説明

鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法

【課題】鉄筋コンクリートの電気抵抗率を安定化させることにより、外部電源方式に於いては該コンクリート内に配置された鉄筋の過防食を防止すること、及び流電陽極方式に於いては犠牲陽極の過大な消耗を防止することを可能にした鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食法を提供する。
【解決手段】表面含浸材7hを塗布する面に付着している泥やほこり等を除去し、塗布する面の表面含水率が8(%)以下であることを確認する。次に表面含浸材7hを標準的な塗布量、例えば0.2から0.25(kg/m)を1回塗布する。塗布後は表面含浸材7hの塗布面が直接雨水等で濡れないように養生して48時間放置し硬化させる。そして外部電源の陽極側に陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極を、陰極側に図示しないスターラップ鉄筋を接続して通電試験や復極試験を行い適正な通電量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物に於ける躯体を構成するコンクリートの含水率を低くかつ一定に保持して、該コンクリートの電気抵抗率を安定化させることにより、外部電源方式に於いては該コンクリート内に配置された鉄筋の過防食を防止すること、及び流電陽極方式に於いては犠牲陽極の過大な消耗を防止することを可能にした鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法に於ける一つの例として図7に示す特開2006−23255号公開特許公報に開示された技術がある。
これについて説明すれば、鉄筋コンクリート構造物のコンクリート1の表面1aに、リチウム塩を含有する表面被覆材2を均質に塗布する。例えばチタンメッシュ等の陽極3をコンクリート中に設置する段階の前に、予めコンクリート表面にリチウム塩を含有する表面処理材2を塗布することにより、コンクリート1とチタンメッシュ等の陽極3との間に保水性が付与され、これによって均質な通電性が確保できる。
【0003】
図7においては、表面被覆材2を模式的に表しており、実際は表面被覆材2がリチウム塩水溶液の場合には、塗布した後にコンクリート1内部に浸透するものであり、またセメント、樹脂、リチウム塩を含有するセメント系組成物の表面被覆材の場合には、当該セメント系組成物の層がコンクリート1の表面1aと陽極3との間に形成されることとなる。
【0004】
表面処理材2としては、リチウム塩の水溶液や、セメント、リチウム塩及び樹脂を含有するリチウム塩含有セメント系組成物等が挙げられる。いずれのリチウム塩を含有する表面被覆材2も、コンクリート1の表面1aへの塗布により、表面1aの吸湿性が増大し、結果としてコンクリート表面の体積抵抗が低下し、通電性の向上を図れる。リチウム塩としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、亜硝酸リチウム及び硝酸リチウム等の吸湿性のリチウム塩を用いることができ、当該リチウム塩を単独、または複数混合して用いることもできるが、亜硝酸イオンによる防錆効果と毛細管充填による硬化体強度の向上の観点から亜硝酸リチウムを好適に使用できる。
【0005】
また、吸湿性を有するリチウム塩を用いることにより、リチウムイオンが空気中の水分と結合し、この空気中の水分が集まってくることによりコンクリート1の表面1aの保水性高め、導電性が向上するという作用を得られる。
尚、4は直流電源装置、5は鉄筋コンクリート構造物に配置された鉄筋である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−232559号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術は、叙上した構成であるので次の課題が存在した。
すなわち、従来の技術の外部電源方式の電気防食工法は、陽極材を設置するに先立って鉄筋コンクリート構造物の躯体を構成するコンクリートにリチウム塩系の表面処理材を塗布・含浸することにより該コンクリートと陽極材との間の保水性を向上させ、コンクリートの導電性を向上させて防食電流を確保している。ところが、鉄筋コンクリート構造物の内部又は鉄筋コンクリート構造物の背面からの水分の供給があるとコンクリートの電気抵抗率が変化してしまいその分布が均一ではなくなる。その結果、該コンクリート内に於いて均一な電気抵抗率を確保できなくなり、特に含水率の高い部位に於いては電気防食をするための適正電流を超えて過大な電流が流れ過防食状態を生じさせる。
