説明

金属箔積層体の乾燥方法および乾燥装置

【課題】乾燥作業効率や生産性が高く、コスト低下に適する金属箔積層体の乾燥方法および装置を提供する。
【解決手段】その窒素ガスポンベ80から供給される窒素ガスにより置換された気密室40内で、金属箔積層体30を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下で加熱し、それに続いて、気密室40内を真空状態に減圧して、金属箔積層体30を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱とを行うことから、不活性ガスにより置換された気密室内においては輻射加熱に加えて、不活性ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体30が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、次いで、真空状態とされた気密室内において加熱状態のまま沸点が低下させられた水および/または溶剤が金属箔積層体30から効率良く除去されるので、大幅に短時間で乾燥を行うことができ、安定した品質が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分、有機溶剤などを含むペースト状材料が塗布された金属箔が積層された金属箔積層体を乾燥するための乾燥方法および乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水分または有機溶剤を含むペースト状材料が塗布された金属箔を積層状態とした金属箔積層体を乾燥する工程が知られている。たとえば、電池の製造工程、特に特許文献1および特許文献2に記載されているリチウムイオン電池を製造するに際しては、粉体状態の活物質とフッ素系バインダ樹脂成分を予め混合し、水或いは有機溶媒に分散させてペースト状活物質材料とし、そのペースト状活物質材料を銅或いはアルミニウムなどの集電用の金属箔の一面に塗布し、そのペースト状活物質材料中の水分や溶媒を除去するために乾燥処理を施し、次いで、それを所定数積層して電池ケース或いはラミネート袋内に収容し、電解質を注入して封止することでリチウムイオン電池が構成される。そして、このような製造工程中において、上記金属箔の一面に塗布されたペースト状活物質材料の乾燥処理を行う乾燥工程では、乾燥作業能率を高めるため、ペースト状活物質材料が塗布された金属箔が、長手方向に巻回されたロール状態、或いは所定の矩形形状に切断されたものが厚み方向に積層された状態である金属箔積層体とされ、その金属箔積層体の単位で乾燥装置内に収容され、所定時間の間所定温度に加熱されることで乾燥される。
【特許文献1】特開2001−319656号公報
【特許文献2】特開2008−251469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記金属箔積層体の乾燥に際して、その金属箔の一面に塗布されたペースト状活物質材料に残存する水または有機溶剤は、電池性能に影響しないように確実に除去することが望まれる。このため、積層状態の金属箔の間に位置するペースト状活物質材料内に残存する水または有機溶剤を除去するため、および金属箔積層体の酸化を防止するために、金属箔積層体を収容した気密室内を比較的低真空の低圧状態としてその水または有機溶剤の沸点を低下させた状態で、予め設定された一定の乾燥時間の間において上記バインダ樹脂の耐熱温度以下に設定された温度、たとえば130乃至150℃程度の温度で加熱する真空乾燥を行うことが考えられる。
【0004】
しかしながら、上記の真空乾燥を適用する場合、上記気密室内の金属箔積層体と加熱ヒータとの間に気体がそれほど存在しないために伝導加熱および対流加熱は期待できず、専ら加熱ヒータによる輻射加熱しか期待できないので、昇温時間および冷却時間が共に長く設定する必要があり、乾燥作業効率すなわち生産性が低く、大量生産やコスト低下の障害となっていた。たとえば、上記真空乾燥における昇温には少なくとも4乃至5時間程度の時間が必要であり、冷却時間には少なくとも10時間程度の時間が必要であり、合計で15時間乃至24時間を金属箔積層体の乾燥のために必要としていた。
【0005】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、乾燥作業効率や生産性が高く、コスト低下に適する金属箔積層体の乾燥方法および装置を提供することにある。
【0006】
本発明者等は、上記事情を背景として種々検討を重ねた結果、金属箔積層体の酸化防止を維持しつつ乾燥を行うために、金属箔積層体の昇温時には気密室内にガスを充満し、次いで金属箔積層体内から内に残存する水または有機溶剤を除去するため気密室内を真空状態とすると、従来に比較して大幅に短時間で乾燥を行うことができるという事実を見いだした。本発明はこの知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、水分および/または溶剤を含むペースト状材料が塗布された金属箔を積層状態とした金属箔積層体を乾燥するための乾燥方法であって、ガスが満たされた気密室内で、前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するガス下加熱工程と、次いで、前記気密室内を真空状態に減圧して、前記金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱工程と、前記所定時間経過後に、前記金属箔積層体を所定温度まで冷却する冷却工程とを、含むことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1において、前記冷却工程は、前記気密室内が前記ガスにより満たされた状態で前記金属箔積層体を所定温度まで冷却するものであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、請求項2において、前記気密室は、前記気密室に循環気流を内部に発生させるためのファン装置と、該気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを備えるものであり、前記冷却工程は、前記気密室内に前記ガスが満たされた状態で前記ファン装置を回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項1に係る乾燥方向を好適に実施するための請求項4に係る発明は、水分および/または溶剤を含むペースト状材料が塗布された金属箔を積層状態とした金属箔積層体を乾燥するための乾燥装置であって、前記金属箔積層体を収容する気密室と、該気密室内の前記金属箔積層体を加熱するために該気密室内に設けられた加熱ヒータと、該気密室内を真空とするために該気密室に接続された真空ポンプと、該気密室内に不活性ガスを満たすために該気密室に接続された不活性ガス供給装置と、前記不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスにより置換された前記気密室内で、前記加熱ヒータを用いて前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下加熱と、該不活性ガス下加熱に続いて、前記気密室内を真空状態に減圧して、該金