説明

金属炭化物−炭素複合物から形成された表面を有する素材及びその製造方法

【課題】既知のSiCを基盤とする、もしくはB4Cを基盤とする素材、又は連続摩擦低減被覆層を持つ素材よりも、摩擦荷重に対してよりよく耐え得る素材を提供する。
【解決手段】本発明は、金属炭化物−炭素複合物からなる表面を有する素材に関する。この素材は、金属炭化物表面の幾何学的に規定された領域が、0.01から1,000μmまでの深さまで物質合体によって結合した炭素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属炭化物−炭素複合物から形成された表面を有する素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC素材は、高硬度、その結果としての耐磨耗性、高度の熱伝導性、極めて良好な耐腐食性、及び、優れた強度を有するため、金属炭化物の代表として化学工場の装置(例えばポンプ)におけるベアリング(軸受)ならびにシールとしての使用に極めて適している。炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)、及び、炭化ホウ素(BC)から形成される部材もまた、高い耐摩耗性を有する。摩擦系においては、これらの硬素材は、しばしば、他の、あるいは同じ硬素材に対して使用される(硬/硬−組合せ)。
【0003】
しかしながら、殆どあるいは全く注油のない滑動及び摩擦系(ポンプの軸受及びシールのような)においては、高い摩擦係数を有することは、数分内に200℃を越す莫大な温度上昇を引き起こし、滑動表面に著しい磨耗を与え、ひいては接触面の完全な破壊をもたらす。従って、潤滑剤のない操作状態に対する長期の耐性は達成されない。
【0004】
潤滑剤のない操作状態及び殆ど注油のない状態での硬/硬−組合せの摩擦系における熱発生を緩和するため、現在の到達技術水準としては、固体潤滑物質、一般には粒状の炭素をグラファイトの形で、SiCに組み込むことが必要とされる。
【0005】
このタイプの素材は、粉末冶金あるいは反応結合によって生成され得る。米国特許第 4,525,461号、欧州特許第850898A号及びドイツ特許10111225Aには、グラファイト含有SiC出発粉末を用いて、粉末冶金によって製造されたSiC/グラファイトが記載されている。米国特許第 4,525,461号には、微粒子化した焼結SiCからなる基礎素材を有するグラファイト含有SiC素材が記載されている。欧州特許第850898A号及びドイツ特許10111225Aには、粗粒子化された二方式の微細構造を有する焼結SiCが記載されている。ドイツ、ケンプテンのWacker Chemie GmbHは、このタイプの素材からなる基礎材料を、商品名EKasic G Siliciumkarbidとして提供している。
【0006】
ケイ素溶浸によって反応結合したSi−SiC素材は、文献(例えば、セラミック硬物質便覧、2巻 Ralf Riedel編集、Wiley−VCH(2000).683−748頁)に記載されている。シリコン含量は、典型的には10−15容量%であり、5容量%以下であることは滅多にない。これらのSi−SiC素材は、更に40容量%までのグラファイトを含んでもよい。すべての上述のグラファイト含有SiC素材中において、グラファイトは固体のSiC基礎材中に無差別且つ均等に分布されている。
【0007】
これらのSiC素材が潤滑剤なしの操作条件に耐える能力は、グラファイト含量の増大によって改善することができる。しかしながら、プロセス工学上の理由から、グラファイト含量には上限が課せられている。例えば、焼結SiC(S−SiC)においては、15容量%を超えるグラファイト含量は、焼結密度を相当程度低減する犠牲を払ってのみ実現することができ、これでは滑動リングシールの能力に制限を課することになってしまう。この制限のために、SiC素材は、素材それ自身あるいは他の硬物質に対する摩擦荷重下にある硬/硬−組合せとして知られている状況においては、潤滑物質なしの条件下で長期の作動能力を持つとは考えられない。
【0008】
