説明

軸ぶれ計測方法及び軸ぶれ計測機能を具備した自己校正機能付き角度検出器

【課題】自己校正機能付き角度検出器に軸ぶれ計測機能をも具備させる。
【解決手段】回転軸に固定した目盛り盤の周囲に等角度間隔に複数のセンサヘッドを配設し、該センサヘッドの一つを基準センサヘッドとして選択したとき、この基準センサヘッドと他のセンサヘッドのそれぞれとの計測差の和の平均値を自己校正値とした自己校正機能付き角度検出器において、基準センサヘッドとして選択するセンサヘッドを順次他のセンサヘッドに変更し、すべてのセンサヘッドについて、これを基準ヘッドとした場合の自己校正値をそれぞれ求め、各自己校正値を、特定のセンサヘッドとの配置上の角度分だけずらして、特定のセンサヘッドを基準ヘッドとした場合の自己校正値に位相を合わせる。位相変換したそれぞれの演算結果のすべてについての平均値を求め、位相変換したそれぞれの演算結果から、この平均値を減算し、非同期角度誤差のみを取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転角度を検出するロータリエンコーダ等の角度検出器に関し、特に自己校正機能を備えることにより角度検出器が出力する角度情報に含まれる使用環境下での取り付け軸偏心、角度検出器の経年変化の影響等により発生する角度誤差も含めた目盛りの校正値を求めることができるようにした自己校正機能付き角度検出器を利用して、加工機械のスピンドルの軸ぶれ、自動車や航空機のエンジンの回転軸ぶれ、自動車の車軸の軸ぶれ等を検出できるようにした、軸ぶれ計測方法及び軸ぶれ計測機能を具備した自己校正機能付き角度検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に回転軸の軸ぶれを計測する方法は、電気マイクロによる接触方式、静電容量センサや下記特許文献1にみられるようにレーザーによる非接触方式による方法が主流である。
接触方式は高速な回転軸には対応できず、また、非接触方式は静電容量センサの場合、測定回転軸とセンサの間の隙間が狭く測定までのセットアップに時間がかかる。
レーザー式は高価であるがゆえXYの2軸を用意するにはコストがかさむといった問題点があった。
【0003】
ところで、ロータリエンコーダ等の角度検出器の一般的な原理は、円形の目盛り盤の周囲に目盛りが刻まれ、その目盛り本数を目盛り読み取り用のセンサヘッドで数えることにより角度情報を出力する装置であり各種の装置が用いられている。角度検出器は、目盛りを人工的に書き込むため、目盛り線は等角度間隔には書き込まれておらず、その目盛り線の位置から得られる角度情報には誤差が生ずる。図1の放射状の直線は理想的な目盛り線位置(等角度間隔線)であり、放射状の短い破線は実際の目盛り線位置で、理想位置からの差をプロットしたのが図1の右のグラフになる。
【0004】
図1右図の点が角度検出器の目盛り線の校正値になり、図では目盛り線が36本あるとして描かれているが、実際の角度検出器は数千から数10万本の目盛り線がある。これらの線を校正する方法として、2つの角度検出器の目盛りを互いに比較し、自己校正する方法が幾つかある。この方法では2つの角度検出器が校正されていなくても、同時に校正することができるため、上位の高精度な角度検出器を必要としない。なお、自己校正の意味は、角度誤差が未知数の2つの角度検出器を比べても、同時に両方の角度誤差である校正値がわかるということである。
【0005】
角度の国家標準器(角度測定器)では、角度測定器の内部にある角度検出器とその上部に設置されている被校正角度検出器を、等分割平均法による自己校正方法を用いて校正している。
【0006】
図2を用いて等分割平均法を単純化し簡単に説明する。下部の第1角度検出器11の目盛り盤に配置されている第1センサヘッド12、12・・・の一つと、上部の第2角度検出器13の目盛り盤に配置されている第2センサヘッド14の目盛り信号の差を測定(SA1)する。次に下部隣の別のセンサヘッド12と上部の第2センサヘッド14の差(SA2)を同様に測定する。同様に他の第1センサヘッド12と第2センサヘッド14の差を測定し、それら(SA1,SA2,SA3,SA4,SA5)の平均値SAVを求めると、上部の第2角度検出器13の校正曲線が求まるという方法である。
【0007】
下部の第1角度検出器11から出力される角度誤差をaiとし、上部の第2角度検出器13から出力される角度誤差をbiとすると差は、SAj=bi-ai+(j-1)N/Mとなり、平均値SAVは、
【数1】

