Xtrg(負トルク)を設定する。そして、制動トルク制御部49は、次式で示すように、要求制動トルクTrqbk(負トルク)を基本要求変速比Rrq_bsで除算した値を、回生トルク制限値Xtrgで下限制限した値を、回転電機要求トルクTrqmに設定する。
Trqm=max(Trqbk/Rrq_bs、Xtrg) ・・・(7)
そして、設定された回転電機要求トルクTrqmは回転電機制御ユニット32に伝達され、回転電機制御ユニット32により回転電機MGの出力トルクが回転電機要求トルクTrqmに制御される。
【0114】
回生トルク制限値Xtrgは、バッテリBTの充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じて変化する、回生トルクの下限値(回生トルクの大きさの上限値)に対応する値である。この回生トルク制限値Xtrgの値は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1に近づくにつれ、ゼロ付近まで徐々に減少する充電許容電力に応じて定まる。例えば、回生トルク制限値Xtrgの値は、所定の時間でバッテリBTの充電量SOCを充電制限判定値Xsoc1とする充電電力に応じて定まる。よって、バッテリBTの充電量SOCが、充電制限判定値Xsoc1に近づくにつれ、回生発電による充電電力が徐々にゼロ付近まで低下され、充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1を超えないようになっている。
【0115】
本実施形態では、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCに応じて回生トルク制限値Xtrgが設定されたマップを備えており、当該マップとバッテリBTの充電量SOCとに基づいて、回生トルク制限値Xtrgを設定する。なお、バッテリBTの充電量SOCとして、満充電量に対する充電量の相対関係を表す相対状態量が用いられるようにしてもよい。
【0116】
なお、回転電機MGの回生トルクの大きさは、バッテリBTに充電される電力(電流)に比例すると共に、回転電機MGの回転速度に反比例する。すなわち、バッテリBTの充電量SOCに応じて定まる充電許容電力を、回転電機MGの回転速度で除算した値が、回生トルク制限値Xtrgの大きさとなる。よって、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOC及び回転電機MGの回転速度に基づき回生トルク制限値Xtrgを決定するように構成されてもよい。具体的には、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCに基づいて設定した回生トルク制限値Xtrgを、回転電機MGの回転速度に応じて補正するように構成されてもよい。或いは、制動トルク制御部49は、バッテリBTの充電量SOCに基づいて設定した充電許容電力を、回転電機MGの回転速度で除算した値に−1を乗算した値を回生トルク制限値Xtrgに設定するように構成されてもよい。
【0117】
なお、回転電機MGの回生トルクは、回生トルク制限値Xtrgで下限制限されない場合でも、回転電機MGの性能又は制御方法などで定まる出力限界値で制限される。このため、制動トルク制御部49は、この回生トルクの出力限界値も考慮して回生トルク制限値Xtrgを決定する。すなわち、制動トルク制御部49は、次式のように、バッテリBTの充電量SOCなどに基づいて設定した回生トルク制限値Xtrgを、回転電機MGの性能等により定まる回生トルクの出力限界値で下限制限した値を、回生トルク制限値Xtrgに設定する。
Xtrg=max(Xtrg、出力限界値) ・・・(8)
【0118】
図5に示す演算方法の例では、ステップ♯34で、制動トルク制御部49は、次式のように、要求制動トルクTrqbkの大きさ(絶対値)を、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqに設定された基本要求変速比Rrq_bsで除算した値から、回転電機要求トルクTrqmの大きさ(絶対値)を引き算した値を、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに設定する。
Trqc_tmp=|Trqbk|/Rrq_bs−|Trqm| ・・・(9)
【0119】
式(9)を、要求制動トルクTrqbkの大きさについて整理すると次式を得る。
|Trqbk|=(Trqc_tmp+|Trqm|)×Rrq_bs
・・・(10)
式(10)からわかるように、式(9)で設定される仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpは、変速機構TMの変速比が基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合において、回転電機MGの回生トルク及びエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量により入力軸I側から出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるような要求伝達トルク容量Trqcである。すなわち、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpがそのまま設定可能であれば、回転電機要求トルクTrqmに基づき回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクと、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに基づきエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計は、要求制動トルクTrqbkとなる。
【0120】
