説明

金属帯板の形状測定装置

【課題】コンパクトな構造で、金属帯板の材質によらず精度よく形状を測定することができ、データ伝送においても外乱が小さい金属帯板の形状測定装置を提供する。
【解決手段】金属帯板1が巻き付けられるように設置され、表面に1本以上の螺旋溝30が形成され、螺旋溝30に径方向に貫通する穴である溝部穴40が2箇所以上形成される中空円筒10と、中空円筒10に嵌合する薄肉円筒20と、中空円筒10の内部を貫通し、この中空円筒10を回転可能に支持する静止軸50と、静止軸50の軸方向におけるそれぞれの溝部穴40に対応する位置に設置され、金属帯板1を薄肉円筒20に巻き付けたときの薄肉円筒20の変位を測定するセンサ60と、センサ60により測定した薄肉円筒20の変位から、金属帯板1の板幅方向における張力の分布を演算する演算手段120とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯板の形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属帯板の形状測定装置には、例えば、下記非特許文献1に開示されるように、走行する金属帯板を電磁石で吸引する装置と、そのときの帯板の変位を測定する装置を設けておき、測定された変位分布から帯板の形状を演算するものがある(特に、下記非特許文献1における図10.22 磁気吸引式平坦度検出ブロック図参照)。
また、金属帯板の形状測定装置には、例えば、下記特許文献1に開示されるように、ローラくぼみ内に設置されたセンサを薄肉円筒で覆うことを特徴とする平坦度偏差を記録するための測定ローラがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−88564号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編、「板圧延の理論と実際」、鉄鋼協会特別報告書、No.38、1984年、p.266−267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に開示される従来の金属帯板の形状測定装置には、以下の問題がある。
(1)電磁石によって吸引された金属帯板の変位を測定するセンサは金属帯板の近くに設置するため、張力を付与された金属帯板が破断すると、破断部がセンサと接触して高価なセンサが破損する問題。
(2)金属帯板を吸引するために電磁石を用いているが、金属帯板の板厚が厚い場合や、張力が大きい場合には金属帯板のたわみは極めて小さくなり、測定精度が低下する問題。
(3)金属帯板を電磁石で吸引するために、非鉄金属や磁性のないステンレス鋼板などには適用できず、使用範囲が限定される問題。
(4)金属帯板のたわみを正確に与えるために必ず電磁石と変位測定センサの前後にデフレクタロールを設置しなければならず、設備長が長くなり、装置構成が複雑で高価になる問題。
(5)金属帯板を局部的に吸引しても幅方向位置に変位分布が生じるため、分離演算が複雑になり、センサの数を多くしても精度向上に繋がらない問題。
【0006】
また、上記特許文献1に開示される平坦度偏差を記録するための測定ローラには、以下の問題がある。
(6)ローラくぼみ内に金属帯板の巻き付け圧力を測定するためのセンサを設置した後に、ローラ表面を薄肉円筒で覆うため、薄肉円筒で覆った後はセンサの調整ができない問題。
(7)センサは回転するロール内に設置されているため、多くのセンサの測定値を固定側に伝送する装置が必要で、ノイズなどの外乱により測定精度が悪化する問題。
【0007】
以上のことから、本発明は、コンパクトな構造で、金属帯板の材質によらず精度よく形状を測定することができ、データ伝送においても外乱が小さい金属帯板の形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する第1の発明に係る金属帯板の形状測定装置は、
金属帯板が巻き付けられるように設置され、表面に1本以上の螺旋又は周方向から傾斜した溝が形成され、前記溝に径方向に貫通する穴である溝部穴が2箇所以上形成される中空円筒と、
前記中空円筒に嵌合する薄肉円筒と、
前記中空円筒の内部を貫通し、該中空円筒を回転可能に支持する静止軸と、
前記静止軸の軸方向におけるそれぞれの前記溝部穴に対応する位置に設置され、前記金属帯板を前記薄肉円筒に巻き付けたときの前記薄肉円筒の変位を測定するセンサと、
前記センサにより測定した前記薄肉円筒の変位から、金属帯板の板幅方向における張力の分布を演算する演算手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する第2の発明に係る金属帯板の形状測定装置は、第1の発明に係る金属帯板の形状測定装置において、
前記中空円筒の前記溝部穴と軸方向における同一の周面上の前記溝が形成されていない位置に中空円筒を径方向に貫通する穴であるランド部穴を形成する
ことを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する第3の発明に係る金属帯板の形状測定装置は、第1の発明又は第2の発明に係る金属帯板の形状測定装置において、
前記溝部穴又は前記溝部穴及び前記ランド部穴に前記薄肉円筒の内面に押し付けるように径方向に移動が可能な棒を設置し、
