説明

進展亀裂検出方法、装置およびプログラム

【課題】
見落としがなく、一定以上の進展亀裂は必ず検出できる進展亀裂検出方法、装置およびプログラムを提供すること。
【解決手段】
被検査物200に対し超音波220を入射する超音波発生手段10と、被検査物からの材料ノイズ230を受信する材料ノイズ受信手段20と、超音波発生手段10を所定の範囲で動かした場合の材料ノイズ受信手段で受信される材料ノイズを材料ノイズ情報として処理する材料ノイズ情報処理手段30と、この処理結果を初期材料ノイズ情報400−1として記録する記録手段40と、時間経過後に再び被検査物に対して同様な測定と処理を行って得られた経時後材料ノイズ情報400−2と記録手段から呼び出した初期材料ノイズ情報とを比較する材料ノイズ情報比較処理手段50と、この材料ノイズ情報比較処理手段の比較結果から進展亀裂に関する情報を得る進展亀裂情報判断手段60とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば経時的に進展する被検査物の進展亀裂を非破壊的に検出する進展亀裂検出方法、装置およびプログラムに係る。
【背景技術】
【0002】
船舶や橋梁、原子力施設などの建造物においては、構造体としての安全性を確保するため、定期的な検査を行い、亀裂の発生状況等を確認評価している。構造体に用いられる鋼材内部の亀裂探査は、使用環境の制約から専ら超音波探傷試験を利用している。
【0003】
しかしながら、亀裂などの平面状欠陥を対象とした場合、正面方向から超音波を入射させることは困難であって、斜め方向から超音波を入射させたときの欠陥端部からのエコーを検出する必要がある。この欠陥端部からのエコーは、疲労亀裂などの先端部曲率が極めて小さい欠陥では、材料ノイズ(林状エコー)に埋もれてしまい、通常検出が困難な場合がある。
【0004】
また、欠陥が溶接余盛部の近傍に位置する場合には、余盛部で発生するエコーと欠陥エコーとの弁別ができない場合があり、欠陥を見逃す危険性が高い。実際、ある原子力施設の配管でほぼ全周にわたる疲労亀裂を見逃していた例も過去に存在した。
【0005】
超音波探傷試験は溶接部の丸みを有する欠陥の検出を対象に発展してきた経緯があるが、これらの欠陥は比較的エコーが大きく、また、入射方向の変動に影響されにくいなど、超音波試験に有利な特性を有している。
【0006】
近年、強まった亀裂探査への要望により、亀裂を対象とする新しい探傷方法としてTOFD法(Time of flight diffraction、伝播時間回析法)が開発されている。本方法は、送信探触子が発生した超音波を亀裂に入射させ、亀裂の上端からのエコー(回析波)と下端からのエコー(回析波)を、亀裂を挟んだ位置に設置した受信探触子で検出し、亀裂上下端位置を測定する方法である。現場計測では上端エコーおよび下端エコー以外のエコーが検出される場合があり、どのエコーを上端或いは下端と見做すかによって結果に大きな差異が生じてしまう。また、ノイズエコーと欠陥エコーとの弁別の基準がなく、探傷試験実施者の判断に任せられている点も課題となっている。
【0007】
上述のように、従来の超音波探傷試験においては、亀裂探査の確実性が不足している。つまり、現状では、微小な欠陥の検出が可能であるが、反対に大きな亀裂状欠陥を見逃す確率も低くない。材料の亀裂は、これが発見されずに放置された場合には、材料の破断により設備、施設の破壊に繋がる可能性もあるため、安全上の脅威である。
【0008】
一方、船舶や建造物の使用履歴や使用条件によって、構造体の損傷度合いを予測し、構造体に係る部材の残耐用年数を算出したり、クリープ損傷を検出したりすることが行われている。非破壊的に構造体の欠陥や劣化状況を評価する方法として、被検査物に超音波を入射し反射波の波形データを基に欠陥検出処理を行うものがある。
【0009】
たとえば、所定の構造体に係る亀裂等の発生状況を確認するものとして、以下の特許文献1乃至3に開示される技術思想がある。
【0010】
特許文献1は、被検体の内部に発生した欠陥を検出する超音波探傷装置であって、複数の断面像に共通する特徴量を用いて断面像を補正し、疑似エコーによる傷の誤検出を低減させる技術思想を開示する。しかし、特許文献1に開示される超音波探傷装置は、
複数の断面において共通の欠陥像を検出する方法であって、複数の断面に亘り欠陥形状が一様であること、また、欠陥エコーが材料ノイズ以上であることを要する。疲労亀裂等の先端部曲率が極めて小さい欠陥では、欠陥エコーが材料ノイズに埋もれて検出が困難となる課題を克服できていない。
【0011】
特許文献2は、配管肉厚部に超音波を入射し、配管不連続部からの反射波を解析して配管の状態を検知する配管状態検知方法において、配管肉厚部全体に超音波を入射し、初期波形データとその後に採取された波形データの差分と許容振幅との比較で減肉を検知する配管状態検知方法を開示する。しかし、特許文献2に開示される配管状態検知方法は、配管の減肉の検査を目的としており、また、差分波形データの評価を予め設定された振幅(ノイズレベル等で定める)を基準にして行うため、欠陥からのエコー高さが小さく材料ノイズ以下の場合には、検出不可である。
【0012】
特許文献3は、貸出前のレンタカーの外装面データと返却後の外装面データを比較演算し、その差分から傷の有無を判定するレンタカーの新規傷発見方法及び傷発見装置を開示する。しかし、特許文献3に開示される新規傷発見方法及び装置では、検出しているのは車の表面の傷であって、内部の進展亀裂ではない。その上、計測した亀裂情報を画像化する際に亀裂情報のノイズを除去する必要がある。この場合、ノイズの除去効率の如何によっては傷の有無判定が困難になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−122187号公報
【特許文献2】特開2008−32466号公報
【特許文献3】特開平11−144042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、これまでの技術では、亀裂を非破壊的に検出するものはあっても、確実性がないために、安全上問題が大きい。亀裂が、検出できたりできなかったりという状態は、特に国民や市民の安全性に重要な影響がある施設、たとえば船舶や橋梁、原子力発電所施設等においては、実用的に問題があるといわざるを得ない。
【0015】
この点、X線を用いて材料の非破壊検査を行うという考え方もある。しかし、X線利用の場合には、検査対象として材厚が厚い物については検出が難しいのに加え、日常的な環境で利用するには適していず、管理のために特別に厳重な設備を設けるのを必要とする。