そして、制動トルク制御部49は、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、エンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmaxより大きいか否か判定する(ステップ♯35)。仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが上限トルク容量Xtcmax以下であると判定された場合(ステップ♯35:No)には、制動トルク制御部49は、式(3)で示したように、変速機構TMに対する要求変速比Rrqを基本要求変速比Rrq_bsに設定すると共に、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを要求伝達トルク容量Trqcに設定する(ステップ♯36)。
そして、設定された要求変速比Rrq及び要求伝達トルク容量Trqcは動力伝達制御ユニット33に伝達され、動力伝達制御ユニット33により変速機構TMの変速比が要求変速比Rrqに制御され、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が要求伝達トルク容量Trqcに制御される。
【0121】
このように、基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合の仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内になる場合は、変速機構TMの変速比は、そのまま基本要求変速比Rrq_bsに制御されると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量は、そのまま仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに制御される。よって、回転電機要求トルクTrqmに基づき回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクと、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpに基づきエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計は、要求制動トルクTrqbkとなる。
【0122】
一方、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが上限トルク容量Xtcmaxより大きいと判定された場合(ステップ♯35:Yes)には、制動トルク制御部49は、式(4)で示したように、要求伝達トルク容量Trqcを、上限トルク容量Xtcmaxに設定する(ステップ♯37)。すなわち、制動トルク制御部49は、仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを上限トルク容量Xtcmaxで上限制限する。そして、制動トルク制御部49は、次式で示すように、要求制動トルクTrqbkの大きさ(絶対値)を、要求伝達トルク容量Trqc(上限トルク容量Xtcmax)とステップ♯33で設定した回転電機要求トルクTrqmの大きさ(絶対値)とを加算した値で乗算した値を、要求変速比Rrqに設定する(ステップ♯38)。
Rrq=|Trqbk|/(Trqc+|Trqm|) ・・・(11)
そして、設定された要求変速比Rrq及び要求伝達トルク容量Trqcは動力伝達制御ユニット33に伝達され、動力伝達制御ユニット33により変速機構TMの変速比が要求変速比Rrqに制御され、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が要求伝達トルク容量Trqcに制御される。
【0123】
このように、基本要求変速比Rrq_bsに制御されると仮定した場合の仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpが、上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内にならない場合は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量は、上限トルク容量Xtcmaxに制御されると共に、変速機構TMの変速比は、伝達トルク容量が上限トルク容量Xtcmaxに制御された場合において、回転電機MGの回生トルク及びエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量により入力軸I側から出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるような変速比に制御される。
【0124】
制動制御部45は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定する場合(ステップ♯22:Yes)は、一連の制動トルク制御の処理(ステップ♯22〜ステップ♯38)を、繰り返し(例えば、所定演算周期毎に)実行する。一方、制動制御部45は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行しないと判定した場合(ステップ♯22:No)は、一連の制動トルク制御の処理を終了する。
【0125】
4−5.タイムチャート
次に、本実施形態における制動制御部45によって実行される処理について、図6に示すタイムチャートの例を参照して説明する。
制動トルク制御実行判定部46は、エンジンEの回転が停止し、エンジン分離クラッチCL1が解放された状態で、アクセル開度の減少などにより、車両の制動要求があったと判定した場合(時刻t21)に、制動トルク制御を実行すると判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を開始する。
【0126】
制動トルク設定部47は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(時刻t21から時刻t25)に、出力軸Oに伝達すべき制動トルクである要求制動トルクTrqbkを設定する。
【0127】