前記センサは前記棒の変位を測定する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンパクトな構造で、金属帯板の材質によらず精度よく形状を測定することができ、データ伝送においても外乱が小さい金属帯板の形状測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成を示した模式図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成を示した模式図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成を示した模式図である。
【図4】本発明の第1〜3の実施例に係る金属帯板の形状測定装置をデフレクタロール間に設置する場合の例を示した模式図である。
【図5】本発明の第1〜3の実施例に係る金属帯板の形状測定装置を圧延機と巻き取り装置との間に設置する場合の例を示した模式図である。
【図6】本発明の第1〜3の実施例に係る金属帯板の形状測定装置における張力の演算方法の例を示した図である。
【図7】本発明の第1〜3の実施例に係る金属帯板の形状測定装置における薄肉円筒の変位の例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定装置を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定装置の第1の実施例について説明する。
はじめに、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成について説明する。
図1に示すように、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、表面に1本の浅い螺旋溝30が形成された中空円筒10を備えている。なお、本実施例においては、中空円筒10の表面に螺旋溝30を形成しているが、周方向から傾斜した溝を形成するようにしてもよい。
【0015】
中空円筒10には、薄肉円筒20が嵌合されている。なお、薄肉円筒20は、金属帯板1よりも硬い材質の素材を用い、薄肉円筒20の表面に傷がつかないようにすることにより、薄肉円筒20に付いた傷が金属帯板1に転写されることを防ぐようにする。中空円筒10は、軸受70を介して静止軸50に回転可能に設置されている。静止軸50は両端部を支持架台90で支持されている。
【0016】
螺旋溝30の幅方向における中央部には、中空円筒10を径方向に貫通する穴である溝部穴40が形成されている。静止軸50には、静止軸50の軸方向におけるそれぞれの溝部穴40と対応する位置に径方向外側を向けてセンサ60が設置されている。センサ60は、固定部材51により静止軸50の所定の位置に固定されている。
【0017】
なお、センサ60には、レーザー変位計、渦電流式変位計又は超音波変位計等を用いることが可能であるが、要は回転する中空円筒10側と非接触で距離を測定することができるセンサであれば、どのような方式のセンサを用いてもよい。
【0018】
そして、センサ60は、金属帯板1を薄肉円筒20に巻き付けたときの薄肉円筒20の変位を測定できるようになっている。センサ60には、センサ60により測定された薄肉円筒20の軸方向の各位置ごとの変位の測定データを伝送する伝送ケーブル110が接続されている。静止軸50には、伝送ケーブル110を引き出す引き出し穴100が形成されている。
【0019】
本実施例に係る金属帯板の形状測定装置には、センサ60で測定された薄肉円筒20の軸方向の各位置ごとの変位の測定データから金属帯板1の幅方向の各位置における張力に基づき、金属帯板1の形状を演算する演算装置120を備えている。この演算装置120とセンサ60は、伝送ケーブル110により接続されている。
【0020】
なお、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置においては、中空円筒10が1回転する間に、螺旋溝30に形成したそれぞれの溝部穴40は金属帯板1の幅方向のすべての各位置を通過するため、中空円筒10に形成する螺旋溝30は1本で十分である。また、螺旋溝30は、金属帯板1の板幅をカバーするように形成すればよく、必ずしも中空円筒10の周面を一周するように形成する必要はない。
【0021】
そして、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、例えば、図4に示すように、デフレクタロール200間に設置したり、また、図5に示すように、圧延機210と金属帯板1を巻き取る巻き取り装置220との間に設置される。
【0022】
なお、複数の圧延機210が設置される圧延設備において、複数の圧延機210により金属帯板1を圧延する際に、金属帯板1の安定した圧延を目的して各圧延機210間に本実施例に係る金属帯板の形状測定装置を設置する場合には、金属帯板1の幅方向の形状の非対称を検出するだけでよい場合がある。このような場合には、金属帯板1の幅方向における任意の2点について張力を測定しさえすれば金属帯板1の幅方向の形状の非対称の度合いを検出することができるため、中空円筒10の内部に設置するセンサ60の数は、少なくとも2個設置すればよい。
【0023】
次に、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置における金属帯板の形状の測定原理について説明する。