PCT出願WO02/02956A1には、SPS Bleistahlの名称で、滑動接触軸受材中に固体潤滑剤を組み込む別の解決方法が記載されている。機械加工(例えば非焼結状態における回転、粉砕、及び穴あけ)の後、セラミック製の滑動接触軸受には、内部に固形潤滑剤(グラファイト、窒化ホウ素)が圧入される。それに続く焼結操作により、一般に、数ミリメートルの大きさ、円筒状の固形潤滑剤要素は、収縮して中に入り込む。固形潤滑剤要素は、一応結合してはいるが、接着はしていない。この工程は、素材が如何なる所望の形状あるいは表面被覆に組み込まれることを可能にするものではない。というのも、SiC成分の中に空隙があけられ、これらの空隙に、グラファイト等から作られた芯がはめ込まれるからである。それ故、原則として、円形の芯に対してのみ適する。円筒形の芯は、滑動表面に対して垂直に向けられていることが好ましい。ここに開示されている素材の滑動表面におけるグラファイトの表面被覆には、制限がある。もし、組み込まれた素材のレベルが高すぎると、成分の強度及び剛直性において、相当な制限を受け入れる必要がある。さらに、素材を加熱すると、芯がばらばらになる可能性がある。
【0009】
滑動摩擦の相手が摩擦低減炭素層で被覆されていることもまた、先行技術の一部である。ダイヤモンド様の炭素(DLC)層、ダイヤモンド層、あるいはグラファイト層を、化学蒸着法(CVD)によって表面に塗布することができる。日本国特許JP04041590号の要約書には、CVD(化学蒸着)操作を用いて、グラファイト層を持つSiC成形体の製造方法が開示されている。
【0010】
ドイツ特許10045339A1(欧州特許1188942A1)には、連続したグラファイト被覆層を有するSiCの別の製造方法が記載されている。この「高温での方法」においては、真空状態で約2000℃において、SiCの炭素および蒸発するSi相へ、SiCを熱分解することが利用されている。SiCの表面は炭素の連続層で被覆されず、むしろ以下のような層に転換されている。形成されている層は、グラァフイト含量の高い(部分)結晶形となっている。
【0011】
連続グラファイト被覆層を持つ別のSiC生成操作は、公知の塩素ガス操作に基づく。この操作においては、炭化珪素は、800℃以上の温度において、例えば塩素のようなハロゲン含有ガスの助けを得て、珪素相(4塩化珪素)と、炭素と、に分解され得るという事実を利用している。この反応は1914年以来知られており、標準の材料科学の教科書に述べられている(Encyclopedia of Advanced Materials, Pergamon Press, page 2455-2461,1994)。
【0012】
また、ハロゲン含有ガスの濃度と、操作の温度と、時間と、に依存して、結果として生じる炭素が、炭化金属、特にSiCの表面に、ダイヤモンド、ダイヤモンド様炭素、グラファイト、あるいは非晶性炭素の形で残存することも記載されている(Y. G. Gogotsi, I. Jeon and M. J. McNallan, Carbon coating on siliconcarbide by reaction with chlorine-containing gases、J. Mater. Chem. 1997, 7(9), 1841-1848頁及びWO01/16054 9.1.1999)。
【0013】
2−3.5重量%の塩素を含むガス中で、800から1200℃の温度と、0−100気圧における熟成は、適切な境界状態であることが述べられている。ドイツ特許10045339A1(欧州特許1188942A1)の記載と同じように、炭素はSiC上に連続被覆層として残存する。
【0014】
連続ダイヤモンドならびにDLC被覆層は、結合力、制限された層厚、及び制限された熱安定性を有するため、限られた使用期間を持つに過ぎず、潤滑剤なしの条件下では、一般に数分間から数時間の耐久性をもつのみである。連続グラファイト被覆層は、熱安定性及び摩擦損耗に関しては利点を有するが、その低硬度性から、それらが急速に摩滅することを意味している。
【特許文献1】米国特許第4525461号公報
【特許文献2】欧州特許第850898A号公報
【特許文献3】ドイツ特許10111225A号公報
【特許文献4】WO02/02956A1号公報
【特許文献5】特開平04−041590号公報
【特許文献6】ドイツ特許10045339A1号公報
【特許文献7】WO01/16054
【特許文献8】ドイツ特許10045339A1
