説明

酸化マグネシウム焼結体の製造方法

【課題】アルミニウムが均一に分散した酸化マグネシウム前駆体から作製することにより、十分に焼結密度が高い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造する方法において、まず、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製し、前記水酸化マグネシウムスラリーを水熱処理した後、濾過、水洗、及び乾燥させて、水酸化マグネシウム粒子を得、これを焼成して、酸化マグネシウム粒子を得る。次に、前記酸化マグネシウム粒子、カルシウム化合物粒子、及びバインダーを混合、造粒して得た造粒粉末を型内で成形して成形体を形成し、前記成形体を焼結することで、前記焼結体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称する)における保護膜を形成可能な蒸着材として好適な酸化マグネシウム焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPは2枚のガラス基板の間隙に密閉された微小な放電空間を多数設けた表示デバイスである。たとえば、マトリックス表示方式のPDPでは、多数の電極が格子状に配列され、各電極の交差部の放電セルを選択的に発光させて画像を表示する。代表的な面放電型のAC型PDPでは、前面板の表示電極は誘電体層で被覆され、さらに誘電体層上に保護膜が形成されている。保護膜は、誘電体層が直接放電にさらされることで誘電体層表面が変化して放電開始電圧が上昇するのを防止する役割を有しており、イオン衝撃のスパッタリングによって変化しないという特性を示す層である。
【0003】
現在、PDP用の保護膜は、酸化マグネシウム等の焼結体をターゲット材とする電子ビーム蒸着法により誘電体層上に形成されることが一般的である。しかし、PDPを更に省電力化するために放電開始電圧を更に下げることが要求され、PDP用の保護膜としても、低い放電開始電圧を有し、二次電子放出係数が高く、スパッタリングに強い材料が求められている。
【0004】
このような観点から、特許文献1では、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムからなる金属酸化物により形成するとともにアルミニウムを含有させた保護膜が記載されている。当該文献では、酸化マグネシウムを主成分とする保護膜に酸化カルシウムを含有させることで、良好な二次電子放出特性を発揮し、放電開始電圧を低減させることができると記載されている。さらに、保護膜中の酸化カルシウムが二酸化炭素と結合して炭酸カルシウムとなると、放電開始電圧低減の効果が薄れてしまうところ、アルミニウムを添加することで、酸化カルシウムから炭酸カルシウムへの変化を抑制し、放電開始電圧の上昇を抑制できると記載されている。
【0005】
このような保護膜を形成する際に用いる蒸着材として、特許文献2及び特許文献3では、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムを含む酸化マグネシウム焼結体が開示されている。
【0006】
当該焼結体を製造する方法として、特許文献2及び特許文献3では、酸化マグネシウム粉末と、酸化カルシウム又は酸化カルシウム前駆体の粉末、及びバインダーを、水性分散媒体中で混合分散させてスラリーを調製し、スプレードライヤーを用いて前記スラリーを噴霧乾燥することで造粒物を得て、造粒物を型内で成形し、得られた成形物を焼成して焼結体を得るといった製造方法が記載されている。
【0007】
特に特許文献3では、さらにアルミニウム化合物粒子を用いることで、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−140837号公報
【特許文献2】特開2005−330574号公報
【特許文献3】特開2010−143798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3で開示されているような固体のアルミニウム化合物粒子を固体の酸化マグネシウム粒子及びカルシウム化合物と混合して焼結することで焼結体を製造する方法では、アルミニウムが粒子表面に偏析して焼結助剤としての効果が十分に得られず、特に酸化カルシウムの配合率を大きくした場合、焼結密度が低い焼結体しか得られなかった。PDP用の保護膜を成膜する工程においては、このような焼結密度が低い焼結体を蒸着材として使用した場合、スプラッシュ発生の原因となるという問題があった。
上記方法によって、十分な焼結密度を達成する焼結体を得るには、焼結体中のアルミニウム含有量を多くする必要があるが、アルミニウムを多く含む焼結体により形成した保護膜は、放電開始電圧の上昇を抑制する効果が低減してしまう(特許文献1の段落[0097]〜[0100]、及び図7)。
また、上記方法により得られる焼結体は、アルミニウムが焼結体中で偏析しており、このような焼結体を蒸着材として使用し保護膜を形成すると、得られた保護膜中においてもアルミニウムが偏析するため、放電開始電圧の上昇を抑制する効果が十分に得られない。
