説明

選択成膜用マスク

【課題】ダイシングの負荷を増大させることなく、パターン部内に応力緩和用開口部を設けることができ、パターン精度を向上することが可能な選択成膜用マスクを提供する。
【解決手段】選択成膜用マスク2は、成膜基板上に取り付けられ、成膜基板上に所定のパターンで膜を成膜するためのものである。選択成膜用マスク2は、膜のパターンに対応した開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、成膜の際に選択成膜用マスク2にかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部30とを備え、応力緩和用開口部30は、成膜基板上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板の表面が直接視認されない断面構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択成膜用マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、半導体実装基板、及びフラットパネル表示デバイス等の製造において、電極等のパターン膜の形成方法として、ウエハ等の成膜基板上に成膜する膜のパターンに対応した開口パターンを有するマスクを取り付けて、スパッタ、蒸着、あるいはイオンプレーティング等の気相成膜を行う選択成膜法がある。
この方法では、成膜基板上にマスクを装備した状態で成膜が行われるため、成膜時の熱によりマスクが熱膨張し、マスクの浮き上がりあるいはマスクの変形等が生じて、成膜のパターン精度が低下する場合がある。
【0003】
特許文献1には、マスクを保持する領域(51)と成膜領域(53)との間に歪みを緩和する領域(52)を設けた真空蒸着用マスクが開示されている(請求項1、図5)。歪みの緩和領域としては、保持領域と成膜領域との間に開口を設ける形や、保持領域と成膜領域の間をメッシュ構造にする形が挙げられている(段落0028)。
【0004】
特許文献2には、選択蒸着用マスク(21)のパターン部(22)とマスク固定用穴(23)の固定部との間に、スリット状あるいはメッシュ状等の応力緩衝用穴(25、65、85)からなる応力緩和用開口部を設けた選択蒸着用マスクが開示されている(請求項1、図1、図10、及び図11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-310472号公報
【特許文献2】特開平09-027454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図面を参照して、従来の選択成膜用マスク、及びこれを用いた成膜方法について説明する。
図4上図はマスクの上面図、図4下図はマスクの断面図である。図5A〜図5Cは成膜工程図であり、各図は断面図である。図4下図及び図5A〜図5Cは、図4のA-B断面図である。
図中、符号101は成膜基板、符号102はマスク、符号103は膜である。
【0007】
選択成膜用マスク102は、膜103のパターンに対応した開口パターンと、成膜の際に選択成膜用マスク102にかかる応力を緩和するためのスリット状等の貫通孔からなる応力緩和用開口部130とを備えている。
【0008】
図4A上図において、マトリクス状に配置された複数の矩形状部110Xはそれぞれ、各半導体チップの形成領域に対応したチップパターン領域であり、各チップパターン領域110Xがそれぞれ成膜する膜103のパターンに応じた開口パターンを有している。互いに隣接するチップパターン領域110X間はダイシング領域に対応した非開口領域110Yとなっている。成膜基板101上において複数のチップパターン領域110Xの全体がパターン部110となっている。
図中、符号120はパターン部110の外部領域である。
【0009】
図5Aに示すように、成膜基板101上にマスク102を取り付ける。図5Bに示すように成膜を行い、マスク102を取り除くことで、図5Cに示す所定パターンの膜103が得られる。
【0010】
上記成膜方法では、成膜基板101上において応力緩和用開口部130の開口領域にも成膜が行われ、マスク102を取り除いた後も、不要なパターン103Nが残ってしまう。そのため、特許文献1、2のように、応力緩和用開口部130を成膜したい膜103のパターンに対応した開口パターンが形成されたパターン部110の外部領域120に設けざるを得ない。かかる構成では、マスク102の中央部を含む領域にあるパターン部110については、マスク102の応力を充分に緩和することが難しく、マスク102の浮き上がりあるいはマスク102の変形等が生じて、パターン精度が低下する恐れがある。
【0011】
応力緩和用開口部130をパターン部110内のダイシング領域110Yに配置することが考えられる。しかしながら、ダイシング領域110Y上に金属等が成膜されると、ダイシングブレードの負荷が増大して消耗しやすく、ブレードに欠けあるいはチッピング等の不良が生じやすくなる。そのため、設備停止回数が増したり、ブレードの交換頻度が増すなど、コスト高となる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ダイシングの負荷を増大させることなく、パターン部内に応力緩和用開口部を設けることができ、パターン精度を向上することが可能な選択成膜用マスクを提供することを目的とするものである。
【0013】
本明細書において、図4A上図のように、複数の半導体チップ等に対応した複数のパターン領域がある場合、特に明記しない限り、「パターン部」は個々のパターン領域ではなく、複数のパターン領域の全体をパターン部と定義する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の選択成膜用マスクは、
成膜基板上に取り付けられ、前記成膜基板上に所定のパターンで膜を成膜するための選択成膜用マスクであって、
前記膜の前記パターンに対応した開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、前記成膜の際に前記選択成膜用マスクにかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部とを備え、