【非特許文献1】セラミック硬物質便覧、2巻 Ralf Riedel編集、Wiley−VCH (2000). 683−748頁
【非特許文献2】Encyclopedia of Advanced Materials, Pergamon Press, page 2455-2461,1994
【非特許文献3】Y. G. Gogotsi, I. Jeon and M. J. McNallan, Carbon coating on siliconcarbide by reaction with chlorine-containing gases、J. Mater. Chem. 1997, 7(9), 1841-1848頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、既知のSiCを基盤とする、もしくはBCを基盤とする素材、又は連続摩擦低減被覆層を持つ素材よりも、摩擦荷重に対してよりよく耐え得る素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、炭化金属−炭素複合物から形成された表面を有し、幾何学的に定義された領域内において、その炭化金属表面の0.01から1000μmの深さまで、凝集されて結合している炭素を含有することを特徴とする素材によって達成される。
【発明の効果】
【0017】
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
一つ又はそれ以上の非晶性及び/又は結晶性の相が、金属炭化物に組み込まれ得る。非晶性及び/又は結晶性の相は、例えば、グラファイト、珪素、あるいはイットリウム−アルミニウムガーネット、コバールトなどである。このタイプの素材ではあるが、規定された領域において、本発明による炭素の層をその表面の0.01から1000μmの深さまで有さない素材は、先行技術の一部を形成する(反応結合したSi−SiC、液状焼結SiC、炭化タングステンあるいは炭化ホウ素)。炭素の層を備えた素材の表面は、好ましくは平面である。
【0019】
金属炭化物は、好ましくはSiCである。それは好ましくは、SiCの焼結体、反応結合したSi−SiCからの形成体、又は、何らかの所望の基盤上のSiC被覆層である。
【0020】
0−15容積%の多孔性SiC焼結体は、特に好ましい。
【0021】
SiC焼結体は、好ましくは、一つ又はそれ以上の異なった相を0−30重量%含む焼結SiC(再結晶化SiCを含む)で構成される。許容される異相の例としては、ケイ素、及びイットリウム−アルミニウムガーネットが挙げられる。異相の含量は、できるだけ低くあるべきである。異相の含量が5重量%以下であるSiC焼結体が、特に好ましい。
【0022】
SiC焼結体は、特に好ましくは焼結SiCで構成される。
【0023】
焼結SiCは、5重量%までのホウ素及び/又はアルミニウムを含有し、また、0−25重量%の遊離した粒状の炭素を含む。好ましい焼結SiCは、粒子の大きさが1μm から1500μmの粗い粒子の二様式微細構造を有する。
【0024】
本発明に従い、規定された副領域内の表面の0.01 から1000 μmの深さまで存在する炭素層は、SiCに凝集的に結合し、従って、特によく接着している。炭素は、好ましくは非晶性炭素、部分結晶性の炭素、グラファイト、ダイヤモンド様の炭素、ダイヤモンド、あるいはそれらの混合物である。好ましくはグラファイト含有炭素、特に好ましくはグラファイトである。この炭素は、塩素ガスあるいは高温分解操作を用いたエッチング操作の産物である。それ故、この炭素は、完全に非晶性あるいは完全に結晶性形であってもよい。しかしながら、それはまた、非晶性及び結晶性の相の混合物、を含んでいてもよい。これは本発明において、「部分的結晶性」として理解されるものである。
【0025】
本発明に従って存在する表面の炭素副領域は、何らかの無差別の、しかし所望の、予め規定された形状のものである。副領域の形状の例は、円形領域あるいは細長、鎌形のような非円形状である。図1と2は、金属炭化物表面上の炭素副領域の数例を示す。高度の摩擦負荷を受ける表面領域においては、所定の形状を有する炭素の組み込みは、0.1−99%、好ましくは5−95%、特に好ましくは15−90%、特別に好ましくは25−80%である。
【0026】
炭素部品の厚さは、好ましくは0.01−50μmである。
【0027】
