説明

車載用通信装置

【課題】車車間通信及び路車間通信に適した低コストで実現可能な車載用通信装置を提供する。
【解決手段】車載用通信装置1は、車両に備えられる、水平面に対し全方向に亘って一様な指向特性を有する無指向性アンテナ11と、車両に少なくとも一つ備えられる、特定の方向に対して指向特性を有する指向性アンテナ12と、車両から情報を発信する場合には送信情報に応じて無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12のいずれか一方に切り替え、空中伝搬する送信波を受信する場合には受信待ちの情報に応じて無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12のいずれか一方に切り替えるアンテナ切替部21と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される通信装置を介して道路に設置されているインフラ機器からの道路情報を当該車両に送る「路車間通信」や車両に搭載される通信装置を用いて他の車両に直接情報を送る「車車間通信」の開発が行われている。このような技術は、車両の安全性を向上させることを目的の一つとして行われている。
【0003】
例えば、このような技術を利用することにより、見通しの悪い交差点等における出会い頭の事故を防止することができる。見通しの悪い交差点にあっては、車両のフロント部に取り付けられたアンテナを介して自車がいる方向に向かってくる他の車両に対して自車が交差点に接近していることを示す。これにより、他の車両は自車の交差点への接近を予め認識することが可能となる。このような場合には、指向性のないアンテナ(以下、無指向性アンテナ)を用いると好適である。一方、路車間通信においては、基本的には、道路に沿って備えられている自車の前方の基地局との通信が対象となる。したがって、このような場合には、指向性のあるアンテナ(以下、指向性アンテナ)を用いると好適である。このような無指向性アンテナと指向性アンテナとを備えた通信装置に関する技術がある(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1の車々間通信装置は、車両に搭載され、他の車両に搭載された通信装置と無線通信を行う。当該車々間通信装置は、アンテナと指向性変更手段とを備えて構成され、自車両の前方に交差点が存在する等の車両の走行状況に応じて送信機或いは受信機に切り替えると共に、アンテナを用いて送受信する電波の指向性を変える。
【0005】
特許文献2に記載の小型無線通信機器は、筐体アンテナ励振用エレメントと、当該筐体アンテナ励振用エレメントに近接して配置された複数個の無給電素子とを有して構成される。当該小型無線通信機器は、無給電素子と筐体アンテナ励振用エレメントとを半導体素子を介してオン/オフすることによりアンテナの指向性を変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−174237号公報
【特許文献2】特開2008−153813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の車々間通信装置は、電波の指向性を変える方法としてアンテナ自体を物理的に回転させるため、それを回転させるための駆動部と当該駆動部を制御する制御部とが必要となる。したがって、回路や機構が複雑になり、コストアップの要因となってしまう。
【0008】
また、特許文献2に記載の小型無線通信機器は、電波の指向性を変える方法としてアンテナの持つ指向性を直接変えるため、複数個の無給電素子と当該無給電素子を電気的にオン/オフする制御回路とが必要となる。したがって、回路構造が複雑になってしまう。また、既存のアンテナを用いることができず、新規アンテナの開発が必要となるのでコストアップの要因となってしまう。
【0009】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、車車間通信及び路車間通信に適した低コストで実現可能な車載用通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る車載用通信装置の特徴構成は、車両に備えられる、水平面に対し全方向に亘って一様な指向特性を有する無指向性アンテナと、前記車両に少なくとも一つ備えられる、特定の方向に対して指向特性を有する指向性アンテナと、前記車両から情報を発信する場合には送信情報に応じて前記無指向性アンテナ及び前記指向性アンテナのいずれか一方に切り替え、空中伝搬する送信波を受信する場合には受信待ちの情報に応じて前記無指向性アンテナ及び前記指向性アンテナのいずれか一方に切り替えるアンテナ切替部と、を備えている点にある。