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱とを行う加熱制御装置とを、含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項4において、前記気密室に循環気流を内部に発生させるためのファン装置と、該気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを、含み、前記加熱制御装置は、真空下加熱に続いて、前記気密室内を不活性ガスに置換した状態で前記ファンを回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明は、請求項5において、前記ファン装置は、一端部に固定された羽根を有して前記気密室内に回転可能に設けられた室内回転軸と、前記気密室の外壁を隔てて該室内回転軸と同心に回転可能に設けられて電動モータにより回転駆動される室外回転軸と、前記室内回転軸の他端部と該室外回転軸の室内回転軸側の端部とに設けられて、前記気密室の外壁を通してトルクを伝達する磁気カップリングとを、有するものであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明は、請求項4乃至6のいずれか1において、前記真空ポンプと前記気密室との間に設けられ、該真空ポンプにより該気密室から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤を捕捉するためのトラップを含み、該トラップは、該気密室から吸引される気体が通過させられるトラップ室と、冷凍機と、該トラップ室内に設けられ、該冷凍機により冷却されるトラップ板とを、有するものであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明は、請求項4乃至7のいずれか1において、前記気密室は、前記不活性ガス下加熱により前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するための第1気密室と、第1開閉シャッタを隔てて該第1気密室に隣接して配置され、前記真空下加熱により該金属箔積層体を加熱温度で所定時間維持する第2気密室と、第2開閉シャッタを隔てて該第2気密室に隣接して配置され、該金属箔積層体を所定温度まで冷却する第3気密室とを有するものであり、前記金属箔積層体は、搬送装置によって、前記第1気密室内、前記第2気密室内、前記第3気密室内へ順次一方向へ連続的に搬送されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の金属箔積層体の乾燥方法によれば、ガスにより満たされた気密室内で、前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するガス下加熱工程と、次いで、前記気密室内を真空状態に減圧して、前記金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱工程と、前記所定時間経過後に、前記金属箔積層体を所定温度まで冷却する冷却工程とを、含むことから、ガス下加熱工程では、気密室内において輻射加熱に加えて、ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、真空下加熱工程では、気密室内が加熱状態で真空状態とされることで沸点が低下させられた水および/または溶剤が金属箔積層体から効率良く除去されるので、従来に比較して大幅に短時間で乾燥を行うことができる。したがって、高い乾燥作業効率や生産性が得られ、生産コストを低下させることができる。また、気密室内における金属箔積層体内の温度のバラツキが小さくなって、安定した品質が得られる。
【0016】
また、請求項2に係る発明の金属箔積層体の乾燥方法によれば、前記冷却工程は、前記気密室内が前記ガスにより満たされた状態で前記金属箔積層体を所定温度まで冷却するものであることから、金属箔積層体の冷却に際してガスによる対流伝熱が加えられるので、冷却時間をも好適に短縮することができる。
【0017】
また、請求項3に係る発明の金属箔積層体の乾燥方法によれば、前記気密室は、前記気密室に循環気流を内部に発生させるためのファン装置と、その気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを備えるものであり、前記冷却工程は、前記気密室内が前記ガスにより満たされた状態で前記ファン装置を回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものであることから、冷媒ジャケットによる気密室外壁の冷却とガスによる対流伝熱によって冷却が促進されるので、金属箔積層体が一層短時間で冷却される。
【0018】
また、請求項4に係る発明の金属箔積層体の乾燥装置によれば、前記金属箔積層体を収容する気密室と、その気密室内の前記金属箔積層体を加熱するためにその気密室内に設けられた加熱ヒータと、その気密室内を真空とするためにその気密室に接続された真空ポンプと、その気密室内に不活性ガスを供給するために該気密室に接続された不活性ガス供給装置と、前記不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスにより置換された前記気密室内で、前記加熱ヒータを用いて前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下加熱と、その不活性ガス下加熱に続いて、前記気密室内を真空状態に減圧して、金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱とを行う加熱制御装置とを、含むことから、不活性ガス下加熱により、不活性ガスにより置換された気密室内においては輻射加熱に加えて、不活性ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、次いで、真空下加熱により、真空状態とされた気密室内において加熱状態のまま沸点が低下させられた水および/または溶剤が金属箔積層体から効率良く除去されるので、従来に比較して大幅に短時間で乾燥を行うことができる。したがって、高い乾燥作業効率や生産性が得られ、生産コストを低下させることができる。
【0019】
また、請求項5に係る発明の金属箔積層体の乾燥装置によれば、前記気密室に循環気流を内部に発生させるためのファン装置と、その気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを、含み、前記加熱制御装置は、真空下加熱に続いて、前記気密室内を不活性ガスに置換した状態で前記ファンを回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものであることから、金属箔積層体の冷却に際して不活性ガスによる伝熱および対流が加えられるとともに、気密室内の循環気流でその対流伝熱が促進され、しかも冷媒ジャケットにより気密室の外壁が冷却されるので、冷却時間をも大幅に短縮することができる。
【0020】