前記応力緩和用開口部は、前記成膜基板上に前記選択成膜用マスクを取り付けたときに、前記応力緩和用開口部を通して前記成膜基板の表面が直接視認されない断面構造を有しているものである。
【0015】
本発明の選択成膜用マスクの好ましい態様としては、
前記応力緩和用開口部は、一方の面と他方の面の双方において開口し、
前記一方の面における開口箇所と前記他方の面における開口箇所とは平面位置が重なっていない態様が挙げられる。
【0016】
前記応力緩和用開口部は例えば、階段状の断面構造、あるいは斜め直線状の断面構造を有することができる。
本明細書において、「斜め直線状」とは「マスクの表面」に対して斜め直線状を意味するものとする。
【0017】
前記応力緩和用開口部は、前記開口パターンが形成されたパターン部内の前記開口パターンの非開口領域に形成することができる。
前記応力緩和用開口部はまた、前記開口パターンが形成されたパターン部の外部領域に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイシングの負荷を増大させることなく、パターン部内に応力緩和用開口部を設けることができ、パターン精度を向上することが可能な選択成膜用マスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】上図は本発明に係る一実施形態の選択成膜用マスクの上面図、下図は同断面図である。
【図1B】図1A下図の部分拡大図である。
【図2A】図1Aの選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【図2B】図1Aの選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【図2C】図1Aの選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【図3】設計変更を示す断面図である。
【図4】上図は従来の選択成膜用マスクの上面図、下図は同断面図である。
【図5A】図4の選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【図5B】図4の選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【図5C】図4の選択成膜用マスクを用いた成膜工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の選択成膜用マスク、及びこれを用いた成膜方法について説明する。
図1A上図は本実施形態の選択成膜用マスクの上面図、図1A下図は本実施形態の選択成膜用マスクの断面図、図1Bは図1A下図の部分拡大図である。
図2A〜図2Cは成膜工程図であり、各図は断面図である。
図1A下図、図1B、及び図2A〜図2Cは、図1A上図のA-B断面図である。
図3は、設計変更を示す図である。
各図はいずれも模式図である。
図中、符号1は成膜基板、符号2はマスク、符号3は膜である。
【0021】
図1A及び図2A〜図2Cに示すように、本実施形態の選択成膜用マスク2は、成膜基板1上に取り付けられ、成膜基板1上に所定のパターンで膜3を成膜するためのものである。
選択成膜用マスク2は、膜3のパターンに対応した開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、成膜の際に選択成膜用マスク2にかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部30とを備えている。
【0022】
本実施形態において、成膜基板1はウエハ、若しくは、ウエハ上に電極あるいは配線等の導電膜、半導体膜、あるいは絶縁膜等の単層又は複層の膜が形成されたものである。
膜3は、金属電極等の導電膜でもよいし、半導体膜、あるいは絶縁膜でもよく、材質は任意である。
【0023】
図1A上図において、マトリクス状に配置された複数の矩形状部10Xはそれぞれ、各半導体チップの形成領域に対応したチップパターン領域であり、各チップパターン領域10Xがそれぞれ成膜する膜3のパターンに応じた開口パターンを有している。互いに隣接するチップパターン領域10X間はダイシング領域に対応した非開口領域10Yとなっている。成膜基板1上において複数のチップパターン領域10Xの全体がパターン部10となっている。
図中、符号20はパターン部10の外部領域である。
【0024】
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、成膜基板1上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板1の表面が直接視認されない断面構造を有している。
【0025】
図1Bに拡大して示すように、本実施形態において、応力緩和用開口部30は、マスク2の一方の面(図示上面)2Aと他方の面(図示下面)2Bの双方において開口し、一方の面2Aにおける開口箇所30Aと他方の面2Bにおける開口箇所30Bとは平面位置が重なっていない。
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、階段状の断面構造を有している。
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、一方の面2Aの開口箇所30Aから厚み方向に延びた第1の孔部31と、他方の面2Bの開口箇所30Bから厚み方向に延びた第2の孔部32と、第1の孔部31と第2の孔部32とを連結する連結孔33とから構成されている。
【0026】
上記階段状の断面構造を有する選択成膜用マスク2の製造方法としては、例えば、第1の孔部31を形成した第1のマスクと、第2の孔部32を形成した第2のマスクとを積層し、拡散接合する方法などが挙げられる。
【0027】
次に、図2A〜図2Cを参照して、本実施形態の選択成膜用マスク2を用いた成膜方法について説明する。
はじめに、図2Aに示すように、成膜基板1上にマスク2を取り付ける。図2Bに示すように成膜を行い、マスク2を取り除くことで、図2Cに示す所定パターンの膜3が得られる。
【0028】