本発明は、上記現状に鑑み、含まれるアルミニウムが均一に分散し、アルミニウムの添加量が少なくても、十分に焼結密度が高い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が検討したところ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造する際に、酸化マグネシウムの前駆体である水酸化マグネシウムを製造する過程において、アルミニウムが均一に分散するように、予めマグネシウム含有水溶液又は水酸化マグネシウムスラリーにアルミニウム化合物を添加してアルミニウムを含む水酸化マグネシウムを得たのち、当該水酸化マグネシウムから得られたアルミニウムを含む酸化マグネシウム粒子と、酸化カルシウム又はその前駆体、及びバインダーとを混合、造粒、成形、及び焼成することで、アルミニウムが均一に分散し、アルミニウムの添加量が少なくても、十分に焼結密度が高い焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の酸化マグネシウム焼結体の製造方法は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造する方法であって、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製する工程(A)、前記水酸化マグネシウムスラリーを水熱処理する工程(B)、前記水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗、及び乾燥させて、水酸化マグネシウム粒子を得る工程(C)、前記水酸化マグネシウム粒子を焼成して、酸化マグネシウム粒子を得る工程(D)、前記酸化マグネシウム粒子、カルシウム化合物粒子、及びバインダーを混合及び造粒し、造粒粉末を得る工程(E)、前記造粒粉末を型内で成形して成形体を形成する工程(F)、並びに、前記成形体を焼結する工程(G)を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化マグネシウム焼結体の製造方法によれば、焼結体中にアルミニウムが均一に分散し、アルミニウムの添加量が少なくても、十分に焼結密度が高い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造することができる。
【0013】
これにより得られた酸化マグネシウム焼結体は、酸化カルシウムの配合率を大きくした場合でも十分に焼結密度が高いため、蒸着材として用いて保護膜を形成する場合に、蒸着時のスプラッシュの発生を抑制することができる。また、アルミニウムの添加量が少なく、かつ、得られた保護膜においてもアルミニウムが偏析していないため、放電開始電圧の上昇を抑制する効果が十分である保護膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明により製造する酸化マグネシウム焼結体は、構成成分として酸化マグネシウムを主体とし(総量のうち50質量%以上の割合で含有し)、さらに、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含有する。このとき、当該アルミニウムは、金属アルミニウムもしくは酸化アルミニウムの状態で存在していても良く、又は他の元素に固溶していても良い。焼結体とは、粒子の集合体を、融点よりも低い温度で加熱(焼結)することで、粉体の固相拡散、ネック部の成長、結晶粒界の移動などによって粒子同士が連結して製造された緻密な成形体のことをいう。
【0015】
製造される酸化マグネシウム焼結体における酸化カルシウムの含量は2〜49.9質量%である。2質量%未満であると、前記焼結体を蒸着材として用いて形成されたPDP用保護膜により放電開始電圧を低減する効果が不十分であり、49.9質量%を超えると、成膜時にスプラッシュが発生しやすい。好ましくは2〜30質量%である。
【0016】
製造される酸化マグネシウム焼結体におけるアルミニウムの含量は0.001〜1質量%である。0.001質量%未満であると、焼結密度が十分ではないため成膜時にスプラッシュが発生しやすく、1質量%を超えると、前記焼結体を蒸着材として用いて形成されたPDP用保護膜により放電開始電圧の上昇を抑制する効果が低減する。好ましくは0.004〜0.2質量%である。
【0017】
本発明の製造方法によると、焼結密度が95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上の焼結体を製造することができる。このように焼結密度が十分に高いものであるために、当該焼結体を、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等の真空蒸着法における蒸着材として用いて成膜をする際にスプラッシュが発生するのを抑制することができる。
【0018】
以下、本発明の酸化マグネシウム焼結体の製造方法を、各工程毎に説明する。
【0019】
(マグネシウム含有水溶液を用意する工程)
まず、工程(A)において使用する、マグネシウム含有水溶液を調製する。マグネシウム含有水溶液は特に限定されず、例として、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及び蓚酸塩からなる群より選択される少なくとも1種類以上を含む水溶液を挙げることができる。アルミニウム以外の不純物を低減した酸化マグネシウム粒子を得るために、塩化マグネシウム水溶液が好ましい。
【0020】
以下、具体的に、塩化マグネシウム水溶液を用いた場合の工程を説明するが、これに限定されない。調製する塩化マグネシウム水溶液は、濃度0.1〜10mol/Lが好ましい。濃度が0.1mol/L未満であると、生産効率が悪くなる。また、濃度が10mol/Lより高いと水酸化マグネシウムスラリーの粘度が高くなり、ハンドリングが悪くなる。塩化マグネシウム水溶液の濃度は、好ましくは0.5〜5mol/Lである。