【0011】
このような特徴構成とすれば、状況に応じて無指向性アンテナと指向性アンテナとを切り替えて情報の送受信を行うことができる。また、アンテナ切替部が適宜アンテナを切り替える構成であるので、既存の無指向性アンテナと指向性アンテナとを用いることができる。したがって、新たなアンテナの開発を要しないので低コストで車車間通信及び路車間通信に適した車載用通信装置を実現することが可能となる。
【0012】
また、前記指向性アンテナは、前記指向特性のピークが前記車両の前方を向くように備えられると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、指向性アンテナが配設された車両の前方に対して、同じ出力で無指向性アンテナを用いた場合に比べ、遠くに亘って車車間通信及び路車間通信を行うことが可能となる。
【0014】
また、前記指向性アンテナは、前記指向特性のピークが前記車両の後方を向くように備えられると好適である。
【0015】
このような構成とすれば、指向性アンテナが配設された車両の後方に対して、同じ出力で無指向性アンテナを用いた場合に比べ、遠くに亘って車車間通信及び路車間通信を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記アンテナ切替部は、前記送信情報が前記車両の後方に向けて送信される渋滞情報である場合に、前記指向性アンテナに切り替えると好適である。
【0017】
このような構成とすれば、後方に向けて渋滞情報を送信することができるので、後続車両に対していち早く前方の渋滞情報を知らせることが可能となる。
【0018】
また、前記アンテナ切替部は、前記送信情報が前記車両の前方に向けて送信される後方からの緊急車両の接近を示す緊急情報である場合に、前記指向性アンテナに切り替えると好適である。
【0019】
このような構成とすれば、前方に向けて緊急情報を送信することができるので、前方の車両に対していち早く緊急車両の接近を知らせることができる。したがって、緊急車両が走行できるように道路端に寄せることができるので、緊急車両が円滑に走行することが可能となる。
【0020】
また、前記アンテナ切替部は、前記受信待ちの情報が前記車両に対して定まった方向から空中伝搬されてくる送信波に基づいて取得される場合に、前記指向性アンテナに切り替えると好適である。
【0021】
このような構成とすれば、無指向性アンテナよりもアンテナ利得の高い指向性アンテナを用いることができるので、より遠くの情報を取得することが可能となる。
【0022】
また、前記アンテナ切替部は、前記車両が走行に支障をきたす状況になったことを示す情報を発信する場合に、前記無指向性アンテナに切り替えると好適である。
【0023】
このような構成とすれば、走行に支障をきたす状況となったことを周囲を走行する車両に知らせることが可能となる。このため、衝突を防止することができる。また、周囲を走行している車両が他の道路に迂回して走行することが可能となる。このため、交通渋滞の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】車載用通信装置の概略構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】車載用通信装置を備えた車両を示す図である。
【図3】各アンテナの平面指向性を示す図である。
【図4】緊急車両の接近時における車載用通信装置の動作について示す図である
【図5】交通渋滞時における車載用通信装置の動作について示す図である。
【図6】緊急停車した場合の車載用通信装置の動作について示す図である。
【図7】交差点に接近した場合の車載用通信装置の動作について示す図である。
【図8】交差点に接近した場合の車載用通信装置の動作について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る車載通信装置について図1−図8を用いて説明する。本車載通信装置1は、車両100の走行に適した情報の送受信を無線通信で行うことが可能であり、当該送受信される情報に応じて当該車載通信装置1が備えるアンテナの指向特性を変更する機能を備えている。図1は車載通信装置1の概略構成を模式的に示したブロック図である。本車載通信装置1は、アンテナ部10、演算処理部20、報知部30を備えて構成される。