【0016】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するもので、見落としがなく、一定以上の進展亀裂は必ず検出できる進展亀裂検出方法、装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するために、本願に係る請求項1に記載の進展亀裂検出方法は、被検査物に対し超音波発生手段を所定の範囲で動かして超音波入射するステップと、前記被検査物からの材料ノイズを受信するステップと、受信した材料ノイズを初期材料ノイズ情報として記録するステップと、時間経過後に再び前記被検査物に対して前記超音波発生手段を略前記所定の範囲もしくはこれに近接する範囲で動かして超音波入射するステップと、前記被検査物からの経時後材料ノイズを受信するステップと、この受信した経時後材料ノイズを経時後材料ノイズ情報として前記初期材料ノイズ情報と比較するステップと、比較の結果から進展亀裂に関する情報を得るステップとを具備して構成される。
【0018】
「所定の範囲で動かして超音波入射する」とは、亀裂の発生が予想される箇所を予め選択して超音波発生手段を走査しつつ超音波を入射する態様、或いは当たりをつけることなく、無作為に材料表面に(後述の)探触子を走査させる態様であってもよい。
【0019】
被検査物とは、船舶や橋梁、原子力発電施設などの建造物を構成する材料で、内部に亀裂が発生する可能性があるものをいう。なお、被検査物の材質としては、多結晶組織を有する炭素鋼やSM材、その他の鉄鋼素材、及びその他の金属材料が代表的であるが、材料ノイズが検出できるものであればこれらに限定されない。
【0020】
「材料ノイズ」とは、材料によって生ずるノイズをいい電気ノイズを含まないもので、材料の結晶粒が超音波を散乱させることにより生じる。多くの結晶粒で生成した材料ノイズは超音波振動であるが、これらが探触子に戻り電気的な材料ノイズ信号として検出される。超音波発生手段とは、所定の超音波を発生する機能を有するもので、人的操作若しくは自動制御により探触子を走査しつつ超音波を発生する機能を有してもよい。具体的には、振動子を具備した探触子であって超音波パルスを入射することで材料ノイズを生成できるものによって実現され得る。発生させる超音波パルスの周波数と波形は,材料ノイズを効率的に生成させるために最適化することとし、好適には、パルス幅(持続時間)は長く,周波数は高めとする。ただし,パルス幅が大きすぎると分解能低下,周波数が高すぎると過大減衰による探傷深さの低下を招くので,計測対象との関係で最適な数値を選択することが好ましい。
【0021】
「被検査物からの材料ノイズを受信する」ものとしては、超音波発生手段から入射した超音波が、材料に係る微小の組織(結晶粒を含む)に入射することで生成する材料ノイズを受信することが例示できるが、この微小の組織には、材料の正常な組織(結晶粒)以外にクリープや塑性変形などで変質した組織(結晶粒)を含む。
【0022】
材料ノイズ受信手段とは、超音波を入射することで結晶粒から返ってくる材料ノイズを圧電素子、機械電気変換素子等により受信する機能を有するものによって例示できる。なお、材料ノイズ受信手段は、超音波発生手段に含まれ、一体型としてもよい。
【0023】
「材料ノイズを初期材料ノイズ情報として記録する」とは、受信した特定部位に関する材料ノイズを、初期材料ノイズ情報として処理し、処理された情報を電気的及び/もしくは磁気的及び/もしくは光学的に記録媒体(装置に内蔵しているメモリ、外付けのメモリを含む。以下同じ。)に記録することを含めたものによって例示できる。
【0024】
材料ノイズ情報処理手段とは、材料ノイズを記録できるように所定の演算処理により数値変換処理或いは画像変換処理する機能及び検出した材料ノイズ信号を検波処理して振幅情報を取り出す機能のうち少なくとも一つを有するものによって例示できる。
【0025】
「時間経過後に再び被検査物に対して超音波発生手段を所定の範囲で動かして超音波入射する」とは、所定の時間経過後に亀裂が進展しているか否かを確認するため、超音波発生手段を初期材料ノイズ取得時の所定の範囲もしくはその近傍で動かして超音波を入射するものによって例示できる。
【0026】
また、「被検査物からの経時後材料ノイズを受信する」とは、所定の時間経過後に、材料の組織(結晶粒を含む)に対して超音波発生手段から超音波を入射することで生成される材料ノイズを受信するものによって例示でき、亀裂の進展の有無に拘らずに受信することを含み得る。
【0027】
「経時後材料ノイズを経時後材料ノイズ情報として初期材料ノイズ情報と比較する」とは、上記の一定時間経過後に受信した材料ノイズを、初期材料ノイズ情報と比較される経時後材料ノイズ情報として処理し、記録された初期材料ノイズ情報と比較するものによって例示できる。
【0028】
「比較の結果から進展亀裂に関する情報を得る」とは、上記の材料ノイズ情報を比較した結果から、亀裂の有無、進展量、進展速度、進展方向、進展亀裂の位置及び将来的予測その他進展に関する情報を得るものによって例示でき、典型的には、比較結果において一定以上の乖離が認められるものについて、乖離の所定の数値幅ごとに対応付けられた疑似カラーを用いて可視化することを含むことができる。
【0029】
こうしたステップを備えることにより、被検査物の所定の範囲に対して超音波発生手段により超音波を入射し、超音波の伝搬範囲にある結晶粒から生成された散乱波等を合成することである探触子位置或いは走査範囲における材料ノイズが形成され、この材料ノイズを受信手段等で受信し、これを初期材料ノイズ情報として処理・記録する一方、一定時間経過後に略同じ範囲で再度かかる材料ノイズ情報を取得し、それぞれ初期材料ノイズ情報及び経時後材料ノイズ情報として比較処理する。比較の結果から超音波伝搬範囲における亀裂の進展に関する所定の情報を得ることで、亀裂の進展を認識し、亀裂発生要因の究明や亀裂発生防止をすることができる。
【0030】
また、上記方法において、本願の請求項2に係る進展亀裂検出方法は、前記材料ノイズを受信するステップ及び/あるいは前記経時後材料ノイズを受信するステップにおいて材料ノイズの発生を確認するように構成してもよい。
【0031】
こうしたステップを備えることにより、超音波発生手段としての探触子や材料ノイズを受信する手段などが故障している状態や、超音波の送受信に関わるカップリング不良等を直ちに認識することができ、誤った測定による検査の信頼性低下を防ぐことができる。