そして、充電状態判定部48は、制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定している場合(時刻t21から時刻t24)に、バッテリBTの充電量SOCが所定の充電制限判定値Xsoc1以上であるか否かを判定し、当該判定が充電制限判定値Xsoc1以上でない(未満である)という判定であった場合に、更に、充電量SOCが第二充電制限判定値Xsoc2以上であるか否かを判定する。
図6に示す例では、制動トルク制御の実行を開始する時点(時刻t21)では、バッテリBTの充電量SOCは、第二充電制限判定値Xsoc2未満である。そして、図6に示す例では、制動トルク制御の実行中に回生発電が行われて(時刻t21から時刻t24)、バッテリBTの充電量SOCが次第に増加していき、時刻t22で第二充電制限判定値Xsoc2に到達し、時刻t24で充電制限判定値Xsoc1に到達している。
【0128】
よって、充電状態判定部48は、時刻t21から時刻t22までの期間は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2未満であると判定しており、時刻t22から時刻t24までの期間は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2以上であると判定しており、時刻t24から時刻t25までの期間は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定している。
【0129】
制動トルク制御実行判定部46が制動トルク制御を実行すると判定し、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2未満であると判定している場合(時刻t21から時刻t22)に、制動トルク制御部49は、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクが要求制動トルクTrqbkになるように、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御を実行する。本実施形態では、要求制動トルクTrqbkを基本要求変速比Rrq_bsで除算した値を、回転電機要求トルクTrqmに設定する。
【0130】
そして、充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1未満であって、第二充電制限判定値Xsoc2以上であると判定している場合(時刻t22から時刻t24)に、制動トルク制御部49は、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させて発電を行わせる発電制動制御を実行すると共に、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクとエンジン分離クラッチCL1を介して出力軸Oに伝達されるトルクとの合計が要求制動トルクTrqbkとなるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する。
【0131】
図6に示す例では、バッテリBTの充電量SOCに基づき設定される回生トルク制限値Xtrgは、要求制動トルクTrqbkを基本変速比で除算した値より大きくなっているため、要求制動トルクTrqbkを基本要求変速比Rrq_bsで除算した値は、回生トルク制限値Xtrgで下限制限されており、回生トルク制限値Xtrgが回転電機要求トルクTrqmに設定されている(時刻t22から時刻t24)。
また、この時刻t22から時刻t24までの期間では、回転電機要求トルクTrqmが負トルクに設定され、回生発電が行われているため、バッテリBTの充電量SOCが徐々に増加しており、充電許容電力が減少していく。そして、この充電量SOCの増加に応じて、回生トルク制限値Xtrgはゼロ付近まで徐々に増加されている。これにより、バッテリBTの充電量SOCが、第二充電制限判定値Xsoc2以上になった場合に、充電量SOCに応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを回転電機MGに出力させ発電を行わせて、バッテリBTの充電量SOCを次第に増加させることによって充電制限判定値Xsoc1を超えることを防止しつつ、充電制限判定値Xsoc1まで増加させることができている。
【0132】
また、回転電機MGの回生トルクが制限されているので、回転電機MGから出力軸Oに伝達されるトルクは、要求制動トルクTrqbkに対して不足している。この回生トルクの不足分を補うように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比が制御されている(時刻22から時刻t24)。よって、入力軸Iから出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクは、回転電機MGの回生トルクとエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量との合計により、要求制動トルクTrqbkに一致している。
【0133】
回生トルク制限値Xtrgの増加により、回生トルクの大きさが減少していくと、制動トルク制御部49は、この回生トルクの不足トルク分を補うように、要求伝達トルク容量Trqcを増加させていく(時刻t22から時刻23)。そして、要求伝達トルク容量Trqcが、エンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmaxに到達して上限制限されると、制動トルク制御部49は、要求変速比Reqを基本要求変速比Rrq_bsより増加させて、回生トルク制限値Xtrgにより制限された回生トルクと、上限トルク容量Xtcmaxにより制限された伝達トルク容量とにより、出力軸Oに伝達される出力軸伝達トルクの大きさを増加させて、要求制動トルクTrqbkの大きさに一致させている(時刻t23から時刻t24)。
【0134】
時刻t24から時刻t25までの期間は、バッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定している。
【0135】