【0026】
アンテナ部10は、無指向性アンテナ11と指向性アンテナ12とから構成される。図1においては、理解を容易とするために、無指向性アンテナ11は黒塗りで示し、指向性アンテナ12は白塗りで示している。また、詳細は後述するが本実施形態においては指向性アンテナ12は車両100のフロント部とリア部とに各1つ配設される。演算処理部20は、アンテナ切替部21、送受信切替部22、制御部23、送信部24、受信部25、情報判定部26、情報管理部27から構成される。特に、このように構成される本車載用通信装置1の演算処理部20は、CPUを中核部材として車両100が通信を行う種々の処理を行うための上述の機能部がハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0027】
無指向性アンテナ11は、車両100に備えられ、水平面に対し全方向に亘って一様な指向特性を有する。無指向性アンテナ11は、図2に示されるような所謂ロッドアンテナで構成することができる。したがって、水平面とは当該ロッドアンテナの軸心に直交する面である。全方向に亘って一様な指向特性とは、当該水平面においてロッドアンテナからの距離が同じ場合にはアンテナ利得が同様である特性を示す。このような無指向性アンテナ11は、例えば図2に示されるようにその軸心が車両100の鉛直上方を向いて頂部に配設される。これにより、車両100の水平方向から空中伝搬してくる電波の受信を可能とし、且つ、車両100の水平方向に対して電波を送信することが可能となる。
【0028】
指向性アンテナ12は、車両100に少なくとも一つ備えられ、特定の方向に対して指向特性を有する。本実施形態では、指向性アンテナ12はフロント指向性アンテナ12fとリア指向性アンテナ12rとから構成される。指向性アンテナ12は、図2に示されるようなプレート状のアンテナで構成することができる。特定の方向に対して指向特性を有するとは、所定の方向に対してアンテナ利得が大きくなる特性を有することを意味する。フロント指向性アンテナ12fは指向特性のピークが車両100の前方を向くように、例えば車両100のフロント部に配設されるエンブレム近傍に配設される(図2参照)。これにより、フロント指向性アンテナ12fは車両100の前方から伝搬してくる電波の受信を可能とし、且つ、車両100の前方に対して電波を送信することが可能となる。また、リア指向性アンテナ12rは指向特性のピークが車両100の後方を向くように、例えば車両100のリア部に配設されるエンブレム近傍に配設される(図2参照)。これにより、リア指向性アンテナ12rは車両100の後方から伝搬してくる電波の受信を可能とし、且つ、車両100の後方に対して電波を送信することが可能となる。
【0029】
このように車両100に備えられた無指向性アンテナ11、フロント指向性アンテナ12f、及びリア指向性アンテナ12rの指向特性(通信可能領域)を図3に示す。なお、図3に示される指向特性は、利得が所定の値以上となるエリアを図示したものである。即ち、当該エリア外では利得が前記所定の値未満であり、完全に通信不能となるわけではない。無指向性アンテナ11の指向特性は、図3において左下がりのハッチングを付して示される。この左下がりのハッチングで示された領域が、無指向性アンテナ11の通信可能領域31になる。一方、フロント指向性アンテナ12f及びリア指向性アンテナ12rの指向特性は、図3において右下がりのハッチングを付して示される。フロント指向性アンテナ12fの通信可能領域は符号32を付して示され、リア指向性アンテナ12rの通信可能領域は符号33を付して示される。
【0030】
ここで、一般的にアンテナによる電波の伝送距離は、アンテナ利得により決定される。このアンテナ利得と上述のアンテナの指向特性の広さ(半値角)とは相反する。即ち、高いアンテナ利得を有するアンテナ程、通信できる角度が狭くなる。したがって、無指向性アンテナ11の電力と指向性アンテナ12の電力とが同じ場合には、アンテナにより通信可能となる距離は指向性アンテナ12の方が無指向性アンテナ11よりも長くなる。このような無指向性アンテナ11と指向性アンテナ12との通信可能距離の差異が図3に明示される。図3に示されるように、同じ電力の場合には無指向性アンテナ11の伝送距離よりも指向性アンテナ12の伝送距離の方が長くなる。本車載用通信装置1は、送受信する情報に応じて伝送距離が異なる無指向性アンテナ11と指向性アンテナ12とを切り替えて通信する機能を備えている。