【0032】
上記方法において、本願の請求項3に係る進展亀裂検出方法は、前記比較するステップで、前記初期材料ノイズ情報としての初期材料ノイズ画像と、前記経時材料ノイズ情報としての経時後材料ノイズ画像の差分を取るような構成としてもよい。
【0033】
初期材料ノイズ画像と経時後材料ノイズ画像との差分を取るには、例えば、画像情報としての数値についての差分を求め、この差分値が一定の閾値内にないものを抽出するようなアルゴリズムを用いるものでも、初期材料ノイズ画像と経時後材料ノイズ画像とを重ね合わせて、亀裂形状の差を画像として処理するアルゴリズムを用いるものでもよい。
【0034】
こうしたステップを備えることにより、初期材料ノイズ画像及び経時後材料ノイズ画像に係る形状、寸法又は特徴点から、画像の差分を認識することができるため、亀裂進展に伴う変化が差分画像上で観測可能となり、容易に進展亀裂を評価することができる。さらに、画像として処理した場合は、たとえば差分の値に応じて疑似カラーを割り当て、可視化するようにすれば、当業者以外による視認も可能となり、より一層進展亀裂の検出を確実ならしめる。
【0035】
上記方法において、本願の請求項4に係る進展亀裂検出方法は、前記差分を取るステップで、初期材料ノイズ画像と、経時後材料ノイズ画像の重ね合わせ時におけるパターンマッチングを取る方法とすることができる。
【0036】
パターンマッチングを取るとは、初期材料ノイズ画像と、経時後材料ノイズ画像とを重ね合わせて比較するに当たり、重ね合わせの基準位置を確定することによって例示できる。たとえば、初期材料ノイズ画像と、経時後材料ノイズ画像の各々の特徴点(たとえば、パターンの重心位置、濃度、長さ、主軸の直線など)を求める方法、或いは一定範囲に枠(ウィンドウ)を設定しこの枠内の白または黒の画素数を求める方法等により基準位置を確定し、この基準位置において双方の画像を重ね合わせて画像としての相違点を抽出することができる。
【0037】
こうしたステップを備えることにより、検査対象部位について、おおよその範囲に超音波を入射するだけで、検査対象位置を合わせることができ、進展亀裂の精密な発見が可能となる。
【0038】
上記課題を解決するために、本願の請求項5に係る進展亀裂検出プログラムは、上記進展亀裂検出方法のステップをコンピュータに実行させる進展亀裂検出プログラムとするものである。
【0039】
この場合、コンピュータの指示により、一連のステップが実行できるところから、ステップの手順や、進行、記録、処理等が自動的に、あるいはコンピータの指示に従って半自動的に実行でき、探傷試験実施者の判断に頼ることなく正しく、早く、確実に計測が可能となる。
【0040】
また上記課題を解決するために、本願の請求項6に係る進展亀裂検出装置は、被検査物に対し超音波を入射する超音波発生手段と、前記被検査物からの材料ノイズを受信する材料ノイズ受信手段と、前記超音波発生手段を所定の範囲で動かした場合の前記材料ノイズ受信手段で受信される材料ノイズを材料ノイズ情報として処理する材料ノイズ情報処理手段と、この材料ノイズ情報処理手段の処理結果を初期材料ノイズ情報として記録する記録手段と、時間経過後に再び前記被検査物に対して同様な検査と処理を行って得られた経時後材料ノイズ情報と前記記録手段から呼び出した前記初期材料ノイズ情報を比較する材料ノイズ情報比較処理手段と、この材料ノイズ情報比較処理手段の比較結果から進展亀裂に関する情報を得る進展亀裂情報判断手段とを具備して構成される。
【0041】
超音波発生手段、材料ノイズ受信手段、材料ノイズ情報処理手段、記録手段、材料ノイズ情報比較処理手段及び進展亀裂情報判断手段に係る機能は上記記載と同様であるが、これらは具体的には、それぞれの機能を有する機械、装置、部品、或いは、こうした機能をコンピュータに実行させるアルゴリズム、このアルゴリズムを具現化するプログラム、もしくはこのプログラムを含めたソフトウェア、搭載媒体、ROM(読み出し専用メモリ)、或いはこれらを搭載もしくは内蔵したコンピュータ等によって実現される。
【0042】
こうした構成を備えることにより、被検査物の所定の範囲に対して超音波発生手段により超音波を入射し、探触子位置或いは走査範囲における材料ノイズが形成され、この材料ノイズを受信手段等で受信し、これを初期材料ノイズとして処理・記録する一方、一定時間経過後に再度かかる材料ノイズ情報を経時後材料ノイズ情報として取得し、それぞれを比較処理手段にて比較処理する。比較の結果から超音波伝搬範囲における亀裂の進展に関する所定の情報を認識することで、亀裂発生要因の究明や亀裂発生防止をすることができる。
【0043】
また、上記構成において、本願の請求項7に係る進展亀裂検出装置は、前記被検査物内に入射された前記超音波の伝搬距離による影響を補正する補正手段を更に備えた構成とすることができる。
【0044】
一般に、超音波が被検査物内を伝搬するに従い、被検査物に係る材質自身の音響的性質による吸収や材料組織に基づく散乱等が影響して超音波強度は低下し、材料ノイズの強度も低下する。このような現象が進展亀裂の検出感度へ与える影響を排除するため、材料ノイズの変化から進展亀裂の情報を抽出する本願の手法において、超音波の伝搬距離が異なっても平均的な材料ノイズレベルを同一とした上で、変化情報を解析することが望ましい。したがって、補正手段により超音波の伝搬距離の影響を補正することにより、材料ノイズレベルを均一化することが可能となる。
【0045】
ここで、補正手段とは、被検査物と同一材料の参照試験片を用いて作成した較正曲線を利用して材料ノイズレベルを補正する方法や、超音波伝搬距離が異なり、かつ明らかに亀裂がない場所の材料ノイズのレベルを均一化するように補正する手段などによって例示できる。また、被検査物に係る材料の超音波減衰が定量的に分かっている場合には、数値的に較正曲線を作成して補正に利用してもよい。
【0046】
こうした構成を備えることにより、被検査物の浅い位置と深い位置における材料ノイズレベルが均一化され、深い位置における材料ノイズの信頼性低下を防ぐと共に、浅い位置と深い位置における進展亀裂の評価性能を均一化できる。
【0047】
また、上記構成において、本願の請求項8に係る進展亀裂検出装置における前記材料ノイズ情報処理手段は検出した材料ノイズ信号を検波処理して振幅情報を取り出し、前記材料ノイズ情報比較処理手段はこの検波処理後の初期材料ノイズ情報と経時後材料ノイズ信号とを振幅画像信号として比較する構成とすることができる。
【0048】