グラファイト組み込みの幾何学的形状は、理想的には、滑動表面に特に効果的な潤滑を提供するように選ばれる。
【0028】
表面において組み込まれた炭素の間に残存するSiCは、硬い物質との摩擦接触による摩損によっては剥離しにくい担体成分を代表し、連続したグラファイト被覆層に比べて、本発明の素材の表皮脱離性を著明に向上する。
【0029】
本発明による素材の適用例は、摩擦荷重が最も高くなる表面の局所において局部的に濃縮されたグラファイト層が備えられている、硬/硬−組合せの滑動接触軸受け(ベアリング)及び滑動リングシールであり、そのようにして固体状態での潤滑が確保され、液体潤滑の欠如という極限の状態下、あるいは潤滑剤なしでの作動状態下でさえも、温度上昇による損傷を防ぐ。
【0030】
ここでSiC焼結体/SiC表面の例に基いてなされた陳述は、同様に、他の金属炭化物の焼結体/金属炭化物表面、例えば、BC、TiC、又はWCで形成された表面にも適用できる。
【0031】
さらに、本発明は、成形体の製造方法に関し、金属炭化物表面を有する製品素材を、その表面の規定された領域において、反応ガス、遮蔽ガスの存在下、又は真空状態で、放射源により加熱し、これにより、その局所において、金属炭化物が局所的に炭素に転換されることを特徴とする製造方法に関する。
【0032】
金属炭化物は、好ましくはSiCである。SiCに関連して以下に述べる陳述は、他の金属炭化物にも類推適用される。
【0033】
本発明による方法は、SiC表面におけるグラファイト表面の立体配置及びその分布に関して、高度の柔軟性を許容する。例えば、本発明による方法は、SiCを基盤とする滑動接触軸受及び滑動リングシールに、摩擦荷重が最も高くなる局所において、グラファイトの局所的濃縮をもたらすことを可能にし、これにより、液体潤滑の極度の欠損下あるいは潤滑剤なしでの作動状態下でさえも、固体状態での十分な潤滑を常に確保し、過度の温度上昇に由来する損傷を防止する。
【0034】
いかなる所望の金属炭化物、好ましくは、いかなる所望のSiC素材であっても、本発明の方法における出発材料として適当である。何らかの基盤上に金属炭化物被覆層を有する素材も、適当である。
【0035】
態様の一つの方法としては、金属炭化物を放射源によって局所的に照射し、これにより、所定の領域において600−1500℃に加熱し、同時に、金属炭化物表面を、所定の温度範囲において金属炭化物の金属を溶解して炭素を後に残すことができるような反応ガスに暴露する。
【0036】
放射源によって照射された金属炭化物素材は、それ自身既に予熱されている。照射によって生成される炭素は、非晶性あるいは部分的結晶性の炭素、グラファイト、ダイヤモンド、その他の改変体、あるいはこれらの混合物の形になっている。
【0037】
反応ガスは、好ましくは、ハロゲン又はハロゲン混合物(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの混合物)である。好ましいハロゲンは、塩素である。使用される不活性キャリヤーガスは、好ましくはアルゴン、ヘリウム、クリプトン、あるいは窒素であり、特に好ましくはアルゴンである。HClもまた、選択の対象として使用できる。
【0038】
ある炭素改変物の形成を刺激するため、0.1から99重量%の、好ましくは0.1から10重量%の水素を、添加物として反応ガスに添加することもまた可能である。
【0039】
別法として、光線源で照射される表面を、真空あるいは遮蔽ガスに、好ましくは100ミリバール以下の、特に好ましくは10−3ミリバール以下のガス圧でさらし、次いで、放射源の助けを借りて、局所の温度を局部的に1500℃より大きく2200℃未満以下に加熱してもよい。この場合、金属炭化物は、外来元素を含むことなく金属及び炭素に分解する。遮蔽ガスは、好ましくはアルゴンあるいは窒素である。
【0040】
使用される放射源は、例えば、レーザー、マイクロ波、又は電子ビームであってもよい。もし反応ガスが使用されるならば、レーザーの使用が好ましい。レーザービームの特に急速な誘導のために、走査光学機器が使用される。好ましいレーザーは、ネオディミウム−YAGレーザー又はCO2レーザーである。ネオディミウム−YAGレーザーを使用することが、特に好ましい。真空を使用する場合には、電子ビームが、局所の加熱と転換に特に適切である。
【0041】