【0031】
アンテナ切替部21は、車両100から情報を発信する場合には送信情報に応じて無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12のいずれか一方に切り替え、空中伝搬する送信波を受信する場合には受信待ちの情報に応じて無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12のいずれか一方に切り替える。特に、本実施形態においては、指向性アンテナ12は、フロント指向性アンテナ12f及びリア指向性アンテナ12rを備えて構成される。したがって、アンテナ切替部21は、無指向性アンテナ11、フロント指向性アンテナ12f、リア指向性アンテナ12rのうちのいずれか1つのアンテナに切り替える。
【0032】
ここで、本車載通信装置1は上述のように他の通信装置(例えば基地局や他車両)と無線通信が可能なように複数のアンテナ(無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12)が備えられる。車両が行う通信の形態として、路車間通信、車車間通信がある。路車間通信は、車両と例えば道路端に設置された路側機とが情報の送受を行う。車車間通信は、車両同士が直接情報の送受を行う。また、特に路車間通信は、同報通信と個別通信とに分けられる。同報通信は、障害物情報等通信領域内で同一の情報を提供する。具体的には、通信領域内に存在する車両に対して障害物情報、路面情報、周辺車両情報、歩行者情報等を一斉に送信する。個別通信は、周辺車両情報等、車両毎に異なる情報を提供する。具体的には、障害物との相対位置に関する位置情報を個別に送信する。
【0033】
車車間通信は、先行車両から後続車両に対して渋滞情報や事故情報を配信するのに利用可能である。後続車両は特定の車両に限定して配信しても良いし、先行車両の後方を走行する不特定多数の後続車両に対して配信しても良い。例えば、特定の車両に限定して配信する形態としては、先行車両が有するカーナビゲーションシステムから出力される経路案内情報を特定の後続車両に対して配信するような形態も可能である。一方、不特定多数の車両に対して配信する形態としては、車両100が上述のように後続する車両に対して前方の渋滞情報等を配信する形態が可能である。
【0034】
したがって、アンテナ切替部21は、車両100から送信する送信情報が何れの方向に送信すべきか特定するのが不要である場合や送信すべき方向が特定不可能である場合に無指向性アンテナ11に切り替え、送信情報を特定の方向に送信すべき場合や送信すべき方向が特定可能である場合に、その方向に応じてフロント指向性アンテナ12f又はリア指向性アンテナ12rに切り替える。
【0035】
また、無指向性アンテナ11及び指向性アンテナ12は、空中伝搬される電波の受信も可能である。アンテナ切替部21は、車両100に対して全方向から伝搬してくる可能性がある情報の受信待ちをしている場合に無指向性アンテナ11に切り替え、受信待ちしている情報が車両100の前方から特定可能である場合にはフロント指向性アンテナ12fに切り替え、受信待ちしている情報が車両100の後方から特定可能である場合にはリア指向性アンテナ12rに切り替える。
【0036】
送受信切替部22は、後述する送信部24及び受信部25の一方に切り替える。車両100から情報を発信する場合には、送受信切替部22は送信部24に切り替える。一方、車両100が情報を取得する場合には、送受信切替部22は受信部25に切り替える。このため、無指向性アンテナ11、フロント指向性アンテナ12f、リア指向性アンテナ12rのいずれか一つと、送信部24及び受信部25の一方とが、アンテナ切替部21及び送受信切替部22により電気的に接続されることとなる。本車載用通信装置1によれば、車両100から無指向性アンテナ11で情報を送信したり、車両100からフロント指向性アンテナ12f又はリア指向性アンテナ12rで情報を送信したり、他車から無指向性アンテナ11で情報を受信したり、他社からフロント指向性アンテナ12f又はリア指向性アンテナ12rで情報を受信したりすることが可能となる。このようなアンテナ切替部21及び送受信切替部22の切り替えは、後述する制御部23により行われる。