振幅情報とは、検波処理した波形を示す情報を含むことができ、波形パターン同士で比較対照可能な情報によって例示できる。
【0049】
振幅画像信号とは、画像比較に使用するため初期材料ノイズ情報と経時後材料ノイズ信号とを検波・画像処理した信号によって例示できる。
【0050】
こうした構成により、検波処理した材料ノイズ信号情報を比較処理するので、材料ノイズ信号を直接処理するよりもより正確な処理が行えるだけでなく、信号処理装置の負担軽減が可能となる。
【0051】
また、上記構成において、本願の請求項9に係る進展亀裂検出装置は、前記進展亀裂情報判断手段の判断結果を表示する画像表示手段を更に有し、この画像表示手段で少なくとも前記材料ノイズ情報処理手段の処理結果も表示する構成とすることができる。
【0052】
画像表示手段とは、進展亀裂情報判断手段の判断結果及び/もしくは材料ノイズ情報処理結果をディスプレイ等に表示する機能を有するものによって例示できる。判断結果を表示する際には、所定のアプリケーションを利用して電子的情報により表示してもよい。
【0053】
こうした構成を備えることにより、検出した材料ノイズ比較結果を画像によりオペレータ等が視覚的に確認できるので、検知結果の取得を容易に行うことができ、また、機械的検出と人間的確認とを重ね合わせることで検出の確実性を担保することができる。このことから、検知時間の短縮も図ることができるので作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0054】
本願によれば、超音波入射による材料ノイズを利用し、初期材料ノイズ情報及び経時後材料ノイズ情報の比較結果から亀裂の進展に関する情報を得ているため、信頼性の高い亀裂進展情報を得ることができる。すなわち、エコー高さが不安定な欠陥からのエコーを利用せず、超音波伝搬経路の変化に基づく材料ノイズの変化を利用しているため、従来の超音波探傷試験が不得手としていた進展亀裂の確実な検出評価が可能である。特に超音波ビームの断面方向で進展量が大きい亀裂は確実に検出可能となる。
【0055】
また、材料ノイズを利用しているため装置が正常であれば必ず材料ノイズが検出されるので、超音波発生手段や材料ノイズ受信手段等に不具合があった場合は、異常が直ちに判定でき、検査の信頼性を向上できる。すなわち、超音波計測においては様々な要因(探触子と試験体の音響結合の状態、超音波機器の故障、外来の電気ノイズ等)で感度の低下や波形の乱れ等が生じ、試験結果の信頼性・確実性を損なうことが多いが、このような計測上の障害がダイレクトに反映する材料ノイズを本願では観測利用しているため、計測上の障害が亀裂の発生・進展の検出に与える影響を未然に排除することができ、検査の信頼性が大幅に向上する。
【0056】
また、初期材料ノイズ情報と経時後材料ノイズ情報との差分を取ることにより、静止亀裂でなく真に危険な進展中の亀裂を検出でき、また溶接余盛部などの妨害エコーがあっても進展亀裂が容易に検出可能である。
【0057】
また、パターンマッチングを行うことにより、初期と時間経過後の計測において所定の範囲にずれがあっても、検査対象位置を合わせることができ、進展亀裂の精密な発見が可能となる。
【0058】
また、進展亀裂検出方法の実行をコンピュータを動作させるプログラムにより行うことにより、計測処理が自動的に、あるいはコンピータの指示に従って半自動的に実行でき、探傷試験実施者の判断に頼ることなく正しく、早く、確実に計測が可能となる。
【0059】
また、超音波の伝搬距離が長い位置における材料ノイズは、超音波の伝搬減衰により強度が低下し、比較対象となる材料ノイズ情報の信頼性が低下してしまうという現状に対し、補正手段によりエコー高さを補正することにより、進展亀裂に関する好適な情報、進展亀裂のより正確な把握・検出を可能とする基礎データを取得することができる。
【0060】
また、検出した材料ノイズ信号を検波処理してから、その処理情報を比較することで、ノイズ情報を直接処理するよりもより正確な処理が行える。
【0061】
さらに、画像表示手段により、差分の値に応じた疑似カラー表現等による可視化により、より一層進展亀裂の検出が簡単に確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係る進展亀裂検出方法を使用するための進展亀裂検出装置全体の構成を示す構成ブロック図である。
【図1A】本発明の一実施形態に係る超音波発生手段の超音波探触子の一構造図である。
【図2】本願発明の一実施形態に係る全体的作用の概要を説明するためのフロー図である。
【図3】本発明の基礎に係る材料ノイズの生成の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る材料ノイズの生成と超音波伝搬経路の関係を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る材料ノイズ生成システムを説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る材料ノイズ生成システムで生成した材料ノイズ画像の例を示す図である。
【図7】材料ノイズ波形をシミュレートするための計算モデルを示す図である。
【図8】材料ノイズ画像をシミュレートするときの例としての説明図である。
【図9】材料ノイズ画像をシミュレートするときの入射超音波の波形の例である。
【図10】シミュレートした初期材料ノイズ画像と経時後材料ノイズ画像の例である。
【図11】シミュレートした材料ノイズ画像の差分画像の例である。
【図12】本発明の一実施形態に係る亀裂進展検出方法の動作ステップを示すフローチャートである。
【図13】本発明の一実施形態に係る亀裂進展検出方法に係る比較処理(ステップSP60)のルーチンの動作を詳細に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では、本発明の目的の達成のために必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0064】