レーザーに対する操作パラメーター、特にランプの電流、パルスの長さ、パルス間隔、焦点距離、及び照射時間は、広範囲に渡って変化させることができる。一つの可能なパラメーターのセットは、例えば、540mAのランプ電流、0.32msのパルス長、18.4msのパルス間隔、150mmの焦点位置、及び20秒の照射時間である。
【0042】
レーザーによる、特に走査光学機器を使用しての局所照射によって、金属炭化物表面のいかなる所望の領域をも炭素に転換することが可能となる。この場合、表面領域の幾何学的配列及び比率には、何の制限もない。
【0043】
本発明に従う方法によれば、薄壁の金属炭化物成分に加えて、基板上に局部的に被覆された金属炭化物被覆層が、いかなる所望の形態及びいかなる所望の容積比率であっても、完全に炭素に転換することが可能である。
【0044】
本発明による方法は、高度の摩擦荷重に耐えることができ、さらには、長期間にわたって潤滑剤のない条件下での作動能力のある、例えば、滑動接触軸受及び硬/硬−組合わせの滑動リングシールに適した金属炭化物−炭素複合物表面の生成を可能にする。この素材から作られる構成成分はまた、高度の成分剛直性、強度、及び熱安定性に対する要請を満たしている。その適当な適用には、摩擦荷重の対象となるすべての種類の摩擦系、特に潤滑剤なしで作動する滑動接触軸受、潤滑剤なしで作動する滑動リングシール、潤滑剤なしで作動するピストンポンプ、圧縮機、及びバールブベアリングが挙げられる。
【0045】
図1aと1bは、表面積の50%が炭素層で被覆された、本発明による金属炭化物−炭素複合物の二つの相補例を模式的に描写したものである。金属炭化物の表面は、数字1で、また炭素の組み込みは、数字の2で示されている。
【0046】
図2a、2b、2c、及び2dは、構造を与えられた炭素(グラファイト)の組み込みを持つ、金属炭化物−炭素複合物の諸例を模式的に表したものである。
【0047】
図3は、本発明による局部的に金属炭化物を炭素に転換する製造方法を模式的に示したものである。金属炭化物表面(7)を持つ光学的に予熱された製造素材(6)は、反応ガス(4)を含み、ガラス窓(5)を持つ反応室(3)内にて熟成される。表面(7)は、局部的にレーザー(8)を用いて加熱され、炭素(9)への転換を刺激される。
【0048】
炭素構成成分は導電性であり、もしも構造が与えられれば、潤滑状態の向上はもちろん、二次的な役割を担うことができる。このような機能には、例えば、電圧の散逸あるいは加熱エレメントとしての使用が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものである。
【0050】
実施例1: 微細粒化焼結S−SiC(EKasic F Siliciumkarbid)から作られ、ドイツ、ミュンヘンのWacker Chemie GmbHから市販で入手可能な軸受を、反応室内で、2%の塩素を含むアルゴンからなるガスに暴露した。軸受筒(外径32mm、内径1mm)の末端側を、Nd−YAGレーザー(波長1.06μm)を用いて、局部的に800℃に加熱した。レーザービームを誘導して、直径500μmのグラファイト含有炭素の円形領域を軸荷重軸受の表面に均等に分布して形成した。グラファイトは、表面積の75%を形成した。炭素組み込みの厚さは、5μmであった。
【0051】
実施例2: 粗粒子状の焼結S−SiC(EKasic C Siliciumkarbid)から作られドイツKemptenのWacker Chemie GmbHから市販されている滑動接触ベアリング軸保護スリーブを、反応室内で回転軸に搭載し、次いで2%の塩素を含むアルゴンからなるガスを、その上に流入した。Nd−YAGレーザー(波長1.06μm)を用いて、構成成分を局所的に1000℃まで加熱し、グラファイトを多量に含む炭素への転換を誘導した。レーザーと滑動接触軸受を誘導して、幅2mmのグラファイト含有炭素の螺旋条を、SiC軸保護スリーブの円筒状の外表面に形成した。炭素組み込みの厚さは5μmであった。
【0052】