【0037】
送信部24は、アンテナ部10から送信する情報を生成する。即ち、アンテナ部10から送信される所定の周波数を有する電波に情報を重畳させる。送信する情報は、後述する情報管理部27から伝達される。このような処理は、公知技術であるため説明は省略する。送信部24により生成された情報は、送受信切替部22及びアンテナ切替部21を介してアンテナ部10から空中伝搬される。
【0038】
受信部25は、アンテナ部10を介して空中伝搬してきた情報を受信する。即ち、アンテナ部10を介して得られた所定の周波数を有する電波から情報を取り出す。このような処理は、公知技術であるため説明は省略する。受信部25により取り出された情報は、後述の情報管理部27に伝達される。
【0039】
情報管理部27は、車載用通信装置1により送信する情報及び受信した情報を管理する。送信する情報とは、車両100以外の通信装置から取得された情報や車両100が有するカーナビゲーションシステム等により生成された情報が相当する。車両100以外の通信装置から取得された情報とは、受信部25により受信された情報である。カーナビゲーションシステム等により生成された情報とは例えば経路案内情報である。受信した情報とは、車両100以外の通信装置から取得された情報である。情報管理部27は、このような各種の情報を管理する。
【0040】
情報判定部26は、送信部24から送信しようとしている情報の属性を判定する。送信部24から送信しようとしている情報は、情報管理部27から送信部24に伝達しようとしている情報である。このため、情報判定部26は情報管理部27が送信部24に情報を伝達する際、同じ情報が情報管理部27から伝達される。情報判定部26は、情報管理部27から送信部24に伝達された情報が、特定の車両に対して送信される情報であるか、或いは不特定多数の車両に対して送信される情報であるかを判定する。この判定結果は、後述する制御部23に伝達される。このような情報の判定は、送信しようとしている情報に、その属性を表わす情報を含ませることにより実現可能である。
【0041】
また、情報判定部26は、受信部25により受信された情報の属性を判定する。受信部25により受信された情報は、受信部25から情報管理部27に伝達された情報である。このため、情報判定部26は情報管理部27が受信部25から情報が伝達された際、同じ情報が情報管理部27から伝達される。情報判定部26は、受信部25から情報管理部27に伝達された情報が、特定の車両に対して送信された情報であるか、また、当該情報が車両100から他車に送信すべき情報であるかを判定する。この判定結果は、後述する制御部23に伝達される。
【0042】
制御部23は、情報判定部26の判定結果に応じて、アンテナ切替部21及び送受信切替部22を制御する。アンテナ切替部21の制御は、無指向性アンテナ11、フロント指向性アンテナ12f、リア指向性アンテナ12rのいずれか1つに切り替える制御である。送受信切替部22の制御は、送信部24又は受信部25に切り替える制御である。
【0043】
報知部30は、受信部25により受信された情報を車両100の乗員に報知する。受信部25により受信された情報は、情報管理部27を介して報知部30に伝達される。具体的には、報知部30は車室に備えられる表示モニタとすることも可能であるし、スピーカとすることも可能である。本車載用通信装置1は、このような機能部を備えて構成される。
【0044】
次に、本車載用通信装置1が行う車車間通信及び路車間通信について説明する。なお、以下の説明は適用例であり、これに限定されるものではない。アンテナ切替部21は、送信情報が車両100の前方に向けて送信される後方からの緊急車両Dの接近を示す緊急情報である場合に、指向性アンテナ12に切り替えると好適である。以下、これについて図を用いて説明する。図4は、緊急車両Dの接近時における車載用通信装置1の動作について示す図である。図4(a)は、片側1車線の道路を車両Aが紙面左手方向から右手方向に走行し、車両B及びCが紙面右手方向から左手方向に走行して状態を示している。また、図4(a)において車両A−Cは破線で囲まれて図示されているが、これは理解を容易とするために無指向性アンテナ11を用いて受信待ち状態で走行している状況を示している。
