遠心圧縮設備とそのサージング防止方法
【課題】サージング発生からサージング検出までの検出遅れが短く、振動、圧力変動及び騒音の発生を防ぐことができ、容量制御範囲を大幅に広げることができ、運転環境や経年変化による運転特性の変動に追従してサージラインを自動更新することができる遠心圧縮設備とそのサージング防止方法を提供する。
【解決手段】気体1を遠心圧縮する遠心圧縮機12と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機14と、電動機の駆動電流検出器16と、圧縮気体2をそれより低圧部分3に排気する排気弁18とを備え、駆動電流をサンプリング周期で検出し、サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、排気弁18が閉じておりかつ駆動電流が電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【解決手段】気体1を遠心圧縮する遠心圧縮機12と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機14と、電動機の駆動電流検出器16と、圧縮気体2をそれより低圧部分3に排気する排気弁18とを備え、駆動電流をサンプリング周期で検出し、サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、排気弁18が閉じておりかつ駆動電流が電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機を用いた遠心圧縮設備とそのサージング防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ圧縮機やターボ冷凍機に用いられる遠心圧縮機は、低流量域において激しい圧力変動と騒音を伴うサージングが発生する。遠心圧縮機がサージング状態に入ると圧縮機として安定運転ができなくなり、寿命が短縮され、最悪の場合、損傷する可能性もある。
そこで、サージングの発生を防止する手段が、従来から種々提案されている(例えば、特許文献1〜9)。
【0003】
以下、特に必要な場合を除き、遠心圧縮機を「圧縮機」、サージングを「サージ」と略称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−111093号、「軸流圧縮機のサージ防止装置」
【特許文献2】特開昭62−195492号、「ターボ圧縮機のサージング防止装置」
【特許文献3】特開昭64−394号、「圧縮機のサージング防止装置」
【特許文献4】特開2000−199495号、「ターボ冷凍機のサージング予測方法及び装置」
【特許文献5】特開2004−316462号、「遠心圧縮機の容量制御方法及び装置」
【特許文献6】特開2005−16464号、「圧縮装置」
【特許文献7】実開昭62−93194号、「ターボ圧縮機等の安全装置」
【特許文献8】特許第4191560号、「ターボ冷凍機、およびその制御方法」
【特許文献9】特開2002−276590号、「圧縮機のサージング検出装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
a.サージ防止制御と省エネの関係
従来、遠心圧縮機の予想性能曲線あるいは計測されたサージラインを用いて、流量を減じたときに、圧縮機動作点がそのラインを超えないように、サージ防止ラインを設け、サージ防止ラインを超えた場合は速やかに放風制御又はバイパス制御して、圧縮機がサージング状態に陥らないようにする方式が一般的に用いられている。
しかし、圧縮機の特性は運転環境や経年により変化する場合があり、実際のサージラインは予想性能曲線と異なることがある。そのため、現地でサージングを意図的に発生させる試験(サージ試験)を行い、実際に計測されたサージラインに対し10〜15%程度の大流量側にサージマージンを設けるのが従来、一般的である。
そのため、従来は、サージマージンの分、遠心圧縮機の容量制御範囲が狭くなり、容量(流量)の小さい減量運転時にエネルギーロスが生じる問題があった。
【0006】
b.サージングの検出手段
圧縮機がサージング状態に入ると圧縮機が圧縮機としての仕事をしなくなるため、軸動力ならびに圧縮機の流量が直前の運転状態から著しく減少することが知られている。
この状態を検出する手段として、流量あるいはこれと関連のある圧縮機用電動機の駆動電流・電力や吐出圧力などの状態量を用いて、あらかじめ設定した値と比較することでサージング状態の判定を行うことがこれまで提案されてきた。
【0007】
圧力変化を用いる場合、圧力はその圧力容器に出入りする流量の積算値であるから、圧力の変動を監視することは、すなわち流量を測定することになり常に遅れ制御系になり、その変化は圧力容器の大きさに反比例し、流量に比例する特徴がある。圧力変化を用いるのは容易であるが、サージング状態とは圧縮機の流量変動を記録することに他ならない。圧力計測範囲に対し、サージング発生時の小さな圧力振幅信号を抽出するには、2回微分処理が必要であるから、サージング状態を適正に検出するには複雑なデジタル信号処理技術が必要となり、サージ検出装置のコストが増加するといった問題がある。
【0008】
流量変化を用いる場合は、流量を1回微分するだけで良いので、圧力を利用する場合に比べ、信号処理は容易になる。しかしその反面、流量計測結果にはノイズ性分(揺らぎ)が多数含まれ、その除去が難しい上、流量計測手段を設けると計測点数が増加し、コスト増につながるといった問題もある。
【0009】
電動機の駆動電流は一定の吐出圧力条件下において狭い範囲で流量に比例する特徴があるため、流量の代替計測手段として使うことができる。しかし流量と同様に駆動電流の揺らぎは大きく、適正に閾値を設けなければ、誤作動や、サージング検出が行われないなどの可能性がある。
【0010】
c.サージ防止ラインの決定手段
圧縮機のサージラインは、圧縮機の特性に合わせ予め入力(設定)するのが一般的である。
しかし圧縮機の特性が運転環境や経年により変化すると予期せずサージングに入ることがあり、このような場合は、以後の圧縮機の運転継続が困難になる。
【0011】
d.サージ防止制御手段
圧縮機のサージング防止制御は、流量と吐出圧力あるいは圧力比で行われることが一般的である。
しかしながら、流量を計測するには複数の計測器が必要でコストアップになるため、代替手段として電動機の駆動電流を用いる場合がある。これは、吐出圧力が一定かつサージ防止ライン近傍において、流量は電動機の駆動電流とほぼ比例関係にある点に着目したものである。
しかし、電動機の駆動電流と吐出流量は運転条件によって誤差が生じるという問題がある。また、吐出圧力についても、吸入圧力が変化するとサージラインが変化するため、圧力比を用いることが望ましい。
【0012】
上述した特許文献1〜6は、予めサージング状態が発生する限界としてサージライン又はサージ防止ラインを設定し、圧力比、圧力比変化率、動力変化率、差圧、流量等に基づきサージラインを超えないように制御するものである。
特許文献7〜9は、駆動電流の変動、圧力、流量、流速等に基づきサージングを検出するものである。
【0013】
上述したように、予めサージ防止ラインを設定する場合、実際に計測されたサージラインに対し、従来は10〜15%程度の余裕(サージマージン)を設けるため、その分、遠心圧縮機の容量制御範囲が狭くなる問題点があった。
また、サージラインは、運転環境や経年変化により変動するため、サージマージンを十分大きくしないと予期せずにサージングに入る可能性があった。
また、遠心圧縮機の流量や駆動電流は、運転中の変動(揺らぎ)が大きいため、誤作動やサージングの不検出が発生しやすかった。そのため、従来のサージング検出手段の場合、サージング発生から検出までの検出遅れが長く(例えば20〜30秒)、激しい振動、圧力変動及び騒音を回避することができなかった。
【0014】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案したものである。すなわち、本発明の目的は、(1)サージング発生からサージング検出までの検出遅れが短く、振動、圧力変動及び騒音の発生を防ぐことができ、(2)サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機の容量制御範囲を大幅に広げることができ、(3)運転環境や経年変化による運転特性の変動に追従してサージラインを自動更新することができる遠心圧縮設備とそのサージング防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁と、遠心圧縮機のサージングを防止するように排気弁を制御するサージ防止制御装置とを備え、
前記サージ防止制御装置は、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備が提供される。
【0016】
また本発明によれば、気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁とを備え、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備のサージング防止方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
遠心圧縮機がサージング状態になると圧縮機が仕事をしなくなるため、サージングと同時に圧縮機の軸動力が減少し、電動機の駆動電流の変化として観測できる。
この駆動電流は、圧縮機の運転状態によって変化するため一定とはならないが、標本の分布と標準偏差について、3σ(算出した標準偏差の3倍)に含まれる標本の数は99%以上であるという統計的手法を応用すれば、駆動電流の揺らぎ量は、標準偏差を計算することによって推測できる。
本発明はかかる知見に基づくものである。
【0018】
すなわち、上記本発明の装置及び方法によれば、サージ防止制御装置により、(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、(C)排気弁が閉じておりかつ駆動電流が電流閾値を下回る場合にサージングと判定するので、駆動電流の揺らぎ(バラツキ)の影響を受けることなく、確実にサージング現象を検出することができる。
【0019】
またこの判定手段による、サージング発生からサージング検出までの検出遅れは、実施例から1秒以内(例えば0.1秒程度)であり、(D)サージングと判定した場合、排気弁を開いて圧縮された気体を排気することで、振動、圧力変動及び騒音を回避できることが実施例で確認された。
【0020】