また、請求項6に係る発明の金属箔積層体の乾燥装置によれば、前記ファン装置は、一端部に設けられた羽根を有して前記気密室内に回転可能に設けられた室内回転軸と、前記気密室の外壁を隔てて該室内回転軸と同心に回転可能に設けられて電動モータにより回転駆動される室外回転軸と、前記室内回転軸の他端部と該室外回転軸の室内回転軸側の端部とに設けられて、前記気密室の外壁を通してトルクを伝達する磁気カップリングとを、有するものであることから、羽根車を駆動するための軸を通すために気密室の外壁に貫通穴を設ける必要がなく、気密性が高められるので、真空下加熱に際して用いられる真空ポンプを小型とすることができる。
【0021】
また、請求項7に係る発明の金属箔積層体の乾燥装置によれば、前記真空ポンプと前記気密室との間に設けられ、その真空ポンプによりその気密室から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤を捕捉するためのトラップを含み、該トラップは、該気密室から吸引される気体が通過させられるトラップ室と、冷凍機と、そのトラップ室内に設けられ、該冷凍機により冷却されるトラップ板とを、有するものであることから、真空ポンプによりその気密室から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤が好適に捕捉されるので、真空ポンプの保守作業が簡単となるとともに、その耐久性が高められる。
【0022】
また、請求項8に係る発明の金属箔積層体の乾燥装置によれば、前記気密室は、前記不活性ガス下加熱により前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するための第1気密室と、第1開閉シャッタを隔てて該第1気密室に隣接して配置され、前記真空下加熱により該金属箔積層体を加熱温度で所定時間維持する第2気密室と、第2開閉シャッタを隔てて該第2気密室に隣接して配置され、該金属箔積層体を所定温度まで冷却する第3気密室とを有するものであり、前記金属箔積層体は、搬送装置によって、前記第1気密室内、前記第2気密室内、前記第3気密室内へ順次一方向へ連続的に搬送されるものであることから、単一の気密室を有する乾燥装置をバッチ式で用いる場合に比較して、一層生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】リチウムイオン電池の構成を説明する要部拡大図である。
【図2】図1のリチウムイオン電池の単位電池を拡大して説明する図である。
【図3】図1のリチウムイオン電池の一部を構成する、ペースト状材料が塗布された金属箔が積層された本発明の一実施例の金属箔積層体の乾燥装置を説明する、扉を除去した正面図である。
【図4】図3の金属箔積層体の乾燥装置を説明する、側面断面図である。
【図5】図4のトラップの構成を一部を切り欠いて拡大して示す図である。
【図6】図3および4に示す金属箔積層体の乾燥装置に設けられた乾燥制御装置を説明する図である。
【図7】図6の乾燥制御装置の作動を説明するフローチャートである。
【図8】図6の乾燥制御装置によって加熱される金属箔積層体の温度を示すタイムチャートである。
【図9】真空下加熱方式の従来の乾燥装置によって加熱される金属箔積層体の温度を示すタイムチャートである。
【図10】本発明の他の実施例の金属箔積層体の乾燥装置を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の一実施例の乾燥方法或いは乾燥装置によって乾燥された金属箔積層体を用いるリチウムイオン電池10の構成の一例を模式的に示している。図1において、リチウムイオン電池10は、低い作動電位と充電回数とに優れたものとして知られており、カーボン系材料を有する負極シート12と、リチウムを含む遷移金属酸化物を正極シート14と、たとえばポリエチレン樹脂製シート或いはポリマーゲル電解質であってそれら負極シート12と正極シート14の間に位置するセパレータ16とを1組とする単位電池18が、厚み方向に複数組積層された状態で、カーボネート系の有機化合物を主体とする溶媒にLiPF6 等のリチウム塩を溶解させた電解液が注入された後、電池ケースとして機能する袋状のアルミニウムラミネートシート20で包み込まれ且つ封止されることで、構成される。
【0026】
図2に拡大して示すように、上記負極シート12は、たとえば銅箔等の金属製の負極集電体22と、その負極集電体22のセパレータ16側の面に層状に固着された負極活物質合剤層24とから構成されている。上記負極集電体22は、10乃至30μm程度の厚みの箔状の金属であるが、電極反応を可能にする範囲で電気化学的に安定な導電体であればよく、それに好適に用いられる銅箔は、圧延銅箔、電解銅箔、銅合金箔などが用いられる。上記負極活物質合剤層24は、たとえばフッ化ビニリデン( PVDF)、フッ化ビリニデン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、スチレン−ブタジエン( SBR)系樹脂、変成ポリオレフィン系樹脂などのバインダ樹脂と、それに分散させられた黒鉛、アモルファスカーボンなどの炭素材料から成る粉体状の活物質とから成る。
【0027】
上記負極活物質合剤層24は、上記バインダ樹脂と活物質とが、Nメチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等の有機溶剤或いは水を用いて混練されて所定粘度の負極活物質合剤ペーストとされた後、ダイコート法、コンマコート法、メタルマスク法などを用いて負極集電体22の一面上にたとえば50μm程度の所定厚みで塗布された後、乾燥により固着されたものである。
【0028】
また、図2において、前記正極シート14は、たとえばアルミニウム箔等の金属製の正極集電体26と、その正極集電体26のセパレータ16側の面に層状に固着された正極活物質合剤層28とから構成されている。上記正極集電体26は、10乃至30μm程度の厚みの箔状の金属であるが、電極反応を可能にする範囲で電気化学的に安定な導電体であればよく、それに好適に用いられるアルミニウム箔は、圧延アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウム合金箔などが用いられる。上記正極活物質合剤層28は、負極活物質合剤層24と同様に、たとえばフッ化ビニリデン( PVDF)、フッ化ビリニデン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、スチレン−ブタジエン( SBR)系樹脂、変成ポリオレフィン系樹脂などのバインダ樹脂と、それに分散させられた、リチウム遷移金属複合酸化物( LiMO2 Mは、Co、Ni、Al、Mn、Ti、Feなどの遷移金属の単独または2種類以上からなる) やLiMn2 4 などのスピネル構造を有するリチウム複合酸化物から成る粉体状の活物質とから成る。
【0029】
上記正極活物質合剤層28は、負極活物質合剤層24と同様に、上記バインダ樹脂と活物質とが、Nメチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等の有機溶剤或いは水を用いて混練されて所定粘度の正極活物質合剤ペーストとされた後、ダイコート法、コンマコート法、メタルマスク法などを用いて正極集電体26の一面上にたとえば50μm程度の所定厚みで塗布された後、乾燥により固着されたものである。
【0030】