図1は、本発明の一実施形態に係る進展亀裂検出方法を使用するための進展亀裂検出装置1全体の構成を示すブロック図である。同図に示すように、進展亀裂検出装置1は、超音波を発生し被検査物(例えば、亀裂の進展や材料変化などの可能性のある構造物)に入射する超音波発生手段(部)10、超音波が入射することにより被検査物の結晶粒から発生する材料ノイズを受信する材料ノイズ受信手段(部)20、こうして受信される材料ノイズを検査に利用可能な情報である材料ノイズ情報として処理する材料ノイズ情報処理手段(部)30、材料ノイズ情報を比較の対象(初期的値)である初期材料ノイズ情報として記憶する記録手段(部)40、経時後の検査に係る経時後材料ノイズ情報と初期材料ノイズ情報とを比較して比較結果を出す材料ノイズ情報比較処理手段(部)50及び比較結果から進展亀裂に関する所定の判断を行って判断情報を得る進展亀裂情報判断手段(部)60を具備して構成される。上記の各手段としたものは、当該各機能を具現化するためのアルゴリズムをプログラム化し、当該プログラムを実行可能形式にして(たとえば内蔵の記憶領域に)記憶・格納した(図示しない)ルーチン、コンピュータ、ICチップ、記憶媒体、専用装置等によって実現される(以下の「手段」と指標する機能・部位・装置についても同じ)。また、これらの各手段は、その動作を制御する制御手段(たとえばCPU:中央演算装置によって実現される)90からの命令により所定のタイミングにより動作する。制御手段(部)90は操作手段(部)100からの信号により動作する仕組みでもよい。
【0065】
進展亀裂検出装置1は、上記の各手段に加え、超音波の伝搬距離による影響を補正する補正手段(部)70、及び/又は進展亀裂に係る判断情報を画面に表示する画像表示手段(部)80を有していてもよい。これらの機能を追加的に備えることで、進展亀裂についてのより正確な情報を取得することができる。
【0066】
ここで、超音波発生手段10(典型的には、超音波探傷器と圧電素子を内包した超音波探触子によって実現される。以下、「超音波探触子10」あるいは「探触子」ともいう。)は、所定の超音波を入射する機能を有する装置であり、所定の範囲において(例えば亀裂発生が予想される範囲で)、人的操作若しくは自動制御により超音波発生手段を走査できる。
【0067】
超音波発生手段10においては、入射する超音波の強度、波形、屈折角の選定を最適化するのが好ましい。入射超音波のパルス幅に関しては、材料ノイズの振幅の観点からは長いものが有利であるが、画像(又は波形)のシャープさの観点からは短めが良いので、被検査材との関連で最適値を選択する。周波数としては材料ノイズの強度を高めに設定するのが好ましいが周波数が高いと減衰が激しい点に鑑みて最適数値を採用する。
【0068】
超音波発生手段(部)10の超音波探触子の一例としては、たとえば図1Aに示す構造を有するものを採用することができる。
【0069】
図1に戻り、材料ノイズ受信手段(部)20は、超音波を入射することで結晶粒から返ってくる材料ノイズをたとえば探触子と電子機器の組み合わせにより受信するものによって実現される。なお、材料ノイズ受信手段は、超音波発生手段に含まれるものでもよい。すなわち、超音波発生手段(部)10として超音波の送信及び材料ノイズの受信を兼用できるものでもよく、限定はない。
【0070】
一方、超音波を入射する探触子において、超音波残響ノイズを避けるため、2つの振動子を組み込み、一方を送受信用、他方を受信用として利用する二振動子探触子を利用することも可能である。
【0071】
材料ノイズ情報処理手段(部)30は、材料ノイズを情報として記録(記録手段(部)40に記録してもよい。)すべく、所定の演算処理により数値変換処理或いは画像変換処理する機能及び検出した材料ノイズ信号を検波処理して振幅情報を取り出す機能のうち少なくとも一つを有するものを示す。
【0072】
記録手段(部)40は、変換処理した材料ノイズ情報(初期材料ノイズ情報を含む。)を電気的及び/もしくは磁気的及び/もしくは光学的/もしくはネットワークの機能により格納・保管する機能を有する装置等によって実現される。
【0073】
材料ノイズ情報比較処理手段(部)50は、複数の材料ノイズ情報(初期材料ノイズ情報及び経時後材料ノイズ情報を含む。)を所定の演算処理にて比較処理する機能を有するコンピュータ等の装置によって実現される。なお、比較処理とは、数値情報の差分の算出或いは画像情報の差異点の差分、画像信号としての比較処理でもよく、また、検波処理により抽出した振幅画像信号に対してこれらの比較処理を行うものでも良い。
【0074】
進展亀裂情報判断手段(部)60は、比較の結果を元に、他の要因(例えば、被検査物の材質、厚さ、温度、強度、応力、歪み及びその他の外力を含む。)を変数(パラメータ)として、所定の演算処理により亀裂の進展に係る情報(進展状況の予測を含む。)を出力する機能を有するコンピュータ等によって実現される。
【0075】
補正手段(部)70は、伝搬距離の増大に従う材料ノイズ強度の低下を補償する手段であり、被検査物と同一材の対比試験片の材料ノイズ強度を用いて、伝搬距離-平均材料ノイズの関係の較正曲線を作成し、材料ノイズ強度の補正を行うものである。
【0076】
具体的には、補正手段(部)70は、上記機能を有するアリゴリズムを備えたコンピュータ等により実現できる。
【0077】
さらに、被検査物の材料ノイズそのものを用いた補正が可能である。詳細には、欠陥エコーや溶接余盛エコーなどが無い領域について、材料ノイズの平均的強度(例えば、平均値、標準偏差又は最大振幅を含む。)を一定レベルに保つような方法で、振幅を補正することができる。
【0078】
画像表示手段(部)80は、進展亀裂情報判断手段(部)60の判断結果を表示し、材料ノイズ情報処理結果を表示する機能を有するものとし、たとえば(図示しない)ディスプレイ及びこのディスプレイに情報の出力制御をかける(図示しない)出力制御部によって実現される。判断結果を表示する際には、所定のアプリケーションを利用して電子的情報として表示してもよい。
本実施形態の原理と動作
【0079】
次に、上記のように構成される本実施形態の作用・動作及び原理について、超音波斜角探傷試験におけるBスコープ表示(断面表示)を利用する例で説明する。図2は、本一実施形態に係る全体的作用の概要を説明するためのフロー図である。同図に示されるように、まず超音波探触子10を被検査材料200の表面に接触媒質を介して接触させ、超音波発生手段(部)10により超音波を入射させつつ機械的に走査させる(A101)。超音波は、超音波探触子10の屈折角で材料200中に進み、超音波ビーム経路に沿って所在する個々の結晶粒において材料ノイズ(A102)を発生させる。これを超音波探触子10の材料ノイズ受信手段(部)20で検出し、材料ノイズ情報処理手段(部)30により検波処理し、画像データに変換し(画素を振幅で輝度変調)、初期材料ノイズ画像として記録手段(部)40で記録しておく。
【0080】