従って、従来のようにサージマージンを大きく設定する必要はなく、(2)サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機の容量制御範囲を大幅に広げることができる。
また、サージングが発生しても振動、圧力変動及び騒音を回避して圧縮機を安定して運転できるので、サージングを発生させてその際の圧縮機の運転条件をデータとして取得し、(3)運転環境や経年変化による運転特性の変動に追従してサージラインを自動更新することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による遠心圧縮設備の実施形態図である。
【図2】本発明の方法の説明図である。
【図3】サージラインとサージ防止ラインの説明図である。
【図4】サージ発生点の説明図とサージデータの例である。
【図5】サージング検出後の処理の流れを示す図である。
【図6】サージ発生点の処理方法を示す図である。
【図7】サージライン再構築時の有効データ抽出処理を示す図である。
【図8】サージラインの再構築を示す図である。
【図9】折れ線データの更新を示す図である。
【図10】本発明の実施例を示す図である。
【図11】図10のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明による遠心圧縮設備の実施形態図である。
この例において、遠心圧縮設備10は、遠心圧縮機12、電動機14、電流検出器16、排気弁18、及びサージ防止制御装置30を備える。
【0024】
遠心圧縮機12は、気体1(例えば空気)を遠心圧縮する。電動機14は、遠心圧縮機12を回転駆動する。電流検出器16は、電動機14の駆動電流Iを検出する。排気弁18は、圧縮された気体2(圧縮気体)をそれより低圧部分3に排気する。
排気弁18は、放風弁であってもバイパス弁であってもよい。
図1(A)の例では、排気弁18は放風弁であり、図1(B)の例では、排気弁18はバイパス弁である。バイパス弁とは、遠心圧縮機12の吐出側と吸入側を連通する配管を設け、その配管の途中に設けた調節弁である。この場合、低圧部分は遠心圧縮機12の吐出側である。
なお、この図で符号19は、気体1の需要先4へ圧縮気体2を供給する吐出弁である。吐出弁19の開度は、例えば需要先4からの要求により適宜制御される。
【0025】
低圧部分3は、例えば外気であり、その間に放風サイレンサ(図示せず)を設けるのがよい。排気弁18は、遠心圧縮機12の正常運転中は全閉している。
【0026】
図1において、遠心圧縮設備10は、さらに遠心圧縮機12の吸入圧力Psと吐出圧力Pdを検出する吸入圧力計22及び吐出圧力計24と、遠心圧縮機12の吸入温度Tsを検出する吸入温度計26とを備える。
【0027】
サージ防止制御装置30は、例えばコンピュータ(PC)であり、遠心圧縮機12のサージングを防止するように排気弁18を制御する。排気弁18の制御は、ON/OFF制御でも、流量を調節する調節動作でもよい。
【0028】
サージ防止制御装置30は、動力計算機32、流量計算機34、圧力比計算機36を備える。
動力計算機32は、駆動電流Iから電動機14の駆動動力Wを計算する。流量計算機34は、駆動動力W、吸入圧力Ps、吐出圧力Pd及び吸入温度Tsから遠心圧縮機12の流量Qを計算する。圧力比計算機36は、吸入圧力Ps及び吐出圧力Pdから圧力比Πを計算する。
【0029】
サージ防止制御装置30は、以下のように作動する。
(A)駆動電流Iをサンプリング周期tsで検出する。
(B)サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値Xとしてリアルタイムに更新する。ここでnは3以上、4以下の正数である。
(C)排気弁18が閉じており、かつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定する。
(D)サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【0030】
図2は、本発明の方法の説明図である。なおこの図では、nは3である。
この図において、横軸は時間t、縦軸は駆動電流Iである。サンプリング周期tsは、後述する実施例では50msec(0.05秒)である。また、サンプリング期間tpは、後述する実施例では約25秒である。
【0031】
サンプリング周期tsは、サージ防止制御装置30の制御が追従できる限りで短いことが好ましいが、10msec(0.01秒)以上、1秒以下の範囲で任意に設定することができる。
サンプリング期間tpは、上述した母集団の標本数が好ましくは100以上になるように、例えば1秒以上、100秒以下の範囲で任意に設定することができる。なお、標本数は100未満であってもよい。
【0032】
上述した装置を用い、本発明の方法は、以下のA〜Dの各ステップからなる。
(A)では、駆動電流Iをサンプリング周期tsで検出する。
(B)では、サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差σを電流閾値Xとしてリアルタイムに更新する。ここでnは3以上、4以下の正数である。
(C)では、排気弁18が閉じており、かつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定する。
(D)では、サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【0033】
上述した本発明の装置及び方法によれば、サージ防止制御装置30により、(B)サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差σを電流閾値Xとしてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、(C)排気弁18が閉じておりかつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定するので、駆動電流Iの揺らぎ(バラツキ)の影響を受けることなく、確実にサージング現象を検出することができる。
【0034】
上述したように、遠心圧縮機12がサージングに入ると圧縮機12が仕事をしなくなるため、サージングと同時に圧縮機12の軸動力が減少し、電動機14の駆動電流Iの変化として観測できる。
電動機14の駆動電流Iは、圧縮機12の運転状態によって変化するため一定とはならないが、標本の分布と標準偏差について、3σ(算出した標準偏差の3倍)に含まれる標本の数は99%以上であるという統計的手法を応用すれば、駆動電流Iの揺らぎ量は、標準偏差σを計算することによって推測できる。
つまり、移動平均と移動平均計算区間の標準偏差σを計算し、電流閾値X=(移動平均−n×標準偏差σ、nは3以上、4以下の正数)と仮定すれば、駆動電流Iがこの電流閾値Xより下回った場合、通常発生している駆動電流Iの揺らぎの幅を超えたと考えられ、高い確率でサージング現象が発生した可能性が高いと見なせ、手動介在による調整は不要にできる。
【0035】
電流閾値Xを下回ったデータの内訳は、「外来ノイズによる突発的なデータの変動」や「サージング発生」であると見なすことができ、計測データの揺らぎを排除しているため、前者の発生確率は1%以下であるといえる。つまり、標本数が100であると仮定した場合、異常データは1個であるといえる。いま、サンプリング期間をtp[秒]、サンプリング周期をts[秒]としたとき、サージング現象の発生時間がサンプリング周期tsに対して十分長く、tp/ts>100であれば、2回以上連続的に電流判定値を下回った場合、「突発的なデータの変動」は全て棄却でき、発生事象の原因はサージング発生であると見なすことができる。
【0036】
この考え方に基づき、サージング発生時の電流挙動について確認したところ、この判定手段による、サージング発生からサージング検出までの検出遅れは、実施例から1秒以内(例えば0.6秒程度)であった。
従って、この判定手段は、適切なサンプリング期間tpならびにサンプリング周期tsを設ければ、1秒以内の検出遅れで確実にサージング発生を検出できることが後述する実施例により確認された。
【0037】
しかし、駆動電流Iが電流閾値Xを下回る現象は、排気弁18を急激に開いた場合でも成立する。そのため、本発明では、排気弁18が全閉又は中間開度であることをサージング判定の前提条件としている。
【0038】
ここで、「全開」あるいは「全閉」の状態とは、リミットスイッチ(開度検出器)がそれぞれ作動している開度領域を一般に指すが、必ずしも開度100%、開度0%という値ではない。
【0039】
具体的には、「全開」は、一般に開度約95%近傍から100%までを指すことが多いが、90%近傍に設定されることもある。
例えば、バタフライ弁は、理論上90deg動くが、流れに対して0degを全閉とした場合、60degを開度100%と定義して上限を打ち切りする使い方もある。したがって、「全開」とは、「運用上最大となる開度」と定義できる。
【0040】
また「全閉」は、一般に開度約5%近傍から0%までであることが多いが、圧縮機のIGVでは、30%を全閉として定義するような使い方もある。
したがって、全開側と同様、「全閉」とは、「運用上最小となる開度」と定義できる。
【0041】
中間開度とは、「全開」あるいは「全閉」ではない開度状態である。すなわち、サージ防止制御における中間開度とは、「排気弁が開く余地のある開度」であって、ほぼ一定開度の状態を意味する。
【0042】
圧縮機の排気弁(放風弁)設計上、排気弁を全開にすると吐出圧力が定格仕様点より下がるので、通常、プラントに送気している状態で、全開となるような運用はない。
したがって、サージ防止制御を行う場合は、排気弁を全閉ないし中間開度(排気弁が開く余地のある開度)からより大きく開かれることになる。
【0043】
また、圧縮機12の作動点を監視し、予め設定したサージライン5(図3参照)に対し、作動点が接近する方向に移動した場合にのみサージング判定することで、排気弁18による放風動作と区別してもよい。
また、圧縮機12の制御装置に保存されているサージラインと新たにサージングとして検出した動作点を比較し、その距離がサージライン5とサージマージンより大流量側に離れている場合は、サージングとして判定しないようなアルゴリズムを実装してもよい。
【0044】
(サージング発生点の特定)
また、本発明の方法によれば、遠心圧縮機12の運転データを一定周期(サンプリング周期ts)で一定時間(サンプリング期間tp)記憶し、サージングと判定した時点を基準に、それより遡った時点の運転データを参照し、サージング発生点の運転データを求める。