上記負極活物質合剤ペーストが一面に塗布された負極集電体22、および上記正極活物質合剤ペーストが一面に塗布されて成る正極集電体26をそれぞれ乾燥して、負極シート12および正極シート14をそれぞれ製造するための乾燥工程では、リチウムイオン電池10の電池性能に影響しないように、負極集電体22および正極集電体26の一面に塗布された負極活物質合剤ペーストおよび正極活物質合剤ペーストに残存しないように、水または有機溶剤を確実に除去することが望まれる。同時に、製造コストを低下させるために高い生産性乾燥作業能率が求められる。このため、上記負極活物質合剤ペーストが一面に塗布された負極集電体22、および上記正極活物質合剤ペーストが一面に塗布されて成る正極集電体26は、長手方向にロール状に巻回された直径が60cm程度、厚みが6cm程度の円盤状の金属箔積層体とされ、或いは30cm×40cm程度の所定の矩形形状に切断されたものが24cm程度の高さで厚み方向に積層された状態である直方体状の金属箔積層体とされた状態で、その金属箔積層体の単位で乾燥装置内に収容されて、所定時間の間たとえば130乃至150℃程度の所定の乾燥温度で加熱されることで乾燥される。上記円盤状の金属箔積層体および直方体状の金属箔積層体の乾燥はいずれも同様であるので、それらのうちの一方である直方体状の金属箔積層体について説明する。
【0031】
図3および図4は、上記負極活物質合剤ペーストが一面に塗布された負極集電体22、または上記正極活物質合剤ペーストが一面に塗布されて成る正極集電体26が直方体状に積層された金属箔積層体30を、乾燥するための乾燥装置32を示している。図3は、この金属箔積層体30を収容して乾燥する乾燥装置32の扉を除去した正面図であり、図4は、その乾燥装置32の構成を説明するために断面で示す側面図である。
【0032】
図3および図4において、乾燥装置32は、フレーム34によって支持され且つ相互に接続された5面の外壁すなわち左壁36a 、右壁36b 、奥壁36c 、上壁36d 、下壁36e と、前壁に対応する位置に開閉可能に設けられた扉38とにより囲まれた立方体状の気密な空間を有する気密室40を備えている。この気密室40内には、金属箔が直方体状態で積層された複数個の金属箔積層体30を載置する為の搬送ローラ付きの2段の載置棚42が固設されるとともに、上記5面の外壁36a 、36b 、36c 、36d 、36e に対して気体流通用の所定の空間をそれぞれ内側に隔てて配置された且つ相互に接続された整流板44a 、44b 、44c 、44d 、44e が固設されている。上記載置棚42は、整流板44a 、44b 、44c 、44d 、44e の内側に配置されている。
【0033】
上記左右上下の4面の左壁36a 、右壁36b 、上壁36d 、下壁36e と、それに対向する整流板44a 、44b 、44d 、44e との間の空間内には、電流供給により発熱する複数群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e が、図示しない支持具を介して前後方向に平行にそれぞれ配設されている。また、奥壁36c に対向する整流板44c には、ファン装置47の羽根48の側面を覆う円筒状の通風ダクト50が形成されている。このファン装置47は、気密室40内において図示しないブラケットにより回転可能に支持され、一端部に上記羽根48が固定され且つ他端部に磁気カプラ52の一方のロータ52a が固定された室内回転軸54と、気密室40外において室内回転軸54と同心となるように図示しないブラケットにより支持され且つ一端部が電動モータ56に連結され、他端部には上記磁気カプラ52の他方のロータ52b が外壁36c を隔てて上記一方のロータ52a と対向するように固定された室外回転軸58とを備えている。これにより、磁気カプラ52の一方のロータ52a と他方の52b とは相互の磁極により相互に磁気的に結合されており、外壁36c を隔ててトルクが伝達されるようになっている。
【0034】
上記ファン装置47の羽根48が回転駆動されると、図4の破線の矢印に示すように、気密室40内の気体が循環させられることで、金属箔積層体30の速やかな均一加熱および速やかな均一冷却が可能とされる。また、気密室40の外側にはその外壁36a 、36b 、36c 、36d 、36e に密着して配置され、気密室40を冷却するための水等の冷媒を通す空間60を外壁36a 、36b 、36c 、36d 、36e との間に備えた冷媒ジャケット62が、設けられている。この冷媒ジャケット62には、還流した水を冷却して送出する循環水冷却装置64が循環配管66を介して接続されている。
【0035】
乾燥装置32には、気密室40内を真空とするためにその気密室40とトラップ68を有する配管70を介して接続された真空ポンプ72と、気密室40内に不活性ガスを供給するためにその気密室40と電磁開閉弁74および減圧弁76を有する配管78を介して接続された不活性ガス供給装置すなわち窒素ガスポンベ80とが、設けられている。
【0036】
図5は、上記トラップ68は、真空ポンプ72と気密室40との間に位置して、真空ポンプ72により気密室40から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤を捕捉するためのものであり、その気密室40から吸引される気体が通過させられるトラップ室82と、冷凍機84と、そのトラップ室82内に設けられ、その冷凍機84によりヒートパイプ86を介して−90℃程度に冷却されて上記水および/または溶剤を析出させて捕捉する複数枚のトラップ板88とを、有する。複数枚のトラップ板88により捕捉された水および/または溶剤は、冷凍機84の停止によって落下してトラップ室82の下部に貯留され、定期的にドレンされるようになっている。上記冷凍機84は、少なくとも真空ポンプ72の作動中には作動させられる。
【0037】
図6は、本実施例の乾燥装置32に設けられてその加熱制御装置として機能する電子制御装置90を示している。電子制御装置90は、所謂マイクロコンピュータから構成されており、予め記憶されたプログラムに従って、入力操作装置92と、複数群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e の近傍に設けられた4つの温度センサ94とからの入力信号を処理し、加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e 、循環水冷却装置64、真空ポンプ72、電磁開閉弁74、冷凍機84等を制御する。
【0038】
図7は、上記電子制御装置90による制御作動を説明するフローチャートである。複数の金属箔積層体30が気密室40内に搬入されるとともに、入力操作装置92により自動モードが選択され且つ起動操作が行われると、このフローチャートに示す作動が開始される。図7のステップS1( 以下、ステップを省略する) では、真空ポンプ72が起動されて気密室40内が所定の真空状態とされると、S2において、真空ポンプ72が停止されると同時に、電磁開閉弁74が開かれて窒素ガスが気密室40に充填される。すなわち、気密室40内が1気圧( 大気圧)程度の窒素ガスにより置換される。上記所定の真空状態とは、窒素ガスへの置換能率を高めるためのものであって必ずしも高真空でなくてもよい。
【0039】