【0045】
このような状況において、図4(b)に示されるように車両Cの後方から緊急車両Dが接近してきたとする。緊急車両Dは前方に向けて自車(緊急車両D)が接近していることを示す緊急情報を指向性アンテナを用いて送信している。このような指向性アンテナの出力範囲を図4(b)では符号dで示している。
【0046】
無指向性アンテナ11を用いた受信待ち状態で走行中の車両Cの車載用通信装置1は後方から緊急情報を受信すると、アンテナ切替部21が無指向性アンテナ11からフロント指向性アンテナ12fに切り替える。また、送受信切替部22が受信部25から送信部24に切り替える。したがって、車両Cの車載用通信装置1は、「無指向性アンテナ11を用いた受信」から「フロント指向性アンテナ12fを用いた送信」に切り替えられる。
【0047】
図4(b)においては、理解を容易とするために「アンテナ切替」及び「送信モード」として図示している。「アンテナ切替」で示される概略図は、図1におけるアンテナ切替部21に対応して図示している。即ち、図4における「アンテナ切替」で示される概略図において、下段の黒丸が無指向性アンテナ11との接続状態を示し、中段の白丸がフロント指向性アンテナ12fとの接続状態を示し、上段の白丸がリア指向性アンテナ12rとの接続状態を示している。これは、以下の説明においても同様である。
【0048】
また、「送信モード」で示される概略図は、送受切替部22が送信部24に切り替えたことを示している。当該概略図において、矢印が車を中心とするあらゆる方向に放射して記載されているが、これは車両100から送信波があらゆる方向に放射していることを示しているわけではない。単に車両100から送信波が出ていることのみを示している。送信波の放射する方向は、上述の「アンテナ切替」で示される概略図による。これは、以下の説明においても同様である。また、緊急車両Dが車両Cの後方から接近していることを示す緊急情報を受信すると、車両Cの報知部30(図4においては表示モニタ)に「緊急車両接近」と表示される。
【0049】
上述のように「フロント指向性アンテナ12fを用いた送信」に切り替えられた後の車両Cのフロント指向性アンテナ12fの出力範囲が図4(c)において符号cで示される。車両Cからフロント指向性アンテナ12fにより送信された、緊急車両Dが当該車両Cの後方から接近していることを示す緊急情報が車両A及びBにより受信されると、車両A及びBの報知部30(図4においては表示モニタ)に「緊急車両接近」と表示される。また、車両Aのアンテナ切替部21は無指向性アンテナ11からリア指向性アンテナ12rに切り替え(「アンテナ切替」参照)、送受信切替部22が受信部25から送信部24に切り替える(「送信モード」参照)。一方、また、車両Bのアンテナ切替部21は無指向性アンテナ11からフロント指向性アンテナ12fに切り替え(「アンテナ切替」参照)、送受信切替部22が受信部25から送信部24に切り替える(「送信モード」参照)。
【0050】
そして、図4(d)に示されるように、車両Aは当該車両Aの後方に対して緊急車両Dが前方から接近していることを示す緊急情報を送信する。また、車両Bは当該車両Bの前方に対して緊急車両Dが後方から接近していることを示す緊急情報を送信する。これにより、緊急車両Dの接近を当該緊急車両Dの前方に位置する車両に対していち早く知らせることができるので、緊急車両Dが優先して走行可能なように他の車両(A−C等)は、緊急車両Dが通り過ぎるまでに夫々自車両を道路端に寄せることが可能となる。このように、アンテナ切替部21は、受信待ちの情報が車両100に対して定まった方向から空中伝搬されてくる送信波に基づいて取得される場合に、指向性アンテナ12に切り替える。
【0051】
次に、交通渋滞時における車載用通信装置1の動作について図5を用いて説明する。本実施形態におけるアンテナ切替部21は、送信情報が車両100の後方に向けて送信される渋滞情報である場合に、指向性アンテナ12に切り替える。図5(a)は車両A及びBが停車し、それに対して後方から車両Cが接近している状況を示している。前方に車両A及びBが停車していることに気付いた車両Cの運転者はブレーキ操作を行って車両Cを減速させる。そして、例えば車両Cの車速が予め設定された速度(例えば時速20km)以下となり、且つこのような状態が所定時間(例えば10秒)以上経過した場合に、車両Cの車載用通信装置1のアンテナ切替部21は無指向性アンテナ11からリア指向性アンテナ12rに切り替え(「アンテナ切替」参照)、送受信切替部22が受信部25から送信部24に切り替える(「送信モード」参照)。なお、上述の速度や時間は、適宜変更することは当然に可能である。