充電状態判定部48がバッテリBTの充電量SOCが充電制限判定値Xsoc1以上であると判定している場合(時刻t24から時刻t25)に、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量に変速機構TMの変速比を乗算して得られるトルクが要求制動トルクTrqbkとなると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量がエンジンEを回転させない範囲内に設定された上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御する摩擦制動制御を実行する。
【0136】
そして、制動トルク制御実行判定部46がアクセル開度の増加などにより、車両の制動要求がなくなったと判定した場合(時刻t25)に、制動トルク制御を実行しないと判定し、本実施形態に係わる一連の制動トルク制御を終了する。
【0137】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0138】
(1)上記の各実施形態においては、図1で示したように、回転電機MGは、入力軸Iに駆動連結されて、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、図7に示すように、回転電機MGは、出力軸Oに駆動連結されて、入力軸Iと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路上に設けられる構成としても良い。この場合、回転電機MGの回生トルクは、変速機構TMを介さずに直接、出力軸Oに伝達されるため、ステップ♯11又はステップ♯31で設定される回転電機要求トルクTrqmは、式(6)に代えて次式で設定される。
Trqm=Trqbk ・・・(12)
また、ステップ♯33で設定される回転電機要求トルクTrqmは、式(7)に代えて次式で設定される。
Trqm=max(Trqbk、Xtrg) ・・・(13)
また、ステップ♯34で設定される仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpは、式(9)に代えて次式で設定される。
Trqc_tmp=(|Trqbk|−|Trqm|)/Rrq_bs
・・・(14)
また、ステップ♯38で設定される要求変速比Rrqは、式(11)に代えて次式で設定される。
Rrq=(|Trqbk|−|Trqm|)/Trqc ・・・(15)
【0139】
(2)駆動装置1は、図8に示すように、トルクコンバータTCを備える構成としても良い。ここで、トルクコンバータTCは、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路上に備えられ、駆動力源側から入力軸Iに伝達されるトルクを、流体継手又はロックアップクラッチCL2を介して変速機構TMに伝達する装置である。このトルクコンバータTCは、入力軸Iに駆動連結されたポンプインペラTCaと、変速機構TMに駆動連結されたタービンランナTCbと、これらの間に設けられたステータTCcと、を備えて構成されている。そして、トルクコンバータTCは、内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラTCaと従動側のタービンランナTCbとの間のトルクの伝達を行う、流体継手として機能する。ロックアップクラッチCL2は、伝達効率を高めるために、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとを一体回転させるように連結するクラッチである。また、動力伝達制御ユニット33は、油圧制御装置PCを介して、ロックアップクラッチCL2を係合又は解放状態に制御するように構成されている。そして、ロックアップクラッチCL2は、制動トルク制御が実行されている場合に、基本的に直結係合状態に制御される。なお、ロックアップクラッチCL2は、制動トルク制御が実行されている場合に、滑り係合状態に制御されてもよい。
【0140】
(3)駆動装置1は、図9に示すように、第二クラッチCL2を備える構成としても良い。ここで、第二クラッチCL2は、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路上に備えられ、エンジン分離クラッチCL1と同様の摩擦係合要素である。また、動力伝達制御ユニット33は、油圧制御装置PCを介して、第二クラッチCL2を係合又は解放状態に制御するように構成されている。そして、第二クラッチCL2は、制動トルク制御が実行されている場合に、基本的に直結係合状態に制御される。なお、第二クラッチCL2は、制動トルク制御が実行されている場合に、滑り係合状態に制御されてもよい。
【0141】
(4)上記の各実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部42〜50を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部42〜50の分担も任意に設定することができる。
【0142】
(5)上記の各実施形態において、変速機構TMは、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速機構である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速機構である構成でもよい。この場合でも、制動制御部45は、変速段を変更することにより変速比を制御するように構成される。
【0143】