薄肉円筒20に張力を付与した金属帯板1を巻きつけると、薄肉円筒20の金属帯板1と接触する部分は金属帯板1の張力に比例する巻き付け圧力を受ける。巻き付け圧力は下記式(1)で示される。
【数1】

ここで、pは巻き付け圧力、σは金属帯板1の分布張力で単位面積(単位幅×単位厚)当たりの張力、hは金属帯板1の板厚、Rは中空円筒10の半径である。
【0024】
表面に螺旋溝30が形成された中空円筒10に嵌合した薄肉円筒20は、中空円筒10の表面の螺旋溝30以外の部分であるランド部35の上に位置する部分は金属帯板1から巻き付け圧力を受けても変形しないが、螺旋溝30の上に位置する部分は巻き付け圧力によって径方向に凹み変形する。
【0025】
金属帯板1の巻き付け圧力により薄肉円筒20が凹み変形する深さを計測すると、図6に示すように、金属帯板1の幅方向の各位置における螺旋溝30の位置の金属帯板1の変位δは、金属帯板1の幅方向の各位置における金属帯板1の単位幅当たりの張力σと比例関係になる。このため、図7に示すように、螺旋溝30の位置の薄肉円筒20の変位δを測定し、測定した薄肉円筒20の変位に比例定数を乗じることにより、金属帯板1に作用している単位幅当たりの張力σを求めることができる。
【0026】
なお、比例定数は、金属帯板1の材質や板厚、薄肉円筒20の肉厚等の組み合わせごとに、予め計算して求めておけばよい。また、測定した変位の金属帯板1の幅方向における積分平均値が、金属帯板1の平均張力と比例関係にあることを利用して、変位の測定値から比例定数を決定してもよい。
【0027】
また、金属帯板1の幅方向における各位置の平均張力は、金属帯板1の全張力を断面積(すなわち、板厚×板幅)で除したものである。そして、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置を設置するような圧延設備には、通常、金属帯板1に加わる全張力を測定する張力測定装置が設置されている。このため、張力測定装置を用いて金属帯板1の全張力を測定し、測定した金属帯板1の全張力を断面積(板厚×板幅)で除することにより、圧延する金属帯板1の板厚や材質が変わっても比例定数を事前に求めることなく比例定数を逐次決定するようにすることもできる。
【0028】
そして、螺旋溝30は、薄肉円筒20が1回転すると金属帯板1の幅方向における全域を通るため、薄肉円筒20が1回転すれば金属帯板1の幅方向における張力の分布を測定することができる。
【0029】
ところで、金属帯板1の形状の変形は、金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量がわずかに異なることにより、伸び量が大きい部分が波立ったり、長手方向にわずかに湾曲したりするもので、金属帯板1の圧延や加熱又は冷却によって生ずる金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量の偏差が原因となる。言い換えれば、金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量の偏差から、金属帯板1の形状を測定することができる。
【0030】
金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量の偏差は下記式(2)で示される。
【数2】

ここで、Δεsは金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量の偏差、σは各位置の金属帯板1の分布張力で単位面積(単位幅×単位厚)当たりの張力、σmは金属帯板1の平均張力、Eは金属帯板1のヤング率である。
そして、式(2)より、金属帯板1の幅方向における各位置の長手方向における伸び量の偏差を演算することにより、金属帯板1の形状を測定することができる。
【0031】
次に、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の作用について説明する。
センサ60は、中空円筒10内の静止軸50に、中空円筒10の径方向外側に向けて設置され、溝部穴40を通して薄肉円筒20とセンサ60との距離を測定することができるようになっている。
【0032】
そして、金属帯板1を巻き付けたときの溝部穴40を通して測定した薄肉円筒20とセンサ60との距離と、金属帯板1を巻き付けていないときに予め溝部穴40を通して測定した薄肉円筒20とセンサ60との距離との差を求めることにより、金属帯板1の巻き付け圧力による変位を測定することができる。
【0033】
ところで、中空円筒10及び薄肉円筒20が回転するとセンサ60を設置している静止軸50や薄肉円筒20自体が振動して、薄肉円筒20とセンサ60との距離が変動する場合がある。このような場合には、薄肉円筒20の両端部近傍の静止軸50に、それぞれ1つずつ薄肉円筒20との距離を測定するセンサ60を設置し、同じ時間における薄肉円筒20とセンサ60との距離や傾きを補償するようにすればよい。
【0034】
なお、中空円筒10に嵌合する薄肉円筒20の厚みを厚くした場合、金属帯板1の巻き付け圧力による薄肉円筒20の凹み変形が小さなるため、張力の測定精度が悪くなる。また、螺旋溝30の幅は広くするほど金属帯板1の巻き付け圧力による薄肉円筒20の凹み変形は大きくなるが、金属帯板1の板幅が狭くなると、板幅に対する螺旋溝30の幅の割合が大きくなってしまい、金属帯板1の板幅方向における張力の分布の測定精度が悪くなってしまう。そして、種々の条件で測定した結果、螺旋溝30の幅は最小板幅の1/2程度以下とし、薄肉円筒20の肉厚は10mm以下とすることが望ましいとの結論に至った。