【0052】
そして、車両Cの車載用通信装置1は、車両Cの後方に対して当該車両Cが減速し、前方が渋滞していることを示す渋滞情報を後方に向けてリア指向性アンテナ12rで送信する(図5(b)参照)。このように送信された渋滞情報の出力範囲を符号cで示す。前方に位置する車両Cから送信された渋滞情報を受信した車両Dの車両通信装置1は表示モニタに「渋滞しています」と表示し、当該表示により運転者は前方で渋滞が発生していることを事前に把握することが可能となるので、追突を予防することができる。
【0053】
図6(a)は、車両Aが故障等により道路端に停車している状況を示す図である。本実施形態におけるアンテナ切替部21は、車両100が走行に支障をきたす状況になったことを示す情報を発信する場合に、無指向性アンテナ11に切り替える。また、送受信切替部22は送信部24に切り替える。したがって、車載用通信装置1は「無指向性アンテナ11による送信」状態となる。図6においては、「アンテナ切替」及び「送信モード」として図示している。このような状況にあっては、車両Aの車載用通信装置1は、自車(車両A)が道路端に停車していることを示す停車情報を無指向性アンテナ11で送信する。
【0054】
一方、図6(a)には車両Bが車両Aの前方から接近し、車両Cが車両Aの後方から接近している状況も示されている。これらの車両(車両B及びC)が、図6(b)に示されるように、車両Aから送信される停車情報の出力範囲a内に入ると、車両Bの車載用通信装置1は、表示モニタに「停車車両に注意」と表示すると共に、前方(対向車線の前方)で車両Aが停車していることを示す停車車両情報を自車(車両B)の後方に対してリア指向性アンテナ12rで送信する。このようにして送信された停車車両情報の出力範囲が符号bで示される。
【0055】
一方、車両Cの車載用通信装置1は、車両Cの車載用通信装置1は、表示モニタに「停車車両に注意」と表示すると共に、前方(走行中の車線の前方)で車両Aが停車していることを示す停車車両情報を自車(車両C)の後方に対してリア指向性アンテナ12rで送信する。このようにして送信された停車車両情報の出力範囲が符号cで示される。したがって、車両Aが道路端に停車していることを当該車両Aが停車している位置に向かって走行している他の車両に対していち早く知らせることができるので、追突等を防ぐことが可能となる。
【0056】
図7(a)は、片側1車線の道幅の広い道路Xと当該道幅の広い道路Xよりも道幅の狭い道路Yとが交差する交差点を示している。交差点の中心部(道路Xと道路Yとの交差付近)には、当該交差点に進入してくる車両と通信可能な基地局(基地アンテナ)Sが付設されている。本実施形態においては、基地局Sから交差点が近いことを示す交差点情報が送信されているとする。このようにして送信された交差点情報の出力範囲が符号sで示される。
【0057】
また、図7(a)には、紙面左手方向から交差点の中心部に向かって道路Xを走行する車両Aと、紙面右手方向から交差点の中心部に向かって道路Xを走行する車両Bと、紙面下手方向から交差点の中心部に向かって道路Yを走行する車両Cとが示されている。これらの車両(車両A−C)が基地局Sの出力範囲s内に進入すると、夫々の車両が備える車載用通信装置1のアンテナ切替部21は無指向性アンテナ11に切り替え、送受信切替部22は送信部24に切り替える(図7(b)参照)。したがって、これらの車両A−Cの車載用通信装置1は「無指向性アンテナ11による送信」状態となる。このような状態においては、夫々の車載用通信装置1は自車が交差点に接近していることを示す車両接近情報を送信する。このようにして送信された車両接近情報の出力範囲は、夫々a、b、cで示される(図8(c)参照)。このように送信された車両接近情報は基地局Sにより受信される。
【0058】
車両A−Cの車載用通信装置1は車両接近情報を送信すると、夫々の車両が備える車載用通信装置1のアンテナ切替部21は無指向性アンテナ11に切り替え、送受信切替部22は受信部25に切り替える。したがって、これらの車両A−Cの車載用通信装置1は「無指向性アンテナ11による受信待ち」状態となる。図8(c)においては、「受信モード」として概略図により示される。