【0008】
この過防食状態においては、コンクリート内の水が電気分解して陰極を構成する鉄筋等の鋼材の外周部に水素が発生する。生成した水素の大部分は水素ガスとなり鉄筋コンクリート構造物の外部に放出されるが、一部の水素がコンクリート内の鉄筋に侵入・吸収され鉄筋の靭性や強度を急激に低下させる。この現象は水素脆化と呼称され、鉄筋を構成する鋼材の降伏強さが高くなるほど水素脆化を起こし易く少量の水素でも脆性破壊を生ずるので、鉄筋コンクリート構造物に於いては鉄筋の過防食を発生させてはならない。
【0009】
従って鉄筋コンクリート構造物としてのプレテンション方式及びポストテンション方式のPCコンクリート構造物、例えば橋梁の主桁などは高強度の鋼材を使用したPC鋼材を用いかつ該PC鋼材に予備引張り荷重を印加してあるので、脆性破壊を生ずる過防食の危険を避ける為に一般的な電気防食工法を適用することは困難である。特に従来の技術が示すような単にコンクリートと陽極材との間の保水性を向上させ過防食を起こし易い電気防食工法をPC鋼材を用いたPCコンクリート構造物に適用することは難しいという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法は叙上の問題を解決すべく発明したものであり、次の構成、手段から成立する。
【0011】
すなわち、請求項1記載の発明によれば、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法において、鉄筋コンクリート構造物のコンクリートの表面にシラン系、シロキサン系及びシラン・シロキシサン系のいずれか一種を含有する表面含浸材を塗布することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明に於いて、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、コンクリートの表面と鉄筋間に溝部を形成し、チタンリボンメッシュ電極(陽極材)を設置し、該溝部の空隙にモルタル又は注入材を充填した外部電源方式であることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明に於いて、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、露出した鉄筋に適宜の間隔で亜鉛を含有する犠牲陽極材を該鉄筋と導通した埋め込み型犠牲陽極方式であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法は、叙上の構成を有するので次の効果がある。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法において、鉄筋コンクリート構造物のコンクリートの表面にシラン系、シロキサン系及びシラン・シロキシサン系のいずれか一種を含有する表面含浸材を塗布することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、塩水や雨水特に酸性雨など鉄筋を腐食させる物質がコンクリートの内部に侵入することを防止でき、鉄筋コンクリート構造物の製造時に不純物として塩分がコンクリートに混入している場合でも電気防食工法に於けるアノード反応で発生する塩素ガスやカソード反応で発生する水蒸気を前記表面含浸材を透過して鉄筋コンクリート構造物の外部に放散することができるので、塩素ガスや水蒸気が表面含浸材を破壊することがなく表面含浸材が長期間に亘り鉄筋コンクリート構造物の表面を保護することができ、表面含浸材が鉄筋コンクリート構造物の表面を被覆するので鉄筋コンクリート構造物の内部の含水率が低くかつ均一に安定的に保持されて、その結果、鉄筋に均一な防食電流を流過することができるので過防食を防止でき、過防食が発生しないので鉄筋が水素脆化を生ずることがなく鉄筋コンクリート構造物、特にPCコンクリート構造物の強度に於ける信頼性を維持しかつ強度を長期間に亘り保持できるという効果がある。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、コンクリートの表面と鉄筋間に溝部を形成し、チタンリボンメッシュ電極(陽極材)を設置し、該溝部の空隙にモルタル又は注入材を充填した外部電源方式であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の発明の効果に加えて、鉄筋コンクリート構造物に於けるコンクリートの表面に溝を切削加工し、陽極材としての線状のチタンリボンメッシュ電極を埋設することで該陽極材が陰極材としての鉄筋と短絡を起こす不具合を生じることなく電気防食工法を完成でき、施工の信頼性の向上と省力化をできるという効果がある。