次いで、S3において、4群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e に電流が供給されて気密室40内の複数の金属箔積層体30が窒素ガス雰囲気下で加熱が開始される。同時に、電動モータ56が作動させられることで羽根48により図4の破線に示す矢印に沿って窒素ガスが気密室40内で循環させられる。金属箔積層体30の温度変化を示す図8のt1はこの状態を示している。この加熱は、4群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e がそれらの近傍に設けられた4つの温度センサ94からの入力信号に基づいて予め設定された目標加熱温度( 目標乾燥温度) に追従するように独立に制御される。均一乾燥が得られるように、4群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e 毎に、たとえば予め実験的に求められた130乃至150℃程度の目標加熱温度が予め設定されている。S4において、S2による加熱開始からの第1経過時間te1が予め設定された第1判定時間T1 を越えたことが判断されるまで、上記S2およびS3が繰り返し実行される。この第1判定時間T1 は、気密室40内の金属箔積層体30の内部温度特に中心部の温度が上記目標乾燥温度に十分に到達する時間となるように予め設定されている。上記S2乃至S4は、不活性ガス下加熱工程に対応している。この不活性ガス下加熱工程では、電磁開閉弁74が閉じられるか、或いは僅かに開かれて窒素ガスが気密室40内に連続的に少量供給される。
【0040】
上記S4の判断が肯定されて、気密室40内の金属箔積層体30の内部温度が上記目標乾燥温度に十分に到達した状態となると、S5では、電磁開閉弁74が閉じられると共に、真空ポンプ72が起動されて気密室40内が真空状態とされる。また、S6では、前記目標温度となるようにする上記4群の加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e による温度制御が継続しているので、気密室40内では真空下加熱状態とされる。図8のt2時点はこの状態を示す。そして、S7では、真空下加熱が開始されてからの第2経過時間te2がたとえば2時間程度に予め設定された真空加熱維持時間T2を経過したか否かが判断される。このS7の判断が否定されるうちはS5およびS6が繰り返し実行される。上記S5乃至S7は、真空下加熱工程に対応している。この真空下加熱工程では、真空ポンプ72が開始当初よりも相対的に低回転で継続的に作動させられる。この真空下加熱工程での気密室40は、金属箔積層体30内の水および/または溶媒の沸点を低下させて金属箔積層体30内から十分に除去できる程度のものでよく、必ずしも高真空でなくてもよい。
【0041】
上記S7において真空下加熱が開始されてからの第2経過時間te2が予め設定された真空加熱維持時間T2を経過したと判断されると、S8において、加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e による加熱が停止されるとともに、電磁開閉弁74が開かれることによりそれまで真空状態であった気密室40内が1気圧程度の窒素ガスで充満させられるとともに電動モータ56が作動させられることで羽根48により図4の破線に示す矢印に沿ってその窒素ガスが気密室40内で循環させられる。同時に、循環水冷却装置64を作動させて冷却水を循環させ、冷媒ジャケット62により気密室40内を速やかに冷却させる。図8のt3時点はこの状態を示している。S9において上記気密室40内の温度が予め50乃至60℃程度に設定された冷却完了判定温度に到達したと判断されるまで、上記S7およびS8が繰り返し実行される。上記S8乃至S9は、不活性ガス下の冷却工程に対応している。この不活性ガス下の冷却工程では、電磁開閉弁74が閉じられるか、或いは僅かに開かれて窒素ガスが気密室40内に連続的に少量供給される。
【0042】
上記S9の判断が肯定されると、S10において、電磁開閉弁74が閉じられると同時に、扉38の解放が許可されて、複数の金属箔積層体30が取り出される。図8のt4時点はこの状態を示している。図8のt1時点からt2時点までの不活性ガス下加熱工程に1時間程度、t2時点からt3時点までの真空下加熱工程に2時間程度、t3時点からt4時点までの不活性ガス下加熱工程に2時間程度であった。本実施例の乾燥装置32の金属箔積層体30の昇温過程および冷却過程では、不活性ガスの一例である窒素ガスにより置換された気密室40内においては、輻射加熱に加えて、不活性ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体30が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、或いは冷却されるのである。また、図8の破線、1点鎖線、2点鎖線は、金属箔積層体30の表層部、中間部、中心部の温度をそれぞれ示している。これら破線、1点鎖線、2点鎖線に示されるように、特に昇温過程における金属箔積層体30の表層部、中間部、中心部の間の温度差が少ないので、乾燥後における負極シート12および正極シート14について安定した品質が得られる。
【0043】
ちなみに、不活性ガスを用いない真空下加熱のみでの従来の乾燥装置の場合は、130乃至150℃程度の同じ加熱温度を用いた場合、金属箔積層体30内の水および/または溶媒を十分に除去するために、図9の金属箔積層体30の温度曲線を示す加熱が必要であった。すなわち、6乃至20時間程度の昇温時間と、2乃至6時間程度の加熱温度保持時間と、15乃至24時間程度の冷却時間を必要としていた。したがって、上記本実施例の乾燥装置32によれば、従来の乾燥装置に比較して、4.5乃至6倍、控え目に見ても少なくとも3乃至4倍の作業能率が得られる。これにより、同じ生産量であれば、乾燥装置32の台数および設置面積を数分の1とすることができ、製造コストを大幅に低下させることができる。また、図9の破線、1点鎖線、2点鎖線に示されるように、特に昇温過程における金属箔積層体30の表層部、中間部、中心部の間の温度差が大きく、乾燥後における負極シート12および正極シート14について、必ずしも安定した品質が得られなかった。
【0044】
上述のように、本実施例の乾燥装置32を用いた乾燥方法によれば、窒素ガス( 不活性ガス) により置換された気密室40内で、金属箔積層体30を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下加熱工程( S2〜S4)と、次いで、気密室40内を真空状態に減圧して、金属箔積層体30を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱工程(S5〜S7)と、その所定時間経過後に、金属箔積層体30を所定温度まで冷却する不活性ガス下冷却工程( S8〜S9)とを、含むことから、その真空下加熱工程では、気密室40内において輻射加熱に加えて、不活性ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体30が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、真空下加熱工程では、気密室40内が加熱状態で真空状態とされることで沸点が低下させられた水および/または溶剤が金属箔積層体30から効率良く除去されるので、従来に比較して大幅に短時間で乾燥を行うことができる。したがって、高い乾燥作業効率や生産性が得られ、生産コストを低下させることができる。また、気密室40内における金属箔積層体30内の温度のバラツキが小さくなって、乾燥後における負極シート12および正極シート14について安定した品質が得られる。