すなわち、サージ防止制御装置30の内部で、圧縮機12の運転データを一定周期で一定時間の間、サージ防止制御装置30の記録装置(記録バッファ等)に記録して、サージングを検出した時点を基準に、少し遡った時点(例えば1秒前)の運転記録を参照し、サージング発生時点の情報として用いることによって、正確なサージング発生点を記録することができる。
【0045】
(サージング発生点のデータベースを用いたサージライン5の自動更新)
また、本発明の方法によれば、サージング発生点の運転データをデータベースに記憶し、このデータベースに基づき遠心圧縮機12のサージライン5を更新する。
圧縮機12の運転環境について、1時間から1日という短い時間単位で考えた場合、運転条件はほぼ一定とみなせることが多いため、圧縮機12のサージング発生時のデータを制御装置に1点以上保存することができれば、圧縮機12のサージングラインはおおよそ予測できる。
サージングの発生点を標本としてサージング発生データベースとして記録し、データベースに記録したデータから適切な標本を抽出し、最小二乗法等を用いて多項式近似でサージライン5を推測する。
【0046】
(サージ防止ライン6の変更)
また、本発明の方法によれば、サージ防止ライン6(図3参照)を以下のように設定する。
(E)サージライン5に対し季節又は経年変化の影響を受けない大きさのサージマージンでサージ防止ライン6を設定する。
(F)遠心圧縮機12の動作点がサージ防止ライン6より低流量側に位置する場合に、排気弁18を開いて圧縮された気体2を排気する。
(G)サージ防止ライン6をシフト周期でサージライン5に向けてシフトしてサージライン5に徐々に近づける。シフト周期は、後述する例では1時間であり、シフト量は例えば定格流量の0.001%である。
(H)サージングを判定した場合に、サージ防止ライン6を大流量側にシフトして前記サージマージンを有するように再設定する。
【0047】
例えば空気1を圧縮する遠心圧縮機12のサージライン5について、夏場と冬場では異なることが知られており、サージライン5が大流量側に設定されているとサージライン5の十分手前で放風制御が働く可能性がある。
そこで、サージ防止ライン6について、少しずつ低流量側にシフトするような演算を行えば、サージ防止ライン6は最終的にサージライン5に漸近し、圧縮機12の運転中にサージライン5に到達する。
従って本発明の方法を用いれば、サージングは確実に検出可能であるから、サージングを検出した場合は、サージ防止ライン6を少し大流量側に引き直し、最適な運転に修正することで、圧縮機12の安定動作、省エネを両立させることが可能になる。
【0048】
(運転条件の変化への対応)
遠心圧縮機12は、横軸を流量、縦軸を圧力比として制御するのが理想的である。
一方、流量の代わりに電動機14の駆動電流Iを用いることでコストパフォーマンスを高めることができる。圧縮機12の制御装置が標準的に計測している項目は、電動機14の駆動電流Iと吐出圧力Pdであり、オプションとして吸入圧力Psや吸入温度Tsは容易に計測できる。
空気1を圧縮する据え置きの遠心圧縮機12であれば、吸入圧力Psは大気圧力と等価であるから、標高を考慮し、定数として入力することで代用できる。
合わせて縦軸に圧力比Π(=吐出圧力Pd/吸入圧力Ps)を用いることにより、圧縮機12の運転条件の変化を適切に取り入れたてサージライン5を構築することができる。
【0049】
(電動機14の駆動電流Iの電力換算方法)
電動機14の駆動電流Iと電動機14の軸出力Wとは完全な線形でないが、電動機14の特性表を用いて、電動機14の駆動電流Iを軸出力相当に換算し、流量演算に用いることで、実際の流量との相間性を高めることができる。
【実施例1】
【0050】
1.サージライン5の無次元化
電流I−吐出圧力Pdの動作線図は、季節の変化による気温、気圧の変動を補正しなければ、サージライン5が季節や運転場所によって変化してしまう。これらの条件による性能の変化は、電流I−吐出圧力Pdから流量Q−圧力比Πの動作線図(図3参照)に変換することで、標準化することができる。圧力比Πは、吸入圧力Psと吐出圧力Pdによって求めることができ、流量は、数1の補正式(1)によって求めることができる。
【0051】
【数1】
【0052】
ただし、αは定数、Ps、Pdは絶対圧力、Tsは吸入温度である。遠心圧縮機12が空気圧縮機の場合には、Ps≒1、Ts=外気温度とすることができる。
αを適切に補正すれば、QはNm3/hrに換算できる。
式(1)を毎スキャン時に行い、求められた流量Q、圧力比Πにてサージ防止制御(FIC)を行う。サージライン5は、流量Q−圧力比Πで表される。
【0053】
図3は、サージラインとサージ防止ラインの説明図である。
この図において、横軸は流量Q、縦軸は圧力比Πである。また図中の5はサージライン、6はサージ防止ライン、c1,c2は遠心圧縮機12の回転数一定ライン、dは設定圧力比、eは定格流量を示している。また図中の両矢印は、遠心圧縮機12の容量制御範囲を示している。
【0054】
サージ防止ライン6は、サージライン5に対し、大流量側にサージマージンを設けて設定されている。サージマージンは、流量換算で、従来は10〜15%程度、本発明では、0〜5%の範囲で設定される。
上述したように、遠心圧縮機12が空気圧縮機の場合には、Ps≒1とすることができ、この場合、設定圧力比dは、設定圧力を意味する。
【0055】
図3から、本発明によれば、従来のようにサージマージンを大きく設定する必要がないため、サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機12の容量制御範囲を大幅に広げることができることがわかる。
【0056】
2.サージング発生点の記録、蓄積
図4(A)はサージ発生点の説明図であり、図4(B)はサージデータの例である。
図4(A)において、×印はサージング発生時における流量と圧力比をプロットしたものである。理想的なサージライン5を形成するためには、サージング突入圧力を変化させながら、流量と圧力比を記録しなければならない。そこで、できるだけ少ないサージングでサージライン5を形成するために、図4(B)に示すような、いくつかの流量と圧力比のデータから、線形補間によって近似直線を求める。
【0057】
図5は、サージング検出後の処理の流れを示す図である。
図5のS1の「サージング判定」においてサージングを検出する(true)と、S2において警報の発生、およびサージ防止の処理が行われ、次いでS3においてサージ発生点記録バッファの更新が行われる。この更新は、図に破線で示す枠内の(a)(b)に示すように、ポインタが指すサージ発生点記録バッファの番地へ、時刻・流量・圧力比を書き込み、ポインタの繰り上げによって行われる。
【0058】
図6は、サージ発生点の処理方法を示す図である。
流量および圧力比は、サージング発生時に、急激な変化が起きるため、サージングを検出した瞬間に発生点を記録する方法では、安定したデータを得ることができない。そこで、サージング発生以前の安定している状態を発生点とし、図6のように、一定間隔(例えば1秒間隔)で流量Qおよび圧力比Πのサンプリングを行い、サージング検出時にサンプリングをストップさせ、最後のサンプリングデータを発生点とした。
【0059】
図7(A)(B)は、サージライン再構築時の有効データ抽出処理を示す図である。
サージライン再構築は、最小自乗法による直線近似であるため、記録された発生点が、各々接近している場合、近似の元データとしては、不十分である。そこで、新しく記録されたデータが圧力ベースである程度離れている場合に、サージライン再構築の有効データとする。図7(A)(B)は、その有効データを判別するアルゴリズムを示している。図7(A)に示すように、Π1,Π2,Π3を圧力比とするサージ発生点がそれぞれ順番に記録されたとすると、最初のデータΠ1は、比較するデータがないため、有効データと判別され、次のΠ2は、Π1から離れているため、これも有効データと判別される。しかし、Π3は、Π1とΠ2の間で、Π1からもΠ2からも近いので、図7(B)に示すように、無効データと判別される。
【0060】
サンプルの収集方法としては、圧縮機12の使用時に自動的にサージングを起こし、運転中バックグラウンドでサージライン再構築の処理を行うのが理想である。しかし、サージ防止制御によってサージング時の大きな挙動が抑えられない場合、この方法の実現は困難である。その場合は、圧縮機12の劣化診断テストとして、サージングをいくつか起こすことで、収集することとする。
【0061】
3.サージライン推測
図8(A)(B)は、サージライン5の再構築を示す図であり、図9(A)(B)は折れ線データの更新を示す図である。
サージライン5の再構築は、最小二乗法によって、近似直線を求める。図9(A)(B)のように、サージライン5は、折線テーブルにて保存され、初期設定値は、圧縮機12の性能曲線によって求められる。
ここで、折線テーブルとは、入力信号をあらかじめ定義した数表を用いて読み替え、適切な値を出力する機能要素であり、JIS−Z8103における「変換器」に相当する。
この折れ線テーブルの圧力比を、最小二乗法によって求められた一次関数の係数により、全ての流量値に対して求め、更新する。この処理によって、図8(B)のようにサージライン5を再構築する。
また、サージングの発生回数が1回の場合は、図8(A)のように原点とその発生点を通る直線とする。
【0062】
4.サージング検出機能
本発明の方法では、図2に示したように、移動平均値から標準偏差σの3倍を引いたものを、電流閾値Xとし、汎用性の高いサージング検出機能を実現している。
また、従来の方法では、サージングと他の急激な流量需要増や強制無負荷等の電流減少を明確に区別することが不可能であった。そこで、本発明の方法では、強制無負荷操作(排気弁18の開放)と同時にサージング判定機能を無効にすることと、駆動電流Iが電流閾値Xを下回った時に圧力がサージライン5方向に向かっていたか否か(上昇傾向か下降傾向か)をサージング判定に用いること、この二つを採用した。
【0063】
5. サージデータ収集
アナログ入出力値を対象として、サージングが発生した前後のリコールデータを、サージデータとして自動的に収集する。
サージングと判定すると、サンプリングしておいたサージング前の記録バッファから、サンプリングデータがサージング記録バッファの前半に書き込まれ、その次の領域からからデータ数N_log個までサンプリングを行う処理を開始する。サンプリングがデータ数N_log個に達すると、サンプリングを終了し、フラッシュメモリへの保存可能状態となる。
【0064】
ここで「N_log」は変数である。
サージングと判定した時に、正しいサージングの発生ポイントを推測するための手段として、計算機に一定時間毎に記録した計測値(測定値の母集団)を用いて、サージングの発生判定をした時点から一定時間(およそ1秒前後)遡ったデータを「サージング発生直前のデータ」として採用する。