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、露出した鉄筋に適宜の間隔で亜鉛を含有する亜鉛製の犠牲陽極材を該鉄筋と導通した埋め込み型犠牲陽極方式であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の発明の効果に加えて、表面含浸材が鉄筋コンクリート構造物に於けるコンクリートの表面を被覆するので、該コンクリートの内部の含水率を低くかつ均一に安定的に保持することができるので、亜鉛を含有する犠牲陽極材の消耗が抑制され長期間に亘り亜鉛を含有する犠牲陽極材の交換及び増設が不要となり鉄筋コンクリート構造物の電気防食に係る維持・管理が容易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図である。
【図2】図1のA部に於ける詳細を示す垂直断面図である。
【図3】シラン系の表面含浸材をコンクリートの表面に塗布し、該コンクリートを垂直に切断して前記シラン系の表面含浸材がコンクリートの表面に含浸していることを示す垂直断面図である。
【図4】表面処理条件の異なる複数のコンクリート供試体を外気曝露試験に供する状態を示した斜視図である。
【図5】表面処理条件の異なる複数のコンクリート供試体を外気曝露試験に供した結果、曝露期間(週)に対するコンクリート供試体の重量変化(g)の関係特性図である。
【図6】本発明に係る実施例を示す鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図であって、(a)はコンクリートのハツリ落しを行って鉄筋を露出し、該鉄筋に犠牲陽極を付設した状態を示す部分垂直断面図、(b)は犠牲陽極を付設した鉄筋をモルタルで埋め戻した後に表面含浸材を塗布した状態を示す部分垂直断面図である。
【図7】従来の技術に於けるコンクリート構造物の電気防食工法の説明概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法の実施の形態について添付図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図を示している。図2は図1のA部に於ける詳細を示す垂直断面図である。
6は鉄筋コンクリート構造物としてのPC橋であって、大概してPC桁7と、地覆9とで構成されPC桁7の下端面は図示しない橋台の上端面に設置してある。PC橋の支間長すなわち橋台と橋台の間隔は20ないし40(m)程度であり、PC桁7の橋軸方向の長さも概ね20ないし40(m)程度である。PC桁7はポストテンション方式のPC桁である。PC桁7の内部は図示しない鉄筋を全域に配筋するとともに、特にPC桁7の下部7C、7Dに図2に示すように複数のシース7aで被覆したPC鋼材7b、7b・・・を配筋している。PC鋼材7b、7b・・・はプレストレストコンクリートすなわちPCに圧縮力を付与する部材であって、PC鋼線すなわち直径8(mm)以下の高強度鋼、PC鋼棒すなわち直径10(mm)以上の高強度鋼、及びPC鋼撚り線すなわちPC鋼線を撚り合わせた高強度撚り線などがあり、これらを総称してPC鋼材と呼ぶ。シース7aの材料は薄肉鋼管であり、PC鋼材7b、7b・・・は外部電源方式の電気防食工法に於いて、スターラップ鉄筋を介して図示しない外部電源の陰極に接続してある。尚、7cはPC鋼材7b、7b、・・・とシース7aとの間隙に注入・充填したグラウトであって、グラウト7cの材料は無収縮セメントペースト又は無収縮モルタルである。
【0020】
7eはコンクリート7dの表面に橋軸方向に連続してコンクリートカッター等の工具で加工した溝であり、シース7aの近傍でかつシース7aにまで貫通しない深さに加工する。
7fは前記溝7eに埋設した陽極材であって、チタンリボンメッシュによって作成し、図示しない外部電源の陽極側に接続してある。7gは陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極を溝7eに固定するための無収縮モルタルである。7hはコンクリート7dの表面に刷毛やローラ等で塗布した例えば、1液性反応性シラン系の表面含浸材である。該表面含浸材7hはコンクリート7dの表面から内部に浸透してコンクリート7dが透水及び吸水することを防止する。表面含浸材7hはシラン系のほかシロキサン系又はシラン・シランシロキシサン系の表面含浸材であってもよい。