【0035】
一方、中空円筒10の表面に形成する螺旋溝30の深さは薄肉円筒20が螺旋溝30の底に接触しないだけの深さであればよい。なお、測定対象の金属帯板1の板厚や張力の大きさにもよるが、螺旋溝30の深さは深くても2mm程度としておけば十分である。
【実施例2】
【0036】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定装置の第2の実施例について説明する。
はじめに、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成について説明する。
図2に示すように、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、第1の実施例に係る金属帯板の形状測定装置と異なり、中空円筒10に形成した溝部穴40と同一の円周上のランド部35にも中空円筒10を径方向に貫通する穴であるランド部穴41が形成されている。
【0037】
なお、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、中空円筒10にランド部穴41を形成すること以外の構成については第1の実施例に係る金属帯板の形状測定装置と同様である。また、ランド部穴41は溝部穴40と同一の円周上に形成されているため、溝部穴40の薄肉円筒20の変位を測定するセンサ60を利用して、ランド部穴41の薄肉円筒20とセンサ60との距離を測ることができるため、センサ60を増設する必要はない。
【0038】
次に、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の作用について説明する。
なお、基本的な金属帯板の形状の測定原理は第1に実施例に係る金属帯板の形状測定装置と同様である。
【0039】
センサ60は、中空円筒10内の静止軸50に、中空円筒10の径方向外側に向けて設置され、溝部穴40及びランド部穴41を通して薄肉円筒20とセンサ60との距離を測定することができるようになっている。
【0040】
本実施例に係る金属帯板の形状測定装置においては、中空円筒10にランド部穴41が形成されている。このランド部穴41上の薄肉円筒20は、螺旋溝30に形成されている溝部穴40上の薄肉円筒20と異なり金属帯板1により圧力が加えられても変位しないため、ランド部穴41上の薄肉円筒20とセンサ60との距離を測定することにより、金属帯板1を巻き付けていないときに予め溝部穴40を通して測定した薄肉円筒20とセンサ60との距離と同じ距離を測定することができる。
【0041】
そして、金属帯板1を巻き付けたときの溝部穴40を通して測定した薄肉円筒20とセンサ60との距離と、金属帯板1を巻き付けたときのランド部穴41を通して測定した薄肉円筒20とセンサ60との距離との差を求めることにより、金属帯板1の巻き付け圧力による変位を測定することができる。
【実施例3】
【0042】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定装置の第3の実施例について説明する。
はじめに、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の構成について説明する。
図3に示すように、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、第2の実施例に係る金属帯板の形状測定装置と異なり、中空円筒10に形成した溝部穴40及びランド部穴41に、先端が薄肉円筒20の内面に接する棒80が設置されている。
【0043】
棒80は、バネ82により薄肉円筒20の内面に押し付けられており、中空円筒10の径方向に移動可能なように設置されている。バネ82は、溝部穴40及びランド部穴41の下部に設置するネジ81により固定されている。ネジ81の中央部には軸方向に穴が形成されており、棒80の下部が貫通できるようになっている。
【0044】
なお、本実施例においては、バネ82により棒80を薄肉円筒20に押し付けることにより棒80が薄肉円筒20の変位に追従して動作するように構成しているが、棒80を薄肉円筒20の変位に追従して動作させることができるのであれば、どのような構成によって実現してもよく、例えば、バネ82以外の弾性体を用いたり、場合によってはバネ82を省略してもよい。
【0045】
静止軸50には、それぞれの溝部穴40及びランド部穴41と対応する位置に径方向外側を向けてセンサ60が設置されている。そして、センサ60は、金属帯板1を巻き付けたときの薄肉円筒20に押し付けている棒80の変位を測定できるようになっている。このように、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置においては、棒80の下端部とセンサ60との距離を測定するため、センサ60に渦電流式変位計を用いる場合に特に有効である。
【0046】
なお、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置は、溝部穴40及びランド部穴41に棒80等を設置する以外の構成については第2の実施例に係る金属帯板の形状測定装置と同様である。また、第1の実施例のように中空円筒10に溝部穴40のみを形成し、この溝部穴40にのみ棒80等を設置する構成としてもよい。