となる。ここで、i=1,2,3…,Nは目盛り線の番号であり、Nは目盛り盤に設けられた目盛りの総数である。Mは第1センサヘッドの数である。
第1センサヘッド12は5箇所設置する場合は一周360°の5分の1の角度間隔で配置する。M個の角度検出器を配置する場合は同様にM分の1の等角度間隔に配置する。これは等分割平均法と読ばれる。
【0008】
角度誤差は、図1に示す目盛り線の理想的な位置と実際の位置の角度誤差ばかりでなく、角度検出器自身の軸偏心の影響や角度検出器の経年変化等の影響による角度誤差も含まれている。
特に、目盛りと軸偏心による角度誤差のように回転角度に同期した同期角度誤差と、回転軸のベアリングによる角度誤差や温度や経年変化のように測定環境に依存した、軸ぶれ等に起因する角度誤差のように、回転角度に非同期な非同期角度誤差とがある。
【0009】
出願人は、下記特許文献2に示されるように、等分割平均法による自己校正方法を用いて校正する際に、校正装置内の角度検出器との回転軸の接続時に発生する軸偏心による誤差を解消するために、角度検出器本体に内蔵された演算装置あるいは電気的に接続された演算装置により、角度検出器自身の軸偏心の影響や角度検出器の経年変化等も含めて目盛りの校正値を得ることを可能にすることによって、常に正確な校正を行うことができるとともに、小型することができるようにした自己校正機能付き角度検出器を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2972652号公報
【特許文献2】特許第3826207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献2による自己校正機能付き角度検出器によれば、目盛りの角度誤差を検出し、安価で、しかも、高速な回転軸にも対応し得る精度の高い自己校正機能付き角度検出器を構成することができ、しかも、その角度誤差の回転角度に同期した同期角度誤差と非同期な非同期角度誤差によるものとを、演算処理による分離できることに着目し、非同期角度誤差を計測する軸ぶれ計測方法を提供するとともに、非同期角度誤差を検出できることで軸ぶれ計測機能をも具備させ、加工機械のスピンドル、エンジン、自動車のドライブシャフト等への各種セットアップも簡単に行える、軸ぶれ計測機能を具備した自己校正機能付き角度検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の軸ぶれ計測方法は、回転軸に固定した目盛り盤の周囲に等角度間隔に複数のセンサヘッドを配設し、該センサヘッドの一つを基準センサヘッドとして選択したとき、該基準センサヘッドと他のセンサヘッドのそれぞれとの計測差の和を求め、この和を前記センサヘッドの個数で除して平均値を得ることにより自己校正値を求めようにした自己校正機能付き角度検出器を使用した軸ぶれ計測方法であって、前記基準センサヘッドとして選択するセンサヘッドを順次他のセンサヘッドに変更し、すべてのセンサヘッドについて、これを基準ヘッドとした場合の前記自己校正値をそれぞれ求める手順と、各自己校正値を、特定のセンサヘッドとの前記目盛り盤における配置上の角度分だけずらして、該特定のセンサヘッドを基準ヘッドとした場合の自己校正値に位相を合わせる手順と、前記位相変換後の各自己校正値についての平均値を求める手順と、前記位相変換後の各自己校正値から、前記位相変換後の各自己校正値についての平均値を減算し、非同期角度誤差のみを取り出す手順とから構成される。
【0013】
また、本発明の軸ぶれ計測機能を自己校正機能付き角度検出器は、回転軸に固定した目盛り盤の周囲に等角度間隔に複数のセンサヘッドを配設し、該センサヘッドの一つを基準センサヘッドとして選択したとき、該基準センサヘッドと他のセンサヘッドのそれぞれとの計測差の和を求め、この和を前記センサヘッドの個数で除して平均値を得ることにより自己校正値を求めようにした自己校正機能付き角度検出器において、前記基準センサヘッドとして選択するセンサヘッドを順次他のセンサヘッドに変更し、すべてのセンサヘッドについて、これを基準ヘッドとした場合の自己校正値をそれぞれ求める自己校正値演算手段と、各自己校正値を、特定のセンサヘッドとの配置上の角度分だけずらして、該特定のセンサヘッドを基準ヘッドとした場合の自己校正値に位相を合わせる位相変換手段と、前記位相変換手段のそれぞれの演算結果のすべてについての平均値を求める平均値演算手段と、前記位相変換手段のそれぞれの演算結果から、前記平均値演算手段の演算結果を減算し、非同期角度誤差のみを取り出す動的誤差抽出手段とを具備している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自己校正機能付き角度検出器に内蔵された演算装置、あるいは配線で接続された演算装置に、角度検出器自体に非同期角度誤差を抽出する機能を具備させたから、例えば、エンジンのクランクシャフトや自動車のドライブシャフトに配置される角度検出器に、回転軸のぶれを検出する機能を具備させることができ、小型軽量、低コストで角度検出器の機能性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】