【0021】
まず、塩化マグネシウム水溶液を用意する。例えば、純度99質量%以上の高純度の塩化マグネシウム(塩化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム六水和物若しくは無水塩化マグネシウム、又は海水、かん水、若しくは苦汁を用いることができる)に純水(イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した水)を添加することにより塩化マグネシウム水溶液とすることができる。塩化マグネシウム水溶液は、濃度0.1〜10mol/Lとすることができ、好ましくは0.5〜5mol/Lである。
【0022】
(アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーの調製工程(A))
アルミニウムを所定量含む水酸化マグネシウムスラリーは下記工程A−1又は工程A−2を実施することで調製する。
【0023】
(工程A−1 マグネシウム含有水溶液にアルミニウム化合物を添加する場合)
得られる酸化マグネシウム焼結体中にアルミニウムが0.001〜1質量%の範囲で含有されるように、所定量のアルミニウム化合物を、マグネシウム含有水溶液に添加混合する。添加するアルミニウム化合物は特に限定されず、例として、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及び蓚酸塩からなる群より選択される少なくとも1種以上を含む化合物を挙げることができる。アルミニウム以外の不純物を低減した水酸化マグネシウムスラリーを得るために、例えば、塩化マグネシウム水溶液を用いる場合には、アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム六水和物が好ましい。また、同様の理由から、アルミニウム化合物の純度は、99.9質量%以上が好ましい。
【0024】
得られたアルミニウムを含むマグネシウム含有水溶液にアルカリ水溶液を添加して、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを得る。使用するアルカリ水溶液は特に限定されず、例として、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類以上を含む水溶液を挙げることができる。アルカリ水溶液の濃度は1〜18mol/Lが好ましい。アルカリ水溶液の濃度が1mol/L未満であると、生産効率が悪くなる。また、濃度が18mol/Lより高くなると、水酸化マグネシウムスラリーの粘度が高くなり、ハンドリングが悪くなる。好ましくは4〜18mol/Lの濃度である。マグネシウム含有水溶液とアルカリ水溶液の反応率は、85〜98mol%が好ましい。ここで、反応率とは、マグネシウム含有水溶液中のマグネシウム化合物全てが、水酸化マグネシウムに変換されるのに必要なアルカリ量を100mol%として算出した値をいう。反応率が85mol%未満であると、生産効率が悪くなる。また、反応率が98mol%より高くなると、スラリーの不純物が増加する。
【0025】
(工程A−2 水酸化マグネシウムスラリーにアルミニウム化合物を添加する場合)
マグネシウム含有水溶液にアルカリ水溶液を添加して、水酸化マグネシウムスラリーを得る。使用するアルカリ水溶液の種類、及び濃度、並びに反応率は、工程A−1と同様で良い。得られた水酸化マグネシウムスラリーに、所定量のアルミニウム化合物を、得られる酸化マグネシウム焼結体中にアルミニウムが0.001〜1質量%の範囲で含有されるように添加混合し、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを得る。使用するアルミニウム化合物の種類、及び純度は、工程A−1と同様で良い。
【0026】
(水酸化マグネシウムスラリーを水熱する工程(B))
得られた水酸化マグネシウムスラリーを水熱処理し、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る。
【0027】
水熱処理は、水酸化マグネシウムスラリーを、例えば、オートクレーブを用いて、101℃〜200℃で、攪拌しながら保持することにより行うことができる。水熱処理温度が101℃より低いと結晶が成長せず、凝集粒子が生成して分散が悪くなる。また水熱処理温度が200℃より高いと結晶が成長しすぎ、粒子径が大きくなりすぎる傾向がある。水熱処理温度は好ましくは105℃〜150℃である。水熱処理時間は、0.5〜5時間とすることができる。水熱処理時間がこの範囲であると、結晶成長及び粒子径を適切な範囲に制御することができる。水熱処理時間は好ましくは1〜2時間である。
【0028】
(水酸化マグネシウム粒子を得る工程(C))
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを、濾過、水洗、及び乾燥処理に付すことで、水酸化マグネシウム粒子を得る。
【0029】
水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で5〜100倍、好ましくは20〜50倍の純水を濾過の後に投入することにより行うことができる。
【0030】
(酸化マグネシウム粒子を得る工程(D))