「背景技術」の項で挙げた特許文献1、2に記載のマスクでは、応力緩和用開口部として、スリット状など、マスクの一方の面から他方の面にストレートに延びた貫通孔を設けているため、成膜基板上の応力緩和用開口部の開口領域に不要な膜が形成される。応力緩和用開口部をダイシング領域に設けると、ダイシングの負荷が増す。そのため、特許文献1、2のように、応力緩和用開口部を成膜したい膜のパターンに対応した開口パターンが形成されたパターン部の外部領域に設けざるを得ない。
【0029】
本実施形態では、成膜基板1上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板1の表面が直接視認されない断面構造を有しているので、成膜基板1上の応力緩和用開口部30の開口領域30Aに不要な膜3が形成されない。
図2B内の拡大図に示すように、応力緩和用開口部30は上記階段状の断面構造を有しているので、応力緩和用開口部30の開口領域30Aに達した成膜材料は、応力緩和用開口部30内の第1の孔部31の底部に堆積するだけで、成膜基板1には到達しない。
したがって、本実施形態の選択成膜用マスク2では、成膜したい膜3のパターンに対応した開口パターンの非開口領域であれば、応力緩和用開口部30を設ける位置に制限がない。
【0030】
特許文献1、2と同様、本実施形態の選択成膜用マスク2では、応力緩和用開口部30は、パターン部10の外部領域20に形成することができる。
本実施形態の選択成膜用マスク2では、応力緩和用開口部30は、パターン部10内の開口パターンの非開口領域(ダイシング領域)10Yに形成することができる。
図1A下図に示す例では、応力緩和用開口部30は、パターン部10の外部領域20と、パターン部10内の開口パターンの非開口領域(ダイシング領域)10Yの双方に設けられている。
【0031】
本実施形態では、成膜したい膜3のパターンに対応した開口パターンの非開口領域であれば、応力緩和用開口部30を設ける位置に制限がないので、パターン部10の外部領域だけでなく、内部領域にも応力緩和用開口部30を設けることができる。そのため、マスク2の全面に渡って応力を充分に緩和することができ、成膜時のマスク2の浮き上がりあるいはマスク2の変形等が抑制され、所望のパターンの膜3のパターン精度を向上させることができる。
本実施形態では、応力緩和用開口部30をパターン部10内の非開口領域(ダイシング領域)10Yに設けても、成膜基板1上の応力緩和用開口部30の開口領域には成膜されないので、ダイシングの負荷は増大しない。
【0032】
応力緩和用開口部30は図1Bに示した態様に限らず、成膜基板1上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板1の表面が直接視認されない断面構造を有するものであればよい。
図3に示すように、応力緩和用開口部30は斜め直線状の断面構造を有するものであってもよい。
斜め直線状の断面構造を有する選択成膜用マスクの製造方法としては、例えば、レーザ加工などが挙げられる。
【0033】
応力緩和用開口部30は、一方の面2Aと他方の面2Bのうちいずれかのみが開口した閉塞孔でも構わない。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、ダイシングの負荷を増大させることなく、パターン部10内に応力緩和用開口部30を設けることができ、パターン精度を向上することが可能な選択成膜用マスク2を提供することができる。
【0035】
「設計変更」
本発明は上記実施形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜設計変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の選択成膜用マスクは、半導体デバイス、半導体実装基板、及びフラットパネル表示デバイス等の製造において、電極等のパターン膜の形成に好ましく適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 成膜基板
2 選択成膜用マスク
2A 一方の面
2B 他方の面
3 膜
10 パターン部
10X チップパターン領域
10Y 非開口領域(ダイシング領域)
20 パターン部の外部領域
30 応力緩和用開口部
30A、30B 開口箇所
31 第1の孔部
32 第2の孔部
33 連結孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜基板上に取り付けられ、前記成膜基板上に所定のパターンで膜を成膜するための選択成膜用マスクであって、
前記膜の前記パターンに対応した開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、前記成膜の際に前記選択成膜用マスクにかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部とを備え、
前記応力緩和用開口部は、前記成膜基板上に前記選択成膜用マスクを取り付けたときに、前記応力緩和用開口部を通して前記成膜基板の表面が直接視認されない断面構造を有している選択成膜用マスク。
【請求項2】
前記応力緩和用開口部は、一方の面と他方の面の双方において開口し、
前記一方の面における開口箇所と前記他方の面における開口箇所とは平面位置が重なっていない請求項1に記載の選択成膜用マスク。
【請求項3】
前記応力緩和用開口部は、階段状の断面構造を有する請求項2に記載の選択成膜用マスク。
【請求項4】
前記応力緩和用開口部は、斜め直線状の断面構造を有する請求項2に記載の選択成膜用マスク。
【請求項5】
前記応力緩和用開口部は、前記開口パターンが形成されたパターン部内の前記開口パターンの非開口領域に形成された請求項1〜4のいずれかに記載の選択成膜用マスク。
【請求項6】
前記応力緩和用開口部は、前記開口パターンが形成されたパターン部の外部領域に形成された請求項1〜4のいずれかに記載の選択成膜用マスク。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2013−19026(P2013−19026A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153511(P2011−153511)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】