【0021】
次に、当該1液性反応性シラン系の表面含浸材7hの特性について、図3ないし図5を用いて詳細に説明する。
図3はシラン系の表面含浸材7hをコンクリート7dの表面に塗布し、該コンクリート7dを垂直に切断して前記シラン系の表面含浸材7hがコンクリート7dの表面に含浸している状態を示す垂直断面図である。図3から分かるように表面含浸材7hはコンクリート7dの表面から2(mm)ないし4(mm)の深さまで含浸している。
【0022】
図4は断面寸法100(mm)×100(mm)、長さ400(mm)の直方体形状を有するコンクリート供試体10を外気曝露試験に供した状態を示す斜視図である。6個のコンクリート供試体10について、試験開始に先立って2個ずつ3種の同一の表面処理条件を与えた上で、約14週間にわたり外気曝露試験を行なった。3種の表面処理条件とは、無処理すなわちコンクリート素地のままの状態、ケイ酸塩系改質材を0.25(kg/m)の割合でコンクリート供試体10に塗布したもの、及びシラン系の表面含浸材7hを0.25(kg/m)の割合でコンクリート供試体10に塗布したものの3種である。そして、1週間から2週間ごとに6個のコンクリート供試体10の重量をそれぞれ測定して重量の変化を表したものが図5である。図5の曲線a及びbは前記無処理のコンクリート供試体10の重量の変化を表す。図5の曲線c及びdは前記ケイ酸塩系改質材を0.25(kg/m)の割合で塗布したコンクリート供試体10の重量の変化を表す。図5の曲線e及びfは前記シラン系の表面含浸材7hを0.25(kg/m)の割合で塗布したコンクリート供試体10の重量の変化を表す。
【0023】
約14週間の試験期間中に図5に示すように3回の雨天があり、6個のコンクリート供試体10は雨に濡れた。図5から分かるように、無処理のコンクリート供試体10及びケイ酸塩系改質材を0.25(kg/m)の割合で塗布したコンクリート供試体10は雨に濡れると雨水を吸水したために重量が増加し、好天の時には吸水した雨水を放出して乾燥して重量が減少し、当該コンクリート供試体10の内部の水分量が安定化しないことが分かる。一方シラン系の表面含浸材7hを0.25(kg/m)の割合で塗布したコンクリート供試体10はシラン系の表面含浸材7hの透水及び吸水防止作用によって、天候に拘らず雨天のときも雨水を吸収することなく、その重量は常に漸減傾向を保持してコンクリート供試体10の内部の水分量がコンクリートの打設時よりも減少しつつ安定化していることが理解できる。
【0024】
また、コンクリート7dに塗布したシラン系の表面含浸材7hは塩水や雨水、特に酸性雨など鉄筋を腐食させる物質がコンクリート7dの内部に侵入することを防止できると共にガス透過性を有するので、PC橋6のPC桁7の製造時に細骨材に付着した不純物としての塩分がコンクリート7dに混入している場合でも、電気防食工法に於けるアノード反応で発生する塩素ガスやカソード反応で発生する水蒸気を前記表面含浸材7hを透過してPC桁7の外部に放散することができる。
【0025】
よって、コンクリート7dに発生した塩素ガスや水蒸気が表面含浸材7hを物理的に破壊することがなく表面含浸材7hが長期間に亘りコンクリート7dの表面を保護することができ、表面含浸材7hがコンクリート7dの表面を被覆しているのでコンクリート7dの内部の含水率が低くかつ均一に安定的に保持される。その結果、PC鋼材7b、7b・・・に均一な防食電流を流過することができるので過防食を防止できる。
【0026】
従って、PC鋼材7b、7b・・・に対して過防食が発生しないのでPC鋼材7b、7b・・・が水素脆化を生ずることがなくPC橋6の強度に於ける信頼性を維持しかつ強度を長期間に亘り保持可能である。
尚、PC鋼材7b、7b・・・を例に説明したが、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法はPC鋼材7b、7b・・・に限らず、一般の鉄筋コンクリート構造物に於ける鉄筋に対しても過防食の防止について同様の効果を有する。
【0027】
次に本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法の実施の形態について、その施工方法・手順等を説明する。