【0059】
このように受信待ち状態となった車載用通信装置1に対して、基地局Sから交差点に車両A−Cが接近していることを示す車両接近情報が送信される(図8(d)参照)。車両接近情報を受信した車両A−Cの車載用通信装置1は、表示モニタに「接近車両に注意」と表示し、他の車両が交差点に接近していることを報知する。したがって、夫々の車両は交差点に接近する前に自車以外の車両が交差点に接近していることを認識することができるので、衝突等を未然に防ぐことが可能となる。
【0060】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、車両100は、無指向性アンテナ11とフロント指向性アンテナ12fとリア指向性アンテナ12rとが備えられるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。フロント指向性アンテナ12fとリア指向性アンテナ12rとは、指向特性のピークが車両100の前方又は車両100の後方の少なくともいずれか一方を向くように備えられる構成とすることも当然に可能である。即ち、フロント指向性アンテナ12f及びリア指向性アンテナ12rのうち、いずれか一方のみを備える構成とすることも当然に可能である。
【0061】
上記実施形態では、送受信切替部22が送信部24又は受信部25に切り替えるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。
【0062】
本発明は、車両に備えられる通信装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:車載用通信装置
10:アンテナ部
11:無指向性アンテナ
12:指向性アンテナ
12f:フロント指向性アンテナ
12r:リア指向性アンテナ
20:演算処理部
21:アンテナ切替部
22:送受信切替部
23:制御部
24:送信部
25:受信部
26:情報判定部
27:情報管理部
28:制御部
30:報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられる、水平面に対し全方向に亘って一様な指向特性を有する無指向性アンテナと、
前記車両に少なくとも一つ備えられる、特定の方向に対して指向特性を有する指向性アンテナと、
前記車両から情報を発信する場合には送信情報に応じて前記無指向性アンテナ及び前記指向性アンテナのいずれか一方に切り替え、空中伝搬する送信波を受信する場合には受信待ちの情報に応じて前記無指向性アンテナ及び前記指向性アンテナのいずれか一方に切り替えるアンテナ切替部と、
を備える車載用通信装置。
【請求項2】
前記指向性アンテナは、前記指向特性のピークが前記車両の前方を向くように備えられる請求項1に記載の車載用通信装置。
【請求項3】
前記指向性アンテナは、前記指向特性のピークが前記車両の後方を向くように備えられる請求項1又は2に記載の車載用通信装置。
【請求項4】
前記アンテナ切替部は、前記送信情報が前記車両の後方に向けて送信される渋滞情報である場合に、前記指向性アンテナに切り替える請求項1又は3に記載の車載用通信装置。
【請求項5】
前記アンテナ切替部は、前記送信情報が前記車両の前方に向けて送信される後方からの緊急車両の接近を示す緊急情報である場合に、前記指向性アンテナに切り替える請求項1又は2に記載の車載用通信装置。
【請求項6】
前記アンテナ切替部は、前記受信待ちの情報が前記車両に対して定まった方向から空中伝搬されてくる送信波に基づいて取得される場合に、前記指向性アンテナに切り替える請求項1から5のいずれか一項に記載の車載用通信装置。
【請求項7】
前記アンテナ切替部は、前記車両が走行に支障をきたす状況になったことを示す情報を発信する場合に、前記無指向性アンテナに切り替える請求項1から6のいずれか一項に記載の車載用通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−71646(P2011−71646A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219586(P2009−219586)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】