(6)上記の各実施形態において、制動制御部45は、制動トルク制御の開始時の要求変速比Rrqを、基本要求変速比Rrq_bsに設定し、制動トルク制御部49は、基本的に、変速機構TMの変速比を基本要求変速比Rrq_bsに制御し、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量(仮要求伝達トルク容量Trqc_tmp)が、上限トルク容量Xtcmaxより大きくなると判定した場合(ステップ♯07:Yes、ステップ♯27:Yes、ステップ♯35:Yes)には、変速機構TMの変速比を基本要求変速比Rrq_bsから変化させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制動トルク制御部49は、基本的に、変速機構TMの変速比を基本要求変速比Rrq_bs以外の変速比、例えば、変速比の最小値(下限値)、変速比の最大値(上限値)、又は車両制御ユニット34がアクセル開度、及び車速などに応じて決定する要求変速比Rrqなどに、制御されてもよい。この場合にエンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が、上限トルク容量Xtcmaxより大きくなると判定した場合は、変速機構TMの変速比を、前記の基本要求変速比Rrq_bs以外の変速比(変速比の最小値等)から変化させるようにしてもよい。
【0144】
あるいは、回転電機MGに発電を行わせる発電制動制御のみが実行される場合には、制動トルク制御部49は、変速機構TMの変速比を、基本要求変速比Rrq_bsに代えて、車両制御ユニット34がアクセル開度、及び車速などに応じて決定する要求変速比Rrqに制御させてもよい。この場合、ステップ♯11又はステップ♯31で設定される回転電機要求トルクTrqm及び要求変速比Rrqは、式(6)に代えて次式で設定される。
Trqm=Trqbk/Rrq ・・・(16)
【0145】
(7)上記の各実施形態において、制動トルク制御部49は、変速機構TMの変速比を所定値(基本要求変速比Rrq_bs)に制御されると仮定した場合に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量(仮要求伝達トルク容量Trqc_tmp)が、上限トルク容量Xtcmaxより大きくなると判定した場合(ステップ♯07:Yes、ステップ♯27:Yes、ステップ♯35:Yes)に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を上限トルク容量Xtcmaxに制御させ、変速機構TMの変速比を変化させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量に変速機構TMの変速比を乗算して得られるトルクが要求制動トルクTrqbkとなると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量が上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比が制御されれば何れの演算方法を用いてもよい。例えば、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を上限トルク容量Xtcmax以下の所定値に制御し、変速機構TMの変速比を変化させるようにしてもよい。この場合、制動トルク制御部49は、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を上限トルク容量Xtcmax以下の所定値に制御すると仮定した場合に、変速機構TMの変速比が、変速比の最小値(下限値)から変速比の最大値(上限値)までの範囲内にならないと判定した場合に、変速機構TMの変速比を最小値(下限値)又は変速比の最大値(上限値)に制御すると共に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を前記の所定値から変化させるようにしてもよい。
【0146】
(8)上記の各実施形態において、制動トルク制御部49は、要求伝達トルク容量Trqcが上限トルク容量Xtcmax以下の範囲内にならないと判定した場合に、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量を、上限トルク容量Xtcmaxに制御させると共に、変速機構TMの変速比を、伝達トルク容量が上限トルク容量Xtcmaxに制御された場合において、出力軸伝達トルクが要求制動トルクTrqbkになるような変速比に制御させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制動トルク制御部49は、上限トルク容量Xtcmax以下となる範囲内になるように、エンジン分離クラッチCL1の伝達トルク容量及び変速機構TMの変速比を制御すればよく、例えば、要求伝達トルク容量Trqcが余裕を持って上限トルク容量Xtcmax以下になるように、変速比を上記の各実施形態より更に大きい側に制御させたり、要求制動トルクTrqbkに応じて、要求伝達トルク容量Trqc及び要求変速比Rrqを同時に変更するようにしたりすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0147】
(9)上記の第二の実施形態において、制動トルク制御部49は、ステップ♯34において式(9)に従い仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを設定する際、及びステップ♯38において式(11)に従い要求変速比Rrqを設定する際に、回転電機要求トルクTrqmを用いる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制動トルク制御部49は、ステップ♯34において式(9)に従い仮要求伝達トルク容量Trqc_tmpを設定する際、及びステップ♯38において式(11)に従い要求変速比Rrqを設定する際に、回転電機要求トルクTrqmに代えて、回転電機MGが実際に出力しているトルクの推定値を用いるように構成されてもよい。この場合、回転電機制御部42が回転電機MGに流れる電流等から推定した回転電機MGの出力トルクの情報を用いるように構成されてもよい。
【0148】