【図1】ロータリエンコーダの原理を示す図
【図2】等分割平均法を用いた角度検出器を示す図
【図3】5個のセンサヘッドを目盛盤に等間隔に配置した実施例を示す図
【図4】前提となる自己校正機能付き角度検出器における各センサヘッドの校正値を計算した結果を示す図
【図5】図4の計算結果の位相を合わせたデータを示す図
【図6】図5のデータの平均値を示す図
【図7】算出された非同期角度誤差を示す図
【図8】非同期角度誤差の時間を一体させた結果を示す図
【図9】非同期角度誤差を回転面上に定義したXY座標に射影したときの状態を示す図
【図10】回転面上に定義したXY座標で非同期角度誤差を表した図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
まず、本発明の前提となる自己校正機能付き角度検出器について説明する。
本例では、図3のように、回転軸に連結された目盛盤の周りに5個のセンサヘッドを等角度間隔に配置し、その検出値に基づいて、検出器本体に内蔵された演算装置あるいは電気的に接続された演算装置により、下記のような演算処理を行い、角度検出を行うようになっている。
【0017】

【数2】


【0018】

【数3】

【0019】
センサヘッドが5個(M=5)の場合、j番目のセンサヘッドを基準センサヘッドとしたときの式3は次式に展開される。
【数4】

【0020】

【数5】


【0021】

【0022】

【数6】

このように角度位相を変換した後の平均値を図5に示す。
【0023】

【数7】


【0024】

【数8】


【0025】

【0026】

【数9】


【数10】


【0027】

【0028】

【数11】

この非同期角度誤差から得られる約1 μmの変位の要因は、ボールベアリングのボール形状の不均一性やベアリングの内輪と外輪の隙間による変位を原因とする軸ぶれが想定される。
【0029】
以上の、演算処理を、検出器本体に内蔵された演算装置あるいは電気的に接続された演算装置により処理させれば、検出器本体に構造上の改造を伴うことなく、プログラムを追加するだけで、軸ぶれを正確に計測し得る、軸ぶれ計測機能を具備した自己校正機能付き角度検出器を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように本発明によれば、自己校正機能付き角度検出器に内蔵された演算装置、あるいは配線で接続された演算装置に、プログラムソフトを追加するだけで、上述した角度検出器自体に非同期角度誤差を抽出する機能を実現することができるから、安価かつ小型で、例えば、加工機械のスピンドル、エンジンのクランクシャフトや自動車のドライブシャフト等の回転軸のぶれを検出することができ、安全装置あるいは異常検出装置等として広く適用されることが可能になる。
【符号の説明】
【0031】
11 第1角度検出器
12 第1角度検出器に配置されている第1センサヘッド
13 第2角度検出器
14 第2角度検出器に配置されている第2センサヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定した目盛り盤の周囲に等角度間隔に複数のセンサヘッドを配設し、該センサヘッドの一つを基準センサヘッドとして選択したとき、該基準センサヘッドと他のセンサヘッドのそれぞれとの計測差の和を求め、この和を前記センサヘッドの個数で除して平均値を得ることにより自己校正値を求めようにした自己校正機能付き角度検出器を使用した軸ぶれ計測方法であって、
前記基準センサヘッドとして選択するセンサヘッドを順次他のセンサヘッドに変更し、すべてのセンサヘッドについて、これを基準ヘッドとした場合の前記自己校正値をそれぞれ求める手順と、
各自己校正値を、特定のセンサヘッドとの前記目盛り盤における配置上の角度分だけずらして、該特定のセンサヘッドを基準ヘッドとした場合の自己校正値に位相を合わせる手順と、
前記位相変換後の各自己校正値についての平均値を求める手順と、
前記位相変換後の各自己校正値から、前記位相変換後の各自己校正値についての平均値を減算し、非同期角度誤差のみを取り出す手順とからなる軸ぶれ計測方法。
【請求項2】
回転軸に固定した目盛り盤の周囲に等角度間隔に複数のセンサヘッドを配設し、該センサヘッドの一つを基準センサヘッドとして選択したとき、該基準センサヘッドと他のセンサヘッドのそれぞれとの計測差の和を求め、この和を前記センサヘッドの個数で除して平均値を得ることにより自己校正値を求めようにした自己校正機能付き角度検出器において、
前記基準センサヘッドとして選択するセンサヘッドを順次他のセンサヘッドに変更し、すべてのセンサヘッドについて、これを基準ヘッドとした場合の自己校正値をそれぞれ求める自己校正値演算手段と、
各自己校正値を、特定のセンサヘッドとの配置上の角度分だけずらして、該特定のセンサヘッドを基準ヘッドとした場合の自己校正値に位相を合わせる位相変換手段と、
前記位相変換手段のそれぞれの演算結果のすべてについての平均値を求める平均値演算手段と、
前記位相変換手段のそれぞれの演算結果から、前記平均値演算手段の演算結果を減算し、非同期角度誤差のみを取り出す動的誤差抽出手段とを具備した、軸ぶれ計測機能を自己校正機能付き角度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−99802(P2011−99802A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255712(P2009−255712)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】