【0045】
また、本実施例の乾燥装置32を用いた乾燥方法によれば、不活性ガス下冷却工程( S8〜S9)は、気密室40内を窒素ガスに置換した状態で金属箔積層体30を所定温度まで冷却するものであることから、その金属箔積層体30の冷却に際して不活性ガスによる対流伝熱が加えられるので、冷却時間をも好適に短縮することができる。
【0046】
また、本実施例の乾燥装置32を用いた乾燥方法によれば、気密室40は、その気密室40内に循環気流を内部に発生させるためのファン装置47と、その気密室40の外壁36a 、36b 、36c 、36d 、36e に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケット62とを備えるものであり、冷却工程は、気密室40内を窒素ガスに置換した状態でファン装置47の羽根48を回転させ且つ冷媒ジャケット62に冷媒を通過させることにより、気密室40内の金属箔積層体30を所定温度まで強制冷却するものであることから、冷媒ジャケット62による気密室40の外壁の冷却と窒素ガスによる対流伝熱によって冷却が促進されるので、金属箔積層体30が一層短時間で冷却される。
【0047】
また、本実施例の乾燥装置32によれば、金属箔積層体30を収容する気密室40と、その気密室40内の金属箔積層体30を加熱するためにその気密室40内に設けられた加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e と、その気密室40内を真空とするためにその気密室に接続された真空ポンプと、その気密室内に不活性ガスを供給するためにその気密室40に接続された窒素ガスポンベ80( 不活性ガス供給装置) と、その窒素ガスポンベ80から供給される窒素ガスにより置換された気密室40内で、加熱ヒータ46a 、46b 、46d 、46e を用いて金属箔積層体30を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下加熱と、その不活性ガス下加熱に続いて、気密室40内を真空状態に減圧して、金属箔積層体30を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱とを行う電子制御装置90( 加熱制御装置) とを、含むことから、不活性ガス下加熱により、不活性ガスにより置換された気密室内においては輻射加熱に加えて、不活性ガスを介した対流加熱によって金属箔積層体30が酸化が防止されつつ速やかに加熱され、次いで、真空下加熱により、真空状態とされた気密室内において加熱状態のまま沸点が低下させられた水および/または溶剤が金属箔積層体30から効率良く除去されるので、従来に比較して大幅に短時間で乾燥を行うことができる。したがって、高い乾燥作業効率や生産性が得られ、生産コストを低下させることができる。また、気密室40内における金属箔積層体30内の温度のバラツキが小さくなって、乾燥後における負極シート12および正極シート14について安定した品質が得られる。
【0048】
また、本実施例の乾燥装置32によれば、気密室40内に循環気流を内部に発生させるためのファン装置47と、その気密室40の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで気密室40内を冷却させるための冷媒ジャケット62とを、含み、電子制御装置90( 加熱制御装置) は、真空下加熱に続いて、気密室40内を不活性ガスに置換した状態で羽根48を回転させ且つ冷媒ジャケット62に冷媒を通過させることにより、気密室40内の金属箔積層体30を所定温度まで強制冷却するものであることから、金属箔積層体30の冷却に際して不活性ガスによる対流伝熱が加えられるとともに、気密室40内の循環気流でその対流伝熱が促進され、しかも冷媒ジャケット62により気密室40の外壁が冷却されるので、冷却時間をも大幅に短縮することができる。
【0049】
また、本実施例の乾燥装置32によれば、ファン装置47は、一端部に設けられた羽根48を有して気密室40内に回転可能に設けられた室内回転軸54と、気密室40の外壁36c を隔てて室内回転軸54と同心に回転可能に設けられて電動モータ56により回転駆動される室外回転軸58と、室内回転軸54の他端部と室外回転軸58の室内回転軸54側の端部とに設けられて、気密室40の外壁36c を通してトルクを伝達する磁気カップリング52とを、有するものであることから、羽根48を駆動するための軸を通すために気密室40の外壁に貫通穴を設ける必要がなく、気密性が高められるので、真空下加熱に際して用いられる真空ポンプ72を小型とすることができる。
【0050】
また、本実施例の乾燥装置32によれば、真空ポンプ72と気密室40との間に設けられ、その真空ポンプ72によりその気密室40から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤を捕捉するためのトラップ68を含み、トラップ68は、気密室40から吸引される気体が通過させられるトラップ室82と、冷凍機84と、そのトラップ室82内に設けられ、冷凍機84により冷却されるトラップ板88とを、有するものであることから、真空ポンプ72によりその気密室40から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤が好適に捕捉されるので、真空ポンプ72の保守作業が簡単となるとともに、その耐久性が高められる。
【実施例2】
【0051】
次に本発明の他の実施例の乾燥装置100を説明する。以下の説明において、前述の実施例と共通する部分には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0052】
図3および図4に示す乾燥装置32はバッチ式構造であったが、図10は連続式の乾燥装置100の構成を説明する概略図である。図10において、乾燥装置100は、金属箔積層体30を搬入するための搬入台102と、一対のシャッタ104、106を両端に有する第1置換室108と、そのシャッタ106を介して第1置換室108と接続された不活性ガス下加熱装置110と、一対のシャッタ112、114を両端に有し、そのシャッタ112を介して不活性ガス下加熱装置110と接続された第2置換室116と、そのシャッタ114を介して第2置換室116と接続された真空下加熱装置118と、一対のシャッタ120、122を両端に有し、そのシャッタ120を介して真空下加熱装置118と接続された第3置換室124と、そのシャッタ122を介して第3置換室124と接続された不活性ガス下冷却装置126と、一対のシャッタ128、130を両端に有し、そのシャッタ128を介して不活性ガス下冷却装置126と接続された第4置換室132と、その第4置換室132から搬出される金属箔積層体30を受ける搬出台134とを備えるとともに、金属箔積層体30を搬入台102から搬出台134まで一方向へ適宜連続搬送する、ローラコンベアなどの図示しない搬送装置を備えている。
【0053】