前記水酸化マグネシウム粒子を焼成することで、酸化マグネシウム粒子を得る。具体的には、水酸化マグネシウム粒子を、例えば、大気雰囲気中で、昇温速度1〜20℃/分(好ましくは3〜10℃/分)で500℃〜1600℃、好ましくは600〜1000℃まで昇温し、昇温後、500℃〜1600℃、好ましくは600〜1000℃で0.1〜5時間焼成することにより、酸化マグネシウム粒子を得ることができる。得られる酸化マグネシウム粒子の純度は、プラズマディスプレイパネルの保護膜用蒸着材への金属不純物の混入を十分に小さくするため、アルミニウムを除いて算出した純度が99.9質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、99.95質量%以上である。
【0031】
(混合及び造粒工程(E))
次いで、前記酸化マグネシウム粒子に対し、カルシウム化合物粒子、及びバインダーを混合して造粒し、造粒粉末を得る。造粒方法には、限定されないが、転動造粒法やスプレー造粒法等を利用できる。
【0032】
前記カルシウム化合物としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムを用いることができる。これらカルシウム化合物の純度は、99質量%以上、好ましくは99.9質量%以上が好ましい。また、カルシウム化合物の平均粒径は、0.01〜15μmの範囲が好ましい。前記カルシウム化合物粒子は、製造される酸化マグネシウム焼結体中の酸化カルシウムが所望の量になるような量で使用すればよい。
【0033】
前記バインダーとしては特に限定されず、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)等のセルロース誘導体、PVA(ポリビニルアルコール)、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。その使用量としては、酸化物に換算した粉末量の合計100質量部に対して、固形分で1〜10質量部程度である。バインダーはバインダー溶液として用いることが好ましく、当該溶液の濃度は5〜50質量%程度が好ましい。さらに、バインダーと共に、分散剤等の添加剤を併用してもよい。
【0034】
(成形工程(F))
前記造粒体を、所定の金型に導入してプレス装置で成形を行い、成形体を形成する。
プレス装置及び金型は、特に限定されず、具体的には、プラズマディスプレイパネル用の保護膜形成用ターゲットして必要な形状及び大きさ(例えば、厚さ3.0mm程度の円盤、円柱及び角柱状など)に成型できるプレス機及び金型を用いることができる。プレス装置は、例えば、1軸プレス装置等を使用できる。プレス圧力は、得られる成形体の相対密度を調整するために、例えば、50〜600MPaに設定することが望ましい。
【0035】
プレス機による圧力印加により成型した成型体の厚さは、0.1〜10.0mmとすることができる。成型体の厚さが、このような値であると、焼結を好適に行うことができ、また、焼結終了後に得られる焼結体を、ターゲットとして好適に用いることができる。
【0036】
(焼成工程(G))
得られた成形体を焼成することによって、目的物である、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を得ることができる。焼成には、電気炉、ガス炉等が利用できる。高密度の焼結体を得るための焼成温度は、1200〜2400℃であり、好ましくは1300〜1800℃である。また、焼成時間は、0.5〜20時間であり、好ましくは5〜15時間である。焼成は、取り扱いが容易な大気雰囲気中で行うことができる。また、必要に応じて、窒素雰囲気中又はその他の不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。
【0037】
本発明で得られる酸化マグネシウム焼結体は、プラズマディスプレイパネルの保護膜を真空蒸着法で成膜する際に使用する蒸着材として好適に利用することができる。真空蒸着法としては特に限定されず、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
(分析方法)
得られた焼結体の物性は、以下の方法によって測定した。
【0040】
(1)アルミニウム元素及び不純物元素の含有量測定法
測定対象となる元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)は、ICP発光分析装置(商品名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した。
【0041】
(2)純度測定法
酸化マグネシウム粒子の純度は、100質量%から上記の「アルミニウム元素及び不純物元素の含有量測定法」で測定した、アルミニウムを除く不純物元素の質量の合計を差し引いた値として算出した。
【0042】
(3)酸化カルシウムの含有量測定法
自動滴定装置(COMTITE−980、平沼産業製)を使用して、焼結体に含有される酸化カルシウム量を測定した。
【0043】
(4)焼結体の相対密度(焼結密度)の算出方法
焼結体の相対密度は、アルキメデス法により求めた。ただし、酸化マグネシウムの理論密度を3.58g/cc、酸化カルシウムの理論密度を3.32g/cc、酸化アルミニウムの理論密度を3.97g/ccとして算出した。
【0044】
(5)レーザ回折散乱式粒度分布測定
レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(商品名:MT3300、日機装社製)を使用して、体積基準の累積50%粒子径(D50)を測定した。