先ず鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法を施工する鉄筋コンクリート構造物に於いて、電磁誘導方式やX線探査方式を用いてコンクリート7dの内部を探査して、シース7aや鉄筋の位置やコンクリート7dの表面からシース7aや鉄筋までの深さ、すなわちコンクリート7dのかぶりを測定する。そしてコンクリートカッター等の工具を用いて前記シース7aや鉄筋を損傷又は切断することがないように注意して、コンクリート7dの表面から20(mm)程度の溝7eを加工する。 該溝7eは前記シース7aや鉄筋の長手方向に沿って図1に示すように複数本を加工する。そして、溝7eを加工した後に、番線などの異物が溝7eの露出していると、後工程の陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極と短絡して、正常に防食電流を流すことができないので、番線などの異物と陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極が短絡しないことを確認する。
【0028】
次に溝7eに陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極の先端部を被覆し無収縮モルタル7gを充填してから、その無収縮モルタル7gの中に陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極を埋設する。更に該陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極が外気に全く露出しないように陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極の上から無収縮モルタル7gを被覆する。そして、養生して無収縮モルタル7gを硬化させる。
【0029】
次に、鉄筋コンクリート構造物に於けるシラン系の表面含浸材7hの塗布範囲を確定する。
表面含浸材7hの塗布範囲は降雨や降雪で濡れ易くまた降雨や降雪が滞留して乾燥しにくい部位を対象にする。具体的には図1に示すように、PC桁7の下部7C、7Dの外周部及びPC桁7の中間部7Eの左側7E1の縦の面に表面含浸材7hを塗布する。
【0030】
該塗布範囲に於いてPC桁7の中間部7Eの右側7E2及びPC桁7の中間部7Fの両側7F1、7F2を塗布しないのは、当該部位が構造上、降雨又は降雪11によってほとんど水濡れすることがない為である。また、PC桁7の下部7C、7Dの外周部全体に表面含浸材7hを塗布するのは、強風雨や強風雪の天候の際に下方から雨水や雪が吹き上がってPC桁7の下部7C、7Dを濡らすことを防止するためである。尚、上部構造下面、側面に表面含浸材7hを塗布する場合もある。
【0031】
そして、外部電源の陽極側に陽極材7fとしてのチタンリボンメッシュ電極を、陰極側にPC鋼材7b、7b・・・を接続して通電試験や復極試験を行い適正な通電量を決定して通電を開始する。
而して、鉄筋コンクリート構造物に於けるコンクリート7dの表面に溝7eを切削加工し、陽極材7fとしての線状のチタンリボンメッシュ電極を埋設することで該陽極材7fが陰極材としてのPC鋼材7b、7b・・・と短絡を起こす不具合を生じることなく電気防食工法を完成でき、施工の信頼性の向上と省力化を実現できる。
【0032】
次に、表面含浸材7hの作業手順を説明する。
先ず表面含浸材7hを塗布する面に付着している泥やほこり等をディスクサンダー、ワイヤブラシ、不織布研磨材等で除去する。そして塗布する面の表面含水率を測定して表面含水率が8(%)以下であることを確認する。次に表面含浸材7hを標準的な塗布量、例えば0.2から0.25(kg/m)をローラ刷毛等で1回塗布する。塗布後は表面含浸材7hの塗布面が直接雨水等で濡れないように養生して48時間放置し硬化させる。
そして、表面含浸材7hによって塩水や酸性を含んだ降雨又は降雪11などのPC鋼材7b、7b・・・を腐食させる物質がコンクリート7dの内部に侵入することを防止でき、PC桁7の製造時に不純物として塩分がコンクリート7dに混入している場合でも電気防食工法に於けるアノード反応で発生する塩素ガスやカソード反応で発生する水蒸気を表面含浸材7hを透過してPC桁7の外部に放散することができるので、塩素ガスや水蒸気が表面含浸材7hを破壊することがなく表面含浸材7hが長期間に亘りPC桁7の表面を保護することができ、表面含浸材7hがPC桁7の表面を被覆するのでPC桁7の内部の含水率が低くかつ均一に安定的に保持されて、その結果、PC鋼材7b、7b・・・に均一な防食電流を流過することができるので過防食を防止でき、過防食が発生しないのでPC鋼材7b、7b・・・が水素脆化を生ずることがなくPCコンクリート構造物の強度に於ける信頼性を維持しかつ強度を長期間に亘り保持することが可能である。