(10)上記の各実施形態において、アクセル開度が所定の所定値未満のコースト走行中の制御を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制動制御部45は、ブレーキペダルの操作量に応じて、車両の制動要求の有無を判定し、ブレーキペダルの操作量に応じて要求制動トルクTrqbkを設定するように構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、摩擦係合装置を介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に設けられた回転電機と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 :駆動装置(車両用駆動装置)
30 :制御装置
31 :エンジン制御ユニット
32 :回転電機制御ユニット
33 :動力伝達制御ユニット
34 :車両制御ユニット
41 :エンジン制御部
42 :回転電機制御部
43 :変速機構制御部
44 :エンジン分離クラッチ制御部
45 :制動制御部
46 :制動トルク制御実行判定部
47 :制動トルク設定部
48 :充電状態判定部
49 :制動トルク制御部
50 :バッテリ充電状態推定部
AP :アクセルペダル
BT :バッテリ
CL1 :エンジン分離クラッチ(摩擦係合装置)
E :エンジン(内燃機関)
MG :回転電機
TM :変速機構
I :入力軸(入力部材)
O :出力軸(出力部材)
IN :インバータ
PC :油圧制御装置
Rrq :要求変速比
Rrq_bs:基本要求変速比
SOC :充電量
Se1 :エンジン回転速度センサ
Se2 :入力軸回転速度センサ
Se3 :出力軸回転速度センサ
Se4 :アクセル開度検出センサ
Se5 :バッテリ充電状態検出センサ
Se6 :シフト位置センサ
Trqbk:要求制動トルク
Trqc :要求伝達トルク容量
Trqc_tmp:仮要求伝達トルク容量
Trqm :回転電機要求トルク
W :車輪
Xsoc1:充電制限判定値
Xsoc2:第二充電制限判定値
Xtcmax:上限トルク容量
Xtrg :回生トルク制限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係合装置を介して内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記入力部材の回転を変速して前記出力部材に伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構と、前記入力部材と前記出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に設けられた回転電機と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、
前記内燃機関の回転が停止し、前記摩擦係合装置が解放された状態で、車両の制動要求があった場合に、制動トルク制御を実行すると判定する制動トルク制御実行判定部と、
前記出力部材に伝達すべき制動トルクである要求制動トルクを設定する制動トルク設定部と、
前記回転電機が発電した電力により充電される蓄電装置の充電量が所定の充電制限判定値以上であるか否かを判定する充電状態判定部と、
前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電量が前記充電制限判定値以上であると判定された場合に、前記入力部材側から前記出力部材に伝達されるトルクが前記要求制動トルクとなるように、前記内燃機関を回転させない範囲内で前記摩擦係合装置の伝達トルク容量を制御すると共に前記変速機構の変速比を制御するトルク制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記変速機構の変速比は、前記入力部材の回転速度を前記出力部材の回転速度で除算した値であり、
前記トルク制御部は、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量に前記変速機構の変速比を乗算して得られるトルクが前記要求制動トルクとなると共に、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量が前記内燃機関を回転させない範囲内に設定された上限トルク容量以下となる範囲内になるように、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量及び前記変速機構の変速比を制御する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルク制御部は、前記制動トルク制御を実行すると判定されていると共に前記充電量が前記充電制限判定値未満であると判定された場合に、前記回転電機から前記出力部材に伝達されるトルクが前記要求制動トルク以下となる範囲内で、前記回転電機に発電を行わせる請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記充電状態判定部は、前記充電量が前記充電制限判定値未満であると判定した場合に、更に、前記充電量が前記充電制限判定値より小さい値に設定された第二充電制限判定値以上であるか否かを判定し、
前記トルク制御部は、前記充電量が前記第二充電制限判定値以上であると判定した場合に、前記充電量に応じて定まる充電許容電力に応じたトルクを前記回転電機に出力させて発電を行わせ、前記回転電機から前記出力部材に伝達されるトルクと前記摩擦係合装置を介して前記出力部材に伝達されるトルクとの合計が前記要求制動トルクとなるように、前記摩擦係合装置の伝達トルク容量及び前記変速機構の変速比を制御する請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制動トルク制御実行判定部は、前記車両のアクセルペダルの操作量を表すアクセル開度が所定の制動判定値未満である場合に、車両の制動要求があると判定する請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−148701(P2012−148701A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9759(P2011−9759)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】