次に、時間経過後に、略同じ部位・位置において超音波探触子10を被検査材料200の表面に接触させ、材料200中に超音波を入射させつつ機械的に走査させ(A104)、このときの材料ノイズ(A105)を、超音波探触子10の材料ノイズ受信手段(部)20で検出し、材料ノイズ情報処理手段(部)30により検波処理し、画像データに変換し、経時後材料ノイズ画像として記録手段(部)40で記録する。
【0081】
次に、材料ノイズ情報処理手段(部)30が記録手段(部)40から初期材料ノイズ画像(情報)を読み出し、材料ノイズ情報比較処理手段(部)50がこの読み出された画像(情報)と経時後材料ノイズ画像(情報)とを比較処理し、この結果に基づき進展亀裂情報判断手段(部)60が、亀裂進展に関する判断を行い(A108)、進展亀裂に関する情報を得て、場合に応じて結果を画像表示手段(部)80が画像表示する。
【0082】
図3は、本発明の進展亀裂検出手法の基礎となっている多結晶組織200による材料ノイズの生成の現象を説明する図である。被検査物200が鉄鋼材料のように多結晶組織である場合には、超音波探触子10から入射させた超音波が個々の結晶粒で散乱され、材料ノイズとなる。したがって、材料ノイズ生成にかかわる結晶粒は、超音波の波動が及ぶ範囲であり、超音波ビーム経路に沿って存在していることが理解される。
【0083】
また、一方、結晶粒はランダムに分布している(サイズや方向性など)ため、鋼材のどの部分を取り出しても、結晶粒の分布は異なったものである。超音波探触子10で検出される材料ノイズ信号は、これらの個々の結晶粒からの材料ノイズが合成されたものであるので、超音波の伝搬経路に沿って存在する結晶粒の分布状況の影響を直接に反映している。このことは、超音波の伝搬経路が異なれば、異なる材料ノイズ信号が受信され、また、同じ経路に超音波を伝搬させれば、同じ材料ノイズを生成することを示す。もちろん、入射する超音波の波形が同一であることも必要条件である。
【0084】
本願の発明はこの原理に基づくもので、図4はその一実施形態に係る材料ノイズの生成と超音波伝搬経路の関係を示す説明図である。被検査物200に超音波探触子10により超音波を入射させる。亀裂発生前は(A)に示す状態であり、入射した超音波は経路220に沿った結晶粒によって生成される材料ノイズを検出する。亀裂発生後は(B)に示す状態であり、亀裂210の出現により変化した伝搬経路220に沿った結晶粒から生成される材料ノイズが検出される。亀裂進展前と進展後とを比べると、Bの経路220の太線の部分の材料ノイズが異なることが分かる。従って、同じ経路で材料ノイズを2回測定し、両者の差分を取るなどの方法で比較することにより、両者の違いが検出され、2回の測定の間に超音波伝搬経路を変化させる現象(亀裂の進展など)があったと知ることができる。
【0085】
なお、上記において、被検査物としては、鋼材を例に説明したが、超音波の散乱源となる構造・組織を有する材料であれば鉄鋼材料以外にも適用可能であり、一般の金属材料(多結晶組織、介在物、析出物などが散乱源となり得る)、FRP(強化繊維などが散乱源となり得る)コンクリート(骨材などが散乱源になり得る)などの例を挙げることができる。
【0086】
図5は、本発明の一実施形態に係る進展亀裂装置1における材料ノイズ画像を生成する材料ノイズ画像生成システム2の機能構成及び機械走査の概念を示すための機能ブロック概念図である。なお、材料ノイズ画像生成システムは、進展亀裂検出方法に係る各ステップを踏襲するものとする。
【0087】
同図に示すように、材料ノイズ画像生成システム2は、所定のパルスを出力するパルサー300、超音波探触子10が検出した信号を増幅させる増幅器310、返ってきた信号を振幅情報として抽出する検波器320及び材料ノイズを画像化する画像処理器330を具備して構成される。
【0088】
パルサー300は超音波探触子10を励振して超音波を発生させるための電気パルスを発生させる機能を有するものであり、たとえば電子回路により実現される。増幅器310は、検出した材料ノイズ信号の振幅を増大させる機能をたとえば電子回路により実現したものを含む。検波器320は、増幅した材料ノイズ信号から振幅情報を取り出す機能をたとえば電子回路により実現したものを含む。画像処理器330は検波した材料ノイズ信号と探触子位置情報から材料ノイズ画像を作成する機能をたとえば電子回路により実現したものを含む。
【0089】
同図に示されるように、パルサー300により超音波探触子10が発生した超音波が被検査物200に入射することで、上述したメカニズムにより材料ノイズ230が返ってくる。この材料ノイズ230を超音波探触子10で検出し、増幅器310で増幅し、検波器320で検波して振幅情報を取り出す。探触子を走査しつつこれらの処理を行い、2次元的な材料ノイズを収集し、画像処理器で画像化する。画像化は、探触子位置と路程と屈折角から定まる位置の画素を当該路程の材料ノイズ振幅で輝度変調すること等によって達成される。
【0090】
図6は、材料ノイズ画像生成システム2により作成した材料ノイズ画像の例である。探触子は周波数5MHz、屈折角45度、材料は、S10C炭素鋼である。縦軸を深さ、横軸を水平方向位置で表している。上部における水平に連なった帯状の像は探触子内の残響であり、材料ノイズではない。帯状の像の下に分布する雲状の像が材料ノイズ像である。
【0091】
次に、数値シミュレーションにより、本願の進展亀裂の検出法の有効性と特徴を示す。
図7は、材料ノイズの計算シミュレーション方法を示す図である。鋼材中の結晶粒による超音波の散乱を、ランダムに分布させた模擬散乱源で近似し、これら散乱源からの散乱波が超音波探触子に戻り加算されて、材料ノイズ信号となる。図7の記号を使うと、材料ノイズ信号は、次式で計算できる。
【0092】
【数1】

【0093】
計算結果であるg(t,xi)は、探触子の位置がxiにおける材料ノイズの波形を表す。
【0094】
ここで、図8は、材料ノイズ画像をシミュレートするときの例としての説明図であるが、図8に示すとおり、深さ(y)20mmから40mm、幅(x)0mmから70mmの領域にランダムに散乱源を分布させて、表面(y=0)上を探触子を走査させ、0.2mm移動毎に材料ノイズg(t,xi)を計測し、材料ノイズ画像を作成した。亀裂がない場合の材料ノイズ画像を400−1とし、高さ8mmの亀裂が深さ30mmに存在する場合の材料ノイズ画像を400−2とした。入射する超音波の波形として図9に示す波形を用いて、作成した材料ノイズ画像を、横軸を探触子位置、縦軸を深さで表し図10に示した。
【0095】