【実施例】
【0033】
次に本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法の実施例について図6に基づき説明する。
図6は、本発明に係る実施例を示す鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図であって、(a)はコンクリートのハツリ落しを行って鉄筋を露出し、該鉄筋に犠牲陽極を付設した状態を示す垂直断面図、(b)はハツリ落しした鉄筋をモルタルで埋め戻して表面含浸材を塗布した状態を示す垂直断面図である。
12は例えば鉄筋コンクリート構造物を構成する現場打ちの鉄筋コンクリート桁である。該鉄筋コンクリート桁12は鉄筋コンクリート構造物の水平方向に架けられ、図示しない橋台、橋脚に支えられ、床の荷重を伝えており、主に鉛直方向の荷重を負担している。 鉄筋コンクリート桁12はその自重と共に鉛直方向に床の荷重が印加されると下に凸となる撓みを生じ、上側はわずかに縮み、逆に下側は伸びるように変形する。コンクリート材料は脆性材料であるから一般的に圧縮荷重を負担することはできるが、引張り荷重を負担することはできずに破断する材料である。そこで鉄筋コンクリート桁12に於いては引張側すなわち下側に多数本の延性材料としての鉄筋13を入れることで鉄筋13に引張り荷重を負担させて補強して鉄筋コンクリート桁12の破断を防止している。
【0034】
しかしながら鉄筋コンクリート桁12は打設後、地震等の大きな変動負荷やコンクリート材料自体の乾燥収縮等により、鉄筋コンクリート桁12の特に下側に微細な亀裂を生ずることは避けられない。鉄筋コンクリート桁12の下側に微細な亀裂が生じるとその亀裂から雨水等が鉄筋コンクリート桁12の内部に滲み込む。
【0035】
鉄筋コンクリート桁12を構成するセメントはアルカリ性を呈するので、このアルカリ環境下に於いて鉄筋13は該鉄筋13の表面に不動態被膜という薄い膜を形成しており、鉄筋13は腐食しない。ところがセメントの中に塩化物が存在すると不動態被膜は破壊されて鉄筋13は腐食が進行する。腐食原因の塩化物としては海岸からの飛来塩分や路面からの凍結防止剤等が上げられる。これらが鉄筋コンクリート桁12の下側の亀裂に侵入し鉄筋13の周囲に存在すると鉄筋13は腐食が進行する。また、鉄筋コンクリート桁12を打設した際に用いる細骨材すなわち砂に海砂が使われ、その海砂の塩分除去が不十分であると鉄筋コンクリート桁12に亀裂を生じていなくても、鉄筋コンクリート桁12に含有する水分によって塩化物が鉄筋13の不動態被膜を破壊して鉄筋13は腐食が進行する。
【0036】
鉄筋13の不動態被膜が破壊されると鉄筋13に電位の低い部分すなわちアノード部と電位の高い部分すなわちカソード部が発生して、化学反応が生じて局部的な腐食電池が形成される。この腐食電池の部分で発生する水酸化第二鉄がさびに変化して体積が2ないし4倍に膨張する。この体積膨張による膨張圧によって鉄筋13の周囲に鉄筋コンクリート桁12にひび割れが発生し、鉄筋コンクリート桁12の表面が剥落するなどの異常が発生する。
【0037】
14は表面が剥落するなどの異常が発生した鉄筋コンクリート桁12の表面をハツリ作業で人為的にハツリ落しを行なったハツリ落し部である。15は亜鉛を含有する犠牲陽極材である。16は犠牲陽極材15を鉄筋13に電気的に接続するワイヤである。
犠牲陽極材15をワイヤ16を介して鉄筋13に接続すると鉄筋13の鉄と犠牲陽極材15の亜鉛の間に発生する電位差に基づき、亜鉛が
Zn → Zn2+ + 2e
に示す反応によって鉄筋コンクリート梁12に含まれる水分中に溶解する。このときに発生する電子(2e)が鉄筋13の高電位にあるカソード部に引き寄せられカソード部の電位を低下させる。この電子(2e)の供給が充分であれば鉄筋13のカソードとアノードの電位差が消失して鉄筋13の腐食が停止する。
【0038】
17は犠牲陽極材15を鉄筋13に接続したあと鉄筋13と犠牲陽極材15を覆って外気から遮断する覆設用の無収縮モルタルである。18は無収縮モルタル17が硬化した後に塗布・含浸するシラン系の表面含浸材である。表面含浸材18はシラン系のほかシロキサン系又はシラン・シランシロキシサン系の表面含浸材であってもよい。
【0039】
次に本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法の実施例について、その施工方法・手順等を説明する。