【0047】
次に、本実施例に係る金属帯板の形状測定装置の作用について説明する。
なお、基本的な金属帯板の形状の測定原理は第1に実施例に係る金属帯板の形状測定装置と同様である。
センサ60は、中空円筒10内の静止軸50に、中空円筒10の径方向外側に向けて設置され、棒80の下端部とセンサ60との距離を測定することができるようになっている。
【0048】
そして、金属帯板1を巻き付けたときの溝部穴40に設置した棒80の下端部とセンサ60との距離と、金属帯板1を巻き付けたときのランド部穴41に設置した棒80の下端部とセンサ60との距離との差を求めることにより、金属帯板1の巻き付け圧力による変位を測定することができる。
【0049】
ところで、中空円筒10及び薄肉円筒20が回転するとセンサ60を設置している静止軸50や薄肉円筒20自体が振動して、棒80の下端部とセンサ60との距離が変動する場合がある。このような場合には、薄肉円筒20の両端部近傍の静止軸50に、それぞれ1つずつ薄肉円筒20との距離を測定するセンサ60を設置し、同じ時間における薄肉円筒20とセンサ60との距離や傾きを補償するようにすればよい。
【0050】
以上説明したように本発明に係る金属帯板の形状測定装置によれば、以下の効果を奏する。
(1)薄肉円筒20の変位を測定するセンサ60は、中空円筒10内の静止軸50に設置されるので、走行中の金属帯板1が破断したときにもセンサ60は中空円筒10に保護されるため、高価なセンサ60の破損を防ぐことができる。
(2)センサ60ヘの測定したデータの転送や給電は中空円筒10内の静止軸50の内部を通した伝送ケーブル110により行われるので、高価な無線伝送装置や無線給電装置を必要とせず、無線伝送に伴うノイズなどの外乱を非常に小さくすることができる。
(3)中空円筒10内にセンサ60からの信号を増幅する増幅器等を設置する必要がないので、装置のサイズをコンパクトにすることができる。
(4)薄肉円筒20に変形を生じさせる力は金属帯板1の張力に比例する巻き付け圧力であるので、金属の種類によらず測定が可能な上、金属帯板1の板厚が厚い場合や、高張力の場合ほど測定精度を向上させることができる。
(5)金属帯板1の変位の測定位置の数や螺旋溝の本数は任意に設定することができるため、これらを多くするだけで金属帯板1の幅方向における張力の分布を細かいピッチで求めることができる。
(6)中空円筒10、薄肉円筒20及び静止軸50は単純な形状で加工も容易なため、安価に製造することができる上、走行する金属帯板1をロールに巻き付けるだけでよいため設備の構成を簡素化することができる。
以上の効果により、単純な構造で精度良く安価に金属帯板1の形状を測定することができる金属帯板の形状測定装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば、金属帯板が走行する圧延設備内に設置する金属帯板の形状測定装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 金属帯板
10 中空円筒
20 薄肉円筒
30 螺旋溝
35 ランド部
40 溝部穴
41 ランド部穴
50 静止軸
51 固定部材
60 センサ
70 軸受
80 棒
81 ネジ
82 バネ
90 支持架台
100 引き出し穴
110 伝送ケーブル
120 演算装置
200 デフレクタロール
210 圧延機
220 巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯板が巻き付けられるように設置され、表面に1本以上の螺旋又は周方向から傾斜した溝が形成され、前記溝に径方向に貫通する穴である溝部穴が2箇所以上形成される中空円筒と、
前記中空円筒に嵌合する薄肉円筒と、
前記中空円筒の内部を貫通し、該中空円筒を回転可能に支持する静止軸と、
前記静止軸の軸方向におけるそれぞれの前記溝部穴に対応する位置に設置され、前記金属帯板を前記薄肉円筒に巻き付けたときの前記薄肉円筒の変位を測定するセンサと、
前記センサにより測定した前記薄肉円筒の変位から、金属帯板の板幅方向における張力の分布を演算する演算手段と
を備える
ことを特徴とする金属帯板の形状測定装置。
【請求項2】
前記中空円筒の前記溝部穴と軸方向における同一の周面上の前記溝が形成されていない位置に中空円筒を径方向に貫通する穴であるランド部穴を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の金属帯板の形状測定装置。
【請求項3】
前記溝部穴又は前記溝部穴及び前記ランド部穴に前記薄肉円筒の内面に押し付けるように径方向に移動が可能な棒を設置し、
前記センサは前記棒の変位を測定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属帯板の形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−266255(P2010−266255A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116081(P2009−116081)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】