【0045】
(実施例1)
(塩化マグネシウム水溶液を用意する工程)
塩化マグネシウムとして、純度99質量%以上、濃度3.5mol/Lの水溶液を用意した。この塩化マグネシウム水溶液に純水(イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した水)を添加することにより濃度を調整し、濃度2.0mol/Lの塩化マグネシウム水溶液を得た。
【0046】
(工程A)
焼結体中に500質量ppmのアルミニウムが含有されるような量で、塩化アルミニウム六水和物(株式会社高純度化学研究所製:純度99.9質量%以上)を塩化マグネシウム水溶液に添加混合した。得られたアルミニウムを含む塩化マグネシウム水溶液を、塩化マグネシウムの反応率が95mol%となるように濃度15mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液と反応させて、濃度100g/Lの、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製した。
【0047】
(工程B)
得られた水酸化マグネシウムスラリーを、オートクレーブを用いて150℃で1時間攪拌しながら保持することで、水熱処理(加熱攪拌処理)を行った。
【0048】
(工程C)
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、水洗することにより、水酸化マグネシウムケーキを得た。水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して質量基準で40倍の純水を濾過の後に投入することにより行った。得られた水酸化マグネシウムケーキを粉砕、乾燥し、水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0049】
(工程D)
得られた水酸化マグネシウム粒子を、大気雰囲気中で、1000℃で1時間焼成することにより、酸化マグネシウム粒子を得た。
【0050】
(工程E)
得られた酸化マグネシウム粒子100質量部に対して、炭酸カルシウム(関東化学株式会社製 純度:99.99質量%以上、D50:12μm)を9質量部(酸化カルシウム換算で焼結体中に5質量%相当含まれる量)、及びバインダーとしてセルロース誘導体のカルボキシメチルセルロースを、酸化マグネシウム粒子及び炭酸カルシウム粒子の合計100質量部に対して、固形分で4質量部となるように添加し、混合、及び造粒した。
【0051】
(工程F)
得られた造粒体を、乾燥後、プレス成形(成形圧力:300MPa)により8mm×8mm×3.5mmの直方体状に成形し、成形体を得た。
【0052】
(工程G)
得られた成形体を、電気炉内で1650℃で6時間焼成し、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0053】
(実施例2)
まず、実施例1と同様に、塩化マグネシウム水溶液を得た。
【0054】
次に、(工程A)において、塩化マグネシウムの反応率が95mol%となるように、濃度15mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液を反応させて、濃度100g/Lの水酸化マグネシウムスラリーを調製した。さらに、得られた水酸化マグネシウムスラリーに、焼結体中に500質量ppmのアルミニウムが含有されるような量で、塩化アルミニウム六水和物(株式会社高純度化学研究所製:純度99.9質量%以上)を添加混合し、アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0055】
次いで、実施例1と同様に(工程B)〜(工程G)を行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0056】
(実施例3)
焼結体中のアルミニウム含有量が100質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に2質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0057】
(実施例4)
焼結体中のアルミニウム含有量が200質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に5質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0058】
(実施例5)
焼結体中のアルミニウム含有量が300質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に5質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0059】
(実施例6)
焼結体中のアルミニウム含有量が200質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に10質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0060】
(実施例7)
焼結体中のアルミニウム含有量が500質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを酸化カルシウム換算で焼結体中に10質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0061】