先ず、表面が剥落するなどの異常が発生した鉄筋コンクリート桁12は、鉄筋13が埋設されている近傍において表面の剥落や亀裂、また鉄筋13のサビ水による変色が顕著であるからこれらの異常を呈する部位において、コンクリートを剥がすハツリ作業を行なう。このハツリ作業は鉄筋13の周辺及び鉄筋13の裏側のコンクリートを、鉄筋13に発錆がない健全部が露出するまで行い、かつ錆びの発生していない鉄筋13が50(mm)以上コンクリートから露出するまで行なう。そして露出した鉄筋13の全体の中で、犠牲陽極材15を接続したワイヤ16を巻付ける部位は完全に錆びを落し、サンドペーパー等で鉄筋13の金属地金が得られるまで研磨する。
【0040】
鉄筋13の研磨を終了したらワイヤ16で速やかに犠牲陽極材15を鉄筋13に電気的に接続する。そして、回路テスター等のプローブを鉄筋13とワイヤ16に接触させて鉄筋13とワイヤ16の接続部の電気抵抗が犠牲陽極材15の規定値、例えば0.3オーム以下であることを確認する。図6に示すように犠牲陽極材15は鉄筋13に複数個を接続するが、犠牲陽極材15の使用量は鉄筋13の配筋量によって適宜決定する。全ての犠牲陽極材15を鉄筋13に接続したら、犠牲陽極材15を接続した鉄筋13及びその周辺のコンクリートに充分に水を散布する。そして図6(b)に示すように無収縮モルタル17を埋め戻す。無収縮モルタル17を養生して硬化させた後、無収縮モルタル17の表面含水率が8(%)以下であることを確認する。そして表面含浸材7hを標準的な塗布量、例えば0.2から0.25(kg/m)をローラ刷毛等で1回塗布する。塗布後は表面含浸材7hの塗布面が直接雨水等で濡れないように養生して48時間放置し硬化させる。
而して、表面含浸材7hが鉄筋コンクリート桁12の表面を被覆するので、該鉄筋コンクリート桁12の内部の含水率を低くかつ均一に安定的に保持することができるので、犠牲陽極材15の過大な消耗が抑制されて、長期間に亘り犠牲陽極材15の交換及び増設が不要であり鉄筋コンクリート桁12の電気防食に係る維持・管理を容易にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は道路橋等の鉄筋コンクリート構造物やPCコンクリート構造物などに応用が可能である。
【符号の説明】
【0042】
6 PC橋
7 PC桁
7C PC桁7の下部
7D PC桁7の下部
7E PC桁7の中間部
7E1 PC桁7の中間部の左側
7E2 PC桁7の中間部の右側
7F PC桁7の中間部
7F1 PC桁7の中間部の左側
7F2 PC桁7の中間部の右側
7G PC桁7の上部
7H PC桁7の上部
7a シース
7b PC鋼材
7c グラウト
7d コンクリート
7e 溝
7f 陽極材(チタンリボンメッシュ電極)
7g 無収縮モルタル
7h 表面含浸材
9 地覆
10 コンクリート供試体10
11 降雨又は降雪
12 鉄筋コンクリート桁
13 鉄筋
14 ハツリ落し部
15 犠牲陽極材
16 ワイヤ
17 無収縮モルタル
18 表面含浸材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法において、鉄筋コンクリート構造物のコンクリート表面にシラン系、シロキサン系及びシラン・シロキシサン系のいずれか一種を含有する表面含浸材を塗布することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法。
【請求項2】
鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、コンクリート表面と鉄筋間に溝部を形成し、チタンリボンメッシュ電極(陽極材)を設置し、該溝部の空隙にモルタル又は注入材を充填した外部電源方式であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法。
【請求項3】
鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法が、露出した鉄筋に適宜の間隔で亜鉛を含有する犠牲陽極材を該鉄筋と導通した埋め込み型鉄筋コンクリート犠牲陽極方式であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物に於ける電気防食工法。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144771(P2012−144771A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3657(P2011−3657)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【Fターム(参考)】