サージデータの収集目的は、サージングが発生した時点の圧縮機運転状態を的確に把握し、データ解析の基礎資料とするためである。
「データ数N_logまでサンプリングを行う」とは、計算機の記録装置に標本を「N_log」個まで記録する行為となる。
記録できる標本数には限りがあるため、数量を限定する意味で上限設定の変数名として「N_log」を用いる。記録上限に到達した場合は、古い物から上書き消去するような処理を伴う。
【0065】
図10は、本発明の実施例を示す図である。
この図において、横軸は時間(秒)、左側の縦軸は電流(A)、右側の縦軸は圧力(MPa)である。また、図中の曲線は、吐出圧力Pd、駆動電流I、駆動電流Iの移動平均、標準偏差σ、及び電流閾値Xである。
また、この例におけるサンプリング周期tsは50m秒、サンプリング期間tpは25秒であった。
この例において、吐出圧力Pdを約0.86MPaから約0.25MPaまで徐々に減少させると、これに伴い駆動電流Iが低下し、移動平均と電流閾値Xも低下している。
【0066】
図11は、図10のA部拡大図である。この範囲は、図10では0.5〜1秒であり、計測時間における711.5〜712秒に相当する。
なおこの計測結果では、駆動電流Iの移動平均は約31.5A、標準偏差σの3倍(3σ)は約±0.2A、駆動電流Iの正常運転範囲は、31.5±0.2Aである。
図11において、駆動電流Iの低下は711.8秒から始まり、711.9秒のときに駆動電流Iが電流閾値Xを下回り、サージングとして判定されている。従って、駆動電流Iの低下開始からサージング判定(711.9秒近傍)までの時間は約0.1秒であった。
従って、本発明によれば、1秒以内の検出遅れで確実にサージング発生を検出できることがこの実施例により確認された。
【0067】
また、この例において、サージングに伴う騒音はなく、振動や圧力変動も検知されなかった。
【0068】
またこの実施例において、サージング検知を確実に行うために必要な条件として、下記が確認された。
サンプリング周期:200ms以下であること。サージングを正しく検出するために必要な時間である。
移動平均区間:6秒間以上2分間以下であること。圧縮機の動特性より十分遅いことが重要であり、6秒間以上必要である。また、プラントの動特性より十分早いことが重要であり2分以下であればあれば十分である。
標準偏差しきい値:3倍(3σ)。3σは、標準正規確率分布において99.865%相当に相当する。
【0069】
上述した本発明は、以下の特徴を有する。
(1)電動機14の駆動電流Iの落ち込み判定は、移動平均と移動平均計算区間の標準偏差σを用い、圧縮機12の運転状態に応じ、判定値(電流閾値X)を動的に変更している。
また、電動機14の駆動電流Iの落ち込みを検出し、圧縮機12の動作点と比較することによりサージングと判定している。
また、駆動電流Iの変動の継続時間は判断基準に採用していないため、サージング判定までの時間が極めて短い(約1秒以内)。
判定値(電流閾値X)の計算には統計的手法を用いているため、圧縮機12が正常に運転されている限りにおいて、サージングとして判定する確率が非常に高くなっている。
(2)サージング発生時のデータは、移動平均を計算するために蓄積していたデータバッファを用い、規定時間前の運転状態を採用している。
この方法を用いることによって、サージング発生点を正確に記録できる。
(3)電動機14の駆動電流Iは流量と相関関係にあるが、圧縮機12の運転状態(吸入温度Ts、吸入圧力Ps、吐出圧力Pdなど)の影響を受けるため、必ずしも1年を通じて電流と流量の関係が安定しているとの保証はない。
このため、駆動電流Iを流量Qに換算する式(1)を用いるので、圧縮機12の運転状態が変化しても、駆動電流Iと流量Qの関連性が変化しない。
(4)サージング発生点をデータベース(統計学の用語では集団)を制御装置内部の記録装置に保存し、最小二乗法の手法を用い、サージライン5を集団から適当に抽出した標本を用い、相関関数を算出する手法で推測している。
集団から標本を抽出する手法が適切であれば、サージ試験を実施してサージライン5を求めるのと同じ確からしさを自動で求められる。
(5)サージライン5とサージング防止ライン6間のマージンについて、サージングが長期間発生していない場合、サージングマージンは余裕を持っていると評価できるため、マージンの削減調整は可能で、上述したシフト周期を例えば1時間、シフト量を例えば1時間あたり0.001%等とすれば、自動化可能である。
サージマージンを削減した結果、サージングが発生した場合は、サージマージンの削減量が課題と考えられるので、マージンを+1%加算するなどの手法でマージンを自動的に元に戻す仕組みを設けることは可能である。
この方法により、サージマージンを自動で最適値に調整することが可能になる。この場合、サージマージンは例えば3〜7%の変動幅になると推測される。
(6)制御に使用するサージライン5は、圧縮機12のサージング発生点について運転状態変化を補正した値として求められているため、単純に駆動電流Iと流量Qを用いたサージライン5よりも無次元化度合いが高く、サージライン5の信頼性は高い。
さらに、サージング発生検出の応答速度と確実性により、サージライン5が仮に間違っていたとしても、サージングは安全に回避可能である。
故に、従来はサージライン5とサージ防止ライン6間に設けていた流量マージン10〜15%を極限(0〜5%)まで狭めることが可能になる。
この結果、従来手段と比較して、圧縮機12の絞り限界は5%以上拡大することが可能になり、低圧+ON/OFF制御動作を行った場合の負荷/無負荷運転回数の削減と、省エネ運転が可能になる。
【0070】
上述した本発明により、以下のa〜eの効果が得られる。
a.圧縮機12のサージングは、ほぼ1秒以内(人が認知するより早く)に検出できる。
この結果、サージングを検出後、速やかに放風制御に移行することが可能になり、サージング発生と共に発生する軸振動の増加を引き起こすことなく安全にサージング現象から回避できる。
【0071】
言い換えると、これまではサージングが発生しても確実に回避できる手段が無かったため、サージライン5とサージ防止ライン6間のマージンを10〜15%程度確保し、計測誤差が発生しても、サージングには絶対に入らないような運用を行っていた。
これに対し、本発明の方法によれば、サージマージンを極限の0としても、圧縮機12に悪影響を与えること無く安定運用させられることが可能になるので、従来に比べ5%以上絞り制御することが可能になり、低流量側における制御安定性の向上と省エネが両立できる。
【0072】
b.空気需要急増(強制無負荷操作を含む)とサージングを区別できる。
制御装置内部の信号のみならず、需要先の設備側で外乱が与えられても適切にサージング判定が行われるため、圧縮機12の安定運用が可能になる。
【0073】
c.サージライン推測が正確にできる。
サージング発生点が正確に特定できるため、サージング発生点のデータベースから標本抽出して最小二乗法で求めたサージライン5の信頼性が高い。
【0074】
d.サージライン5を徐々に低流量側に移動するアルゴリズムと確実なサージング判定アルゴリズムを実装することによって、仮にサージライン5が変化してもサージ防止ライン6を常にサージライン5に漸斤させることが可能となり、従来10〜15%は必要だったサージライン5からサージ防止ライン6までの余裕代(サージマージン)は0〜5%まで削減できることとなり、従来に比べ5〜15%程度の幅で減量運転範囲を拡大することが可能になる。
この結果、大幅な減量範囲の拡大が可能になり、圧縮機12の省エネと圧力制御の安定性向上がもたらされる。
【0075】
e.圧縮機12の運転条件変化への対応が可能になる。
サージ防止ライン6はほぼ正確に自動で更新できることから、電動機14の駆動電流Iを流量に換算し、流量と圧力比を用いて圧縮機12のサージ防止制御を行うことが可能になった。
この結果、単純に電動機14の駆動電流Iと吐出圧力を用いた制御方式に比べると無次元化の度合いが高まり、サージング判定の確実性と相まって、サージ防止制御の信頼性が高まった。
【0076】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0077】
1 気体、2 圧縮気体、3 低圧部分、4 需要先、
5 サージライン、6 サージ防止ライン、
10 遠心圧縮設備、12 遠心圧縮機(圧縮機)、14 電動機、
16 電流検出器、18 排気弁、19 吐出弁、
22 吸入圧力計、24 吐出圧力計、26 吸入温度計、
30 サージ防止制御装置、32 動力計算機、
34 流量計算機、36 圧力比計算機
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機を用いた遠心圧縮設備とそのサージング防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ圧縮機やターボ冷凍機に用いられる遠心圧縮機は、低流量域において激しい圧力変動と騒音を伴うサージングが発生する。遠心圧縮機がサージング状態に入ると圧縮機として安定運転ができなくなり、寿命が短縮され、最悪の場合、損傷する可能性もある。
そこで、サージングの発生を防止する手段が、従来から種々提案されている(例えば、特許文献1〜9)。
【0003】
以下、特に必要な場合を除き、遠心圧縮機を「圧縮機」、サージングを「サージ」と略称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−111093号、「軸流圧縮機のサージ防止装置」
【特許文献2】特開昭62−195492号、「ターボ圧縮機のサージング防止装置」
【特許文献3】特開昭64−394号、「圧縮機のサージング防止装置」
【特許文献4】特開2000−199495号、「ターボ冷凍機のサージング予測方法及び装置」
【特許文献5】特開2004−316462号、「遠心圧縮機の容量制御方法及び装置」
【特許文献6】特開2005−16464号、「圧縮装置」
【特許文献7】実開昭62−93194号、「ターボ圧縮機等の安全装置」
【特許文献8】特許第4191560号、「ターボ冷凍機、およびその制御方法」
【特許文献9】特開2002−276590号、「圧縮機のサージング検出装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
a.サージ防止制御と省エネの関係