(実施例8)
焼結体中のアルミニウム含有量が1000質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に15質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0062】
(実施例9)
焼結体中のアルミニウム含有量が2000質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に30質量%相当含まれる量添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0063】
(実施例10)
焼結体中のアルミニウム含有量が40質量ppmとなるように塩化アルミニウム六水和物を添加し、さらに、添加するカルシウム化合物を水酸化カルシウム(関東化学株式会社製 純度:99.9質量%以上、D50:12μm)とし、酸化カルシウム換算で焼結体中に2質量%相当含まれる量を添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0064】
(実施例11)
添加するカルシウム化合物を水酸化カルシウム(関東化学株式会社製 純度:99.9質量%以上、D50:12μm)とし、酸化カルシウム換算で焼結体中に5質量%相当含まれる量を添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0065】
(実施例12)
添加するカルシウム化合物を酸化カルシウム(関東化学株式会社製 純度:99.9質量%以上、D50:15μm)とし、焼結体中に5質量%相当含まれる量を添加した以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0066】
(実施例13)
添加するアルミニウム化合物を硝酸アルミニウム九水和物(株式会社高純度化学研究所製 純度99.9質量%以上)とした以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0067】
(実施例14)
添加するアルミニウム化合物を硫酸アルミニウム(株式会社高純度化学研究所製 純度99.9質量%以上)とした以外は、実施例2と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0068】
(比較例1)
実施例1と同様に、塩化マグネシウム水溶液を得た。
【0069】
次に、(工程A)を行わず、塩化マグネシウムの反応率が95mol%となるように、濃度15mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液を反応させて、濃度100g/Lの水酸化マグネシウムスラリーを調製した。
【0070】
次いで、実施例1と同様に(工程B)〜(工程D)を行った。
次に、(工程E)において、得られた酸化マグネシウム粒子100質量部に対して、焼結体中のアルミニウム含有量が500質量ppmとなるように酸化アルミニウム(株式会社高純度化学研究所製 純度99.9質量%以上)を添加し、さらに、炭酸カルシウム(関東化学株式会社製 純度:99.99質量%以上、D50:12μm)9質量部(酸化カルシウム換算で焼結体中に5質量%相当含まれる量)及びバインダーを添加、混合し、造粒した。
【0071】
次いで、実施例1と同様に(工程F)及び(工程G)を行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0072】
(比較例2)
焼結体中のアルミニウム含有量が100質量ppmとなるように酸化アルミニウムを添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に2質量%相当含まれる量添加した以外は、比較例1と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0073】
(比較例3)
焼結体中のアルミニウム含有量が500質量ppmとなるように酸化アルミニウムを添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に10質量%相当含まれる量添加した以外は、比較例1と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0074】
(比較例4)
焼結体中のアルミニウム含有量が1000質量ppmとなるように酸化アルミニウムを添加し、炭酸カルシウムを、酸化カルシウム換算で焼結体中に15質量%相当含まれる量添加した以外は、比較例1と同様に行い、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体を得た。
【0075】
以上の実施例及び比較例で得た酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む焼結体の物性を以下に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1より、実施例1〜14では、焼結体中にアルミニウムが均一分散し、焼結密度が高い焼結体が得られたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体を製造する方法であって、
アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製する工程(A)、