上記不活性ガス下加熱装置110、真空下加熱装置118、および不活性ガス下冷却装置126内には、トンネル状の空間を形成する第1気密室、第2気密室、および第3気密室が設けられている。それら第1気密室、第2気密室、および第3気密室の両端開口は、後述のシャッタ106と112、114と120、および122と128により気密が保持されるとともに、金属箔積層体30の通過が許容されるようになっている。
【0054】
上記不活性ガス下加熱装置110および真空下加熱装置118は、それらのトンネル状の空間を形成する第1気密室および第2気密室を囲むように、前述と同様の加熱ヒータを備えている。上記第1置換室108、不活性ガス下加熱装置110の第1気密室、第3置換室124、不活性ガス下冷却装置126の第3気密室には、電磁開閉弁74を通して窒素ガスが供給されるようになっており、上記第1置換室108、第2置換室116、真空下加熱装置118の第2気密室、および第4置換室132は、配管70を介して真空ポンプ72と接続され、真空状態とされるようになっている。また、不活性ガス下加熱装置110の第1気密室および不活性ガス下冷却装置126の第3気密室内には、ファン装置47がそれぞれ設けられるとともに、その不活性ガス下冷却装置126の第3気密室の外側には、冷却ジャケット62が固設されている。そして、上記一対のシャッタ104、106、一対のシャッタ112、114、一対のシャッタ120、122、一対のシャッタ128、130は、電子制御装置90の指令に従い、それぞれ図示しない駆動装置によって択一的に開閉されるようになっている。
【0055】
上記乾燥装置100では、搬入台102上の金属箔積層体30は、シャッタ104が開かれることで第1置換室108内へ搬入され、そこでそのシャッタ104およびシャッタ106が閉じられた状態で窒素ガス雰囲気とされた後、シャッタ106が開かれると、不活性ガス下加熱装置110内へ搬入される。金属箔積層体30は、この不活性ガス下加熱装置110内を移動中において前述と同様の不活性ガス下加熱を受けて昇温させられる。次いで、金属箔積層体30は、シャッタ112が開かれることで第2置換室116内へ搬入され、そこでそのシャッタ112およびシャッタ114が閉じられた状態で真空状態とされた後、シャッタ114が開かれると、真空下加熱装置118内へ搬入される。金属箔積層体30は、この真空下加熱装置118内を移動中において前述と同様の真空下加熱を受けて水分或いは溶剤が除去される。次に、金属箔積層体30は、シャッタ120が開かれることで第3置換室124内へ搬入され、そこでそのシャッタ120およびシャッタ122が閉じられた状態で窒素ガス雰囲気とされた後、シャッタ122が開かれると、不活性ガス下冷却装置126内へ搬入される。金属箔積層体30は、この不活性ガス下冷却装置126内を移動中において前述と同様の不活性ガス下冷却を受ける。そして、金属箔積層体30は、シャッタ128が開かれることで第4置換室132内へ搬入され、そこで大気雰囲気とされた後に、シャッタ130が開かれて搬出台134上に送出される。
【0056】
図10の下段は、上記乾燥装置100内の圧力を、一方向に配置された第1置換室108、不活性ガス下加熱装置110、第2置換室116、真空下加熱装置118、第3置換室124、不活性ガス下冷却装置126、第4置換室132の位置に対応させて示している。第1置換室108では、大気から窒素ガスへの置換を速やかとするために一時的に真空状態とされてから窒素ガスが供給される。第2置換室116は、その中が真空状態とされた後にシャッタ114が開かれて真空下加熱装置118と連通させられる。第3置換室124は、その中が窒素ガスに置換されてからシャッタ122が開かれて不活性ガス下冷却装置126と連通させられる。第4置換室132は、窒素ガスから大気への置換を速やかとするために一時的に真空状態とされてから大気が供給される。
【0057】
本実施例によれば、前述の実施例と同様の効果が得られると共に、金属箔積層体30は、搬送装置によって、不活性ガス下加熱装置110の第1気密室内、真空下加熱装置118第2気密室内、不活性ガス下冷却装置126第3気密室内へ順次一方向へ連続的に搬送されるものであることから、単一の気密室を有する乾燥装置32をバッチ式で用いる場合に比較して、一層生産性を高めることができる。
【0058】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0059】
たとえば、前述の実施例では、不活性ガス下加熱工程S2〜S4および不活性ガス下冷却工程S8〜S9では、不活性ガスとして、窒素ガスが用いられていたが、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの他の種類の化学的に不活性なガスが用いられてもよい。金属箔が比較的酸化され易い銅箔であるような場合には、不活性ガス下加熱工程S2〜S4および不活性ガス下冷却工程S8〜S9における、その銅箔の酸化が好適に防止される。しかし、その不活性ガスは、必ずしも純度の高いものである必要はなく、金属箔の材質および冷却温度によっては、その金属箔が酸化しない範囲で、酸素などの酸化ガスなどがある程度の割合で含むものであってもよい。
【0060】
また、前述の実施例の不活性ガス下加熱工程S2〜S4および不活性ガス下冷却工程S8〜S9において、たとえば、金属箔が比較的酸化され難いアルミニウム箔であって加熱目標温度或いは冷却開始温度が110〜120℃程度の場合、或いはそれよりも高い130乃至150℃程度の場合は、20%程度の酸素を含んでいる空気が用いられ得る。
【0061】
また、前述の実施例の不活性ガス下加熱工程S2〜S4および不活性ガス下冷却工程S8〜S9において、気密室40内が1気圧程度の窒素ガスによって置換されていたが、1気圧よりも高い気圧たとえば2気圧以上の気圧の窒素ガスによって置換されてもよい。この場合には、密度の高い窒素ガスによって対流伝熱の効率が高められるので、不活性ガス下加熱工程S2〜S4での加熱効率或いは不活性ガス下冷却工程S8〜S9での冷却効率が高められる。
【0062】
また、前述の実施例において、金属箔積層体30は、リチウムイオン電池に用いる負極シート12および正極シート14を製造するためのものであったが、他の種類の電池の電極シート、或いは、積層コンデンサの電極シートなどの他の用途のためのものであってもよい。
【0063】
また、前述の実施例において、乾燥装置32は、電子制御装置90によって金属箔積層体30の加熱乾燥を、不活性ガス下加熱工程S2〜S4、真空下加熱工程S5〜S7、および不活性ガス下冷却工程S8〜S9の順に自動的に進行させていたが、手動操作により、不活性ガス下加熱、真空下加熱、不活性ガス下冷却を順次行ってもよい。
【0064】
また、前述の実施例の真空下加熱工程S5〜S7での真空下加熱において、気密室40が真空状態とされるが、必ずしも高真空でなくてもよく、その真空下加熱工程S5〜S7での加熱温度下において水や溶剤が金属箔積層体30内から抜けることが容易となるようにそれら水や溶剤の沸点を低下させて乾燥が効率的に行うことができる程度の低圧状態であればよい。
【0065】