材料ノイズ画像から直接、亀裂の有無を確認することは困難であるが、二つの材料ノイズ画像の差分画像を作成すると、図11となる。400−3は高さ8mmの亀裂がある場合と無い場合の差分画像であり、400−4は、高さ2mmの亀裂がある場合と無い場合の差分画像である。材料ノイズ画像の差分画像には、亀裂の存在が明確に表れていることが分かる。また、超音波の入射方向から見て、路程がもっとも短い差分像の位置に亀裂があり、また、差分像の幅(入射方向に垂直な断面における)が亀裂の大きさを表していることが分かる。
【0096】
従って、本願の方法によって、亀裂の検出と亀裂の大きさに関する情報を得ることができる。
【0097】
また、本実施形態の方法によれば、亀裂からのエコーを利用していないため、疲労亀裂のようにエコーの振幅が安定せず、また、最悪の場合、エコーがノイズレベル以下であっても、亀裂の進展があれば材料ノイズが変化しているため、検出可能である。
【0098】
また、溶接余盛エコーが邪魔して欠陥からのエコーが分離せず、欠陥検出が困難な場合にも、亀裂が進展すれば、超音波の入射方向から見て進展亀裂の影の部分で、余盛エコーがない領域の材料ノイズの違いから、進展亀裂が検出可能となる。
【0099】
このように、本願の方法は、従来の超音波探傷の欠点であった欠陥検出における信頼性の低い現状を改善できるので、重要な構造体の健全性維持に大きな役割を果たすと考える。
【0100】
以上のとおり、材料ノイズのシミュレーションによって、本願の進展亀裂の検出、寸法測定が可能であることが理解される。
【0101】
シミュレーションの例では、単純な材料ノイズ画像の差分画像での比較が有効であったが、実際の探傷試験では、全く同じ走査線でデータ収集しても種々の誤差が入り込み単純な差分画像による比較が有効でない場合がある。この場合のデータ収集段階の対策として、複数の平行な走査線でデータを収集しておき、これらを組み合わせて、正確な比較ができる材料ノイズ画像を作成する方法と、材料ノイズ画像の比較段階で、材料ノイズのパターンの特徴点を抽出し、パターンマッチングにより二つの画像のズレを修正して比較するなどの方法で、二つの材料ノイズ画像の比較精度を上げることができる。
【0102】
次に、本願に係る詳細な動作を説明する。図12は、本発明の一実施形態に係る亀裂進展検出方法の動作ステップを示すフローチャートである。なお、亀裂進展検出方法を実施するために、亀裂進展検出装置1を利用しても良い。
【0103】
超音波発生手段10により超音波を被検査物200に入射させ(SP10)、被検査物内部から返ってくる材料ノイズ230を材料ノイズ受信手段20が受信する(SP20)。受信した所定の材料ノイズ230の状態をチェックし、不適切データの場合にはデータの取り直しを行い(SP30)、必要があれば、伝搬距離や局所的な感度低下などによるノイズレベルの変動の補正を行う(SP40)。このような処理データを、初期材料ノイズ情報として材料ノイズ情報処理手段(部)30(SP50)で処理し、記録手段(部)40に記録する(SP60)。なお、経時後材料ノイズ情報が既に存在する場合(記録済みであるか否かは問わない。)には次の処理に進むが、存在しない場合は、SP20からSP60の処理をループする。
【0104】
初期材料ノイズ情報(記録手段(部)40に記録してある場合は、記録手段(部)40から呼び出すものとする。)及び経時後材料ノイズ情報が存在する場合、初期材料ノイズ情報と経時後材料ノイズ情報とを材料ノイズ情報比較処理手段(部)50で比較処理する(SP70)。比較処理後、進展亀裂情報判断手段(部)60で比較結果から判断することで、亀裂部210の進展に関する情報を得ることができる(SP80)。
【0105】
図13は、本発明の一実施形態の亀裂進展検出方法における比較処理(SP60)に係るルーチンの動作を詳細に示すフローチャートである。なお、比較処理を実現させるためにノイズ画像生成システム2を利用しても良い。
【0106】
同図に示すとおり、前述したとおり、材料ノイズ受信手段(部)20は、材料ノイズの画像化のために、材料ノイズ信号を検波して振幅情報に変換することができる(SP200)。この処理により、取り扱いデータ量を減少させ、また、画像比較の際の位置精度の要求水準を低くし、亀裂検出のための比較作業を容易化する。
【0107】
処理した材料ノイズ信号は、材料ノイズ受信手段(部)20から得られる探触子の位置情報を得て、画像化を行う(SP210)。得られた材料ノイズ画像に対し、ノイズレベルの変動を均一化するための補正を行うことができる。(SP220)。
【0108】
次に、材料ノイズ画像の比較のため、必要ならば特徴量画像を作成して利用することができる。種々の誤差のため、単純な差分画像を用いた亀裂検出・評価が困難な場合には、有効となる。
【0109】
また、必要に応じて、パターンマッチングを行うことができる。差分画像の作成において、位置信号の誤差によって差分画像の作成精度が低下して亀裂検出に影響する場合に、パターンマッチングで位置誤差を修正し、亀裂の検出評価能力の低下を防ぐことができる。
【0110】
以上、詳細に説明したように、本発明の一実施形態によれば、これまでは探傷試験において極力その影響をさける対象であった材料ノイズを有効に活用し、かつ、亀裂進展前後の差分を求めることによって進展の度合いを検出するので、進展亀裂を有効に検出することができる。静止している亀裂は検出しないが、本当に危険な亀裂(進展中の亀裂)を検出するので、構造体の安全性確保に大きく貢献できる。
【0111】
また、画像の作成は、検波した検出超音波信号を利用して、画素を輝度変調して表示するため、差分画像について、グレースケール表示または擬似カラー表示が可能である。これにより、機械的数学的処理に加えて人間が肉眼で視認することもできることとなり、安全性の確保を重層化できる。
【0112】
また材料ノイズを記録しているため、常に探傷機器の状態をチェックした状態にあると考えることができる。局所的に感度が下がった状態(抵触媒質の不足などによる)は画像として確認できるので、超音波計測の信頼性の指標にできるし、信頼性が向上する効果も奏される。
【0113】
さらに、探傷器の感度設定は、平均的な材料ノイズを一定レベルにすることで行うので、感度設定が容易である。
【0114】
なお、進展亀裂検出方法をコンピュータに実行させる進展亀裂検出プログラムについては、上記した実施形態の図1に係る方法以外の方法を含め、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜採用できるものである。
【0115】