実施例3: 微粒子化された焼結S−SiC(EKasic F Siliciumkarbid, Wacker、ミュンヘン、内径44mm、壁厚4mm)を、反応室内で第二のレーザー源を用いて、400℃に予熱した。2%の塩素と2%の水素を含むアルゴンからなる反応ガスを、上記試料上に流入した。Nd−YAG(1.06μm)一次レーザーにより、滑動表面を局所的に900℃に加熱した。この一次レーザーを誘導して、三角形の表面が試料の内部端に形成されるようにした。三角形の方向と間隔を選択して、内部端でグラファイト含有炭素が表面積の80%を覆うようにした。その組み込みは深さ10μm下まで延びた。
【0053】
実施例4: 粒状グラファイトの組み込みを有する粗粒子化された焼結S−SiC(ドイツ、ミュンヘンのWacker Chemie GmbHからEKasic G Siliciumkarbidとして入手可能)から作られ、実施例3寸法を有する滑動リングを、実施例3と同様に処理した。基礎素材中にある追加のグラファイト粒子により、滑動リングの内部端に近いSiC表面内の炭素含量は、80%以上に上昇した。基礎素材のグラファイト粒子は、形成されたグラファイト組み込み内に埋め込まれた。
【0054】
実施例5: 結晶性二次相として、イットリウム−アルミニウムガーネットを有する液相焼結SiC(EKasic T Siliciumkarbid)から作られた、内径200mm、壁厚30mmの微粒子化されたガス密閉リングを、反応室内で、2%の塩素と2%の水素を含むアルゴン流入ガス混合物に曝した。Nd−YAG一次レーザーにより、滑動表面を局所的に1000℃に加熱した。一次レーザーを誘導して、50μm幅の線條が外端から内に向かって放射状に走るようにした。
【0055】
実施例6: 実施例3に従い、微粒子化焼結S−SiC(EKasic F Siliciumkarbid, Wacker Chemie GmbH、ミュンヘン)から作られた滑動リングを、二次レーザー源を用いて反応室内で700℃に予熱した。3%の塩素を含むアルゴンからなる反応ガスを、試料上に流入した。ダイオードレーザー(波長808nm)である一次レーザーにより、滑動表面を局部的に1300℃にまで加熱した。この一次レーザーを誘導して、鎌形のグラファイト含有炭素を形成し、表面積の60%以上を覆うようにした。回転方向によって鎌形体の方向を選択し、固体潤滑物が潤滑欠乏領域内に効果的に運ばれるようにした。この組み込みは10μmの深さまで下方に延びていた。
【0056】
実施例7: 粗粒子化された焼結S−SiC(EKasic C liliciumkarbid, Wacker Chemie GmbH、ミュンヘン、外径65mm、内径45mm)で作られた軸受板を、1×10−4mbar以下の真空状態の反応室内で、焦点をぼかした30kVの電子ビームを用いて、1500℃にまで予熱した。同時に、固体の潤滑クッションとして、円盤様の炭素組込み体を規則正しいドット模様となるよう収束電子ビームにより局所温度1950℃で導入した。潤滑クッションの方向及び間隔を選択し、表面被覆が70%になるようにした。組込み体は、深さ200μm下まで延びていた。


【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属炭化物−炭素複合物から形成された表面を有する素材であって、金属炭化物の表面が、幾何学的に規定された領域において、0.01から1000μmまでの深さで凝集的に結合した炭素を含むことを特徴とする素材。
【請求項2】
前記金属炭化物は、SiCであることを特徴とする請求項1に記載の素材。
【請求項3】
前記SiCは、SiCの焼結体、反応結合した炭化ケイ素、又は、何らかの所望の基盤上のSiC被覆層であることを特徴とする請求項2に記載の素材。
【請求項4】
表面積の0.1−99、好ましくは5−95、特に好ましくは15−90、特別に好ましくは25−80パーセントが、炭素からなることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の素材。
【請求項5】
前記炭素は、非晶性炭素、結晶性炭素、グラファイト、ダイヤモンド、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1から4いずれか記載の素材。
【請求項6】
前記炭素の層の厚さは、0.01−50μmであることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の素材。
【請求項7】