従来、遠心圧縮機の予想性能曲線あるいは計測されたサージラインを用いて、流量を減じたときに、圧縮機動作点がそのラインを超えないように、サージ防止ラインを設け、サージ防止ラインを超えた場合は速やかに放風制御又はバイパス制御して、圧縮機がサージング状態に陥らないようにする方式が一般的に用いられている。
しかし、圧縮機の特性は運転環境や経年により変化する場合があり、実際のサージラインは予想性能曲線と異なることがある。そのため、現地でサージングを意図的に発生させる試験(サージ試験)を行い、実際に計測されたサージラインに対し10〜15%程度の大流量側にサージマージンを設けるのが従来、一般的である。
そのため、従来は、サージマージンの分、遠心圧縮機の容量制御範囲が狭くなり、容量(流量)の小さい減量運転時にエネルギーロスが生じる問題があった。
【0006】
b.サージングの検出手段
圧縮機がサージング状態に入ると圧縮機が圧縮機としての仕事をしなくなるため、軸動力ならびに圧縮機の流量が直前の運転状態から著しく減少することが知られている。
この状態を検出する手段として、流量あるいはこれと関連のある圧縮機用電動機の駆動電流・電力や吐出圧力などの状態量を用いて、あらかじめ設定した値と比較することでサージング状態の判定を行うことがこれまで提案されてきた。
【0007】
圧力変化を用いる場合、圧力はその圧力容器に出入りする流量の積算値であるから、圧力の変動を監視することは、すなわち流量を測定することになり常に遅れ制御系になり、その変化は圧力容器の大きさに反比例し、流量に比例する特徴がある。圧力変化を用いるのは容易であるが、サージング状態とは圧縮機の流量変動を記録することに他ならない。圧力計測範囲に対し、サージング発生時の小さな圧力振幅信号を抽出するには、2回微分処理が必要であるから、サージング状態を適正に検出するには複雑なデジタル信号処理技術が必要となり、サージ検出装置のコストが増加するといった問題がある。
【0008】
流量変化を用いる場合は、流量を1回微分するだけで良いので、圧力を利用する場合に比べ、信号処理は容易になる。しかしその反面、流量計測結果にはノイズ性分(揺らぎ)が多数含まれ、その除去が難しい上、流量計測手段を設けると計測点数が増加し、コスト増につながるといった問題もある。
【0009】
電動機の駆動電流は一定の吐出圧力条件下において狭い範囲で流量に比例する特徴があるため、流量の代替計測手段として使うことができる。しかし流量と同様に駆動電流の揺らぎは大きく、適正に閾値を設けなければ、誤作動や、サージング検出が行われないなどの可能性がある。
【0010】
c.サージ防止ラインの決定手段
圧縮機のサージラインは、圧縮機の特性に合わせ予め入力(設定)するのが一般的である。
しかし圧縮機の特性が運転環境や経年により変化すると予期せずサージングに入ることがあり、このような場合は、以後の圧縮機の運転継続が困難になる。
【0011】
d.サージ防止制御手段
圧縮機のサージング防止制御は、流量と吐出圧力あるいは圧力比で行われることが一般的である。
しかしながら、流量を計測するには複数の計測器が必要でコストアップになるため、代替手段として電動機の駆動電流を用いる場合がある。これは、吐出圧力が一定かつサージ防止ライン近傍において、流量は電動機の駆動電流とほぼ比例関係にある点に着目したものである。
しかし、電動機の駆動電流と吐出流量は運転条件によって誤差が生じるという問題がある。また、吐出圧力についても、吸入圧力が変化するとサージラインが変化するため、圧力比を用いることが望ましい。
【0012】
上述した特許文献1〜6は、予めサージング状態が発生する限界としてサージライン又はサージ防止ラインを設定し、圧力比、圧力比変化率、動力変化率、差圧、流量等に基づきサージラインを超えないように制御するものである。
特許文献7〜9は、駆動電流の変動、圧力、流量、流速等に基づきサージングを検出するものである。
【0013】
上述したように、予めサージ防止ラインを設定する場合、実際に計測されたサージラインに対し、従来は10〜15%程度の余裕(サージマージン)を設けるため、その分、遠心圧縮機の容量制御範囲が狭くなる問題点があった。
また、サージラインは、運転環境や経年変化により変動するため、サージマージンを十分大きくしないと予期せずにサージングに入る可能性があった。
また、遠心圧縮機の流量や駆動電流は、運転中の変動(揺らぎ)が大きいため、誤作動やサージングの不検出が発生しやすかった。そのため、従来のサージング検出手段の場合、サージング発生から検出までの検出遅れが長く(例えば20〜30秒)、激しい振動、圧力変動及び騒音を回避することができなかった。
【0014】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案したものである。すなわち、本発明の目的は、(1)サージング発生からサージング検出までの検出遅れが短く、振動、圧力変動及び騒音の発生を防ぐことができ、(2)サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機の容量制御範囲を大幅に広げることができ、(3)運転環境や経年変化による運転特性の変動に追従してサージラインを自動更新することができる遠心圧縮設備とそのサージング防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁と、遠心圧縮機のサージングを防止するように排気弁を制御するサージ防止制御装置とを備え、
前記サージ防止制御装置は、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備が提供される。
【0016】
また本発明によれば、気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁とを備え、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備のサージング防止方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
遠心圧縮機がサージング状態になると圧縮機が仕事をしなくなるため、サージングと同時に圧縮機の軸動力が減少し、電動機の駆動電流の変化として観測できる。
この駆動電流は、圧縮機の運転状態によって変化するため一定とはならないが、標本の分布と標準偏差について、3σ(算出した標準偏差の3倍)に含まれる標本の数は99%以上であるという統計的手法を応用すれば、駆動電流の揺らぎ量は、標準偏差を計算することによって推測できる。
本発明はかかる知見に基づくものである。
【0018】
すなわち、上記本発明の装置及び方法によれば、サージ防止制御装置により、(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、(C)排気弁が閉じておりかつ駆動電流が電流閾値を下回る場合にサージングと判定するので、駆動電流の揺らぎ(バラツキ)の影響を受けることなく、確実にサージング現象を検出することができる。
【0019】
またこの判定手段による、サージング発生からサージング検出までの検出遅れは、実施例から1秒以内(例えば0.1秒程度)であり、(D)サージングと判定した場合、排気弁を開いて圧縮された気体を排気することで、振動、圧力変動及び騒音を回避できることが実施例で確認された。
【0020】
従って、従来のようにサージマージンを大きく設定する必要はなく、(2)サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機の容量制御範囲を大幅に広げることができる。
また、サージングが発生しても振動、圧力変動及び騒音を回避して圧縮機を安定して運転できるので、サージングを発生させてその際の圧縮機の運転条件をデータとして取得し、(3)運転環境や経年変化による運転特性の変動に追従してサージラインを自動更新することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による遠心圧縮設備の実施形態図である。
【図2】本発明の方法の説明図である。
【図3】サージラインとサージ防止ラインの説明図である。
【図4】サージ発生点の説明図とサージデータの例である。
【図5】サージング検出後の処理の流れを示す図である。
【図6】サージ発生点の処理方法を示す図である。
【図7】サージライン再構築時の有効データ抽出処理を示す図である。
【図8】サージラインの再構築を示す図である。
【図9】折れ線データの更新を示す図である。
【図10】本発明の実施例を示す図である。
【図11】図10のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明による遠心圧縮設備の実施形態図である。
この例において、遠心圧縮設備10は、遠心圧縮機12、電動機14、電流検出器16、排気弁18、及びサージ防止制御装置30を備える。
【0024】
遠心圧縮機12は、気体1(例えば空気)を遠心圧縮する。電動機14は、遠心圧縮機12を回転駆動する。電流検出器16は、電動機14の駆動電流Iを検出する。排気弁18は、圧縮された気体2(圧縮気体)をそれより低圧部分3に排気する。
排気弁18は、放風弁であってもバイパス弁であってもよい。
図1(A)の例では、排気弁18は放風弁であり、図1(B)の例では、排気弁18はバイパス弁である。バイパス弁とは、遠心圧縮機12の吐出側と吸入側を連通する配管を設け、その配管の途中に設けた調節弁である。この場合、低圧部分は遠心圧縮機12の吐出側である。
なお、この図で符号19は、気体1の需要先4へ圧縮気体2を供給する吐出弁である。吐出弁19の開度は、例えば需要先4からの要求により適宜制御される。
【0025】
低圧部分3は、例えば外気であり、その間に放風サイレンサ(図示せず)を設けるのがよい。排気弁18は、遠心圧縮機12の正常運転中は全閉している。
【0026】
図1において、遠心圧縮設備10は、さらに遠心圧縮機12の吸入圧力Psと吐出圧力Pdを検出する吸入圧力計22及び吐出圧力計24と、遠心圧縮機12の吸入温度Tsを検出する吸入温度計26とを備える。
【0027】
サージ防止制御装置30は、例えばコンピュータ(PC)であり、遠心圧縮機12のサージングを防止するように排気弁18を制御する。排気弁18の制御は、ON/OFF制御でも、流量を調節する調節動作でもよい。
【0028】
サージ防止制御装置30は、動力計算機32、流量計算機34、圧力比計算機36を備える。
動力計算機32は、駆動電流Iから電動機14の駆動動力Wを計算する。流量計算機34は、駆動動力W、吸入圧力Ps、吐出圧力Pd及び吸入温度Tsから遠心圧縮機12の流量Qを計算する。圧力比計算機36は、吸入圧力Ps及び吐出圧力Pdから圧力比Πを計算する。
【0029】
サージ防止制御装置30は、以下のように作動する。