また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、検出超音波信号で画素を直接輝度変調して画像化することもできるが、この場合には、生の超音波信号は周期が短いため、データ量の増大、データ収集の位置の高精度化についての付随する課題を解決することが必要と考える。
【0116】
また、上述したものは本発明に係る技術思想を具現化するための実施形態の一例を示したにすぎないものであり、他の実施形態でも本発明に係る技術思想を適用することが可能である。たとえば、上記では、材料ノイズを媒介として用いる考え方を例にとって説明したが、本願発明はその原理上、検査対象から返ってくる物理量について、一定時間経過後の物理量との間で差分をとり、原理的に、当該物理量が計測可能なものであれば何であったとしても、この差分を可視化することができることになる。これにより、材料特性、計測環境に応じて計測に適する物理量を選択することができ、進展亀裂の非破壊検査のみならず、劣化による変質等、肉眼による視認可能範囲を超えた異常状況の進展の発見をより確実に担保する。
【0117】
さらにまた、本発明を用いて生産される装置、方法、システムが、その2次的生産品に登載されて商品化された場合であっても、本発明の価値は何ら減ずるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、検査対象から返ってくる物理量について、一定時間経過後の物理量との間で差分をとり、原理的に、当該物理量が計測可能なものであれば何であったとしても、この差分を可視化することで、進展亀裂の非破壊検査のみならず、劣化による変質等、肉眼による視認可能範囲を超えた進展状態の発見を可能にする。したがって、たとえば船舶、橋梁、原子力施設といった建造物は勿論のこと、化学プラント業、建築業、土木業(ダム等)、宇宙産業等、素材の破壊が安全上の脅威となり得る産業においては、すべてにおいて広く利用・応用される大きな可能性を有している。
【符号の説明】
【0119】
1…進展亀裂検出装置、2…材料ノイズ画像生成システム、10…超音波発生手段(部)(超音波探触子)、20…材料ノイズ受信手段(部)、30…材料ノイズ情報処理手段(部)、40…記憶部(記録手段)、50…材料ノイズ情報比較処理手段(部)、60…進展亀裂情報判断手段(部)、90…制御手段(部)、100…操作手段(部)、200…被検査材料、220…超音波、230…材料ノイズ、300…パルサー、310…増幅器、320…検波器、330…画像処理器、400−1…初期材料ノイズ画像の例、400−2…経時後材料ノイズ画像の例、400−3…材料ノイズの差分画像の例、400−4…材料ノイズの差分画像の例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物に対し超音波発生手段を所定の範囲で動かして超音波入射するステップと、前記被検査物からの材料ノイズを受信するステップと、受信した材料ノイズを初期材料ノイズ情報として記録するステップと、時間経過後に再び前記被検査物に対して前記超音波発生手段を略前記所定の範囲で動かして超音波入射するステップと、前記被検査物からの経時後材料ノイズを受信するステップと、この受信した経時後材料ノイズを経時後材料ノイズ情報として前記初期材料ノイズ情報と比較するステップと、比較の結果から進展亀裂に関する情報を得るステップとを具備することを特徴とする進展亀裂検出方法。
【請求項2】
前記材料ノイズを受信するステップ及び/あるいは前記経時後材料ノイズを受信するステップにおいて材料ノイズの発生を確認することを特徴とする請求項1記載の進展亀裂検出方法。
【請求項3】
前記比較するステップは、前記初期材料ノイズ情報としての初期材料ノイズ画像と、前記経時材料ノイズ情報としての経時後材料ノイズ画像との差分を取ったことを特徴とする請求項1あるいは2記載の進展亀裂検出方法。
【請求項4】
前記差分を取るステップは、前記初期材料ノイズ画像と、前記経時後材料ノイズ画像の各々の特徴点を求め、この各々の特徴点を利用して画像の重ね合わせ時におけるパターンマッチングを取ったことを特徴とする請求項3記載の進展亀裂検出方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の進展亀裂検出方法に係る各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする進展亀裂検出プログラム。
【請求項6】
被検査物に対し超音波を入射する超音波発生手段と、前記被検査物からの材料ノイズを受信する材料ノイズ受信手段と、前記超音波発生手段を所定の範囲で動かした場合の前記材料ノイズ受信手段で受信される材料ノイズを材料ノイズ情報として処理する材料ノイズ情報処理手段と、この材料ノイズ情報処理手段の処理結果を初期材料ノイズ情報として記録する記録手段と、時間経過後に再び前記被検査物に対して同様な測定と処理を行って得られた経時後材料ノイズ情報と前記記録手段から呼び出した前記初期材料ノイズ情報とを比較する材料ノイズ情報比較処理手段と、この材料ノイズ情報比較処理手段の比較結果から進展亀裂に関する情報を得る進展亀裂情報判断手段とを備えたことを特徴とする進展亀裂検出装置。
【請求項7】
前記被検査物内に入射された前記超音波の伝搬距離による影響を補正する補正手段を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の進展亀裂検出装置。
【請求項8】
前記材料ノイズ情報処理手段は検出した材料ノイズ信号を検波処理して振幅情報を取り出し、前記材料ノイズ情報比較処理手段はこの検波処理後の初期材料ノイズ情報と経時後材料ノイズ信号とを振幅画像信号として比較したことを特徴とする請求項6記載の進展亀裂検出装置。
【請求項9】
前記進展亀裂情報判断手段の判断結果を表示する画像表示手段を更に具備し、この画像表示手段で少なくとも前記材料ノイズ情報処理手段の処理結果も表示することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の進展亀裂検出装置。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−243375(P2010−243375A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93550(P2009−93550)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】