金属炭化物表面を有する素材を、その表面の規定された領域において、反応ガス、遮蔽ガスの存在下、又は真空状態で、放射源を用いて加熱することにより、この領域内で、前記金属炭化物が局部的に炭素に転換されることを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項8】
前記金属炭化物は、放射源によって局所的に照射され、600−1500℃に加熱され、同時に、前記金属炭化物の表面は反応ガスに暴露されるものであり、前記反応ガスは、所定の温度範囲において、金属炭化物の金属を溶かして後に炭素を残し得るものであることを特徴とする請求項7に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
使用される反応ガスは、ハロゲンが混合されたキャリヤーガスであることを特徴とする請求項8に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
使用されるハロゲンは塩素であり、使用されるキャリヤーガスはアルゴンであることを特徴とする請求項9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
放射源によって照射される表面は、局所的に1500℃より大きく2200℃未満に加熱され、真空状態あるいは遮蔽ガスに曝されて、外来元素を含むことなく、金属炭化物が金属と炭素に分解することを特徴とする請求項7に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
使用される放射源は、レーザー、マイクロ波、又は電子ビームであることを特徴とする請求項7から11いずれか記載の成形体の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属炭化物表面を有する素材が、その表面の規定された領域において、反応ガス、遮蔽ガスの存在下、または真空状態で、放射源によって加熱され、この領域において、金属炭化物が局部的に炭素に転換されることを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記金属炭化物は、放射源によって局部的に照射され、600−1500℃に加熱され、同時に、前記金属炭化物の表面は反応ガスに曝されるものであり、前記反応ガスは、所定の温度範囲において、金属炭化物の金属を溶解して後に炭素を残し得るものであることを特徴とする請求項1記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
使用される反応ガスは、ハロゲンが混合されたキャリヤーガスであることを特徴とする請求項2記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
使用されるハロゲンは塩素であり、使用されるキャリヤーガスはアルゴンであることを特徴とする請求項3記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
放射源によって照射される表面は、局所的に1500℃より大きく2200℃未満に加熱され、真空状態あるいは遮蔽ガスに曝されて、外来元素を含むことなく、金属炭化物が金属と炭素に分解することを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
使用される放射源は、レーザー、マイクロ波、又は電子ビームであることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の成形体の製造方法。


【公表番号】特表2006−503232(P2006−503232A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525309(P2004−525309)
【出願日】平成15年7月24日(2003.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2003/008177
【国際公開番号】WO2004/013505
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(505036009)イーエスケイ セラミクス ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー (6)
【Fターム(参考)】