(A)駆動電流Iをサンプリング周期tsで検出する。
(B)サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値Xとしてリアルタイムに更新する。ここでnは3以上、4以下の正数である。
(C)排気弁18が閉じており、かつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定する。
(D)サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【0030】
図2は、本発明の方法の説明図である。なおこの図では、nは3である。
この図において、横軸は時間t、縦軸は駆動電流Iである。サンプリング周期tsは、後述する実施例では50msec(0.05秒)である。また、サンプリング期間tpは、後述する実施例では約25秒である。
【0031】
サンプリング周期tsは、サージ防止制御装置30の制御が追従できる限りで短いことが好ましいが、10msec(0.01秒)以上、1秒以下の範囲で任意に設定することができる。
サンプリング期間tpは、上述した母集団の標本数が好ましくは100以上になるように、例えば1秒以上、100秒以下の範囲で任意に設定することができる。なお、標本数は100未満であってもよい。
【0032】
上述した装置を用い、本発明の方法は、以下のA〜Dの各ステップからなる。
(A)では、駆動電流Iをサンプリング周期tsで検出する。
(B)では、サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差σを電流閾値Xとしてリアルタイムに更新する。ここでnは3以上、4以下の正数である。
(C)では、排気弁18が閉じており、かつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定する。
(D)では、サージングと判定した場合、排気弁18を開いて圧縮気体2を排気する。
【0033】
上述した本発明の装置及び方法によれば、サージ防止制御装置30により、(B)サンプリング期間tpに計測された複数の駆動電流Iを母集団とする移動平均−n×標準偏差σを電流閾値Xとしてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、(C)排気弁18が閉じておりかつ駆動電流Iが電流閾値Xを下回る場合にサージングと判定するので、駆動電流Iの揺らぎ(バラツキ)の影響を受けることなく、確実にサージング現象を検出することができる。
【0034】
上述したように、遠心圧縮機12がサージングに入ると圧縮機12が仕事をしなくなるため、サージングと同時に圧縮機12の軸動力が減少し、電動機14の駆動電流Iの変化として観測できる。
電動機14の駆動電流Iは、圧縮機12の運転状態によって変化するため一定とはならないが、標本の分布と標準偏差について、3σ(算出した標準偏差の3倍)に含まれる標本の数は99%以上であるという統計的手法を応用すれば、駆動電流Iの揺らぎ量は、標準偏差σを計算することによって推測できる。
つまり、移動平均と移動平均計算区間の標準偏差σを計算し、電流閾値X=(移動平均−n×標準偏差σ、nは3以上、4以下の正数)と仮定すれば、駆動電流Iがこの電流閾値Xより下回った場合、通常発生している駆動電流Iの揺らぎの幅を超えたと考えられ、高い確率でサージング現象が発生した可能性が高いと見なせ、手動介在による調整は不要にできる。
【0035】
電流閾値Xを下回ったデータの内訳は、「外来ノイズによる突発的なデータの変動」や「サージング発生」であると見なすことができ、計測データの揺らぎを排除しているため、前者の発生確率は1%以下であるといえる。つまり、標本数が100であると仮定した場合、異常データは1個であるといえる。いま、サンプリング期間をtp[秒]、サンプリング周期をts[秒]としたとき、サージング現象の発生時間がサンプリング周期tsに対して十分長く、tp/ts>100であれば、2回以上連続的に電流判定値を下回った場合、「突発的なデータの変動」は全て棄却でき、発生事象の原因はサージング発生であると見なすことができる。
【0036】
この考え方に基づき、サージング発生時の電流挙動について確認したところ、この判定手段による、サージング発生からサージング検出までの検出遅れは、実施例から1秒以内(例えば0.6秒程度)であった。
従って、この判定手段は、適切なサンプリング期間tpならびにサンプリング周期tsを設ければ、1秒以内の検出遅れで確実にサージング発生を検出できることが後述する実施例により確認された。
【0037】
しかし、駆動電流Iが電流閾値Xを下回る現象は、排気弁18を急激に開いた場合でも成立する。そのため、本発明では、排気弁18が全閉又は中間開度であることをサージング判定の前提条件としている。
【0038】
ここで、「全開」あるいは「全閉」の状態とは、リミットスイッチ(開度検出器)がそれぞれ作動している開度領域を一般に指すが、必ずしも開度100%、開度0%という値ではない。
【0039】
具体的には、「全開」は、一般に開度約95%近傍から100%までを指すことが多いが、90%近傍に設定されることもある。
例えば、バタフライ弁は、理論上90deg動くが、流れに対して0degを全閉とした場合、60degを開度100%と定義して上限を打ち切りする使い方もある。したがって、「全開」とは、「運用上最大となる開度」と定義できる。
【0040】
また「全閉」は、一般に開度約5%近傍から0%までであることが多いが、圧縮機のIGVでは、30%を全閉として定義するような使い方もある。
したがって、全開側と同様、「全閉」とは、「運用上最小となる開度」と定義できる。
【0041】
中間開度とは、「全開」あるいは「全閉」ではない開度状態である。すなわち、サージ防止制御における中間開度とは、「排気弁が開く余地のある開度」であって、ほぼ一定開度の状態を意味する。
【0042】
圧縮機の排気弁(放風弁)設計上、排気弁を全開にすると吐出圧力が定格仕様点より下がるので、通常、プラントに送気している状態で、全開となるような運用はない。
したがって、サージ防止制御を行う場合は、排気弁を全閉ないし中間開度(排気弁が開く余地のある開度)からより大きく開かれることになる。
【0043】
また、圧縮機12の作動点を監視し、予め設定したサージライン5(図3参照)に対し、作動点が接近する方向に移動した場合にのみサージング判定することで、排気弁18による放風動作と区別してもよい。
また、圧縮機12の制御装置に保存されているサージラインと新たにサージングとして検出した動作点を比較し、その距離がサージライン5とサージマージンより大流量側に離れている場合は、サージングとして判定しないようなアルゴリズムを実装してもよい。
【0044】
(サージング発生点の特定)
また、本発明の方法によれば、遠心圧縮機12の運転データを一定周期(サンプリング周期ts)で一定時間(サンプリング期間tp)記憶し、サージングと判定した時点を基準に、それより遡った時点の運転データを参照し、サージング発生点の運転データを求める。
すなわち、サージ防止制御装置30の内部で、圧縮機12の運転データを一定周期で一定時間の間、サージ防止制御装置30の記録装置(記録バッファ等)に記録して、サージングを検出した時点を基準に、少し遡った時点(例えば1秒前)の運転記録を参照し、サージング発生時点の情報として用いることによって、正確なサージング発生点を記録することができる。
【0045】
(サージング発生点のデータベースを用いたサージライン5の自動更新)
また、本発明の方法によれば、サージング発生点の運転データをデータベースに記憶し、このデータベースに基づき遠心圧縮機12のサージライン5を更新する。
圧縮機12の運転環境について、1時間から1日という短い時間単位で考えた場合、運転条件はほぼ一定とみなせることが多いため、圧縮機12のサージング発生時のデータを制御装置に1点以上保存することができれば、圧縮機12のサージングラインはおおよそ予測できる。
サージングの発生点を標本としてサージング発生データベースとして記録し、データベースに記録したデータから適切な標本を抽出し、最小二乗法等を用いて多項式近似でサージライン5を推測する。
【0046】
(サージ防止ライン6の変更)
また、本発明の方法によれば、サージ防止ライン6(図3参照)を以下のように設定する。
(E)サージライン5に対し季節又は経年変化の影響を受けない大きさのサージマージンでサージ防止ライン6を設定する。
(F)遠心圧縮機12の動作点がサージ防止ライン6より低流量側に位置する場合に、排気弁18を開いて圧縮された気体2を排気する。
(G)サージ防止ライン6をシフト周期でサージライン5に向けてシフトしてサージライン5に徐々に近づける。シフト周期は、後述する例では1時間であり、シフト量は例えば定格流量の0.001%である。
(H)サージングを判定した場合に、サージ防止ライン6を大流量側にシフトして前記サージマージンを有するように再設定する。
【0047】
例えば空気1を圧縮する遠心圧縮機12のサージライン5について、夏場と冬場では異なることが知られており、サージライン5が大流量側に設定されているとサージライン5の十分手前で放風制御が働く可能性がある。
そこで、サージ防止ライン6について、少しずつ低流量側にシフトするような演算を行えば、サージ防止ライン6は最終的にサージライン5に漸近し、圧縮機12の運転中にサージライン5に到達する。
従って本発明の方法を用いれば、サージングは確実に検出可能であるから、サージングを検出した場合は、サージ防止ライン6を少し大流量側に引き直し、最適な運転に修正することで、圧縮機12の安定動作、省エネを両立させることが可能になる。
【0048】
(運転条件の変化への対応)
遠心圧縮機12は、横軸を流量、縦軸を圧力比として制御するのが理想的である。
一方、流量の代わりに電動機14の駆動電流Iを用いることでコストパフォーマンスを高めることができる。圧縮機12の制御装置が標準的に計測している項目は、電動機14の駆動電流Iと吐出圧力Pdであり、オプションとして吸入圧力Psや吸入温度Tsは容易に計測できる。
空気1を圧縮する据え置きの遠心圧縮機12であれば、吸入圧力Psは大気圧力と等価であるから、標高を考慮し、定数として入力することで代用できる。
合わせて縦軸に圧力比Π(=吐出圧力Pd/吸入圧力Ps)を用いることにより、圧縮機12の運転条件の変化を適切に取り入れたてサージライン5を構築することができる。
【0049】
(電動機14の駆動電流Iの電力換算方法)
電動機14の駆動電流Iと電動機14の軸出力Wとは完全な線形でないが、電動機14の特性表を用いて、電動機14の駆動電流Iを軸出力相当に換算し、流量演算に用いることで、実際の流量との相間性を高めることができる。