前記水酸化マグネシウムスラリーを水熱処理する工程(B)、
前記水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを、濾過、水洗、及び乾燥させて、水酸化マグネシウム粒子を得る工程(C)、
前記水酸化マグネシウム粒子を焼成して、酸化マグネシウム粒子を得る工程(D)、
前記酸化マグネシウム粒子、カルシウム化合物粒子、及びバインダーを混合及び造粒し、造粒粉末を得る工程(E)、
前記造粒粉末を型内で成形して成形体を形成する工程(F)、並びに、
前記成形体を焼結する工程(G)を含む、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及びアルミニウムを含む酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム焼結体が、酸化マグネシウムを50質量%以上、酸化カルシウムを2〜49.9質量%、及びアルミニウムを0.001〜1質量%含むことを特徴とする、請求項1記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)が、マグネシウム含有水溶液にアルミニウム化合物を添加したのち、アルカリ水溶液と反応させることで、前記アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)が、マグネシウム含有水溶液をアルカリ水溶液と反応させたのち、アルミニウム化合物を添加することで、前記アルミニウムを含む水酸化マグネシウムスラリーを調製することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム化合物が、純度99.9質量%以上であり、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及び蓚酸塩からなる群より選択される少なくとも1種以上を含む化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記マグネシウム含有水溶液が、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及び蓚酸塩からなる群より選択される少なくとも1種類以上を含む水溶液であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及びアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類以上を含む水溶液であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記カルシウム化合物粒子が、純度99.9質量%以上であり、平均粒径が0.01〜15μmの範囲であり、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、及び酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類以上を含む化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)において、濃度0.1〜10mol/Lの範囲の前記マグネシウム含有水溶液を、濃度1〜18mol/Lの範囲の前記アルカリ水溶液と反応率85〜98mol%で反応させることを特徴とする、請求項3〜8のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(B)において、前記水酸化マグネシウムスラリーを、101〜200℃の範囲の温度で、0.5〜5時間の間保持して水熱処理することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(D)において、前記水酸化マグネシウム粒子を、500℃〜1600℃の範囲の温度で、0.1〜5時間の間焼成し、アルミニウムを除いて算出した純度が99.9質量%以上である前記酸化マグネシウム粒子を得ることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(E)において、セルロース誘導体、アクリル系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種類以上を含むバインダーを、前記酸化マグネシウム粒子及び前記カルシウム化合物粒子を酸化物に換算した合計100質量部に対して、固形分で1〜10質量部の範囲で添加することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記工程(F)において、50〜600MPaの範囲の成形圧力で前記造粒粉末の成形を行うことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記工程(G)において、前記成形体を、1300〜1800℃の範囲の温度で、0.5〜20時間の間焼成することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2012−201528(P2012−201528A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65711(P2011−65711)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】