また、前述の実施例において、不活性ガス下加熱工程( S2〜S4)は、図8のt1 時点とt2 時点との間に示すように金属箔積層体30の温度が目標加熱温度に到達するまでの区間であったが、必ずしも、金属箔積層体30の温度が目標加熱温度に到達するまででなくてもよく、その手前までであってもよい。同様に、真空下加熱工程( S5〜S7)は、図8のt2 時点とt3 時点との間に示すように金属箔積層体30の温度が目標加熱温度に到達して維持される区間であったが、必ずしも、金属箔積層体30の温度が目標加熱温度に到達して維持される間でなくてもよく、金属箔積層体30の温度が目標加熱温度よりも手前でそれに向かって昇温する状態を含むものであってもよい。
【0066】
また、前述の実施例の不活性ガス下冷却工程( S8〜S9)では、窒素ガス下且つ冷却ジャケット62による冷却下で気密室40内の金属箔積層体30の冷却がおこなわれていたが、必ずしも窒素ガス下且つ冷却ジャケット62による冷却下で金属箔積層体30の冷却がおこなわれる必要はない。たとえば、ある程度の冷却時間の延長が許容される場合は、冷却ジャケット62が設けられていなくてもよく、或いは、窒素ガス下とされなくてもよい。
【0067】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
12:負極シート
14:正極シート
22:負極集電体( 金属箔、銅箔)
24:負極活物質合剤層( ペースト材料)
26:正極集電体( 金属箔、アルミニウム箔)
28:正極活物質合剤層( ペースト材料)
30:金属箔積層体
32、100:乾燥装置
40:気密室
44a 、44b 、44d 、44e :整流板
46a 、46b 、46d 、46e :複数群の加熱ヒータ
47:ファン装置
48:羽根
52:磁気カップリング
54:室内回転軸
56:電動モータ
58:室外回転軸
62:冷媒ジャケット
68:トラップ
72:真空ポンプ
80:窒素ガスポンベ( 不活性ガス供給装置)
82:トラップ室
84:冷凍機
88:トラップ板
90:電子制御装置( 加熱制御装置)
110:不活性ガス下加熱装置( 第1気密室)
118:真空下加熱装置( 第2気密室)
112、114:シャッタ( 第1開閉シャッタ)
120、122:シャッタ( 第2開閉シャッタ)
126:不活性ガス下冷却装置( 第3気密室)
S2〜S4:不活性ガス下加熱工程( ガス下加熱工程)
S5〜S7:真空下加熱工程
S8〜S9:不活性ガス下冷却工程( 冷却工程)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分および/または溶剤を含むペースト状材料が塗布された金属箔を積層状態とした金属箔積層体を乾燥するための乾燥方法であって、
ガスにより満たされた気密室内で、前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するガス下加熱工程と、
次いで、前記気密室内を真空状態に減圧して、前記金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱工程と、
前記所定時間経過後に、前記金属箔積層体を所定温度まで冷却する冷却工程と
を、含むことを特徴とする金属箔積層体の乾燥方法。
【請求項2】
前記冷却工程は、前記気密室内を前記ガスにより満たされた状態で前記金属箔積層体を所定温度まで冷却するものである
請求項1の金属箔積層体の乾燥方法。
【請求項3】
前記気密室は、前記気密室に循環気流を内部に発生させるためのファン装置と、該気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを備えるものであり、
前記冷却工程は、前記気密室内を前記ガスにより満たされた状態で前記ファン装置を回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものである
請求項2の金属箔積層体の乾燥方法。
【請求項4】
水分および/または溶剤を含むペースト状材料が塗布された金属箔を積層状態とした金属箔積層体を乾燥するための乾燥装置であって、
前記金属箔積層体を収容する気密室と、
該気密室内の前記金属箔積層体を加熱するために該気密室内に設けられた加熱ヒータと、
該気密室内を真空とするために該気密室に接続された真空ポンプと、
該気密室内に不活性ガスを供給するために該気密室に接続された不活性ガス供給装置と、
前記不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスにより置換された前記気密室内で、前記加熱ヒータを用いて前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱する不活性ガス下加熱と、該不活性ガス下加熱に続いて、前記気密室内を真空状態に減圧して、該金属箔積層体を加熱状態で所定時間維持する真空下加熱とを行う加熱制御装置と
を、含むことを特徴とする金属箔積層体の乾燥装置。
【請求項5】
前記気密室に循環気流を内部に発生させるために回転駆動されるファン装置と、
該気密室の外壁に密着した状態で配置され、冷媒を通過させることで該気密室を冷却させるための冷媒ジャケットとを、含み、
前記加熱制御装置は、真空下加熱に続いて、前記気密室内を不活性ガスに置換した状態で前記ファンを回転させ且つ前記冷媒ジャケットに冷媒を通過させることにより、該気密室内の前記金属箔積層体を所定温度まで強制冷却するものである
ことを特徴とする請求項4の金属箔積層体の乾燥装置。
【請求項6】
前記ファン装置は、一端部に羽根を有して前記気密室内に回転可能に設けられた室内回転軸と、前記気密室の外壁を隔てて該室内回転軸と同心に回転可能に設けられて電動モータにより回転駆動される室外回転軸と、前記室内回転軸の他端部と該室外回転軸の室内回転軸側の端部とに設けられて、前記気密室の外壁を通してトルクを伝達する磁気カップリングとを、有するものである
ことを特徴とする請求項5の金属箔積層体の乾燥装置。
【請求項7】
前記真空ポンプと前記気密室との間に設けられ、該真空ポンプにより該気密室から吸引される気体に含まれる水および/または溶剤を捕捉するためのトラップを含み、
該トラップは、該気密室から吸引される気体が通過させられるトラップ室と、冷凍機と、該トラップ室内に設けられ、該冷凍機により冷却されるトラップ板とを、有するものである
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1の金属箔積層体の乾燥装置。
【請求項8】
前記気密室は、前記不活性ガス下加熱により前記金属箔積層体を所定加熱状態まで加熱するための第1気密室と、第1開閉シャッタを隔てて該第1気密室に隣接して配置され、前記真空下加熱により該金属箔積層体を加熱温度で所定時間維持する第2気密室と、第2開閉シャッタを隔てて該第2気密室に隣接して配置され、該金属箔積層体を所定温度まで冷却する第3気密室とを有するものであり、
前記金属箔積層体は、搬送装置によって、前記第1気密室内、前記第2気密室内、前記第3気密室内へ順次一方向へ連続的に搬送されるものである請求項4乃至7のいずれか1の金属箔積層体の乾燥装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−192390(P2011−192390A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54840(P2010−54840)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】