【実施例1】
【0050】
1.サージライン5の無次元化
電流I−吐出圧力Pdの動作線図は、季節の変化による気温、気圧の変動を補正しなければ、サージライン5が季節や運転場所によって変化してしまう。これらの条件による性能の変化は、電流I−吐出圧力Pdから流量Q−圧力比Πの動作線図(図3参照)に変換することで、標準化することができる。圧力比Πは、吸入圧力Psと吐出圧力Pdによって求めることができ、流量は、数1の補正式(1)によって求めることができる。
【0051】
【数1】
【0052】
ただし、αは定数、Ps、Pdは絶対圧力、Tsは吸入温度である。遠心圧縮機12が空気圧縮機の場合には、Ps≒1、Ts=外気温度とすることができる。
αを適切に補正すれば、QはNm3/hrに換算できる。
式(1)を毎スキャン時に行い、求められた流量Q、圧力比Πにてサージ防止制御(FIC)を行う。サージライン5は、流量Q−圧力比Πで表される。
【0053】
図3は、サージラインとサージ防止ラインの説明図である。
この図において、横軸は流量Q、縦軸は圧力比Πである。また図中の5はサージライン、6はサージ防止ライン、c1,c2は遠心圧縮機12の回転数一定ライン、dは設定圧力比、eは定格流量を示している。また図中の両矢印は、遠心圧縮機12の容量制御範囲を示している。
【0054】
サージ防止ライン6は、サージライン5に対し、大流量側にサージマージンを設けて設定されている。サージマージンは、流量換算で、従来は10〜15%程度、本発明では、0〜5%の範囲で設定される。
上述したように、遠心圧縮機12が空気圧縮機の場合には、Ps≒1とすることができ、この場合、設定圧力比dは、設定圧力を意味する。
【0055】
図3から、本発明によれば、従来のようにサージマージンを大きく設定する必要がないため、サージマージンを小さく設定して遠心圧縮機12の容量制御範囲を大幅に広げることができることがわかる。
【0056】
2.サージング発生点の記録、蓄積
図4(A)はサージ発生点の説明図であり、図4(B)はサージデータの例である。
図4(A)において、×印はサージング発生時における流量と圧力比をプロットしたものである。理想的なサージライン5を形成するためには、サージング突入圧力を変化させながら、流量と圧力比を記録しなければならない。そこで、できるだけ少ないサージングでサージライン5を形成するために、図4(B)に示すような、いくつかの流量と圧力比のデータから、線形補間によって近似直線を求める。
【0057】
図5は、サージング検出後の処理の流れを示す図である。
図5のS1の「サージング判定」においてサージングを検出する(true)と、S2において警報の発生、およびサージ防止の処理が行われ、次いでS3においてサージ発生点記録バッファの更新が行われる。この更新は、図に破線で示す枠内の(a)(b)に示すように、ポインタが指すサージ発生点記録バッファの番地へ、時刻・流量・圧力比を書き込み、ポインタの繰り上げによって行われる。
【0058】
図6は、サージ発生点の処理方法を示す図である。
流量および圧力比は、サージング発生時に、急激な変化が起きるため、サージングを検出した瞬間に発生点を記録する方法では、安定したデータを得ることができない。そこで、サージング発生以前の安定している状態を発生点とし、図6のように、一定間隔(例えば1秒間隔)で流量Qおよび圧力比Πのサンプリングを行い、サージング検出時にサンプリングをストップさせ、最後のサンプリングデータを発生点とした。
【0059】
図7(A)(B)は、サージライン再構築時の有効データ抽出処理を示す図である。
サージライン再構築は、最小自乗法による直線近似であるため、記録された発生点が、各々接近している場合、近似の元データとしては、不十分である。そこで、新しく記録されたデータが圧力ベースである程度離れている場合に、サージライン再構築の有効データとする。図7(A)(B)は、その有効データを判別するアルゴリズムを示している。図7(A)に示すように、Π1,Π2,Π3を圧力比とするサージ発生点がそれぞれ順番に記録されたとすると、最初のデータΠ1は、比較するデータがないため、有効データと判別され、次のΠ2は、Π1から離れているため、これも有効データと判別される。しかし、Π3は、Π1とΠ2の間で、Π1からもΠ2からも近いので、図7(B)に示すように、無効データと判別される。
【0060】
サンプルの収集方法としては、圧縮機12の使用時に自動的にサージングを起こし、運転中バックグラウンドでサージライン再構築の処理を行うのが理想である。しかし、サージ防止制御によってサージング時の大きな挙動が抑えられない場合、この方法の実現は困難である。その場合は、圧縮機12の劣化診断テストとして、サージングをいくつか起こすことで、収集することとする。
【0061】
3.サージライン推測
図8(A)(B)は、サージライン5の再構築を示す図であり、図9(A)(B)は折れ線データの更新を示す図である。
サージライン5の再構築は、最小二乗法によって、近似直線を求める。図9(A)(B)のように、サージライン5は、折線テーブルにて保存され、初期設定値は、圧縮機12の性能曲線によって求められる。
ここで、折線テーブルとは、入力信号をあらかじめ定義した数表を用いて読み替え、適切な値を出力する機能要素であり、JIS−Z8103における「変換器」に相当する。
この折れ線テーブルの圧力比を、最小二乗法によって求められた一次関数の係数により、全ての流量値に対して求め、更新する。この処理によって、図8(B)のようにサージライン5を再構築する。
また、サージングの発生回数が1回の場合は、図8(A)のように原点とその発生点を通る直線とする。
【0062】
4.サージング検出機能
本発明の方法では、図2に示したように、移動平均値から標準偏差σの3倍を引いたものを、電流閾値Xとし、汎用性の高いサージング検出機能を実現している。
また、従来の方法では、サージングと他の急激な流量需要増や強制無負荷等の電流減少を明確に区別することが不可能であった。そこで、本発明の方法では、強制無負荷操作(排気弁18の開放)と同時にサージング判定機能を無効にすることと、駆動電流Iが電流閾値Xを下回った時に圧力がサージライン5方向に向かっていたか否か(上昇傾向か下降傾向か)をサージング判定に用いること、この二つを採用した。
【0063】
5. サージデータ収集
アナログ入出力値を対象として、サージングが発生した前後のリコールデータを、サージデータとして自動的に収集する。
サージングと判定すると、サンプリングしておいたサージング前の記録バッファから、サンプリングデータがサージング記録バッファの前半に書き込まれ、その次の領域からからデータ数N_log個までサンプリングを行う処理を開始する。サンプリングがデータ数N_log個に達すると、サンプリングを終了し、フラッシュメモリへの保存可能状態となる。
【0064】
ここで「N_log」は変数である。
サージングと判定した時に、正しいサージングの発生ポイントを推測するための手段として、計算機に一定時間毎に記録した計測値(測定値の母集団)を用いて、サージングの発生判定をした時点から一定時間(およそ1秒前後)遡ったデータを「サージング発生直前のデータ」として採用する。
サージデータの収集目的は、サージングが発生した時点の圧縮機運転状態を的確に把握し、データ解析の基礎資料とするためである。
「データ数N_logまでサンプリングを行う」とは、計算機の記録装置に標本を「N_log」個まで記録する行為となる。
記録できる標本数には限りがあるため、数量を限定する意味で上限設定の変数名として「N_log」を用いる。記録上限に到達した場合は、古い物から上書き消去するような処理を伴う。
【0065】
図10は、本発明の実施例を示す図である。
この図において、横軸は時間(秒)、左側の縦軸は電流(A)、右側の縦軸は圧力(MPa)である。また、図中の曲線は、吐出圧力Pd、駆動電流I、駆動電流Iの移動平均、標準偏差σ、及び電流閾値Xである。
また、この例におけるサンプリング周期tsは50m秒、サンプリング期間tpは25秒であった。
この例において、吐出圧力Pdを約0.86MPaから約0.25MPaまで徐々に減少させると、これに伴い駆動電流Iが低下し、移動平均と電流閾値Xも低下している。
【0066】
図11は、図10のA部拡大図である。この範囲は、図10では0.5〜1秒であり、計測時間における711.5〜712秒に相当する。
なおこの計測結果では、駆動電流Iの移動平均は約31.5A、標準偏差σの3倍(3σ)は約±0.2A、駆動電流Iの正常運転範囲は、31.5±0.2Aである。
図11において、駆動電流Iの低下は711.8秒から始まり、711.9秒のときに駆動電流Iが電流閾値Xを下回り、サージングとして判定されている。従って、駆動電流Iの低下開始からサージング判定(711.9秒近傍)までの時間は約0.1秒であった。
従って、本発明によれば、1秒以内の検出遅れで確実にサージング発生を検出できることがこの実施例により確認された。
【0067】
また、この例において、サージングに伴う騒音はなく、振動や圧力変動も検知されなかった。
【0068】
またこの実施例において、サージング検知を確実に行うために必要な条件として、下記が確認された。
サンプリング周期:200ms以下であること。サージングを正しく検出するために必要な時間である。
移動平均区間:6秒間以上2分間以下であること。圧縮機の動特性より十分遅いことが重要であり、6秒間以上必要である。また、プラントの動特性より十分早いことが重要であり2分以下であればあれば十分である。
標準偏差しきい値:3倍(3σ)。3σは、標準正規確率分布において99.865%相当に相当する。
【0069】
上述した本発明は、以下の特徴を有する。
(1)電動機14の駆動電流Iの落ち込み判定は、移動平均と移動平均計算区間の標準偏差σを用い、圧縮機12の運転状態に応じ、判定値(電流閾値X)を動的に変更している。
また、電動機14の駆動電流Iの落ち込みを検出し、圧縮機12の動作点と比較することによりサージングと判定している。
また、駆動電流Iの変動の継続時間は判断基準に採用していないため、サージング判定までの時間が極めて短い(約1秒以内)。
判定値(電流閾値X)の計算には統計的手法を用いているため、圧縮機12が正常に運転されている限りにおいて、サージングとして判定する確率が非常に高くなっている。
(2)サージング発生時のデータは、移動平均を計算するために蓄積していたデータバッファを用い、規定時間前の運転状態を採用している。
この方法を用いることによって、サージング発生点を正確に記録できる。
(3)電動機14の駆動電流Iは流量と相関関係にあるが、圧縮機12の運転状態(吸入温度Ts、吸入圧力Ps、吐出圧力Pdなど)の影響を受けるため、必ずしも1年を通じて電流と流量の関係が安定しているとの保証はない。
このため、駆動電流Iを流量Qに換算する式(1)を用いるので、圧縮機12の運転状態が変化しても、駆動電流Iと流量Qの関連性が変化しない。
(4)サージング発生点をデータベース(統計学の用語では集団)を制御装置内部の記録装置に保存し、最小二乗法の手法を用い、サージライン5を集団から適当に抽出した標本を用い、相関関数を算出する手法で推測している。
集団から標本を抽出する手法が適切であれば、サージ試験を実施してサージライン5を求めるのと同じ確からしさを自動で求められる。
(5)サージライン5とサージング防止ライン6間のマージンについて、サージングが長期間発生していない場合、サージングマージンは余裕を持っていると評価できるため、マージンの削減調整は可能で、上述したシフト周期を例えば1時間、シフト量を例えば1時間あたり0.001%等とすれば、自動化可能である。
サージマージンを削減した結果、サージングが発生した場合は、サージマージンの削減量が課題と考えられるので、マージンを+1%加算するなどの手法でマージンを自動的に元に戻す仕組みを設けることは可能である。
この方法により、サージマージンを自動で最適値に調整することが可能になる。この場合、サージマージンは例えば3〜7%の変動幅になると推測される。
(6)制御に使用するサージライン5は、圧縮機12のサージング発生点について運転状態変化を補正した値として求められているため、単純に駆動電流Iと流量Qを用いたサージライン5よりも無次元化度合いが高く、サージライン5の信頼性は高い。
さらに、サージング発生検出の応答速度と確実性により、サージライン5が仮に間違っていたとしても、サージングは安全に回避可能である。
故に、従来はサージライン5とサージ防止ライン6間に設けていた流量マージン10〜15%を極限(0〜5%)まで狭めることが可能になる。
この結果、従来手段と比較して、圧縮機12の絞り限界は5%以上拡大することが可能になり、低圧+ON/OFF制御動作を行った場合の負荷/無負荷運転回数の削減と、省エネ運転が可能になる。
【0070】
上述した本発明により、以下のa〜eの効果が得られる。
a.圧縮機12のサージングは、ほぼ1秒以内(人が認知するより早く)に検出できる。
この結果、サージングを検出後、速やかに放風制御に移行することが可能になり、サージング発生と共に発生する軸振動の増加を引き起こすことなく安全にサージング現象から回避できる。
【0071】
言い換えると、これまではサージングが発生しても確実に回避できる手段が無かったため、サージライン5とサージ防止ライン6間のマージンを10〜15%程度確保し、計測誤差が発生しても、サージングには絶対に入らないような運用を行っていた。
これに対し、本発明の方法によれば、サージマージンを極限の0としても、圧縮機12に悪影響を与えること無く安定運用させられることが可能になるので、従来に比べ5%以上絞り制御することが可能になり、低流量側における制御安定性の向上と省エネが両立できる。
【0072】
b.空気需要急増(強制無負荷操作を含む)とサージングを区別できる。
制御装置内部の信号のみならず、需要先の設備側で外乱が与えられても適切にサージング判定が行われるため、圧縮機12の安定運用が可能になる。
【0073】
c.サージライン推測が正確にできる。
サージング発生点が正確に特定できるため、サージング発生点のデータベースから標本抽出して最小二乗法で求めたサージライン5の信頼性が高い。
【0074】
d.サージライン5を徐々に低流量側に移動するアルゴリズムと確実なサージング判定アルゴリズムを実装することによって、仮にサージライン5が変化してもサージ防止ライン6を常にサージライン5に漸斤させることが可能となり、従来10〜15%は必要だったサージライン5からサージ防止ライン6までの余裕代(サージマージン)は0〜5%まで削減できることとなり、従来に比べ5〜15%程度の幅で減量運転範囲を拡大することが可能になる。
この結果、大幅な減量範囲の拡大が可能になり、圧縮機12の省エネと圧力制御の安定性向上がもたらされる。
【0075】
e.圧縮機12の運転条件変化への対応が可能になる。
サージ防止ライン6はほぼ正確に自動で更新できることから、電動機14の駆動電流Iを流量に換算し、流量と圧力比を用いて圧縮機12のサージ防止制御を行うことが可能になった。
この結果、単純に電動機14の駆動電流Iと吐出圧力を用いた制御方式に比べると無次元化の度合いが高まり、サージング判定の確実性と相まって、サージ防止制御の信頼性が高まった。
【0076】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0077】
1 気体、2 圧縮気体、3 低圧部分、4 需要先、
5 サージライン、6 サージ防止ライン、
10 遠心圧縮設備、12 遠心圧縮機(圧縮機)、14 電動機、
16 電流検出器、18 排気弁、19 吐出弁、
22 吸入圧力計、24 吐出圧力計、26 吸入温度計、
30 サージ防止制御装置、32 動力計算機、
34 流量計算機、36 圧力比計算機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁と、遠心圧縮機のサージングを防止するように排気弁を制御するサージ防止制御装置とを備え、
前記サージ防止制御装置は、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備。
【請求項2】
前記遠心圧縮機の吸入圧力と吐出圧力を検出する吸入圧力計及び吐出圧力計と、遠心圧縮機の吸入温度を検出する吸入温度計と、を備え、
前記サージ防止制御装置は、前記駆動電流から電動機の駆動動力を計算する動力計算機と、前記駆動動力、吸入圧力、吐出圧力及び吸入温度から遠心圧縮機の流量を計算する流量計算機と、前記吸入圧力及び吐出圧力から圧力比を計算する圧力比計算機と、を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮設備。
【請求項3】
気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁とを備え、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備のサージング防止方法。
【請求項4】
前記遠心圧縮機の運転データを一定周期で一定時間記憶し、
サージングと判定した時点を基準に、それより遡った時点の運転データを参照し、サージング発生点の運転データを求める、ことを特徴とする請求項3に記載のサージング防止方法。
【請求項5】
前記サージング発生点の運転データをデータベースに記憶し、データベースに基づき遠心圧縮機のサージラインを更新する、ことを特徴とする請求項4に記載のサージング防止方法。
【請求項6】
(E)サージラインに対し季節又は経年変化の影響を受けない大きさのサージマージンでサージ防止ラインを設定し、
(F)遠心圧縮機の動作点がサージ防止ラインより低流量側に位置する場合に、排気弁を開いて圧縮された気体を排気し、
(G)サージ防止ラインをシフト周期でサージラインに向けてシフトしてサージラインに徐々に近づけ、
(H)サージングを判定した場合に、サージ防止ラインを大流量側にシフトして前記サージマージンを有するように再設定する、ことを特徴とする請求項4に記載のサージング防止方法。
【請求項1】
気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁と、遠心圧縮機のサージングを防止するように排気弁を制御するサージ防止制御装置とを備え、
前記サージ防止制御装置は、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備。
【請求項2】
前記遠心圧縮機の吸入圧力と吐出圧力を検出する吸入圧力計及び吐出圧力計と、遠心圧縮機の吸入温度を検出する吸入温度計と、を備え、
前記サージ防止制御装置は、前記駆動電流から電動機の駆動動力を計算する動力計算機と、前記駆動動力、吸入圧力、吐出圧力及び吸入温度から遠心圧縮機の流量を計算する流量計算機と、前記吸入圧力及び吐出圧力から圧力比を計算する圧力比計算機と、を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮設備。
【請求項3】
気体を遠心圧縮する遠心圧縮機と、遠心圧縮機を回転駆動する電動機と、電動機の駆動電流を検出する電流検出器と、圧縮された気体をそれより低圧部分に排気する排気弁とを備え、
(A)前記駆動電流をサンプリング周期で検出し、
(B)サンプリング期間に計測された複数の駆動電流を母集団とする移動平均−n×標準偏差を電流閾値としてリアルタイムに更新し、ここでnは3以上、4以下の正数であり、
(C)排気弁が全閉又は中間開度であり、かつ前記駆動電流が前記電流閾値を下回る場合にサージングと判定し、
(D)サージングと判定した場合、排気弁をさらに開いて圧縮された気体を排気する、ことを特徴とする遠心圧縮設備のサージング防止方法。
【請求項4】
前記遠心圧縮機の運転データを一定周期で一定時間記憶し、
サージングと判定した時点を基準に、それより遡った時点の運転データを参照し、サージング発生点の運転データを求める、ことを特徴とする請求項3に記載のサージング防止方法。
【請求項5】
前記サージング発生点の運転データをデータベースに記憶し、データベースに基づき遠心圧縮機のサージラインを更新する、ことを特徴とする請求項4に記載のサージング防止方法。
【請求項6】
(E)サージラインに対し季節又は経年変化の影響を受けない大きさのサージマージンでサージ防止ラインを設定し、
(F)遠心圧縮機の動作点がサージ防止ラインより低流量側に位置する場合に、排気弁を開いて圧縮された気体を排気し、
(G)サージ防止ラインをシフト周期でサージラインに向けてシフトしてサージラインに徐々に近づけ、
(H)サージングを判定した場合に、サージ防止ラインを大流量側にシフトして前記サージマージンを有するように再設定する、ことを特徴とする請求項4に記載のサージング防止方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−79586(P2013−79586A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218955(P2011−218955)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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